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Mのミステリー研究所

古今東西の面白いミステリーを紹介します。
まだ読んでいないアナタにとっておきの一冊をご紹介。

「殺人交差点」フレッド・カサックのミステリ

2017-01-10 12:58:58 | ミステリ小説


                       


            

古典です。たくさんのミステリを読んできた豊富な読書量を誇る人が今これを読んだとしたら

著者には失礼ですが肩透かしを食うでしょう。 それほどトリックがクラシックであると言えます。

これは別に著者の責任ではありません。時代の所為です。これと同じ手を使ったミステリは山ほどあり沢山読みました。

その本のタイトルを書くだけでこのミステリのネタバレになってしまうほどです。時は残酷ですね。当時のミステリファンはどれほどこのトリックに驚かされたことでしょう。

この本では二重殺人という言葉が使われています。探偵小説らしい言葉ですね。今では普通の殺人事件で被害者が二人いる状況と云えます。

一室で男女二名が殺害されていた。これは二重殺人だとそう表現していたのです。 時効寸前に現れた恐喝者。被害者の遺族と犯人に証拠の品を買い取れと同時に迫り金額を競らせます。

両者が金策に走り回るところは面白くブラックユーモアになっています。 この辺りはフランスミステリらしい味わいがあります。

そして、最後に真犯人の正体がわかるところは・・・・・。うーーん何度も書きますが当時は衝撃だったんでしょう。

でも、今読んでもこの作品の評価を下げることはないと思います。 キッチリと計算された書き方で最後の衝撃に至ります。これは見事と云う他ありません。

まだ読んでいない人には一読の価値はある、そう云える作品です。

    

「シンデレラの罠」セバスチアン・ジャブリゾのミステリ

2017-01-09 16:58:15 | ミステリ小説


                                   


最近ミステリに目覚めて古今東西の有名どころを片っ端から読んでいる・・・・・・。

もしそんな人がいたとしたら、この本は絶対に外せませんね。

クイーンや、クリスティ、カーのようには名前がポピュラーではないかも知れません。でもこの本の内容を知ればきっと驚くことでしょう。

何故なら、どこかで目にしたような内容だと感じるからです。それほど後世のミステリ界に与えた影響は大きかったと言えます。

このミステリのキーワードは記憶喪失。

そして遺産相続。火事。

火事で大火傷を負い、顔の皮膚移植をして一命を取り留めた私。一緒にいた娘は焼死した。

そして火事の真相を知る私は記憶喪失になっていた。

この私は本当にみんなが言う伯母から莫大な遺産を受け取るミなのか?死んだ娘がミで私はドではないのか?

『私は探偵で犯人で被害者で証人なのだ。』

こうして病院を退院したミは自分が果たして誰なのか、時折蘇る記憶と周りに現れる人々の話しを聞きながら、あの時あの家で何があったのか調べ始めます。

さて、単なる入れ替わりのお話ならこうまでミステリ界に残り語り継がれる訳がありません。

もっと深い仕掛けのあるミステリなのです。

タイトルの意味も最後のページで分かります。

どうです、ここまで聞けば手にしたくなるでしょう?ラストをぜひあなたの眼で確かめてください。

     


   

「大絵画展」望月諒子のミステリ

2017-01-02 11:27:57 | ミステリ小説

                         

本を開くと最初のページに「ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードに捧ぐ」とあります。

映画の好きな方ならピンときますよね。

私もこの本については何の前知識もありませんでした。どんな内容なのかまったく知らなかったのです。

タイトルを見ても、内容を想像するのはちょっと困難と思えるようなタイトルですよね。

しかし、最初のページのこの一文です。思わずニヤリとしました。 これは読まずにいられない、そう思いました。

フフ、そっちの話しか、と理解しました。 そうすればタイトルの意味合いもボンヤリとはあっても分かります。

絵画の世界、 美術界を舞台にしたものはそう多くは無いと思いますが原田マハの作品に面白いものがありました。

でも、こちらはあのような作品とは違った系統のものであることはハッキリしています。

どのように料理して読むものを楽しませてくれるのか期待が膨らみます。

前半は一人の男と一人の女の云ってみれば人生の転落の様子が語られます。 この二人の日常に直接の接点はありません。別々の世界に暮らす男女の人生のつまずきを描いています。

しかし、この男女はこの物語の重要人物です。 もう一人の人物に係わって来る経緯をじっくりと書いて、読者に違和感を持たせないように丁寧に仕込んでいかなければいけません。

そういう意味では、二人がしくじっていく過程がありそうな話で描かれていて素直に納得ができます。こういう男も女もいるだろうなと思わせます。 この辺はけっこう大事な部分で

お座なりな書き方では人物の動かし方が都合良過ぎととられますので注意が必要です。もっともプロの作家にとっては釈迦に説法な話でしょうね。

さて、この手の話しはオチがもっとも重要です。あれだけ盛り上げておいて最後のオチはその程度かい?と思われるようではハッキリ言って失敗作とみなされます。

それではこの本はどうなんでしょう? 私としては飛び切りの傑作とはいかないまでも及第点は上げられると思います。

美術界の見解についても原田マハの本とはまた違った角度からの見方で、その内容からもこの著者の人間的な部分が透けて見えるようで私としては好感が持てました。

後半からのスピーディな展開と意外なオチを楽しませてくれるこの「大絵画展」。読後感も良くておススメ出来る一冊です。


「ルパンの娘」横関大のミステリ

2016-12-19 11:16:55 | ミステリ小説

                         
                                  

