このお話は、ギアスのアニメ24~25話からの生まれ変わりスザルル話なので、ちょっとネタバレもしています。
何て言うか、枢木さんは前世の記憶があるので、ぐるぐるしちゃってます。
でも、ルルへの憎しみとかなくて、ルルが前世でどんなに悲しい思いをしていたのかわかっているので、現世ではひたすらルルを幸せにしたいとか、今度は失敗しないとか、ずっと笑顔でいてほしいとか、何かぐるぐるしてる人です。
そんなお話が大丈夫な方だけ、先にお進みください。
銃声が、一つ。
最後まで引かれることのなかったトリガー。
最後に耳に入ったのはお前の声、だった。
泣き叫ぶような、どうして、と戸惑うような、色んな物がないまぜになったそんな声だった。
頭の中で、何かに命令されるように、生きないといけないと言っているのに、俺はそれをねじ込んで、銃の弾を俺の胸へとすんなり受け入れる。
ぐっちゃっと肉の中を貫通するような感覚と、胸から血が溢れて、血の海を足下に作っていく。
そのまま、赤く濡れた場所によって俺も赤く染まっていく。
視界が…暗く、なっていく。
結局、殺すことは出来なかった。
銃を持つ向けた手は、震えるばかりで、役にたたなかった。
敵になったあいつも、俺が避けることも出来ただろう弾を受け入れて、こんなに簡単に倒れるなんて思わなかっただろう。
殺せない、から。
あんなに憎んだのに、ぐちゃぐちゃの暗闇の底に叩き付けてやりたかったのに。
簡単に殺さないで、生きているのが辛く感じるように、じわじわと拷問のように精神を削らせて殺してやろうとしたのに。
銃の引き金を引けなかった、から。
だから、殺されるしかなかった。
殺すこと、しか、目的はなくなっていたから。
殺せないなら、どうしたら良いのかわからなかった。
憎んだままでいたら、またきっと殺そうと何度でも思う。
そう考えたら、身体がなぜか動かなかった。
頭の中でガンガンと生きろと鳴り響くけれど、強引に捩じ伏せる。
殺せないなら、殺されるしかない。
このまま死んでしまえば、殺すことなんてない、から。
それでも憎んで、憎んで、憎んで、憎んで。
最後にたった一つだけ心が残った。
今も消せない心。
最後に望んだのは。
君の笑顔。
あれから、気が付くと平和な世界。
普通の家に生まれて、世界に戦争もあるけれど、今俺が住んでいるところでは、まだ平和な方の世界だった。
日本もあって、ブリタニアの代わりに別の国があって、けれど日本はいちおう表面上は支配されているわけでもなく、日本とその国は普通に交流のある世界だった。
前にいた世界と部分部分が同じで、でもけして完璧に同じ世界でない世界。
気が付いたら、そんな世界にいて、俺は前の記憶を持ったまま、この世界に生まれたらしい。
生まれて物心つく頃から、不思議な記憶があって、それを大人に話すとおかしな目で見られるし、俺がおかしくなってしまったと親も泣くから成長するにしたがってそんなことは言わなくなった。
数々のおかしな記憶が脳内を支配していて、自分の妄想なのか、何なのか本当に気が狂いそうになった。
けれど、どこかで前世と言う話を聞いて、ああ、これはそうなんだろうか、と思う日が来る。
前世なんて眉唾ものを信じるのも馬鹿馬鹿しかったけれど、そう納得しないと許容出来る範囲じゃないこの膨大などこかでの記憶を収集出来なかったからだ。
そうして、落ち着いてくると、受け入れた記憶の中で一番気になったのは、前世の俺がもっとも気にかけていた男の子だった。
記憶と言うものは、段々と廃れていくもので、前世においてももちろんそれはあるらしく、鮮明な記憶とそうでない記憶がある。
前世の中の鮮明に残してある数々の記憶の中で、一番鮮やかに綺麗な場所に置いてあったのは、『ルルーシュ』と言う男の子がいる記憶だった。
記憶の中で、笑うルルーシュ、怒るルルーシュ、泣きそうなルルーシュ。
一緒にいる記憶は、何一つかけるものがなく、本当に大切にしてあった。
くるくると色んな思い出と共に浮かんでくるルルーシュと言う存在は、本当に大切な存在だったようだ。
笑顔が見れるだけで本当に嬉しく感じて辺りが華やいだ。
悲しそうな顔をだと本当に悲しくなって、自分も胸が痛くなって泣いてしまいそうだった。
怒るとそれが怖いと思いながらも、怒った顔もまた可愛いと思ってしまう自分がいて。
前世の記憶で、実際に体感したわけじゃないけれど、前世の俺がどう思ったか、どう対応したかでルルーシュを大切に想っていたのはとても良く感じられた。
