集中治療室入室後の廃用とリハビリテーションの効果
BMJ 2025; 388: e077292
重症成人の約半数が ICU 獲得性筋力低下(intensive care unit acquired weakness: ICUAW)を経験する。ICUAW を発症した患者は、機械的換気の期間が長くなり、在院日数が長くなり、可動性、身体機能、QOL、死亡率が悪化するなど、不良な転帰をたどる可能性がある。早期の理学的リハビリテーション介入は ICUAW を改善する可能性がある。しかし、ランダム化試験ではこれらの介入の効力について一貫性のない所見が示されている。本総説は、ICUAW の定義、診断、疫学、病態生理学、危険因子、意味合い、および管理に関する最新のエビデンスを要約している。特に研究のギャップと課題を強調し、理学的リハビリテーション介入に関する今後の研究について考察している。
はじめに
ICUAW とは、臨床症候群の一つで、「重症患者において臨床的に検出される筋力低下であって、重症患者以外に妥当な病因がないもの」と定義されている。最も一般的には、身体診察(徒手筋力検査)を用いて患者の筋力を測定し、MRC(Medical Research Council)スコア(0~60 の範囲)を用いてスコア化し、48 未満をICUAWとする。ICUAW の患者は、筋電図検査と神経伝導検査(nerve conduction study: NCS)により判定される多発性神経炎、ミオパチー、またはその両方を併発している可能性がある(すなわち重症神経筋症)。集中治療室(intensive care unit: ICU)に入院している患者は長時間の無動 (immobilization) を経験するが、これは ICUAW の重要な修正可能な危険因子である可能性がある。
ICU における早期リハビリテーションを評価した初期の研究は、2000 年代初頭に発表された。初期の研究では、一般的に機械的換気を行っている患者でベッド上安静/不動化で管理されている通常ケアの対照群と比較して、早期リハビリテーションを行った患者の転帰が改善することが示唆された。しかし、その後のランダム化試験では一貫性のない知見が得られており、患者集団、リハビリテーション介入の種類と量、通常ケアの対照群、主要および副次的アウトカムのタイミングと測定における重要な違いなど、実質的な異質性を反映している。本総説では、ICUAW とその疫学に関する最近のエビデンスを総合し、ICU における身体的リハビリテーション介入(主に能動的で呼吸器以外の介入に焦点を当てた)のランダム化試験を評価し、ギャップ/課題および今後の研究に対する提案について考察する。
情報源と選択基準
“intensive care unit acquired weakness”, “critical illness myopathy”, “critical illness neuropathy”, “critical illness polyneuropathy”, “intensive care unit acquired paresis”, “early rehabilitation”, “early mobilization” という検索語を用いて、2019 年 1 月から 2024 年 5 月までの査読付き論文を PubMed と Embase で検索し、最新の文献を特定した。これらの複合語から 4,274 件の論文が同定され、そのうち 60 件を最も関連性の高い重要な論文とした。システマティックレビュー、メタアナリシス、ランダム化比較試験、インパクトの高い一般医学およびクリティカルケア専門誌の大規模研究を優先した。さらに、歴史的背景を提供したり、画期的でユニークな出版物を認識したりするために、古い出版物で論文を補足した。収録された論文の参考文献リストは手作業で検索した。特定のトピックに関する文献が限られている場合は、他の研究デザイン(例えば、症例シリーズ)を引用した。最後に、関連するシステマティックレビューが入手できない場合は、主に関連するナラティブレビューを掲載した。
疫学
重症患者における ICUAW の推定有病率は約 50%であるが、評価方法や評価時点によってばらつきがある。
定義と診断
全身脱力について他の医学的または神経学的原因を除外することは、患者が ICUAW であるかどうかを判断するための重要な最初のステップである。全身性脱力においては、深部腱反射の亢進や近位感覚障害は ICUAW と一致しないため、他の原因を調べる必要がある。手指握力(男性で 11 kg 未満、女性で 7 kg 未満) も、装置と訓練された評価者がいれば、ICUAW の同定に役立つ。徒手筋力検査と握力はどちらも自発的な測定法であり、患者は命令に従う必要がある。
これらの病態の診断には、筋電図検査/NCS が必要であるが、ICU 環境下で鎮静状態または錯乱状態の患者に実施するのは難しい。重症ミオパチーでは、感覚神経活動電位は保持されたまま複合筋活動電位の振幅が減少し、運動単位活動電位の他の潜在的変化や筋電図上での 異常な自発活動もみられる。重症神経筋症の複合所見は、最も一般的な症状である。
52 件の研究(n = 3,251)を対象とした 1 つのシステマティックレビューによると、ICU に入室して最初の 1 週間は、骨格筋が 1 日に約 2%減少すると報告されており、超音波検査が最も一般的な評価方法であった。超音波検査の結果は、脂肪組織や浮腫の影響を受けることがある。
最後に、筋生検が行われることもあるが、侵襲的である。組織学的に、筋生検は、重症ミオパチーに 伴うミオシンの喪失や筋壊死を明らかにする ことがある。
病態生理学
ICUAW の病態生理学は複雑であり、完全には解明されていない。メカニズム研究では、構造的変化(例えば、軸索神経の変性、筋ミオシンの喪失)、機能的変化(例えば、神経の電気的不安定性)、微小血管の変化(例えば、細胞障害性低酸素症)、ナトリウムチャネルパチーが示唆されている。電気生理学的研究により、末梢神経や筋の変化の速やかな発現とこれらの変化の可逆性が強調されているが、これらの所見は完全には理解されていない。
