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Mのミステリー研究所

古今東西の面白いミステリーを紹介します。
まだ読んでいないアナタにとっておきの一冊をご紹介。

『嵐の館』ミニオン・G・エバハートのミステリ

2016-07-31 12:32:12 | ミステリ小説
  
    
                                    


ゴシックロマンスと嵐の孤島での連続殺人ミステリ。ふたつを混ぜると「嵐の館」になる。

以下、訳者のあとがきより ~ エキゾチックな島。生きているかのような気配の古い家。性的抑圧。禁断の恋。三角関係。浮気。裏切り。愛憎相半ばの関係。不意打ちのキス。女同士の争い。

嵐によるパニック。 そして大胆な伏線。 ~


アメリカのミステリ作家メアリー・ロバーツ・ラインハートが先鞭をつけたとされる「もし知ってさえいたら・・・・・・」と主人公に語らせることで読者に迫りくる恐怖を予感させる手法は、

後に「H・I・B・K(Had-I-But-Known)」と呼ばれるサスペンス小説の一つの型として多くの作家に影響をあたえましたが、本書の著者ミニオン・G・エバハートもこの手法を得意としている作家のようです。

大胆な伏線というのは本当にそうです。マサカと思うような手口でサラリと書いています。 しかし、今このような書き方をしたら多分十中八九読者に見破られるでしょうね。

それほど大胆であると云えますし、古典的過ぎると云うことです。

二人の秘密をいつ打ち明けるのだろう、そう思いながらハラハラドキドキで読み進めます。あ、多少誇張していますが、中々話す機会がなく事態が進む中で一体いつ話すのか、そこのところはやはり

興味を惹かれて読むのは間違いありません。

舞台が孤島ですから当然登場人物は限られてきます。 この中に犯人が居るのだと分かっていてもそう簡単には分かりません。というか解ってしまうとお話になりませんから。( ´艸`)

最初にあげたキーワードに反応する人はもう読むしかありませんね。

嵐が去ってジムとノーニにどのような未来が待っているのか、夏の暑い日、涼しいCofeでミステリを楽しむにはちょうど良い一冊と思います。

           
                     
                                         
                             

『わらの女』カトリーヌ・アルレーのミステリ

2016-07-10 14:34:27 | ミステリ小説
  
        

このミステリが発表されたのは1956年です。

それまでミステリの常識として書かれていなかった内容でこの本は書かれました。

少し整理して話しますと、物語の背景は大戦後のドイツのハンブルクから始まります。 爆撃で両親や友人、家や財産などすべてを失くした34才の独身女性ヒルデガルデ・マエナーは翻訳の仕事をしていました。

しかし、安い賃金での仕事は食べるものや家賃の支払い、どうやって新しい靴を買おうとかなどと頭を悩ませる毎日で、何も考えずにいられるのは月に十日ほどしかないという生活です。

そんなヒルデガルデ・マエナーには一週間に一度、金曜日に新聞に載る求縁広告を見るのが楽しみでした。 日々の暮らしにウンザリし、未来も何も考えられない今の生活に別れを告げられる出会いを探していたのです。



こんな打算的な女ヒルデガルデですが探していたピッタリの案件に出会います。<莫大な資産アリ。なるべくはんぶるく出身の未婚の方、家族係累なく・・・・・・。>というものです。

直ぐに文を練って返事の手紙を書きますが一週間、二週間と待っても連絡は来ません。半分諦めかけていたとき連絡の手紙が届きました。それにはフランス行きの航空機のチケットが同封されていました。

こうして会った男は世界的な大富豪の信頼されている秘書で彼が仕える大富豪と結婚できるように手助けするいう話です。

この辺は身勝手さが目に付く彼女の行動ですが、彼女の信念と行動がブレずにしっかりと書かれているので嫌悪感を抱くことなく読み進めます。

秘書とヒルデガルデのやり取りも本音をぶつけ合った話し合いで、一つの契約のようなお互いを信頼をするという結論になります。

こうなると大富豪とヒルデガルデの結婚は上手くいくのかという興味になりますが、秘書の的確なアドバイスと彼女の容姿と態度に大富豪のカール・リッチモンドも少しずつ関心を寄せていきます。

