陽貨:陽貨とは季氏の家臣の陽虎にて十七編の出だしの二文字
陽貨 一 有徳者が國の乱れをそのままに留めおくこと仁とは言えず
まつりごと好んで志する人あらばその機を逃すことは不智なり
メモ:陽貨が孔子に仕官を進めたときの言葉。
陽貨 二 人間の天性は皆似ているが習慣により隔たることに
メモ:人間は皆均しく持っている本然の性(仁義禮智の四徳、道心)と、
生まれながらに異なる気質の性(清濁の別、人心)を持つ。前者
は後者の影響を受け、陰に隠れ勝ちである。そこで人による隔
たりが生じ、教育の重要性が求められてくる。
陽貨 三 天性の賢者と過度の愚の者は本質的に変え難きもの
メモ:学ぶ意志のない愚者は救いがたいと孔子は言う。
陽貨 四 礼と楽國を治める法にして國の大小問うことはなし
物事の大小によりその処理をする人材も適不適あり
為政者が道を学べば人愛し民が学べば服することに
メモ:小国の宰をしていた弟子の子游に孔子が与えた言葉。
陽貨 五 孔聖は理想の政治実現の為には君主選ぶことなし
メモ:孔子は儒の教えを広める為には手段を選ばなかったという。
陽貨 六 しっかりと五つの徳を世の中で実施する事それが仁なり
敬虔と寛大なこと更にまた信と機敏に恵みの五つ
わが態度恭しくば世の中で他の者から侮り受けず
わが態度寛大なれば世の中で厚き人望得ること出来る
わが態度まことがあれば世の中で人々からは信頼される
わが態度機敏であれば世の中で仕事の成果自ずと上がる
わが態度恵み深くば世の中で上手く人々使うはやすし
メモ:仁を為すには恭・寛・信・敏・恵が大切。
陽貨 七 わが心堅固であればどのような環境にてもくじけざるべし
心から潔白なれば絶対に悪いものには染まることなし
才あれば謀反の主に仕えても世直しするに差し障りなし
乱世で才生かさずに傍観し手こまぬくを孔聖嫌う
メモ:何かと噂のある家宰の胇きつに会うことを、止めた弟子の子路
に答えた孔子の言葉。
陽貨 八 仁智信直に勇剛六徳に學あらざれば六害起こる
仁愛を好むも学を為さざれば情に溺れて愚かなことに
知識をば好むも学を為さざれば識見つかず物まとまらず
信義をば好むも学を為さざれば頑なになり人をそこなう
正直を好むも学を為さざれば融通きかずゆとり無くなる
勇猛を好むも学を為さざれば乱暴になり秩序を乱す
剛強を好むも学を為さざれば身勝手となり常軌をはずす
メモ:六徳は大事なことだが、学問の裏付けが無いと害になる
畏れもあることを孔子が説いた言葉。
陽貨 九 人として詩を学ぶこと大事なり心を奮い立たせるために
人として詩を学ぶこと大事なり物事をよく観察のため
人として詩を学ぶこと大事なり人と仲良く過ごすがために
人として詩を学ぶこと大事なり怨みも上手く伝えるがため
人として詩を学ぶこと大事なり親や主君に仕えるがため
人として詩を学ぶこと大事なり鳥獣草木その名識るため
メモ:詩とは五経の中の「詩経」のことで、風(地方の民謡)・
雅(朝廷の雅楽)・頌(祭祀の寿詞)からなり、作者は
王侯から庶民の各層にわたっている。
陽貨 十 人として道徳的に優れたる詩修めるが正道の學
正道の學為さざれば真実の知識得られず前進もなし
メモ:詩経を学ぶことの大切さを、子の伯魚に説いたときの
孔子の言葉。
陽貨 十一 儀礼でも雅楽にしても本質は形式よりも精神にあり
メモ:形式に流れやすい風潮を諫めた孔子の言葉。
陽貨 十二 顔つきは厳めしけれど内心はだらしなき者小盗のごと
本質を見抜かれぬ為うわべだけ取り繕うは恥ずべき行為