そして、最後に大切な人に裏切られたショックで、それが憎しみをさらに増大させて、殺したいけど、殺せなくて大切なルルーシュに殺されることを望む最後で終わるのだ。
最後にただ一つ願ったのは、ルルーシュの笑顔だった。
俺が倒れる瞬間に、本当に本当にルルーシュは、悲しそうな顔をしていた。
身がちぎれて絶望へと追いやられた顔と、半身が削られてしまったような悲痛な声を上げていたと思う。
だから最後に、ただ笑顔でいてほしい、とそれだけを願ったんだ。
君だけは笑っていて欲しい、と。
それだけは、過去の自分に引きずられたことでなく、前世の『枢木スザク』と言うわけでなく、今の『枢木スザク』としても思っている気持ちだ。
この世界に生まれても、枢木スザクと言う名前をもらって、今の俺も生きている。
今の俺の気持ちとして考えると、ルルーシュはけして俺を裏切ってなかったと思う。
ただ、ルルーシュはナナリーのために、俺のために世界を変えたくて、それでも上手くいけなくて、何かしらの最悪な事態が生まれて、ユーフェミアを殺すしかなかったんだろう。
身内には本当に優しいルルーシュだったら、彼女を殺すことなんて普通に考えたらそう簡単に出来るはずがない。
狂ってしまった彼女を止めるために、殺すしかなかったんだろう。
ギアスとか、そういう力がユーフェミアに作用してしまったのも、きっと何か事情があってなんだ。
もしかしたら、今の俺がただそう願いたいだけなのかもしれないけれど、俺はそう思った。
そして、前の俺もルルーシュがゼロだと疑っていても、聞けなかったのはルルーシュが好きだったからだ。
ルルーシュだけは、どんな風になってもきっと俺の味方でいてくれて、絶対に裏切ったりしない、と思っていて。
そして、結局は好きな人を疑いたくなかっただけで、聞く事も怖くて出来ずに、何もそのことに触れる事も出来なくて、何も聞けなかった俺は臆病者の愚か者だった。
それなのに、ルルーシュに裏切られたと感じて、自分のことを棚に上げて責めたてた。
もう少しだけ、あと一歩でもルルーシュへと進めて手の伸ばしていられたら、ルルーシュの中でももしかしたら何か変わっていてかもしれないのに。
今だったら、絶対にルルーシュを傷つけたりしない。
ルルーシュは裏切らないでくれたのだから、俺も裏切ったりしない。
話し合いが足りないなら、言葉が足りないなら話し合いたい。
自分の綺麗なところだけを見せようしないで、取り繕うことをしないで、ちゃんと話すよ。
ルルーシュの存在を絶対に否定したりしない。
でも、だけど、前の俺もけしてルルーシュの存在を否定したかったわけじゃないんだ。
ゼロとルルーシュが同じ人間だと納得したくなくて、ルルーシュとゼロは違う人間だと願いたくて、ゼロだけに向けて言った言葉だったんだ。
本当に、どうしようもなく、前の俺は愚かで、愚鈍で。
ルルーシュの中から切り離したゼロに向けて言ってしまった。
ゼロもルルーシュの中の一つに違いないのに。
今度は一部だって、カケラだって、ルルーシュ、君を否定したりしない。
前世と違うから、もう憎しみなんて俺の中にはないから。
記憶の中から生まれた今の俺のルルーシュへの気持ちと、前世の俺から残った気持ちは、ただ大切に想う君への心だけだから。
深夜になると、俺が寝ている向かい側のベッドの上で、激しく咳き込みが聞こえて、ぱっと目を覚ました。
寝起きは良いほうだけれど、隣のベッドの主に何かがあると余計に目が覚めるのが早い。
かけていた布団を剥いで、隣のベッドへと駆け寄る。
「大丈夫か!?」
俺の方へ背中を向けていた細い体が、咳き込みながらもこちらを向く。
暗闇で目がまだ慣れていないから、相手の様子はわからないけれど、きっと今も苦しさで涙ぐんでいるに違いないんだ。
相手の体を起して背中をさすってやると、少しだけ楽になっているように感じる。
段々と咳が落ち着いてきて、相手の呼吸が大人しくなった。
「あり、がとう…スザク兄さん…」
暗闇に少しずつ慣れてきて相手を見ると、やっぱり苦しさから瞳いっぱいに涙をたたえていた。
目の端にたまった雫を指で拭ぐってやると、もぞもぞと恥ずかしそうに少し身を捩った後、困ったように微笑んだ。
とりあえずは、落ち着いたらしい。
それに安心して、少し待っているように告げて、俺は部屋の明りをつけた。
「だから、いつも無理するなって言っただろ…また熱が上がったんじゃないのか…」
