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内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床についての論文のまとめ

感染性心内膜炎

2025-05-01 07:22:22 | 感染症
感染性心内膜炎
Clin Med (Lond) 2022;20:31-35

感染性心内膜炎(infective endocarditis: IE)は依然としてまれな疾患であるが、死亡率が高く、合併症の多い疾患である。高齢化が進み、植え込み型心臓デバイスや心臓弁の使用が増加しているため、感染性心内膜炎の疫学は変化している。早期に臨床的に疑うことと迅速な診断は、適切な治療経路を確保し、合併症と死亡率を減少させるために不可欠である。今回の総説では、心内膜炎患者の評価と管理、およびその予防に関する最新のガイドラインについて詳述する。

要点
・感染性心内膜炎の罹患率は一般人口で 1 人/10 万人・年程度であり、30 日後の死亡率は 30%に達する。

・現在、新たに報告された心内膜炎症例の 25~30%は医療関連感染である。

・心内膜炎の診断には修正 Duke 基準が用いられる。これは、従来の心エコー検査では感度が低かった植え込み型心臓弁患者に対して分子イメージング技術を導入したものである。

・心不全、弁不全、構造的破壊(膿瘍、穿孔、瘻孔形成)を伴う心内膜炎の合併症例は、心内膜炎専門チームにより、基準センターで管理されるべきである。

・心内膜炎に対するの抗菌薬治療は、特に培養陰性例では複雑である。レジメンの選択と継続的なインプット (投与?) は感染症専門医が行うべきである。

・心内膜炎を発症するリスクが高い人(人工弁や弁修復、心内膜炎の既往、修復されていないチアノーゼ性先天性心疾患、修復されていないシャント)で、抜歯、歯肉縁下のスケーリング、歯肉組織、歯、口腔粘膜の操作を予定している人には、抗菌薬の予防投与が推奨される。

はじめに
IE は心臓の内皮の感染症である。IE の疫学は年々徐々に変化しており、現在では静脈ラインや心臓内デバイスの使用が増えた結果、医療関連感染による感染性心内膜炎が現代のコホートの 25〜30%を占めるようになっている。黄色ブドウ球菌 (Staphylococcus aureus) は現在、ほとんどの研究で心内膜炎の原因菌として最も多く、全症例の約 26.6%を占め、次いでビリダンス型連鎖球菌 (viridans group streptococci) が 18.7%、その他の連鎖球菌が 17.5%、腸球菌が 10.5% (enterococci) となっている。これらの細菌は心内膜炎の全症例の80-90%を占める。

臨床的に疑う状況
心内膜炎の臨床症状は非常に多様であり、原因微生物、基礎にある心疾患、既存の合併症を反映して、急性、亜急性、慢性の病態を呈することがある。患者の 90%までが発熱、寝汗、倦怠感、体重や食欲の減少を呈し、約 25%に塞栓現象が認められる。IE に関連する素因となる危険因子、心雑音、血管炎や塞栓現象を呈する患者では、IE の診断を慎重に検討すべきである(Box 1)。

Box 1. 感染性心内膜炎の素因
心臓疾患:
・大動脈二尖弁 (bicuspid aortic valve)
・僧帽弁逸脱
・リウマチ性弁膜症
・先天性心疾患
・感染性心内膜炎の既往
・植え込み型心臓装置(永久ペースメーカー/植え込み型除細動器)を使用している患者
・人工心臓弁

合併症:
・静脈内薬物使用
・慢性腎臓病(特に透析患者)
・慢性肝疾患
・悪性腫瘍
・高齢
・副腎皮質ステロイドの使用
・コントロール不良の糖尿病
・静脈アクセス用の留置ライン
・免疫不全状態(HIV 感染を含む)。

逆に、培養陰性心内膜炎の最も一般的な原因は、抗菌薬療法の前投与であり、その結果、抗菌薬療法の標的が定まらず、診断が不確実となり、治療レジメンが長期化し、副作用が多くなる。

診断
IE の診断には、修正 Duke 基準を用いる(Box 2)。

Box 2. 修正 Duke 心内膜炎基準
確診例: 大基準 2 つを満たす、または大基準 1 つと小基準 3 つを満たす、または小基準 5 つを満たす。
疑い例: 大基準 1 つと小基準 1 つ、または小基準 3 つを満たす。

大基準
血液培養:
・2 つの別々の血液培養から得られた IE に一致する典型的な微生物:
緑色連鎖球菌 (viridans group streptococcus)、Streptococcus bovis 群、HACEK 群、黄色ブドウ球菌;または
市中感染性腸球菌で、原発巣がないもの。

・持続的に血液培養陽性で、IE に一致する微生物が検出される:≥12 時間以上間隔をあけて採取された 2 つ以上の陽性血液培養

・3 つ以上の別々の血液培養のすべて、または 4 つ以上の別々の血液培養の大部分(最初と最後の検体採取時刻が 1 時間以上離れている)が陽性。Coxiella burnetii が 1 回でも血液培養で陽性になる、または IgG 抗体価が 1:800 を超える。

画像診断:
・心エコー図検査で IE 陽性:疣贅、膿瘍、偽動脈瘤または心内瘻、弁穿孔または動脈瘤、人工弁の新たな部分的剥離
・弁置換術から 3 ヵ月以上経過している場合で、PET/CT または放射性同位元素標識白血球-SPECT/CT で検出された人工弁周囲の異常活動
・心臓 CT による明確な弁周囲の病変

小基準:
・心臓疾患の既往または静注薬物の使用
・38℃を超える発熱
・血管病変(画像診断のみで発見されたものを含む):動脈塞栓、脾梗塞、感染性動脈瘤、頭蓋内出血、Janeway 疹
・免疫学的現象:糸球体腎炎、Osler 結節、Roth 斑、リウマチ因子
・微生物学的証拠:上記の主な基準を満たさない血液培養陽性、または IE と一致する生物による感染の血清学的証拠。

これらの基準の感度は全体として 80%だが、人工弁心内膜炎や植込み型電子デバイス感染症では著しく低くなる。その場合、コンピュータ断層撮影(computed tomography: CT)、脳磁気共鳴画像法(magnetic resinance imaging: MRI)、あるいは 18F 標識フルオロ-2-デオキシグルコース陽電子放出断層撮影(18F-labelled fluoro-2-deoxyglucose positron emission tomography:18F-FDG-PET)/CT による追加画像診断が必要となる場合がある。

微生物学的診断
血液培養陽性は IE の診断を確定するために不可欠であり、起炎菌同定と薬剤感受性試験に必要である。検体は清潔操作で、別々の部位から少なくとも 1 時間の間隔をおいて 3 つの血液サンプル(好気性および嫌気性ボトル各 10 mL)を採取する。血液培養が単独で陽性であった場合、IE の確定診断には至らないが、複数の培養ボトルで典型的な菌の持続的な菌血症が認められた場合は、IE の可能性が高いと考えられる。

血液培養は陰性だが、IE の臨床的疑いが高い場合、特に抗菌薬への曝露歴がない場合は、感染症専門医と相談の上、血液培養ボトルの培養期間を延長し、血清学的検査を行うべきである。

Bartonella spp、Coxiella burnetii、Tropheryma whipplei、いくつかの真菌(特に Aspergillus spp)など培養が陰性になる心内膜炎の原因を考慮する必要がある。患者が心内膜炎のために弁膜症の手術を受ける場合、弁組織のポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction: PCR)分析により、ほとんどの症例で感染菌が同定される。全血の広域 PCR は感度が非常に低いため推奨されない。微生物学的検査がすべて陰性であった場合、悪性腫瘍、凝固能亢進状態、全身性エリテマトーデス(Liebman-Sacks 心内膜炎)、外傷などに関連した非細菌性血栓性心内膜炎を適切な評価によって除外する必要がある。

Liebman-Sacks 心内膜炎
https://www.jcc.gr.jp/journal/backnumber/bk_jcg/pdf/154-13.pdf

心臓画像検査
経胸壁心エコー検査(Transthoracic echocardiography:TTE)は、IE が臨床的に強く疑われる場合にのみ依頼すべきであり、理想的には血液培養の結果が得られてから行うべきである。心臓表面の小さな可動性エコー結節はまれではなく、感染がない場合は弁膜変性の小領域を反映している可能性がある。心エコー上の疣贅は敗血症性血栓 (septic thrombi) であり、微生物学的確認が必要である。これらは通常、心臓弁の上流側の表面に存在し、局所的または全身的な合併症を引き起こす可能性がある。弁逆流はしばしば弁尖破壊/穿孔の主要な徴候であり、一方、I 度および進行性の房室ブロックは大動脈基部膿瘍の存在を示し、追加の心臓画像検査が必要である。全身性の塞栓性合併症は疣贅の大きさと可動性に関係する。4 mm 以下の疣贅は、臨床的に不顕性の神経塞栓症と関連することが示されている。一方、欧州のガイドラインでは、疣贅が 10 mm 以上の場合は、適切な抗菌薬治療を受けているにも関わらず全身性塞栓症を認めた場合に早期介入を検討するとされている。疣贅の大きさと神経学的合併症の間には直線的な関係がある。疣贅が 30 mm を超えると、患者の 60%に神経学的合併症がみられる。

TTE で疣贅が確認されず、微生物学的検査で IE が臨床的に示唆された場合、5~7 日の間隔で TTE を繰り返すことが適切である。経食道心エコー(Transoesophageal echocardiography: TOE)は、疣贅に対する感度および特異度が 90%を超える。TOE は、TTE では疣贅を認めないが心内膜炎が臨床的に強く疑われる場合、人工弁やデバイスに関連した心内膜炎が疑われる場合、黄色ブドウ球菌血症がある場合、さらに、IE に関連した合併症(房室ブロック、新しい心雑音、持続する発熱、塞栓症、心腔内膿瘍)が発生した場合に、IE の診断を確定するために行われる。臨床的悪化や合併症が疑われない限り、IE の治療期間中に繰り返し画像診断を行う必要はない。抗菌薬治療の終了時には、治療後のベースラインとして将来の比較のために TTE を行うべきである。

追加の画像診断
人工弁関連心膜内膜炎(prosthetic heart valve endocarditis: PVE)や植込み型心臓デバイス(cardiac implantable electronic device: CIED)関連心内膜炎が疑われる患者の場合、TTE や TOE ではアーティファクトの存在により判定不能となることがある。このような症例では、人工心臓弁に炎症や感染があるかどうかを判断するための補助的検査として、18F-FDG-PET/CT や放射性同位元素標識白血球単光子放出コンピュータ断層撮影法(single-photon emission computed tomography–CT: SPECT-CT)が検討される。最近の研究では、18F-FDG-PET/CT は人工弁関連心内膜炎では 93%の感度を示したが、自己弁感染では 22%しか示さなかった。CT は、特に大動脈弁内膜炎や弁輪部膿瘍が疑われる場合に、弁周囲病変(膿瘍、動脈瘤、偽動脈瘤形成)の有無を判断するのに有用である。また、術前計画や冠動脈の解剖学的構造、人工弁の機能評価にも有用である。ほとんどの病変が虚血性であり、神経学的病変が高率(最大 80%)に認められることから、神経学的合併症の有無を調べるための脳 MRI の閾値は低くすべきである。