どうもすっかりこのブログをサボってしまいました。カメラに夢中になってこちらにまで神経がいきわたりませんでした。

写真を撮るということはけっこう奥が深く、いろんなシチュエーションに取り組んだりしているうちにこのブログを書く時間がとれませんでした。ちょっと反省しつつ久しぶりに今日は書いていこうと思っています。

でも普段はいつもミステリを読んではいます。しかし読み終えた後に、いやこれは面白かったなぁといったものに出会えていなかったのも事実です。

それほどのモノでもないのにここに書くというのもちょっと主旨から外れますし、そういったこともあってしばらく更新が疎かになっていました。

さて、今回の本は横関大という人の作品です。この人は2010年に「再会」で江戸川乱歩賞を取って作家デビューをした人です。

警察一家の息子と泥棒家族の娘が出会って恋に落ち、ふたりが結婚するまでの紆余曲折に殺人の謎を絡ませたミステリとして書かれています。

シチュエーションだけ見れば昔の赤川次郎の世界です。あり得ないようなバカバカしいシチュエーションですが家族全員が警察官でその一家の息子の刑事が恋人とする女性は図書館で働くまじめな女性です。

娘自体は真面目ですが泥棒一家に育っただけあって、祖父から仕込まれたスリの技術は一流という漫画チックな設定です。

お互いのことで仕事とか家族のことはまだ秘密にしていた二人ですが、彼が娘を両親に合わせるために家に連れていきます。そこで初めて彼が警察官であることを知り驚きますが自分の家族のことは

到底話せるものではありません。彼の職業を知り彼との結婚を夢見ていた彼女は諦めざるを得ません。そんな時ひとつの事件が起きます。河原で見つかった死体は顔がつぶされていました。

捜査に加わった彼はホームレスらしい被害者の男の正体を調べますが、警視庁のデータベースから指紋が一人の人物に該当することが判明します。

しかし、そこで彼は不審に思います。物取りにしろ何にしろ殺しておいて顔を潰す理由は何だろうと。

この殺人の裏にはいろいろと手の込んだ理由があるのですが、どんでん返しが二度三度とあって捻りが効いています。

物語の進行もスピーディで、軽い文体ですがそれでいて説得力のある文章で描かれるストーリーはけっこう読ませます。

主人公の二人の彼と彼女もキチンとした人間として描かれており魅力あるキャラクターに仕上がっています。

ドタバタコメディのような味付けですがミステリの部分もしっかりしているので、設定からチープな内容と感じるかもしれませんが意外と拾い物なのではと思います。

明るく楽しいユーモアミステリがお好みの方にはおススメ出来ると思います。

 
   

『古書の来歴』ジェラルディン・ブルックスのミステリ

2016-07-31 13:23:33 | ミステリ小説


                              

古書の鑑定家で保存修復家のハンナ・ヒースが、1996年サラエボでサラエボ・ハガダーと呼ばれる一冊の古書に出会うところからこの物語が始まります。

鑑定の結果本からは小さなワインのような茶褐色の染みと、塩化ナトリウム、一般的な塩のようなものと、翅脈のある昆虫の羽が見つかります。

本の間から見つかった三つの痕跡に関しての物語が時代を遡り順次語られていきます。

過去の物語と現在を舞台にしたハンナの行動を追う展開の物語が交互に進むということですが、過去の古書に関係した物語はキリスト教、ユダヤ教、イスラム教などの歴史的な問題や

人類の歴史そのものが深く係わっている内容です。それぞれのエピソードの主人公は過酷な運命に翻弄されながらもハガダーを守ります。

著者はジャーナリスト出身の人で実際の出来事とフィクションを絡ませたこの物語も硬派な視点で描かれています。

宗教に関する事柄も、いろいろな弾圧とか虐殺などもあった史実を踏まえ、今では想像も出来ないような中世の時代の一般の人々の生活が書かれていて

単に古書に昆虫の羽など、その痕跡を残したというエピソードに収まらないような物語が綴られています。

現在を舞台にしたハンナの行動を描いた章でも母親との確執や、父親のこれまで秘密にされていた部分が明らかになってくるところなど飽きさせない展開で読ませます。

もし、一冊の古書にパン屑の欠片が少しでも残っていたら、どれだけその古書についてのことが分かるか・・・・・・。

それがハンナの仕事です。 この痕跡を探るというミステリアスな部分と科学的に検証していく過程とが過去の物語に繋がるところがこの物語の本筋です。

顔料一つにしても知らなかったことがあれこれと出てきて非常に興味深く読むことができました。

一般的なミステリとはちょっとかけ離れた内容ですが、このような物語も読んで損はないと思います。

遥か昔ヘブライ語で書かれたハガダー。その古書の来歴をあなたも旅してみませんか。