元の場所まで戻って、咳き込んでいた相手の汗で湿っている前髪をかきわけ、額をこつんとくっつけると、その額はいつもよりもさらに高い。
やっぱり確実に熱がある。
「無理って…少しだけ、本当に少しだけ昨日の授業だって、体育の時間に走っただけだよ」
「馬鹿!それでも無理してるって言うんだ。熱だって上がってるぞ、ルルーシュ!」
ルルーシュ、と呼んだ、今俺の前にいてくれる存在は、俺の義弟。
俺がちょうど10歳くらいの時に、父さんの親友夫婦が生まれたばかりのルルーシュと一緒に交通事故にあった。
奇跡的に、一緒にいたルルーシュは助かって、引き取り手がいない彼を俺の家で引き取ることになったんだ。
それから俺の義弟として、ルルーシュは15年ほどこの家にいる。
そして、今ここにいるルルーシュは、たぶん、きっと…いや、絶対に前の俺と一緒にいたルルーシュの生まれ変わりなんじゃないかと思う。
何が、どうして、とかそういうはっきりとした理由はないけれど、それでもそうなんじゃないかと、俺の感覚が言っている。
名前が同じとかそれだけじゃなくて、深い紫水晶のような瞳も、優しい闇を思い出させるような漆黒の髪も、白雪のようなすべりのいい滑らかな白い肌も何もかもが似すぎていて。
そして、俺の中の何かが、ルルーシュだと告げていたんだ。
奇跡的なのか、神様の悪戯かわからないけれど、この世界でまたルルーシュと出会えて、だから俺は今度こそ彼を大切にしようと、失敗しないように願って、ずっと一緒にいる。
ルルーシュが笑顔でいられるように、幸せでいられるように。
「お前は体が弱いんだから、無理をするとすぐに熱を出すだろ。風邪だってひきやすいし、何かあるとすぐに倒れるし…」
「でも、本当に昨日は調子が良かったから、体育だってちゃんと出たくて…」
「嘘をつくな。昨日だって風邪で微熱があったんだろうが。それでも学校に行こうとするから、行かせてやったんだぞ。それなのに、また無理ばかりして」
「微熱があるって知ってたの…?」
「何年一緒にいると思っているんだ。それくらいわからなくて兄さんなんてやっていられるはずないだろ」
「ご、ごめんなさい…」
申し訳なさそうにルルーシュは頭を下げ、彼の頬に横の髪がかかって、影を作る。
身に纏う暗い空気からすっかり落ち込んでしまった様子が読めた。
そんな風に、ルルーシュを責めたいわけでもないのに。
「謝る事ないだろ?ただルルーシュは体育に出たいって思って出ただけだ。ちゃんと授業を出る事は良い事なんだから、謝らなくて良い。それにルルーシュは熱があるのに学校を休ませなかった俺にも責任があるんだから、お前だけの責任じゃない」
腰に腕を回して抱き寄せようとすると、簡単にその体は俺の腕の中に入ってきた。
前のルルーシュも華奢だったけれど、今のルルーシュは病弱なせいか前よりも青白くなり、少し力を込めたら折れてしまいそうなくらいに細い。
ルルーシュは、抱き締められながら、申し訳ないように、ぎゅっと体を硬くして、唇を噛み締める。
宥めるように抱き締め、ルルーシュの触り心地の良い髪に指を通して梳きながら、謝らなくて良い、と再び告げると、少しだけ体の力がとけた。
「明日は熱が下がったら学校に行っても良いよ」
「熱が下がった後って、いつも様子見でもう一日休みなさいって言ってるのに…」
「でも、学校に行きたいんだろ?熱が下がったら、無理をしないって約束をするなら行って良いよ」
髪に口付けて、そっと背中を撫でると、ゆっくりと俺の背に腕が回されて、力無くパジャマの上着が握られる。
熱で少しぐったりしているのか、力が入らないみたいだ。
「有難う、スザク兄さん」
ルルーシュは、甘えるように俺の肩口に血の気の引いた頬を擦り寄せて再び顔を上げて、本当に嬉しそうに瞳を輝かせる。
その、顔が見られるなら俺は何でもしてあげたい。
熱が本当に下がるかわからないけれど、それでも下がるかもしれないのだから、そうしたら学校だって通わせてあげたい。
ルルーシュは体が弱いから、やることを制限されてしまう部分も多々あるけれど、それ でも普通の子のようにさせてあげたいのが本当だ。
前世のルルーシュのように、求める物がすべてなくなってしまうような悲しい思いばかりはさせたくないんだ。
ほんの少しでも良いから、ルルーシュが望む物を手にさせてあげたい。
もう、何かに泣かされることも、奪うことも奪われることも、傷つけることも傷つけられることも、この子がしないように、されないようにしてあげたいから。