最近では、生体エネルギー不全(すなわち、ミトコンドリア機能不全)が ICUAW のメカニズムとして仮説化されている。さらに、重症多発ニューロパチーでは、血液-神経関門 (blood-nerve barrier) の障害が、微小血管系の変化を伴う軸索脱分極のメカニズムである可能性があり、その結果、末梢神経への酸素欠乏や毒素の増加が生じる。もう 1 つの仮説は、高カリウム血症による神経内膜の脱分極 (endoneurial depolarization) である。ナトリウムチャネルの障害(すなわち、ナトリウムチャネルパチー)による筋膜の興奮抑制は、筋収縮の障害を引き起こす可能性がある。
重症ミオパチーでは、筋タンパク質分解と合成のアンバランスによる筋萎縮と筋収縮機能障害が、そのメカニズムとして提唱されている。最後に、筋萎縮は退院後も患者に持続することが多く、骨格筋の再生能力に影響を及ぼす可能性のある衛星細胞 (satellite cell) 量の減少など、さまざまな病態生理学的メカニズムに起因している可能性がある。
危険因子
研究により、ICUAW 発症の危険因子は修正可能なもの、修正不可能なものともに多数あることが示唆されている。どの因子が ICUAW に最も大きな影響を及ぼすかを決定することは困難であり、研究によって一貫性がないこともある。
急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome: ARDS)の生存者において、患者の年齢および ICU での安静期間は、退院時および 3、6、12、24 ヵ月の追跡調査時の筋力低下と正の相関を示した。他の危険因子で調整した後、2 年間の長期追跡調査において、安静期間が 1 日増えるごとに筋力が 3~11%相対的に低下した。この前向きコホート研究の 5 年間の追跡調査では、ARDS 前の合併症と臓器不全が、その後の筋力低下と関連していることが報告されている。
最近のシステマティックレビューでは、ICUAW の危険因子が特に評価されている。あるシステマティックレビューでは、ICUAW の危険因子を個人的指標、治療指標、疾患指標、検査指標のカテゴリーに分けて報告している。ICUAW と有意な関連を示したのは、女性(オッズ比 1.34, 95%信頼区間(confidence interval: CI)1.06~1.71)、機械的換気の期間(3.04, 1.82~4.26)、年齢(6.33, 5.05~7.61)、ICU 滞在期間(3.78, 2. 06~5.51)、感染/敗血症(1.67, 1.20~2.33)、腎代替療法(1.59, 1.11~2.28)、アミノグリコシド系抗生物質(2.51, 1.54~4.08)、Sequential Organ Failure Assessment score(1.07, 0.24~1.90)、高血糖(2.95, 1.70~5.11)であった。
あるシステマティックレビューでは、神経筋遮断薬(neuromascular blocking agents: NMBA)は有意な危険因子ではないと報告されている。しかし、これは 5 つの研究(n = 512)のみで評価されている。30 件の研究(n = 3,839)を対象とした 2 番目のシステマティックレビューとメタ解析では、NMBA は ICUAW と関連すると報告された(オッズ比 2.77, 95%CI 1.98~3.88)。副次的アウトカムとして、ICUAW(MRC スコア合計 <48)に対する NMBA 対プラセボの効果を評価した多施設共同無作為化試験(n = 340)は 1 件のみで、ICU 退院時に差はなかったと報告している(参加者 201 人中:それぞれ 64% v.s. 69%, P = 0.51)。 ICUAW に対する神経筋電気刺激の潜在的な効果を理解する上で、NMBA の投与量と投与時間、患者およびクリティカルイルネスに関連する共同因子(例えば、深い鎮静、全身性コルチコステロイド)が重要な考慮事項となる可能性がある。一般的に、NMBA に対する推奨は、ルーチンの使用を避け、可能な限り短期間に最低量を使用することである。
最後に、副腎皮質ステロイドは ICUAW のもう一つの潜在的危険因子である。しかし、この文献では、臨床経過の複雑さ(例えば、副腎皮質ステロイドを減少する一方で、NMBA 薬の点滴時間を延長している場合など)のために、関連性を評価する上で結論が出ていない。
ICUAW の意義
院内転帰
ICUAW 患者はしばしば、短期および長期のさまざまな有害転帰を経験する。重要なことは、ICUAW の潜在的な危険因子の中には、ICUAW と関連する負の転帰もあるということである。例えば、ICU 滞在期間は ICUAW の危険因子であると同時に、ICUAW の結果でもあると報告されている。この知見は、ICUAW と機械的換気の持続期間が長いこと(例えば、呼吸筋の衰弱が人工呼吸器からの解放を遅らせるため)との関係、または生存バイアス(すなわち、生存して ICUAW を発症した患者はより重症で、より長い ICU レベルのケアを必要としていた可能性がある)によるものかもしれない。しかし、ICUAW と横隔膜機能障害との関連性については、知見に一貫性がない。
ICUAW を有する重症患者では、短期死亡率が増加するという関連性が研究で報告されている。オーストラリアとニュージーランドの 12 の ICU を対象とした 1 件の前向き多施設コホート研究では、ICUAW(MRC スコア合計 <48)を有する患者 94 人(研究集団の 52%)において、ICU 退室から 90 日目までの生存率の低下が認められたと報告している。この所見は、ICUAW(MRC スコア合計 <48)が ICU および院内での死亡率の上昇と関連することを報告したフランスの以前の前向き観察研究(n = 115)と一致している。最後に、少なくとも 5 日間の機械的換気を必要とする患者 136 人を対象とした別の前向き多施設コホート研究では、ICUAW(握力で評価)が病院内死亡率と独立して関連することが報告されている。