前半はこの結婚までのプロセスが描かれていますが、後半は一変します。

始めに書いたようにこれまで書かれなかった結末が用意されたミステリで、当時はこの結末にミステリファンは驚いた事でしょう。

いま読めば、それほどの意外性に満ちたラストでも何でもないと思います。

しかし、当時誰も書かなかったミステリという事実が、いま現在でも燦然と輝いていると思います。映像で観たいと思いますが1964年にジーナ・ロロブリジーダとショーン・コネリーの顔合わせで

映画化されています。 もっとも映画の方は原作とは違って保守的な結末になっていますが、確かDVDが出ていますので気になった方は探してみてください。

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『鍵の掛かった男』有栖川有栖のミステリ

2016-07-10 10:51:25 | ミステリ小説
                
                 

有栖川有栖の久しぶりの長編です。いつもは火村のワトソン役に徹している有栖が今回は

火村に変わって依頼された問題に取り組むストーリーです。大阪の中之島が舞台になっています。このため中之島に関したプチトレビアが楽しめます。大阪に行ったことのない人でも

大阪という土地に親近感を持って貰えるでしょう。

中之島にある小さなホテル「銀星ホテル」。ここに住み着いていた一人の男。その男が部屋で縊死しているのが見つかります。このホテルを定宿にしていた大御所の女流作家は、そう深い付き合いではなかったが

彼の死に関して自殺とする警察の見解に疑問を持ちます。大人しく誰かとトラブルを起こしそうな人物には見えませんでした。しかし、他殺の根拠がないから自殺とする、そのあり方に納得がいかなかったのです。

支配人夫婦やホテルの常連たちとの交流も控えめながらあり、ボランティアに出かけたり中之島にある美術館や図書館に足を運び毎日を楽しみながらホテル暮らしをしていた男。

他殺を示す証拠は見つからない。法医学的に見て自殺と判定しても矛盾はありませんというのが担当刑事の言葉です。

東京のパーティの席で有栖川は大御所女流作家からこの件を調べるように頼まれます。彼女の意見は自殺はあり得ない、だから他殺であると。

今回は火村に変わって有栖がコツコツと足を使って調べて歩くお話で、過去の詳しい話を誰にもしなかった男のこれまでの人生の軌跡を辿り死亡の動機に係わる人物がいないかを探っていきます。

しかし、自分のことはあまり話さず5年ものあいだホテルに住み着いていた男は謎めいています。どこの誰だったのか、有栖の調べは簡単ではありません。

自殺であるとする警察の見解ではすべての人物の証言を集めることはありません。有栖はこれまで警察が話を聞かなかったかけ離れた人物にまで話を聞きに回ります。

こうしてホテルの部屋で縊死した謎の人物の過去が少しずつ浮かび上がってくるところがこの物語の読ませどころになっています。 私はこういつた形態の話しはどちらかと云うと好きな方なので楽しみながら読み進めました。

全体を見ても感じるのはとても自然に話が動くということです。作者の都合に沿った作為的なところはありません。 電車内のトラブルを撮影したという件も、現実にはテレビの生放送で視聴者提供という動画が

リアルタイムで流される現代です。その意味からも無理のない設定と云えるでしょう。

丹念に関係者に当たりこれまで出てこなかったちょっとした話を拾い集めてジグゾーパズルを埋めていく有栖。

そして決定的な過去の出来事と現在の接点を解き明かし、そこで矛盾する行動の人物を指摘する火村。

久しぶりに楽しませてもらいました。有栖川有栖さん願わくばもっと長編をお願いします。




『ゴーン・ガール』ギリアン・フリンのミステリ

2016-04-17 11:20:25 | ミステリ小説
 

                           


