内分泌代謝内科 備忘録

ダンピング症候群の診断と治療についてのコンセンサスガイドライン

ダンピング症候群の診断と管理についての国際的コンセンサス
Nat Rev Endocrinol 2020; 16: 448-466

ダンピング症候群 (dumping syndrome) は、胃・食道手術の合併症としてよくみられるが、十分に診断されていない。我々は、国際的な学際的専門家によるデルファイ法 (Delphi consensus process) による合意形成を始めた。

我々は、文献を調査するために、範囲を定義し、ステートメントを提案し、電子データベースを検索した。18 人の専門家が文献の要約と投票プロセスに参加し、62 のステートメントを評価した。GRADE(grading of recommendations assessment, development and evaluation)基準を用いてエビデンスの質を評価した。ダンピング症候群の定義、症状、QOL への影響など、62 項目中 33 項目でコンセンサス(80%以上の一致と定義)に達した。委員会は、急激に小腸を栄養が通過することや、胃の容積が減少すること、グルカゴン様ペプチド-1 (glucagon-like peptide-1: GLP-1) の放出が病態生理に関連することについて合意した。

症状の認識は非常に重要であり、胃排出試験 (gastric emptying testing) ではなく、修正経口ブドウ糖負荷試験 (modified oral glucose tolerance test) が診断に有用である。ブドウ糖摂取開始 30 分後にヘマトクリット値が 3%以上、または脈拍数が 10 bpm 以上増加すれば早期ダンピング症候群と診断され、血糖の底値 (nadir) が <50 mg/dL であれば後期ダンピング症候群と診断される。

後期ダンピング症候群の症状にはアカルボース (acarbose) が有効であり、食事調整やアカルボースに反応しない患者にはソマトスタチンアナログ (somatostatin analogues) が望ましい。

1. はじめに
ダンピング症候群は、がんおよびがん以外の食道・胃の手術、および肥満手術(メタボリック手術としても知られる)で頻繁にみられる合併症である。これらの手術は胃の解剖学的構造および神経支配を変化させるため、かなりの量の未消化食物が急速に小腸に到達する可能性がある。

ダンピング症候群は、早期ダンピング症候群と後期ダンピング症候群に細分化される症状群から構成され、これらは同時に起こることもあれば別々に起こることもある。一般に、早期ダンピング症候群の症状は食後 1 時間以内に起こり、消化器症状(腹痛、腹部膨満感、腹鳴、嘔気、下痢)と血管運動症状 (vasomotor symptoms)(顔面紅潮、動悸、発汗、頻脈、血圧低下、疲労、横になりたがる、まれに失神)を伴う。

病態生理には、浸透圧効果、ペプチドホルモンの分泌、自律神経反応が関与している可能性がある。晩期ダンピング症候群の症状は通常、食後 1-3 時間の間に発現し、主に低血糖の症状である。低血糖は主に、糖質摂取後のインクレチン分泌による高インスリン血症反応に起因する。低血糖に関連した症状には、1. 低血糖による神経機能障害(疲労、脱力、錯乱、空腹感および昏睡によって示される)と 2. 迷走神経および交感神経の活性化(発汗、動悸、振戦および過敏性によって示される)がある。

文献によっては、後期ダンピング症候群を「反応性低血糖 (reactive hypoglycemia)」、あるいは肥満手術後は「肥満後低血糖 (postbariatric hypoglycemia)」と呼んでいる。しかし、早期ダンピング症候群でもみられる小腸の急激な栄養への暴露という共通の病態生理に基づき(後の考察を参照)、我々はこの現象を「後期ダンピング症候群」と呼ぶことにする。

ダンピング症候群の有病率は、手術の種類や程度、ダンピング症候群の診断基準によって異なる。ダンピング症候群は、幽門形成術を伴う迷走神経切断術を受けた患者の約 20%、Roux-en-Y 胃バイパス術(Roux-en-Y gastric bypass: RYGB)またはスリーブ状胃切除術を受けた患者の最大 40%、食道切除術を受けた患者の最大 50%にみられる。さらに、ダンピング症候群は Nissen 噴門形成術 (Nissen fundoplication) の後にも起こる可能性がある。

Nissen 噴門形成術
https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/ped_surgery/patient/surgery/nissen.html

過去 15 年間に発表された報告によると、肥満手術が術後ダンピング症候群の主な原因となっている。ダンピング症候群は、主に RYGB や胃部分切除術後に報告されているが、スリーブ状胃切除術 (sleeve gastrectomy)、垂直離断胃形成術 (vertical banded gastroplasty)、腹腔鏡下調節性胃バンディング術 (laparoscopic adjustable gastric banding) などの摂取制限減量手術 (restrictive bariatric procedures) 後にも起こる可能性があり、これらはすべて胃近位部の容積を減少させる。したがって、肥満治療の急速な拡大により、ダンピング症候群の患者数が増加している。

2. 定義と症状
ダンピング症候群は、幽門形成術を伴う迷走神経切開術を受けた患者の約 20%、胃切除術後の患者の最大 40%、食道切除術を受けた患者の最大 50%にみられる。ダンピング症候群はまた、小児と成人の両方で Nissen 噴門形成術後に報告されている。過去 10 年の間に、肥満手術が術後ダンピング症候群の主な原因となっている。さらに、ダンピング症候群は主に RYGB と胃部分切除術後に報告されている。さらに、RYGB またはスリーブ状胃切除術を受けた 450 人の患者のうち、約 3 分の 1(34.2%)に食後低血糖と一致する術後症状がみられ、後期ダンピング症候群の存在が示唆された。

