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内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床についての論文のまとめ

ICU におけるリハビリテーションの効果

2025-02-14 20:38:37 | 集中治療
集中治療室入室後の廃用とリハビリテーションの効果
BMJ 2025; 388: e077292

重症成人の約半数が ICU 獲得性筋力低下(intensive care unit acquired weakness: ICUAW)を経験する。ICUAW を発症した患者は、機械的換気の期間が長くなり、在院日数が長くなり、可動性、身体機能、QOL、死亡率が悪化するなど、不良な転帰をたどる可能性がある。早期の理学的リハビリテーション介入は ICUAW を改善する可能性がある。しかし、ランダム化試験ではこれらの介入の効力について一貫性のない所見が示されている。本総説は、ICUAW の定義、診断、疫学、病態生理学、危険因子、意味合い、および管理に関する最新のエビデンスを要約している。特に研究のギャップと課題を強調し、理学的リハビリテーション介入に関する今後の研究について考察している。

はじめに
ICUAW とは、臨床症候群の一つで、「重症患者において臨床的に検出される筋力低下であって、重症患者以外に妥当な病因がないもの」と定義されている。最も一般的には、身体診察(徒手筋力検査)を用いて患者の筋力を測定し、MRC(Medical Research Council)スコア(0~60 の範囲)を用いてスコア化し、48 未満をICUAWとする。ICUAW の患者は、筋電図検査と神経伝導検査(nerve conduction study: NCS)により判定される多発性神経炎、ミオパチー、またはその両方を併発している可能性がある(すなわち重症神経筋症)。集中治療室(intensive care unit: ICU)に入院している患者は長時間の無動 (immobilization) を経験するが、これは ICUAW の重要な修正可能な危険因子である可能性がある。

ICU における早期リハビリテーションを評価した初期の研究は、2000 年代初頭に発表された。初期の研究では、一般的に機械的換気を行っている患者でベッド上安静/不動化で管理されている通常ケアの対照群と比較して、早期リハビリテーションを行った患者の転帰が改善することが示唆された。しかし、その後のランダム化試験では一貫性のない知見が得られており、患者集団、リハビリテーション介入の種類と量、通常ケアの対照群、主要および副次的アウトカムのタイミングと測定における重要な違いなど、実質的な異質性を反映している。本総説では、ICUAW とその疫学に関する最近のエビデンスを総合し、ICU における身体的リハビリテーション介入(主に能動的で呼吸器以外の介入に焦点を当てた)のランダム化試験を評価し、ギャップ/課題および今後の研究に対する提案について考察する。

情報源と選択基準
“intensive care unit acquired weakness”, “critical illness myopathy”, “critical illness neuropathy”, “critical illness polyneuropathy”, “intensive care unit acquired paresis”, “early rehabilitation”, “early mobilization” という検索語を用いて、2019 年 1 月から 2024 年 5 月までの査読付き論文を PubMed と Embase で検索し、最新の文献を特定した。これらの複合語から 4,274 件の論文が同定され、そのうち 60 件を最も関連性の高い重要な論文とした。システマティックレビュー、メタアナリシス、ランダム化比較試験、インパクトの高い一般医学およびクリティカルケア専門誌の大規模研究を優先した。さらに、歴史的背景を提供したり、画期的でユニークな出版物を認識したりするために、古い出版物で論文を補足した。収録された論文の参考文献リストは手作業で検索した。特定のトピックに関する文献が限られている場合は、他の研究デザイン(例えば、症例シリーズ)を引用した。最後に、関連するシステマティックレビューが入手できない場合は、主に関連するナラティブレビューを掲載した。

疫学
重症患者における ICUAW の推定有病率は約 50%であるが、評価方法や評価時点によってばらつきがある。

定義と診断
全身脱力について他の医学的または神経学的原因を除外することは、患者が ICUAW であるかどうかを判断するための重要な最初のステップである。全身性脱力においては、深部腱反射の亢進や近位感覚障害は ICUAW と一致しないため、他の原因を調べる必要がある。手指握力(男性で 11 kg 未満、女性で 7 kg 未満) も、装置と訓練された評価者がいれば、ICUAW の同定に役立つ。徒手筋力検査と握力はどちらも自発的な測定法であり、患者は命令に従う必要がある。

