「嫌だ…嫌だって言ってるだろ!」
昼休みにスザクと一緒にノートを届けに行った後、誰もいない生徒会室に連れ込まれて、そのままそこは鍵がかけられて閉じ込められて。
それから俺は壁に追い詰められると、逃げられないように腰をしっかり左手で掴まれて、右手で色々と悪戯をされていた。
「胸に触るくらいいつものことだろ」
「そ、そうだけ、ど…でもっんっ」
服の上からでも、スザクが触れるたびに段々と体がほてっていく。
息も乱れてきて、力が抜けてくるから、スザクに寄りかかる形になると、彼が嬉しそうに頭の上で笑った気がする。
「今日は…今までと少し違ったことをしよう」
「んっ」
耳元へ唇を近づけられて、耳の裏をぺろっと舐められて、体が跳ねる。
そして、囁かれるように少し掠れた低い声で言葉を呟かれて、俺は無意識に小さく頷いてしまった。
脳細胞の中にまで命令をされているようで、スザクの言う言葉には頷いて答えてしまう。
何をされるのかわかっていなくて、そして確認さえ取らないで頷いてしまって、後悔することもあるのに、俺はスザクに低い声で言われてしまうと何も言えなくなってしまう。
そして、やっぱり、俺はすぐ後に後悔することになった。
スカートの上から尻に触れていた手は、スカートを捲って中に入っていき、下着に触れるとその中にまで進んできたからだ。
そして、尻より前にスザクの指は進んでいって。
するすると進んでいく指は、一定の場所へと来ると一旦止まって。
その、俺の中に入ってきたって言うか、いや入り口付近で少し触れているって言うか。
一瞬、何が起きているのかわからず、固まってしまったけれど、スザクの一言ではっと我に返った。
「あ、濡れてる…やっぱり気持ち良かったんだ」
「え…うわっ…」
触れられていただけで赤くなっていた顔がさらに一瞬で熱くなる。
す、スザク、な、何を、何を言ってるんだ!!!
「嫌だ、嫌だっ!!」
スザクから一刻も早く逃げ出そうとじたばたともがくと、彼も俺の中から指を出して、まるで宥めるように腰を引き寄せて抱き締める。
こ、こいつ、何をしているんだ、恥ずかしいだろ、離せ!!!!
それに、何でこんな意地悪ばかりするんだよ…そんなに俺が嫌いなのか。
不覚にも泣きそうになってそれでも泣きたくなくて、ぐっと唇を噛み締める。
羞恥を抑えて、赤くなった顔をぐっと上げて、睨みつける。
顔を赤くするたびに可愛いとからかわれるけど、今はそんなこと関係ない。
睨みつけて、何か言って、ひっぱたいてやらないと気が収まらない。
でも、こいつの顔を見ているのも恥ずかしい!
何だか、何だか、気まずくて居心地が悪くて、脳内でどうしたら良いのかと様々なことを考えてしまう。
機転がきくはずの俺の脳も、スザクを前にしたら形無しだ。
ここで、負けたらスザクの思うつぼで、まだ意地悪をされる原因になるだけだ。
でも、情けないことに、怒っていたはずなのに、瞳からぽろりと涙が零れてしまった。
情けない…悲しいとかそういうのじゃないけど、恥ずかしくて、涙が零れたみたいだ。 涙腺が壊れたみたいに、ぼたぼたと涙が零れて止まらないんだ。
「ルルーシュ…?」
スザクが気まずそうな顔をして、息をつめながら、俺をじっと見つめてくる。
瞳の色がごめん、と言っている感じだけど、こ、こんなことされて今すぐに許せるはずないだろ!
今日の夜くらいまで許さないからな!