管理および治療
「心内膜炎チーム」
IE の管理は、基幹病院に常駐する専門チームによって調整されるべきである。このチームは心臓弁膜症や心臓画像診断の専門家、感染症専門医や微生物学者、心臓外科医、心臓デバイスの専門家から構成されるべきである。患者の最大 30%が症状を伴う神経学的事象を経験するため、神経学と脳神経外科の専門家へのアクセスが必要であり、特定の状況下では先天性心疾患の専門家へのアクセスも必要である。このような IE チームアプローチにより、ガイドラインに沿った早期の外科手術への紹介、適切な抗菌薬投与、高度な画像診断へのアクセス、合併症に対する綿密なモニタリング、治療終了後のフォローアップが可能となる。このような環境では、1 年後の死亡率は約半分になると予想される。

合併症のない IE は、通常、基幹病院の IE チームと定期的に連絡を取りながら、地域で管理することができる。心不全、重度の弁閉鎖不全、構造破壊(膿瘍、穿孔、瘻孔形成)、塞栓性または神経学的合併症を伴う合併症 IE は、IE 専門チームが管理すべきである。基幹病院では、すべての IE 症例について定期的に話し合い、最適な抗菌薬療法とその期間、外科的介入の必要性とタイミング、必要なフォローアップの種類を決定すべきである。

抗菌薬による治療
感染性心内膜炎は抗菌薬が登場する以前は致死的であった。適切な殺菌レジメンを選択し、適切な期間投与することが、この疾患の治癒に不可欠である。感染性心内膜炎の起炎菌として一般的な細菌に対する推奨レジメンは、対照試験よりも、経験とコホート研究に基づいており、公表されているガイドライン間ではわずかな違いしかない(表 1)。

表 1. 感染性心内膜炎の一般的な起炎菌に対して推奨されている治療レジメン
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6964163/#T0003

ゲンタマイシンは臨床的有用性のエビデンスがないため、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌の治療ガイドラインのほとんどから削除されている。さらに、腸球菌性心内膜炎における相乗作用薬としてセフトリアキソンを使用するケースも増えている。そのため、欧州のガイドラインではアモキシシリン+セフトリアキソンが推奨されており、腎障害のある患者では特に有用である。可能であれば、抗菌薬の投与期間が長いため、末梢から中心静脈ラインを挿入することが勧められる。

治療レジメンはすべて腎機能が正常であることを前提とし、静脈内投与とする(表 1)。特に断りのない限り、自己弁心内膜炎は 4 週間、人工弁心内膜炎は6週間治療する。

外来非経口抗菌薬療法
抗生物質療法に高い反応性を示す微生物で、治療後に合併症のない臨床経過を示す患者には、外来非経口抗菌薬療法(outpatient parenteral antibiotic therapy: OPAT)が考慮される。合併症の発生率が最も高くなる最初の 2 週間は、通常入院治療が勧められる。自己弁心内膜炎患者で全身状態が安定しており、緑色連鎖球菌または Streptococcus bovis が起炎菌である場合は、入院前にロングラインによる OPAT を行うことを検討しても良い。しかし、OPAT は、適切な患者教育、退院後の定期的なフォローアップ診療、継続的な臨床医の助言があって初めて実施されるべきものである。

予後
IE による院内死亡率は 30%に達する。高リスク患者は、特定の患者の特徴(年齢、機械弁関連心内膜炎、併存疾患)、IE 合併症の有無(心不全、腎不全、敗血症性ショックまたは脳出血)、心エコー所見(膿瘍、著しい弁破壊、偽動脈瘤)、原因菌(黄色ブドウ球菌、真菌、non-Haemophilus 属, Actinobacillus 属, Cardiobacterium hominis, Eikenella corrodens or Kingella 属(非 HACEK)グラム陰性桿菌)。外科的介入の時期を決定する際には、これらの予後変数を考慮すべきである。手術の計画は毎週検討し、緊急(24 時間以内)、準緊急(7 日以内)、または待機的手術に分類すべきである。

心内膜炎の合併症と手術の適応
IE では患者の最大 50%が手術を必要とする。その主な適応は以下の通りである。

・心不全
 ・心原性ショックで、弁の閉塞や逆流、瘻孔の形成が進行している場合 - 緊急手術(24 時間以内)
 ・弁膜症が重症で、心不全の症状があり、血行動態の反応が悪い場合 - 緊急手術(7日以内)

・感染のコントロールに失敗した場合 - 緊急手術
 ・進行中の局所感染: 大動脈基部膿瘍、動脈瘤または瘻孔の形成、疣贅サイズの拡大
 ・治療困難な菌による感染(真菌または多剤耐性菌、 適切な抗菌薬投与にもかかわらず血液培養陽性の持続、または転移性敗血症病巣の管理が不十分

・敗血症性塞栓の予防-緊急手術
 ・適切な抗菌薬投与中に塞栓事象を伴う 10 mm を超える疣贅
 ・30 mm を超える疣贅
 ・10 mm を超える疣贅と重度の自己弁心内膜炎または人工弁関連心内膜炎で患者の手術リスクが低い。

フォローアップ
心内膜炎治療後の合併症のほとんどは最初の 12 ヶ月以内に起こる。臨床的な状況に応じて、1 ヶ月、3 ヶ月、6 ヶ月、12 ヶ月に IE チームのメンバーによって注意深くフォローアップを行うことが理想的である。IE の再発リスクは 2~6%と推定され、一方で患者の最大 30%は最初の 1 年以内に手術が必要になる可能性がある。良好な歯科衛生状態、静脈内薬物の使用、ボディピアスやタトゥーの回避について患者教育を行い、予防的措置をアドバイスすべきである(Box 3)。

Box 3. 高リスク患者の感染性心内膜炎予防と歯科治療
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6964163/#T0004

・アモキシシリン 3 g(小児 50 mg/kg)
・ペニシリンアレルギーがある場合はクリンダマイシン600 mg(小児 20 mg/kg)

抗菌薬予防を考慮すべき歯科処置
・抜歯
・歯肉下歯石除去
・歯肉組織、歯周囲、口腔粘膜の操作

高リスク患者
・人工弁/弁修復
・心内膜炎の既往
・未修復のチアノーゼ性先天性心疾患またはシャントの残存

中等度リスク患者
・未手術の心臓弁膜症
・肥大型心筋症

結論
I診断法や微生物学的技術が向上したにもかかわらず、IE は重大な合併症と死亡のリスクを伴う。IE 専門チームの早期関与による早期診断の確立と、適応がある場合の迅速な外科的介入は、患者の転帰を改善する確立された対策である。異なる臨床ネットワーク間で公平な IE 治療を保証するために、さらなる患者パスウェイの開発が必要である。

元論文
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6964163/

百日咳

2025-04-16 23:19:08 | 感染症
百日咳 (Pertussis)
the 5 Minute Clinical Consult 2023

基本情報
・密接な接触者の間で感染力が強い。

性状
・宿主:ヒト
・最も多い保菌者:成人
・年齢:全年齢
・分布:全世界
・流行パターン:風土病または伝染病で、3~5 年ごとに発生する。
・季節性:晩夏から秋にピークを迎える。
・感染経路: エアロゾル化した飛沫を介した人から人への感染
・典型的な潜伏期間 7~10 日間
・有効なワクチン:あり
・免疫:感染してもワクチン接種しても、100%の免疫は得られない。
・障害される器官:呼吸器

疫学
発生率
・米国(直近のピーク年 2012 年): 48,277 例が報告されている
・全世界:年間 2,410 万症例、約 160,700 人が死亡

病因および病態生理学
・細菌が産生した毒素による
・繊毛上皮を介した感染
・病原体: Bordetella pertussis, Bordetella parapertussis

遺伝
・遺伝的素因は不明

リスク要因
・確定症例との接触
・予防接種を受けていない、または不十分な乳幼児や小児
・早産
・慢性肺疾患
・免疫不全(AIDS など)
・生後 6 ヵ月未満(小児百日咳入院の 90%を占める)

一般予防
・公衆衛生対策
・サーベイランス
・発生時の管理
・曝露者のケア
・予防プログラム

予防接種
・百日咳に対する小児期の一次予防接種の後、ブースター接種を行う。


妊娠中の母親の予防接種
1 歳未満の乳児と密接に接触する医療従事者を含む成人は予防接種を受けるべきである。

小児科的問題
新生児百日咳を減らすための戦略:
・理想的には妊娠 27 週から 36 週の間に、妊娠のたびに三種混合ワクチン (ジフテリア、破傷風、百日咳) を受ける。
・コクーニング (Cocooning, 集団免疫の考え方で、感染症に弱い人やワクチンを打てない人を守るために周囲の人がワクチンを接種すること)
・1 歳の乳児と密接に接触するすべての人に三種混合ワクチン (ジフテリア、破傷風、百日咳) を推奨する。

高齢者への配慮
高齢者は、以下の理由により百日咳のリスクが高くなる: 加齢に伴う免疫力の変化、併存疾患

一般的な合併症
・乳児の無呼吸
・二次性細菌性肺炎
・副鼻腔炎
・けいれん
・脳症
・失禁

診断
病歴
・百日咳への曝露
・不顕性発症
・潜伏期間 7~10 日(範囲 5~21 日)

身体所見
古典的百日咳には 3 つの段階があり、6~10 週間かけて発症する: カタル期:鼻汁、軽い咳、微熱: 発作期:咳が発作的に起こり、回数と強さが増加し、しばしば吸気時に笛の音のようなヒューという音が出る(笛声:whoop) かつ/または咳嗽後嘔吐が続く。回復期: 咳嗽発作の頻度と強さは減少する。
・古典的な症状は成人およびワクチン未接種の小児に多い。

注意すべき点
発作や合併症がなければ、身体所見は正常である。
生後 6 ヵ月の乳児は非典型的な症状を示すことがある。

鑑別診断
散発性で遷延性の咳嗽は、以下の原因でも起こりうる。
・百日咳
・マイコプラズマ
・クラミジア
・気管支敗血症菌(Bordetella bronchiseptica)
・Bordetella holmesi
・RS ウイルス
・アデノウイルス

診断検査と解釈
・初回検査(検査室、画像診断)
・鼻咽頭培養(ゴールドスタンダード):咳嗽発症後 2 週間以内に最良の結果が得られる。
・偽の結果が出ることがある:
・予防接種歴のある患者
・適切な抗生物質の投与開始後
・咳嗽発症から 2 週間後
・不適切な採取または取り扱い

・ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction: PCR)アッセイ:迅速な結果が得られる。
・血清学的検査
・市販のアッセイ法 (診断用として FDA は承認していない)。

フォローアップ検査と注意点
・関連疾患および合併症の評価とフォローアップ
胸部レントゲン写真(2 視野) 前胸膜炎の有無を評価する。
・発作または明らかに生命を脅かす事象を伴う乳児には、脳波/神経画像検査を考慮する。
マクロライドによる治療を受けている生後 1 ヵ月未満の乳児は、肥厚性幽門狭窄の発症の可能性について監視すべきである。

治療
一般的措置
・百日咳の新生児には、心肺機能を継続的にモニターする入院が推奨される。
・酸素投与や機械的人工呼吸補助が必要な場合がある。

薬物療法
・臨床的に百日咳が強く疑われる症例や合併症の危険性が高い症例では、診断検査を行った後で経験的抗菌薬治療を開始する。
・咳が治まってから抗菌薬を投与すれば、感染の拡大は抑えられるが、臨床症状の変化は期待できない。

