閑話休題Ⅱ 皮膚腫瘍切除術
6月の中頃、足の傷で近くの皮膚科を受診することになった。塗り薬を貰えればと簡単に考えていたのだが、足の裏のほくろを指摘され、ガン化することもあるから取った方がよいと言われた。それには皮膚腫瘍切除術と言う方法で皮膚を切開して5mmほど皮膚組織を切り取り、病理検査をして良性か悪性かを確かめる必要があるという。それを聞いた時点で78歳の男は気が動転して落ち込むばかり。思いもよらずとはこのことか。早速聞いてみる。「痛いですか」と!ガンという言葉より痛みの方が気になるとは。「歯を抜くよりは痛くないでしょう」と女医先生は云う。その後、くだらぬ事を問い質した記憶はあるが余り覚えてはいない。大小二個のほくろを取ることになる。一つは2x4mm、小さい方が1mmΦ。下図のような説明書を貰って帰る。
下旬の一日、いよいよ手術の日。くよくよ考えながら十分ほどかかって病院に着き、受付をして皮膚科の前で椅子に座って待つ。ほどなく看護師に呼ばれ、手首に名前が書かれた認識リングを着けられて手術室に連れて行かれる。手術室担当の看護師に引き渡され、足裏だけなのに手術着に着替えさせられ、幅の狭い手術台に乗せられる。こまごまと世話をしてくれる看護師には感謝なのだが、ドラマではお馴染みだとはいえ初めての手術室の雰囲気に呑まれて、口の中はカラカラである。右腕には血圧測定(3~4分間隔)の腕帯が巻かれ、左手の人差し指に脈派計(?)が挟まれる。やがて執刀医の女医先生が現れて、いよいよ手術開始である。「こんなに大仰だとは思わなかったので年甲斐もなく気が動転し、口がカラカラです」と問いかけるが、女医先生は「誰でもそうですよ」と淡々と云いながら作業に取り掛かっている。足先が見えないように目の前に遮断幕がおかれ、「足裏を消毒します」との言葉からいよいよ手術開始である。「麻酔しますので少し痛いですよ」との言葉も終わらないうちにとてつもない痛みが足の裏に走る。拷問のシ-ンで爪をはがすような痛みとでも云うのだろうか。経験をしたことのない痛みである。思わず「痛-い」と大声を出す。「痛かったら痛いと言っていいですよ」と声がかかるがそれどころではない。大きい方のほくろの周りに4~5本、しばらくして小さい方に3~4本だろうか。その度ごとに骨の髄まで痛みが走る。またまた堪らず「痛-い」と叫ぶ。その間、2~3分だろうか。年甲斐もなくしかも女性の前で叫び続ける自分が恥ずかしいのだが、如何ともしがたい。「歯を抜くよりは痛くないでしょう」とはとんでもない。大違いもいいところである。あとで聞いたのだが、足の裏は厚いのでどこよりも痛いとか。それが過ぎると、あとは嵐の過ぎ去ったあとのように痛くもかゆくもない。切開して、腫瘍を切除して、傷口を縫い合わせてその上からワンタッチパッドを貼って終わり。その間15分も掛からない。途中から口の渇きもなくなり痛みもないものだから、 女医先生や看護師にしきりに声を掛ける。現金なもの。杖を借り、支払いをし、薬(抗生物質・鎮痛抗炎症剤・胃粘膜保護剤・抗感染症軟膏)の処方箋を受け取りタクシ-で帰る。杖は殆ど使わない。その後も動き廻ることは少なかったが、家の中でも使うことはなかった。翌日消毒のため受診し、5日後に途中経過を診る為再受診し、2週間後に抜糸することになっている。3日目には自転車で近くのス-パ-に行ってきたし、手術後4日目には歩くときに片足歩きするぐらいで、何不自由なく家の中を動き廻った。2日目からシャワーを浴び、すぐに薬を塗ってワンタッチパッドを貼る事を繰り返すぐらいで、あの痛い経験は嘘のようだ。と言った次第で、暫く「孟子を詠み解く」作業が手につかなかった。近々再開するつもりである。以上何かの参考になればと思い記録しておくことにした。
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田 原 省 吾