Mのミステリー研究所

古今東西の面白いミステリーを紹介します。
まだ読んでいないアナタにとっておきの一冊をご紹介。

「紙魚家崩壊 九つの謎」北村 薫のミステリ

2014-09-01 10:05:10 | ミステリ小説
                                            

元高校の国語教師という著者ですが、その経歴が示すとおりひとつひとつの言葉を大切にした美しい文章です。
デビュー作の「六の宮の姫君」の円紫師匠と女子大生の「私」シリーズでみせたアームチェア・ディテクティブの冴え。殺人など起こらなくてもミステリは書ける・・・それを実証した作品でその上とても上質な
内容ですっかり魅了されたのを覚えています。あまり殺伐とした内容のミステリを読んでいるとこの人の作品が読みたくなります。
九つの謎とあるように雑誌に掲載された短編九つが収められています。それぞれ趣向が凝らされた話ばかりで著者らしい視点と感性が見受けられます。
ただ、この著者がお気に入りとする人でないと少し退屈と云うか、理解が得られにくいのではないかと思ってしまいます。面白いのは最後に収められている「新釈おとぎばなし」で、
口伝え伝承であるおとぎ話は地方によっては微妙に違っていたりするそうです。そういった考察を加えよく読めばおとぎ話もファンタジーばかりでなく怖い話もあるということで、「カチカチ山」も
実際はおばあさん殺害事件であるといいます。そして本格ミステリ作家としての立場からこれを料理してみたとしたのが新釈カチカチ山です。最後に意外な真相に着地するのですが、作者の遊び心と相まって
昔話をミステリにするとこうなるのかと頬が緩みます。日常のなんでもないところにポツンと影差す小さな謎を扱ったミステリを書かせたらこの人をおいて他に無い。そう思うほど巧みな視点のオモシロイ話を
みせてくれます。バロネス・オルツィの「隅の老人」シリーズやアシモフの「黒後家蜘蛛の会」シリーズなど有名ですが、この北村 薫も質の高い面白いお話を見せてくれる貴重な作家といえます。