このお話は、ギアスのアニメ24~25話からの生まれ変わりスザルル話の「君の笑顔」の続編です。
そちらからお読みいただけると幸いです。
これは、ルルーシュから、好きだと初めて聞いた日の出来事。
学校から帰ってきたルルーシュは、いつにも増して本当に顔色が真っ青だった。
具合が悪い、と言った感じではなく、どこか精神的に疲れているような、そういう顔色の悪さだったと思う。
ちょうど雨が降っている日で、学校に行く時に傘だって持っていったはずなのに、玄関でルルーシュを迎えると、彼は白いシャツが透けるほど体中が濡れていて、ぽたぽたと雨の雫が玄関に落ちる。
「ちょっと待ってろ、今タオル持ってくるから」
ルルーシュは体が弱いから、こんな風に雨にずぶ濡れだったら絶対に風邪を引いて熱を出す。
雨にうたれて前に肺炎にだってなりかけたから、必ず折りたたみだって持たせていたし、今日はちゃんと普通の傘だって持っていったのに、それをさすこともなく帰ってきたんだろうか。
「待って、兄さん…」
ルルーシュに背を向けていると、トーンの落ちた静かな声がかけられる。
呟かれた声は小さくて、聞き取れるかわからないもので。
言葉を零した唇は震えていて、ルルーシュの瞳からはぽろりと涙が零れていた。
雨に濡れているからじゃない。
瞳からは、ぽろぽろと透明で綺麗な雫がルルーシュの頬を伝っていく。
「ルルーシュ、何かあったのか?」
泣き止んでもらいたいと、自分が濡れることも気にしないで、ルルーシュを抱き寄せる。
こうすると、ルルーシュが悲しい時も泣いている時もいつだって落ち着いてくれたから。
自分でこんなことを言うのもおこがましいかもしれないけれど、ルルーシュは一心に俺を慕ってくれて、俺が傍にいるだけで安心して微笑んでくれて。
悲しい時でも、苦しい時でも落ち着いてくれたから。
でも、今は、涙を拭おうと、ルルーシュの頬へと手を伸ばすけれど、涙は止まらない。
心の奥まで何か苦しくて、切り刻まれて、悲しい事でもあったんだろうか?
ルルーシュをこんな風に傷つけたやつは、誰なんだ?
見ぬ相手にふつふつと怒りをたぎらせて、けれどルルーシュの前でそんな人間の醜いところは見せたくないから堪えて、彼を宥めるように背中を撫でる。
こんな風にルルーシュは泣くために、ここにいるんじゃない。
ルルーシュは幸せになるために、そして幸せにするために、ここにいるんだ。
微笑んでいられるように、いつだって穏やかな気持ちでいられるように…それだけを願っているのだから。
「みんなは…みんなは…僕…の、本当の家族じゃないの…?」
途切れ途切れに、言葉は零されて。
声に、助けてほしい、一人にしないでほしい、と悲しい思いが乗せられていて。
俺にしがみついてくる腕は、カタカタと震えていた。
寒い、からとかじゃない、心の悲しさが体の震えに出ているんだ。
「今日…戸籍謄本もらいに行って…修学旅行にいる、から…」
しがみつく手に力が入って、爪がたてられる。
少しだけ痛みが走って、眉を寄せてしまったけど、でもそれは顔に出さなかった。
ルルーシュが知ったら、爪をたてたことなんて大した事なくても、きっと傷ついてしまうから。
それくらいにとてもとても優しくて家族を大事にする子だから。
「戸籍謄本…見たのか…」
「うん…戸籍謄本に嘘なんて…あるはずないから…僕と兄さんは…」
血の繋がりがない、と言う言葉を言いたくなかったのか、ルルーシュはそこで言葉を途切れさせた。
本当は、ルルーシュに戸籍謄本を取りに行かせるつもりはなくて、俺か母さんが行くつもりだったのに、見られてしまうなんて。
こんなの三流ドラマみたいで、情けなくて、どうしようもなくて、はがゆくて、どこに怒りをぶつけていいのかわからなかった。
戸籍謄本を見ていなかったら誤魔化せもしただろうけれど、嘘なんてあるはずないものを見られて、察しの良いこの子に嘘をつき続けることなんて、誤魔化すことなんて、騙し続ける事なんて出来るだろうか。
「ごめん…」
誰も、悪い事なんてしていないけれど、謝罪の言葉しか浮かばなかった。
また、いつだって、俺はお前を傷つけることしか出来ない…?
