同級生の父親は長いあいだ病に臥せっていた。
胃、肝臓、肺などの重篤な腫瘍は今でいう末期がんを
患っていたと思う。
痩身に青白い顔の父親は色褪せた浴衣姿にステテコで
ツエをつきながら庭を歩いている。
こけた頬に細い目がよどみ、ふらりふらりと歩く姿が幽鬼の
ように思えて、ぼくは目の前から早く消えてくれと願った。
子供は残酷だ。
同級生の家に遊びに行ったある日、
彼の父親がごぼごぼっと洗面器が間に合わないほど
彼の父親がごぼごぼっと洗面器が間に合わないほど
大量吐血する場面に出くわし、布団や床の間にしぶく
血の海を見てしまった。
父親は布団に突っ伏したままぴくとも動かない。
それからほどなく父親は黄泉の国へと旅立った。
それからほどなく父親は黄泉の国へと旅立った。
同級生と母親の顔に深い悲しみと安堵の色を見た。
幼いころから感受性が強いぼくは、かれらを見て、
長患いの末に死ぬとはこういう事なんだと思った。
幼い頃のトラウマはしばらく残り、ときどきフラッシュ
バックしたが、不思議に彼の父親は登場しない。
それ以降は野生動物やペットの非業の死を知ると
ニンゲンより多くの哀れを覚えるようになった。
あの頃の中華そば(支那そば)は30円か40円?
細い麺に醤油のスープ、チャーシューはなくて
鳴門とシナチクとネギだけだったような。
3日目に食堂が開いた。
小太りのおばさんは威勢よくそばの湯切りをし、
同級生はカネのお盆で中華そばを運んでいる。
この日から普段と変わらない日常に戻り、
次の日は神社の大欅の根っこに隠したビー玉を
探しに行くことになった。
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