ダンピング症候群は、一連の症状からなり、症状が出現する時期や推定される病態生理学に基づいて、早期ダンピング症候群と後期ダンピング症候群に細分化される。

早期ダンピング症候群は、腹痛、腹部膨満感、腹鳴、嘔気、下痢などの消化器症状と、倦怠感、食後に横になりたがる、顔面紅潮、動悸、発汗、頻脈、血圧低下、まれに失神などの血管運動症状 (vasomotor symptoms) を特徴とする。

後期ダンピング症候群の症状は、低血糖による神経症状(疲労、脱力、錯乱、空腹感、失神で示される)と自律神経かつ/またはアドレナリン作用(発汗、動悸、振戦、過敏性で示される)に関連している。

早期ダンピング症候群の症状は、小腸への急激な栄養通過に起因しており、これにより病態生理学的事象のカスケードが活性化される。

高浸透圧の内容物が小腸に到達すると、体液が血管内成分から腸管内腔に移行し、循環血液量の減少、十二指腸または空腸の膨張、いくつかの消化管ペプチドホルモンの放出が起こる。これらの変化は、頻脈、低血圧、まれに失神、腹部けいれんなどの初期ダンピング症候群の症状を引き起こす。

ダンピング症候群を評価するための誘発試験(修正経口ブドウ糖負荷試験 [oral glucose torelance test: OGTT])により、これらの症状やその結果(脈拍数の増加やヘマトクリット値の上昇)のほとんどは、食後 30 分ですでに認められることが示されている。

後期ダンピング症候群は、高インスリン血症または反応性低血糖の発症に起因する。炭水化物が小腸に急速に運ばれるとグルコース濃度が高くなり、これが高インスリン血症反応を引き起こし、その後に低血糖が起こる。肥満手術後、低血糖の臨床徴候が現れるまでには 3 ヵ月から 1 年かかるが、これはおそらく体重減少に伴ってインスリン感受性が高まるためであろう。

早期ダンピング症候群と後期ダンピング症候群の有病率に関する文献は明らかでない。しかし、ブドウ糖負荷試験を含む研究では、早期ダンピング症候群のマーカーである脈拍数の増加が非常に多く、後期ダンピング症候群のマーカーである低血糖の発生が少ないことが示されている。これらの所見は、早期ダンピング症候群の方が後期ダンピング症候群よりも多い可能性を示唆している。

症状評価に Mine スコアを用いると、がんの胃手術後に早期ダンピング症候群を報告した患者の割合は、後期ダンピング症候群を報告した患者よりも高かった。対照的に、後期ダンピング症候群のみを認める場合は、胃がんの手術を受けた患者の最大 25%に認める可能性がある。

1990 年代のいくつかの研究では、胃切除後のダンピング症候群症状が日常機能に及ぼす影響が報告されていた。最近の研究では、GIQLI(Gastrointestinal Quality of Life Index)、Short-Form 36 または RAND-36 質問票のスコアは健常人の範囲を大きく下回っていた。胃切除後 QOL 尺度が開発され、胃切除後の QOL がかなり損なわれ、ダンピング症候群の症状が重要な悪影響を及ぼすことが報告された。しかし、この尺度は早期および後期のダンピング症候群の症状の有無と数を用いているため、患者ではなく医師がスコアリングするものという側面が強い。ダンピング症候群のための、患者が自身でスコアリングする QOL 尺度はまだ見つかっていない。

肥満手術が体重減少とダンピング症候群のリスクを伴うことはよく知られている。しかし、消化性潰瘍に対して手術を行っていた時代の文献や、今世紀に入ってからの胃がんや食道がん手術のデータからも、ダンピング症候群が体重減少につながる可能性があることが示されている。さらに、迷走神経温存食道切除術や胃癌手術に伴う幽門再建術など、ダンピング症候群の予防を目的とした手術は、従来の切除術よりも体重減少が少ない。成人および小児のダンピング症候群患者においても、Nissen 噴門形成術後の体重減少が報告されている。

3. 病態生理
胃の手術によって胃の容積が減少したり、幽門のバリア機能が失われることで、食物が小腸に速やかに送り込まれるようになる。高浸透圧の小腸内容物は、血管内から腸管内腔への体液移動を引き起こし、血漿循環量の減少、頻脈、低血圧、まれに失神を引き起こす。小腸への体液移動は、十二指腸や空腸の拡張を引き起こし、けいれん、下痢、疼痛、腹部膨満感などの腹部症状を引き起こすこともある。

体液の移動は、一部の患者ではブドウ糖負荷試験中の 30 分後のヘマトクリット値の上昇によって確認される。代償的に心房性ナトリウム利尿ペプチドの分泌が低下する。しかし、早期ダンピング症候群の症状を予防するのに、輸液は効果がないことが判明している。スリーブ状胃切除術後や Nissen 噴門形成術後にもダンピング症候群を来すことから胃の容積低下もダンピング症候群の一因だと考えられている。