傷つけないように、何をもからも守るように、大切に大切に慈しんできたのに、それさえ適わないんだろうか。
「良い、良いよ…。悲しいのもあるけど…安心もあったから…」
そう告げられたルルーシュの体からは一気に力が抜けて、俺の腕から落ちそうになり、腰に手を添える。
「ルルーシュ…?」
腕の中の存在の様子をそっと見てみると、瞳を閉じて体がだらりとしていた。
緊張しすぎて、精神がついていけなくなってしまったんだろうか。
腕の中のルルーシュは、静かに瞳を閉じて、眠るように気を失っていた。
体を拭いて、パジャマに着替えさせたけれど、それでもルルーシュの瞳は開かなかった。
そっとベッドに横になったまま、静かに寝息をたてている。
眠っている顔はとても落ち着いていて、あんなことがあったように思えない。
それでも、今も気を失って起きてくれないのは、心への負担が大きかったからかもしれない。
ぎゅっと手を握って、寝息をたてるルルーシュの髪を撫でる。
俺は、裏切らないから。
お前が家族を俺に望むなら、俺は一生良い兄でいるから。
今までだって、お前に恋焦がれても、この身が焼きつくほど想っていても、それでもその気持ちを出した事なんてない。
ただ、ルルーシュが幸せであってくれて、家族に恵まれた今の状況を大切にしてほしいから、俺の気持ちなんてどうでも良かった。
家族でいてほしいと願うルルーシュへ、こうして恋愛感情で想うことも裏切りになるかもしれないけど、それでもこの先気持ちを伝える事なんてしない。
ルルーシュが望むなら、血の繋がりなんて関係ないくらいに、今まで以上に大切に、兄として振舞うから、だから目を覚ましてほしい。
前の俺がルルーシュにしてしまったことを考えたら、今の俺がそのくらいの代償を払っても、当たり前だと思うから。
「ルルーシュ…」
「にい、さん…?」
小さく零した愛しい人の名前を呼ぶ声に反応するように、ルルーシュが目を覚ます。
ぱちぱちと瞳が開かれて、菫色の優しい眼差しの瞳が開かれた。
その安堵から、たまらず腕を引いて、俺は抱き寄せた。
泣き笑いの表情をしていたと思う。
大の男がこんなのは変だと思ったけれど、それくらいにルルーシュが目を覚ましてくれたのは嬉しくて、ただ腕の中の存在が愛しくて、抱き締めた。
「俺は、お前の兄さんだから。だから大丈夫だよ。今まで…ごめん…」
誤魔化すことも出来ないなら、ルルーシュが安心するように言葉をかけよう。
ルルーシュが幸せだと思えるように、優しくしよう。
「兄さんは、悪くないから、だから謝らないで」
血の繋がりがないことを黙っていた事をルルーシュは責めない。
どうして、責めないんだろう?
顔を覗きこむとまた涙を流してしまいそうなくらいに瞳を揺らしているのに。
でも、それでも必死に笑顔を作って、泣かないようにしているのが見てとれる。
「でもね、少し安心したのもあったんだ…」
言葉の後に何か言いたげだったけれど、ルルーシュはそこで言葉を途切れさせる。
ぎゅっと背に腕が回されて、瞳はまだ揺れているけれど、じっと俺を見上げていた。
ルルーシュは息を飲み、唇をきゅっと噛み締める。
揺らいでいた瞳は一瞬閉じられると、次には強い光を宿す。
まっすぐに一心にただ見つめてくれて、ゆっくりと唇が開かれる。
「兄さんと本当の兄弟じゃなかったら、血が繋がってないなら良いよね…僕は、兄さんが好きだよ。兄弟って意味じゃなくて、一人の人として好きなんだ」
何を言われるだろうか、固唾をのんで待っていると、ルルーシュから零された言葉は、自分にとって喜んで良いのか、悲しんで良いのかわからなかった。
そんな微妙な気持ちが表情にも表れていたんだろう、ルルーシュの瞳がゆらりと不安で揺れる。
「やっぱり…唐突、だよね。でも、僕にはずっと当たり前のことだった。だって、兄さんはずっと僕の傍にいてくれた。僕にはなくてはならない人としてずっと傍にいて守ってくれたよね。兄さんは僕と兄弟だからずっと一緒にいてくれたんだろうけど、でも僕はそんな兄さんを当たり前にみたいに好きになってたんだ。何も疑問なんてなかった。でも、血の繋がりがあるから、兄さんに伝えたら迷惑かけるだろうって思ったから言えなかっただけなんだ」
何を言われているのか、頭ですぐに理解出来なかった。
ルルーシュが、俺を好き?