望ましい抗菌薬
6ヵ月以上の患者:
・アジスロマイシン、クラリスロマイシン、エリスロマイシン - 生後 1 ヵ月未満の乳児にはアジスロマイシンが望ましいが、注意が必要である [A]。

ファーストライン
アジスロマイシンは治療および曝露後予防(5 日間コース)の第一選択薬である(A)。

注意喚起
・乳児肥厚性幽門狭窄症は、生後 1 ヵ月未満の乳児におけるマクロライドの使用と関連している。
・相談とモニタリングが推奨される。

注意喚起
・アジスロマイシンで致死的な心不整脈が報告されている。
・QT 延長や催不整脈の患者には注意が必要である。

セカンドライン
以下の場合、トリメトプリム/スルファメトキサゾール(生後 2 ヵ月を超える患者用):
・マクロライドに対して不忍容
・マクロライド耐性

注意喚起
・TMP/SMX は生後 2 ヵ月未満の乳児には禁忌。
・クラリスロマイシンは生後 1 ヵ月未満の乳児には推奨されない。

紹介すべき問題
生後 6 ヵ月未満の乳児、特に早産で生まれた未入院児および入院が必要な乳児の評価と治療

追加治療
百日咳の咳に対する対症療法(例:副腎皮質ステロイド、B₂ アドレナリン作動薬)は一貫した効果を示していない。

入院、入院患者、看護に関する考慮事項
・十分な栄養を確保するために、少量で頻回の食事が必要な場合がある。
・脱水症および経口補液が禁忌または忍容性が不良な場合は、静脈内補液が適応となる。
・標準的な予防策に加えて、入院患者は有効な抗菌薬治療開始後 5 日間、高齢患者では抗生物質を使用しない場合は発作発生後 3 週間は呼吸器感染予防策で隔離する。
・鼻汁の緩やかな吸引
・発作を誘発する刺激を避ける。
・パルスオキシメトリーを含む呼吸モニタリング
・各家族に予防接種の重要性を教育する。
・各家族と化学予防について話し合う。

フォローアップの推奨
・エリスロマイシンまたはアジスロマイシンを投与された乳児を萎縮性幽門狭窄症について監視する。
・必要に応じて神経学的および/または肺のフォローアップを行う。

患者のモニタリング
・重症または合併症のある患者には ICU ケアが必要な場合がある。

食事
食事療法
脱水症の治療または不十分な経口摂取を補うために、輸液/栄養補給が必要な場合がある。

患者教育
・米国小児科学会: http://www.aap.org
・米国疾病管理予防センター: http://www.cdc.gov

予後
・ほとんどの症例で完治
・生後 6 ヵ月未満の乳児の罹患率が最も高く、死亡率も最も高い。
・世界全体の死亡率は 160,799 人/年と推定されている。

合併症
・乳児の場合:無呼吸、チアノーゼ、突然死など。
・小児:結膜出血、鼠径ヘルニア、肺炎、けいれんを来たすことがある。
・成人:副鼻腔炎、中耳炎、肺炎、体重減少、失神、肋骨骨折、尿失禁、けいれん、脳症など。

参考文献
1. Daniels HL, Sabella C. Bordetella pertussis (Pertussis). Pediatr Rev. 2018;39(5):247-257.

2. Centers for Disease Control and Prevention. Pertussis fast facts. https://www.cdc.gov/pertussis /fast-facts.html. Accessed September 4, 2020.

3. Lopez MA, Cruz AT, Kowalkowski MA, et al. Trends in hospitalizations and resource utilization for pedi-atric pertussis. Hosp Pediatr. 2014;4(5):269-275.

4. Liang JL, Tiwari T, Moro P, et al. Prevention of pertussis, tetanus, and diphtheria with vaccines in the united states: recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP). MMWR Recomm Rep. 2018;67(2):1-44.

5. Burke M, Rowe T. Vaccinations in older adults. Clin Geriatr Med. 2018;34(1):131-143.

6. Committee on Infectious Diseases. Pertussis (whooping cough). In: Kimberlin DW, Brady DW, Jackson MA, eds. Red Book: 2018-2021 Report of the Committee on Infectious Diseases. 31st ed. Itasca, IL: American Academy of Pediatrics; 2018:620-634.

7. Polinori I, Esposito S. Clinical findings and management of pertussis. Adv Exp Med Biol. 2019;1183:151-160.

クリニカルパール
・百日咳による入院は生後 6 カ月未満の乳児で最も多い。
母親の三種混合ワクチン接種は、特に生後 2 ヶ月の幼児を百日咳から守るのに有効である。
・予防接種も積極的感染も生涯免疫を与えるものではない。

COVID-19 はインフルエンザ、RS ウイルス感染症と比べて 6ヶ月以内の死亡率が高い。

2025-01-31 12:41:28 | 感染症
COVID-19 とインフルエンザ、RS ウイルス感染症の重症度と長期的な死亡率の比較
JAMA Intern Med 2025. doi: 10.1001/jamainternmed.2024.7452

目的
米国退役軍人における COVID-19、インフルエンザ、呼吸器合胞体ウイルス(respiratory syncytial virus: RSV)感染症の重症度を比較すること。

背景
SARS-CoV-2、インフルエンザ、および RSV によるウイルス性呼吸器感染症は、高齢者や慢性疾患を持つ人の高い死亡率に関連している。米国では、インフルエンザと COVID-19 のワクチン接種がすべての成人に推奨されており、RSV のワクチン接種は高齢者に推奨されている。ウイルス性呼吸器感染症の相対的な重症度を理解することは、的を絞ったワクチン接種の指針となり、公衆衛生政策に役立つ。さらに、COVID-19 はワクチンの流通、異なる病原性を持つ変異型の流行、再感染によって進化してきたため、他のウイルス性呼吸器感染症と比較した疾病負担を再評価することが重要である。

SARS-CoV-2 オミクロン株、インフルエンザ、RSV の間でウイルス性呼吸器感染症の重症度を比較した研究はほとんどなく、2023 年 6 月に新しい RSV ワクチンが推奨された後の現代を対象とした研究も、我々の知る限り存在しない。既存の研究は、選択バイアスが生じやすい検査方法の違いや、軽症患者への一般化可能性が制限され、転帰としての入院の評価が除外される入院患者を対象としたものであるため、限界がある。

退役軍人健康管理局(Veterans Health Administration: VHA)では、3 つのウイルスすべてを同時に検査するマルチプレックスアッセイが広く使用されているため、偏りの少ない方法でウイルス性呼吸器感染症の結果を比較する機会がある。われわれは、2022~2023 年および 2023~2024 年のシーズンにマルチプレックス検査を完了した非入院米国退役軍人における SARS-CoV-2、インフルエンザ、または RSV への感染を評価するために、target trial emulation を用いたコホート研究を実施し、入院、集中治療室(Intensive Care Unit: ICU)入室、および死亡の 30 日リスク、ならびに 180 日に及ぶ長期死亡を比較した。

target trial emulation
https://www.carenet.com/news/clear/journal/55156

デザイン
この後ろ向きコホート研究では、SARS-CoV-2、インフルエンザ、および RSV の即日検査を受け、2022 年 8 月 1 日~2023 年 3 月 31 日、または2023 年 8 月 1 日~2024 年 3 月 31 日の間に単独感染と診断された非入院退役軍人の全国米国退役軍人健康管理局電子カルテデータを解析した。

曝露
SARS-CoV-2、インフルエンザ、RSV のいずれかの感染

主要アウトカム
逆確率による重み付け (inverse probability weighting) を行い、主要アウトカムである 30 日までの入院、集中治療室入室、死亡、および副次的アウトカムである 180 日までの長期死亡の累積発生率とリスク差(risk difference)を算出した。

結果
2022 年から 2023 年のコホートは 68 ,581 例で、内訳は RSV 6,239例[9.1%]、インフルエンザ 16,947 例[24.7%]、COVID-19 45,395 例[66.2%]だった。2023 年から 2024 年のコホートは 72,939 例で、内訳は RSV 9,748 例[13. 4%]、インフルエンザ 19,242 例[26.4%]、COVID-19 43,949 例[60.3%]だった。年齢中央値(四分位範囲)は 66(53~75)歳で 123,090 例(87.0%)が男性であった。

図 1. 解析対象患者の内訳
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2023~2024 年シーズンの 30 日入院リスクは、COVID-19(16.2%)とインフルエンザ(16.3%)で同程度であったが、RSV では 14.3%と低かった(COVID-19 v.s. RSV の リスク差, 1.9%[95%CI, 0.9-2.9%];インフルエンザ v.s. RSV の リスク差, 2.0%[95%CI, 0.8-3.3%])。2022~2023 年シーズンの 30 日死亡リスクは、COVID-19(1.0%)がインフルエンザ(0.7%)(リスク差 0.4%[95%CI, 0.1%~0.6%])または RSV(0.7%)(リスク差 0.4%[95%CI, 0.1~0.6%])と比較してわずかに高かったが、2023~2024 年シーズンでは同程度であった。180 日後の死亡リスクは、両シーズンとも COVID-19 で高かった(2023~2024 年の COVID-19 v.s. インフルエンザのリスク差, 0.8%[95%CI, 0.3~1.2%]、COVID-19 v.s. RSV の リスク差、0.6%[95%CI, 0.1~1.1%])。

図 2. COVID-19, インフルエンザ、RSV 感染症間における入院、ICU 入室、死亡のリスクの比較
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図 3. COVID-19, インフルエンザ、RSV 感染症の診断後の累積死亡率の比較
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前年に COVID-19 のワクチン接種を受けていない退役軍人は、季節性インフルエンザのワクチン接種を受けていない退役軍人と比較して、いずれの季節においても死亡率が高いことが観察された。一方、それぞれの感染症ワクチンを接種した群では、どの時点においても COVID-19 とインフルエンザで死亡率に差はなかった。

図 4. ワクチン接種の有無で分けた COVID-19 とインフルエンザの入院、ICU 入室、死亡のリスクの比較
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考察
COVID-19、インフルエンザ、または RSV と診断され、2022~2023 年または 2023~2024 年の呼吸器疾患シーズンに 3 つのウイルス検査を同時に受けた、このコホート研究に含まれる 141,000 人以上の非入院米国退役軍人のうち、COVID-19 の診断が圧倒的に多く、30 日入院リスクは RSV 感染者で最も低かった。入院リスクは COVID-19 とインフルエンザで同程度であったが、COVID-19 患者では ICU 入室が多かった。COVID-19 の 30 日死亡リスクは、2022 年から 2023 年のコホートではインフルエンザまたは RSV と比較してわずかに高く、2023 年から 2024 年のコホートでは同程度であったが、死亡率リスク差は初診後 6 ヵ月の観察追跡期間を通じて上昇した。入院と死亡の転帰における差は、主に 65 歳以上とワクチン未接種者に認められた。

オミクロン株流行期のウイルス性呼吸器感染症の重症度を比較した最近の研究は、ほとんどが入院患者を対象として実施されたものであった。スイスの研究でも、2022 年初頭に COVID-19 と診断された患者の院内死亡リスクは、2018 年から 2022 年までの過去のインフルエンザコホートと比較して高かった。2022 年から 2023 年のシーズンに入院した成人を対象に実施された別の米国の研究では、RSV の重症度は、COVID-19 またはインフルエンザのワクチン接種を受けていない患者では COVID-19 またはインフルエンザと同程度であったが、ワクチン接種を受けた患者と比較すると高かった。これらの研究の主な限界は、患者が比較対象となるすべての感染症について系統的に検査されていないことであり、診断バイアスが生じる可能性がある。この潜在的なバイアスを最小化するために、本研究では、SARS-CoV-2、インフルエンザ、RSV の検査を同日中に受けることを条件とした。また、ウイルス性呼吸器感染症に罹患した患者の大半を占める非入院患者に焦点を当てた。