べ、別に寂しいから、今日の夜までってわけじゃない。
明日まで引きずってたら、女々しいと思ったからだ。
「スザクのアホーーーー!!!」
スザクを突き飛ばして、俺は隙が出来るとすぐさま出入り口に走る。
この時はスザクから逃げるのでいっぱいで気が付かなかったけれど、本当ならスザクの力は俺より上なんだから腕の中から逃げられるはずないんだ。
スザクが力を緩めて俺の腰を掴んでいたからきっと出来たんだろう。
「お、おい、待てよ!」
「恥ずかしいからついてくるな!ついてきたら、絶交だからな!」
涙でぐしゃぐしゃになった顔で、俺は唇を奮わせて叫ぶ。
こ、こんな状態でついてこられてみろ、ぜ、絶対に一緒になんていられない。
「絶交されたくなかったら、そのままでいろ!」
どうせ、クラスは一緒だし、家でも顔を合わせるんだから、これくらいしてもらえなかったら、俺が堪えられない。
俺は生徒会室で立ったままのスザクが追ってこないのを確認すると、安心して部屋の外へ走り出す。
スザクが、可愛いな、なんて顔をにやけさせてそんなことを言っていたなんて、俺は気づくことがなかった。
「スザクが、酷いんだ」
それから涙が止まらないまま、この学園の一年として留学して来ている妹のユフィのところへ行って、話を聞いてもらっていた。
俺がユフィのクラスへ行ったところ、彼女は俺が泣いているのを見ると、すぐに機転を利かせて保健室に連れてきてくれて、そこで二人きりになって話を聞いてくれるのだから、流石だ。
正直他の誰かには聞いてもらいたくない内容だったし、ずっとこんな風にぐしゃぐしゃな泣き顔を見られているのは困るし、恥ずかしい。
ユフィはいつだって俺が困らないように考えて行動してくれて、とても優しい妹だ。
今だって保健室のベッドで隣合わせに座って、俺の肩を抱き寄せて、ずっと話を聞いてくれている。
暖かい手はどこまでも安心感を与えてくれて、自分からも俺はユフィにすり寄った。
「お話を聞いたら…スザクはいけないと思うけど…でも同時に苦労もしているんですね…」
ユフィは頬に手を当てて、小さくため息をつきながら呟く。
スザクが苦労って…俺の方が嫌がらせされているんだからな。
「スザクが苦労?意地悪してるだけだぞ!」
「ま、まあ…そうですね。ちょっと同情するけど、可愛いルルーシュを傷つけたことは万死に値します。私がちゃんとお灸をすえておきますから安心してくださいね」
「あ、いや…何もそこまで…やりすぎには注意しろよ?」
ユフィは基本的に優しいけど、俺が傷つけられたりすると笑顔の下で怒って、結構激しいからな…。
この前もスザクがひっぱたかれていたような…。
「もちろんです!ルルーシュを悲しませるようなことはしませんから」
まあ、ユフィがそう言うなら大丈夫か。
ユフィはくすくすと笑って、俺の髪に指を絡めてくる。
触り心地が良いのか、瞳をうっとりと細めながら、くるくると楽しそうに何度も何度も。
ユフィは優しいし、暖かいし、一緒にいると自然と笑顔になれる。
とても、安心する笑顔を向けてくれて、涙も少しずつ止まってくるんだ。
「でも、ルルーシュ…どうしてスザクが意地悪するのか聞いた事ありますか?」
「いや、ない」
俺は首を振って、即座に否定する。
だって、意地悪するのに理由なんているのか?
ただ、スザクは俺に意地悪したり、からかいたいだけだろ?
「ルルーシュはスザクが好きですよね?」
「あ、ああ…」
どうして好きか聞くのが、さっきの質問に続くのかわからないけれど、俺は声をどもらせながらも、頷いて答える。
恥ずかしさで顔がぽーっとほてってきたけど、妹のユフィに嘘をつきたくないから、俺は素直に答えるんだ。
一つ年下なのに、俺がこういうことで困っていると助けてくれたりかばってくれるから、とても頼りになって、俺の自慢の妹だ。
だから、大好きだし、俺も素直になれるんだ。
「じゃあ、どうして意地悪をするのかスザクに聞いてみてください。もしかしたら意地悪じゃないかもしれないですし、きっとルルーシュが望む結果になると思いますよ」
「そう、なのか?」
スザクの答えに何を望むのかよくわからないけれど、ユフィがそういうのならそうなんだろう。
ユフィは俺のためにならないことなんて、言ったことはない。
頭の中に疑問符が浮かびながらも、とりあえず頷く。
「ルルーシュを泣かせてばかりいるスザクなんかが幸せになるのは不服ですけど、ルルーシュの幸せが一番ですからね」
頑張ってね、とユフィのピンク色のバラのように可憐な唇が、ちゅっと優しく頬に触れる。
家族の親愛の優しい暖かいキス。
何だか照れくさくて、くすぐったくて。
俺もそれに照れ隠しに笑顔を浮かべて、ユフィの頬へとキスを返した。
その後、教室に戻って、少しだけスザクとぎくしゃくしてしまったけれど、昼休みにあったことは水に流してやった。
一度くらいはもう少ししっかり怒ってやった方が本人のためになるかもしれないけれど、いつまでもされたことを引きずるのも情けない。
今日の夜くらいまで許してやらないって思ったけど、やっぱり昼休みが終わった辺りで許してやる。
昼休みにあったことをずっと引きずるほど女々しくないさ。
け、けして、スザクと喧嘩しているのが寂しいとかそんなわけじゃない、うん。
それから、放課後になって、スザクは用事があるからと俺と別れ、俺は先に帰る。
いつもはスザクや俺に用事があっても一緒に帰っていたが、スザクはユフィに呼び出しをされていて、そしてユフィから俺に先に帰っていてほしいと言われたので、それに素直に頷いて帰る事にした。
ユフィだったらスザクと何か起こるわけも絶対にないし、私にまかせて、と言っていたから、きっと俺のために何かしてくれようとしているんだと思う。
だから、今度はユフィのために、彼女の好きな物を何か作ってやろうと考えながら、ご機嫌に帰宅した。
「お前なんだ、その頬っ!」
スザクが自宅に帰ってきて、居間で顔を合わせての俺の一言がその声だった。
スザクの頬の状態を見ると、余りにも余りな発言だったかもしれないが、それでもつい叫んでしまうほど、スザクの頬は酷かった。
両頬に、殴られたと言う事がわかるくらいにくっきりとはっきりと真っ青な痣がついていたからだ。
「ユフィに殴れた…」
「ええ!?ユフィがどうしてそんなこと…」
あ、もしかして…お灸をすえるってこのことか…?