だって、ずっと兄弟だって思っていて、それなのに好きだった?
それが当たり前だったって…。
そんなのはあったらいけないこと、絶対に許されないことだ。
ルルーシュが好きで大切だけれど、俺はただルルーシュが幸せになれて、幸せに出来れば良いんだ。
前の俺はルルーシュを傷つけるだけだったから、今度こそ幸せにしたいって思っていて、だから俺はルルーシュを守って幸せにして、笑顔でいさせてあげたいのに。
どうしてそれなのに、俺を好きになったんだ?
守りたかったのに。
ただ大切にしたかったのに。
でも、俺はルルーシュに想ってもらえるような人間でもないし、自分の手で幸せに出来ないかもしれない、失敗するかもしれない。
だから、俺なんかよりお前を幸せに出来る、お前が心から好きになれるような人と幸せになってほしいんだ。
俺はその手伝いを出来たら、ただそれで幸せな心になれるから、ルルーシュは日の光の下で今度こそ幸せになってほしい。
ルルーシュは俺なんかを好きになったらいけない。
俺がお前を好きでも、お前は俺なんかを好きになったりしたらいけないんだよ。
それに、きっとずっと一緒にいた兄への依存への気持ちから生まれた一時の気持ち、かもしれない。
だから、だから、俺を好きになったりしたらいけないんだよ。
「もう、好きになるのは当たり前だったって、僕の心が言ってる。どうして当たり前なんて言っているのかわからないけど、でもそう感じたんだよ。だから、兄さんが困ってるなら僕の気持ちを受け入れてくれなくても良い。でも、好きって気持ちだけは否定したりしないで」
わかってる、本当はわかってるんだ。
ルルーシュの瞳は、依存だけの一時的な気持ちじゃないって。
ルルーシュは思いつきや簡単な気持ちで、心を口にしたりしない子だ。
大切な気持ちはちゃんと考えて伝えてくれる子だ。
そして、俺だけを映すまっすぐな瞳は、長い間ただひたすら恋焦がれている瞳だった。
「否定だけはしないで、お願いだから」
まるで、俺がこの子を好きなことも否定するなと言っているようだった。
受け入られないと、思った時で聞いた言葉だったから。
ちゃんと、この子の気持ちも自分の気持ちも向きあえって言っているようだった。
否定するだけで、ただ逃げるだけならまるで前の俺のようだ。
受け入れる受けれないにしても、ちゃんと向きあって、話し合わないといけない。
「否定したりしないよ」
「だったら、良い。兄さんが好きってわかってくれるだけでも嬉しいから」
ルルーシュは安堵のため息をついた後、ふわりと微笑む。
でも、その笑顔は寂しそうで、泣いてしまいそうで、見ている俺も泣いてしまいそうだった。
本当は好きになってほしいと思っているようなのに、でもそれは相手に望まない。
ルルーシュは、多くは望まない。
ただ、否定されないだけで良い、なんて、どうして?
あんなに幸せになれなかったのに、どうして今も幸せを望んでくれない?
