どうぶつのこころ

動物の心について。サルとか類人猿とかにかたよる。個人的にフサオマキザルびいき。

ハツコ、動物園、環境エンリッチメント

2007-05-20 08:38:03 | 霊長類
ハツコについて。

京都市動物園のチンパンジーハツコ初子)が逝去されました。同動物園によるニュースはこちら。ハツコには先月はじめて会って、今月もう1度訪れたときには訃報が出ていました。先月は愛想よく笑顔を見せてくれましたが、あのときにも調子が悪かったそうですね。たいへん残念です。ご冥福をお祈りいたします。


日本で飼育されている大型類人猿について。

日本の動物園で飼育されている大型類人猿については、ナショナルバイオリソースプロジェクトの下位プロジェクトGAIN(Great Ape Information Network、ゲイン)が詳しい。

チンパンジーについては、京都大学霊長類研究所のウェブサイトのなかにあるチンパンジー・ワールドをみると、こちらに詳しいページがある。

動物園全般になってしまうが、東京動物園協会が『どうぶつと動物園』という雑誌(東京動物園友の会の会誌)を発行しており、カラーでおもしろい。


環境エンリッチメントについて。

動物園における動物の飼育ということでは、最近よく行動展示ということがいわれている。彼らがどんな行動をとるのかも含めて動物を展示する試みである。そのような行動を実現するため、できるかぎり野生に近い状態に飼育環境を整備しなければならない。それを環境エンリッチメント(環境の豊饒化、enviromental enrichment)と呼ぶ。

年に1度、市民ZOOネットワークにより、エンリッチメント大賞が選ばれている。京都市動物園の飼育員の方々も、エンリッチメント大賞2006で飼育担当者部門大賞を受賞。

エンリッチメント大賞の受賞者講演および大賞発表がおこなわれるのが、SAGA(大型類人猿を支援する集い、Support for African/Asian Great Apes、サガ)である。SAGAは、環境エンリッチメントのように飼育における福祉だけでなく、野生における保全も目指している。

参加者には、動物園や水族館のスタッフだけでなく、大学などの研究機関で動物の行動科学を研究している人々もいる。年度会合があり、大学と動物園とが組になって開催している。

一般にはあまり知られていないが、SAGAは、フジテレビの『CHIMPAN NEWS CHANNEL』や日本テレビの『天才!志村どうぶつ園』に、このように抗議文を出している。CHIMPAN NEWS CHANNELのほうは、現在レギュラー放送を終了した。

120年前に石でカキを叩き割って食べるカニクイザル

2007-05-20 07:21:29 | 思考・問題解決
A29 Carpenter, A. (1887).
Monkeys opening oysters.
Nature, 36, 53.
カキを開けるサル
ビルマ(South Burmah)の島でサルが石を使いカキを割って開けるのをたびたび目にしているというと、それを聞いてあまりに多くの人々が驚きをあらわすのであるから、そのような道具の使用法を短くとも記述することは、みなの興味を惹くことになるだろう。 メルギ諸島(Mergui Archipelago)の島において、岩の低潮時に現われる部分は、大なり小なりのカキに覆われている。このあたりの島にいるMacacus cynomolgusカニクイザルMacaca fascicularis)〕である可能性の高いサルが、潮が引いているときに岸をうろつき、ロックオイスター〔カキ〕を石で、外れて壊れるまでその上の殻を叩くことで開ける。それから彼は、4指および親指でカキをとりだし、ときどき直接口を壊れた貝殻に突っこむ。 彼らのじゃまをしてみていつもわかるのは、彼らが槌としての価値よりも一見したところ手で扱う便利さを求めて石を選択しており、ヒトがそれ相応の仕事をするために選びそうなものに比べて小さいということだった。要するに、たいていそれは、彼らが指を回しつけられる石だった。低潮のぬかるみに岩が現われると、〔槌となる〕石は高水標のところからもってこなければならないが、この距離は10ヤードから80ヤードまでの幅があった。このサルは、ロックオイスターを割るもっとも簡単な方法を選択しており、つまり上の殻を打つことで殻を外し、くっついている肉から貝殻を分けていた。テナガザルもこれらの島を頻繁に訪れていたが、浜では1個体も見なかった。〔全訳〕
120年前の昨日(5月19日)に、ムンバイー(Mumbai)にある海洋調査局(Marine Survey Office)のアルフレド・カーペンタ(Alfred Carpenter)により発表されたもの。クラレンス・レイ・カーペンタとは関係ない。このとき彼はまだ生まれていない。

前回紹介したとおり、この120年後にマライヴィジトノンドらが同じことを再発見することになった。この120年前のニュースがなければ、Natureに載っていたかもしれない。

なぜカニクイザルがカキ割りをしていることが重要かというと、次のような理由がある。

(1) ナッツ割り、カキ割りなど、硬い石などで何かを割り、そのなかにある食物を食べる行動は、大型類人猿2種ヒトHomo sapiens)、チンパンジーPan troglodytes)、サル2種カニクイザルMacaca fascicularis)、フサオマキザル(Cebus libidinosusを含むC. apella)だけに見られる。

(2) サルについていうと、フサオマキザルは何かを何かにぶつける傾向をもっているが、カニクイザルはもっていない。また、大型類人猿であるチンパンジーはそれをもっていない。この異同を考えると、カニクイザルのカキ割り行動は、チンパンジーとフサオマキザルとでナッツ割り行動を比較するときの重要な参照点となる。

文中の「ヤード」について補足。いま1ヤードは0.9144 mですが、当時の帝国標準ヤードがいくらかはよくわからない。知っている方、教えてください。ただ、現在とそれほど大きくは変わらないでしょう。