宇宙船地球丸

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『地球温暖化対策の実像/ロンドンからの報告 「神話」か?「真実」か? [後編]』

2009-02-02 08:09:58 | 環境教育
 「宇宙船地球丸」の管理人スパイラルドラゴンです。今日は、2009年2月2日です。
 今日の本文は、昨日アップした『地球温暖化対策の実像/ロンドンからの報告「神話」か?「真実」か? [前編]』 by 浅妻一郎 の続きですが、登場人物のナイジェル・ローソン卿は、『The Global Warming Swindle(地球温暖化詐欺)』にも出演されている人為温暖化否定論者です 。


(以下転載)

 地球温暖化対策の実像/ロンドンからの報告
 「神話」か? 「真実」か?[後編]


 元英財務相の痛烈な政権批判


 地球は温暖化しつつあるか?

 2007年4月18日、ブラッセルの欧州議会ビルで一つのセッションが開催された。「気候変動:適切な対応を評価する」と題されたこの会議は、英国選出の欧州議会議員ロジャー・ヘルマー氏が議長となり、基調演説をナイジェル・ローソン卿(サッチャー政権下のエネルギー大臣、後に財務大臣)が行い、6人のパネリストが登壇した。

 しかしながら、いつもの気候変動の会議と異なっていたのはその内容であった。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による評価の妥当性を問うものであったのだ。

 IPCCは2500人以上の科学者によって、地球温暖化に関する最新の知見の評価を行い、2007年4月6日には当時作成中だった第2作業部会の第4次報告書の一部をなす「政策決定者向け要約」が発表されていた。

 その内容は、「気候変動の影響は、すでに世界中の生態系に及んでおり、今後気温が上がれば、ますます深刻化する。1970年以降のデータを基に評価すると、人類の活動がもたらした温暖化は地球のシステムに明確に影響を与えている」ことを中心のテーマに据え、水、食糧、健康などの影響を懸念する内容となっている。これらの内容の多くは、共通の認識として捉えられ、今後、世界各国がどのような政策をとっていくかという論争の基礎になっていることはご承知のとおりである。

 一方、この会議を主催したヘルマー議員は、彼のホームページで明確に主張している。

 問:地球は温暖化しつつあるか?──答:僅かに 

 問:温暖化が進み、壊滅的な打撃があるという確かな根拠はあるのか?──答:ない 

 問:温暖化は人類による二酸化炭素(CO2)排出がもたらしたものか?──答:多分違う 

 問:京都議定書のような政策の提案は意味があるのか?──答:絶対にない 


 同氏はその根拠として、大気中のCO2濃度は平均気温と相関があるものの、CO2の水準は気温よりも後に上がっていることを指摘している。気温がCO2濃度を上げているのであり、その逆ではないというのがヘルマー議員の主張であり、気候変動の議論を排す立場を明確にしている。

 併せて、気候変動への大げさな反応は、今や一つの「産業」ともなり、科学者やロビイスト、ジャーナリストが便益を享受しているとしている。


 「検閲」に対する批判

 会議で基調演説を行ったローソン卿は、2005年7月に英国上院の特別経済委員会において「気候変動の経済学」をまとめたメンバーのひとりである。
 「われわれはIPCCの客観性に懸念を持っている。いくつかの排出量シナリオと要約文書は、政治的な配慮に明確に影響を受けている」、「英国政府はIPCCに、もっとバランスのある見方をするよう勧告すべき」とした。

 だが、この委員会の意見は、英国政府の正式見解には反映されなかった。2006年10月30日に英国政府により発表された『スターン・レビュー』は、従前からのIPCCの方向性を踏襲し、「気候変動への対策を講じない場合、そのコスト・リスクは世界全体のGDP(国内総生産)の少なくとも5%を失うことに相当。リスク・影響をより広く考慮した場合、GDPの20%かそれ以上と推定した。一方、早急に対策を講じた場合には、コストはGDPの約1%程度に留まる」などの帰結を導き出したのである。こちらの議論を英国政府は支持したのである。

 パネリストの一人、英リバプール・ジョン・ムーア大学上級講師のベニー・ペイザー博士は、長年、気候変動と向かいあってきた。2005年5月1日付けの英デイリー・テレグラフ紙に掲載された同博士の記事では、昨今はやりの気候変動に挑戦するような記事を科学雑誌が拒絶しており、これは「検閲」であるとして、著名な科学雑誌『サイエンス』と『ネイチャー』を批判した。

 一方、両誌の側からは「反対の意見も載せている」「科学的に受け入れられるものならば歓迎する」と、コメントを寄せている。同博士は、上記の議論に加えて、気候変動の研究者たちが「本来予測することができないはずの未来」に対して、コンピュータモデルの予測を使っていることは論理的におかしいだろうと主張している。

 また、もう一人のパネリストであるデビッド・ヘンダーソン氏(ロンドンのウェストミンスター・ビジネス・スクールの客員教授、経済協力開発機構の元エコノミスト)は、「気候変動について、政府はIPCCの言うことしか聞かない」として、各国はもっとバランスのある意見を聞くべきであり、CO2排出量を急いで削減する計画を追い求める動きを止めるよう訴えた。

 このようなIPCCへの批判は、急に出てきた訳ではない。2005年1月には、米国のハリケーンの専門家であるクリストファー・ランドシー博士が、「恣意的な協議事項と科学的に健全でない議論」を理由に、IPCCから抜けている。このことは、本来純粋に科学的であるべきIPCCの議論に政治的要素が入り込んでいる事態を予見させていた。

