今回は、ストレージ内に格納されたデータの見える化について取り上げる。前回も解説したが、念のため「サーバ内のデータ」と「ストレージ内のデータ」の、本稿における区分けをもう一度おさらいしておこう。
サーバ筺体に接続された外付けHDD内のデータは、サーバの付属物と考えれば「サーバ内のデータ」だが、外付けという点に着目すればサーバとは別の「ストレージ内」とも見なすことができる。これでは混乱が生じてしまうので、本連載ではそれぞれ以下のように定義して区別することにする(あくまで本連載における説明のための定義である)。
・サーバ内のデータ:サーバ上で稼働する業務アプリケーションを通じてユーザーがアクセスするデータ
・ストレージ内のデータ:OSのみの機能でユーザーがネットワークを介してアクセスすることのできるデータ
「サーバ内のデータ」の代表例はグループウェアの掲示板やファイルライブラリに格納されたデータである。「ストレージ内のデータ」はファイルサーバやNAS(Network Attached Storage)などに格納されたデータが該当する。つまり、今回は「ファイルサーバやNASなどに格納されたデータ」が対象となる。
●安易なファイルサーバの増加がデータ分散を引き起こした
以下のグラフは、年商5億円~500億円の中堅・中小企業に対してストレージ管理の課題を尋ねた結果である。ストレージの新規導入や増設に充てられる予算がない、障害発生時の担当人員が確保できないといったいわゆる「ヒト」と「カネ」の課題が高い比率を示しているが、それらを除いて目立つのが「さまざまな場所にデータが分散して格納されているため、適切な管理ができない」という課題である。
「中堅・中小企業は扱うデータ量も少ないのだから、データが分散するといった状態は起きにくいのではないか」と思われる方もいるかもしれない。だが実際は、こうした悩みを抱える中堅・中小企業ユーザーは少なくない。その1つの要因は、PCサーバの低価格化である。
複数のクライアントPCから共有が可能なデータの置き場所として、NASアプライアンスやファイルサーバは手軽な手段だ。そこで、多くの中堅・中小企業が安価になったPCサーバをデータの格納先として活用してきた。しかし、PCサーバの内蔵HDDはそれほど容量が大きいわけではない。さすがに1台のPCサーバではカバーしきれなくなる。本来は、その時点で本格的なNASアプライアンスへ移行するなどの対策を講じるべきなのだが、安価なPCサーバをさらに追加するという手段を選ぶユーザー企業も少なくなかった。これがオフィス内に多数の「ファイルサーバ的PCサーバ」が散在する状況を生み出したのである。
こうした状況を根本的に解消するためには、NASアプライアンスなどによるストレージの統合が有効であることは言うまでもない。だが、もし仮にNASアプライナスを導入できるだけの予算があったとしても、「どのPCサーバにどんなデータがあり、どれが重要でどれが不要なのか分からない」という問題がある。つまり、社内に散在するファイルサーバ的PCサーバの現状を把握できないことが大きな課題であり、これを解消する手段が求められているのだ。
●ファイルサーバ的PCサーバの分散状態を解決する3つの施策
「どのPCサーバにどんなデータが格納されているのか分からない」といった状況に対処する方法として、以下の3つが考えられる。
1. PCサーバ横断的な検索
複数のPCサーバを横断的に検索し、あたかもインターネット上を検索するのと同様に目的のデータを探し出すというアプローチである。これは、前回取り上げたエンタープライズサーチにほかならない。高度な検索を必要とする業務システムが既に存在し、散在するPCサーバも検索対象として含めることが可能な場合には、選択肢の1つとなるだろう。
2. メタデータを活用した疑似的統合
社内に散在するファイルサーバ的PCサーバへの対策ということでは、このアプローチが最も手軽で効果的だ。複数のPCサーバ内のフォルダ階層やファイルのメタデータを読み取り、それらをまとめて仮想的な1つのフォルダ階層を形成できるソフトウェアによるソリューションである。ユーザーは、仮想的なフォルダ階層をあたかも単一の巨大なファイルサーバのように扱うことができる。またアクセス頻度などのメタデータを活用し、削除候補となるデータを選別/自動処理するといった機能を備えるものもある。
3. NASアプライアンスへの統合
既に述べたように、多くのデータが社内に散在した状態では、NASアプライアンスを導入する以前に現状把握が困難であるという課題が存在する。しかし、データ量がかなり限られてくる年商5億円未満の小規模企業・SOHOや、これからストレージの新規投資が必要となる年商5億円~50億円未満の中小企業においては、NASアプライアンスの導入も選択肢の1つにはなってくる。実際にこれらの企業層を対象とした製品も数多く登場してきている。
●企業規模別の対策とソリューション例
上記3つの対処のうちどれが最適なのかは、企業規模(データ量とその分散度合い)によって異なってくる。以下では、企業規模に適した対処と具体的なソリューション例を挙げる。
年商50億円以上の中堅企業
これらの企業では扱うデータ量も多く、ファイルサーバ的PCサーバの数が十数台~数十台に上るケースもある。ここで有効なのは「メタデータを活用した疑似的統合」だ。単に仮想的なフォルダ階層を作成できるだけでなく、使用頻度などをモニタリングして不要なデータを特定し、削除候補となったデータの処理内容をポリシーとして定義できるなど、充実した管理機能が求められてくる。
