古書肆雨柳堂

小説の感想。芥川龍之介、泉鏡花、中島敦、江戸川乱歩、京極夏彦、石田衣良、ブラッドベリ、アシモフ、ディック

『ハピネス』嶽本野ばら

2007-01-03 23:00:26 | その他

「私ね、後、一週間で、死んじゃうの。」

 高校生の「彼女」の告白から始まり、先天的な心臓の異常で夭逝までの生きる様を描いた「僕」の記録です。
 若くしてこの世を去る恋人との純愛は、『世界の中心で愛を叫ぶ』
と同じモチーフですが、違う点があります。

1、彼女がロリータ・ファッションが好きなこと
2、「僕」とセックスしちゃうこと
 (セックスが描かれていても純愛モノだと思います。)

 死を宣告された彼女は、死ぬまでにやりたいことのひとつとして、
ロリータデビューをします。ファンシーな出で立ちで僕の前に現れ、
それとは不釣合いな「死」の告白をするのです。

 彼女は安静にして死を待つより、好きなお洋服に包まれ、
好きな人と楽しい時を過ごし、死にたい、と言います。

 『世界・・・』でのようにセックスを排除しているのは不自然に感じます。
本作品のように、死ぬ前に一杯抱かれておきたいと思うものではない
でしょうか。
 それに好きな人がいるのに、その人と結ばれずに
死んでしまうことは哀しいことだと思います。

 
 また彼と彼女の家族は、なくなった彼女に非常識なことをします。
1、死後、医師の確認前に遺体に触れる
2、葬式で祭壇にばらの花を飾る。それも赤とピンク
3、骨壷にかわいい紅茶の陶製の容器を使う。

 1、は死ぬ直前、一夜をともにした彼が、裸だった彼女にロリータの
お洋服を着せてあげたのです。

 2、3は彼女の遺言に従って彼女の両親を行ったことです。

 ただでさえ若くしてなくなった彼女、その死をモノトーンの陰気な
葬式で送り出すのは、かわいいモノ好きの彼女には耐えられないでしょう。
 また骨壷もかわいくないのは・・・

 このことだけ聞けば非常識に聞こえますが、彼女のことを知る読者は、
彼女に意思を尊重した行為だと納得できます。
 「死」ははどう生きるかの流儀につながります。
 紋切り型の葬式も、故人によって柔軟性を持たせてもよいかもしれません。