市ヶ谷日記

喜寿を超えた老人です。日々感じたことを、過去のことも含めて、書き記しておこうと思います。

次期WHO事務局長は「尾身茂」氏。日本は総力を挙げてその実現に努めるべきである。

2020-05-26 | 独吟
 コロナウィルスの蔓延とともに、「尾身茂」という名前がテレビや新聞を賑わすようになった。いうまでもなく、新型コロナウィルス感染症対策専門家会議の副座長であり、安倍首相の記者会見に感染症の専門家として同伴する、厚生労働省の元医系技官である。
 尾身氏の経歴を瞥見すると、この人が立身出世街道を一直線に歩んで来たのでなく、これまでどちらかといえば紆余曲折の人生を経て来たことが分かる。
 尾身氏は、若い頃「東大を出て外交官になる」希望を抱いていたらしい。教育大学(現・筑波大学)付属駒場高校の在学中に、AFS交換留学生として米国に留学している。当時は今のように自由に円を外貨に交換できる時代でなく、留学するには難しい試験をパスし、ドルなどの外貨奨学金を得なければならなかった。
 尾身氏が留学から帰国し東大受験を目指した1969年、大学紛争で東京大学の入学試験が取り止めとなり、やむなく慶應義塾大学法学部に入学したが、その3年後の1972年には、医師になることを志し、自治医科大学に入学し直している。
 自治医科大学は1972年の創設でその年に初めて学生を募集していた。当時、無医村の存在が大きな社会問題になっていて、全国の都道府県が資金を拠出し合い、創設したのが自治医科大学である。そうした特異な過程を経て創られた自治医科大学は、入学試験を一次は都道府県が、二次は自治医科大学が行い、入学できるのは各都道府県選抜の2~3名であった。全寮制で、入学後の諸費用(学費および生活)には奨学金が付与された(卒業後9年間、出身都道府県の職員となり、医師として勤務すれば、返済を免除される)。
 こうしたことから尾身氏も、自治医科大学卒業後、1978年から1986年までの間、東京都衛生局の医系技官として都の島しょ部で勤務している。奨学金返済の義務年限を過ぎた1989年、当時の厚生省に転籍し、1990年には東京都時代の僻地医療の経験を活かしてマニラにあるWHO(世界保健機構)の西太平洋地域事務局に入った。
 事務局ではポリオの根絶事業や感染症対策等に従事し、事務局内での人望も高かったことから、1998年、WHOの西太平洋地域事務局長の選挙に立候補した。
 実はこの選挙が大変だったのである。よく知られているように、国連事務局をはじめ国際機関で働く公務員の人事は、そこでの働きの成績により昇進するわけでなく、特にトップともなれば加盟国の投票で選ばれることになっている。事務局長のポストは希望者が多く(特に、後進国からの)、競争が激しくて、しばしば我が国の公職選挙では禁じられているようなことが大々的に行われている。
 この間の事情は、我が国の事業会社が外国政府発注の大規模プロジェクトの入札で中国や韓国の企業に敗れるのと同じである。日本企業は、我が国のマスメディアからの非難を恐れて、日本における公共事業の入札と同様な受注競争をし、受注に敗れるのである。
 WHOの西太平洋地域事務局長の選挙は、域内のオーストラリア、カンボジア、中国、フィジー、日本、マレーシア、フィリピン、韓国、トンガ、ベトナム等の27ヶ国、それにフランス、ポルトガル、英国および米国が加わり、31ヶ国の投票で決まる。各国の持ち票はそれぞれ1票である。この時の選挙では、尾身氏ゆかりの人たちが資金を出し合い、選挙工作に使ったようで、見事5代事務局長に選出され、翌年1999年2月、西太平洋地域事務局長に就任した。
 しかし、2006年のWHO事務局長の急逝に伴う事務局長選挙では、日本政府の擁立にもかかわらず、残念ながら香港出身のマーガレット・チャン氏に敗れた。中国政府の猛烈な選挙運動により尾身氏に投票してくれるはずであったアフリカ諸国の票が切り崩され、相手候補に流れてしまったからである。この時の選挙はまさしく「機関銃で装備した相手に竹やりで挑んだ」と揶揄されるような選挙戦であり、尾身氏はこの敗北を涙を流して悔しがったと言われている。
 今、WHOは1948年の発足以来最大の危機を迎えている。中国を震源とする新型コロナウィルスがパンデミック化するに伴い、WHOの対応が問題になっているのである。中でもテドロス・アダノム事務局長をめぐっては、毀誉褒貶が激しく、米国のトランプ大統領にいたっては、「中国の操り人形」と酷評している。
 米国はWHOへの拠出金第1位の国であるが、トランプ大統領は、拠出金の停止を宣言し、WHOからの脱退すら言い始めている。しかし、WHOは、感染症から世界の人々の健康と命を守る上で欠くことのできない国際組織であり、その存続を図らなければならない。
 WHOへの拠出金は、米国に次いで中国が第2位、日本は第3位である。第1位の米国と第2位の中国が争っている時、WHOの立直しに努めるのは日本の責務と考える。そして、WHOの立直しには事務局長の更迭は必至であり、日本政府は総力を挙げて日本人事務局長の実現に努めるべきである。そして、新たな事務局長は、先進国において唯一新型コロナ対策を成功に導いた「尾身茂」氏をおいて他にないと確信する。日本メディアの論調とは異なるが、外国メディアは日本のコロナ対策の成功をほのめかしており、このことは早晩、世界の医学界において認められるはずである。 
 また、日本は「軍備を持たない平和国家」を掲げて他国との関係を構築しているが、この国是は内向きであることを否めず、これに加えて「感染症を根絶する平和国家」としての顔も露出すべきである。若かりし頃外交官を夢見ていた尾身氏は、こうした日本国民の期待に十分に応えてくれるものと確信する。
 最後に、WHO事務局長の選任は加盟国の投票により決められることとなるが、この事務局長選挙においては前回経験したような轍を踏むべきではないと考える。先にも触れたように、国際公務員を決定する選挙は、日本の公職選挙のようなキレイ事では済まない部分があり、このことを良識を掲げるマスメディアや有識の評論家は心して日本国民をリードすべきであることを願う。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