だから、ただルルーシュは幸せになって、前世の事も何かも知らないままで良いんだ。
「ほら、咳だって落ち着いたから、そろそろ寝るんだ。あ、汗をかいてるから着替えないとな。着替えと新しくおでこを冷やすタオルも持ってくるから、少し横になって待っているように」
「うん…でも、兄さん…」
「どうかしたか?」
俺は横に落ちていたルルーシュが咳き込むまで額に乗せていた濡れタオルを拾う。
そして、彼の体を押して横たわらせて掛け布団をかけていると、ルルーシュの手が俺の右腕を掴んだ。
力が入らないのか、奮ったらすぐにでも落とされてしまうくらいの手の力だったけれど、俺はその手を左手で包み込んで落とさないようにした。
握られた手は、もう絶対に離さないでいてあげたいから。
「兄さん…キスしてくれる?そうしたら大人しく寝るから。この頃ずっと僕の熱が下がらない、から…キス…とか、ずっとそういうことしてないよね?」
青白かった頬に、ほんのりと朱が入って。
ねだる内容に流石に羞恥を覚えたのか、視線を彷徨わせて俯いて。
起き上がったルルーシュは、ぽふんと俺の胸に顔を押し付けて、表情が伺えないようにしてしまった。
そうは言っても、耳が髪の間から見えるから、そこが真っ赤になっていて、今も赤くなっていることははっきりとわかった。
「キス、したい?」
しばらく答えに間があって、ルルーシュは無言のまま小さく頷いた。
「僕が元気だったら、もっと違うことも出来るのに、な…」
「ルルーシュ…」
「僕はスザク兄さんが好きだよ」
「知ってる」
髪を撫でながら、ゆっくりと頬へと手を伸ばして、顔を上げさせる。
触れた頬が熱くなっていて、りんごのように赤く染まった顔が愛らしかった。
その顔を見ているだけで、口元がほころんで、頬へと口付ける。
そして、ゆっくりと唇へと口付けた。
驚かさないように、唇を離して、何度か触れるくらいで。
好きだ、と伝えて、こうして恋人同士になるきっかけを作ってくれたのはルルーシュから。
ルルーシュは前のルルーシュとは環境も違うせいか、性格も違っておっとりしている。
自分に関してはちょっとぽややんとしているところは同じかもしれないけれど、違う部分はやっぱりある。
でも、頑固で変なところで負けず嫌いで、意思の強い澄んだまっすぐに見つめてくれる瞳は変わらない。
ルルーシュが修学旅行でパスポートを作るのに戸籍謄本をもらいに行った時だった。
家族が変わりに取りにいくつもりだったのに、一人で取りに行ってしまったルルーシュはそこで血の繋がりがないことを知ってしまったんだ。
そこには、はっきりとルルーシュが養子だと書いてあった。
家に帰ってきたルルーシュは、泣きそうな顔で、でもそれでも健気にも俺が黙っていた事をけして責める事をしなかった。
辛いことも悲しいことも前に進むための力とするのは、やっぱり変わらなくて。
そうして、血が繋がってないなら良いよね、と自分の気持ちを俺に打ち明けてくれたんだ。
まっすぐな瞳は強い揺ぎない意思を伝えてくれて、好きだとはっきり告げてくれた。
ルルーシュの幸せを考えるなら、今まで通りの兄弟として過ごすことも考えた。
こういうのはきっと大好きな兄に依存する心で、一時だけの、きっとそのうち俺のことは忘れるだろうと。
でも、ルルーシュの瞳は、そんな一時だけの物でないと、ただ純粋に俺を想ってくれていることがわかったから、その手を取った。
それでも、もしいつかルルーシュが他の相手を見つけてしまっても、お前が幸せになるなら良い。
ただ、ルルーシュを幸せにしてあげたかった。
無邪気に微笑む事さえ出来なかったあの頃とは違って、子供のように甘えたり、笑ったりすることをさせてあげたかった。
前は出来なかった分だけで、たくさんの愛情と幸せで満たして上げたかった。
でも、本当は、俺がルルーシュの手を取りたかっただけだ。
ルルーシュのためじゃない、ただ自分のために。
前世のルルーシュを前の俺は想っていて、今の俺もこうしてルルーシュだけを想っている。
でも、けして前の延長で思っているわけじゃないんだ。
確かに前のルルーシュへの気持ちもあるかもしれないけれど、今のルルーシュしか見せてくれない笑顔や表情、心やすべてにも今の俺は惹かれたんだよ。
「好きだよ、ルルーシュ」
その手を取ったのは自分の我侭。
でも、それでも、ルルーシュの笑顔をいつだって願っている。
それだけは本当だから。
毎日の最後に願うのは君の笑顔。
前の俺が最後に願ったのも君の笑顔。
