馬鹿スザクは、昔と違って意地悪になった。
それから今、高校二年になってもスザクの意地悪は変わらない。
スザクと俺は小さな頃からずっと一緒だった。
ブリタニアの皇女として生まれた俺は、三歳くらいの頃に日本の枢木首相の家に預けられた。
母さんと枢木首相が昔からの友人で、ちょうど俺とスザクが同じ歳くらいだと言う事から意気投合して、俺はスザクの婚約者として日本に送られたのだ。
もちろん周りの大人や兄弟たちはまだ小さな俺をたった一人で日本に送らせるのはどうかと反対したが、そこは閃光のマリアンヌと言われて数々の武勇伝で語り継がれている母さんに誰一人勝てるわけもなく(父上まで母さんに屈服してしまったらしい)、結局俺は日本に行く事になったんだ。
そうして、スザクと出会って、俺たちはすぐに仲良くなった。
スザクは、見知らぬ土地で一人で放り出されて不安でいっぱいな俺の顔を両手で挟んで笑えと言って、俺の頬は挟まれたままむにむにとひとしきり遊ぶようにされて、それにビックリした俺は寂しさなんて一瞬で飛んで。
そして、スザクが笑顔で遊ぼうと声をかけて手を引いてくれたから、すっかり寂しさなんて忘れてしまった。
ホームシックで眠れなくて、一人こっそり泣いているとそれに気づいてくれたのか、何も言わずに一緒に寝てくれる時もあった。
スザクは少し乱暴だけれど元気で明るくて、困っているとすぐに助けてくれる優しさだってあって。
知らない遊びもたくさん教えてくれて、一緒に過ごすのが楽しくて、楽しい笑顔を、心からの笑顔をたくさん浮かべさせてくれた。
スザクのくるくるのくせっ毛の髪はふわふわの犬みたいで触っていると楽しくて、お日様の匂いのする彼はぽかぽかと暖かくて、繋いだ手は絶対に離したくないと思った。
けれど、いつでも何をするのにも一緒で仲良くしていたのに、小学一年生になった頃くらいからスザクは変わってしまった。
いつも一緒にいると言うスタンスは変わらないし、基本は優しいままのようだけれど、二人きりになると意地悪をするようになってきたんだ。
初めはスカート捲り。
次はいつのまにか胸まで触られるようになった。
今では、尻まで撫で回される。
そして、たまにキス。
恥ずかしいと言っても止めてくれなくて、嫌だ嫌だと訴えても、スザクが満足するまで止めてくれない。
だったら、スザクから離れてしまえば良いのだろうけれど、それが出来ないのはスザクが好きだからなんだと思う。
確かに意地悪をするようになったけれど、みんなと一緒の時は昔のように優しいし、俺が困っていると助けてくれる優しさは変わらないからだ。
「よいしょ」
昼休みに入る前の授業の終わりに、授業で使ったノートをクラス全員分集めて職員室に持ってこいと先生に言われてしまった。
ノートの一冊や二冊なら軽いけど、クラスメイト全員分だとかなり重い。
それでも先生に言われたから持っていかないといけないと、ふらふらと落としそうになりながらも抱え上げる。
こういう場合はスザクが助けてくれることが多いけど…スザクは黒板を消すのを手伝っていた。
今日の日直は身長の低いクラスメイトの女の子だったから、黒板を消すのが大変で、それを手伝っているみたいだ。
何かそれを見ていたら、胸の辺りがもやもやして、むかむかして、ぐるぐると何か嫌な気持ちが駆け巡る。
ノートを抱えている腕にぎゅうっと力が自然とこもってしまう。
スザクはいつだって俺以外の女の子には優しい。
俺に優しくしてくれるのはみんなの前だけくらいなのに、他の女の子には基本的にずっと優しいみたいだ。
告白されているところをうっかり見てしまった時もあったけど、その時も丁寧に断っていた。
女の子にはとてもとても優しいスザク。
だったら、俺にだっていつも優しくしてくれたら良いのに。
俺は胸も小さいし、やせていると言えば聞こえが良いかもしれないがただ薄い体なだけだし、女らしい性格はしてないし、スザクから見たら魅力だって余りないかもしれないけど、でも一応スザクの許婚でもあるし、女だから優しくしてくれても良いのに。
それなのに、俺相手だと…二人きりになると途端に意地悪、だ。
黒板を消す手伝いは、相手の女の子が小さくて可愛い子だから手伝うのは、良くわかるさ。
俺と違って丸みを帯びた女の子らしい体つきで、俺なんかよりも胸もあるし、笑顔だってほんわかしているし、とてもとても可愛い女の子だと思う…。
でも俺にも少しくらいは優しくしてくれたって良いし…何より今少し困っているから、少しくらい俺の状況だってわかってくれたって良いと思うのは我侭だろうか。
別に手伝ってくれとは言わないから、ちょっとくらい俺の方へ視線を向けてくれたって…。
ノートを抱えてよたよたと歩きながらも、スザクの横顔を睨んでいると、相手からもちろっと視線を向けられた。
え…もしかして気づいた?