もう映画やDVDで観た方もおられるでしょう。

私はDVDを観るのを我慢して、先にこの本を読みました。読み終えて思うのはやっぱり先に本を読んで良かったと感じていることです。

一組の夫婦の物語です。結婚五周年目の日突然妻エミリーが消えます。夫ダンは困惑しながらも思い当たるところに連絡を入れエミリーを探します。

しかし、エミリーは見つからないためやむを得ず警察に届けます。

エミリーはアメージング・エミリーとして有名な人物でした。両親が一人娘のエミリーをモデルに童話を書いていたからです。

荒らされた室内、拭き取られた血痕。失踪前日の夫婦喧嘩の声。こういったケースではまず夫が第一の容疑者だと心配するエミリーの両親。

事件か失踪か。型通りの捜査であってただの手続きだ、まず初めにあなたを除外しなくては捜査が進まないと云う二人の刑事。

事が公になり世間の注目を集めて夫ダンは窮地に立たされます。胸の中で毒づきながらエミリーの行方を調べるダン。

警察に協力しながら自分で調べるダンですが小さなウソを重ねていきます。当日のアリバイがはっきりしないダン。

そのダンの行動と胸の内を吐き出すモノローグの章。そして互い違いに示される妻エミリーが書いた二人の出会いから結婚生活の様子を描いた日記。

エミリーの人となりと彼女が記念日に用意した宝探しゲーム。そのゲームのヒントを書いた紙が見つかるたびにダンは追いつめられていく展開の面白さ。

上巻はサスペンス感がたっぷりでページを捲る手が止まりません。下巻が気になって一気読みのスピードで読み進むことになります。

夫ダンと妻エミリーの言葉。真実はどちらにあるのか。

結局、男と女が出会って結婚をする。ありふれた言い回しですが、育った環境も性格も違う他人同士が愛の名のもとに一緒に暮らしていくのが結婚生活。

そういえばわが国には「割れ鍋に綴じ蓋」という真理をついた言葉があります。先人の深い洞察とユーモアには頭が下がりますが、この辺の微妙さは国が違っても男女間の問題としては同じでしょうか。

下巻の予想外の展開と結末は日本人の気質的には違和感が残るかと思いますが、この作者の語彙の豊かさと訳者のセンス良い訳文でとても読みやすく、時代背景や地方の空気感や人々の様子などが

すんなりと胸に溶け込み物語世界を堪能させてくれます。

ハッピーエンドではなくとてもブラックですが深い結末で一連の出来事に終止符を打つ最後のページにあなたは何を感じるでしょう。

さて、デイビッド・フィンチャーはどのように料理したのでしょうか、DVDを借りてきて観てみましょう。


          
                




『図書館の殺人』青崎有吾のミステリ

2016-04-10 09:41:57 | ミステリ小説
    
           
                               

三作目でもありこれまでのキャラクター達が際立って描かれており、適材適所のポジションで生き生きと動き回っている印象です。

普通、人通りの少ない裏通りなどで殺人事件が起きた場合、警察の初動捜査としては被害者の私生活を徹底的に洗って広範囲に調べることが必要でしょう。通り魔や会社の仲間、友人関係のトラブル。

金銭関係のもつれ、恋愛関係のもつれ、本人が意識しなくても第三者に深い恨みを買っていたとかあらゆる可能性を視野に入れて捜査対象を絞り込むでしょう。

まぁ、ミステリ好きならこれぐらいは想像できるのですが現実の問題でもそんなに間違ってはいないと思います。

しかし、今回の現場は図書館です。しかも閉まった夜間の図書館で起きる殺人です。となると被害者の身辺に居る人物が犯人となります。

無差別の通り魔の犯行といった可能性は低く余計な神経を使わずに現場の様子と当日の被害者の行動を調べていくのが本筋です。

こういった環境設定で主人公の天馬が現場の様子から導かれる論理で犯人に迫っていくところがこの本の持ち味です。

断っておきますが動機云々を云ってはいけません。天馬の謎解きのロジックを楽しむのがこの本のすべてなんですから。

消えた本にも犯人には危うい意味があって隠された真相の一つという役割と犯人の立場で見れば重要な小道具建てとしての役割もあって細かく計算されている事が分かります。

ダイイングメッセージなんて今時そんなネタ?と思いますがミスリードの材料にしても最後まであやふやにして引っ張ってケリをつけるオチをちゃんと用意してあり、それも隠された真相に関連しているとは流石です。

天馬の謎解きのロジックが楽しみで読んでいるのですが、祖語のない計算された小道具と構成は見事です。

天馬の知られざる部分を柚乃が調べて少しづつ明らかになっていくところは今後もこの設定で書かれていくのかと楽しみになります。

世界観は少し悪く言えば漫画チックと云えますが登場人物たちの生き生きした様子や日々の過ごし方に好感を持てて今後もこのシリーズを出して欲しいと思います。