母の日に昨日みた夢のこと

どこの蕎麦屋だか、
広い小上がりの座敷にテーブルをはさんで
母と向かい合って座っていた。

お茶をすする間もなくぼくの前に天ザルが運ばれて、
母の手元には湯気立つ鴨南蛮と丼飯が置かれていた。
いぶかしげに思って聞いた。

「いつからそんなに食べるようになった？」
「え、あたしゃ頼んでないよ、
こんなに食べないからあんた食べて」
母はすっとぼくのもとに丼飯をすべらせた。

ぼくも食べきれないしどうしよう
そうだハンカチを買ったときのビニール袋がある。
カバンから袋を取り出すと母はにこっと笑った。

店員さんから隠れるようにご飯を袋に入れ
手提げバッグにしまいこんだ。

「今夜はお米を炊かないですむ
　みんなおまえのおかげだね」

ぼくの手をぽんぽんして嬉しそうに笑った。
やれやれ困った婆さんだ、
そう思ったときに夢から覚めた
枕が濡れていた。

父が亡くなり一人になっても山の家で暮らすと
宣言し、隣組や婦人会の世話になりながら細々と
わずかな年金で暮らしていた。

畑を耕し自給自足のつつましい生活でも毎月の
固定費に米や日用品とそれなりに出費はある。
ある年ある時期、母に無断で電気・水道・ガス
電話の現金支払いをぼくの口座からの自動引き
落としの手続きをした。

2か月後、母は烈火のごとく怒りの電話をしてきた。
「おまえはなんにもわかっちゃいない」
最後に「バカ者！」とののしって一方的に切った。

それでなくても母とは古い確執があるというのに
火に油を注いでしまったようだ。
生活費の不足分はツレに頼んで、ぼくには内緒と
いうことにして、振り込んでもらっていた。

他人様に施しを受けても倅の世話にはならない、
それが母のひとり暮らしを支える矜持になっていた。
それから長い年月が過ぎた。

なんであんなに自然に夢に出てきたんだろう
成人してから二人きりで外食したことはない
ころ合いをみて出てきたのかな...
ぼくも母を待っていたのかもしれない。

夢の中で愛のスマッシュを

打つなんて粋だね、母さん

ありがとう。


また明日
Goodnight.