「ルルーシュ、ノートを教卓の上に置いておけ!もうすぐ黒板が消し終わるから、そうしたら持っていくの手伝ってやる」
「何だよ、何だか偉そうな言い方だな」
俺は、スザクに言われた通り、黒板前の教卓にノートを乗せる。
スザクに返した言葉は、可愛いとは言えない言葉になってしまったけれど、俺の口元はほころんでいた。
スザクは黒板消しをしていて俺に気づいてもらえないと思っていたし、いつも優しくしてくれたら…なんて思っていたところだったから、素直に嬉しい。
二人きりになったら意地悪もあるんだろうけれど、スザクは俺が困っている時はやっぱり助けてくれるんだ。
「気にするなって。でも、貸し一だからな」
「貸しってなんだよ」
「まあ気にするなって」
スザクが楽しそうに笑いながら、ざっと手早く黒板を消していく。
スザクが楽しそうにするとやっぱり俺も何だか楽しくなってくるけど、照れ隠しにちょっとぶすっとした表情をして、しょうがないな、と返してしまう。
でも、それでも、俺のこれが照れ隠しだとわかっているのか、スザクは笑ったままだった。
悔しい、けど。
でも、本当のことなんだから、しょうがない、仕方ない。
だって、スザクの笑っている顔はお日様みたいにぽかぽかで、見ている俺も幸せになれるんだから。
それから今、高校二年になってもスザクの意地悪は変わらない。
スザクと俺は小さな頃からずっと一緒だった。
ブリタニアの皇女として生まれた俺は、三歳くらいの頃に日本の枢木首相の家に預けられた。
母さんと枢木首相が昔からの友人で、ちょうど俺とスザクが同じ歳くらいだと言う事から意気投合して、俺はスザクの婚約者として日本に送られたのだ。
もちろん周りの大人や兄弟たちはまだ小さな俺をたった一人で日本に送らせるのはどうかと反対したが、そこは閃光のマリアンヌと言われて数々の武勇伝で語り継がれている母さんに誰一人勝てるわけもなく(父上まで母さんに屈服してしまったらしい)、結局俺は日本に行く事になったんだ。
そうして、スザクと出会って、俺たちはすぐに仲良くなった。
スザクは、見知らぬ土地で一人で放り出されて不安でいっぱいな俺の顔を両手で挟んで笑えと言って、俺の頬は挟まれたままむにむにとひとしきり遊ぶようにされて、それにビックリした俺は寂しさなんて一瞬で飛んで。
そして、スザクが笑顔で遊ぼうと声をかけて手を引いてくれたから、すっかり寂しさなんて忘れてしまった。
ホームシックで眠れなくて、一人こっそり泣いているとそれに気づいてくれたのか、何も言わずに一緒に寝てくれる時もあった。
スザクは少し乱暴だけれど元気で明るくて、困っているとすぐに助けてくれる優しさだってあって。
知らない遊びもたくさん教えてくれて、一緒に過ごすのが楽しくて、楽しい笑顔を、心からの笑顔をたくさん浮かべさせてくれた。
スザクのくるくるのくせっ毛の髪はふわふわの犬みたいで触っていると楽しくて、お日様の匂いのする彼はぽかぽかと暖かくて、繋いだ手は絶対に離したくないと思った。
けれど、いつでも何をするのにも一緒で仲良くしていたのに、小学一年生になった頃くらいからスザクは変わってしまった。
いつも一緒にいると言うスタンスは変わらないし、基本は優しいままのようだけれど、二人きりになると意地悪をするようになってきたんだ。
初めはスカート捲り。
次はいつのまにか胸まで触られるようになった。
今では、尻まで撫で回される。
そして、たまにキス。
恥ずかしいと言っても止めてくれなくて、嫌だ嫌だと訴えても、スザクが満足するまで止めてくれない。
だったら、スザクから離れてしまえば良いのだろうけれど、それが出来ないのはスザクが好きだからなんだと思う。