 ローソン卿が発する二つの警告

 ローソン卿は2008年春に、『アン・アピール・トウー・リーズン(理性に訴える)』という著作を出版。現在の気候変動の議論を真っ向から批判している。同書の中核は、「地球の気温を決定するメカニズムについての科学は、決着がついている、もしくは理解が得られている、といった状態からほど遠い」「地球温暖化を疑問視すると、神を冒涜するのと同様の批判に曝される」「グリーンは新たなアカ(共産主義)だ」という、過激な議論に満ちている。まさに気候変動という「神話」に対する挑戦である。

 この著書を出すにあたって、ローソン卿は2008年4月7日に英フィナンシャルタイムズ紙に寄稿し、気候変動への批判を明確に示している。ローソン卿は、まず、地球の気温上昇は人類が排出したCO2に起因するものである、という議論に疑念を挟んでいる。

 地球の気温を形成するメカニズムについては、いまだにわからないことが多く、IPCCの主張する議論についても「……らしい」程度のものでしかなく、また今世紀における大量のCO2排出にもかかわらず、最近では地球の気温上昇は止まっている、としている。

 併せて、同紙において、ローソン卿は二つの警告を発している。一つは、すでに気候変動の問題についてかなりの発言を行っているEU(欧州連合)が、世界に(CO2削減の)例を示すことで自らの経済に大きな損害を与えてしまうこと。そして、もう一つは、EUがCO2排出を強制的に削減する準備のない国々に対して貿易障壁を設けよう、としていることだ。気候変動の議論が、再生可能エネルギーなど高コストのエネルギー源を選択することによってコストを押し上げ、欧州経済の活力を奪うこと、さらには、世界経済を支える自由貿易体制にも干渉しかねないことを危険な行為である、としているのだ。

 後者の議論は、2008年3月のEU首脳会議における「カーボン・リーケージ」、すなわちCO2の排出について厳しい制限を設けることにより、エネルギー多消費型産業が、より規制のゆるい地域に流出してしまう事態にどう対処するかという議論を彷彿とさせる。3月14日付けのロイター電などによると、首脳会議の場においても、ブラウン英首相とサルコジ仏大統領は、カーボン・リーケージ対策としてCO2排出規制が厳しい国からの産品には、付加価値税を緩和させることでEU域内の産業を守る議論をした、という報道がある。

 ローソン卿にしてみれば、「何をいまさら」といったところであろう。

 自由な世界を守り、発展させてゆくために

 英サンデー・タイムズ紙(2008年4月20日付け)のインタビューに応じたローソン卿は、「排出量取引は中世の免罪符(のようなもの)であり、あやしげな証書をもらって安心していても、CO2の排出は本当には減らない」「本気でCO2を減らすのであれば、広範な環境税を課すべし、今の政府にそれができるか」という、鋭い切り口を向けている。現在の議論の有意性に真っ向から疑念を挟んでいるのである。

 さらに、同卿は「私は偏狭であることを憎む。私が寛容でなくなるのは、寛容さを許さないことに対してだ」と発言している。自由な市民社会における言論を制約し、あたかも唯一の真実のような主張にこだわり、既定路線を超えるものには冷たい目を向ける……まさに、チェコのクラウス大統領と同様に、同じ脅威に対して警告を発しているのである。

 欧州は排出量取引を中核として、気候変動に対する議論は一枚岩のような報道もなされているが、欧州内でも、さまざまな意見が存在する。一方、欧州で起こった気候変動の議論は、すでに世界に伝播し、米国や日本の政策に大きな影響を与えている。さらに、多くの賛同者を得るに至っており、経済成長の著しい中国やインドも世界の議論を無視できないところまできている。

 一方で、大規模な製造業が衰退しつつあり、かつ中東欧に大きなエネルギー効率改善の余地を抱える欧州起源の気候変動の議論は、排出量取引を含む金融手法と一体化して発展してきた、という側面を持つ。

 気候変動をめぐるビジネスは、すでに大きな広がりを得ており、特に金融機関が参画することで「CO2の価格」という、誰も手に取れないもの、金庫にしまっておけないもの、正確な計量もできないものが世の中を闊歩している。しかもポジティブなイメージで。

 批判するものには、誰でも容赦なく世論が攻撃する。あたかも中世の「魔女狩り」のように。「神話」が堂々と歩いているのかもしれない。

 かつて、社会主義の理論的支柱となったドイツ生まれのカール・マルクスは、「万国の労働者よ、団結せよ」と叫んだ。当時の過酷な労働条件に苦しんでいた多くの労働者たちは、マルクスの言葉に酔った。

 気候変動の議論でIPCCが、「地球は温暖化している、救えるのは今しかない」と言っていることに対し、世界を挙げてエネルギーの効率的な利用に努めることは、現代に生きるわれわれの責務であると確かに思う。

 しかしながら、社会主義体制が結果として崩壊したように、継続困難な進め方は、必ず崩壊する時が訪れる。常に批判の目を持ち、持続的成長が可能な社会を考えることが、気候変動の問題に取り組む際の前提でもあるのでは、と感じられてならない。

浅妻 一郎 氏 (あさづま いちろう)
東京電力 ロンドン事務所 前副所長
2005年より副所長としてロンドン事務所駐在。ロンドン事務所ではエネルギー安全保障や気候変動などのトピックスをカバーするとともに、事務所内業務を総括。2008年6月をもってロンドンより帰国。現在、東京電力(株)本店原子燃料サイクル部部長代理。

(転載終わり)

スパイラルドラゴン拝


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