メモ:うわべを取り繕うことの愚かさを説いた孔子の言葉。
陽貨 十三 村里で有徳者らしく見せかける偽善の者は徳を損なう
メモ:偽善者の有害なことを説いた孔子の言葉。
陽貨 十四 聞きし事只引き継いで他に説くは學する者の態度にあらず
学問はよく考えて学ばずば道徳棄てる事ともなろう
メモ:学問は体得すべき者で、耳学問は学問をする者の態度
ではない。
陽貨 十五 思慮のないつまらぬ者が主の君に仕えることは極めて難し
仕えても目指す禄位を手に入れる事ばかりをば考えるもの
もし仮に望みかなえたその後はそれを失う事を恐れる
失脚を恐れるあまり小人はどんな事でもやりかねぬもの
メモ:小人の行為を戒めた孔子の言葉。
陽貨 十六 いにしえの民の三つの病弊の意味するところ今は異なる
のびのびと心の広い狂の意は今では気儘し放題の意
謹厳で几帳面なる矜の意は今では怒り争うの意
真っ直ぐで正直という愚の意味は今では偽り人だますの意
メモ:民の三疾すなわち①狂(心が遠大過ぎる)②矜(謹厳で
几帳面過ぎる)③愚(正直過ぎる)の変わり様を嘆いた
孔子の言葉。
陽貨 十七 諂いが己の性となりぬればその仁徳も次第にかすむ
メモ:有名な言葉、「巧言令色、すくなし仁」のこと。
陽貨 十八 本物に取って代わって偽物が出しゃばることは憎むべき事
正統な雅楽が俗な音曲で乱されるのは憎むべき事
口先の巧みな者が国体を危うくするは憎むべき事
メモ:孔子が憎むべき事のいくつかを述べたもの。
陽貨 十九 何事も言わずに天は生き物に化育の恩を与え続ける
無言でも教えを受ける事多し言論だけに頼るべからず
メモ:口先だけの言論にはたいした効果はない。天は何も言わ
なくとも、世は円滑に動いているではないかと孔子は言う。
陽貨 二十 過ちを無言の内に気づかせて反省させる事も大切
メモ:相手の性格をよく見て処する事も大事。
陽貨 二十一 君子が喪三年の間服するは全てに於いて楽なきがため
児は三年経ってようやく父母のふところ離れ育ち行くもの
その間に親の愛受け育つものそれを考え服喪は三年
メモ:服喪は父母から受けた愛情に答えるものであることを、
弟子の宰我に諭した孔子の言葉。
陽貨 二十二 飽食し終日何も為さざれば世に処してゆくことは難し
何事も為さざるよりは勝負事如きものでも為すがましなり
メモ:無為徒食の輩を戒めた孔子の言葉。
陽貨 二十三 君子とは社会秩序を守るため義を第一に考えるもの
上に立つ者が勇なる場合でも正義なければ乱れることに
下々の者が勇なる場合でも正義なければ盗みはたらく
メモ:統治する上で正義を第一にする事が、世の乱れを防ぐ
策であることを説いた孔子の言葉。
陽貨 二十四 徳高く品位備えた君子でも時によっては憎むことあり
他の人の悪いところを言い立てる者を君子は憎むものなり
下位にいて上にいる者批判する者を君子は憎むものなり
勇ましいばかりで礼儀守らない者を君子は憎むものなり
果敢だが道理はずれた事をする者を君子は憎むものなり
他人の意をかすめて取ってそれを智としている者を人また
憎む
傲慢な態度振る舞いすることを勇とする者人また憎む
他人の秘事曝いてそれを真っ当なこととする者人また憎む
メモ:君子についての言は孔子が、残りは弟子の子貢の言。
陽貨 二十五 未熟なる女性や品位備わらぬ下々の者扱い難し
かかる人親しすぎれば増長し疎遠となれば怨みを抱く
メモ:有名な言葉”女子と小人は養い難し”のことを云う。
陽貨 二十六 四十にもなって他人から憎しみを受けては末の望みは難し
メモ:四十とは不惑の年、人格の定まるときでもある。