ずっとずっと君の笑顔だけが、俺の願い。
何て言うか、枢木さんは前世の記憶があるので、ぐるぐるしちゃってます。
でも、ルルへの憎しみとかなくて、ルルが前世でどんなに悲しい思いをしていたのかわかっているので、現世ではひたすらルルを幸せにしたいとか、今度は失敗しないとか、ずっと笑顔でいてほしいとか、何かぐるぐるしてる人です。
そんなお話が大丈夫な方だけ、先にお進みください。
銃声が、一つ。
最後まで引かれることのなかったトリガー。
最後に耳に入ったのはお前の声、だった。
泣き叫ぶような、どうして、と戸惑うような、色んな物がないまぜになったそんな声だった。
頭の中で、何かに命令されるように、生きないといけないと言っているのに、俺はそれをねじ込んで、銃の弾を俺の胸へとすんなり受け入れる。
ぐっちゃっと肉の中を貫通するような感覚と、胸から血が溢れて、血の海を足下に作っていく。
そのまま、赤く濡れた場所によって俺も赤く染まっていく。
視界が…暗く、なっていく。
結局、殺すことは出来なかった。
銃を持つ向けた手は、震えるばかりで、役にたたなかった。
敵になったあいつも、俺が避けることも出来ただろう弾を受け入れて、こんなに簡単に倒れるなんて思わなかっただろう。
殺せない、から。
あんなに憎んだのに、ぐちゃぐちゃの暗闇の底に叩き付けてやりたかったのに。
簡単に殺さないで、生きているのが辛く感じるように、じわじわと拷問のように精神を削らせて殺してやろうとしたのに。
銃の引き金を引けなかった、から。
だから、殺されるしかなかった。
殺すこと、しか、目的はなくなっていたから。
殺せないなら、どうしたら良いのかわからなかった。
憎んだままでいたら、またきっと殺そうと何度でも思う。
そう考えたら、身体がなぜか動かなかった。
頭の中でガンガンと生きろと鳴り響くけれど、強引に捩じ伏せる。
殺せないなら、殺されるしかない。
このまま死んでしまえば、殺すことなんてない、から。
それでも憎んで、憎んで、憎んで、憎んで。
最後にたった一つだけ心が残った。
今も消せない心。
最後に望んだのは。
君の笑顔。
あれから、気が付くと平和な世界。
普通の家に生まれて、世界に戦争もあるけれど、今俺が住んでいるところでは、まだ平和な方の世界だった。
日本もあって、ブリタニアの代わりに別の国があって、けれど日本はいちおう表面上は支配されているわけでもなく、日本とその国は普通に交流のある世界だった。
前にいた世界と部分部分が同じで、でもけして完璧に同じ世界でない世界。
気が付いたら、そんな世界にいて、俺は前の記憶を持ったまま、この世界に生まれたらしい。
生まれて物心つく頃から、不思議な記憶があって、それを大人に話すとおかしな目で見られるし、俺がおかしくなってしまったと親も泣くから成長するにしたがってそんなことは言わなくなった。
数々のおかしな記憶が脳内を支配していて、自分の妄想なのか、何なのか本当に気が狂いそうになった。
けれど、どこかで前世と言う話を聞いて、ああ、これはそうなんだろうか、と思う日が来る。
前世なんて眉唾ものを信じるのも馬鹿馬鹿しかったけれど、そう納得しないと許容出来る範囲じゃないこの膨大などこかでの記憶を収集出来なかったからだ。
そうして、落ち着いてくると、受け入れた記憶の中で一番気になったのは、前世の俺がもっとも気にかけていた男の子だった。
記憶と言うものは、段々と廃れていくもので、前世においてももちろんそれはあるらしく、鮮明な記憶とそうでない記憶がある。
前世の中の鮮明に残してある数々の記憶の中で、一番鮮やかに綺麗な場所に置いてあったのは、『ルルーシュ』と言う男の子がいる記憶だった。
記憶の中で、笑うルルーシュ、怒るルルーシュ、泣きそうなルルーシュ。
一緒にいる記憶は、何一つかけるものがなく、本当に大切にしてあった。
くるくると色んな思い出と共に浮かんでくるルルーシュと言う存在は、本当に大切な存在だったようだ。
笑顔が見れるだけで本当に嬉しく感じて辺りが華やいだ。
悲しそうな顔をだと本当に悲しくなって、自分も胸が痛くなって泣いてしまいそうだった。
怒るとそれが怖いと思いながらも、怒った顔もまた可愛いと思ってしまう自分がいて。
前世の記憶で、実際に体感したわけじゃないけれど、前世の俺がどう思ったか、どう対応したかでルルーシュを大切に想っていたのはとても良く感じられた。