これらの病態の診断には、筋電図検査/NCS が必要であるが、ICU 環境下で鎮静状態または錯乱状態の患者に実施するのは難しい。重症ミオパチーでは、感覚神経活動電位は保持されたまま複合筋活動電位の振幅が減少し、運動単位活動電位の他の潜在的変化や筋電図上での 異常な自発活動もみられる。重症神経筋症の複合所見は、最も一般的な症状である。

52 件の研究(n = 3,251)を対象とした 1 つのシステマティックレビューによると、ICU に入室して最初の 1 週間は、骨格筋が 1 日に約 2%減少すると報告されており、超音波検査が最も一般的な評価方法であった。超音波検査の結果は、脂肪組織や浮腫の影響を受けることがある。

最後に、筋生検が行われることもあるが、侵襲的である。組織学的に、筋生検は、重症ミオパチーに 伴うミオシンの喪失や筋壊死を明らかにする ことがある。

病態生理学
ICUAW の病態生理学は複雑であり、完全には解明されていない。メカニズム研究では、構造的変化(例えば、軸索神経の変性、筋ミオシンの喪失)、機能的変化(例えば、神経の電気的不安定性)、微小血管の変化(例えば、細胞障害性低酸素症)、ナトリウムチャネルパチーが示唆されている。電気生理学的研究により、末梢神経や筋の変化の速やかな発現とこれらの変化の可逆性が強調されているが、これらの所見は完全には理解されていない。

最近では、生体エネルギー不全(すなわち、ミトコンドリア機能不全)が ICUAW のメカニズムとして仮説化されている。さらに、重症多発ニューロパチーでは、血液-神経関門 (blood-nerve barrier) の障害が、微小血管系の変化を伴う軸索脱分極のメカニズムである可能性があり、その結果、末梢神経への酸素欠乏や毒素の増加が生じる。もう 1 つの仮説は、高カリウム血症による神経内膜の脱分極 (endoneurial depolarization) である。ナトリウムチャネルの障害(すなわち、ナトリウムチャネルパチー)による筋膜の興奮抑制は、筋収縮の障害を引き起こす可能性がある。

重症ミオパチーでは、筋タンパク質分解と合成のアンバランスによる筋萎縮と筋収縮機能障害が、そのメカニズムとして提唱されている。最後に、筋萎縮は退院後も患者に持続することが多く、骨格筋の再生能力に影響を及ぼす可能性のある衛星細胞 (satellite cell) 量の減少など、さまざまな病態生理学的メカニズムに起因している可能性がある。

危険因子
研究により、ICUAW 発症の危険因子は修正可能なもの、修正不可能なものともに多数あることが示唆されている。どの因子が ICUAW に最も大きな影響を及ぼすかを決定することは困難であり、研究によって一貫性がないこともある。

急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome: ARDS)の生存者において、患者の年齢および ICU での安静期間は、退院時および 3、6、12、24 ヵ月の追跡調査時の筋力低下と正の相関を示した。他の危険因子で調整した後、2 年間の長期追跡調査において、安静期間が 1 日増えるごとに筋力が 3~11%相対的に低下した。この前向きコホート研究の 5 年間の追跡調査では、ARDS 前の合併症と臓器不全が、その後の筋力低下と関連していることが報告されている。

最近のシステマティックレビューでは、ICUAW の危険因子が特に評価されている。あるシステマティックレビューでは、ICUAW の危険因子を個人的指標、治療指標、疾患指標、検査指標のカテゴリーに分けて報告している。ICUAW と有意な関連を示したのは、女性(オッズ比 1.34, 95%信頼区間(confidence interval: CI)1.06~1.71)、機械的換気の期間(3.04, 1.82~4.26)、年齢(6.33, 5.05~7.61)、ICU 滞在期間(3.78, 2. 06~5.51)、感染/敗血症(1.67, 1.20~2.33)、腎代替療法(1.59, 1.11~2.28)、アミノグリコシド系抗生物質(2.51, 1.54~4.08)、Sequential Organ Failure Assessment score(1.07, 0.24~1.90)、高血糖(2.95, 1.70~5.11)であった。

