指導医ガイドラインより指導方法の理論について解説する
まずは畑尾先生による
学習の目標と方略から
望ましい学習活動の特徴が記載されている
「積極的な(学習への)参加」や「罰せられるよりも報われる(学習)」が望ましいものであり
「具体的な目標を知っている」ことが学習への動機づけになることも大切とある
教育心理学では、望ましい学習について次のような原則的な特徴が挙げられている。
1.積極的参加者であり、消極的な受け手ではない。
2.現在の学習の具体的な目標を知っている。
3.学習目標は何ら努力しなくても到達可能なほど低くもなく、絶対に到達できないほど高くもない。
4.学習したものを新しい問題に巧みに応用できた場合には大いに満足し、また、いろいろな場合に適して
みて、その有用性の限界を知る。
5.いろいろな学習方法や資源を利用でき、また自分のペースで学ぶことのできる方法を選べるチャンスも
与えられる。
6.修得した知識や技能を、長く自分のものとして活用できるよう反復練習する。
7.学習の途次に生じるであろう矛盾や失敗に対処するチャンスが与えられる。
8.学習成果が直ちにフィードバックされ、自己評価能力が高められる。
9.学習目標と評価法との関係を知っている。
10.失敗に対して罰せられるよりも、成功に対して報われる。
(臨床研修指導医講習会資料等より変更)
臨床研修も学習であり基本的な理論は同じといえる
教育目標の分類(教育目標分類:taxonomy)
教育目標を明確にすることは、関係者の教育に関するコミュニケーションや理解を深めるとともに、教 育する上での基準設定や改善活動などにつながる。この教育目標の明確化に有用なのが、教育目標分類(taxonomy)である。これは、学習者(研修医など)が習得する能力を、認知領域(知識)、情意領域 (態度)、精神運動領域(技能)の三つの領域に分類したものである。
これらについてはこのブログでもこれまで何度となく記事にしてきた
理論はこのようなものに基づくのである
教育目標分類の3領域(3 domains)
浅い 深い
認知領域 想起 解釈 問題解決
情意領域 受け入れ 反応 内面化
精神運動領域 模倣 コントロール 自動化
この分類は、教育とは学習者の行動に望ましい変化をもたらす(何かができるようになる)プロセスである、という考えが基礎になっている
認知領域は、暗記したことを思い出す(想起)レベルから、解釈、問題解決という深いレベルまで、深さによって分類され、どのレベルを目標にするかも意識して目標設定することが望ましい。態度や技能についても、深さの分類が提唱されている。
臨床教育の特徴
この指導医ガイドラインでは
臨床教育の7つのポイント-Stanford Faculty Development Program-
が紹介されている
Stanford 大学の Kelley Skeff らによって提唱されている教育技法であり
以下の 7 項目をポイント としているとある
教育の雰囲気をよくする
教育を適切にコントロールする
目標の明確化する
理解と定着化の促進のための工夫をする
評価の工夫をする
フィードバックの仕方に注意する
自己学習の促進する
伴先生は以下のように紹介している
1.教育の雰囲気をよくする
勧められる具体的な行動
1)学習者を参加させる
指導医もチームの一員となって、研修医に一定の役割を与える。また、カンファランスなどでは一方的なレクチャーはあまり勧められない。ディスカッションに参加を促す。
2)馬鹿にしたり、皮肉を言ったりしない
(学習者である研修医を)馬鹿にしたり、皮肉を言ったりするような対応は、大人でも、子供でもプラスに働くことは殆どない。改善 すべきことを厳しくフィードバックするのと、このような対応とは全く異なる。
3)指導者も自分の間違いや限界を認める
特に若手の指導者は、自分の知らないことや、間違いを恐れる。しかし指導する意義は、知らないときにはどう調べるか、失敗にどう対処するかなどを見せることの意義のほうがはるかに大きい。
2.教育を適切にコントロールする
勧められる具体的な行動
1)学習者のレベルに応じて指導スタイルを変える
学習者(である研修医)には、いろいろなタイプの人がいるし、また臨床能力のレベルによっても指導法を変えるべきである。不安の強い研修医には、最初はある程度指示的に対応する。