ICUAW と短期の機能障害との関連も報告されている。以前に行われたランダム化試験の二次解析(n = 83, ICU 退室時の MRC 総得点)では、退院時の機能的自立度評価(Functional Independence Measure)(障害の指標;運動領域と認知領域を含む 18 項目; 総得点は 18~126 点で、得点が低いほど障害が強いことを示す)の退院時の中央値は、重度の ICUAW(MRC 総得点 36 点未満)、中等度の ICUAW(MRC 総得点 36~47 点)、および ICUAW なし(MRC総得点48点以上)の患者で、それぞれ 24 点(IQR 21~34)、31 点(27~46)、および 42 点(35~58)であった(P<0.001)。このような身体機能への影響は、ICUAW 患者がしばしば病院からリハビリテーション施設に退院することを意味する。例えば、ある研究では、ICUAW のある患者とない患者では、リハビリテーション施設に退院する傾向が高かった(18% v.s. 10%;P = 0.017)。
病院退院後の転帰
院内死亡率との関連に加えて、ICUAW はより長期的な死亡率と関連している。多施設ランダム化試験の患者 227 人の傾向一致解析では、ICUAW(MRC スコア合計 <48)がある患者の 1 年死亡率は、ICUAW がない患者より高いことが報告されている(31% v.s. 17%;P = 0.015)。 さらに、ICU において早期から経静脈栄養を行った場合と経静脈栄養開始を遅らせた場合とを比較した臨床試験の患者を対象とした 1 件の大規模な前向きのサブ解析(n = 883)では、MRC 合計スコアが低いほど 5 年死亡率が高いことが独立して報告されている(ハザード比 0.96, 95%CI 0.93~0.98;P=0.001)。
ICUAW は退院後の身体機能障害の長期化と関連している。単一施設の前向きコホート研究 (n = 156) では、ICUAW は 6 ヵ月後の追跡調査時の身体機能(SF-36 身体機能スコア) の悪化と独立して長期的な身体機能障害と関連していると報告している。同様に、4 つの病院の 13 の ICU で行われた前向きコホート研究では、3、6、12、24 ヵ月の時点で 222 人の ARDS サバイバーを評価し、ICUAW(MRC 合計スコア <48)を有する者では、6、12、24 ヵ月の時点で身体機能(SF-36;P ≦0.001)および 6 分間歩行距離(P ≦0.01)が有意に悪化していることが報告されている。
128 人の患者を評価した post hoc 分析によると、ICUAW は退院後 6 ヵ月時点での QOL(ノッティンガム・ヘルス・プロフィールおよび SF-36 質問票で評価)の低下と関連していた。
ICUAW および身体機能低下の予防と治療
様々な身体リハビリテーション介入が重症成人において評価されている。ここでは主に、ICU 環境において一般的に能動的リハビリテーションの対象となる人工呼吸管理を行っていない患者に焦点を当てる。
機能的モビリティ/多角的理学療法介入
機能的モビリティ(つまり、環境を移動する能力)には、一般的にベッド上でのエクササイズから、ベッドの端に座る、移乗、立ち上がる、その場での足踏みを経て歩行に至るまで、段階的なリハビリテーションアプローチが含まれる。多角的介入には少なくとも 3 つの構成要素があることが多 く、神経筋電気刺激、受動的運動(自発的努力なし、または筋収縮なし)または能動的運動(自発的努力または積極的筋収縮)、ベッド内サイクルエルゴメトリー、機能的移動、筋力強化(例えば、重りや抵抗バンドを使用)、教育、認知訓練、および固有受容性神経筋促通法 (proprioceptive neuromascular facilitation)(筋固有受容器の刺激によって筋肉を動員すること)の組み合わせが一般的である。
固有受容性神経筋促通法
https://www.pnfsj.com/pnf%E3%81%A8%E3%81%AF/
ICU における機能的モビリティと多角的リハビリテーション介入に関する臨床試験は、漸進的モビリティアプローチを取り入れた理学療法と作業療法を組み合わせた早期介入により機能的転帰が改善されたことを報告した 2008 年の画期的な 2 施設ランダム化試験以降、出現し始めた。最近のスコープレビューでは、117 件のリハビリテーション介入に関する研究のうち 73 件(62%)が機能的モビリティまたは多角的介入であったと報告されている。7 件のランダム化試験のメタアナリシスから、多角的リハビリテーション介入は ICUAW を予防する可能性を示している(リスク比 0.49, 95%CI 0.26~0.91;P = 0.025)。9 件の研究を対象とする別のメタアナリシスでも、早期のリハビリテーションが ICUAW を減少させることが報告されている(オッズ比 0.63, 95%CI 0.43-0.92)。このエビデンスに基づき、ICUAW を減少させるために、機能的モビリティかつ/または多角的リハビリテーション介入(早期の高強度機能的モビリティは避ける)を重症患者に実施すべきであると考える。
神経筋電気刺激 (neuromascular electrical stimulation)
NMES は、鎮静、不安定な臨床状態、その他の内科的・外科的理由により、ベッドからの移動が困難な患者に使用される。NMES は、自分で筋収縮を起こすことができない患者にも使用できる。NMES は、皮膚に貼付した電極から電流を流し、対象となる筋群(通常は下肢)の収縮を誘発する(図 1)。
図 1. 標的筋の収縮を誘発するように電極を配置した神経筋電気刺激