初期ダンピング症候群の病態生理に関わる第二のメカニズムは、血管作動性物質(ニューロテンシン [neurotensin] や血管作動性腸管ペプチド [vasoactive intestinal peptide] など)、インクレチン (incretins)(グルカゴン様ペプチド-1(glucagon-like peptide-1: GLP-1)など)、YY 胃抑制ポリペプチド (YY gastric inhibitory polypeptide)、グルコース調節物質(インスリンやグルカゴンなど)など、いくつかの消化管ホルモンの放出亢進であろう。

ダンピング症候群では、すべての腸管ペプチドの濃度が上昇するわけではない。例えば、サブスタンス P とモチリンの濃度は上昇しなかった。化学感知 (chemosensing) だけでなく、十二指腸や空腸の膨張も消化管ホルモンの放出に寄与している可能性がある。この観察を支持する逸話的証拠 (anecdotal evidence) としては、ダンピング症候群患者のバリウムX線検査で小腸が拡張していることがしばしば認められること、健常ボランティアで十二指腸の膨張によって症状が誘発されることなどがある。放出されたペプチドホルモンは、その作用を通じて、ダンピング症候群の消化器系および心血管系の両方の作用に関与している可能性がある。

経腸的グルコース投与は、静脈内投与に比べてインスリン分泌を亢進させるが、これはいわゆるインクレチン効果である。グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(glucose dependent insulinotropic polypeptide: GIP, 胃抑制性ポリペプチド [gastric inhibitory polypeptide] とも呼ばれる)と GLP-1 はインクレチン効果において極めて重要な役割を担っている。

胃手術後の反応性低血糖患者では GLP-1 反応が亢進しており、GLP-1 濃度の上昇はインスリン分泌と相関している。さらに、GLP-1 受容体拮抗薬エキセンディンアミドの注入は、胃バイパス術後の反応性低血糖を改善することができた。これらの観察結果は、後期ダンピング症候群において GLP-1 反応の亢進が高インスリン血症および反応性低血糖の主なメディエーターであることを示している。

RYGB 手術による体重減少は、胃の容積減少と小腸のバイパスによる二次的なカロリー吸収不良に起因しており、これにより食行動と食事パターンが著しく変化する。術後の体重減少に寄与するその他のメカニズムとしては、空腹感の減少、満腹感の増大、エネルギー消費の増大、味覚の変化などがあり、これらはすべて消化管および中枢神経内分泌シグナルの変化に依っている可能性がある。

ダンピング症候群の症状のために食事摂取量が減ってしまうことが、肥満手術後の体重減少に寄与している可能性が考えられている。しかし、ダンピング症候群の症状がある者が、ダンピング症候群のない者よりも体重が減少することを証明した試験はなく、ダンピング症候群によって体重が減少しているのではないことについては複数の研究で裏付けられている。したがって、肥満手術後に起こるダンピング症候群は、QOL や消化機能を損なう可能性があるため、望ましい効果ではなく、手術の合併症と考えなければならない。さらに、軽度のダンピング症候群については、肥満手術後によく認めるものなのかどうかについても分かっていない。

手術歴のない反応性低血糖症患者のうち、経口ブドウ糖負荷試験で遅発性低血糖を示す患者が少数報告されている。胃排出の促進が共通の病理であると考えられている。関連する胃腸症状、急速な胃排出、食後下痢との頻繁な関連から、反応性低血糖は、手術後のダンピング症候群と類似した病理であると思われる。これらの患者は食事の調整 (少量ずつ多くの回数食事をする) によく反応した。

4. 症状に基づく診断
胃または食道の手術を行った患者でダンピング症候群を示唆する症状が同時に複数認められる場合には、ダンピング症候群を疑うべきである。このことは当然のことのように思えるが、臨床の現場ではダンピング症候群は十分に知られておらず、しばしば見逃されている。さらに、診断と適切な治療が数ヶ月から数年も遅れることも多い。

適切な手術歴のある患者において、「食事摂取後に強い倦怠感のために横になることがある」というのは、重要な臨床的手がかりである。ダンピング症候群が疑われる患者においては、症状に基づいた質問票、経口ブドウ糖負荷試験、 その他の診断的検査(以降のセクションを参照) により、診断を確定することができる。

ダンピング症候群を示唆する手術歴のある患者の消化管症状の鑑別診断では、機械的閉塞または亜閉塞(内容物の通過を遅らせるが妨げない管腔の狭窄)を考慮する必要がある。しかし、手術後の機械的な変化は、ダンピング症候群の初期症状のいくつかを模倣するかもしれないが、低血糖を伴うことはなく、ダンピング症候群患者にみられる糖負荷試験中の異常な特徴のいずれをももたらさないであろう。術後の解剖学的構造を評価するために追加検査を行う程度は、臨床的判断による。

1970 年に提唱された Sigstad のスコアリングシステムは、ダンピング症候群の診断を助けるために、症状に点数をつけ、その点数を合計するものである(Box 1)。

Box 1. Sigstad スコアリングシステムによるダンピング症候群の評価
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7351708/#Sec32

合計点が 7 点以上であればダンピング症候群を示唆し、4 点未満であれば他の診断を考慮する必要がある。5 点と 6 点は、ダンピング症候群の診断にとって何を意味するのか不明なため、グレーゾーンとなる。しかし、これらの値とその解釈は消化性潰瘍手術を受けた患者を対象として確立されたものであり、肥満手術や上部消化管がん手術を受けた患者における Sigstad のスコアリング質問票の診断精度は確立されていない。胃バイパス術を受けた患者 50 人を対象とした研究では、42%の患者でダンピング症候群を示す Sigstad's スコアが認められたが、体重減少量との相関は認められなかった。また、腹腔鏡下スリーブ状胃切除術を受けた 2 型糖尿病のない患者 24 人を対象とした研究では、スコアとグルコース負荷試験中の低血糖との間に関連性がないことが示された。