俺のせいじゃないか!
「ちょっと待ってろ!濡れたタオル用意するから」
「これくらい、平気だって」
「馬鹿!そんな青痣作って何を言っているんだ!」
スザクの体をぐいっと押して、居間のソファーに縫い付けると、俺は慌てて台所へ走ろうとして、彼に腕をぎゅっと掴まれる。
「えっ、ちょっと、おい!」
そのままずるずると強引に引き寄せられて、すっぽりと腕の中。
スザクの膝の間に挟まれる形で、ぎゅっと抱き締められて、さーっと俺の頬に朱が走る。
熱が宿って、胸の鼓動が加速するように早くなっていく。
頬と頬が擦り寄って、俺の熱くなっている頬がスザクに当たってしまって、俺が赤くなっていることが伝わっていそうで恥ずかしかった。
「俺が殴られた理由は、ユフィに自分の胸に手を当てて考えてみろって言われたんだ。ユフィがこういうことするのって絶対にお前のためだってわかるから。俺、お前に何かしてたんだよな…」
「スザク…」
スザクは、俺に何をしていたのか自覚がなかったのか?
でも、あんなに俺に意地悪してたのに、俺が困っていたのに、それに気づかないなんて…。
でも、ユフィの言う通り、意地悪しているつもりはなかったら…?
もしかして、意地悪じゃなくて…別の理由があるかもしれない。
「スザク…俺、お前に聞きたい事がある…。お前、どうして、俺に意地悪するんだ…?」
「意地悪…なんていつしたんだ?」
スザクの顔を覗くと、彼は一瞬だけきょとんとして、首を傾げようとしたけれど、頬が痛むのか顔をしかめる。
本当に酷いとしか言いようのない腫れ具合に、俺は恐る恐る手を伸ばして、痛みがなくなるようにと祈るように撫でてしまう。
腫れている頬に触れたら痛いに決まっているのに、でも痛みがなくなると良いと撫でてしまったんだ。
触れた瞬間、スザクが痛みに眉を寄せたのを見て、俺は慌てて手を離そうとしたけれど、ぎゅっとその腕は掴まれて離れられない。
まるで大丈夫だよ、と言うように優しげに瞳が細められて、俺の頭をスザクが優しく撫でてくれる。
こうやって、二人きりで優しくしてもらえるのって、いつぶりだろうか。
嬉しいけど、今までされていたことを同時に思い出して、悲しくなって。
俺は、スザクの肩口に顔を寄せて、情けなくも、少し泣いてしまいそうだ。
「いつしたって…いつもしてたじゃないか…。俺が困ってるのに、スカート捲りしたり、む、胸を触ったり…」
自分でも何を言っているんだろう、と思う。
こ、こんな恥ずかしい事…でもきっと聞かないままだったら、この先もどうしてこういうことをするんだろうと俺はきっとわからないままで、困っているままだから。
だから、ユフィだって聞いてみた方が良いと言っていたし、俺も一歩を踏み出さないといけないんだ。
「馬鹿!それは意地悪じゃない!」
「意地悪じゃないなら、どうして胸を触ったりしてたんだよ」
「好きだからに決まってるだろ!」
スザクは、はっきりと大きな声でそう告げてくれて。
近くにいたから、大きな声で頭がくらくらしてしまったけれど、でもちゃんと言っている事は理解が出来た。
スザクは、俺が、好き。
す、好き!?