俺を好きになったらいけないと思った俺が言うのもおこがましいけど、どうしてお前はもっと望んでくれないんだろう…。
本当の本当に大切なものは、諦めてしまうんだろうか。
この子が、本当に手に入れたくて、願っていることは…。
ルルーシュ、本当に、ルルーシュが俺を望んでくれるなら。
「否定もしないし、受け入れる。俺だってルルーシュが好きだよ」
俺はお前のことを否定しないで、自分の気持ちもお前の気持ちも受け入れる。
本当の本当に大切でほしいと思うものは、手に取らせてあげたい。
何も手に入られなかったあの頃じゃない、今はちゃんとほしいと願うものは渡したい。
この子が自分を望んでいる限りは、望むままに傍にいたい。
「ずっと好き、なんだ」
でも、この子を幸せにしたい気持ちも本物で、望まれなくなったら離れることも考えるけれど。
それでも、この子が俺を好きなだけじゃなくて、ちゃんと俺もこの子が好きだから。
前世の罪滅ぼしでも、義理でも、前世からの好きな気持ちの延長だけでもない。
今の枢木スザクとして、今のお前が好きだから。
だから、俺からも気持ちを返すよ。
だから、悲しい顔で諦めないで、幸せを望む事を忘れないでくれ。
「好きだよ、ルルーシュ」
だから、何度だってお前が幸せになれるように、俺は気持ちを伝えるから。
そちらからお読みいただけると幸いです。
これは、ルルーシュから、好きだと初めて聞いた日の出来事。
学校から帰ってきたルルーシュは、いつにも増して本当に顔色が真っ青だった。
具合が悪い、と言った感じではなく、どこか精神的に疲れているような、そういう顔色の悪さだったと思う。
ちょうど雨が降っている日で、学校に行く時に傘だって持っていったはずなのに、玄関でルルーシュを迎えると、彼は白いシャツが透けるほど体中が濡れていて、ぽたぽたと雨の雫が玄関に落ちる。
「ちょっと待ってろ、今タオル持ってくるから」
ルルーシュは体が弱いから、こんな風に雨にずぶ濡れだったら絶対に風邪を引いて熱を出す。
雨にうたれて前に肺炎にだってなりかけたから、必ず折りたたみだって持たせていたし、今日はちゃんと普通の傘だって持っていったのに、それをさすこともなく帰ってきたんだろうか。
「待って、兄さん…」
ルルーシュに背を向けていると、トーンの落ちた静かな声がかけられる。
呟かれた声は小さくて、聞き取れるかわからないもので。
言葉を零した唇は震えていて、ルルーシュの瞳からはぽろりと涙が零れていた。
雨に濡れているからじゃない。
瞳からは、ぽろぽろと透明で綺麗な雫がルルーシュの頬を伝っていく。
「ルルーシュ、何かあったのか?」
泣き止んでもらいたいと、自分が濡れることも気にしないで、ルルーシュを抱き寄せる。
こうすると、ルルーシュが悲しい時も泣いている時もいつだって落ち着いてくれたから。
自分でこんなことを言うのもおこがましいかもしれないけれど、ルルーシュは一心に俺を慕ってくれて、俺が傍にいるだけで安心して微笑んでくれて。
悲しい時でも、苦しい時でも落ち着いてくれたから。
でも、今は、涙を拭おうと、ルルーシュの頬へと手を伸ばすけれど、涙は止まらない。
心の奥まで何か苦しくて、切り刻まれて、悲しい事でもあったんだろうか?
ルルーシュをこんな風に傷つけたやつは、誰なんだ?
見ぬ相手にふつふつと怒りをたぎらせて、けれどルルーシュの前でそんな人間の醜いところは見せたくないから堪えて、彼を宥めるように背中を撫でる。
こんな風にルルーシュは泣くために、ここにいるんじゃない。
ルルーシュは幸せになるために、そして幸せにするために、ここにいるんだ。
微笑んでいられるように、いつだって穏やかな気持ちでいられるように…それだけを願っているのだから。
「みんなは…みんなは…僕…の、本当の家族じゃないの…?」
途切れ途切れに、言葉は零されて。
声に、助けてほしい、一人にしないでほしい、と悲しい思いが乗せられていて。
俺にしがみついてくる腕は、カタカタと震えていた。
寒い、からとかじゃない、心の悲しさが体の震えに出ているんだ。
「今日…戸籍謄本もらいに行って…修学旅行にいる、から…」
しがみつく手に力が入って、爪がたてられる。
少しだけ痛みが走って、眉を寄せてしまったけど、でもそれは顔に出さなかった。
ルルーシュが知ったら、爪をたてたことなんて大した事なくても、きっと傷ついてしまうから。
それくらいにとてもとても優しくて家族を大事にする子だから。
「戸籍謄本…見たのか…」
「うん…戸籍謄本に嘘なんて…あるはずないから…僕と兄さんは…」
血の繋がりがない、と言う言葉を言いたくなかったのか、ルルーシュはそこで言葉を途切れさせた。
本当は、ルルーシュに戸籍謄本を取りに行かせるつもりはなくて、俺か母さんが行くつもりだったのに、見られてしまうなんて。
こんなの三流ドラマみたいで、情けなくて、どうしようもなくて、はがゆくて、どこに怒りをぶつけていいのかわからなかった。
戸籍謄本を見ていなかったら誤魔化せもしただろうけれど、嘘なんてあるはずないものを見られて、察しの良いこの子に嘘をつき続けることなんて、誤魔化すことなんて、騙し続ける事なんて出来るだろうか。
「ごめん…」
誰も、悪い事なんてしていないけれど、謝罪の言葉しか浮かばなかった。
また、いつだって、俺はお前を傷つけることしか出来ない…?
