このお話は猫のアーサーを擬人化した、アーサー(擬人化)×ルルのお話です。擬人化していない猫のままのアーサーとルルとの絡みもあります。スザクが可哀想で、最初にスザク視点からのアサルルもちょっとだけ入っていたりします。それでも大丈夫な方だけ先にお進みください。
コンコン。僕はルルーシュの部屋の扉を小さくノックする。ノックをし忘れることが多いけど、たまにはノックすることもある。けれどそういう時に限って、ルルーシュからの返事はない。
困ったな…会長がルルーシュに用事があるから呼んでこいって言ってたのに。僕だってもちろんルルーシュに会いたいわけだから、わざわざこのお使いを自分から立候補したのに。さっき、クラブハウスに入る時にナナリーに会ったけど、ルルーシュは部屋にいるって聞いたんだけどな…。
『あ…ん…』
『…に……』
中から小さいけど、声が聞こえた気がする。誰かお客さんが来ていて、ノックに気が付かなかったのかな?
『駄目だ…アーサー…』
今度はルルーシュの熱っぽい鼻にかかった甘ったるい声が、はっきりと聞こえた。ルルーシュの話す相手が、アーサーって、アーサーって!!!
「ルルーシュ!!またアーサーと絡んでるの!まだ猫のままだろ!!」
僕は叫び声を上げて、すぐさま部屋へと飛び込む。
部屋のベッドの上にはギリギリでズボンははいていたけど、制服のシャツは肌蹴させ、そこから白い肌を覗かせて頬を高潮させているルルーシュとその腕に抱かれる猫のアーサー。
ルルーシュの肌蹴たシャツの合間からさくらんぼみたいに色づいて濡れた胸の突起が目について、僕は反射的に目をそらした。これは凶悪なまでにとてもすごくかなり危なかった。あのまま直視していたら、僕の下半身が危ないところだった。一瞬だけ見たけど、いつもは可愛い桜色の胸の突起が、今は濡れて赤くなっていた(一緒にシャワー室に入った時に普段は桜色だったのは、確認済みだ)。
その理由は毎回ただ一つしかない。僕だって触ったことのないとても触ってみたくて甘そうな魅惑のその場所を、ある人物(?)が、舐めているからだ。
「アーサーが猫のままなのに何やってるんだよ!」
そう、今僕が言ったアーサーがルルーシュの胸の突起を舐めているから、そこがさくらんぼみたいに赤くなっているんだ。本当にルルーシュは何をしているんだ!
「い、良いだろ!俺とアーサーは恋人同士なんだから!」
ルルーシュは、僕が部屋に乱入してきたことを悟ると、勢い良くベッドから起き上がって、シャツの前をかき寄せる。首まで真っ赤になった様子が扇情的で、これは性犯罪に巻き込まれても仕方ないくらいに魅力的だ。瞳が潤んで目元が赤くなった姿なんて、なんて可愛いんだろう。
どうしてこんなに可愛いのに僕の物じゃないんだろう…アーサーの物なんだろう…。
「しゃーーーーーーーーーー!!」
ルルーシュの腕の中のアーサーはまるで僕から彼を守るように、毛を逆立てて機嫌悪そうに鳴きながら僕を威嚇し始めた。
ルルーシュの言う通り、ルルーシュとアーサーは認めたくないけど恋人同士だ。猫と人間と言う壁をぶち破って恋人同士になってしまったのだ。
猫は1000回良いことをすると、お月様が願いを叶えてくれるそうで、ある時アーサーは願いを叶えてもらえる時に人間になりたいと願ったそうだ。人間になりたいと願ったのは、ルルーシュが好きで、彼と両思いになりたかったから。
アーサーも流石にずっと人間でいられるのは無理だそうで、人間になれる期間は満月の夜から一週間だ。
こんな摩訶不思議なことがまかり通るなんて、本当に信じられないけど、僕を含めてあっさり生徒会のメンバーなんか一部の人には受け入れられている。満月の夜に、アーサーが猫から人間の姿になったところをみんなで見てしまったからだ。
それから人間になったアーサーはルルーシュを口説き、いつの間にかルルーシュもアーサーにメロメロになってしまって、恋人同士になっていた。僕だってルルーシュにあんなにたくさん好きだ好きだって言っていたのに、それは友達からとしか信じてくれない鈍い人間なのに、どうしてアーサーからの告白は素直に受け入れられるかな…。そのせいで僕は諦めるつもりもないし、猫のアーサーにルルーシュを渡すわけにはいかないと、今もことあるごとにルルーシュにアタックをかけているけど、鈍いルルーシュにはまったく効果がないんだけどね…。