2)ペースを変える単調な進め方でなく、メリハリをつける
特に質問が出たときには “Magnify the question !” いろいろその質問から議論を展開できれば最高である。「その質問はあとにしなさい」などと言ってはいけない。
3)教育の場の現実的な制限を考える
あれもこれも教えようとしてはダメ。教えたいことの3-4割を目安にする。また、立て込んでいる外来では、ゆったりした外来とは教え方もおのずと異なる。
3.目標を明確化する
勧められる具体的な行動
1)目標を明確にし、繰り返し述べる
目標がないところには評価は無い。また、学習者も行き先に戸惑う。
2)目標のもつ意味を、例を挙げて述べる
具体例が最も分かりやすい。
3)学習者の目標を確認する
あてがいぶちの目標は、必ずしも学習者のニーズに合致しない。自分で立てた目標には動機付けも伴 う。
4.理解と定着化の促進のための工夫をする
勧められる具体的な行動
1)内容のサマリーを挿入する
これは、知識の理解と定着化のための工夫の一つである。最初にアウトラインを示し、途中途中で要約し
ていく。
2)態度の定着化のための工夫をする
望ましい態度は褒め、改善すべき態度は、あまり時間をおかずにすぐにフィードバックする。また、その
際無用にプライドを傷つけぬよう配慮する。
3)技能の定着化のための工夫をする
“See one、do one, teach one”とは、昔から米国の臨床教育で言われてきたことであるが、do oneの前に、read oneを私は入れている。すなわち、手技について一度自分で教本に当たって勉強しておくように勧めている
5.評価の工夫をする
勧められる具体的な行動
1)学習者の行為を直接観察する
伝聞で評価をしてはいけない。評価は自分で観察したことに限るべきである。
2)評価の順番に留意する
評価の順序は極めて大切である。「自己→同僚→指導医」の順が望ましい。 まず指導医から評価に入ると、negative feedbackが多くなる。まず研修医に自己評価してもらって、出来ていなくても自分でそのことに気づいている場合にはpositiveに評価する。これは教育の雰囲気にも大きく影響する。同僚評価も大切。
3)学習者の気付きをpositiveに評価する
このことの大切さは前項で述べた。
6.フィードバックの仕方に注意する
勧められる具体的な行動
1)教育の雰囲気を悪くしないフィードバックの仕方に配慮する
(1)まず良い点を褒める(strength first) (2)改善すべき点の指摘後も、励ましの後押しをする
2)できるだけ速やかに行う
定期的なフィードバックはあまり効果がない。褒めるも叱るも早めに!
3)学習者が納得できるような仕方で行う
褒める場合も叱る場合も具体的な学習者の行動を対象とする。また、できるだけ具体的な、建設的なアドバイスをする。例;「10分早く来るようにしたらどうか」
7.自己学習を促進する
勧められる具体的な行動
1)指導医の知らないこと・コンセンサスの得られていないことを課題に出し指導医も調べてくる
ロールモデル(模範・お手本)を示すことは、百聞は一見にしかずである。
2)学習者の興味を伸ばす
よほどその方向性が間違っていない限り、学習者の興味のあることを伸ばすことが、最も効果的かつ効率的な教育効果を生み出すであろう。
3)自己学習用の教材を示す
自己学習をするためのソースを示すかどうかは、時間的余裕などの状況による。
この「臨床教育の7つのポイント」は、伴先生が1995年にこのスタンフォードのプログラムに参加して以来、
実際に自分でも実践し、総説論文にも発表してきた。
日本でも少しずつ広まってきているが、もっともっ と多くの臨床研修指導医に使ってもらいたいスキルだと感じているとコメントしている。
【参考文献】
1. 伴信太郎:指導医の役割とノウハウ.JIM 6(7), 592-596, 1996.
2. 伴信太郎:内科臨床教育の実践技法.最新内科学体系 プログレス1;総合診療、30-37. 中山書店、東京、1998.
つまり
臨床における研修でも医学生の臨床実習でも同じことであろう
いかに指導医が意識しなければいけないかということがわかる
臨床指導医となったからには
常に意識しておかなければいけないことだと考える