内分泌代謝内科 備忘録

徐脈の評価と治療

徐脈の評価と管理

Trends Cardiovasc Med 2019; 30: 265-272

徐脈はしばしば遭遇する不整脈である。徐脈は一般に心拍数 50-60 /分未満と定義され、若いアスリートや健常な高齢者でも認めることがある。徐脈の原因は洞房結節、房室結節または刺激伝導系の異常である。徐脈が病的なものか否かは心拍数のみでは区別できず、症状の有無が重要である。心拍数が低いとか、心拍が何秒間か停止していたということだけでは治療の適応にはならない。

2018年の ACC/AHA/HRS による徐脈と伝導遅延についてのガイドラインは、それまでのガイドラインがペースメーカー留置の推奨について多くの紙幅が割かれていたのに対し、徐脈の評価と管理に力点が置かれるようになった。

徐脈の一般的な症状としては、失神、めまい、ふらつき、倦怠感、労作時呼吸困難、脳の低灌流による混乱がある。

 

1. 診察と検査

徐脈の患者を診たときには、修正可能な原因がないか、注意深く経過を確認し、身体診察を行う。また、薬剤歴を確認するべきである。

問診と身体診察を行ったら、12誘導心電図を行う。洞不全症候群や房室ブロック、脚ブロックが見つかるかもしれない。

心電図モニターはより長い期間心電図波形を確認できるので、徐脈の原因特定あるいは症状が心電図変化で説明できるものかを確認するのに有用である。

運動負荷心電図は虚血性心疾患の患者では勧められないが、運動に関連して一過的に症状が出現する患者や、無症候性の2度房室ブロック、変時性不全 (chronotropic incompetence; 運動時に反応性の心拍数の増加を認めないこと) の患者では検討しても良い。

徐脈患者における器質的な心疾患の検索は、臨床的に何が疑われて、その検査前確率はどれくらいかをよく考えて行う。

2018年の徐脈のガイドラインでは、新規に出現した左脚ブロック、Mobitz II 型房室ブロック、高度房室ブロックあるいは完全房室ブロックの患者では class I の推奨として経胸壁心臓超音波を行うべきとしている。

より高度で疾患特異的な画像検査、すなわち冠動脈 CT、心臓 MRI、シンチグラフィ、経食道心臓超音波は何が疑われて、何を除外したいのかを明確にして行うべきである。

器質的な心疾患の検査前確率が低い場合、例えば無症候性の洞性頻脈や特に心疾患を疑わせる所見がない I 度房室ブロックなどでは、画像検査は行う必要はない。

血液検査は病歴と身体所見から鑑別疾患を絞り込んだ上で特異的な項目を選択する。具体的な検査項目としては電解質、甲状腺ホルモン、ライム病ボレリア抗体 (ライム病患者の一部で房室ブロックを認めることがある) などである。

洞房結節異常や遺伝性の房室ブロックで SCN5A や HCN4 の遺伝子変異を認めることがあるが、遺伝子検査はあまり行われていない。遺伝子検査を行う場合は、遺伝子カウンセリングが受けられるようにように配慮する。

2. 睡眠時無呼吸症候群と徐脈

夜間の徐脈のよくある原因としては、睡眠時無呼吸症候群がある。睡眠時無呼吸症候群の患者では最大 40%で徐脈を認め、最大13%で II度または III 度の房室ブロックを認める。睡眠時無呼吸症候群を治療すると徐脈は 90%近く減少させることができる。

2018年の徐脈のガイドラインでは、夜間に徐脈を認める患者や睡眠障害が疑われる患者で睡眠時無呼吸症候群のスクリーニングを行うことをクラス I の推奨としている。スクリーニング陽性の患者ではポリソムノグラフィーを行うか、専門科へのコンサルテーションを検討する。

徐脈を認めるのは夜間のみで、無症状の場合はペースメーカーが必要になることはない。

 

3. 心臓電気生理学的検査

徐脈に対して侵襲的な検査である心臓電気生理学的検査 (electrophysiology study: EPS) を行っても得られるものは少ないが、一部の洞不全症候群、房室ブロック、それらに関連する頻脈に対して EPS を行うことで有益な情報が得られるかもしれない。特に 2:1 の房室ブロックでは、EPS は病変が房室結節内にあるか、房室結節より下流の伝導路にあるかを鑑別するのに役立つ。一方、洞不全症候群では洞房結節回復時間が延長すると言われるが、これは感度も特異度も低い所見である。したがって、徐脈に対する EPS の臨床的な価値は限定的である。

 

4. 伝導障害の評価

フラミンガム研究では、左脚ブロックは心臓の器質的疾患および死亡率と関連することが示されている。徐脈の患者に左脚ブロックをともなう場合はまず経胸壁心臓超音波で器質的心疾患の検索を行うと良い。虚血性心疾患の危険因子や狭心症の症状をともなう場合は虚血性心疾患の検索を行うべきである。右脚ブロックについては、他に器質的な心疾患の存在を疑わせる所見がある場合や胸部症状がある場合を除いて精査は不要である。脚ブロックをともなう徐脈の患者で、徐脈による症状を認める場合は房室ブロックの存在を疑って心電図モニターを行うべきである。

 

5. 洞不全症候群の治療

2018年の徐脈のガイドラインでは、洞不全症候群を 1. 心拍数 50 /分未満または 2. 3秒超の洞停止と定義している。無症候性の洞不全症候群に対しては一般にペースメーカーの適応はない。

Multi-ethnic Study of Atherosclerosis (MESA) は、心拍数 50 /分未満の 45-84歳の男女 300名超を対象にしたコホート研究である。10年間の観察期間では、心疾患や死亡率は対照群と差がなかった。

一方、症候性の洞不全症候群については未治療の場合は、失神や心房細動、心不全のリスクであると報告されている。したがって、症候性の洞不全症候群では適切な治療がなされるべきである。症候性洞不全症候群の慢性期の治療の主力は恒久的ペースメーカー留置である。

一時的ペースメーカーが必要になることはほとんどない。いくつかの薬剤(アトロピン、イソプロテネロール、ドーパミン、ドブタミン、エピネフリン、カルシウム静注製剤、グルカゴン、高用量インスリン、アミノフィリン) は症候性の徐脈に対して使用できるが、救急診療に限っての使用にとどめるべきである。

恒久的ペースメーカーの適応となるのは、症候性洞不全症候群の他、症候性の変時性不全(労作時に洞房結節が反応しない)、頻脈徐脈症候群で徐脈による症状をともなう場合がある。

恒久性ペースメーカーを留置する場合は、atrial based pacing に設定するべきである。single chamber ventricular pacing と比較して、atrial pacing または dual chamber pacing は心房細動およびペースメーカー症候群のリスクが低いことが示されているからである。

 

元論文

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1050173819300933

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