「今夜は満月なんだから、アーサーは人間になれるのに我慢出来なかったの…?」
「毎回、満月のたびにお前や会長にアーサーとの逢瀬を邪魔されてみろ!我慢出来なくなっても仕方ないだろ!」
「だからアーサーは止めて僕にしなって言ってるじゃないか」
「冗談は止せ!この馬鹿!」
ルルーシュは傍にあった目覚ましを手に取ると、僕へと放り投げてくる。それを簡単に片手で受け止めて床に置きながら、僕は大きくため息をついて肩を落とした。冗談でこんなこと言えるはずないのに…。
「ルルーシュ、冗談じゃないよ。って、い、痛い!アーサー、噛み付かないで!」
アーサーはルルーシュを守るように、僕の足元にいつの間にか近づいてきていて、容赦なく噛み付く。僕の体にはアーサーの噛み痕がいくつも残っていて、この噛み痕がルルーシュのだったらどんなに良いかと何度も思ったほどだ。 好きな子の噛み痕じゃなくて、どうしてライバルの噛み痕が僕の体にはつくのやら…。
「と、とにかく、会長からの伝言で来たんだ!だからせめて話を聞いてよ!」
小さな体のアーサーを振り払うわけにも行かず噛まれたそのままの状態で痛みを堪えながら、一気に捲くし立てるように話すと、ようやくアーサーの歯が僕の足から離れていく。アーサーは僕が気に入らないみたいだけど、会長は気に入っているみたいだから、彼女の名前は効果があったらしい。
アーサーは僕を牽制するように何度も何度も振り向きながらベッドに向かい、そのまま華麗な足並みでベッドへと飛び乗ると、指定席とでも言うように当然の振るまいでルルーシュの膝の上へと乗り上げる。そして太股に頬を擦り寄せて、少しだけ顔を上げると瞳を細めて僕をあざ笑うように口元を少し開いた。
それが僕を馬鹿にしているように見えて、ムカッと来た。アーサー…僕を怒らせたね…今夜もお前たちの邪魔をしてやる。何が何でも猫のアーサーとルルーシュをやらせてたまるか。
「会長が、夜になったらアーサーを連れて生徒会室に来なさいだって」
「また俺とアーサーの夜を邪魔するのか!?」
ルルーシュはあきらかに不機嫌そうに吐き捨てるように言葉を零し、膝にいるアーサーを抱き上げると、胸に抱き込んだ。アーサーのさらさらの毛並みを撫でて、離れがたそうに小さな体に顔を埋め、切なそうにそっと瞳を伏せる。
ルルーシュが恋をしてこんなに一途に誰かに盲目になるなんてまったく知らなかったよ。常識人のルルーシュが猫を好きになるなんてまったく思わなかったから。
「アーサー…今夜も邪魔をされるらしい…」
「にゃ…」
アーサーはアーサーで、ルルーシュを慰めるように首筋に顔を擦り寄せて、ちろちろと舐める。
敏感らしいルルーシュは、(僕がルルーシュとそういうことはしたことはないけど、アーサーが触れるたびに敏感に返すからそういうのはわかる)小さく甘い声を上げて体を震わせ、その毛並みを感じたいのか、もっとと言うように、体を自分から擦り寄せた。
…これ…アーサーが猫の状態だから出来るんだろうな…。ルルーシュって基本的に恥ずかしがり屋だから、普通はこういうのは見せられないはずだ。
でもルルーシュは現在自分の恋人は猫の姿だからこういう甘えているような仕草も人前で出来るんだろう。流石に人間の時にもこういうシーンを見せられたら僕も当分立ち直れそうにないから、猫のアーサー限定ってところで良かった。
「会長は人間になったアーサーがお気に入りじゃないか。だから見たいだけじゃないのかな」
僕もルルーシュに恋をする人間の一人だから、アーサーとルルーシュの邪魔は全力で阻止したい。アーサーが人間になった歓迎会とかでどうせどんちゃん騒ぎになるだろうから、ルルーシュを酔わせて寝かせたところでそのままアーサーを捕獲して、朝までルルーシュといられないようにしよう。一週間続けてアーサーを捕獲するのは大変だけど、僕の運動神経とルルーシュへの愛でいつもやってのけていたことだから今回も出来るはずだ!
ルルーシュの純潔は僕が守る!