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エジプトで行われた最近の無作為化試験では、124 人の 患者を 4 群 (モビリゼーション+NMES 群、NMES のみ群、モビリゼーション群、対照群)のいずれかにランダムに割り付けたところ、 ICUAW (MRC スコア合計 <48)がそれぞれ 0%、13%、 60%、100%で発生したことが報告されている (P<0.001)。さらに、前述の試験を含まない最近のシステマティックレビューでは、6 件の試験(n = 274)のうち、NMES が ICUAW のリスクを減少させたと報告している(リスク比 0.48, 95%CI 0.32~0.72)。 しかし、NMESと通常のケアを評価した 6 件のランダム化試験(n = 718)の以前のメタアナリシスでは、総合的な筋力に差はなかったと報告されている(MRC 合計スコアの平均差 0.45, 95%CI -2.89~3.80, P = 0.79)。機械的人工呼吸を受けた患者における機能的電気刺激を評価した 2 件のランダム化試験から得られた筋生検(n = 42)の最近の二次解析では、NMES が身体機能に有益な効果を示せなかった原因として、炎症と (筋形成の) 基質利用の変化が寄与している可能性があると報告されている。注目すべきは、機械的に人工呼吸された成人 1,312 人を対象とした 23 件のランダム化試験のネットワークメタ解析で、NMES 単独または NMES と理学療法介入との併用により、抜管の成功率が改善した(オッズ比 1.85, 95%CI 1.11~3.08)ことが報告されていることである。ICUAW のメカニズム解明が進むにつれて、特定の亜集団における NMES の効果や実施時期の再評価が重要になるかもしれない。しかし、重症患者に対する主要なリハビリテーション介入として NMES を日常的に使用することを支持する証拠は十分ではない。
ベッド内サイクリング (in-bed cycle elgometry)
NMES と同様、ベッド内でのサイクリングは、半座位で行えるため、患者がベッド外での活動に適していない場合、安全かつ実行可能である。ベッド内でのサイクリングは、患者の能力に応じて受動的または能動的に行うことができ、抵抗を漸増させることもできる(図 2)。
図 2. 下肢の受動的または能動的運動を促進するベッド内サイクルエルゴメトリー
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単一施設で ICU の内科/外科患者 (n = 90) を対象に、ベッド内サイクルエルゴメトリー対通常ケア対照群を評価した最初のランダム化比較試験では、退院時の 6 分間歩行時間の中央値の上昇 (196 (IQR 126-329) m v.s. 143 (37-226) m; P<0.05) と SF-36 身体機能スコアの上昇 (21 (18-23) 点 v.s. 15 (14-23) 点; P<0.01)が報告されている。ICUAW 患者 56 人を対象としたランダム化比較試験の最近の発表によると、ベッド内でのサイクルエルゴメトリーにより、ICU 退室時の ICUAW が減少した(87% v.s. 61%;P = 0.039)。
最近、ICU におけるサイクルエルゴメトリーに関する最大規模のランダム化試験が報告された。機械的人工呼吸を受けた患者 360 人を対象としたこの 16 施設の国際試験では、ベッド内サイクリング+通常ケア理学療法と通常ケア理学療法単独が評価された。サイクリング介入は、中央値で ICU 入室後 2 日(IQR 2~3)から開始され、患者 1 人当たり 3 回(1~4 回)のセッションが行われ、一定の抵抗(0.6 ニュートン・メートル)と毎分 5 回転の一定の速度で、受動的サイクリングが行われた。対照群は、ICU 入室後 2 日(IQR 2~4)からリハビリを開始し、患者 1 人当たり 4 回(2~7 回)、平均時間は 29 分(標準偏差(standard deviation: SD)13)であった。主要アウトカムは身体機能であり、ICU 退室後 3 日目に身体機能 ICU テストを実施し、介入群と対照群に差はみられなかった(平均7.7(SD 1.7)v.s. 7.5(1.8);絶対差 0.23, 95%CI -0.19~0.65;P = 0.29)。さらに、退院時のICUAW に有意差はみられなかった(9.6% v.s. 12.1%;オッズ比 0.87, 95%CI 0.39~1.90)。注目すべきことに、別の多施設ランダム化試験が進行中であり、ベッド内サイクリング+タンパク質補給の併用と通常ケアの比較を評価している。主に受動的なサイクルエルゴメトリーが転帰を改善することを示すエビデンスはないが、多面的なリハビリテーション介入の中で、特に積極的なリハビリテーションを行うことができない患者において、かつ/または他の療法(例えば、栄養療法;新たな療法のセクションを参照)との併用において、サイクルエルゴメトリーの役割をさらに検討することが正当化される。
機能的電気刺激
NMES とベッド内サイクルエルゴメトリーは組み合わせて行うことができ、機能的電気刺激サイクリング (functional electrical stimulation)(図 3)として知られている。
図 3. サイクリングに必要な筋肉を収縮させる同期電気刺激による機能的電気刺激補助サイクリング
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機能的電気刺激は、ベッド内エルゴメーターのサイクリングを可能にするなど、特定の協調パターンで筋収縮を誘発するように同期化される。いずれのランダム化試験でも、筋力や医師機能の測定値に対する有益性は報告されていない。
補助器具 (adjuvant device)
ICU での身体リハビリテーションのためのティルトテーブル (tilt table, 傾斜台)、 ダイナミックティルトテーブル、多機能患者ポジショナー装置(座位、座位から立位、傾斜が可能な装置)については、限られた評価しか行われていない。しかし通常、介入を行うためには、患者を病床から 装置に移し、ストラップで固定する必要がある。ティルトテーブルを使用すると、仰臥位から立位に徐々に移行することができる (図 4)。
図 4.