そして、最後に大切な人に裏切られたショックで、それが憎しみをさらに増大させて、殺したいけど、殺せなくて大切なルルーシュに殺されることを望む最後で終わるのだ。
最後にただ一つ願ったのは、ルルーシュの笑顔だった。
俺が倒れる瞬間に、本当に本当にルルーシュは、悲しそうな顔をしていた。
身がちぎれて絶望へと追いやられた顔と、半身が削られてしまったような悲痛な声を上げていたと思う。
だから最後に、ただ笑顔でいてほしい、とそれだけを願ったんだ。
君だけは笑っていて欲しい、と。
それだけは、過去の自分に引きずられたことでなく、前世の『枢木スザク』と言うわけでなく、今の『枢木スザク』としても思っている気持ちだ。
この世界に生まれても、枢木スザクと言う名前をもらって、今の俺も生きている。
今の俺の気持ちとして考えると、ルルーシュはけして俺を裏切ってなかったと思う。
ただ、ルルーシュはナナリーのために、俺のために世界を変えたくて、それでも上手くいけなくて、何かしらの最悪な事態が生まれて、ユーフェミアを殺すしかなかったんだろう。
身内には本当に優しいルルーシュだったら、彼女を殺すことなんて普通に考えたらそう簡単に出来るはずがない。
狂ってしまった彼女を止めるために、殺すしかなかったんだろう。
ギアスとか、そういう力がユーフェミアに作用してしまったのも、きっと何か事情があってなんだ。
もしかしたら、今の俺がただそう願いたいだけなのかもしれないけれど、俺はそう思った。
そして、前の俺もルルーシュがゼロだと疑っていても、聞けなかったのはルルーシュが好きだったからだ。
ルルーシュだけは、どんな風になってもきっと俺の味方でいてくれて、絶対に裏切ったりしない、と思っていて。
そして、結局は好きな人を疑いたくなかっただけで、聞く事も怖くて出来ずに、何もそのことに触れる事も出来なくて、何も聞けなかった俺は臆病者の愚か者だった。
それなのに、ルルーシュに裏切られたと感じて、自分のことを棚に上げて責めたてた。
もう少しだけ、あと一歩でもルルーシュへと進めて手の伸ばしていられたら、ルルーシュの中でももしかしたら何か変わっていてかもしれないのに。
今だったら、絶対にルルーシュを傷つけたりしない。
ルルーシュは裏切らないでくれたのだから、俺も裏切ったりしない。
話し合いが足りないなら、言葉が足りないなら話し合いたい。
自分の綺麗なところだけを見せようしないで、取り繕うことをしないで、ちゃんと話すよ。
ルルーシュの存在を絶対に否定したりしない。
でも、だけど、前の俺もけしてルルーシュの存在を否定したかったわけじゃないんだ。
ゼロとルルーシュが同じ人間だと納得したくなくて、ルルーシュとゼロは違う人間だと願いたくて、ゼロだけに向けて言った言葉だったんだ。
本当に、どうしようもなく、前の俺は愚かで、愚鈍で。
ルルーシュの中から切り離したゼロに向けて言ってしまった。
ゼロもルルーシュの中の一つに違いないのに。
今度は一部だって、カケラだって、ルルーシュ、君を否定したりしない。
前世と違うから、もう憎しみなんて俺の中にはないから。
記憶の中から生まれた今の俺のルルーシュへの気持ちと、前世の俺から残った気持ちは、ただ大切に想う君への心だけだから。
深夜になると、俺が寝ている向かい側のベッドの上で、激しく咳き込みが聞こえて、ぱっと目を覚ました。
寝起きは良いほうだけれど、隣のベッドの主に何かがあると余計に目が覚めるのが早い。
かけていた布団を剥いで、隣のベッドへと駆け寄る。
「大丈夫か!?」
俺の方へ背中を向けていた細い体が、咳き込みながらもこちらを向く。
暗闇で目がまだ慣れていないから、相手の様子はわからないけれど、きっと今も苦しさで涙ぐんでいるに違いないんだ。
相手の体を起して背中をさすってやると、少しだけ楽になっているように感じる。
段々と咳が落ち着いてきて、相手の呼吸が大人しくなった。
「あり、がとう…スザク兄さん…」
暗闇に少しずつ慣れてきて相手を見ると、やっぱり苦しさから瞳いっぱいに涙をたたえていた。
目の端にたまった雫を指で拭ぐってやると、もぞもぞと恥ずかしそうに少し身を捩った後、困ったように微笑んだ。
とりあえずは、落ち着いたらしい。
それに安心して、少し待っているように告げて、俺は部屋の明りをつけた。
「だから、いつも無理するなって言っただろ…また熱が上がったんじゃないのか…」
元の場所まで戻って、咳き込んでいた相手の汗で湿っている前髪をかきわけ、額をこつんとくっつけると、その額はいつもよりもさらに高い。