傷つけないように、何をもからも守るように、大切に大切に慈しんできたのに、それさえ適わないんだろうか。
「良い、良いよ…。悲しいのもあるけど…安心もあったから…」
そう告げられたルルーシュの体からは一気に力が抜けて、俺の腕から落ちそうになり、腰に手を添える。
「ルルーシュ…?」
腕の中の存在の様子をそっと見てみると、瞳を閉じて体がだらりとしていた。
緊張しすぎて、精神がついていけなくなってしまったんだろうか。
腕の中のルルーシュは、静かに瞳を閉じて、眠るように気を失っていた。
体を拭いて、パジャマに着替えさせたけれど、それでもルルーシュの瞳は開かなかった。
そっとベッドに横になったまま、静かに寝息をたてている。
眠っている顔はとても落ち着いていて、あんなことがあったように思えない。
それでも、今も気を失って起きてくれないのは、心への負担が大きかったからかもしれない。
ぎゅっと手を握って、寝息をたてるルルーシュの髪を撫でる。
俺は、裏切らないから。
お前が家族を俺に望むなら、俺は一生良い兄でいるから。
今までだって、お前に恋焦がれても、この身が焼きつくほど想っていても、それでもその気持ちを出した事なんてない。
ただ、ルルーシュが幸せであってくれて、家族に恵まれた今の状況を大切にしてほしいから、俺の気持ちなんてどうでも良かった。
家族でいてほしいと願うルルーシュへ、こうして恋愛感情で想うことも裏切りになるかもしれないけど、それでもこの先気持ちを伝える事なんてしない。
ルルーシュが望むなら、血の繋がりなんて関係ないくらいに、今まで以上に大切に、兄として振舞うから、だから目を覚ましてほしい。
前の俺がルルーシュにしてしまったことを考えたら、今の俺がそのくらいの代償を払っても、当たり前だと思うから。
「ルルーシュ…」
「にい、さん…?」
小さく零した愛しい人の名前を呼ぶ声に反応するように、ルルーシュが目を覚ます。
ぱちぱちと瞳が開かれて、菫色の優しい眼差しの瞳が開かれた。
その安堵から、たまらず腕を引いて、俺は抱き寄せた。
泣き笑いの表情をしていたと思う。
大の男がこんなのは変だと思ったけれど、それくらいにルルーシュが目を覚ましてくれたのは嬉しくて、ただ腕の中の存在が愛しくて、抱き締めた。
「俺は、お前の兄さんだから。だから大丈夫だよ。今まで…ごめん…」
誤魔化すことも出来ないなら、ルルーシュが安心するように言葉をかけよう。
ルルーシュが幸せだと思えるように、優しくしよう。
「兄さんは、悪くないから、だから謝らないで」
血の繋がりがないことを黙っていた事をルルーシュは責めない。
どうして、責めないんだろう?
顔を覗きこむとまた涙を流してしまいそうなくらいに瞳を揺らしているのに。
でも、それでも必死に笑顔を作って、泣かないようにしているのが見てとれる。
「でもね、少し安心したのもあったんだ…」
言葉の後に何か言いたげだったけれど、ルルーシュはそこで言葉を途切れさせる。
ぎゅっと背に腕が回されて、瞳はまだ揺れているけれど、じっと俺を見上げていた。
ルルーシュは息を飲み、唇をきゅっと噛み締める。
揺らいでいた瞳は一瞬閉じられると、次には強い光を宿す。
まっすぐに一心にただ見つめてくれて、ゆっくりと唇が開かれる。
「兄さんと本当の兄弟じゃなかったら、血が繋がってないなら良いよね…僕は、兄さんが好きだよ。兄弟って意味じゃなくて、一人の人として好きなんだ」
何を言われるだろうか、固唾をのんで待っていると、ルルーシュから零された言葉は、自分にとって喜んで良いのか、悲しんで良いのかわからなかった。
そんな微妙な気持ちが表情にも表れていたんだろう、ルルーシュの瞳がゆらりと不安で揺れる。
「やっぱり…唐突、だよね。でも、僕にはずっと当たり前のことだった。だって、兄さんはずっと僕の傍にいてくれた。僕にはなくてはならない人としてずっと傍にいて守ってくれたよね。兄さんは僕と兄弟だからずっと一緒にいてくれたんだろうけど、でも僕はそんな兄さんを当たり前にみたいに好きになってたんだ。何も疑問なんてなかった。でも、血の繋がりがあるから、兄さんに伝えたら迷惑かけるだろうって思ったから言えなかっただけなんだ」
何を言われているのか、頭ですぐに理解出来なかった。
ルルーシュが、俺を好き?
