最近では大学教育における質向上と質保証の必要性が問題となっている。
つまり、大学が(医)学生にどのような能力を身につけさせ、そのためにどのようなカリキュラムを用意したのか、そして最後にその(医)学生が修得したのかをどのような評価で行ったのか保証することが課題となる。
現実はどうなのか。
多くの大学の教員は「自分たちは完璧とも言える授業を行っている」「試験も時間をかけて作っている」と自負している。
試験後は(医)学生の成績について驚き「教えたはずだ!」「(医)学生が勉強しない」「そもそも教科書を買ってないのが問題だ」「勉強しない彼らにこそ原因がある」と責任転嫁を行う。
さらには進級判定や卒業判定では多少の自責の念に「次ぎに期待して進級させましょう」「国家試験では頑張ってくれることと信じましょう」となる。ときには親も出てきて懇願なんてケースもある。
医学部以外の多くの大学が、今までの『インプット』の時代から、(医)学生がどのように成長したのかという学習効果『アウトカム(ラーニングアウトカムとも言います)』に焦点を移して質向上と質保証を真剣に議論しつつある中、近年になりようやく医学教育においても『アウトカム』を意識した動きが出てきている。
本学も現在カリキュラム改訂に向かって真剣に議論を行い準備している。
まさにこの『アウトカム』を意識した議論が熱くなされている。
このような『アウトカム』というのは、言い換えれば『本学ではこのような医学生に育てます』ということであり、これを明らかにすることが説明責任(アカウンタビリティ)である。その際にもっとも重要視されるのが、証拠(エビデンス)を明らかに示すこととなる。
教員による一方的な『~やってます』だけでは、(医)学生がどうなったのかというアウトカムの証明には残念ながらならないと考える。正直、社会に対する説明責任になっていないと言える。
臨床研修必修化は研修医の質向上と質保証が社会から望まれ始まったとも言える。
まさに臨床教育におけるアウトカムを示すことが望まれていたはずなのである。
ところが一番課題となる保証のための評価方法については、すべて臨床研修病院任せであることが一番気になる課題である。本来であれば研修プログラムには到達目標とともにどのように達成度を評価するかということが記載され、さらにそれを達成させる研修内容が明示されているべきである。
つまり、医学教育に関心があり、評価を真剣に議論した病院のプログラムにはきちんと明示されていはずで、そのような病院であれば、本学の卒業生にもぜひともマッチングでお勧めしたいものだ。
しかし、残念ながら、いまだに研修医集めが主目的である病院ではそのことを説明していないことが多い。残念ではあるが、その事実にきちんと気づいて病院選びが行われているとは思えないのが現状だ。
これからの大学の質向上と質保証を考えたとき、一般大学であれば就職先や進路(大学院への進学など)は重要な証拠になるだろう。
医学部で言えばマッチングである。巷では、大学病院における自学出身者数の割合だけで善し悪しを云々述べている雑誌もあるが、はたして正しい価値判断なのであろうか。記事を書いている雑誌社がきちんと研修プログラムを評価したのであろうか。本学のように卒業前に4年生や5年生、6年生に複数回にわたってマッチング制度を説明している大学がどれ程あるのだろうか。本学のように、他の臨床研修病院を見てこいなどと指導する大学がどれ程あるのだろうか。真剣に将来を考える医学生が、数カ所見学した上でようやく本学を選択したことをどう説明するのだろうか。
大学の教員として医学生に『病院選び』を指導することも重大な使命であり、質の向上と質の保証には大切だと考えている。