やっぱり確実に熱がある。
「無理って…少しだけ、本当に少しだけ昨日の授業だって、体育の時間に走っただけだよ」
「馬鹿!それでも無理してるって言うんだ。熱だって上がってるぞ、ルルーシュ!」
ルルーシュ、と呼んだ、今俺の前にいてくれる存在は、俺の義弟。
俺がちょうど10歳くらいの時に、父さんの親友夫婦が生まれたばかりのルルーシュと一緒に交通事故にあった。
奇跡的に、一緒にいたルルーシュは助かって、引き取り手がいない彼を俺の家で引き取ることになったんだ。
それから俺の義弟として、ルルーシュは15年ほどこの家にいる。
そして、今ここにいるルルーシュは、たぶん、きっと…いや、絶対に前の俺と一緒にいたルルーシュの生まれ変わりなんじゃないかと思う。
何が、どうして、とかそういうはっきりとした理由はないけれど、それでもそうなんじゃないかと、俺の感覚が言っている。
名前が同じとかそれだけじゃなくて、深い紫水晶のような瞳も、優しい闇を思い出させるような漆黒の髪も、白雪のようなすべりのいい滑らかな白い肌も何もかもが似すぎていて。
そして、俺の中の何かが、ルルーシュだと告げていたんだ。
奇跡的なのか、神様の悪戯かわからないけれど、この世界でまたルルーシュと出会えて、だから俺は今度こそ彼を大切にしようと、失敗しないように願って、ずっと一緒にいる。
ルルーシュが笑顔でいられるように、幸せでいられるように。
「お前は体が弱いんだから、無理をするとすぐに熱を出すだろ。風邪だってひきやすいし、何かあるとすぐに倒れるし…」
「でも、本当に昨日は調子が良かったから、体育だってちゃんと出たくて…」
「嘘をつくな。昨日だって風邪で微熱があったんだろうが。それでも学校に行こうとするから、行かせてやったんだぞ。それなのに、また無理ばかりして」
「微熱があるって知ってたの…?」
「何年一緒にいると思っているんだ。それくらいわからなくて兄さんなんてやっていられるはずないだろ」
「ご、ごめんなさい…」
申し訳なさそうにルルーシュは頭を下げ、彼の頬に横の髪がかかって、影を作る。
身に纏う暗い空気からすっかり落ち込んでしまった様子が読めた。
そんな風に、ルルーシュを責めたいわけでもないのに。
「謝る事ないだろ?ただルルーシュは体育に出たいって思って出ただけだ。ちゃんと授業を出る事は良い事なんだから、謝らなくて良い。それにルルーシュは熱があるのに学校を休ませなかった俺にも責任があるんだから、お前だけの責任じゃない」
腰に腕を回して抱き寄せようとすると、簡単にその体は俺の腕の中に入ってきた。
前のルルーシュも華奢だったけれど、今のルルーシュは病弱なせいか前よりも青白くなり、少し力を込めたら折れてしまいそうなくらいに細い。
ルルーシュは、抱き締められながら、申し訳ないように、ぎゅっと体を硬くして、唇を噛み締める。
宥めるように抱き締め、ルルーシュの触り心地の良い髪に指を通して梳きながら、謝らなくて良い、と再び告げると、少しだけ体の力がとけた。
「明日は熱が下がったら学校に行っても良いよ」
「熱が下がった後って、いつも様子見でもう一日休みなさいって言ってるのに…」
「でも、学校に行きたいんだろ?熱が下がったら、無理をしないって約束をするなら行って良いよ」
髪に口付けて、そっと背中を撫でると、ゆっくりと俺の背に腕が回されて、力無くパジャマの上着が握られる。
熱で少しぐったりしているのか、力が入らないみたいだ。
「有難う、スザク兄さん」
ルルーシュは、甘えるように俺の肩口に血の気の引いた頬を擦り寄せて再び顔を上げて、本当に嬉しそうに瞳を輝かせる。
その、顔が見られるなら俺は何でもしてあげたい。
熱が本当に下がるかわからないけれど、それでも下がるかもしれないのだから、そうしたら学校だって通わせてあげたい。
ルルーシュは体が弱いから、やることを制限されてしまう部分も多々あるけれど、それ でも普通の子のようにさせてあげたいのが本当だ。
前世のルルーシュのように、求める物がすべてなくなってしまうような悲しい思いばかりはさせたくないんだ。
ほんの少しでも良いから、ルルーシュが望む物を手にさせてあげたい。
もう、何かに泣かされることも、奪うことも奪われることも、傷つけることも傷つけられることも、この子がしないように、されないようにしてあげたいから。
だから、ただルルーシュは幸せになって、前世の事も何かも知らないままで良いんだ。