起立を補助するために段階的な体重支持を可能にするティルトテーブル。この記事を読んでくれた元重症患者は、ティルトテーブルによる介入経験を語ってくれている。
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ダイナミックティルトテーブルは患者の動きを取り入れることができ、多機能患者ポジショナー装置は患者をいくつかの支持された座位姿勢にすることができる。145 人の患者を対象としたある単一施設のランダム化研究では、ICU 退室時の MRC 総スコアにティルトテーブル介入あり群と介入なし群との差はなかったと報告されている(50(IQR 45-56)v.s. 48(45-54);P = 0.555)。しかし、この研究では、筋力の回復(ベースラインから ICU 退院までの MRC 総スコアの変化)は、ティルトテーブル群で対照群よりも有意に大きかったと報告されており、MRC 総スコアの変化の中央値は 14(IQR 10-24)v.s. 10(5-15)であった(P = 0.004)。
機能的活動 (functional activity)
機能的活動や日常生活活動を対象とした介入についてのエビデンスは増えつつある。これらの介入を行う専門職としては理学療法士や作業療法士などがある。米国で最近行われたランダム化試験(n = 200)では、理学療法士と作業療法士による併用治療が報告され、1 年後の長期的な認知障害(Montreal Cognitive Assessmentスコア<26)の改善が示された(介入 24% v.s. 通常ケア43%;絶対差 -19%、95%CI -32~6;P = 0.004)。この研究は、早期の身体的リハビリテーションによる長期的な認知アウトカムの改善を示した最初のものであり、日常生活動作とモビリゼーションの統合に起因すると考えられる。さらに、1 年後の追跡調査では、介入群では ICUAW が少なく(患者の 0% v.s. 14%;P <0.001)、SF-36 身体的構成要素要約スコアの中央値が高かった(52(IQR 45-57)v.s. 41(32-49);P<0.001)。注目すべきは、せん妄の日数の中央値が介入群で短かったことである(0(IQR 0-2)v.s. 1(0-3;P = 0.005))。
その他の検討事項
ICUAW を緩和するための新しい介入としては、ロボット工学 (robotics)、双方向ビデオゲーム (interactive video game)、水治療法 (hydrotherapy) などで評価されている。ここでは、ICUAW の管理に対する有効性を評価するためにはさらなるエビデンスが必要であることを認識した上で、それぞれの介入について簡単に説明する。
ICU をベースとしたリハビリテーションのためのロボット工学は、特に COVID-19 パンデミックの際に、注目されたテーマである。あるロボットによる移動補助システムは、病院のベッドに取り付けることで、垂直方向に段階的に脚を受動的または補助的に動かすことができる。
ワイヤレスコントローラーおよび/または感圧式バランスボ ードを使用した対話型ビデオゲームにより、患者は多 感覚的フィードバックを受け、運動パターン、バランス、かつ/または活動耐容能の改善を促すことができる。このアプローチは、楽しい介入を提供し、患者の関与を高め、安全で実現可能であると思われる。
水治療法は、プールの中で行うリハビリテーションで、機械的人工呼吸を受けている患者に対する新しい介入である。水治療法は、水の浮力を利用することで、ICUAW が著しい場合には不可能な機能的移動の早期開始を支援する。
ICU 後のリハビリテーション
ICU 退院後の重症生存者に対するリハビリテーションの効果を評価する研究は限られている。しかし、退院後のリハビリテーション介入を評価するエビデンスは増えつつある。14 件の研究の最近のメタアナリシスでは、運動介入が有酸素運動能力を改善し(9 件の研究;n = 880;標準平均差 0.20, 95%CI 0.03~0.30)、SF-36 身体構成要素要約スコア(6 件の研究;n = 669;3.3, 1.0~5.6)を改善したと報告している。
さらに、post-ICU 外来が出現し、特に COVID-19 の大流行以来、その数は増加している。このような外来には、ICU または ICU 以外の医師、リハビリの専門家、心理士、薬剤師、看護師、ソーシャルワーカーなど、多職種がチームを組んでいることが多い。しかし、長期的な筋力低下や身体機能に対する post-ICU 外来の有効性を支持するエビデンスは不明である。注目すべきは、最近の大規模多施設ランダム化試験(n = 540)で、ICU 退室時および退室 3 ヵ月後、6 ヵ月後に、病院を拠点とした、集中治療医主導の対面式集学的コンサルテーションが、不良な臨床転帰(12 ヵ月後の死亡または少なくとも 1 つの EuroQoL-5D-5 dimension の重度~高度障害と定義;調整オッズ比 1. 49, 95%CI 1.04~2.13; P = 0.03)。この所見の理由は明らかではないが、著者らは、多職種チームには身体的および認知的障害に取り組むことができる専門職である理学療法士や作業療法士が含まれていなかったことを指摘している。
ICU における早期身体リハビリテーションの実施率
フランス、ドイツ、イギリス、アメリカの ICU 指導者 1,484 人を対象とした国際調査では、各国の ICU のそれぞれ 40%、59%、52%、45%で早期モビリゼーションの実践が見られたと報告されている。米国でランダムに抽出された 687 の ICU を対象とした別の調査(回答率 73%)では、中央値で週 6 日(IQR 5~7)、1 日 2 回(2~3 回)の早期モビリゼーションが実施されたと報告されているが、モビリゼーションの種類とレベルに関する詳細は報告されていない。
早期リハビリテーションの効果
利用可能なリハビリテーション介入には多くの種類があるにもかかわらず、これらの介入はしばしば「早期リハビリテーション」または「早期可動性」と総称される。さらに、システマティックレビューやメタアナリシスでは、以下に述べるように、期待される効果に異質性があるにもかかわらず、これらの介入をまとめて評価することが多い。
