すずりんの日記

動物好き&読書好き集まれ~!

小説「マリアの微笑み」⑧

2005年04月18日 | 小説「マリアの微笑み」
 「それで?」
と、私は一言、興奮気味の杏子を冷たく突き放した。私には、そんな怪奇現象の1つが、どうしてそこまで杏子を怯えさせるのかが、わからなかったからだ。
「今ね、妊娠3ヶ月なの。」
ということは、ちょうどそのハワイ旅行が事の起こり、ってわけか。
「でも、このお腹の子は、私の子じゃないわ。・・・私と彼の子じゃないの。」
「あなたたち、旅行中、何もしてないの?」
と、私は彼女に聞いた。
「いいえ。・・・寝たわ。」
それじゃあ、何を根拠に・・・。私はそう思った。
「でもね、わかるのよ、私には。・・・この子は、私と彼の子じゃないわ!」
 
 私は、子供をあやすように話題をそらした。
「・・・で、式は、いつなの?」
私は、杏子が、今日はそれを知らせるためにここに来たことを思い出したのだ。
「6月12日よ。」
彼女は答えた。
「ふ~ん、ジューン・ブライドか。でも、お腹、大丈夫なの?6月っていうと、9ヶ月よ。」
それでも、私は、冷静さを装っていた。
「私も、もう少し早くか、逆に、出産後の方が良いのよ。でも、彼がどうしても、って言うから・・・。」
「それで、場所は?」
「それが、・・・あの、例の教会なのよ。それも、彼が、ぜひに、って。あの、・・・それでね、お願いがあるのよ。・・・私ね、怖いのよ。あのマリア様が。・・・彼がね、自分にはもう両親がいないし、特別に、親代わりっていう人もいないから、どうせなら、どうせなら、誰も呼ばずに、あの時のように2人っきりで挙式しよう、って言い出したの。その時、私、びっくりして、とっさに、1人だけなら呼んでも良いでしょう?って言ってしまったの。あなたは私の唯1人の親友だし、彼のことだって、一番に報告した人だから、って。・・・ねぇ、お願い。私を守ってほしいのよ!」
 
 彼がいるじゃないの、・・・と、彼女に冷たく当たる前に、守るか守らないかは別として、私には2人の結婚式への出席を断る理由が見つからない、ということを思い出した。
「わかった。でもね、“守ってほしい”なんて言われても、何が起こるって言うの?何かが実際に起こるかどうかさえわからないじゃあないの。そうやって決め付けて、自分を振り回してるだけよ。そういうの、マタニティ・ブルーって言うんでしょ?もっとね、強くならなきゃダメよ!」
「じゃあ・・・。」
「ちょっと待ってよ。何かが起こるかどうか、っていうのと、私があなたたちの結婚式に出席するかどうかは別問題でしょ?ただでさえ危なっかしくて見てられないのに、結婚式なんて大事な時に私が見放すわけないでしょ!もちろん、出席するわよ!」

・・・また、安請け合いしてしまったかな、なんて思いながら、私は、もう外が暗くなってしまったのを理由に、彼女を駅まで送って行った。


(つづく)
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 今度は道内 | トップ | 簡単そうで、難しい。 »

コメントを投稿