この場で言う好きって家族とか、兄弟とか、友達とか、そういう好きじゃないよな?
じゃなかったら、こんなに…こんなにスザクも顔を赤くしてないし…。
スザクは耳や首まで真っ赤で、少し唇が不機嫌そうにへの字になっている。
でも、本当は不機嫌になっているんじゃなくて、きっと照れ隠し、だ。
「でも、今まで好きだって言ってくれたことないじゃないか…」
「小さな頃は言ってただろ」
「今は言ってくれない!」
俺が意地悪されたって思って不安でいっぱいになったり、困ったりしていたのは、スザクが好きだって言ってくれなかったからだ。
ちゃんとスザクの気持ちを言ってくれたから、こんな風にならなかった。
「言わなくても…お前には伝わってるもんだと思ってた。だから恋人同士のつもりで触っていたんだけどな」
「嫌われたりはしてないと思ってた。でも、意地悪されてるって思ってたんだから、好きだってちゃんと伝えてくれないとわからない」
馬鹿!、と俺はスザクに衝突するように勢い良く抱きつく。
嬉しいけど、悔しくて、悔しいけど、でもやっぱり嬉しくて、気持ちの中はぐるぐるする。
ごめん、とスザクが返すように抱き返してくれて、スザクの背中に回す腕にもっと力が入った。
「でも、お前だって言ってくれないだろ。俺の事が好きなんだって言うのは見ていればわかるから、気にも止めなかったけど、お前だって俺に好きだって言わなかったじゃないか」
「そ、それは…」
恥ずかしくて言った事はないけど…でも好きじゃないなんてことはなくて、好きに決まってる。
スザクはわかっているなら良いじゃないか、と一瞬思ったけれど、スザクだって好きだと言ってくれたんだから、俺も黙ったままなのはフェアじゃないんじゃないだろうか…。
「俺だって…ちゃんとスザクが、好きだよ…」
「知ってる。でも、ちゃんと言葉にして聞きたかったんだ」
スザクに両頬を手で包み込まれて、顔を上げさせられる。
ちゅっと、優しく額にキスが一回。
鼻、頬、とキスがきて。
最後に唇に優しく触れる。
たまにされるキスも意地悪だと思ってたけど、でも両思いだからスザクはしてくれて、そして今のこのキスもそうで。
自覚したら、恥ずかしくてしょうがなくて、何も言えなかった。
「今までルルーシュが好きだって言ってくれなかったから、俺なりに遠慮してたけど、これからはこうしてキスだってもっとたくさんするからな。ちゃんと俺の気持ちだって伝えたんだから、もう嫌だなんて言うなよ」
何も言えないから、ひとまず頷く。
顔だけじゃなくて、体中が熱くてしょうがない。
「こういうことも、もう嫌だって言わないように」
念を押すように顔を近づけて神妙に言われて、つられるように頷くと、スザクの手がスカートの中に入ってくる。
「え、ちょっと、止めろって!」
「もう、意地悪じゃないってわかったんだから良いだろ?嫌じゃないよな?」
「今までも嫌じゃなかったけど、でも、それとこれは」
「今までも嫌じゃないなら、良いじゃないか」
「うっ…」
ああ言えば、こう言う。
惚れた弱みで、勝てない。
今までだって触れられるのが嫌じゃなかった。
困っていて、どうしてこんな意地悪するんだろうって悲しい方が大きかった。
両思いだってわかって、触れられるのに悲しいのがなくなって、大丈夫になった。
スザクの手がまたもスカートの中をもぞもぞと動くけど、嫌だって言葉は結局出ない。
「や、優しくしてくれるなら良い…」
「わかった」
戸惑いがちにスザクの手を引いて、お願いを込めてじっと見つめれば、満足そうな笑みが返ってくる。
そうして、スカートの中にないスザクの片方の手が、器用に片手で俺のシャツのボタンをゆっくりと外していく。
きっと、一生、こんな感じでスザクを許してしまうんだろうと思った。
