檸檬を仕掛けられたのは
丸善の棚だったのだろうか
――中谷孝雄(作家)
珠玉のような短編を残し、早世した梶井基次郎の代表作は、やはり『檸檬』だうか。青春時代の不安が、みごとに黄色いレモンに凝縮している。小説の主人公が、京都の書店・丸善でアングルなどの画集を「奇怪な幻想の城」のように積み重ね、上にレモンを乗せる。
書籍の雑多な色が紡錘形のレモンに吸収され、書店の空気が冴え返る。そのまま店をあとにし、黄金色に輝く恐ろしい爆弾が炸裂する光景を想像する。この有名な場面は、実は小説のなかだけではない。京都三高(現京都大学)時代、同窓生だった中谷孝雄の家にもレモンを置いていった。「これを食ったらあかんで」とだけいい残した。
後年、『檸檬』が発表されたとき、中谷はそれを思い起こして驚愕する。彼は普段から梶井を「妥協家」「理想主義者」と辛辣に批評していた。青春の心にのしかかる「えたいの知れない不吉な塊」は、梶井のような若者たちにレモンの爆弾をしかけさせる。いつの時代も青春の不安と破壊への意志は変らない。
丸善の棚だったのだろうか
――中谷孝雄(作家)
珠玉のような短編を残し、早世した梶井基次郎の代表作は、やはり『檸檬』だうか。青春時代の不安が、みごとに黄色いレモンに凝縮している。小説の主人公が、京都の書店・丸善でアングルなどの画集を「奇怪な幻想の城」のように積み重ね、上にレモンを乗せる。
書籍の雑多な色が紡錘形のレモンに吸収され、書店の空気が冴え返る。そのまま店をあとにし、黄金色に輝く恐ろしい爆弾が炸裂する光景を想像する。この有名な場面は、実は小説のなかだけではない。京都三高(現京都大学)時代、同窓生だった中谷孝雄の家にもレモンを置いていった。「これを食ったらあかんで」とだけいい残した。
後年、『檸檬』が発表されたとき、中谷はそれを思い起こして驚愕する。彼は普段から梶井を「妥協家」「理想主義者」と辛辣に批評していた。青春の心にのしかかる「えたいの知れない不吉な塊」は、梶井のような若者たちにレモンの爆弾をしかけさせる。いつの時代も青春の不安と破壊への意志は変らない。