ICU のリハビリテーションは ICUAW を減少させ、身体機能を改善することを目的としているが、身体的アウトカムの指標(例えば、筋力、可動性、身体機能-患者報告およびパフォーマンスに基づく身体検査の両方-)には異質性が存在し、筋力は必ずしも試験で測定されていない。重症患者におけるリハビリテーションの効果を評価した最近のメタアナリシスによると、43 件のランダム化試験(n = 3,548)の中で、機械的人工呼吸の期間、ICU 滞在期間、および病院滞在期間の減少が認められ、その平均差はそれぞれ -1.7 日(95%CI -3.6~-0.3)、-1.2 日(-2.5~0)、-1.6 日(-4.3~1.2)であった。
しかし、筋力への影響は報告されていない。注目すべきは、機械換気期間の有意な短縮は、(ベッド内サイクリングや NMES などの他の介入ではなく)プロトコール化された理学的リハビリテーションを用いた介入でのみ観察され、ICU 滞在期間が長く、重症度(Acute Physiology and Chronic Health Evaluation II スコア)が低い患者で顕著であったことである。60 試験(n = 5,352)の結果をまとめた別のメタアナリシスでは、ICU でのリハビリテーションが身体機能を改善し、ICU および病院での滞在期間を短縮したと報告している。このメタアナリシスでは、対照群のリハビリテーション量を多い(5 日/週以上)または少ない(5 日/週未満)群に層別化したサブグループ解析が行われた。このレビューでは、介入が少ない群と比較して、多い群ではリハビリテーションがより効果的であったと報告している。注目すべきは、週 4 日のリハビリテーションの実施(つまり「介入が少ない」群)は、多くの施設における通常のケアよりも手厚いことである。6 ヵ月後の追跡データを評価した ICU における早期モビリゼーションに関する 15 件の試験(n = 2,703)の最近のメタアナリシスでは、6 ヵ月後の追跡時に 95%の確率で身体機能(患者報告アウトカム指標)が改善したが、筋力には差がなかったと報告されている。
早期リハビリテーションのせん妄/認知に対する効果
早期リハビリテーションは、せん妄や認知など、身体的障害以外の転帰にもプラスの効果を示している。作業療法士と理学療法士による共同治療を評価した最も初期のランダム化試験(n = 109)の 1 つでは、せん妄の期間が短縮したと報告されている(中央値 2(IQR 0~6)日 v.s. 4(2~8)日;P = 0.02)。 13 件の研究(n = 2,164)のメタアナリシスでは、早期モビリゼーションによりせん妄の発生率(オッズ比 0.53, 95%CI 0.34~0.83, P = 0.01)および期間(平均差 -1.8 日、95%CI -2.7~-0.8, P <0.001)が減少することが報告されている。しかし、早期に高強度の機能的モビリゼーション介入を行った群と、早期に低強度のモビリゼーション介入を頻繁に行った通常ケアの対照群とを比較評価した最近のランダム化試験では、機械的人工呼吸を受けた患者 741 人において、せん妄のない日数および 6 ヵ月後の認知機能(Montreal Cognitive Assessment(MoCA-BLIND)による測定)に差はなかったと報告されている。
理学療法と作業療法を組み合わせた介入を評価した研究、例えば、1 年後の認知アウトカムの改善を報告した前述の米国での研究(n = 200)は、機能的認知活動と機能的モビリゼーションを統合することの重要性を示唆している。さらに、ICU の非換気患者 140 人を対象としたランダム化比較試験では、集中的な作業療法介入の効果が評価され、せん妄の発生率(3% v.s. 20%;P <0.001)と期間(リスク発生率比 0.15, 95%CI 0.12~0.19;P <0.01)が低かったことが報告されている。 要約すると、包括的な早期リハビリテーションプログラムの一環として作業療法を行うことの相乗効果の可能性を理解することは、重要な研究優先事項である。
現在のエビデンスにおけるギャップ/課題と今後の研究への考慮点
PICO(患者、介入、比較対象、転帰)の枠組みは、重症成人における身体的リハビリテーションのエビデンス群の評価に役立つ。図 5 は研究のギャップ/課題を要約したものであり、ボックス 1 は今後の研究のための関連する考慮事項を要約したものである。
図 5. PICO(Patient, 患者、Intervension, 介入、Conparator, 比較対象、Outcome, アウトカム)の枠組みを用いてまとめた重症成人におけるリハビリテーション介入を評価する臨床試験の研究ギャップと課題。ICU (intensive care unit, 集中治療室); OT (occupational therapist, 作業療法士); PT (physical therapist, 理学療法士); RN (registered nurse, 正看護師)
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ボックス 1. 今後検討されるべき臨床試験
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以下に、これらのギャップと考察についてさらに論じる。
患者に関するギャップ
急性の経過で発症したクリティカルイルネスの場合、その患者のベースライン状態を前向きに測定することができないことは、クリティカルケア研究における基本的な課題である。介入による ICUAW への効果を理解するために、多くの研究ではベースの身体機能についての代理指標(例えば、Barthel Index)によって、ベースライン機能に異常のある患者を除外している。しかし、多くの ICU では、ほとんどの患者がベースラインの状態に障害があるため、このような除外はサンプルサイズと結果の一般化可能性を制限する。今後の研究では、軽度または中等度の既存身体障害を有する患者を含めること、およびベースライン機能に基づいて無作為化を層別化することを検討すべきである。
介入に関するギャップ
リハビリテーションの最適な用量については、計画された介入と実施された介入の両方について、用量のすべてのパラメータ(すなわち、頻度、期間、強度)を報告していない研究が多いために、分かっていない。今後の研究では、Template for Intervention Description and Replication, Consensus on Exercise Reporting Template, Rehabilitation Treatment Specification System, などの利用可能なガイドラインを用いた徹底的な報告を行っていくべきである。さらに、リハビリテーションのガイドラインを重症患者に適応させるにあたり、リハビリテーション「強度」を計測する信頼できる方法についての今後の研究が必要である。
