すずりんの日記

動物好き&読書好き集まれ~!

小説「雪の降る光景」第1章Ⅰ~8

2006年02月13日 | 小説「雪の降る光景」
 「おいおい、ちょっと待ってくれ。別に君を怒らせたくて言ってるんじゃあないんだよ。」
「じゃあ、どういうつもりだ、ボルマン?」
「・・・近々、彼が帰国するんだよ。」
「なんだって?本当か、それは。」
「本当だとも。きっと正式に、総統から御話があるだろうがな。・・・どうだ、言ってもらって良かっただろう?」
「あぁ、ボルマン、感謝するよ。」
 私は、その後ずっと、ハーシェルのことを考えていた。式典から帰って来た総統が、私とボルマンの前を行ったり来たりしながら、何かブツブツ言っていたが、まるっきり上の空だった。

 私はあの日、機嫌が悪かった。先生に怒られたか、友達と口喧嘩したか、妹に朝食をぶん取られたかして(たぶん、このどれかだったと思うが)、2、3人のクラスメートと教室に入って来るところだった。その時ハーシェルは、教室の中で、彼の取り巻きと一緒にある遊びをしていた。ドアに同心円をいくつも描いて的を作り、ナイフを投げて点数を競うのだ。私はそのドアを開け、ナイフが、自分の顔めがけて飛んで来るのを見た。
 その瞬間、私は、とっさにナイフを避けて、そしてその飛んで来たものを手で受けていた。その刃物は私の右手の甲まで突き抜け、柄が手のひらの手前で止まっていた。私の右手からは血が噴き出し、木目模様の柄が、真っ赤に染まっていた。―――私はうずくまっていた。しかし、痛みは感じなかった。“ここで鬱憤を晴らしてやろう”という名案が浮かび、必死に薄笑みをこらえていたからである。


(つづく)
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