COVID-19、インフルエンザ、RSV を比較した外来患者を対象とした最新の研究では、スウェーデンの 救急部を受診した成人患者を対象とし、3つのウイルスすべてについてマルチプレックス検査を実施したものである。COVID-19 と RSV の間の差はあまり明らかではなかったが、RSV 患者の数が少ないため、比較には限界があった。ワクチン未接種のCOVID-19 患者とインフルエンザおよび RSV 患者を比較すると、その差はより大きかった。しかし、インフルエンザワクチン接種の情報は得られなかった。本研究では、COVID-19 群とインフルエンザ群の転帰をそれぞれの感染症のワクチン接種の有無で層別化して比較し、ワクチン接種が相対的な重度に及ぼす影響をより詳細に検討した。

ウイルス性呼吸器感染症後の長期死亡率の差に関する情報は限られている。スウェーデンで行われた救急部における研究では、90 日までの死亡率を調査し、インフルエンザと比較した COVID-19 に関連する死亡リスクの高さは、30 日時点の死亡率の差と同様であった。RSV 感染症と比較して COVID-19 の死亡率が高い傾向は、30 日時点と 90 日時点でも同様であった。VHA の研究者らは以前、2020 年から 2022 年に COVID-19 で入院した退役軍人と、2015 年から 2019 年に入院した過去のインフルエンザコホートとを比較し、COVID-19 が追跡調査の最初の 6 ヵ月間を通して死亡リスクの上昇と関連していることを明らかにした。リスクの相対的指標は 18 ヵ月の追跡期間中にわずかに減少したが、リスクの絶対的指標は 180 日まで着実に増加し、その後は緩やかに増加した。重症度の高い入院患者のパターンは非入院患者と異なる可能性があるが、180 日まで COVID-19 とインフルエンザとの間のリスク差の増加も認められた。

COVID-19 罹患後、他のウイルス性呼吸器感染症と比較して死亡リスクが高い状態が数ヵ月間継続する理由はいくつかある。ICU 入室を含む緊急入院のリスクが高いことが、その後の死亡率の上昇をもたらす可能性がある。さらに、COVID-19 後に複数の臓器系に影響を及ぼし、新たな健康状態や既存の健康状態の悪化をもたらす可能性のある免疫調節障害や持続的な生理学的変化(post-COVID-19 condition または long COVID と表現される)は、長期的な死亡率の上昇に寄与する可能性がある。他のウイルス性呼吸器感染症と比較して COVID-19 で観察された短期的および長期的な有害転帰の高い負担は、特に 2022 年から 2023 年のシーズンでは、ワクチン接種によって軽減されるようであった。ワクチン未接種の COVID-19 患者の死亡リスクは、ワクチン未接種のインフルエンザ患者と比較して 360 日まで着実に上昇したが、それぞれのウイルスに対してワクチン接種を受けた患者ではそのような差は認められなかった。これらの知見は、COVID-19 ワクチン接種の取り組みを支持するものである。

限界
本研究にはいくつかの限界がある。第一に、対象となるコホートを 3 つのウイルス検査を同時に受けた者に限定したため、これらの知見をすべての SARS-CoV-2、インフルエンザ、および RSV 感染症に一般化することはできない。第二に、退役軍人が VHA 以外の医療機関を受診した場合、入院転帰の把握が不完全になる可能性がある。VHA 内でウイルス性呼吸器感染症検査を完了し、最近 VHA のプライマリケアを受診した退役軍人に研究集団を限定することで、誤分類を最小化するように努めた。また、最近の医療利用に関してもグループのバランスをとった。最後に、多くの人口統計学的、地理的、および臨床的共変量でグループのバランスをとったが、それでもなお交絡が残存している可能性がある(例えば、VHA 以外の長期療養施設に居住していたり、以前にウイルス性呼吸器感染症を未検査であったことによる未測定の交絡)。

結論
本研究では、COVID-19、インフルエンザ、RSV 感染症の非入院患者を比較した。その結果、COVID-19 がインフルエンザや RSV 感染症よりもはるかに多く、入院や 6 ヵ月までの死亡など、より重篤な疾患転帰をもたらすことを示した。これは高齢者において最も顕著であり、最新の COVID-19 ワクチン接種によって軽減された。ワクチン接種は、ウイルス性呼吸器感染症、特にオミクロン株の影響を最小化するための重要な戦略である。

元論文
https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/2829342?guestAccessKey=4d2c584c-7ac2-434a-a658-f7388dabd44f&utm_source=twitter&utm_medium=social_jamaim&utm_term=15959963236&utm_campaign=article_alert&linkId=728536780

敗血症と敗血症性ショック

2024-12-13 15:18:24 | 感染症
敗血症と敗血症性ショック
N Engl J Med 2024; 391: 2133-2146

敗血症は、感染に対する反応異常により生命を脅かす急性の臓器機能障害をきたす症候群であり、世界的に大きな健康負担となっている。米国では、院内死亡の 3 分の 1 以上が敗血症に起因しており、その費用は 2017 年に 380 億ドルを超え、敗血症は院内死亡の最も一般的な原因であると同時に、入院費用の最も高額な原因でもある。

ギリシャ語の sepo(σηπω、「腐る」と訳される)に由来する敗血症 (sepsis) は、何千年もの間、病気と死亡の主要な原因となってきた。1992 年の最初の現代的定義によると、敗血症は感染に対する過剰な炎症反応とされ、体温、心拍数、呼吸数、白血球数の 2 つ以上の異常として定義される全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory responce syndrome: SIRS)の存在によって認識される。その後、敗血症は、感染に対する宿主の反応異常による生命を脅かす急性臓器機能不全として再認識されるようになった(表 1)。

表 1. SIRS の定義の変遷
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMra2403213#t1

SIRS は宿主の非侵襲的反応を反映する可能性があるため、現在では敗血症の定義には含まれていないが、この症候群の認識は依然として感染症の特定に有用である。

世界的な疫学
敗血症は世界的な問題であるが、その原因、発症率、転帰は地域や年齢によって異なる。症例の約 85%は低·中所得国に集中しており、敗血症に関連した死亡も不釣り合いに多い。特に、社会的脆弱性が最も高い地域で罹患率 (年齢で調整) が最も高くなっている。マラリア、腸チフス、デング熱を引き起こす病原体や、ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus: HIV)、結核との相互作用など、関与する病原体が多様であることも、サハラ以南のアフリカやその他の低・中所得国に負担をかけている。

最も一般的な感染部位は、肺(症例の 40-60%を占める)、腹部(15-30%)、泌尿生殖器(15-30%)、血流、皮膚または軟部組織であり、地理的な差異もある。最も一般的な原因はグラム陽性菌またはグラム陰性菌感染であり、次いで真菌またはウイルス感染であるが、パンデミック時にはウイルス性敗血症の発生率が劇的に増加することがある。

カンジダ血症の危険因子には、長期の重症疾患、カンジダ定着、留置カテーテル、粘膜炎、進行した肝疾患、完全非経口栄養、免疫不全などがある。真菌性敗血症のその他の原因で多いのは、常在真菌および pneumocystis jirovecii である。これらの日和見病原体の危険因子には、免疫抑制、長期の好中球減少、環境曝露、および慢性肺疾患が含まれる。26 ヵ国の小児集中治療室(intensive care unit: ICU)を対象とした世界的な有病率調査では、敗血症症例の 21%がウイルス感染に起因していた。

敗血症はどの年齢層の患者にも起こりうるが、その発生率は年代によって著しく異なる(図 1)。

図 1. 米国における年代別の敗血症の疫学
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMra2403213?logout=true#f1

2017 年の敗血症による死亡者数 1,100 万人のうち、26%が 5 歳未満の小児であった。免疫不全は敗血症のリスクを増大させ、日和見菌の病原性を高めるため、新生児期および幼児期の過剰リスクの一部は免疫系の未熟さによって説明できる。敗血症の発症率は、免疫機能を低下させる慢性疾患、特にがん、重度の免疫不全、血液透析を必要とする腎臓病の患者においても高い。米国の成人における敗血症による入院の 20%以上ががん患者であり、長期血液透析を受けている患者では敗血症の発生率が約 40 倍に増加する。

敗血症の定義の変遷と認知度の向上により、本疾患の疫学的評価は複雑化している。入手可能な最良の世界的データによると、1990 年から 2017 年にかけて、敗血症の発生率は約 35%、関連死亡率は約 50%減少している。

生物学的特徴
免疫調節異常
感染に対する分子反応はよく分かっていないが、一般的には、敗血症は臓器機能不全をもたらす免疫反応であるとされている。敗血症への進行は、病原体の病原性や存在量だけでなく、自然免疫の活性化、相対的な免疫抑制、免疫寛容の破綻 (maladaptive tolerance mechanism) などの宿主の特徴にも影響される。サイトカインの増加、過剰な骨髄造血、好中球-内皮トラップ(neutrophil-endothelial traps: NETs)の生成など、多様な炎症反応が臓器傷害に寄与し、免疫恒常性の破綻を永続させる(図 2)(敗血症の生物学的特徴に関する詳細な考察は、NEJM.org で本論文の全文とともに入手可能な補足付録に記載されている)。

図 2. 敗血症の病態生理
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMra2403213?logout=true#f2

さらに、分子プロファイリングにより、患者の遺伝子発現、分泌蛋白および代謝産物、白血球集団における複数の反応パターンが明らかになっている。特定の高リスク分子サブフェノタイプは、特定の治療法に対する反応性に差がある可能性があり、臨床試験の焦点となっている。高リスクのサブタイプであるマクロファージ活性化様症候群 (macrophage activation-like syndrome) もまた、炎症亢進の特徴を有しており、臨床試験が進行中である。

過剰な炎症が起こっているだけでなく、敗血症患者では程度の差こそあれ、自然免疫系と適応免疫系が抑制されている。主要な免疫エフェクター細胞である末梢血単球 (peripheral-blood monocyte) は、エンドトキシン耐性 (endotoxin tolerance) と呼ばれる現象でサイトカイン分泌が低下している。リンパ球減少症(絶対リンパ球数 <1000 /hpf)は敗血症の際によくみられ、リンパ球減少が持続すると死亡リスクが増加する。リンパ球減少は、リンパ球のアポトーシスとリンパ球新生の減少によるものであり、制御性 T 細胞 (regulatory T cell) の増加は、他の多くの免疫細胞の増殖とエフェクター機能を抑制する。

敗血症において炎症亢進と免疫抑制が同時に進行していることは、恒常性を回復させるための介入策が一筋縄にはいかないことを示すが、これらの一見相反するプロセスは関連している可能性がある。病原体や損傷シグナルに対する初期の反応は、酸化的リン酸化から解糖へとエネルギー産生をシフトさせる引き金となる。敗血症患者から採取した単球は、サイトカイン刺激 を繰り返すと「免疫麻痺 (immune paralyzed)」に陥り、解糖、酸化的リン酸化、 β 酸化が欠損する。敗血症患者から得られたリンパ球は、免疫疲弊のマーカーを発現することが多いが、これは特定の T 細胞集団に内在するものかもしれないし、T 細胞の高度の活性化を反映しているのかもしれない。CD8+ T 細胞の慢性的な刺激により、疲弊した機能低下 T 細胞が産生される可能性があり、敗血症患者における劇的な T 細胞の活性化は死亡リスクの上昇と関連することが研究で示されている。