リハビリテーション開始のタイミングは、ICU 環境におけるもう一つの重要な要素である。早期リハビリテーションの定義についてコンセンサスは得られていないが、ドイツのガイドラインでは、ICU 入室後 72 時間以内のモビリゼーション開始が推奨されている。さらに、システマティックレビューでは、早期リハビリテーションを ICU 入室後 72 時間以内と定義しており、他の論文と一致している。 最後に、重症患者における新規のリハビリテーション介入では、運動に対する予期される生理学的反応(例えば、心拍数や血圧の変化)と安全でない可能性のある変化とを区別しつつ、安全性に関連する事象の標準化された報告を行っていく必要がある。
比較対照に関するギャップ
ICU リハビリテーションの文献では、対照群間にかなりの異質性が存在する。125 件の研究を対象としたあるスコープレビューでは、88 件の試験が対照群として「通常ケア」を報告していることが報告されている。しかし、通常ケア群では 60 の異なる活動が実施されていた。早期リハビリテーションの進化を考えると、通常ケアやベストプラクティスには明確な定義は存在しない。今後の試験では、比較のための適切な対照群に関するコンセンサスを確立することが有益であろう。そのような対照群は、完全なベッド上安静とリハビリテーション開始の遅れを避けることを目標とすべきである。しかし、対照群に適した介入量は不明である。臨床現場における ICU リハビリテーションの現代的な点有病率調査 ( point prevalence studies) が、この疑問の解決に役立つかもしれない。
ICU における臨床的ケアの実践(例えば、鎮静、せん妄、栄養)は、理学的リハビリテーションとの潜在的な共同介入として注意深く考慮する必要があるかもしれない。鎮静やせん妄は、どのような種類のリハビリ介入が可能か(例えば、患者の積極的な参加を必要とする介入は、深い鎮静では不可能である)に影響を及ぼし、介入プロトコルの忠実性やリハビリテーションの安全性に影響を及ぼす。さらに、前述のようにリハビリテーションは患者の認知状態に影響を及ぼす可能性がある。
アウトカムに関するギャップ
研究結果や関連する測定方法における異質性を低減するために、コンセンサスに基づく中核的なアウトカム・セットが開発されている。リハビリテーション、せん妄、退院後の長期転帰のそれぞれに関する介入を評価する ICU 試験のための中核アウトカムセットが最近発表された。しかし、もう一つの重要な方法論的課題は、退院後の縦断的評価を行う研究において ICU 患者を追跡し続けることである。
追跡評価における患者保持を最適化するための既存の「ベストプラクティス」の利用とともに、参加者の保持に関する報告方法および結果に関するガイダンスが、報告実務を改善する可能性がある(例えば、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)が資金提供した無料のリソース(www.improveLTO.com)を参照のこと)。
試験デザインに関する考察
メカニズム研究を組み込んだ最新の研究デザインを ICU リハビリテーション研究に取り入れることは、研究のギャップを埋めるのに役立つであろう。例えば、step wedge cluster randomized trial design は、個々の患者に対してではなく、ICU のレベルでの「文化の変化 (culture change)」を必要とする介入(例えば、早期リハビリテーションと組み合わせた鎮静/せん妄介入や、人工呼吸器離脱や家族参加のための介入も含む「ABCDEF バンドル (ABCDEF bundle)」)のバンドルの実施を評価することができる。
ABCDEFGH バンドル
https://www.jsicm.org/resident/pdf/pics05.pdf
この研究デザインの最近の例では、米国の 4 つの病院の 12 の ICU で、患者のモビリゼーションを改善するための構造化されたアプローチ(毎日の目標設定、専門職間のコミュニケーション、パフォーマンスフィードバック)を評価している。さらに、小児 ICU における step wedge cluster randomized trial では、転帰を最適化するための介入群(段階的身体活動/モビリティ計画、睡眠衛生促進、せん妄スクリーニング)が評価されている。
異なる種類のリハビリテーション介入や投与量(例えば、異なる頻度、期間、強度)の複数の無作為化評価の必要性を克服するために、ベイジアン適応プラットフォーム (baysian adaptive platform) 試験と部分要因計画 (fraction factorial design)(例えば、多相最適化戦略(multiphase optimizing strategy: MOST)フレームワークを介して)は、異なる介入や投与量を評価する複数の試験群研究の効率的な比較を容易にする可能性がある。
ベイジアン適応プラットフォーム
https://www.slideshare.net/slideshow/ss-73401825/73401825
部分要因計画
https://www.med.nihon-u.ac.jp/research_institute/bulletin/2016/2016_017.pdf
このような戦略は、重症成人生存者の心理学的転帰を改善するためのさまざまなアプローチの評価で最近用いられている。ベイジアン適応アプローチにより、効果を示さない試験群は中止することができ、プラットフォーム試験の期間中に新たな介入を追加することができる。
最後に、レジストリに基づくランダム化比較試験は、関心が高まっている実用的デザインである。このデザインでは、既存のレジストリを通じて患者を同定し、リクルートするため、既存のレジストリのインフラがあれば、ベースラインの状態や患者の転帰に関するデータ収集が効率的に行える。
新たな治療法
重症患者における栄養およびリハビリテーションの併用介入に大きな関心が存在することは、それが重症患者栄養および代謝の分野で最優先の研究課題であることからも明らかである。タンパク質の補給を伴うリハビリテーション介入を、通常ケアの対照群に対して評価する第 2 相ランダム化試験の数が増えており、筋力低下を減らす可能性が示唆されている。しかし、3 群の第 2 相ランダム化試験(通常ケア v.s. 早期リハビリテーション v.s. 早期リハビリテーションおよびガイドラインに基づく早期栄養の併用)では、2 つの介入群間で筋力低下に差はみられなかった。多施設ランダム化試験において、サイクルエルゴメトリーと静脈内タンパク質補給の併用と通常ケア対照群との比較を評価した第 2 相データの追加が待たれている。