でも、それはきっと一生幸せな事なんだろう。
以前発行されたスザク×女の子ルルーシュアンソロに寄稿させていただいた作品を再録させていただきました。
随分前に書いた作品なので恥ずかしいながらも、こうして見るとこの頃からうちのスザクは自由に生きていたんだな~と思いました(笑)
でも個人的に自分で書いたルルーシュながらもこういう鈍いところが良いなと珍しく自分の書いた作品でも思いました。
昼休みにスザクと一緒にノートを届けに行った後、誰もいない生徒会室に連れ込まれて、そのままそこは鍵がかけられて閉じ込められて。
それから俺は壁に追い詰められると、逃げられないように腰をしっかり左手で掴まれて、右手で色々と悪戯をされていた。
「胸に触るくらいいつものことだろ」
「そ、そうだけ、ど…でもっんっ」
服の上からでも、スザクが触れるたびに段々と体がほてっていく。
息も乱れてきて、力が抜けてくるから、スザクに寄りかかる形になると、彼が嬉しそうに頭の上で笑った気がする。
「今日は…今までと少し違ったことをしよう」
「んっ」
耳元へ唇を近づけられて、耳の裏をぺろっと舐められて、体が跳ねる。
そして、囁かれるように少し掠れた低い声で言葉を呟かれて、俺は無意識に小さく頷いてしまった。
脳細胞の中にまで命令をされているようで、スザクの言う言葉には頷いて答えてしまう。
何をされるのかわかっていなくて、そして確認さえ取らないで頷いてしまって、後悔することもあるのに、俺はスザクに低い声で言われてしまうと何も言えなくなってしまう。
そして、やっぱり、俺はすぐ後に後悔することになった。
スカートの上から尻に触れていた手は、スカートを捲って中に入っていき、下着に触れるとその中にまで進んできたからだ。
そして、尻より前にスザクの指は進んでいって。
するすると進んでいく指は、一定の場所へと来ると一旦止まって。
その、俺の中に入ってきたって言うか、いや入り口付近で少し触れているって言うか。
一瞬、何が起きているのかわからず、固まってしまったけれど、スザクの一言ではっと我に返った。
「あ、濡れてる…やっぱり気持ち良かったんだ」
「え…うわっ…」
触れられていただけで赤くなっていた顔がさらに一瞬で熱くなる。
す、スザク、な、何を、何を言ってるんだ!!!
「嫌だ、嫌だっ!!」
スザクから一刻も早く逃げ出そうとじたばたともがくと、彼も俺の中から指を出して、まるで宥めるように腰を引き寄せて抱き締める。
こ、こいつ、何をしているんだ、恥ずかしいだろ、離せ!!!!
それに、何でこんな意地悪ばかりするんだよ…そんなに俺が嫌いなのか。
不覚にも泣きそうになってそれでも泣きたくなくて、ぐっと唇を噛み締める。
羞恥を抑えて、赤くなった顔をぐっと上げて、睨みつける。
顔を赤くするたびに可愛いとからかわれるけど、今はそんなこと関係ない。
睨みつけて、何か言って、ひっぱたいてやらないと気が収まらない。
でも、こいつの顔を見ているのも恥ずかしい!
何だか、何だか、気まずくて居心地が悪くて、脳内でどうしたら良いのかと様々なことを考えてしまう。
機転がきくはずの俺の脳も、スザクを前にしたら形無しだ。
ここで、負けたらスザクの思うつぼで、まだ意地悪をされる原因になるだけだ。
でも、情けないことに、怒っていたはずなのに、瞳からぽろりと涙が零れてしまった。
情けない…悲しいとかそういうのじゃないけど、恥ずかしくて、涙が零れたみたいだ。 涙腺が壊れたみたいに、ぼたぼたと涙が零れて止まらないんだ。
「ルルーシュ…?」
スザクが気まずそうな顔をして、息をつめながら、俺をじっと見つめてくる。
瞳の色がごめん、と言っている感じだけど、こ、こんなことされて今すぐに許せるはずないだろ!
今日の夜くらいまで許さないからな!
