毛越寺あやめ園で、念願のハナショウブに出会うことができました。
そしてここでも、花は盛りを過ぎていました。
しかし、そんなことで文句を言うと、「文句ばっか、言ってんじゃねーよ」って、またチコちゃんに叱られそうです。
毛越寺あやめ園のハナショウブに心満たされ、次に「花輪堤ハナショウブ群落」を目指し車を走らせました。
ところで「あやめ園のハナショウブ」に違和感を覚えた方、貴方は言葉に注意深く、優れた感性の持ち主です。
今更ですが、アヤメ、ショウブ、ハナショウブは誰が何と言おうとも、全く異なる植物です。
そしてショウブは、全国の池や沼などの水辺に生育するショウブ科の多年草です。
全草に芳香ある精油成分を含み、根茎から幅1-2㎝の剣状の葉を伸ばし、5-7月頃、小さな花が集まった、こん棒状の目立たない地味な花を咲かせます。
ショウブの葉 ショウブの花穂
ショウブは漢字で「菖蒲」と書きますが、この字は「あやめ」とも読みます。
そして本来「あやめぐさ」と呼ばれたのは、上の写真に示したショウブなのです。
しかし18世紀以降、人々はアヤメやカキツバタなどのアヤメ科アヤメ属の植物を「あやめ」と呼びはじめ、何時の間にか、「あやめ」と言えば、美しい花を咲かせるアヤメ科の植物を意味するようになりました。
アヤメ カキツバタ
更には、そのアヤメやカキツバタと区別する為に、「葉がショウブに似て、美しい花を咲かせる植物」を「はなしょうぶ」と呼び始めたようです。
ハナショウブはアヤメと明らかに異なりますが、現在では慣習的に広く「あやめ」の名で呼ばれており、あやめ園、あやめ祭り等のほぼ全てが、ハナショウブを植栽し、ハナショウブを愛でる祭りなのです。
更にややこしい話ですが、読者をもっと混乱させる話があります。
実はハナショウブは、ノハナショウブを原種とする園芸品種なのです。
ハナショウブ 品種「文の糸」 ノハナショウブ
ノハナショウブとは、日本、中国、朝鮮半島の水辺や湿原などに分布する多年草です。
日本では、以下の3か所がノハナショウブ自生地として国の天然記念物に指定されています。
花輪堤ハナショウブ群落 (岩手県花巻市)
斎宮のハナショウブ群落 (三重県多気郡明和町)
栗野町ハナショウブ自生南限地帯 (鹿児島県姶良郡湧水町)
そして原種としてのノハナショウブの色変わり種が、江戸時代の頃に栽培され始め、江戸、伊勢松坂、肥後熊本などで品種改良が進み、我が国独自の園芸品種群が開発されたのです。
日本人は野生植物の色変わり種を採取保存し、新品種を作り出す作業を江戸時代の頃から続けてきました。
ハナショウブ以外だと、ツバキ、ツツジ、アサガオ、キク、サクラソウ、サザンカ等々です。
世界を見回しても、江戸時代の頃から、そんなことを続けてきたのは日本人だけです。
ということで、今回なぜ私が「花輪堤ハナショウブ群落」を訪ねたかったかが、ご理解頂けたでしょうか。
私はノハナショウブが咲く自生地を目に焼き付けると、満ち足りた思いで車に戻り、更に北を目指しました。
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