田んぼのあぜ道でバッタやてんとう虫を捕っていた。
草むらの中でネズミくらいの大きさの黒い影が動く
はっとして草むらに手を突っ込んだらバスが出てきた。
バスといっても赤く錆つき窓ガラスも割れている。
バスの横に回ると移動販売らしい大きな開口部があり、
その隣に雨ざらしのノボリが斜めにかしいで立っていた。
"おいしいホットドッグとハンバーガー"と書いてある、
しゃがみこんで時代錯誤なノボリの字を眺めていると
人気のないバスからふいに怪しげなおっさんが現れた。
「美味しいですよ」
有無を言わせない威圧的な口調にたじろぎ
思わずハンバーガー2個と口についた。
ぼくは後ろを振り向いた。
姿が見えない誰かにぼくは必死で呼び掛けた
「早く、こっちこっち、ハンバーガーだよ」
あぜ道の向こうから喘ぎながら近づく人影は
「あたしゃそんなもん食べんよ」
あぁぶっきらぼうなその声は....。
ぼくが手招きしたのは10年前に他界した母だった。
命日でもないのに、一度も見ない母の夢をみた。
懐かしさだけが込み上げる。
深夜に目が覚めて、
「婆あ、お迎えはまだ早い」
そう悪態をつきながら線香をあげた。
血縁のない父はよく夢にでてくる。
いつも柔和でやさしいオヤジそのもので
競馬や鮎釣りの話で誘ってくる。
母はぼくよりも父を愛し、晩年も父のために生き、
おのれが息を引き取る寸前まで自己完結を貫いた人。
腹を痛めて産んだわが子より、夫を大事に生きた人。
人それぞれの人生
なげくことはないさ
生きてるだけでもうけもの。
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