「生きもの」
私がずっと後になって少しばかり手を貸したと思う時がある。
駅のホームで指の先にふと赤とんぼがきてとまったことがある。
公園のベンチでどこからか老い耄れた犬がよってきて両足の間にうずくまったことがある。
狭い庭の高く伸びた竹の葉の繁みで野鳩の雛が二羽生まれたことがある。
そっと覗くと危うく揺れながら小さな瞳がカメラレンズのシャッターのように
瞬いているのを見たことがある。
瞬いているのを見たことがある。
とんぼや犬や鳩は誰かの生まれ代わりだろうか私が知らないところで
少しばかり手を貸したと思う時がある。
(上林 猷夫 みちお 作)