「会長のお願いを聞いてあげなよ」
僕はあくまでも穏やかに返すと、アーサーがまた威嚇するように僕に牙をむく。僕の思惑はアーサーにはばれているのかもしれない。そんなのは全部無視するけどね。
「アーサーを無理やり連れて行かれるよりは良いから、会長のところへ二人で行く…」
ルルーシュは眉を寄せて不機嫌そうな地を這った声になりながらも、小さく了承の言葉を返してくれる。
こういう時に会長には毎回感謝をするんだ。この学園では会長命令は絶対で、それはルルーシュも身に染みているらしく、いつもなんだかんだで納得するんだ。
「じゃあ、僕は夜になるまでアーサーを預かっておくね」
ベッドにいるルルーシュの傍によると、彼の腕の中からひょいっと猫つかみでアーサーを持ち上げる。アーサーは暴れて逃げようとするけど、猫つかみをすれば噛まれることも引っかかれることもないから、安心だ。
アーサーから引き離されて、ルルーシュの表情が一気に曇るから、胸がずきんとしたけど、それは無視するしかない。
猫のアーサー相手でも、やっぱりこういうことはしてほしくないのが本音だ。
「別に連れていくことはないだろ…」
「駄目駄目、夜までアーサーとのいちゃいちゃは我慢しなよ。昼間からなんて駄目に決まってるだろ」
ルルーシュは僕からアーサーを取り戻そうとベッドの上で立ち上がって手を伸ばすけど、僕は瞬時に後退して扉の方へと向かう。
それにもっと不機嫌そうにルルーシュの眉がつり上げるけど、笑顔で無視だ。
アーサーと不純異種交遊は良くないよ。同性なのは僕も男だから構わないけど、異種なのは良くない。恋に種族の垣根とか関係ないと思うけど、ルルーシュに関しては許すわけにはいかない。
なぜなら、僕もルルーシュが好きだから、アーサーとは付き合って欲しくない。ルルーシュに嫌われたくないから、全面的に反対しないだけで、本当は一人と一匹の交際を許しておけないんだ。
それから数時間たってようやく日が暮れて、空にぽっかり綺麗な満月が浮かぶ頃、俺が待ち焦がれていたアーサーと会えるアーサーが人間になった歓迎会の時間になった。
スザクにアーサーを拉致されたから、俺は人間になったアーサーの歓迎会を行なう生徒会室にすぐに向かい、今か今かとずっと自分の恋人を待っていた。生徒会室でそわそわする俺に、生徒会メンバーはうざいやら邪魔やら言ってくれたが、ここでが一番早く会えるのだから、無視を決めてずっと待っていたのだ。
待つ間仕事もたまにさせられたが、まったく手につかず、会長には呆れられてしまったが、いつも完璧に仕事をこなしているのだから、満月の夜くらいは我慢して欲しいものだ。
俺が今か今かとアーサーを待ち続けていると、静かな音をたてて生徒会室の扉が開かれる。
「アーサー…」
「ルルーシュ…」
そこには入り口には俺の待ち焦がれていた愛しい恋人とおまけのスザクがいた。俺は座っていた椅子を倒して、他の人間の視線などすっかり無視してそのまま出入り口に駆け寄った。人間の姿のアーサーにはなかなか会えないのだから、視線なんか気にしていられるか。
アーサーと別れたのが夕方の5時で、会えたのが夜の8時。3時間ぶりの再会だ。何て長い3時間だっただろうか。
そして、人としてのアーサーに会えるなんて、いつぶりだろうか。
猫の姿のアーサーのさらさらの毛並みや柔らかな澄んだ瞳、守りたくなるような小さな姿ももちろん愛しているし、彼に触れているだけで一緒にいてとても幸せな気分になれるが、一つだけ悲しいことがある。アーサーの言っていることは何となくわかっても、やはり言葉を交わすことが出来ない。でも人としてならお互いに言葉で意思の疎通が出来るし、広い腕の中で抱き締めてもらえるから、人間になったアーサーにもちゃんと触れ合いたいんだ。
「会いたかった、アーサー」
「俺もルルーシュに会いたかった」
俺よりも頭一つ分あるアーサーは俺を腕の中に抱き込んでくれると、優しく頭を撫でてくれた。隣でスザクの視線を感じたがそんなのはやはり無視だ。
久しぶりに見た人間のアーサーは学園の生徒として紛れるように制服を着ていて、着始めた当初は服と言う存在に窮屈そうにしていたが、今ではすっかり慣れた様子できちんと首までボタンを留めている。アーサーは猫だったのに、俺のためになるべく人間らしくなろうとして、洋服を着たり、人間の文化を学ぼうとしてくれているんだ。俺はそのままのアーサーでも構わないのに、いつも俺に合わせて気遣ってくれる。出会うたびに少しずつ少しずつ、アーサーは人間らしくなっていくんだ。
俺は猫になることは出来ないから、そのアーサーの優しさや想いがとても嬉しくて仕方がない。
「この姿で久しぶりにルルーシュに触れた気がする」
俺の髪を掬うように優しく撫でていた手が俺の耳へと触れる。アーサーの指は俺よりもすらりと長く、そして節がある筋張った手だ。硬い指先だけれど、俺に触れる指先はいつも優しいから痛かったことはない。
顔を上げて瞳が合うと、俺の表情が自然とほころび、アーサーも同じように瞳がふわりと優しく緩む。アーサーの瞳に自分の嬉しそうな顔が映っていて、きっと俺の瞳にもアーサーの嬉しそうな顔が映っていることだろう。まあるい満月のような優しい琥珀色の瞳が俺を映してくれていると実感出来るだけで、胸の奥から幸福が染み渡る。
首が隠れるくらいの長さの、俺よりも色を深くした黒曜石のような黒髪が明りに照らされてアーサーを彩っていて、惹かれるように綺麗な髪の毛先に指を伸ばして触れると、俺よりも少し硬い髪質。俺の髪はサラサラだと言われるけど、アーサーの髪は少し硬い髪質だ。少しチクチクして擽ったかったが、それもまた愛しい。
髪に触れていた手をアーサーの耳に伸ばして、そっと触れてみる。