べ、別に寂しいから、今日の夜までってわけじゃない。
明日まで引きずってたら、女々しいと思ったからだ。
「スザクのアホーーーー!!!」
スザクを突き飛ばして、俺は隙が出来るとすぐさま出入り口に走る。
この時はスザクから逃げるのでいっぱいで気が付かなかったけれど、本当ならスザクの力は俺より上なんだから腕の中から逃げられるはずないんだ。
スザクが力を緩めて俺の腰を掴んでいたからきっと出来たんだろう。
「お、おい、待てよ!」
「恥ずかしいからついてくるな!ついてきたら、絶交だからな!」
涙でぐしゃぐしゃになった顔で、俺は唇を奮わせて叫ぶ。
こ、こんな状態でついてこられてみろ、ぜ、絶対に一緒になんていられない。
「絶交されたくなかったら、そのままでいろ!」
どうせ、クラスは一緒だし、家でも顔を合わせるんだから、これくらいしてもらえなかったら、俺が堪えられない。
俺は生徒会室で立ったままのスザクが追ってこないのを確認すると、安心して部屋の外へ走り出す。
スザクが、可愛いな、なんて顔をにやけさせてそんなことを言っていたなんて、俺は気づくことがなかった。
「スザクが、酷いんだ」
それから涙が止まらないまま、この学園の一年として留学して来ている妹のユフィのところへ行って、話を聞いてもらっていた。
俺がユフィのクラスへ行ったところ、彼女は俺が泣いているのを見ると、すぐに機転を利かせて保健室に連れてきてくれて、そこで二人きりになって話を聞いてくれるのだから、流石だ。
正直他の誰かには聞いてもらいたくない内容だったし、ずっとこんな風にぐしゃぐしゃな泣き顔を見られているのは困るし、恥ずかしい。
ユフィはいつだって俺が困らないように考えて行動してくれて、とても優しい妹だ。
今だって保健室のベッドで隣合わせに座って、俺の肩を抱き寄せて、ずっと話を聞いてくれている。
暖かい手はどこまでも安心感を与えてくれて、自分からも俺はユフィにすり寄った。
「お話を聞いたら…スザクはいけないと思うけど…でも同時に苦労もしているんですね…」
ユフィは頬に手を当てて、小さくため息をつきながら呟く。
スザクが苦労って…俺の方が嫌がらせされているんだからな。
「スザクが苦労?意地悪してるだけだぞ!」
「ま、まあ…そうですね。ちょっと同情するけど、可愛いルルーシュを傷つけたことは万死に値します。私がちゃんとお灸をすえておきますから安心してくださいね」
「あ、いや…何もそこまで…やりすぎには注意しろよ?」
ユフィは基本的に優しいけど、俺が傷つけられたりすると笑顔の下で怒って、結構激しいからな…。
この前もスザクがひっぱたかれていたような…。
「もちろんです!ルルーシュを悲しませるようなことはしませんから」
まあ、ユフィがそう言うなら大丈夫か。
ユフィはくすくすと笑って、俺の髪に指を絡めてくる。
触り心地が良いのか、瞳をうっとりと細めながら、くるくると楽しそうに何度も何度も。
ユフィは優しいし、暖かいし、一緒にいると自然と笑顔になれる。
とても、安心する笑顔を向けてくれて、涙も少しずつ止まってくるんだ。
「でも、ルルーシュ…どうしてスザクが意地悪するのか聞いた事ありますか?」
「いや、ない」
俺は首を振って、即座に否定する。
だって、意地悪するのに理由なんているのか?
ただ、スザクは俺に意地悪したり、からかいたいだけだろ?
「ルルーシュはスザクが好きですよね?」
「あ、ああ…」
どうして好きか聞くのが、さっきの質問に続くのかわからないけれど、俺は声をどもらせながらも、頷いて答える。
恥ずかしさで顔がぽーっとほてってきたけど、妹のユフィに嘘をつきたくないから、俺は素直に答えるんだ。
一つ年下なのに、俺がこういうことで困っていると助けてくれたりかばってくれるから、とても頼りになって、俺の自慢の妹だ。
だから、大好きだし、俺も素直になれるんだ。
「じゃあ、どうして意地悪をするのかスザクに聞いてみてください。もしかしたら意地悪じゃないかもしれないですし、きっとルルーシュが望む結果になると思いますよ」
「そう、なのか?」
スザクの答えに何を望むのかよくわからないけれど、ユフィがそういうのならそうなんだろう。
ユフィは俺のためにならないことなんて、言ったことはない。
頭の中に疑問符が浮かびながらも、とりあえず頷く。
「ルルーシュを泣かせてばかりいるスザクなんかが幸せになるのは不服ですけど、ルルーシュの幸せが一番ですからね」
頑張ってね、とユフィのピンク色のバラのように可憐な唇が、ちゅっと優しく頬に触れる。
家族の親愛の優しい暖かいキス。
何だか照れくさくて、くすぐったくて。
俺もそれに照れ隠しに笑顔を浮かべて、ユフィの頬へとキスを返した。
その後、教室に戻って、少しだけスザクとぎくしゃくしてしまったけれど、昼休みにあったことは水に流してやった。
一度くらいはもう少ししっかり怒ってやった方が本人のためになるかもしれないけれど、いつまでもされたことを引きずるのも情けない。
今日の夜くらいまで許してやらないって思ったけど、やっぱり昼休みが終わった辺りで許してやる。
昼休みにあったことをずっと引きずるほど女々しくないさ。
け、けして、スザクと喧嘩しているのが寂しいとかそんなわけじゃない、うん。
それから、放課後になって、スザクは用事があるからと俺と別れ、俺は先に帰る。
いつもはスザクや俺に用事があっても一緒に帰っていたが、スザクはユフィに呼び出しをされていて、そしてユフィから俺に先に帰っていてほしいと言われたので、それに素直に頷いて帰る事にした。
ユフィだったらスザクと何か起こるわけも絶対にないし、私にまかせて、と言っていたから、きっと俺のために何かしてくれようとしているんだと思う。
だから、今度はユフィのために、彼女の好きな物を何か作ってやろうと考えながら、ご機嫌に帰宅した。
「お前なんだ、その頬っ!」
スザクが自宅に帰ってきて、居間で顔を合わせての俺の一言がその声だった。
スザクの頬の状態を見ると、余りにも余りな発言だったかもしれないが、それでもつい叫んでしまうほど、スザクの頬は酷かった。
両頬に、殴られたと言う事がわかるくらいにくっきりとはっきりと真っ青な痣がついていたからだ。
「ユフィに殴れた…」
「ええ!?ユフィがどうしてそんなこと…」
あ、もしかして…お灸をすえるってこのことか…?