さらに、多施設 4 群ランダム化試験(n = 112)では、通常ケア対照群 v.s. レジスタンストレーニグ群 v.s. β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸単独群 v.s. レジスタンストレーニングとβ-ヒドロキシ-β-メチル酪酸の併用群が評価された。 β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸は、筋タンパク質の合成を刺激し、タンパク質の分解を抑制する目的で評価された。この試験では、レジスタンストレーニング(単独)、およびレジスタンストレーニングとβ-ヒドロキシ-β-メチル酪酸の併用は、対照群と比較して身体機能の改善を示したが、β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸のみの群では有意差はみられなかったことが報告された。さらに、間接熱量測定に基づく栄養投与とベッド内サイクルエルゴメトリーとの併用による介入は、小規模の単一施設ランダム化試験(n = 21)で評価されているが、筋肉量(超音波検査による評価)に有意差は報告されていない。
ガイドライン
ICUAW の管理に特化した最近の国際的な臨床実践ガイドラインはない。しかし、ICU ベースの理学的リハビリテーションおよび早期モビリゼーションに関するガイドラインは存在する。あるシステマティックレビューでは、2008 年から 2020 年の間に発表された 10 の臨床実践ガイドラインが評価された。このレビューでは、合意された以下の 7 つのトピックについて報告された。1)早期モビリゼーションは安全であり、医療費を削減できる可能性がある、2)安全基準を提示すべきである、3)プロトコル化または構造化されたアプローチを用いるべきである、4)協力的なチームワークが必要である、5)スタッフには特定のスキルまたは経験が必要である、6)患者と家族の関与が重要である、7)プログラム評価とアウトカム測定は実施の重要な要素である。 さらに、このレビューでは、Society of Critical Care Medicine の Clinical Practice Guidelines for the Management of Pain, Agitation/Sedation, Delirium, Immobility, and Sleep Disruption(PADIS ガイドライン、2018 年発行)が、その厳密な方法と完全性から、早期リハビリテーションプログラム実施の基礎となるべきであると報告されている。PADIS ガイドラインは、GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation) の方法論に従って重症成人におけるリハビリテーションまたはモビリゼーションの実施について「条件付き推奨」を報告している。さらに、2021 年の「Choosing Wisely」キャンペーンの一環として、エビデンスに基づいた実践を推奨することで無駄や過剰な医療を減らす取り組みが行われており、早期モビリゼーションは 5 つの推奨事項の 1 つとなっている。すなわち、「ICU 患者のリハビリテーションを遅らせるな」である。
2022 年から 24 年にかけて、ドイツ科学医学会連合、オーストラリア国立保健医療研究評議会(the National Health and Medical Research Council: NHMRC)、日本集中治療医学会、韓国重症患者学会、ロシア麻酔蘇生医連盟とロシアリハビリテーション医連盟から発表された最新のガイドラインでは、指針を示している。介入の頻度に関して、ロシアと日本のガイドラインはそれぞれ、1 日 1 回と 1 日複数回のセッションを推奨している。注目すべきことに、NHMRC はグッドプラクティスステートメント 1 において、開始と頻度の両方に関して安全性を考慮している。すなわち、「ICU に入院した患者はすべて、理学的リハビリテーションかつ/またはモビリゼーションの実施に適しているかどうか、毎日評価しスクリーニングすべきである。また、最初のスクリーニングは ICU 入室後できるだけ早く、可能であれば 24 時間以内に行うべきである」と推奨している。介入時間に関しては、ロシアのガイドラインは 1 日 30 分以上を推奨しているが、ドイツのガイドラインは患者の状態に応じた個別のアプローチを推奨しており、最適なリハビリテーション量についてさらなる研究を推奨している。最後に、介入の種類に関しては、日本のガイドラインはサイクルエルゴメトリーを推奨しており(GRADE の方法論によると、エビデンスの確実性は非常に低い)、ドイツのガイドラインは機能的トレーニングが不可能な場合にサイクリングを推奨している(弱い推奨)。最後に、PADIS と NHMRC のガイドラインは、身体リハビリテーションやモビリゼーションの開始と中止に関する包括的な安全基準を示唆している。他のガイドラインも同様の指針を示しており、特定の安全関連基準を厳守するのではなく、臨床的判断を行使しなければならないことを強調している。欧州呼吸器学会と米国胸部学会は、重症成人患者の身体リハビリテーションとモビリゼーションに関する新しい臨床実践ガイドラインを作成しており、2026 年に完成する予定である。
結論
人口の高齢化と多疾患合併の増加に伴い、ICUAW のリスクが高い重症患者数は増加している。ICUAW の同定とその危険因子の理解については進歩があったが、その機序と病態生理学のさらなる理解が必要であり、特に ICUAW を減少させるための介入策の設計に情報を提供することが求められている。ICU における理学的リハビリテーション介入に焦点を当てた研究が急速に増加していることから、介入によって ICUAW がどのように軽減されるかについての知識と理解における既存のギャップがより明確になった。このようなギャップをよりよく理解し、新しい研究デザインを検討することは、ICUAW の短期および長期の転帰を改善するための重要な前進となりうる。
元論文
https://www.bmj.com/content/388/bmj-2023-077292?utm_campaign=usage&utm_content=tbmj_sprout&utm_id=BMJ005&utm_medium=social&utm_source=twitter