人間になってもアーサーの耳は猫の耳のままで、ふわふわだ。ふわふわふにふにする耳をいじっていると、擽ったそうにピルピル動いて、アーサーのしっぽが反応するようにゆらゆらと揺れる。人間になっても猫の部分もちゃんと持ち合わせている部分もまた可愛くて、アーサーは人間と猫の良さを両方持っていて、そこもまた魅力的だ。
そして猫の時の左目のぶちの代わりに、眼帯をつけているのは会長の悪戯。
惚れた欲目なしに、すっと面長できっと周りからもかっこ良く見えるであろうアーサーが片目を隠していると、何だか少し残念な気がしないでもなかったが、アーサーの綺麗な瞳が隠されてその分少しでも彼の魅力を隠してくれるならそれならそれで良い。
アーサーが他の人間に惚れられるのはとても嫌だ。眼帯姿は眼帯姿で、そういうのが好きそうな趣味な人間に狙われてしまいそうだが、そういう人間は除いて少しでも敵が少ないに越したことはない。
「ルルーシュ…いつまでアーサーにべったりしているんだよ…」
傍にいるのをすっかり忘れていたスザクに声をかけられて、はっと我に返る。そういえば、スザクだけでなく、この部屋には生徒会メンバーが他にもいたんだ。
「ルルーシュ~久しぶりにアーサーに会えて嬉しいのはわかってるけど、ほどほどにね。お仕置きしちゃうわよ」
「会長、お仕置きって何ですか…人間のアーサーとはたまにしか会えないんだから仕方ないでしょう」
「会長…ルルーシュは悪くない。俺がルルーシュに会いたくてべったりしてるだけだから。だからお仕置きは止めてほしい」
まだ人間の言葉を上手に話せないアーサーがたどたどしく話しながらも、俺を背にかばうと会長へと果敢にも話してくれる。耳がピンと立っていて、気を張っているのが良くわかる。会長に誰もが逆らえないのはアーサーも知っているはずだろうに、恋人の俺を守るために…。
「アーサー…俺だってお前に会いたかったから同罪だ。お仕置きなら俺が…」
「ルルーシュは悪くない。俺がお仕置きを受ける」
「はいはい~バカップルはそこまで!お仕置きなんて冗談よ!アーサーが人間になって戻ってきたし、そろそろ歓迎会を始めましょう!」
会長がそう宣言すると、俺たちを見守っていた生徒会メンバーがジュースや菓子を片手に語り出す。
リヴァルは、ヒューヒューと俺たちをはやしたてる始末だ。恥ずかしいと思ったが、アーサーと俺の仲を良さを理解してやっている行動のようだから、喜んで受け取っておこう。
それからアーサーと話したいと思いながらも、スザクが間に入って邪魔をしたり、やっぱり会長が持ち出した酒に酔わされて、俺は早々に寝てしまうのだった。
「ん…」
ゆっくりと瞳を開くと、まだぼうっとする視界の中に、明りがこうごうとついた生徒会室の天井が映る。
ああ、そういえば酒を少し飲まされて、眠くてそのまま眠ってしまったんだった。
確か酒を飲みながらがくんと意識を失ったから、その場に倒れていても良いはずだが、座った体勢で背中に感じる硬い壁の感触を感じるから、誰かが俺が踏まれないように壁まで運んでくれたんだろうか。
頭を振ってぼんやりとする視界をはっきりさせていくと、他の生徒会メンバーも床に眠りについたり、椅子に腰をかけて机に突っ伏している。これは朝起きたら片づけが面倒そうだな…。だから酒は飲むなと言うのに、会長は毎回仕入れて来るし、俺は飲みたくないと言うのに無理に飲ますし…。本当に、どうしていつもこうなんだか…。
小さくため息をついていると、肩に軽く衝撃が走る。首にふさふさの何かが当たって、視線だけそちらを向けるとアーサーが俺の肩に寄り掛かっていた。
今回は珍しくアーサーと引き離されることなく、一緒にいられたのか…。
いつもなら邪魔をするスザクまで目の前で酒にやられて寝転がっているからな。
本当はアーサーを連れて部屋まで行きたいけれど、悲しいことに俺の腕力だと無理だろう。
二人きりになりたかった、と思いながら小さくため息をつくと、隣のアーサーは眠ったままなのに、しっぽはしっかり俺の腰へと巻きつけてくる。眠っていても、アーサーはちゃんと隣の俺を求めてきてくれていると言う事だろうか。すりすりとふさふさの耳を俺に擦り寄せてきてくれて、アーサーが傍にいてくれることを感じられる。
今日は二人きりじゃないけど、アーサーが隣にいてくれるから良しとするか。こんな風にゆっくりと人間のアーサーと一緒にいられるなんて滅多にないからな。
伝わってくる暖かい体温やふわふわの耳、巻きつけられるしっぽに嬉しさを隠しきれない。俺は、幸せだよ、アーサー。猫だとか、人間だとか、そんなことは関係ない。
俺も肩にあるアーサーの頭に擦り寄るようにして頭を預けて、そっと瞳を閉じた。明日になったらまたゆっくりアーサーと一緒にいられるようにと願いながら。
以前発行した無配のアーサー×ルルーシのお話を作品を再録させていただきました。
ちょうどルルーシュ受けオンリーイベント合わせで何か作れないかなと思って、書こうと思ったお話がアーサー×ルルーシュでした。
そしてお友達たちと同時発行の合同誌のお話がチーズくん×ルルーシュ。
ルル受けイベントとは言え、本当に自由に書いていたと思います(笑)
コンコン。僕はルルーシュの部屋の扉を小さくノックする。ノックをし忘れることが多いけど、たまにはノックすることもある。けれどそういう時に限って、ルルーシュからの返事はない。
困ったな…会長がルルーシュに用事があるから呼んでこいって言ってたのに。僕だってもちろんルルーシュに会いたいわけだから、わざわざこのお使いを自分から立候補したのに。さっき、クラブハウスに入る時にナナリーに会ったけど、ルルーシュは部屋にいるって聞いたんだけどな…。
『あ…ん…』
『…に……』
中から小さいけど、声が聞こえた気がする。誰かお客さんが来ていて、ノックに気が付かなかったのかな?