Sigstad のスコアリングシステムは主に診断補助として提案された。我々の知る限り、治療介入に対する感度は研究されていない。Laurenius らは、OGTT 中に 15 分間隔で修正した Sigstad のスコアで評価し、曲線下面積 (area under the curve) で RYGB 後のダンピング症候群の症状の有無を鑑別できたことを報告した。ただし、この方法が古典的なスコアより優れているかどうかは報告されていない。以上を総合すると、Sigstad のスコアは、あらゆる種類の手術後にダンピング症候群を有する患者のかなりの部分を正しく同定する。しかし、Sigstad のスコアリングシステムの診断能を、肥満手術後と癌または消化性潰瘍手術後とで比較したデータは不足している。

Arts らが開発したダンピング重症度スコアでは、早期ダンピング症候群と後期ダンピング症候群の症状(それぞれ 8 症状と 6 症状)を 4 段階のリッカート尺度 (Likert scale) でスコア化する (Box 2)。

Likert scale
https://bellcurve.jp/statistics/blog/14414.html

Box 2. Arts スコアリングシステムによるダンピング症候群の重症度評価
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7351708/#Sec33

重症度スコアは、患者が示す症状の個々のスコアを加算することによって得られる。このスコアは主に重症度の指標として用いられた。診断性能については言及されていない。さらに、どのサブスコア(後期または早期)にも閾値は設定されていない。したがって、このスコアは症状を数値化するものではあるが、ダンピング症候群の早期と後期の鑑別能は検討されていない。

ソマトスタチンアナログであるオクトレオチド (ocreotide) およびランレオチド (lanreotide) の非盲検試験では、治療後に Arts スコア (総合スコア、早期サブスコア、晩期サブスコア) に変化がみられた。対照的に、ソマトスタチンアナログであるパシレオチド (pasireotide) を用いたパイロット試験では、Arts スコアに統計学的に有意な改善はみられなかった。

2010 年に発表された報告では、胃がんのために胃切除術を受けた 1,000 人以上の患者を対象に、早期ダンピング症候群の 7 つの症状と後期ダンピング症候群の 6 つの症状を評価するために、視覚的アナログスケール(症状の重症度をなしから耐えられないまでの連続的なスケールとして 10 cm の線上に表示)を用いた調査が行われたことが報告されている。解析の結果、ダンピング症候群を診断するためのカットオフ値は非常に低かったが(質問票の単一項目の視覚的アナログスケール得点が 10 mm 以上)、驚くべきことにカットオフ値を高くしても(45 mm)、同様の診断結果が得られた。この質問票の使用に関する他の報告は、現在までにない。

ダンピング症状評価尺度 (the Dumping Symptoms Rating Scale) は、医師からなる集学的チームの意見に基づいた質問票である。この尺度は、初期のダンピング症候群に対応する 9 つの症状、水分の摂取に関連する症状、および加糖飲料の摂取に関連する症状から構成されている。各項目について、重症度(1-9 の範囲)と頻度(1-8 の範囲)の個々の得点を掛け合わせ、それらを合計することでサマリースコアが作成される。大規模な患者コホートにおいて、内容的妥当 (content validity)、内部一貫性 (internal consistency)、構成概念妥当性 (constructive validity) が確立された。

内容的妥当性と構成概念妥当性
https://www.slideshare.net/slideshow/cosmin-takebayashi-21816803/21816803

再テスト信頼性 (test-retest reliability) はあまり一貫していなかった。

再テスト信頼性
https://study.com/academy/lesson/test-retest-reliability-coefficient-examples-lesson-quiz.html

胃腸症状評価尺度 (Gastrointestinal Symptoms Rating Scale) の項目との相関にはばらつきがみられた。さらに、この尺度では治療に対する反応性は評価されていない。

5. 検査
低血糖は単に血糖値が低いだけでなく、炭水化物の摂取によって症状が緩和される場合にもっともらしい。これは、インスリノーマや肥満手術後の低血糖に関する文献では、Whipple の三徴と呼ばれている。

2015 年に発表された文献レビューでは、ランダムな血糖値に対する明確なカットオフ値は定義されていなかったが、OGTT または混合食負荷試験 (mixed meal tolerance test) 中の食事誘発性低血糖に対する感度の高いカットオフ値として、血糖値 <3.3 mmol/L (60 mg/dL) が示唆されている。このカットオフ値は、成人患者だけでなく、小児患者においても他の著者が使用している。このカットオフ値は、グルコース負荷後、患者が長時間椅子に座って採血を繰り返し、エネルギーをほとんど消費しない状態で使用される。その点で、自発的な事象 (負荷試験ではなく自然な状態で観察された低血糖) に対しては、3.3 mmol/L よりもむしろ 2.8 mmol/L (50 mg/dL) のような、より厳格なカットオフ値を要求してもよいと思われる。

反応性低血糖に関する持続血糖モニター (continuous glucose monitoring) を用いた研究では、低血糖イベントのカットオフは 70 mg/dL(3.9 mmol/L)であった。反応性低血糖患者の連続血糖を測定した別の研究では、カットオフ値として 3.3 mmol/L(60 mg/dL)が用いられたが、有症状のエピソードのうちこの閾値を下回ったのはわずか 5%であった。アカルボースを用いた研究では、低血糖の評価に 60 mg/dL の閾値が用いられた。

