
12月13日
最悪だ。
彼氏に振られた。
「やっぱりオマエのヲタトークにはついていけない。」
とか言われた。
「雅哉と鴉とか、斬陽と藍洲とか、アスとレイとか、マジわけわかんね。男同士ばっかりくっつけて。」
とか。
とかとかとか!
ダメだ。思い出しただけでも嫌にになる。
アスとレイの良さが分からないなんて!受けと攻めの区別もつかないなんて!!
なんて器の小さい奴!!
どうせ私はオタ女子だ。それは分かっていたはずだったのに。
その上でつき合っていたと思ったのに。
レイに似ていてすごく良い奴だと思ってたのに!!
やっぱりダメだ!!あんな奴、レイの足元にも及ばない!!
ああやだ、なんか涙出てきた。
シャワー浴びてもう寝よう。
---*---*---*---
シャワーを浴びて、なんだか泣いて、なんとなく落ち着いた。
でも、やっぱり寝つけない。
しょうがないから、いつもどおりにネトゲすることにした。
ENMMA(Entertainment Networked Man-to-Man Architecture)という人気のロープレだ。
むかしから3Dを駆使して仮想世界をリアルに見せるゲームはたくさん会ったけど、このENMMAは相当に凄い。
ログインして、いつもどおり、ギルドコミュでチャット。
ギルドコミュのマップには、何人かのキャラがすでにログインしていた。
夜の12時前後はマップにたむろっている人が多い。
コミュに顔だした瞬間、「どしたの?」とか聞かれた。どうも、顔に出てたらしい。
やっぱり隠せなかった。これだから顔キャプ機能は面倒だ。
ちょっと前にアバターとか言うのが流行って、自分だけのキャラを作れるのが当り前になった。
それが進化したのが顔キャプ機能だ。
モーションキャプチャや、カメラと連動させると、自分の表情に合わせてゲームのキャラの表情が変わってくれる。私が笑うとキャラも笑ってる。当然、泣いてるとキャラも泣く。
いま始めたENMMAはその手のゲームの中では一番評判が良いヤツだ。私も最初にやってみてびっくりした。
画面にいるヤツらの表情がコロコロ変わるんで、本当にキャラたちがそこにいるように感じる。
コミュ常連のタイリーも話しかけてきた。タイリーとはもう古いつきあいだ。
といっても、1年くらいだけど。
このネトゲ世界じゃ、1年もつき合ってれば、相当に「古い」つきあいだと思える。
「フェルナ、元気ないね」
フェルナっていうのはこのネトゲ世界での私のことだ。
元気ないねって、あんまり聞いてほしくない話題なのに。元気ないからここにいるんじゃないの。
「いやね。ちょっとね。なんかちょっと、自分の中で終わったっつーか。」
とりあえず返しとく。
「えっ、もしかしてレイ似のカレと?」
ああ、そういえば、こいつには前に話してた。
「うん。そ。」
「えー。こんなかわいい娘振るなんて、ひでー」
かわいいってのは、当然キャラの顔のことだろう。だって、タイリーとはオフでは会ってないから。
「ひでーヤツだったよ。レイの事全然わかってない。」
それからしばらく私の独壇場でグチってた。
---*---*---*---
シャワーで泣いて、一回落ち着いて、本当ならもう思い出したくないはずなのに、このゲームをやってるときは平気で人に言える。それも他人事のように。
このチャチで薄っぺらいゲームの世界の中にいるとき、オフの世界のできごとは私とは別の誰かのできごとのように感じることができる。
ゲームの中の私は可憐な姫キャラだ。オフの私からは想像もつかない外見だと自分でも思う。だから、タイリーのいうとおり、私はカワイイし振られるなんてあり得ない。
だから、チャットで話題にしている「振られている私」は、話している私とは別人だ。
私の中にはオフの世界の私とは別人の「中の人」がいて、ゲームしてるときだけ自分の中の人に入れ替わってる。そんな気もしてしまう。
今日も、グチってる間に、段々と自分が入れ替わっていくのが分かる。そうそう。もう私はフェルナだ。オフの嫌なことなんてどうでもいいことだ。
気がつくと、言葉遣いまで変わってるときもある。そんなときは自分自身でもびっくりしてしまう。
タイリーも私の調子が出てきたんで安心したみたいで、そろそろクエストにでかけると言ってきた。ずーっと喋っててもいいんだけど、やっぱりロープレをやるからには冒険をやりたいという人もいる。喋ってる人と冒険に出る人は、いつもだいたい半々くらいだ。
私は喋ってても良かったんだけど、だからといってタイリーを引き留める訳にもいかない。
とりあえずグチを聞いてくれたお礼をいって、別れようとした。
「そうそう」
タイリーは何かを思い出したようで、声をあげた。
「フェルナ、最近、このへんのコミュで変なヤツがうろうろしてるみたいだから、絡まれないように注意した方がいいよ。」
「えー、どんな人なの?」
「なんか、男の癖に、女の名前つけてるみたいな奴で、いろいろと声をかけてくるんだって。」
「へー、それはキモっ。ネットのナンパにしても、キモすぎてウケルね」
「だよねー。名前なんていうんだっけな。
えーと。
....