「ほら、咳だって落ち着いたから、そろそろ寝るんだ。あ、汗をかいてるから着替えないとな。着替えと新しくおでこを冷やすタオルも持ってくるから、少し横になって待っているように」
「うん…でも、兄さん…」
「どうかしたか?」
俺は横に落ちていたルルーシュが咳き込むまで額に乗せていた濡れタオルを拾う。
そして、彼の体を押して横たわらせて掛け布団をかけていると、ルルーシュの手が俺の右腕を掴んだ。
力が入らないのか、奮ったらすぐにでも落とされてしまうくらいの手の力だったけれど、俺はその手を左手で包み込んで落とさないようにした。
握られた手は、もう絶対に離さないでいてあげたいから。
「兄さん…キスしてくれる?そうしたら大人しく寝るから。この頃ずっと僕の熱が下がらない、から…キス…とか、ずっとそういうことしてないよね?」
青白かった頬に、ほんのりと朱が入って。
ねだる内容に流石に羞恥を覚えたのか、視線を彷徨わせて俯いて。
起き上がったルルーシュは、ぽふんと俺の胸に顔を押し付けて、表情が伺えないようにしてしまった。
そうは言っても、耳が髪の間から見えるから、そこが真っ赤になっていて、今も赤くなっていることははっきりとわかった。
「キス、したい?」
しばらく答えに間があって、ルルーシュは無言のまま小さく頷いた。
「僕が元気だったら、もっと違うことも出来るのに、な…」
「ルルーシュ…」
「僕はスザク兄さんが好きだよ」
「知ってる」
髪を撫でながら、ゆっくりと頬へと手を伸ばして、顔を上げさせる。
触れた頬が熱くなっていて、りんごのように赤く染まった顔が愛らしかった。
その顔を見ているだけで、口元がほころんで、頬へと口付ける。
そして、ゆっくりと唇へと口付けた。
驚かさないように、唇を離して、何度か触れるくらいで。
好きだ、と伝えて、こうして恋人同士になるきっかけを作ってくれたのはルルーシュから。
ルルーシュは前のルルーシュとは環境も違うせいか、性格も違っておっとりしている。
自分に関してはちょっとぽややんとしているところは同じかもしれないけれど、違う部分はやっぱりある。
でも、頑固で変なところで負けず嫌いで、意思の強い澄んだまっすぐに見つめてくれる瞳は変わらない。
ルルーシュが修学旅行でパスポートを作るのに戸籍謄本をもらいに行った時だった。
家族が変わりに取りにいくつもりだったのに、一人で取りに行ってしまったルルーシュはそこで血の繋がりがないことを知ってしまったんだ。
そこには、はっきりとルルーシュが養子だと書いてあった。
家に帰ってきたルルーシュは、泣きそうな顔で、でもそれでも健気にも俺が黙っていた事をけして責める事をしなかった。
辛いことも悲しいことも前に進むための力とするのは、やっぱり変わらなくて。
そうして、血が繋がってないなら良いよね、と自分の気持ちを俺に打ち明けてくれたんだ。
まっすぐな瞳は強い揺ぎない意思を伝えてくれて、好きだとはっきり告げてくれた。
ルルーシュの幸せを考えるなら、今まで通りの兄弟として過ごすことも考えた。
こういうのはきっと大好きな兄に依存する心で、一時だけの、きっとそのうち俺のことは忘れるだろうと。
でも、ルルーシュの瞳は、そんな一時だけの物でないと、ただ純粋に俺を想ってくれていることがわかったから、その手を取った。
それでも、もしいつかルルーシュが他の相手を見つけてしまっても、お前が幸せになるなら良い。
ただ、ルルーシュを幸せにしてあげたかった。
無邪気に微笑む事さえ出来なかったあの頃とは違って、子供のように甘えたり、笑ったりすることをさせてあげたかった。
前は出来なかった分だけで、たくさんの愛情と幸せで満たして上げたかった。
でも、本当は、俺がルルーシュの手を取りたかっただけだ。
ルルーシュのためじゃない、ただ自分のために。
前世のルルーシュを前の俺は想っていて、今の俺もこうしてルルーシュだけを想っている。
でも、けして前の延長で思っているわけじゃないんだ。
確かに前のルルーシュへの気持ちもあるかもしれないけれど、今のルルーシュしか見せてくれない笑顔や表情、心やすべてにも今の俺は惹かれたんだよ。
「好きだよ、ルルーシュ」
その手を取ったのは自分の我侭。
でも、それでも、ルルーシュの笑顔をいつだって願っている。
それだけは本当だから。
毎日の最後に願うのは君の笑顔。
前の俺が最後に願ったのも君の笑顔。
ずっとずっと君の笑顔だけが、俺の願い。