インスリン治療を受けた糖尿病患者に関する文献データから、3.9 mmol/L 以下から症候性低血糖の発生が増加することが示されている。広範なデータベース解析から、3.5 mmol/L を超える低血糖エピソードの大部分は無症状のままであり、3.5 mmol/L から 4.0 mmol/L の間の値はおそらく重要性が低く、インスリン治療を受けた糖尿病患者の設定においては 3.4 mmol/L(54 mg/dL)のカットオフ値が適切であると結論づけられた。

外来における血糖モニタリングの研究では、低血糖のカットオフ値はより低い値(3.1 mmol/L、さらには 2.2 mmol/L)が用いられているが、現在のところ閾値に関するコンセンサスは得られていない。2.2 mmol/L (40 mg/dL) の閾値は、このレベルの低血糖が顕著で持続的な認知機能障害につながるとして提案された(UK Hypoglycaemia Study Group より)。

まとめると、低血糖を定義する血糖値に関するコンセンサスは、文献(ダンピング症候群に関する文献でも、より広範な文献でも)からは得られていない。カットオフ値は 3.3 mmol/L が妥当と思われるが、2.8 mmol/L の方が症状との関連が予測しやすい。

逸話的な報告 (anecdotal reports) によると、ダンピング症候群が疑われる患者において、血糖値のモニタリングが有用であることが示唆されている。1 件の症例報告と 1 件の治療研究が、アカルボースと食事療法の効果を評価するために、アウトカム変数として持続血糖モニタリングを使用している。しかし、持続血糖モニタリングの診断精度は、ダンピング誘発検査や診断用質問票と比較されたことはなく、治療成績の指標として評価されたこともない。

Sigstad の診断質問検査についての最初の報告では、診断において OGTT と Sigstad のスコアとを組み合わされることが提案された。胃切除後のダンピング症候群の有無にかかわらず、25 人の患者において誘発試験のスコアおよび転帰に差がみられた。Sigstad のスコアリングシステムは、主に血管内容量低下を示す脈拍数の増加やヘマトクリット値の上昇などの徴候や症状から、早期のダンピング症候群を同定することを目的としている。この指標は低血糖(後期ダンピング症候群のマーカー)を用いていないため、ダンピング症候群の有病率と重症度を過小評価する可能性が高い。

OGTT は現在、ダンピング症候群の診断検査として推奨されている。この検査では一般的には 50 g または 75 g のブドウ糖溶液を摂取するが、著者によっては 25 g から 100 g のブドウ糖が使用されることがある。グルコースの血中濃度、ヘマトクリット値、脈拍数、血圧は、摂取後 3 時間まで 30 分間隔で測定される。

後期(120-180 分)に低血糖が起こるか、早期(30 分)にヘマトクリット値が 3%以上上昇すれば、この検査は陽性とみなされる。早期ダンピング症候群の最も感度の高い徴候は、30 分後に脈拍数が 10 bpm 以上上昇することである。

ほとんどの研究では、通常は摂取後 90 分から 180 分の間に起こる <60 mg/dL の糖血症を、後期ダンピング症候群の診断とみなしている。低血糖は後期ダンピング症候群のマーカーであるため、存在すればダンピング症候群と診断できる。

過去数年の文献では、低血糖は 120 分、150 分、180 分のいずれかに起こることがほとんどであった。50 mg/dL と 60 mg/dL のカットオフ値を比較した系統的な分析はない。しかし、われわれの経験と入手可能な文献からも支持されるように、安静時の OGTT におけるカットオフ値 50 mg/dL は、後期ダンピング症候群の診断感度を低下させ、有病率を過小評する可能性がある。それにもかかわらず、現在のコンセンサスでは、ダンピング症候群の後期低血糖を定義するカットオフ値として 50 mg/dL が選択されている。

OGTT は長期フォローアップ調査にも用いられている。検査を実施する臨床部門は、OGTT 実施中の症候性低血糖とその管理方法に精通していなければならない。しかし、文献では、ダンピング症候群の患者に対して OGTT を繰り返し行うことによる有害事は報告されていない。

修正 OGTT の再現性については個別に研究されていない。しかし、ダンピング症候群患者を対象としたパシレオチドを用いた第 II 相臨床試験のデータによると、OGTT 試験を繰り返しながらパシレオチドの用量を徐々に増やしていったところ、最大 50%の患者が治療中に低血糖を示し続けた。この観察は、この検査が低血糖の発生について再現性があるという概念を支持するものである。これらの研究では、OGTT 試験において、治療による 30 分後の脈拍数の上昇またはヘマトクリット値の上昇の持続性は、低血糖の持続性よりも低かった。このことは、前者の再現性が低いか、またはパシレオチドが後期ダンピング症候群(低血糖)の治療よりも早期ダンピング症候群(脈拍数の上昇とヘマトクリット値の上昇)の治療に有効であることを示唆している。