こうした対策を実現するソリューション例としては、日立ソフトウェアエンジニアリングの「MEANS」が挙げられる。前述した各種管理機能が充実しており、日立システムアンドサービスの文書管理システム「ラビニティ ECM」との連携も可能だ(両社は2010年10月付で合併し、「日立ソリューションズ」となる予定)。ファイルサーバ的PCサーバの整理だけでなく、版管理や監査証跡なども備えた文書管理を実現したいといったニーズのあるユーザー企業には適した選択肢といえる。サーバにインストールするソフトウェア形態で提供されており、500ユーザー/100万文書に対応可能な1サーバのライセンスで約300万円といった価格帯だ。
ジャストシステムの「GDMS(Green Document Management System)」も同じカテゴリに属するソフトウェア製品。同社は、エンタープライズサーチ製品「ConceptBase Enterprise Search」も開発・販売している。実はGDMSは、ConceptBase Enterprise Searchを補完する役割も担う。複数のファイルサーバ的PCサーバに散在したデータをGDMSで整理整頓し、その結果をConceptBase Enterprise Searchで検索すれば、より確実かつ迅速な処理が可能になるというわけだ。類似文書を頻繁に検索するなどデータの中身を調べることが多い場合には、両製品を連携させたソリューションが有効といえる。GDMSはオープン価格での提供だが、MEANSとほぼ同じ製品レンジに属している。
年商5億円~50億円の中小企業
この年商帯では、ストレージを増強する必要がないユーザー企業と今後増強を予定しているユーザー企業とが混在している。そのため対策としても「メタデータを活用した疑似統合」と「NASアプライアンスへの統合」の二通りが考えられる。
上記「メタデータを活用した疑似統合」の具体例としては、ラネクシーの「NORTHERN STORAGE SUITE」が挙げられる。MEANSやGDMSと同様のコンセプトを持つソフトウェア製品だが、専任のIT担当者が不在であることも少なくない中小企業に向けた配慮がなされている。利用状況を分かりやすい画面で表示するリポーティング機能などがその例だ。価格も10Tバイトの総容量をサポートするライセンスで80万円と、中小企業でも無理なく導入可能な価格帯となっている。
一方、これからストレージへの投資を行う中小企業を対象とし、安価であるが拡張性にも優れたNASアプライアンスも登場してきている。社内でのデータ分散度が低く、これからデータ量が増えていくというユーザー企業の場合には、この段階でデータ整理をしてストレージへの統合を図るという選択も考慮に入れるべきだろう。
こうした用途に向けたNASアプライアンスの具体例が、EMCの「Iomega StorCenter ix12-300r」である。EMCというと大企業向けのストレージ機器ベンダーというイメージが強いが、Iomegaは中小企業に向けた同社のブランドだ。同製品は最大容量24Tバイトまでの高い拡張性を持つ一方、4Tバイトの構成で約60万円からとスモールスタートも可能となっている。
年商5億円未満の小規模企業・SOHO
小規模企業やSOHOでは保有データ量が少なく、ファイルサーバ的PCサーバも多くて数台といった状況が少なくない。この場合には、散在したデータを整理するよりも、クライアントPC内のデータも含めて1カ所に集めることの方が重要なポイントとなってくる。最近ではこうしたニーズを踏まえた低価格のNASアプライアンスが登場してきている。日本HPの「HP StorageWorks X510 Data Valult」はその例である。3Tバイトの容量で約8万円とかなり価格が抑えられており、SOHO規模でも無理のない導入が可能だ。また、同製品は外部からインターネット経由でアクセスできる機能も備えている。モバイルでの利用だけでなく、中小企業が小規模な拠点とのデータ共有を図る手段としても応用できるだろう。
●データ保全の観点ではWindowsベースのソリューションが扱いやすい
「どこに、どんなデータが格納されているか」の把握と併せて、IT担当者はデータの保全についても考慮しておかなければならない。
データセキュリティ全般という意味では検討すべき点が広範囲に及ぶが、上記に挙げたソリューションの選択と関連が深い項目としては「OSの選択」が挙げられる。「メタデータを活用した疑似的統合」に該当するソフトウェア製品はいずれもWindowsに対応しており、Active Directoryとの連携機能を備えるものもある。「NASアプライアンスへの統合」についても、Windows Storage Serverなどを採用する製品が増えてきている。日ごろから使い慣れたWindowsがベースであれば、アクセス権限設定や認証連携などの面で扱いやすくなる。またウイルス対策などについても、既存の対策を適用できる可能性が出てくる。社内の情報処理システム全般が既にWindowsをベースとしており、運用管理の手間を極力軽減したい場合には、Windowsを採用したソリューションを検討するのもいいだろう。
以上、全4回にわたり中堅・中小企業の「データの見える化」について解説してきた。大企業ほどITシステム規模が大きくない中堅・中小企業では「必要なデータ共有は既にやっているし、現時点でも状況は把握できている」と思いがちだ。だが、クライアントPC、業務システム、ファイルサーバにはまだ多くの有用なデータが活用されないまま散在している。それらを「見える化」し、業務に生かしていくことが肝要だ。本稿がその一助となれば幸いである。
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