血管系の調節不全
血管系は敗血症における主要な傷害部位である。内皮はサイトカイン、ケモカイン、傷害シグナルに対する豊富なレセプターを発現しており、病原体や組織傷害に迅速に反応するように準備されている。血管系の研究は難しく、血管の生検が行われることはまれであるが、複数の欠陥が同定されている。敗血症では、血管内皮を血球や血小板から絶縁する保護バリアである糖鎖が血管から脱落し、NET 形成や白血球や血小板の接着を引き起こしやすくなる。補体系の活性化は宿主の防御に不可欠であるが、補体の活性化が亢進すると、組織に大きな損傷と微小血管血栓症 (microvascular thrombosis) が引き起こされる。健康な状態では血管内皮の透過性は、白血球と栄養素を感染部位に動員するように調節されているが、敗血症の際には内皮透過性の調節が失われることが多い。臨床的には、この血管調節障害は低血圧、血漿の血管外 (サードスペース) への流出、まれに播種性血管内凝固障害 (disseminated intravascular coagulopathy) として現れる。血管バリア機能を高める治療法は、敗血症の動物モデルにおいて生存期間を延長させたが、これらの治療法についての臨床試験は不足している。活性化プロテイン C やスタチンなど、炎症と血管活性化の両方を標的とするいくつかの治療法は有望であるが、治療反応が患者のサブグループによって不均一であるという結果がしばしば得られている。

臨床症状および評価
感染部位、病原体、1 つまたは複数の臓器の急性機能障害、およびベースラインの健康状態の組み合わせが多いため、臨床症状は実に多様である。患者はしばしば、感染の一般的徴候および症状(例えば、発熱または低体温および倦怠感)と、感染部位に特異的な症状(例えば、咳嗽、排尿困難や紅斑)、ならびに急性臓器障害の症状(例えば、錯乱、乏尿や呼吸困難)を有する。しかし、敗血症を早期に発見することは難しい。なぜなら、その症状は不均質であり、時間の経過とともに進展し、疾患の初期には微妙な場合があるからである。さらに、一般的な徴候や症状は敗血症に特異的ではなく、薬物(β 遮断薬や解熱剤など)によってマスクされることもある。

重症感染症患者、あるいは急性臓器障害を呈し、その原因が非感染性であることが明らかでないすべての患者において、敗血症を考慮すべきである。感染症を呈する患者については、臨床所見、検査所見から急性臓器障害が疑われないか検討するべきである。白血球増加または白血球減少、10%以上の幼若顆粒球、高血糖、クレアチニンおよび乳酸値の上昇などが、敗血症に特徴的な一般的検査所見である。発熱や局所的な感染徴候がない場合でも、精神状態の変化、低血圧、呼吸困難、糖尿病性ケトアシドーシスや肝硬変のような慢性疾患の急性増悪を伴う患者では、敗血症を考慮すべきである。

臨床的評価においては、感染部位と原因の確認、臓器機能と循環動態の評価に重点を置く。感染を評価するための一般的な検査としては、疑われるフォーカスに応じて、画像検査、培養検査、抗原検査(溶連菌抗原やレジオネラ抗原の検査など)、マルチプレックスポリメラーゼ連鎖反応病原体検出パネルなどがある。米国では、敗血症の可能性を判定する 3 種類の分子診断検査が市販されているが、日常診療にはまだ取り入れられていない。臨床的には明らかでない低灌流のスクリーニングのために、すべての患者で乳酸測定を行うことが推奨される。

管理
敗血症の管理は、感染制御、循環動態の安定化、臓器障害に対する支持療法に重点を置いている(補遺の表 S1)。免疫系の恒常性の回復も目標であるが、現在の臨床管理の構成要素ではなく、現在進行中の研究の焦点である。本節では、感染制御と蘇生に関する一般的な治療原則に焦点を当て、現在進行中の研究分野に焦点を当てる。

感染制御
感染症の治療には、すべての細菌および真菌感染症、ならびに敗血症を引き起こす多くの寄生虫およびウイルス感染症に適応となる抗菌薬療法と、状況によっては適応となる外科的感染源制御がある。治療開始時に原因病原体が判明していることはまれであるため、最初の抗菌薬療法は経験的であることが多い。経験的抗菌薬レジメンは、感染が疑われる部位、地域の疫学的状況、および非定型または耐性菌のリスク因子に基づいて、最も可能性の高い病原体をカバーすべきである。抗菌薬耐性プロフィールを含む病原体の地域疫学的プロフィールの知識は、初期治療の選択に有用である。

さらに、臨床医は、過去の培養で検出された病原体や感受性、特定の感染症に罹患しやすい体質や治療法、非定型病原体に曝露された可能性のある社会歴、感染部位や感染症の種類を示唆する徴候、症状、検査データなど、各患者のリスク因子を考慮すべきである。過去に抗菌薬に曝露され、医療システムに接触したことのある患者は、耐性菌に感染するリスクが高いため、ガイドラインではそのような患者に対して、より広い初期適用範囲を推奨している。逆に、抗菌薬の使用に伴う副作用を避けるため、感染症の原因である可能性が低い病原体に対しては、適用を控えるべきである。例えば、嫌気性菌をカバーする抗菌薬は、健康な腸内細菌叢を減少させ、有害な臨床転帰と関連するため、多くの患者では使用を避けられる。

培養検査など病原体同定する検査の結果が得られたら、抗菌薬療法は、同定された病原体をカバーし、同定されていない耐性菌をカバーしないように絞り込むべきである。抗菌薬療法の期間は、感染部位と感染タイプに合わせ、さらに臨床的反応によって決定すべきである。感染源対策には、感染源の除去、病原体負荷の軽減、正常な感染除去を阻害する解剖学的異常の是正を目的とした外科的介入が含まれる。感染源管理のための一般的な処置には、感染した臓器の摘出(例、盲腸)、感染した血管内デバイスの除去、感染部位に近接する解剖学的閉塞の緩和(例、胆道または泌尿生殖器の狭窄)、膿瘍または感染した体液貯留のドレナージが含まれる。抗菌薬療法と同様に、感染源管理は一刻を争うものであり、その遅れは、特にショック状態にある患者の死亡率の上昇と関連している。すべての介入にはリスクが伴うため、手技による感染源管理の有益性と緊急性を判断するには、クリティカルケアチームと手技チームとの協議が重要である。

循環動態の安定化
低血圧または組織低灌流が疑われる(例えば、乳酸値の上昇)患者に対しては、速やかな循環動態の安定化が重要であり、過去または現在進行中のいくつかの臨床試験の焦点となっている(表 2)。

表 2. 2015 年度以降の敗血症についての主な臨床研究
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMra2403213?logout=true#t2

晶質液 (crystalloid) の静脈内投与は、血管内容積の減少を是正し、前負荷を回復するための第一選択の治療法であるが、蘇生へのアプローチは時代とともに進化している(補遺で論じている)。

ガイドラインでは、ほとんどの成人患者にとって妥当な初期輸液量として、30 mL/kg を推奨している。30 mL/kg の輸液量では許容できない副作用が生じる可能性のある患者では、臨床反応を注意深く観察しながら、連続的なボーラス(例えば、成人では 250-1000 mL)で行うべきである。30 mL/kg の輸液をを含む蘇生バンドル (resuscitation bundle) の実施は、中等度の乳酸値上昇(2-4 mmol/L)、慢性腎臓病、または心不全を有する敗血症患者の生存率の改善と関連することが報告されている。

輸液量が不足していても、過剰でも有害である。観察研究では、輸液量と転帰の間に U 字型の関係が示されている。過剰蘇生による害は、酸素投与または人工呼吸器の使用が制限されている環境で特に顕著になる可能性がある。しかし、過剰輸液の害を示した臨床試験では、多くの場合 30 mL/kg をはるかに越える量の輸液を行っていた。例えば、簡易重症敗血症プロトコール 2(Simplified Sevre Sepsis Protocol-2: SSSP-2)試験では、通常ケア群と高輸液負荷群にランダムに割り付けられ、高輸液負荷は死亡率上昇と関連すると結論された。しかし、最初の 6 時間で投与された輸液量は、通常ケア群で 2.0 L(50 ml/kg 以上)だったのに対し、高輸液負荷群では中央値で 3.5 L(70 ml/kg 以上)であり、相当な輸液負荷を行っていた 。敗血症患者には、0.9%生理食塩水よりも乳酸リンゲル液のようなバランス溶液の使用が望ましい。

初期蘇生後、低血圧と血管内容量減少が続いている患者に対しては、蘇生を継続した場合と、「輸液負荷を緩和する (fluid-liberal)」アプローチや「輸液量を制限する (fluid-restrictive)」アプローチをとった場合とで、同様の転帰が得られている(表 2)。輸液反応性は、少量の輸液負荷(例えば、4 ml/kg)あるいは受動的に下肢を挙上して右心への静脈還流を増加させた場合の心拍出量 (stroke volume) の変化に基づいて評価することができる。敗血症性ショック患者 124 人を対象とした多施設共同無作為化試験では、一回拍出量の変化(非侵襲的心拍出量モニターで測定)に基づいて輸液と昇圧剤 (vasopressor) の調節を行う群に割り付けられた患者は、通常のケアを行う群に割り付けられた患者よりも、腎代替療法(5% v.s. 17%, P = 0.04)および侵襲的機械的換気(18% v.s. 34%, P = 0.04)を必要とする可能性が低く、生理学的な評価に基づいて蘇生処置を調節することを支持する所見であった。しかし、重要な臨床転帰について検出力のある、より大規模な試験が必要である。

初期輸液にもかかわらず重篤な低血圧が持続する患者には、昇圧剤静脈注射が正当化される。ガイドラインでは、初期平均動脈圧(mean arterial pressure: MAP)を 65 mmHg とすることが、より高い MAP 目標値よりも推奨されている。65 歳以上の血管拡張性ショック患者 2,600 人を対象としたこの試験では、低血圧を許容する群(MAP 目標値 60-65 mmHg)では、通常治療よりも昇圧剤の使用が少なく、90 日後の調整死亡率が低かった(調整オッズ比、0.82;95%信頼区間 [cofidence interval: CI], 0.68-0.98)。

MAP 以外に、乳酸濃度と毛細血管再充填時間 (capillary refill time) は、蘇生と昇圧剤投与の指針となる追加情報を提供する。ANDROMEDA-SHOCK 試験では、敗血症性ショック患者 424 人を毛細血管再充填時間に基づいて蘇生を調節する群と乳酸濃度に基づいて蘇生を調節する群とに無作為に割り付けた。MAP が 65 mmHg 以上であるにもかかわらず、割り付けられた蘇生法が失敗した患者には、輸液の追加、MAP 目標値の引き上げ、強心剤 (ionotrope) の投与が行われた。毛細管再充填時間に基づく蘇生法を受けるように割り付けられた患者は、乳酸濃度に基づく蘇生法を受けるように割り付けられた患者よりも死亡率が低かった(34.9% v.s. 43.4%;P=0.06)。ベイズ法による再解析では、毛細管再充填時間に基づく蘇生法を受けた方が死亡率が低くなる確率が、複数の仮定確率分布にわたって 90%以上であることが示された。抗菌薬、輸液、昇圧剤による治療にもかかわらず臨床経過が悪化している患者については、感染制御を再考し、抗菌スペクトルがより広域の抗菌薬の使用、感染部位をより明確にするための画像検査、または感染源に対する外科的介入が必要かどうかを判断することが重要である。