後期ダンピング症候群を示唆する症状がなくても、胃バイパス術後の患者に OGTT を行うと低血糖を認める可能性がある。したがって、この検査の診断精度は低いと思われる。糖尿病を合併していない患者を対象に、胃バイパス術を中心とした肥満治療前後に検査を行ったところ、全患者の半数に低血糖がみられたが、低血糖症状を呈した患者はいなかったことから、この検査は特異度が低いことが示唆される。このため、肥満手術後の患者における低血糖の測定は、炭水化物の摂取によって緩和される症状(Whipple の三徴)を伴う場合にのみ意味があることが示唆されている。これらの考察に基づき、2009 年に発表された内分泌学会の成人低血糖症の評価と管理に関するガイドラインでは、食後低血糖の検査に OGTT を使用することは否定されたが、このガイドラインではダンピング症候群については言及も考慮もされていない。質問票(Sigstad's 質問票、Arts 質問票、Mine 質問票など)を追加することによって、ダンピング症候群に対する OGTT の精度や感度が改善するかどうかは評価されていない。

胃バイパス術後の症候性低血糖を確認するための代替法として、混合食負荷試験が推奨されている。この試験では、ダンピング症候群が疑われる患者が一晩絶食した後、炭水化物、脂肪、タンパク質を含む混合食を摂取し、食前および食後 2 時間まで 30 分間隔で採血を行い、血糖値とインスリンを測定する。OGTT に比べ、混合食試験については限られた数の研究しか報告されていない。このため、両検査の感度を確実に評価することはできない。しかし、この検査は OGTT よりも低血糖の発生率が低いとされている。

急速な胃排出はダンピング症候群の重要な病態生理であるが、胃排出速度の診断精度は低いようである。第一に、この検査は胃全摘術後には適用できない。第二に、急速な胃排出は、ダンピング症候群以外の病態、例えば機能性ディスペプシアでも起こる可能性がある。さらに、最初の急速な胃排出は、ダンピング症候群の症状を引き起こすのに十分であるが、嘔気を含む消化器症状が胃排出を遅延させ、胃排出速度は全としては正常範囲内に収まることが、多くの症例集積研究で報告されている。以上より、胃排出検査は、ダンピング症候群の診断には有用性が低いと思われる。

6. 治療
食事療法はまず行うべき治療法である。患者には毎食の食事量を減らし、食後 30 分以上経過するまで水分摂取を控え、甘い食べ物や飲み物に含まれる吸収の早い炭水化物を避けることなどが勧められる。その代わりに、食物繊維が豊富でタンパク質を多く含む食品からなる食事を摂るように勧められ、果物や野菜の摂取が奨励される。また、アルコール飲料は避けた方がよい。

成人および小児を対象とした症例集積研究では、食事介入の有益性が論じられているが、これらの研究の焦点は後期ダンピング症候群(低血糖)である。また、患者はゆっくりよく噛んで食べるべきである。タンパク質を多く含む食品や食後しばらくは水分摂取を控えることによる有益性を示した対照データは文献にはない。さまざまな食品のグリセミックインデックス (glycaemic index) に関する教育も、ダンピング症候群の患者には有用であろう。さらに、胃排出を遅らせ、血管内容量低下による症状を軽減するために、食後 30 分間は横になるよう患者に助言することができる。しかし、このアプローチに関するエビデンスは不足している。

グアーガム (guar gum)、ペクチン (pectin)、グルコマンナン (glucomannan) など、食物の粘性を高めるサプリメントのダンピング症候群患者への使用が、多くの研究で評価されている(表 2)。

表 2. グアーガム、ペクチン、グルコマンナンのタンピング症候群に対する効果についての研究のまとめ
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7351708/table/Tab2/

その根拠は、食事の粘性が増すと小腸への栄養素の放出が遅くなるというものである。いくつかの研究では、毎食 15 g までのグアーガムまたはペクチンを摂取することで、胃排出を遅らせ、消化管ホルモンの分泌を抑え、高血糖を改善し、ダンピング症候群の症状を抑えることができると評価されている。ある研究では、グルコマンナンはダンピング症候群の小児において、統計学的に有意に耐糖能を改善したが、グルコースの吸収には影響を及ぼさなかったと報告している。しかし、このような栄養補助食品は通常、好まれず忍容性に劣る。

食事介入に反応しないダンピング症候群の患者では、薬物療法の使用を考慮する必要がある。なぜなら、薬物療法の有効性は食事介入よりも高い可能性があり、薬理作用や対照試験により支持されているからである。とはいえ、薬物療法に移行したくない患者には、意識低下、昏睡、運転や機能障害につながる低血糖などの重大な症状がなければ、保存的アプローチを考慮することができる。

アカルボース (acarbose) は α-グリコシダーゼ阻害薬で、糖質からの単糖の遊離を遅らせる。アカルボースに関する研究を表 3 にまとめた。

表 3. ダンピング症候群におけるアカルボースの効果についての研究
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7351708/table/Tab3/

ほとんどの研究はかなり小規模で期間も短い。これらの研究は一貫して、アカルボースが耐糖能を改善し、消化管ホルモンの放出を減少させ、後期ダンピング症候群の主な特徴である低血糖の発生率を低下させることを示している。早期ダンピング症候群の症状に対する効果に関する特別な証拠は得られていない。しかし、いくつかの研究では早期ダンピング症候群と後期ダンピング症候群の症状を詳細に区別していないことから、アカルボースが早期ダンピング症候群の症状にも効果がある可能性を確実に否定することはできない。通常、アカルボースは 1 回 50-100 mg を 1 日 3 回食事とともに服用する。主な副作用は鼓腸と、炭水化物の吸収不良による腹部膨満感などの関連した胃腸症状である。アドヒアランスの観点から、これらの作用は薬の作用機序上避けられない副作用であることを患者に説明する必要がある。