『駄目だ…アーサー…』
今度はルルーシュの熱っぽい鼻にかかった甘ったるい声が、はっきりと聞こえた。ルルーシュの話す相手が、アーサーって、アーサーって!!!
「ルルーシュ!!またアーサーと絡んでるの!まだ猫のままだろ!!」
僕は叫び声を上げて、すぐさま部屋へと飛び込む。
部屋のベッドの上にはギリギリでズボンははいていたけど、制服のシャツは肌蹴させ、そこから白い肌を覗かせて頬を高潮させているルルーシュとその腕に抱かれる猫のアーサー。
ルルーシュの肌蹴たシャツの合間からさくらんぼみたいに色づいて濡れた胸の突起が目について、僕は反射的に目をそらした。これは凶悪なまでにとてもすごくかなり危なかった。あのまま直視していたら、僕の下半身が危ないところだった。一瞬だけ見たけど、いつもは可愛い桜色の胸の突起が、今は濡れて赤くなっていた(一緒にシャワー室に入った時に普段は桜色だったのは、確認済みだ)。
その理由は毎回ただ一つしかない。僕だって触ったことのないとても触ってみたくて甘そうな魅惑のその場所を、ある人物(?)が、舐めているからだ。
「アーサーが猫のままなのに何やってるんだよ!」
そう、今僕が言ったアーサーがルルーシュの胸の突起を舐めているから、そこがさくらんぼみたいに赤くなっているんだ。本当にルルーシュは何をしているんだ!
「い、良いだろ!俺とアーサーは恋人同士なんだから!」
ルルーシュは、僕が部屋に乱入してきたことを悟ると、勢い良くベッドから起き上がって、シャツの前をかき寄せる。首まで真っ赤になった様子が扇情的で、これは性犯罪に巻き込まれても仕方ないくらいに魅力的だ。瞳が潤んで目元が赤くなった姿なんて、なんて可愛いんだろう。
どうしてこんなに可愛いのに僕の物じゃないんだろう…アーサーの物なんだろう…。
「しゃーーーーーーーーーー!!」
ルルーシュの腕の中のアーサーはまるで僕から彼を守るように、毛を逆立てて機嫌悪そうに鳴きながら僕を威嚇し始めた。
ルルーシュの言う通り、ルルーシュとアーサーは認めたくないけど恋人同士だ。猫と人間と言う壁をぶち破って恋人同士になってしまったのだ。
猫は1000回良いことをすると、お月様が願いを叶えてくれるそうで、ある時アーサーは願いを叶えてもらえる時に人間になりたいと願ったそうだ。人間になりたいと願ったのは、ルルーシュが好きで、彼と両思いになりたかったから。
アーサーも流石にずっと人間でいられるのは無理だそうで、人間になれる期間は満月の夜から一週間だ。
こんな摩訶不思議なことがまかり通るなんて、本当に信じられないけど、僕を含めてあっさり生徒会のメンバーなんか一部の人には受け入れられている。満月の夜に、アーサーが猫から人間の姿になったところをみんなで見てしまったからだ。
それから人間になったアーサーはルルーシュを口説き、いつの間にかルルーシュもアーサーにメロメロになってしまって、恋人同士になっていた。僕だってルルーシュにあんなにたくさん好きだ好きだって言っていたのに、それは友達からとしか信じてくれない鈍い人間なのに、どうしてアーサーからの告白は素直に受け入れられるかな…。そのせいで僕は諦めるつもりもないし、猫のアーサーにルルーシュを渡すわけにはいかないと、今もことあるごとにルルーシュにアタックをかけているけど、鈍いルルーシュにはまったく効果がないんだけどね…。
「今夜は満月なんだから、アーサーは人間になれるのに我慢出来なかったの…?」
「毎回、満月のたびにお前や会長にアーサーとの逢瀬を邪魔されてみろ!我慢出来なくなっても仕方ないだろ!」
「だからアーサーは止めて僕にしなって言ってるじゃないか」
