白草峠を越えた辺りで興味深い光景に気付きました。
峠道を蛇行しながら下っていると、段々畑のように石を組んだ場所にヤブツバキが植えられているように見えるのです。
路肩に車を停め、状況を確認しました。
ヤブツバキは、まるで和歌山や静岡県のミカン畑のように、階段状に石を積み上げた斜面に葉を茂らせていました。
ヤブツバキがこのように育つ状況を私は見たことがありません。
この場所はヤブツバキの為の畑か、あるいはミカン畑などの跡地にヤブツバキを植えたかのように見えます。
これは面白い!
今まで数多くのヤブツバキ林を見てきましたが、ヤブツバキは岩や礫が露出するような斜面にも平気で育ちますので、これ程までに人の手を掛けた場所にヤブツバキが育つ様子は見たことがありません。
勿論、他の作物畑にヤブツバキを植えた可能性もゼロではありませんが。
そんな景色の中を走っていると、目の前に番岳のピークが見えてきました。
番岳は標高442mで、中通島で最も標高の高い山です。
以前、福江島の権現山の記事を書いたとき、中通島を主とする山も調べましたので、標高300m以上の山々を以下に列記しておきます。
これらの山を訪ね歩く人が増えれば、あの「玉之浦椿」のような名椿が再び見つかるかもしれないと、そんなことを考えます。
ヤブツバキが繁茂する自然林は日本以外に存在しませんから、日々の暮らしの中でツバキを見る楽しさを、多くの人に知ってもらいたい思いがあります。
生まれてきた場所、その時々を精一杯に楽しむことが、人生そのものと思うのです。
生まれてきた日本でしか出来ないことを精一杯に楽しもうではありませんか。 でなければ勿体ない。
番岳 442m 中通島:新魚目町
三王山雄岳 440m 中通島:上五島町荒川郷三王山133
高熨斗山(たかのしやま) 430m 中通島:上五島町奈摩郷
三王山雌岳 403m 中通島:奈良尾町
矢倉岳 384m 中通島:有川町
丹那山 369m 中通島:新上五島町江ノ浜郷
魚目番岳 368m 中通島:新魚目町
多石山 362m 中通島:新魚目町
三峰山 343m 中通島:有川町
飯盛山 337m 中通島:有川町
黒木山 335m 中通島:有川町
桜ケ岳 330m 中通島:有川町
藤嶽 330m 中通島:有川町
扇山 330m 中通島:奈良尾町
小番岳 313m 中通島:新魚目町
遠見番岳 308m 中通島:奈良尾町
天神山 307m 若松島:若松町
振り返ると、セルリアンブルーの海を抱え込んだ小串鼻の岬が見えていました。
手前の斜面には、ヤブツバキを主とする照葉樹林が、のびやかな陽の光の中で、二酸化炭素を取り込みながら緑の葉を茂らせています。
私は対馬暖流の恵みに満ちた五島灘を眺めながら、午後の柔らかな陽射しに包まれる中通島の北端に向かって走り続けました。
山の斜面にポツンと一軒家が、柔らかな陽射しを受けて、ナノハナを滴らせていました。
そんな県道32号が、海に崖を落とし込む道に導かれて進んでいると、丁度南斜面に差し掛かった時、車窓に一瞬、通り過ぎてきた辺りの光景が視野に入りました。
そして私は、急峻な斜面に、赤い何かが見えたのを見逃しませんでした。
ブレーキを踏み、ギアをバックに入れ、車を10m程も後退させて、カメラをズームすると、信じられない場所に、赤い屋根の教会らしき建物を見出したのです。
帰路に立ち寄り、これが赤波江教会であることを確認しましたが、今グーグルマップで見ると、この下の海岸に数10mほどの小さな護岸に守られた船寄せ場があって、漁船らしき3~4隻の船影を認めます。
しかし、車が海岸まで進めそうな道はなく、人が歩いて通れそうな小道を認めるだけです。
獲った魚は人が背に担いで登るのでしょうか。
山の斜面は全て木が茂る森に包まれ、漁業以外に生計を立てることはできそうもなく、この小道が命を支えることになります。
私は2014年にネパールを訪ね、信じがたい急斜面にへばり付く山村に驚きましたが、赤波江教会の周囲に点在する民家はそれに匹敵するものでした。
それにしても、人間の持つ潜在能力や可能性にはただただ驚かされるばかりです。
ちょっと蛇足ですが、グーグルマップの写真で、赤波江教会を表示し、海岸に下りる場所をズームしてゆくと、斜面の中に、十字架を掲げたような墓地が見えてきました。
興味のある方は是非確認してみて下さい。
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