ジアゾキシド (diazoxide) は、膵 β 細胞の ATP 感受性カリウムチャネルを開口することによりインスリン分泌を抑制するため、後期ダンピング症候群の低血糖を予防することが期待される。後期ダンピング症候群の症状に対するジアゾキシドの使用は、文献的には症例報告や症例集積研究として逸話的に言及されているのみである。2016 年に発表された、肥満手術後の高インスリン血症性低血糖患者 6 人を対象とした多施設のレトロスペクティブで系統的な症例報告では、ジアゾキシドが 3 人の患者で低血糖イベントの数と重症度を減少させたことが報告されている。抄録のみ発表された小規模の後ろ向き症例集積研究では、ジアゾキシドは、他のパラメータに統計学的に有意な影響を及ぼすことなく、後期低血糖を有意に改善した。

ソマトスタチン (somatostatin) アナログは、胃排出速度を遅くし、小腸通過を遅らせ、消化管ホルモンの分泌を抑制し、インスリン分泌を抑制し、食後の血管拡張を抑制することができる。したがって、これらのアナログは、早期および後期のダンピング症候群の両方に有効である可能性がある。ダンピング症候群に対するソマトスタチンアナログの有効性は、当初は症例集積研究によって支持され、その後、いくつかのランダム化比較試験によって支持された(表 4)。

表 4. ダンピング症候群におけるソマトスタチンアナログの効果についての研究
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7351708/table/Tab4/

このエビデンスは、消化性潰瘍、肥満、がん手術後の早期および後期のダンピング症候群の症状に当てはまる。オランダとベルギーの研究では、短時間作用型と長時間作用型のソマトスタチンアナログの両方が症状の改善をもたらすことが示されているが、患者は長時間作用型の製剤を好む。グルコース負荷時のヘマトクリット値かつ/または脈拍数の評価から得られたデータは、早期および後期のダンピング症候群におけるオクトレオチドおよびパシレオチドの有効性を示す客観的な証拠となる。Penning らは、長時間作用型製剤が短時間作用型製剤よりも体重増加および QOL 改善に有効であることを示した。しかし、Arts らの研究では、長時間作用型のオクトレオチドを月 1 回投与するよりも、短時間作用型のオクトレオチドを 1 日 3 回投与した方が、より良好な症状コントロールが得られた。

実際、長時間作用型のオクトレオチド注射(筋肉内注射)は、患者にとって注射の頻度が少なく便利であり、短時間作用型のオクトレオチド注射(皮下注射)でしばしば報告された注射嫌いを軽減できる可能性がある。オクトレオチドの使用は、副作用として低血糖の発生と関連するかもしれない。したがって、理論的には、オクトレオチドによる低血糖の悪化または低血糖パターンの変化が考えられる。しかし、ダンピング症候群を対象としたこれまでのオクトレオチド研究では、このような影響は報告されていないことから、この集団ではこの問題は関係ないと考えられる。小児におけるダンピング症候群に関する研究はないため、小児におけるオクトレオチドや他の類似薬の使用についてはまだ確かなエビデンスによってまだ支持されていない。

治療抵抗性のダンピング症候群に対する経管栄養支持するエビデンスは乏しく、主に、Nissen 噴門形成術後のダンピング症候群の症状など、少数の症例報告から得られている。少数の症例報告では、RYGB 後に残胃に胃瘻チューブを挿入することで、低血糖症状が改善した。経管栄養は侵襲的であり、時間とともに症状が改善する可能性があるため、重度の難治性症例にのみ考慮される。

ダンピング症候群の自然歴に関する実際のデータはなく、したがって患者が時間とともに改善するかどうかは分かっていない。RYGB 後の患者における重症低血糖の治療における外科的再介入については、様々な外科的手技(バイパス反転 [bypasd reversal]、ポーチ制限 [pouch restriction]、腸管ループの挿入 [interposed intestinal loop] など)を用いた多くの研究が報告されており、その転帰は様々である。ある報告では、ダンピング症候群と難治性低血糖を合併した 3 人の患者において、胃バイパス術の効果が不十分であったため、低血糖症状のコントロールのために最終的に膵部分切除術が必要となった。

実際、膵島細胞症(nesidioblatosis, GLP1 分泌の亢進によって引き起こされる可能性のある膵島細胞の過形成)が難治性低血糖の病態に関与していることが示唆されており、いくつかの報告例に基づいて、膵亜全摘術が治療法として提案されている。

膵島細胞症 (nesidioblatosis)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/iryo1946/48/6/48_6_455/_article/-char/ja/

しかし、他の研究では、胃バイパス術後の高インスリン血症性低血糖は、膵島の過形成や β 細胞のターンオーバーの増加を伴わないため、膵島細胞症はこれらの患者における晩期低血糖の原因であるかどうかは分かっていないと主張している。実際、現在までに得られているエビデンスでは、低血糖の原因としては膵島細胞量の増加よりもむしろ、食後の高濃度のグルコースとインクレチンによって少なくとも部分的に駆動される機能的高インスリン血症を支持している。