確かに意地悪をするようになったけれど、みんなと一緒の時は昔のように優しいし、俺が困っていると助けてくれる優しさは変わらないからだ。
「よいしょ」
昼休みに入る前の授業の終わりに、授業で使ったノートをクラス全員分集めて職員室に持ってこいと先生に言われてしまった。
ノートの一冊や二冊なら軽いけど、クラスメイト全員分だとかなり重い。
それでも先生に言われたから持っていかないといけないと、ふらふらと落としそうになりながらも抱え上げる。
こういう場合はスザクが助けてくれることが多いけど…スザクは黒板を消すのを手伝っていた。
今日の日直は身長の低いクラスメイトの女の子だったから、黒板を消すのが大変で、それを手伝っているみたいだ。
何かそれを見ていたら、胸の辺りがもやもやして、むかむかして、ぐるぐると何か嫌な気持ちが駆け巡る。
ノートを抱えている腕にぎゅうっと力が自然とこもってしまう。
スザクはいつだって俺以外の女の子には優しい。
俺に優しくしてくれるのはみんなの前だけくらいなのに、他の女の子には基本的にずっと優しいみたいだ。
告白されているところをうっかり見てしまった時もあったけど、その時も丁寧に断っていた。
女の子にはとてもとても優しいスザク。
だったら、俺にだっていつも優しくしてくれたら良いのに。
俺は胸も小さいし、やせていると言えば聞こえが良いかもしれないがただ薄い体なだけだし、女らしい性格はしてないし、スザクから見たら魅力だって余りないかもしれないけど、でも一応スザクの許婚でもあるし、女だから優しくしてくれても良いのに。
それなのに、俺相手だと…二人きりになると途端に意地悪、だ。
黒板を消す手伝いは、相手の女の子が小さくて可愛い子だから手伝うのは、良くわかるさ。
俺と違って丸みを帯びた女の子らしい体つきで、俺なんかよりも胸もあるし、笑顔だってほんわかしているし、とてもとても可愛い女の子だと思う…。
でも俺にも少しくらいは優しくしてくれたって良いし…何より今少し困っているから、少しくらい俺の状況だってわかってくれたって良いと思うのは我侭だろうか。
別に手伝ってくれとは言わないから、ちょっとくらい俺の方へ視線を向けてくれたって…。
ノートを抱えてよたよたと歩きながらも、スザクの横顔を睨んでいると、相手からもちろっと視線を向けられた。
え…もしかして気づいた?
「ルルーシュ、ノートを教卓の上に置いておけ!もうすぐ黒板が消し終わるから、そうしたら持っていくの手伝ってやる」
「何だよ、何だか偉そうな言い方だな」
俺は、スザクに言われた通り、黒板前の教卓にノートを乗せる。
スザクに返した言葉は、可愛いとは言えない言葉になってしまったけれど、俺の口元はほころんでいた。
スザクは黒板消しをしていて俺に気づいてもらえないと思っていたし、いつも優しくしてくれたら…なんて思っていたところだったから、素直に嬉しい。
二人きりになったら意地悪もあるんだろうけれど、スザクは俺が困っている時はやっぱり助けてくれるんだ。
「気にするなって。でも、貸し一だからな」
「貸しってなんだよ」
「まあ気にするなって」
スザクが楽しそうに笑いながら、ざっと手早く黒板を消していく。
スザクが楽しそうにするとやっぱり俺も何だか楽しくなってくるけど、照れ隠しにちょっとぶすっとした表情をして、しょうがないな、と返してしまう。
でも、それでも、俺のこれが照れ隠しだとわかっているのか、スザクは笑ったままだった。
悔しい、けど。
でも、本当のことなんだから、しょうがない、仕方ない。
だって、スザクの笑っている顔はお日様みたいにぽかぽかで、見ている俺も幸せになれるんだから。