だって、ずっと兄弟だって思っていて、それなのに好きだった?
それが当たり前だったって…。
そんなのはあったらいけないこと、絶対に許されないことだ。
ルルーシュが好きで大切だけれど、俺はただルルーシュが幸せになれて、幸せに出来れば良いんだ。
前の俺はルルーシュを傷つけるだけだったから、今度こそ幸せにしたいって思っていて、だから俺はルルーシュを守って幸せにして、笑顔でいさせてあげたいのに。
どうしてそれなのに、俺を好きになったんだ?
守りたかったのに。
ただ大切にしたかったのに。
でも、俺はルルーシュに想ってもらえるような人間でもないし、自分の手で幸せに出来ないかもしれない、失敗するかもしれない。
だから、俺なんかよりお前を幸せに出来る、お前が心から好きになれるような人と幸せになってほしいんだ。
俺はその手伝いを出来たら、ただそれで幸せな心になれるから、ルルーシュは日の光の下で今度こそ幸せになってほしい。
ルルーシュは俺なんかを好きになったらいけない。
俺がお前を好きでも、お前は俺なんかを好きになったりしたらいけないんだよ。
それに、きっとずっと一緒にいた兄への依存への気持ちから生まれた一時の気持ち、かもしれない。
だから、だから、俺を好きになったりしたらいけないんだよ。
「もう、好きになるのは当たり前だったって、僕の心が言ってる。どうして当たり前なんて言っているのかわからないけど、でもそう感じたんだよ。だから、兄さんが困ってるなら僕の気持ちを受け入れてくれなくても良い。でも、好きって気持ちだけは否定したりしないで」
わかってる、本当はわかってるんだ。
ルルーシュの瞳は、依存だけの一時的な気持ちじゃないって。
ルルーシュは思いつきや簡単な気持ちで、心を口にしたりしない子だ。
大切な気持ちはちゃんと考えて伝えてくれる子だ。
そして、俺だけを映すまっすぐな瞳は、長い間ただひたすら恋焦がれている瞳だった。
「否定だけはしないで、お願いだから」
まるで、俺がこの子を好きなことも否定するなと言っているようだった。
受け入られないと、思った時で聞いた言葉だったから。
ちゃんと、この子の気持ちも自分の気持ちも向きあえって言っているようだった。
否定するだけで、ただ逃げるだけならまるで前の俺のようだ。
受け入れる受けれないにしても、ちゃんと向きあって、話し合わないといけない。
「否定したりしないよ」
「だったら、良い。兄さんが好きってわかってくれるだけでも嬉しいから」
ルルーシュは安堵のため息をついた後、ふわりと微笑む。
でも、その笑顔は寂しそうで、泣いてしまいそうで、見ている俺も泣いてしまいそうだった。
本当は好きになってほしいと思っているようなのに、でもそれは相手に望まない。
ルルーシュは、多くは望まない。
ただ、否定されないだけで良い、なんて、どうして?
あんなに幸せになれなかったのに、どうして今も幸せを望んでくれない?
俺を好きになったらいけないと思った俺が言うのもおこがましいけど、どうしてお前はもっと望んでくれないんだろう…。
本当の本当に大切なものは、諦めてしまうんだろうか。
この子が、本当に手に入れたくて、願っていることは…。
ルルーシュ、本当に、ルルーシュが俺を望んでくれるなら。
「否定もしないし、受け入れる。俺だってルルーシュが好きだよ」
俺はお前のことを否定しないで、自分の気持ちもお前の気持ちも受け入れる。
本当の本当に大切でほしいと思うものは、手に取らせてあげたい。
何も手に入られなかったあの頃じゃない、今はちゃんとほしいと願うものは渡したい。
この子が自分を望んでいる限りは、望むままに傍にいたい。
「ずっと好き、なんだ」
でも、この子を幸せにしたい気持ちも本物で、望まれなくなったら離れることも考えるけれど。
それでも、この子が俺を好きなだけじゃなくて、ちゃんと俺もこの子が好きだから。
前世の罪滅ぼしでも、義理でも、前世からの好きな気持ちの延長だけでもない。
今の枢木スザクとして、今のお前が好きだから。
だから、俺からも気持ちを返すよ。
だから、悲しい顔で諦めないで、幸せを望む事を忘れないでくれ。
「好きだよ、ルルーシュ」
だから、何度だってお前が幸せになれるように、俺は気持ちを伝えるから。