昇圧剤を継続的に投与されている患者には、補助的な「ストレス用量」のグルココルチコイド(ヒドロコルチゾン [hydrocortisone] 200 mg/日 ± フルドロコルチゾン [fludrocortisone] )を考慮すべきである。メタアナリシスでは、死亡率の低下に関しては相反する結論となっているが、グルココルチコイドの併用により、ショック、人工呼吸、ICU 滞在の期間が短縮することが一貫して示されている。最近の観察研究の再検討では、ヒドロコルチゾンへのフルドロコルチゾンの追加は、ヒドロコルチゾン単独よりも優れており(死亡率の調整差, -3.7%ポイント;95%CI, -4.2~-3.1;P<0.001)、有害性のシグナルはなく、ベイズネットワークメタ解析では、併用はヒドロコルチゾン単独よりも全死因死亡率の低下と関連していた。ストレス用量のグルココルチコイドは平均的な患者には有益であるが、その有益性は患者によって異なるため、臨床医は、ストレス用量のグルココルチコイドによる治療を開始および継続するかどうかを決定する際に、ショックの重症度とグルココルチコイドに関連する有害事象のリスクとを比較検討すべきである。バソプレシン追加の用量閾値は不明であり、現在、多施設共同試験(ClinicalTrials.gov番号、NCT06217562)で評価中である。

回復と長期的転帰
敗血症は生命を脅かす急性疾患であるだけでなく、認知障害、機能障害、慢性的な健康障害の新規発症や悪化など、他の疾患の発症にも関与する、 高齢者では、敗血症による入院は、新たな機能制限(入浴や着替えが自立できないなど)の発現と、中等度から重度の認知機能障害の有病率の大幅な増加(入院前 6.1% v.s. 入院後 16.7%)と関連している。敗血症性ショックの小児 389 人を対象とした前向きコホート研究では、生存している小児の 35%が 1 年後にベースラインの健康関連 QOL を回復していなかった。

長期にわたる健康障害の結果、敗血症以前に就労していた患者の多くが復職できないでいる。2010 年から 2021 年にかけて、敗血症で入院する前に就労していたノルウェーの敗血症生存者 12,260 人を対象とした研究では、6 ヵ月時点で 40%が復職していなかった。

敗血症による入院中に発症する健康障害だけでなく、患者は敗血症の治癒後数ヵ月から数年の間に、さらなる健康悪化、再入院、死亡のリスクが高まるが、これらの転帰は年齢や既往症では十分に説明できない。敗血症生存者を対象とした縦断的研究では、研究参加者の 3 分の 2 で炎症マーカーと免疫抑制マーカーの持続的な活性化が認められ、これは全死因死亡率の上昇と関連していた。この所見は、免疫系が恒常性に戻れないことが、感染症の再発や慢性疾患の進行のリスクにつながる可能性を示唆している。敗血症からの回復を促進する特異的な治療法はまだ確立されていないが、プライマリケアのフォローアップと積極的な症状評価を伴う多因子介入は、生存率の改善と関連している。

論争や不確実性のある分野と今後の研究

診断
敗血症は、感染に対する宿主の反応異常による急性臓器不全症候群として認識されている。しかし、宿主の反応異常の詳細や、その存在を確認するための診断的検査はまだ確立されていない。さらに、感染をリアルタイムで確認したり、その特徴を明らかにしたりする能力も限られている。タンパク質ベースおよび転写産物ベースのツールはともに、敗血症のリスクを予測するものとして米国および欧州で承認されているが、その使用によって転帰が変わるかどうかはまだわかっていない。新しいツールが導入された場合には、臨床ワークフローへの導入と患者中心の転帰への影響を検証する必要がある。

敗血症の亜型
敗血症の異質性は、前臨床研究の進展や標的治療法の同定を阻害する要因として長い間指摘されてきた。過去 10 年間に、血液中の白血球における遺伝子発現に基づく亜型、病原体を含む臨床データ、血漿バイオマーカーを含む、小児および成人の敗血症の新たな亜型がいくつかの研究によって同定され、報告されてきた。さらに、これらの分類を臨床試験データに事後的に適用したいくつかの例では、治療反応における質的な違いが確認されている。

治療効果の不均一性
臨床試験では平均的な治療効果が得られるが、敗血症という疾患の幅広い不均一性を考慮すると、個々の敗血症患者に期待される治療効果を十分に反映していない可能性がある。ベッドサイドでの管理を改善するために、個々の患者における治療効果を予測することに強い関心が寄せられている。個々の治療効果を推定するために機械学習を用いた臨床試験データを事後的に分析すると、敗血症性ショックに対するグルココルチコイドの有益性に顕著なばらつきがみられた。

標的治療
敗血症の管理は、抗菌薬、感染源管理、蘇生、臓器不全のサポートに重点を置いている。血管透過性を含む宿主の調節異常のサブタイプに対処する特異的治療についての知見は不足している。いくつかの薬剤やデバイスが研究されており、臨床的に対処可能な時間枠で宿主の反応特性を同定し、特徴づける努力が進められている。

低・中所得国における敗血症
低・中所得国では敗血症の症例数と死亡者数の割合が不釣り合いに高いが 、ほとんどの臨床試験は高所得国で実施されている。世界的な敗血症の転帰を改善するためには、敗血症の負担が最も大きい地域における医療インフラと研究を強化することの意義が大きい。

結論
敗血症は、感染に対する宿主の反応異常による生命を脅かす急性臓器障害と定義され、世界中で疾病と死亡の主要な原因となっている。感染部位、原因病原体、および急性機能不全が生じる臓器は実に多様であるため、敗血症の認識と特異的治療法の開発は一筋縄にはいかない。宿主の免疫反応の調節障害は敗血症の病態の鍵を握っているが、現在の治療法は感染症の管理と低灌流からの回復に重点を置いている。敗血症の実用的なサブタイプを同定し、宿主の調節異常に対する標的療法を開発するための研究が進行中である。

元論文
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMra2403213

感染性心内膜炎  後編

2024-08-23 08:53:34 | 感染症
感染性心内膜炎
Nat Rev Dis Primers 2016; 2: 16059
doi: 10.1038/nrdp.2016.59.

10. 起炎菌別の問題

10-1. 黄色ブドウ球菌
黄色ブドウ球菌関連 IE に対する抗菌薬療法の選択において重要なのは、分離株がメチシリン耐性(methicillin-resistant Staphylococcus aureus: MRSA)かメチシリン感受性(methicillin-susceptible Staphylococcus aureus: MSSA)かということである。

観察研究のデータから、バンコマイシンで治療された MSSA 血流感染症患者の転帰はより悪いことが示唆されている。経験療法として β-ラクタム系抗菌薬を使用する必要があるかどうかは不明であるが、小規模な後ろ向き研究では有益性の可能性が示唆されている。MSSA 菌血症患者 5,000 人以上を対象とした最近のコホート研究では、MSSA が同定された後の確定的治療には β-ラクタム系抗菌薬が優れているが、経験的治療には適していないことが示唆されている。

医療従事者は、ペニシリンアレルギーの報告がある患者への β-ラクタム薬の処方を避けるかもしれない。しかし、ペニシリンアレルギーを報告された患者のうち、皮膚テストを実施した場合、そのほとんどが真のアレルギーではなく、MSSA 菌血症と IE の治療に関する決定分析では、皮膚テストは費用対効果が高いと思われた。

MRSA IE に対しては、バンコマイシンが歴史的に選択されてきた抗菌薬であり、現在でも治療ガイドラインの第一選択薬である。最近の報告では、数十年にわたって使用されてきた黄色ブドウ球菌に対するバンコマイシンの最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration: MIC)が上昇しているのではないかという懸念が提起されている。

バンコマイシンの MIC が上昇すると、感受性に分類される分離株であっても、MRSA 菌血症の転帰が悪化する可能性があるが、メタ分析ではこの可能性は支持されていない。クロキサシリンによる治療を受けた左心系 MSSA IE 患者 93 人の前向きコホート研究では、バンコマイシンの投与を受けていない患者であっても、バンコマイシン MIC が高い(1.5 mg/L 以上)ことは死亡率の増加と関連していた。このことを考慮すると、バンコマイシン MIC の高値は、転帰を悪化させる宿主特異的または病原体特異的な因子の代用マーカーである可能性がある。

臨床医は、バンコマイシンの MIC が 1.5 mg/L 以上の MRSA IE に対して、別の抗菌薬を使用することをを検討しても良いが、バンコマイシン以外の抗菌薬を使用することにによって死亡率が低下するかどうかについては判断するためのデータが不足している。最終的には、MIC とは無関係に、患者の臨床的な治療反応性によってバンコマイシンを継続して使用するかどうかを決定すべきである。

ダプトマイシン (daptomycin) は、成人の黄色ブドウ球菌菌血症および右心系 IE に対する治療薬として FDA に承認されており、MRSA IE に対するバンコマイシンの代替薬として使用できる。IE に対する FDA の承認用量は 1 日 1 kg あたり 6 mg であるが、多くの専門医は、黄色ブドウ球菌菌血症および IE に対するダプトマイシンと標準療法を比較した第 III 相臨床試験において、約 5%(ダプトマイシン治療患者 120 人中 7 人)に発生した治療惹起性耐性の懸念から、より高用量(1 日 1 kg あたり 8-10 mg など)を使用している。ダプトマイシンはこのような高用量でも安全で有効であるようである。

ゲンタマイシンは、ブドウ球菌性 NVIE に対しては推奨されない。なぜなら、ゲンタマイシンは腎毒性を伴い、臨床的有用性を裏付ける確実なデータがないからである。同様に、リファンピンも副作用や菌血症の延長と関連しているため、NVIE の補助療法としては推奨されず、骨関節感染症を併発しているなど別の適応がない限り、ブドウ球菌性 NVIE では使用を避けるべきである。ブドウ球菌性 PVIE に対しては、ゲンタマイシンとリファンピンの両方の使用を支持する弱いエビデンスがある。黄色ブドウ球菌性菌血症に対するリファンピン併用療法の役割を検討する大規模臨床試験は、最近登録が完了した。

他の抗菌薬の組み合わせについても観察データが報告されている。例えば、セフタロリン (ceftaroline) は MRSA に対して活性のあるセファロスポリン (cephalosporin) 系抗菌薬であり、IE のサルベージ療法として単独または他の抗ブドウ球菌抗菌薬との併用で使用されている。バンコマイシンやダプトマイシンと他の β-ラクタム系抗菌薬やトリメトプリム-スルファメトキサゾールとの併用、ダプトマイシンとホスホマイシンとの併用、ホスホマイシンと β-ラクタム系抗菌薬との併用など、MRSA 菌血症においてヒトでのデータは限られているものの in vitro で相乗効果を認める組み合わせもある。