あるシステマティックレビューでは、神経筋遮断薬(neuromascular blocking agents: NMBA)は有意な危険因子ではないと報告されている。しかし、これは 5 つの研究(n = 512)のみで評価されている。30 件の研究(n = 3,839)を対象とした 2 番目のシステマティックレビューとメタ解析では、NMBA は ICUAW と関連すると報告された(オッズ比 2.77, 95%CI 1.98~3.88)。副次的アウトカムとして、ICUAW(MRC スコア合計 <48)に対する NMBA 対プラセボの効果を評価した多施設共同無作為化試験(n = 340)は 1 件のみで、ICU 退院時に差はなかったと報告している(参加者 201 人中:それぞれ 64% v.s. 69%, P = 0.51)。 ICUAW に対する神経筋電気刺激の潜在的な効果を理解する上で、NMBA の投与量と投与時間、患者およびクリティカルイルネスに関連する共同因子(例えば、深い鎮静、全身性コルチコステロイド)が重要な考慮事項となる可能性がある。一般的に、NMBA に対する推奨は、ルーチンの使用を避け、可能な限り短期間に最低量を使用することである。

最後に、副腎皮質ステロイドは ICUAW のもう一つの潜在的危険因子である。しかし、この文献では、臨床経過の複雑さ(例えば、副腎皮質ステロイドを減少する一方で、NMBA 薬の点滴時間を延長している場合など)のために、関連性を評価する上で結論が出ていない。

ICUAW の意義
院内転帰
ICUAW 患者はしばしば、短期および長期のさまざまな有害転帰を経験する。重要なことは、ICUAW の潜在的な危険因子の中には、ICUAW と関連する負の転帰もあるということである。例えば、ICU 滞在期間は ICUAW の危険因子であると同時に、ICUAW の結果でもあると報告されている。この知見は、ICUAW と機械的換気の持続期間が長いこと(例えば、呼吸筋の衰弱が人工呼吸器からの解放を遅らせるため)との関係、または生存バイアス(すなわち、生存して ICUAW を発症した患者はより重症で、より長い ICU レベルのケアを必要としていた可能性がある)によるものかもしれない。しかし、ICUAW と横隔膜機能障害との関連性については、知見に一貫性がない。

ICUAW を有する重症患者では、短期死亡率が増加するという関連性が研究で報告されている。オーストラリアとニュージーランドの 12 の ICU を対象とした 1 件の前向き多施設コホート研究では、ICUAW(MRC スコア合計 <48)を有する患者 94 人(研究集団の 52%)において、ICU 退室から 90 日目までの生存率の低下が認められたと報告している。この所見は、ICUAW(MRC スコア合計 <48)が ICU および院内での死亡率の上昇と関連することを報告したフランスの以前の前向き観察研究(n = 115)と一致している。最後に、少なくとも 5 日間の機械的換気を必要とする患者 136 人を対象とした別の前向き多施設コホート研究では、ICUAW(握力で評価)が病院内死亡率と独立して関連することが報告されている。

ICUAW と短期の機能障害との関連も報告されている。以前に行われたランダム化試験の二次解析(n = 83, ICU 退室時の MRC 総得点)では、退院時の機能的自立度評価(Functional Independence Measure)(障害の指標;運動領域と認知領域を含む 18 項目; 総得点は 18~126 点で、得点が低いほど障害が強いことを示す)の退院時の中央値は、重度の ICUAW(MRC 総得点 36 点未満)、中等度の ICUAW(MRC 総得点 36~47 点)、および ICUAW なし(MRC総得点48点以上)の患者で、それぞれ 24 点(IQR 21~34)、31 点(27~46)、および 42 点(35~58)であった(P<0.001)。このような身体機能への影響は、ICUAW 患者がしばしば病院からリハビリテーション施設に退院することを意味する。例えば、ある研究では、ICUAW のある患者とない患者では、リハビリテーション施設に退院する傾向が高かった(18% v.s. 10%;P = 0.017)。

病院退院後の転帰
院内死亡率との関連に加えて、ICUAW はより長期的な死亡率と関連している。多施設ランダム化試験の患者 227 人の傾向一致解析では、ICUAW(MRC スコア合計 <48)がある患者の 1 年死亡率は、ICUAW がない患者より高いことが報告されている(31% v.s. 17%;P = 0.015)。 さらに、ICU において早期から経静脈栄養を行った場合と経静脈栄養開始を遅らせた場合とを比較した臨床試験の患者を対象とした 1 件の大規模な前向きのサブ解析(n = 883)では、MRC 合計スコアが低いほど 5 年死亡率が高いことが独立して報告されている(ハザード比 0.96, 95%CI 0.93~0.98;P=0.001)。