「冗談は止せ!この馬鹿!」
ルルーシュは傍にあった目覚ましを手に取ると、僕へと放り投げてくる。それを簡単に片手で受け止めて床に置きながら、僕は大きくため息をついて肩を落とした。冗談でこんなこと言えるはずないのに…。
「ルルーシュ、冗談じゃないよ。って、い、痛い!アーサー、噛み付かないで!」
アーサーはルルーシュを守るように、僕の足元にいつの間にか近づいてきていて、容赦なく噛み付く。僕の体にはアーサーの噛み痕がいくつも残っていて、この噛み痕がルルーシュのだったらどんなに良いかと何度も思ったほどだ。 好きな子の噛み痕じゃなくて、どうしてライバルの噛み痕が僕の体にはつくのやら…。
「と、とにかく、会長からの伝言で来たんだ!だからせめて話を聞いてよ!」
小さな体のアーサーを振り払うわけにも行かず噛まれたそのままの状態で痛みを堪えながら、一気に捲くし立てるように話すと、ようやくアーサーの歯が僕の足から離れていく。アーサーは僕が気に入らないみたいだけど、会長は気に入っているみたいだから、彼女の名前は効果があったらしい。
アーサーは僕を牽制するように何度も何度も振り向きながらベッドに向かい、そのまま華麗な足並みでベッドへと飛び乗ると、指定席とでも言うように当然の振るまいでルルーシュの膝の上へと乗り上げる。そして太股に頬を擦り寄せて、少しだけ顔を上げると瞳を細めて僕をあざ笑うように口元を少し開いた。
それが僕を馬鹿にしているように見えて、ムカッと来た。アーサー…僕を怒らせたね…今夜もお前たちの邪魔をしてやる。何が何でも猫のアーサーとルルーシュをやらせてたまるか。
「会長が、夜になったらアーサーを連れて生徒会室に来なさいだって」
「また俺とアーサーの夜を邪魔するのか!?」
ルルーシュはあきらかに不機嫌そうに吐き捨てるように言葉を零し、膝にいるアーサーを抱き上げると、胸に抱き込んだ。アーサーのさらさらの毛並みを撫でて、離れがたそうに小さな体に顔を埋め、切なそうにそっと瞳を伏せる。
ルルーシュが恋をしてこんなに一途に誰かに盲目になるなんてまったく知らなかったよ。常識人のルルーシュが猫を好きになるなんてまったく思わなかったから。
「アーサー…今夜も邪魔をされるらしい…」
「にゃ…」
アーサーはアーサーで、ルルーシュを慰めるように首筋に顔を擦り寄せて、ちろちろと舐める。
敏感らしいルルーシュは、(僕がルルーシュとそういうことはしたことはないけど、アーサーが触れるたびに敏感に返すからそういうのはわかる)小さく甘い声を上げて体を震わせ、その毛並みを感じたいのか、もっとと言うように、体を自分から擦り寄せた。
…これ…アーサーが猫の状態だから出来るんだろうな…。ルルーシュって基本的に恥ずかしがり屋だから、普通はこういうのは見せられないはずだ。
でもルルーシュは現在自分の恋人は猫の姿だからこういう甘えているような仕草も人前で出来るんだろう。流石に人間の時にもこういうシーンを見せられたら僕も当分立ち直れそうにないから、猫のアーサー限定ってところで良かった。
「会長は人間になったアーサーがお気に入りじゃないか。だから見たいだけじゃないのかな」
僕もルルーシュに恋をする人間の一人だから、アーサーとルルーシュの邪魔は全力で阻止したい。アーサーが人間になった歓迎会とかでどうせどんちゃん騒ぎになるだろうから、ルルーシュを酔わせて寝かせたところでそのままアーサーを捕獲して、朝までルルーシュといられないようにしよう。一週間続けてアーサーを捕獲するのは大変だけど、僕の運動神経とルルーシュへの愛でいつもやってのけていたことだから今回も出来るはずだ!
ルルーシュの純潔は僕が守る!