コアグラーゼ陰性ブドウ球菌に対する推奨される治療レジメンは、黄色ブドウ球菌に対するものと同じである。

10-1. 溶連菌 (Streptococci)
溶連菌 IE に対する標準治療は、β-ラクタム系抗生物質(ペニシリン [penicillin]、アモキシシリン [amoxicillin]、セフトリアキソン [ceftriaxone] など)を 4 週間投与することである。連鎖球菌性 NVIE に対しては、アミノグリコシド系抗生物質をセフトリアキソンと併用して 1 日 1 回投与することで、2 週間の治療期間を短縮できる可能性がある。ペニシリンまたはセフトリアキソンの MIC が上昇した溶連菌分離株には、ゲンタマイシンを追加すべきである。

10-3. 腸球菌 (Enterococci)
抗菌薬が使われ始めた時代から、臨床医はペニシリンが溶連菌よりも腸球菌に効きにくいことに着目し、アミノグリコシドとの併用療法が推奨されていた。これは現在でも標準的な治療法であるが、アミノグリコシド耐性菌の増加や、このクラスの抗菌薬に関連する毒性により、別の治療法を見つける努力が続けられている。

最近のデータでは、アンピシリンとセフトリアキソンの併用は、特にアミノグリコシド耐性の患者や、アミノグリコシドによる腎毒性が懸念される患者において、アンピシリン感受性 E. faecalis による IE に有効である可能性が示唆されている。バンコマイシン耐性腸球菌 IE は幸いまれであるが、リネゾリド (linezolid) とダプトマイシンで治療が成功している。

10-4. その他の病原体
HACEK グループ細菌(Haemophilus 属、Aggregatibacter 属、Cardiobacterium hominis、Eikenella corrodens、Kingella 属)は、歴史的にアンピシリンで治療されてきた。しかし、β-ラクタマーゼを産生する HACEK が問題になってきている。また、感受性検査で β-ラクタマーゼ産生 HACEK を同定できないことがある。したがって、HACEK はアンピシリン耐性と考えるべきであり、セフトリアキソンが望ましい。これらの菌に対する治療期間は、一般的に 4 週間で十分である。

非 HACEK グラム陰性桿菌による IE はまれである。そのため、これらの菌による IE に対する最適な治療は不明である。多くの症例では、心臓手術と長期間の抗菌薬治療の併用が妥当な戦略と考えられている。

真菌 IE もまれであるが、予後は不良である。弁膜症手術がしばしば採用されるが、このアプローチが転帰の改善と明確に関連しているとは言えない。アムホテリシン (amphotericin) ベースの薬物療法またはエヒノキャンディン (echinocandin) による初期非経口療法後、特に弁手術を行わない場合は、無期限のアゾール (azole) 療法が推奨される。

10-5. 培養陰性 IE
培養陰性 IE 症例の治療は特に難しい。血液培養が陰性になる原因で最も多いのは、1. 血液培養を採取する前に患者が抗菌薬を投与されたことであるが、2. 不適切な微生物学的技術、3. 培養が難しい細菌が起炎菌である場合、あるいは 4. marantic や Libman-Sacks IE などの疣贅の非感染性の原因によって生じることもある。

衰弱性心内膜炎 (marantic endocarditis)
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/04-%E5%BF%83%E8%A1%80%E7%AE%A1%E7%96%BE%E6%82%A3/%E5%BF%83%E5%86%85%E8%86%9C%E7%82%8E/%E9%9D%9E%E6%84%9F%E6%9F%93%E6%80%A7%E5%BF%83%E5%86%85%E8%86%9C%E7%82%8E#%E7%97%85%E5%9B%A0_v939729_ja

Libman-Sacks 型心内膜炎
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK532864/

このような症例における抗菌薬の選択には、複数の抗菌薬を使用することによる副作用の可能性と、可能性のある全ての病原体に対する経験的治療の必要性とのバランスをとる必要がある。このような症例では、「真の」培養陰性 IE(つまり、ルーチンの血液培養では増殖しないまれな病原体)の可能性を調べることで、病因が判明する可能性がある。

11. 手術
複雑な IE 症例の多くでは、手術が治療の重要な要素であるという一般的な意見に沿って、早期の弁置換術や弁修復術の実施率は時代とともに増加している。しかし、この治療法のエビデンスはまちまちである。ある無作為化試験では、早期手術によって院内死亡と塞栓イベントの複合転帰が有意に減少することが示された。これは革新的な知見であるが、一般化できるかどうかには疑問がある。研究対象者は、一般の医療機関で遭遇する現代の IE 患者よりも若く、健康で、病原性の低い病原体(例えば VGS)に感染していた。ほとんどの IE 患者に対して、手術の推奨は観察研究と専門家の意見に基づいている。

弁膜症手術の主なコンセンサス適応は、心不全、制御不能な感染症、ハイリスク患者における塞栓イベントの予防である。管理されていない感染症は、膿瘍、肥大した疣贅、人工弁の剥離などの弁周囲の合併症に関連している可能性がある。

さらに、適切な抗菌薬治療にもかかわらず、発熱が続いたり、血液培養が陽性になったりして、全身性の感染が進行することで、制御不能な感染が顕在化することもある。左心系の大きい疣贅がある場合、塞栓イベントにつながりやすいため、長さ 10 mm を超える疣贅を有する IE は外科的介入の相対的適応である。

IE と神経血管合併症を有する患者の心臓手術の時期については、依然として議論の余地がある。出血性転化を伴わない脳梗塞を合併した IE 患者 857 人を対象とした大規模な前向きコホート研究によると、手術を遅らせても患者の利益は得られなかった。対照的に、出血性転化を合併した脳塞栓患者では、出血イベントから 4 週間以内に手術を行った場合、手術を遅らせた場合と比較して死亡率が高かった(それぞれ 75% 対 40%)。これらの観察データに基づき、AHA は現在、脳梗塞や潜在性脳塞栓を有する IE 患者において、画像検査で頭蓋内出血が除外され、神経学的障害が重度(昏睡など)でなければ、遅滞なく弁膜症手術を考慮することを推奨している。広範囲の脳梗塞または頭蓋内出血のある患者において、AHA ガイドラインは現在、弁膜症手術を少なくとも 4 週間遅らせることが妥当であるとしている。

弁膜症手術は従来、緑膿菌、真菌、β-ラクタム耐性ブドウ球菌などの治療困難な病原体に対して推奨されてきた。しかし、このような病原体別の手術推奨は、最近は疑問視されており、血行動態や構造的な適応に基づく個別化された意思決定アプローチに取って代わられている。

12. その他の補助療法
12-1. 抗凝固療法
経口抗凝固薬を投与されている PVIE 患者は、脳出血による死亡リスクが増加する可能性がある。抗血小板療法は現在 IE には推奨されていない。IE 患者に対する 1 日 325 mg のアスピリンの役割を検討した 1 件の無作為化試験がある。塞栓イベントの発生率はアスピリン投与群とプラセボ投与群で同等であり、脳出血エピソードの発生率は有意ではなかった。しかし、アスピリンの使用量やアスピリンの投与開始の遅れなど、この研究にはいくつかの限界がある。抗血小板療法に別の適応がある患者では、出血性合併症が生じない限り抗血小板薬を継続するのが妥当であろう。IE を治療する目的でワルファリンなどの抗凝固療法を開始することは推奨されない。機械弁のような抗凝固療法の別の適応がある IE 患者では、急性期治療中に抗凝固療法を継続するかどうかに関するデータは矛盾しており、ヘパリン製剤によるブリッジング療法については研究されていない。

12-2. 転移病巣の管理
転移性感染病巣は IE に合併することが多い。他の感染症同様、膿瘍のドレナージや感染したデバイスの除去など、的を絞った介入を行うためには、このような感染巣を認識することが重要である。持続的な感染源は、最近設置された人工弁 (prosthetic valve) や僧房弁輪リング (annuloplasty ring) の感染源となる可能性があるため、弁膜症手術を必要とする患者において、このことは極めて重要である。

annuloplasty
https://my.clevelandclinic.org/health/treatments/22224-annuloplasty

椎骨骨髄炎のような一部の転移巣では、IE に通常適応される以上の追加の抗菌薬治療が必要になることがある。現在のところ、すべての IE 患者に対して転移巣を検索する目的の画像検査を行うべきかどうかについては十分なエビデンスがない。

13. 治療終了時のケア
現代における IE 患者のほとんどは治癒しており、最終的にはどのようにフォローアップするかを考えられるようになっている。

フォローアップの要素としては、1. 抗菌薬治療終了時に心エコー検査を行い、その後の比較のための新たなベースラインを確立すること、2. 注射薬の乱用者には薬物中止プログラムを紹介すること、3. 徹底的な歯科的評価を行うことなどが挙げられる。病原体が最初に侵入した入り口を包括的に探索することで、IE の再発を最小限に抑えることができる。ある単一施設における前向き研究では、318 人の患者のうち 74%で、系統的な検索により病原体の侵入経路が明らかになった。

抗菌薬治療終了時の定期的な血液培養は、活動性感染の徴候がない患者での陽性率が非常に低いことから、推奨されない。患者はまた、再発、心不全の発症、アミノグリコシドによる聴力毒性やクロストリジウム・ディフィシル感染の発症などの抗菌薬治療の合併症を含む、IE の合併症についてモニターされるべきである。

14. 生活の質
致死的となりうる感染症と診断されることに伴うストレスに加え、IE 患者は長期入院や治療による副作用を日常的に経験し、何度も侵襲的な処置を受ける。

例えば、左心系 IE の治療には長期にわたる抗菌薬静脈内投与が必要であり、これは長期にわたる静脈路確保を伴うため、患者の QOL(Quality of Life, 生活の質)をおそらく低下させる。これらの要因が退院後の患者の QOL をどの程度損なうかは、これらの問題を扱った研究が少ないため、よくわかっていない。

加えて、生命を脅かす疾患は心的外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder: PTSD)を引き起こす可能性があり、これはさまざまな生命を脅かす感染症の生存者において患者の幸福を損なうことが示されている。

左弁膜症生存者の QOL に関するある研究では、86 人の対象者のうち 55 人が退院後 3 ヶ月と 12 ヶ月のアンケートに回答し、さらに 12 人の患者が 12 ヶ月のアンケートのみに回答した。健康関連 QOL は SF-36 と PTSD 質問票を用いて測定された。本研究では、55 例中 41 例(75%)、67 例中 36 例(54%)が抗菌薬治療終了 3 ヵ月後、12 ヵ月後も身体症状を有していた。最も多かった症状は、手足の脱力(51%)、疲労(47%)、集中力障害(35%)であった。退院 1 年後も PTSD に罹患していた患者は 64人中 7 人(11%)であった。IE 時に 60 歳以下であった 37 人の患者に就労状況について質問した。IE の前に、30 人 (81%) の患者が雇用され、働いていた。3 ヵ月後と 12 ヵ月後には、それぞれ 31 人中 16 人 (52%) と 37 人中 24 人 (65%) が再び働いていた。評価した患者数が少ないため、原因微生物や弁手術などの因子が QOL や PTSD 発症率に及ぼす影響は評価できなかった。僧帽弁手術を受けた IE を伴わない患者を対象に行われたある研究では、手術の種類(置換術と修復術)は患者の QOL に影響を及ぼさなかった。