そうだ、オノノイモコとかいうんだっけ。」
オノノイモコ。センスが無い名前だ。変な奴そうだ。気を付けるようにしよう。
---*---*---*---
結局その日はタイリーとしゃべって、その後も何人かとしゃべって、最後に30分くらいクエストにでて終わった。
ゲームの電源を消して真っ暗な画面を見たら、ふっと気づくとなんだか寂しくなった。まるで、ゲームの世界で置き去りにしていたはずの悲しさが堰を切って押し寄せてきたように。
さっきまで隅に追いやっていた「オフな私」が戻ってきたんだ。
私は今日振られたんだ。
なんだかまた涙が出た。
でも、今度はもう寝てやるんだ。
私はふとんを頭からかぶって寝た。
(つづく?)
最悪だ。
彼氏に振られた。
「やっぱりオマエのヲタトークにはついていけない。」
とか言われた。
「雅哉と鴉とか、斬陽と藍洲とか、アスとレイとか、マジわけわかんね。男同士ばっかりくっつけて。」
とか。
とかとかとか!
ダメだ。思い出しただけでも嫌にになる。
アスとレイの良さが分からないなんて!受けと攻めの区別もつかないなんて!!
なんて器の小さい奴!!
どうせ私はオタ女子だ。それは分かっていたはずだったのに。
その上でつき合っていたと思ったのに。
レイに似ていてすごく良い奴だと思ってたのに!!
やっぱりダメだ!!あんな奴、レイの足元にも及ばない!!
ああやだ、なんか涙出てきた。
シャワー浴びてもう寝よう。
---*---*---*---
シャワーを浴びて、なんだか泣いて、なんとなく落ち着いた。
でも、やっぱり寝つけない。
しょうがないから、いつもどおりにネトゲすることにした。
ENMMA(Entertainment Networked Man-to-Man Architecture)という人気のロープレだ。
むかしから3Dを駆使して仮想世界をリアルに見せるゲームはたくさん会ったけど、このENMMAは相当に凄い。
ログインして、いつもどおり、ギルドコミュでチャット。
ギルドコミュのマップには、何人かのキャラがすでにログインしていた。
夜の12時前後はマップにたむろっている人が多い。
コミュに顔だした瞬間、「どしたの?」とか聞かれた。どうも、顔に出てたらしい。
やっぱり隠せなかった。これだから顔キャプ機能は面倒だ。
ちょっと前にアバターとか言うのが流行って、自分だけのキャラを作れるのが当り前になった。
それが進化したのが顔キャプ機能だ。
モーションキャプチャや、カメラと連動させると、自分の表情に合わせてゲームのキャラの表情が変わってくれる。私が笑うとキャラも笑ってる。当然、泣いてるとキャラも泣く。
いま始めたENMMAはその手のゲームの中では一番評判が良いヤツだ。私も最初にやってみてびっくりした。
画面にいるヤツらの表情がコロコロ変わるんで、本当にキャラたちがそこにいるように感じる。
コミュ常連のタイリーも話しかけてきた。タイリーとはもう古いつきあいだ。
といっても、1年くらいだけど。
このネトゲ世界じゃ、1年もつき合ってれば、相当に「古い」つきあいだと思える。
「フェルナ、元気ないね」
フェルナっていうのはこのネトゲ世界での私のことだ。
元気ないねって、あんまり聞いてほしくない話題なのに。元気ないからここにいるんじゃないの。
「いやね。ちょっとね。なんかちょっと、自分の中で終わったっつーか。」
とりあえず返しとく。
「えっ、もしかしてレイ似のカレと?」
ああ、そういえば、こいつには前に話してた。
「うん。そ。」
「えー。こんなかわいい娘振るなんて、ひでー」
かわいいってのは、当然キャラの顔のことだろう。だって、タイリーとはオフでは会ってないから。
「ひでーヤツだったよ。レイの事全然わかってない。」
それからしばらく私の独壇場でグチってた。
---*---*---*---
シャワーで泣いて、一回落ち着いて、本当ならもう思い出したくないはずなのに、このゲームをやってるときは平気で人に言える。それも他人事のように。