「会長のお願いを聞いてあげなよ」
僕はあくまでも穏やかに返すと、アーサーがまた威嚇するように僕に牙をむく。僕の思惑はアーサーにはばれているのかもしれない。そんなのは全部無視するけどね。
「アーサーを無理やり連れて行かれるよりは良いから、会長のところへ二人で行く…」
ルルーシュは眉を寄せて不機嫌そうな地を這った声になりながらも、小さく了承の言葉を返してくれる。
こういう時に会長には毎回感謝をするんだ。この学園では会長命令は絶対で、それはルルーシュも身に染みているらしく、いつもなんだかんだで納得するんだ。
「じゃあ、僕は夜になるまでアーサーを預かっておくね」
ベッドにいるルルーシュの傍によると、彼の腕の中からひょいっと猫つかみでアーサーを持ち上げる。アーサーは暴れて逃げようとするけど、猫つかみをすれば噛まれることも引っかかれることもないから、安心だ。
アーサーから引き離されて、ルルーシュの表情が一気に曇るから、胸がずきんとしたけど、それは無視するしかない。
猫のアーサー相手でも、やっぱりこういうことはしてほしくないのが本音だ。
「別に連れていくことはないだろ…」
「駄目駄目、夜までアーサーとのいちゃいちゃは我慢しなよ。昼間からなんて駄目に決まってるだろ」
ルルーシュは僕からアーサーを取り戻そうとベッドの上で立ち上がって手を伸ばすけど、僕は瞬時に後退して扉の方へと向かう。
それにもっと不機嫌そうにルルーシュの眉がつり上げるけど、笑顔で無視だ。
アーサーと不純異種交遊は良くないよ。同性なのは僕も男だから構わないけど、異種なのは良くない。恋に種族の垣根とか関係ないと思うけど、ルルーシュに関しては許すわけにはいかない。
なぜなら、僕もルルーシュが好きだから、アーサーとは付き合って欲しくない。ルルーシュに嫌われたくないから、全面的に反対しないだけで、本当は一人と一匹の交際を許しておけないんだ。
それから数時間たってようやく日が暮れて、空にぽっかり綺麗な満月が浮かぶ頃、俺が待ち焦がれていたアーサーと会えるアーサーが人間になった歓迎会の時間になった。
スザクにアーサーを拉致されたから、俺は人間になったアーサーの歓迎会を行なう生徒会室にすぐに向かい、今か今かとずっと自分の恋人を待っていた。生徒会室でそわそわする俺に、生徒会メンバーはうざいやら邪魔やら言ってくれたが、ここでが一番早く会えるのだから、無視を決めてずっと待っていたのだ。
待つ間仕事もたまにさせられたが、まったく手につかず、会長には呆れられてしまったが、いつも完璧に仕事をこなしているのだから、満月の夜くらいは我慢して欲しいものだ。
俺が今か今かとアーサーを待ち続けていると、静かな音をたてて生徒会室の扉が開かれる。
「アーサー…」
「ルルーシュ…」
そこには入り口には俺の待ち焦がれていた愛しい恋人とおまけのスザクがいた。俺は座っていた椅子を倒して、他の人間の視線などすっかり無視してそのまま出入り口に駆け寄った。人間の姿のアーサーにはなかなか会えないのだから、視線なんか気にしていられるか。
アーサーと別れたのが夕方の5時で、会えたのが夜の8時。3時間ぶりの再会だ。何て長い3時間だっただろうか。
そして、人としてのアーサーに会えるなんて、いつぶりだろうか。
猫の姿のアーサーのさらさらの毛並みや柔らかな澄んだ瞳、守りたくなるような小さな姿ももちろん愛しているし、彼に触れているだけで一緒にいてとても幸せな気分になれるが、一つだけ悲しいことがある。アーサーの言っていることは何となくわかっても、やはり言葉を交わすことが出来ない。でも人としてならお互いに言葉で意思の疎通が出来るし、広い腕の中で抱き締めてもらえるから、人間になったアーサーにもちゃんと触れ合いたいんだ。
「会いたかった、アーサー」
「俺もルルーシュに会いたかった」
俺よりも頭一つ分あるアーサーは俺を腕の中に抱き込んでくれると、優しく頭を撫でてくれた。隣でスザクの視線を感じたがそんなのはやはり無視だ。
久しぶりに見た人間のアーサーは学園の生徒として紛れるように制服を着ていて、着始めた当初は服と言う存在に窮屈そうにしていたが、今ではすっかり慣れた様子できちんと首までボタンを留めている。アーサーは猫だったのに、俺のためになるべく人間らしくなろうとして、洋服を着たり、人間の文化を学ぼうとしてくれているんだ。俺はそのままのアーサーでも構わないのに、いつも俺に合わせて気遣ってくれる。出会うたびに少しずつ少しずつ、アーサーは人間らしくなっていくんだ。
俺は猫になることは出来ないから、そのアーサーの優しさや想いがとても嬉しくて仕方がない。
「この姿で久しぶりにルルーシュに触れた気がする」
俺の髪を掬うように優しく撫でていた手が俺の耳へと触れる。アーサーの指は俺よりもすらりと長く、そして節がある筋張った手だ。硬い指先だけれど、俺に触れる指先はいつも優しいから痛かったことはない。
顔を上げて瞳が合うと、俺の表情が自然とほころび、アーサーも同じように瞳がふわりと優しく緩む。アーサーの瞳に自分の嬉しそうな顔が映っていて、きっと俺の瞳にもアーサーの嬉しそうな顔が映っていることだろう。まあるい満月のような優しい琥珀色の瞳が俺を映してくれていると実感出来るだけで、胸の奥から幸福が染み渡る。