俺のせいじゃないか!
「ちょっと待ってろ!濡れたタオル用意するから」
「これくらい、平気だって」
「馬鹿!そんな青痣作って何を言っているんだ!」
スザクの体をぐいっと押して、居間のソファーに縫い付けると、俺は慌てて台所へ走ろうとして、彼に腕をぎゅっと掴まれる。
「えっ、ちょっと、おい!」
そのままずるずると強引に引き寄せられて、すっぽりと腕の中。
スザクの膝の間に挟まれる形で、ぎゅっと抱き締められて、さーっと俺の頬に朱が走る。
熱が宿って、胸の鼓動が加速するように早くなっていく。
頬と頬が擦り寄って、俺の熱くなっている頬がスザクに当たってしまって、俺が赤くなっていることが伝わっていそうで恥ずかしかった。
「俺が殴られた理由は、ユフィに自分の胸に手を当てて考えてみろって言われたんだ。ユフィがこういうことするのって絶対にお前のためだってわかるから。俺、お前に何かしてたんだよな…」
「スザク…」
スザクは、俺に何をしていたのか自覚がなかったのか?
でも、あんなに俺に意地悪してたのに、俺が困っていたのに、それに気づかないなんて…。
でも、ユフィの言う通り、意地悪しているつもりはなかったら…?
もしかして、意地悪じゃなくて…別の理由があるかもしれない。
「スザク…俺、お前に聞きたい事がある…。お前、どうして、俺に意地悪するんだ…?」
「意地悪…なんていつしたんだ?」
スザクの顔を覗くと、彼は一瞬だけきょとんとして、首を傾げようとしたけれど、頬が痛むのか顔をしかめる。
本当に酷いとしか言いようのない腫れ具合に、俺は恐る恐る手を伸ばして、痛みがなくなるようにと祈るように撫でてしまう。
腫れている頬に触れたら痛いに決まっているのに、でも痛みがなくなると良いと撫でてしまったんだ。
触れた瞬間、スザクが痛みに眉を寄せたのを見て、俺は慌てて手を離そうとしたけれど、ぎゅっとその腕は掴まれて離れられない。
まるで大丈夫だよ、と言うように優しげに瞳が細められて、俺の頭をスザクが優しく撫でてくれる。
こうやって、二人きりで優しくしてもらえるのって、いつぶりだろうか。
嬉しいけど、今までされていたことを同時に思い出して、悲しくなって。
俺は、スザクの肩口に顔を寄せて、情けなくも、少し泣いてしまいそうだ。
「いつしたって…いつもしてたじゃないか…。俺が困ってるのに、スカート捲りしたり、む、胸を触ったり…」
自分でも何を言っているんだろう、と思う。
こ、こんな恥ずかしい事…でもきっと聞かないままだったら、この先もどうしてこういうことをするんだろうと俺はきっとわからないままで、困っているままだから。
だから、ユフィだって聞いてみた方が良いと言っていたし、俺も一歩を踏み出さないといけないんだ。
「馬鹿!それは意地悪じゃない!」
「意地悪じゃないなら、どうして胸を触ったりしてたんだよ」
「好きだからに決まってるだろ!」
スザクは、はっきりと大きな声でそう告げてくれて。
近くにいたから、大きな声で頭がくらくらしてしまったけれど、でもちゃんと言っている事は理解が出来た。
スザクは、俺が、好き。
す、好き!?