このチャチで薄っぺらいゲームの世界の中にいるとき、オフの世界のできごとは私とは別の誰かのできごとのように感じることができる。
ゲームの中の私は可憐な姫キャラだ。オフの私からは想像もつかない外見だと自分でも思う。だから、タイリーのいうとおり、私はカワイイし振られるなんてあり得ない。
だから、チャットで話題にしている「振られている私」は、話している私とは別人だ。
私の中にはオフの世界の私とは別人の「中の人」がいて、ゲームしてるときだけ自分の中の人に入れ替わってる。そんな気もしてしまう。
今日も、グチってる間に、段々と自分が入れ替わっていくのが分かる。そうそう。もう私はフェルナだ。オフの嫌なことなんてどうでもいいことだ。
気がつくと、言葉遣いまで変わってるときもある。そんなときは自分自身でもびっくりしてしまう。
タイリーも私の調子が出てきたんで安心したみたいで、そろそろクエストにでかけると言ってきた。ずーっと喋っててもいいんだけど、やっぱりロープレをやるからには冒険をやりたいという人もいる。喋ってる人と冒険に出る人は、いつもだいたい半々くらいだ。
私は喋ってても良かったんだけど、だからといってタイリーを引き留める訳にもいかない。
とりあえずグチを聞いてくれたお礼をいって、別れようとした。
「そうそう」
タイリーは何かを思い出したようで、声をあげた。
「フェルナ、最近、このへんのコミュで変なヤツがうろうろしてるみたいだから、絡まれないように注意した方がいいよ。」
「えー、どんな人なの?」
「なんか、男の癖に、女の名前つけてるみたいな奴で、いろいろと声をかけてくるんだって。」
「へー、それはキモっ。ネットのナンパにしても、キモすぎてウケルね」
「だよねー。名前なんていうんだっけな。
えーと。
....
そうだ、オノノイモコとかいうんだっけ。」
オノノイモコ。センスが無い名前だ。変な奴そうだ。気を付けるようにしよう。
---*---*---*---
結局その日はタイリーとしゃべって、その後も何人かとしゃべって、最後に30分くらいクエストにでて終わった。
ゲームの電源を消して真っ暗な画面を見たら、ふっと気づくとなんだか寂しくなった。まるで、ゲームの世界で置き去りにしていたはずの悲しさが堰を切って押し寄せてきたように。
さっきまで隅に追いやっていた「オフな私」が戻ってきたんだ。
私は今日振られたんだ。
なんだかまた涙が出た。
でも、今度はもう寝てやるんだ。
私はふとんを頭からかぶって寝た。
(つづく?)
なんかすごくそれっぽく腐女子が描けてて
すごいです。
カップリングネタさっぱり分からない。
元ネタあります?
だんだん長文シリーズ化してきて、読み応えが
ありますね。面白いです!
オンとオフですか。。。
ほんとは一つの人間で一つの人格なんだけど、スイッチきりかえみたいなことをやってると、オフに戻ったときにそのギャップがけっこうつらいものがあるんですよね。
ところで、この女の子。
雰囲気出ていて、とてもいいなと思いました。
どうも!こんばんは!
盗賊編が超ショートストーリーで始まって、あくまでも短いストーリーの連続だったんですけど、今回はもうちょっとまじめに話づくりもしてみようと思って、仕切り直ししてみました。
長文化、ちょっとした読み物化を目指していきますよ!!
でも、やっぱりバッチリパロディですw
タイトルがもう、そのまんまパロディですから。
>カップリング
元ネタはあったりなかったりです。元ネタがあるのはそのまんまですよ!なんかIQサプリみたい。
>オンとオフ
元ネタにしている漫画がこういうネットゲームのオン/オフを取り上げてたりします。季節を2つ後戻りして探してみてください!
>女子
本人が思っている以上に「カワイイ」子のはずなんですけどねぇ。
揃えてる前髪と表情が雰囲気を出しちゃってるんでしょうか。
タイトルが普通に小説の方とマッチしてるから
分からなかった。(前シリーズで蜘蛛の糸とか
でてたから)
ナツノクモは連載誌がマイナー誌なのが困ります
。本屋に無いッちゅー話。