包括的な心臓リハビリテーションプログラム(通常、運動と教育セッションを含む)が IE を克服した患者の QOL を改善するかどうかは、現在、無作為化臨床試験である CopenHeartIE 研究で検討されている。この研究では、左心(固有または人工弁)または心臓デバイス IE で治療を受けた 150 人の患者が、心臓リハビリテーションまたは通常のケアのいずれかに無作為に割り付けられる。

Rasmussen らは、IE から回復した 11 人の患者の質的評価において、「不十分な生活」という革新的な概念について述べている。患者の中には、新たな生活状況に適応する際の「生活の変化 altered life」を訴える者もおり、それを管理可能で一時的なものと認識する者もいれば、非常に苦痛で長期化すると感じる者もいた。また、患者は、身体的、認知的、感情的に経験した「衝撃的な脱力感 shocking weakness」についても報告している。このような感覚は、一部の患者にはすぐに治まったが、ほとんどの患者は衰弱が持続し、回復期が長引くことに不満を感じていた。最後に、患者は、回復を促進するためには、自分自身の行動だけでなく、親族や医療従事者からの支援が重要であることを表明した。この独創的な研究から、IE の潜在的な身体的・精神的影響に対処する患者の能力をサポートするフォローアップケアの研究の必要性が示唆された。

この問題に関するデータが乏しいことから、IEが患者の QOL に与える影響を明らかにするためには、今後の研究が必要である。IE QOL の今後の研究で優先される可能性のある項目を Box 2 に示す。

Box 2. 感染性性心内膜炎の生活の質に関する研究における優先課題

15. 展望
15-1. 治療
今後の IE に対する治療は実用主義が重視されるであろう。例えば、長期の静脈アクセスを避ける左心系 IE に対する効果的な治療戦略は重要な進歩であろう。少なくとも 2 つの無作為化臨床試験が、標準的な抗菌薬静脈内投与コースの一部を経口抗菌薬に「ステップダウン」することの有効性と安全性を検証している。さらに、新たに承認された 2 種類の抗ブドウ球菌抗菌薬、ダルババンシン (dalbavancin) とオリタバンシン (oritavancin) は、いずれ IE に対する現在の標準的な静脈内治療の代替となるかもしれない。

この方針に沿って、Partial Oral Treatment of Endocarditis(POET)研究は、非劣性、多施設、前向き、無作為化、非盲検試験デザインを用いて、左心系 IE において抗菌薬治療の一部を経口治療に置き換えることは全治療期間を静脈内投与で治療した場合と同様に安全で有効であるという仮説を検証している。連鎖球菌性、ブドウ球菌性、または腸球菌性の大動脈弁または僧帽弁 IE を有する安定した患者 400 人を、4-6 週間の抗菌薬の静脈内投与を受ける群と、最低 10 日間抗菌薬を静脈内投与し、その後経口投与に切り替える群に無作為に割り付ける。患者は抗菌薬治療終了後 6 ヵ月間フォローアップされる。主要エンドポイントは、全死亡、予定外の心臓手術、塞栓イベント、主要病原体による血液培養陽性の再発の複合である。非劣性マージンは 10%である。

RODEO 試験では、同じ主要エンドポイントを用いて、左心系 IE に対する経口療法への切り替えの影響も評価する。この試験では、MSSA による IE を発症した 324 人の被験者が、少なくとも 10 日間の抗菌薬の静脈内投与を受け、その後、4-6 週間の静脈内投与を完全に終了する群と、レボフロキサシンとリファンピンを少なくとも 14 日間追加で経口投与する群に無作為に割り付けられる。

ダルババンシンとオリタバンシンは、急性細菌性皮膚・皮膚構造感染症(acute bacterial skin and skin structure infections: ABSSSI)の治療薬として 2014 年に食品医薬品局 (the Food Drug Agency: FDA) から承認されたリポグリコペプチド (lipoglycopeptide) クラスの抗菌薬であり、IE に対する静脈内治療の新しい選択肢となる可能性がある。重要な特性は、半減期が推定 10-14 日と極めて長いことであり、これにより投与頻度を減らすことができる。ダルババンシンは ABSSSI の治療薬として FDA から承認されており、1500 mg の単回投与、または 1 日目に 1 g を負荷投与し、1 週間後に 500 mg を点滴静注する 2 回投与が可能である。オリタバンシンは ABSSSI の治療薬として、1200 mg の 3 時間単回点滴静注が承認されている。このような投与方法により、最終的には外来抗菌薬静注のための在宅医療 (home health) や看護施設 (skilled nursing facility) へのケアが不要になるかもしれない。現在のところ、IE におけるこのような治療戦略の有効性に関するデータはないが、ある第 I 相試験では、ダルババンシンを初日に 1000 mg 投与し、その後毎週 500 mg を 7 週間追加投与した場合の薬物動態は良好であった。ダルババンシンはカテーテル関連血流感染についても研究されている。ダルババンチンやオリタバンチンのような長期間の静脈路確保を必要としない治療法は、注射薬乱用患者や静脈路確保の選択肢が限られている患者の IE 治療に特に有利である可能性がある。

15-2. 感染性心内膜炎の主要な起炎菌に対するワクチン
IE を治療する最善の方法は IE を予防することである。現在のところ、IE 予防については感染制御と歯科予防に力を入れられているが、IE の主な起炎菌を標的としたワクチン開発にもかなりの資源が投入されている。しかし、その成功例は様々であり、現在市販されているものはない。それでも、将来の IE に対する予防戦略にはワクチンが含まれる可能性が高い。VGS や C. albicans のような病原体のワクチン候補は動物モデルで評価されているが、IE の原因をターゲットとしたワクチンのヒトでの研究は主に緑膿菌、B 群連鎖球菌、黄色ブドウ球菌に限られている。

15-3. 黄色ブドウ球菌感染症に対する受動的免疫化戦略
少なくとも 10 件の研究が、菌血症を含む黄色ブドウ球菌感染症の予防や治療のためのワクチンや免疫治療薬の試験は少なくとも 10 件ある(表 6)。

これまでの取り組みでは、既存の抗体による受動的免疫と、古典的なワクチンデザインで宿主の抗体反応を刺激する能動的免疫の 2 つのアプローチが追求されてきた。

2 つの受動的免疫化戦略が試みられている。ひとつは標準治療に加えて補助的に行う活動性ブドウ球菌感染症の治療であり、もうひとつは感染発症のリスクが高いと考えられる患者におけるブドウ球菌感染症の予防である。それぞれのアプローチには長所と限界がある。両群とも標準治療が行われるため、サンプルサイズが比較的小さく、登録が比較的容易であるというデザイン上の利点があるが、FDA 承認のためには標準治療に対する優越性を証明する必要がある。現在までに 3 つの免疫療法化合物が黄色ブドウ球菌感染症患者の治療補助薬として評価されているが、いずれも有効性は証明されていない。4 番目の化合物である 514G3 は現在、入院中の黄色ブドウ球菌感染症患者を対象とした第 II 相安全性・有効性試験で評価中である。

15-4. 黄色ブドウ球菌感染症に対する積極的免疫戦略
黄色ブドウ球菌に対する積極的免疫として、2 つの黄色ブドウ球菌ワクチン候補が第 III 相臨床試験で評価されている。3 つ目の登録試験が進行中である。これら 3 つの試験はすべて、血液透析(Staphvax ワクチン試験)、心臓手術(V710 ワクチン試験)、脊椎手術(SA4Ag ワクチン試験)を受けている患者など、黄色ブドウ球菌感染のリスクが高い特定の成人集団を対象としている。

Staphvax は莢膜蛋白質 (capsular protein) 5 と 8 に対する二価ワクチンで、内シャント (primary fistula) または人工グラフトのバスキュラーアクセスを有する 1804 人の血液透析患者で試験された。Staphvaxの投与は、ワクチン接種後 40 週目の黄色ブドウ球菌による菌血症の発生率を統計学的に有意に減少させたが(有効率 57%、p = 0.02)、事前に規定したエンドポイントであるワクチン接種後 54 週目の黄色ブドウ球菌による菌血症の発生率を有意に減少させることはできなかった。そこで、3600 人の血液透析患者を対象としたStaphvax の 2 回目の試験が実施された。この 2 回目の試験では、主要評価項目は 6 ヵ月後に設定された。残念なことに、この未発表の試験でも黄色ブドウ球菌血症の発症予防効果は証明されなかった。

V710 は細胞壁構成性鉄調節タンパク質 (cell wall-constitutive iron regulatory protein) IsdB を標的とするワクチンで、胸骨正中切開を受けた患者を対象に試験が行われた。有効性が認められず、また V710 を投与された患者では多臓器不全に関連した死亡率が高かったため、約 8000 人の患者が登録された後に試験は中止された。事後解析では、V710 を投与され、その後黄色ブドウ球菌に感染した患者の死亡率は、対照投与を受け、その後黄色ブドウ球菌に感染した患者の死亡率の約 5 倍であった(100 人年当たり 23.0 対 4.2)。この死亡率増加の理由は不明である。

SA4Ag ワクチンの第 IIb 相試験が開始されている。この試験は、待機的な腰椎後方固定術を受ける患者を対象に、黄色ブドウ球菌感染を標的としたワクチンの有効性と安全性を検証するものである。これまでの黄色ブドウ球菌ワクチンのアプローチとは異なり、このワクチン候補には 4 つのエピトープが含まれている。すなわち、ClfA、MntC、莢膜多糖体 5 と 8 である。

他に少なくとも 2 つの黄色ブドウ球菌ワクチン候補が前臨床開発後期にある。NDV-3 ワクチン候補は、C. albicans agglutin-like sequence 3 protein (Als3p) の N 末端部分を水酸化アルミニウムアジュバントで製剤化したものである。前臨床試験では、Als3p ワクチン抗原が C. albicans と S. aureus の両方の粘膜皮膚および静脈内チャレンジからマウスを保護することが示された。このワクチンは、健康な成人においても安全で免疫原性が高いことが示されている。最近では、5 つの既知の黄色ブドウ球菌の病原性決定因子(α-ヘモリシン(Hla)、ess extracellular A(EsxA)、ess extracellular B(EsxB)、表面タンパク質である ferric hydroxamate uptake D2 と conserved staphylococcal antigen 1A)を標的としたマルチサブユニットワクチンが報告された。新規の Toll 様受容体 7 依存性アゴニストと併用すると、この 5 つの抗原は、動物モデルにおいて、黄色ブドウ球菌に対する Th1 主導型の高い防御効果を示した。

結論
1800 年代後半にオスラーがその基本的な疾病メカニズムを解明して以来、多くの変化があったが、IE は依然として高い死亡率を示し、生存者の QOL に多大な影響を及ぼす疾患である。しばらくは、医療関連 IE は IE の疫学に反映され続けるだろう。

IE の診断アルゴリズムの改善には、特に血液培養陰性症例に対する新しい微生物学的手法が取り入れられるであろう。画像診断技術は今後も進歩し続け、IE が疑われる患者のうち、どの患者に TOE を行うべきか、また、どの患者に新しい画像診断法が有効かを明確にするためのさらなる研究が必要である。

新しいグラム陽性球菌用抗菌薬は有望であるが、IE ではまだ試験されていない。有効性が証明されれば、よりシンプルで患者に優しい治療レジメンが可能になるかもしれない。

IE の予防をめぐる議論は、予防戦略についてのランダム化比較試験が発表されるまで続くと思われる。ワクチン開発ではまだ有効で市販可能なものは得られていないが、多数の候補が開発中である。

元論文
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5240923/