この場で言う好きって家族とか、兄弟とか、友達とか、そういう好きじゃないよな?
じゃなかったら、こんなに…こんなにスザクも顔を赤くしてないし…。
スザクは耳や首まで真っ赤で、少し唇が不機嫌そうにへの字になっている。
でも、本当は不機嫌になっているんじゃなくて、きっと照れ隠し、だ。
「でも、今まで好きだって言ってくれたことないじゃないか…」
「小さな頃は言ってただろ」
「今は言ってくれない!」
俺が意地悪されたって思って不安でいっぱいになったり、困ったりしていたのは、スザクが好きだって言ってくれなかったからだ。
ちゃんとスザクの気持ちを言ってくれたから、こんな風にならなかった。
「言わなくても…お前には伝わってるもんだと思ってた。だから恋人同士のつもりで触っていたんだけどな」
「嫌われたりはしてないと思ってた。でも、意地悪されてるって思ってたんだから、好きだってちゃんと伝えてくれないとわからない」
馬鹿!、と俺はスザクに衝突するように勢い良く抱きつく。
嬉しいけど、悔しくて、悔しいけど、でもやっぱり嬉しくて、気持ちの中はぐるぐるする。
ごめん、とスザクが返すように抱き返してくれて、スザクの背中に回す腕にもっと力が入った。
「でも、お前だって言ってくれないだろ。俺の事が好きなんだって言うのは見ていればわかるから、気にも止めなかったけど、お前だって俺に好きだって言わなかったじゃないか」
「そ、それは…」
恥ずかしくて言った事はないけど…でも好きじゃないなんてことはなくて、好きに決まってる。
スザクはわかっているなら良いじゃないか、と一瞬思ったけれど、スザクだって好きだと言ってくれたんだから、俺も黙ったままなのはフェアじゃないんじゃないだろうか…。
「俺だって…ちゃんとスザクが、好きだよ…」
「知ってる。でも、ちゃんと言葉にして聞きたかったんだ」
スザクに両頬を手で包み込まれて、顔を上げさせられる。
ちゅっと、優しく額にキスが一回。
鼻、頬、とキスがきて。
最後に唇に優しく触れる。
たまにされるキスも意地悪だと思ってたけど、でも両思いだからスザクはしてくれて、そして今のこのキスもそうで。
自覚したら、恥ずかしくてしょうがなくて、何も言えなかった。
「今までルルーシュが好きだって言ってくれなかったから、俺なりに遠慮してたけど、これからはこうしてキスだってもっとたくさんするからな。ちゃんと俺の気持ちだって伝えたんだから、もう嫌だなんて言うなよ」
何も言えないから、ひとまず頷く。
顔だけじゃなくて、体中が熱くてしょうがない。
「こういうことも、もう嫌だって言わないように」
念を押すように顔を近づけて神妙に言われて、つられるように頷くと、スザクの手がスカートの中に入ってくる。
「え、ちょっと、止めろって!」
「もう、意地悪じゃないってわかったんだから良いだろ?嫌じゃないよな?」
「今までも嫌じゃなかったけど、でも、それとこれは」
「今までも嫌じゃないなら、良いじゃないか」
「うっ…」
ああ言えば、こう言う。
惚れた弱みで、勝てない。
今までだって触れられるのが嫌じゃなかった。
困っていて、どうしてこんな意地悪するんだろうって悲しい方が大きかった。
両思いだってわかって、触れられるのに悲しいのがなくなって、大丈夫になった。
スザクの手がまたもスカートの中をもぞもぞと動くけど、嫌だって言葉は結局出ない。
「や、優しくしてくれるなら良い…」
「わかった」
戸惑いがちにスザクの手を引いて、お願いを込めてじっと見つめれば、満足そうな笑みが返ってくる。
そうして、スカートの中にないスザクの片方の手が、器用に片手で俺のシャツのボタンをゆっくりと外していく。
きっと、一生、こんな感じでスザクを許してしまうんだろうと思った。
でも、それはきっと一生幸せな事なんだろう。
以前発行されたスザク×女の子ルルーシュアンソロに寄稿させていただいた作品を再録させていただきました。
随分前に書いた作品なので恥ずかしいながらも、こうして見るとこの頃からうちのスザクは自由に生きていたんだな~と思いました(笑)
でも個人的に自分で書いたルルーシュながらもこういう鈍いところが良いなと珍しく自分の書いた作品でも思いました。