首が隠れるくらいの長さの、俺よりも色を深くした黒曜石のような黒髪が明りに照らされてアーサーを彩っていて、惹かれるように綺麗な髪の毛先に指を伸ばして触れると、俺よりも少し硬い髪質。俺の髪はサラサラだと言われるけど、アーサーの髪は少し硬い髪質だ。少しチクチクして擽ったかったが、それもまた愛しい。
髪に触れていた手をアーサーの耳に伸ばして、そっと触れてみる。
人間になってもアーサーの耳は猫の耳のままで、ふわふわだ。ふわふわふにふにする耳をいじっていると、擽ったそうにピルピル動いて、アーサーのしっぽが反応するようにゆらゆらと揺れる。人間になっても猫の部分もちゃんと持ち合わせている部分もまた可愛くて、アーサーは人間と猫の良さを両方持っていて、そこもまた魅力的だ。
そして猫の時の左目のぶちの代わりに、眼帯をつけているのは会長の悪戯。
惚れた欲目なしに、すっと面長できっと周りからもかっこ良く見えるであろうアーサーが片目を隠していると、何だか少し残念な気がしないでもなかったが、アーサーの綺麗な瞳が隠されてその分少しでも彼の魅力を隠してくれるならそれならそれで良い。
アーサーが他の人間に惚れられるのはとても嫌だ。眼帯姿は眼帯姿で、そういうのが好きそうな趣味な人間に狙われてしまいそうだが、そういう人間は除いて少しでも敵が少ないに越したことはない。
「ルルーシュ…いつまでアーサーにべったりしているんだよ…」
傍にいるのをすっかり忘れていたスザクに声をかけられて、はっと我に返る。そういえば、スザクだけでなく、この部屋には生徒会メンバーが他にもいたんだ。
「ルルーシュ~久しぶりにアーサーに会えて嬉しいのはわかってるけど、ほどほどにね。お仕置きしちゃうわよ」
「会長、お仕置きって何ですか…人間のアーサーとはたまにしか会えないんだから仕方ないでしょう」
「会長…ルルーシュは悪くない。俺がルルーシュに会いたくてべったりしてるだけだから。だからお仕置きは止めてほしい」
まだ人間の言葉を上手に話せないアーサーがたどたどしく話しながらも、俺を背にかばうと会長へと果敢にも話してくれる。耳がピンと立っていて、気を張っているのが良くわかる。会長に誰もが逆らえないのはアーサーも知っているはずだろうに、恋人の俺を守るために…。
「アーサー…俺だってお前に会いたかったから同罪だ。お仕置きなら俺が…」
「ルルーシュは悪くない。俺がお仕置きを受ける」
「はいはい~バカップルはそこまで!お仕置きなんて冗談よ!アーサーが人間になって戻ってきたし、そろそろ歓迎会を始めましょう!」
会長がそう宣言すると、俺たちを見守っていた生徒会メンバーがジュースや菓子を片手に語り出す。
リヴァルは、ヒューヒューと俺たちをはやしたてる始末だ。恥ずかしいと思ったが、アーサーと俺の仲を良さを理解してやっている行動のようだから、喜んで受け取っておこう。
それからアーサーと話したいと思いながらも、スザクが間に入って邪魔をしたり、やっぱり会長が持ち出した酒に酔わされて、俺は早々に寝てしまうのだった。
「ん…」
ゆっくりと瞳を開くと、まだぼうっとする視界の中に、明りがこうごうとついた生徒会室の天井が映る。
ああ、そういえば酒を少し飲まされて、眠くてそのまま眠ってしまったんだった。
確か酒を飲みながらがくんと意識を失ったから、その場に倒れていても良いはずだが、座った体勢で背中に感じる硬い壁の感触を感じるから、誰かが俺が踏まれないように壁まで運んでくれたんだろうか。
頭を振ってぼんやりとする視界をはっきりさせていくと、他の生徒会メンバーも床に眠りについたり、椅子に腰をかけて机に突っ伏している。これは朝起きたら片づけが面倒そうだな…。だから酒は飲むなと言うのに、会長は毎回仕入れて来るし、俺は飲みたくないと言うのに無理に飲ますし…。本当に、どうしていつもこうなんだか…。
小さくため息をついていると、肩に軽く衝撃が走る。首にふさふさの何かが当たって、視線だけそちらを向けるとアーサーが俺の肩に寄り掛かっていた。
今回は珍しくアーサーと引き離されることなく、一緒にいられたのか…。
いつもなら邪魔をするスザクまで目の前で酒にやられて寝転がっているからな。
本当はアーサーを連れて部屋まで行きたいけれど、悲しいことに俺の腕力だと無理だろう。
二人きりになりたかった、と思いながら小さくため息をつくと、隣のアーサーは眠ったままなのに、しっぽはしっかり俺の腰へと巻きつけてくる。眠っていても、アーサーはちゃんと隣の俺を求めてきてくれていると言う事だろうか。すりすりとふさふさの耳を俺に擦り寄せてきてくれて、アーサーが傍にいてくれることを感じられる。
今日は二人きりじゃないけど、アーサーが隣にいてくれるから良しとするか。こんな風にゆっくりと人間のアーサーと一緒にいられるなんて滅多にないからな。
伝わってくる暖かい体温やふわふわの耳、巻きつけられるしっぽに嬉しさを隠しきれない。俺は、幸せだよ、アーサー。猫だとか、人間だとか、そんなことは関係ない。
俺も肩にあるアーサーの頭に擦り寄るようにして頭を預けて、そっと瞳を閉じた。明日になったらまたゆっくりアーサーと一緒にいられるようにと願いながら。
以前発行した無配のアーサー×ルルーシのお話を作品を再録させていただきました。
ちょうどルルーシュ受けオンリーイベント合わせで何か作れないかなと思って、書こうと思ったお話がアーサー×ルルーシュでした。
そしてお友達たちと同時発行の合同誌のお話がチーズくん×ルルーシュ。
ルル受けイベントとは言え、本当に自由に書いていたと思います(笑)