RYGB 後の重症低血糖に対して外科的介入を受けた患者計 75 人を登録した 14 件の研究の結果のメタアナリシスでは、膵切除後の患者の 67%、胃バイパス反転後の患者の76%、ポーチ制限後の患者の 82%で低血糖が消失したと報告されている。しかし、Mayo Clinic のグループによる追跡調査では、他の治療法に反応しなかった患者の 25%は膵部分切除術の効果も得られず、時間の経過とともに低血糖の再発もみられたことから、これらの治療法の有用性は疑問視されている。したがって、胃バイパス反転術や胃ポーチ制限、膵部分切除術や膵全摘術の真の有効性を明らかにするためには、ランダム化比較試験が必要である。

7. 推奨
コンセンサスが得られた声明に基づき、ダンピング症候群の患者を管理するための推奨事項を表 5 にまとめた。

表 5. デルファイ法に基づくダンピング症候群に関する推奨
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7351708/table/Tab5/

定義、症状パターン、基礎にある病態生理学的メカニズムについては、よく一致している。ダンピング症候群の病態生理学的概念を図 1 にまとめた。

図 1. ダンピング症候群の病態生理と治療標的
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7351708/figure/Fig1/

しかし、デルファイの過程では、いくつかの不確実な領域も同定されており、さらなる研究が必要である。

ダンピング症候群は、肥満手術後に起こる体重減少に寄与するかもしれない。しかし、肥満手術後のダンピング症候群の症状が、患者の過食の自覚に役立ち、したがって体重減少に寄与するかどうかについては論争がある。さらに、ダンピング症候群が肥満手術後の体重減少を改善する、または体重減少に有利に寄与するかもしれないという証拠を示している文献はない。さらに、ダンピング症候群は患者の QOL を損なうため、これらの患者では有害な合併症と考えるべきである。とはいえ、この問題をさらに明らかにするためには、さらなる前向き研究が必要である。手術を受けなかった患者における「特発性ダンピング症候群」という、急速な胃排出とそれに伴う症状を特徴とする仮説の本質についても、コンセンサスが得られていない。

診断に関しては、ダンピング症候群重症度質問票 (dumping syndrome severity questionnaires) は、診断過程を助けるのに十分な信頼性がないと考えられている。さらに、これらの質問票はいずれも治療介入の効果判定に対する感度が低いと考えられている。そのため、患者の報告に基づくダンピング症候群のアウトカム質問票を開発する必要がある。

修正 OGTT が望ましい診断法であることについては意見が一致しており、早期および後期ダンピング症候群の診断に用いるパラメータは十分に確立されている。ダンピング症候群の診断においては随時血糖と修正 OGTT 中の低血糖について同じ血糖値のカットオフ(50 mg/dL)が提案されている。しかし、修正 OGTT の再現性と感度は十分に確立されていない。ダンピング症候群の診断と管理における持続血糖モニタリングの価値についてはさらなる研究が必要であり、混合食負荷試験は診断のための標準的な検査とは考えられていない。胃排出検査に診断的価値はない。

吸収の早い炭水化物、タンパク質の多い食品、線維質の多い食品を避け、食直後の水分摂取を避け、1 回の食事量を少なくするこおに重点を置いた食事療法が、ダンピング症候群の治療の初期段階として望ましいという点で意見が一致している。ダンピング症候群治療の病態生理学的基礎を図 1 にまとめた。

食事療法に反応しない患者では薬物療法が推奨され、特に後期ダンピング症候群ではアカルボースの使用が支持されているが、早期ダンピング症候群におけるアカルボースの効果は不明である。デルファイ法による合意形成では、食事の粘度を高める薬剤やジアゾキシドの使用を支持しなかった。食事療法やアカルボースに反応しない患者では、ソマトスタチンアナログが早期および後期ダンピング症候群の症状をコントロールできるとして支持された。短時間作用型アナログ製剤は長時間作用型よりも優れていると考えられているが、短時間作用型製剤では繰り返し注射する必要があることが制限要因となっている。治療に反応しない患者では、持続的な経腸栄養、特に外科的再介入や膵切除の意義は不明であり、保存的で非外科的なアプローチが推奨される。デルファイ法による合意形成に基づく診断・治療アルゴリズムを Box 3 に示す。

Box 3. ダンピング症候群の診断と治療についてのアルゴリズム

8. 結論
ダンピング症候群は、食道および胃の外科手術の合併症として広く認めるが、おそらく十分に認識されていない。現在までのところ、ダンピング症候群の診断と治療に関する確立されたガイドラインはない。したがって、我々は、知識の現状を俯瞰し、臨床医に指針を提供し、将来の研究を必要とする領域を特定するために、デルファイ法による合意形成を行った。

コンセンサス・グループは、定義、症状パターン、推定される基礎的病態生理を含むいくつかの側面について合意に達した。ダンピング症候群の診断には、臨床的認識と修正 OGTT が重要な方法である。食事療法に加えて、アカルボースとソマトスタチンアナログが治療法としてよく受け入れられている。合意形成の過程で、診断および転帰に関する質問票の開発と評価、確実な診断のための血糖値のカットオフについての合意、初期ダンピング症候群の症状に対するアカルボースの治療効果の評価、短時間作用型と長時間作用型のソマトスタチンアナログの効果の比較など、さらなる研究が必要な分野も特定された。また、混合食負荷試験、胃排出試験、経腸栄養、ダンピング症候群に対する外科的介入の役割についても、さらなる評価が必要である。

元論文
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7351708/
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