ICUAW は退院後の身体機能障害の長期化と関連している。単一施設の前向きコホート研究 (n = 156) では、ICUAW は 6 ヵ月後の追跡調査時の身体機能(SF-36 身体機能スコア) の悪化と独立して長期的な身体機能障害と関連していると報告している。同様に、4 つの病院の 13 の ICU で行われた前向きコホート研究では、3、6、12、24 ヵ月の時点で 222 人の ARDS サバイバーを評価し、ICUAW(MRC 合計スコア <48)を有する者では、6、12、24 ヵ月の時点で身体機能(SF-36;P ≦0.001)および 6 分間歩行距離(P ≦0.01)が有意に悪化していることが報告されている。

128 人の患者を評価した post hoc 分析によると、ICUAW は退院後 6 ヵ月時点での QOL(ノッティンガム・ヘルス・プロフィールおよび SF-36 質問票で評価)の低下と関連していた。

ICUAW および身体機能低下の予防と治療
様々な身体リハビリテーション介入が重症成人において評価されている。ここでは主に、ICU 環境において一般的に能動的リハビリテーションの対象となる人工呼吸管理を行っていない患者に焦点を当てる。

機能的モビリティ/多角的理学療法介入
機能的モビリティ(つまり、環境を移動する能力)には、一般的にベッド上でのエクササイズから、ベッドの端に座る、移乗、立ち上がる、その場での足踏みを経て歩行に至るまで、段階的なリハビリテーションアプローチが含まれる。多角的介入には少なくとも 3 つの構成要素があることが多 く、神経筋電気刺激、受動的運動(自発的努力なし、または筋収縮なし)または能動的運動(自発的努力または積極的筋収縮)、ベッド内サイクルエルゴメトリー、機能的移動、筋力強化(例えば、重りや抵抗バンドを使用)、教育、認知訓練、および固有受容性神経筋促通法 (proprioceptive neuromascular facilitation)(筋固有受容器の刺激によって筋肉を動員すること)の組み合わせが一般的である。

固有受容性神経筋促通法
https://www.pnfsj.com/pnf%E3%81%A8%E3%81%AF/

ICU における機能的モビリティと多角的リハビリテーション介入に関する臨床試験は、漸進的モビリティアプローチを取り入れた理学療法と作業療法を組み合わせた早期介入により機能的転帰が改善されたことを報告した 2008 年の画期的な 2 施設ランダム化試験以降、出現し始めた。最近のスコープレビューでは、117 件のリハビリテーション介入に関する研究のうち 73 件(62%)が機能的モビリティまたは多角的介入であったと報告されている。7 件のランダム化試験のメタアナリシスから、多角的リハビリテーション介入は ICUAW を予防する可能性を示している(リスク比 0.49, 95%CI 0.26~0.91;P = 0.025)。9 件の研究を対象とする別のメタアナリシスでも、早期のリハビリテーションが ICUAW を減少させることが報告されている(オッズ比 0.63, 95%CI 0.43-0.92)。このエビデンスに基づき、ICUAW を減少させるために、機能的モビリティかつ/または多角的リハビリテーション介入(早期の高強度機能的モビリティは避ける)を重症患者に実施すべきであると考える。

神経筋電気刺激 (neuromascular electrical stimulation)
NMES は、鎮静、不安定な臨床状態、その他の内科的・外科的理由により、ベッドからの移動が困難な患者に使用される。NMES は、自分で筋収縮を起こすことができない患者にも使用できる。NMES は、皮膚に貼付した電極から電流を流し、対象となる筋群(通常は下肢)の収縮を誘発する(図 1)。

図 1. 標的筋の収縮を誘発するように電極を配置した神経筋電気刺激
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エジプトで行われた最近の無作為化試験では、124 人の 患者を 4 群 (モビリゼーション+NMES 群、NMES のみ群、モビリゼーション群、対照群)のいずれかにランダムに割り付けたところ、 ICUAW (MRC スコア合計 <48)がそれぞれ 0%、13%、 60%、100%で発生したことが報告されている (P<0.001)。さらに、前述の試験を含まない最近のシステマティックレビューでは、6 件の試験(n = 274)のうち、NMES が ICUAW のリスクを減少させたと報告している(リスク比 0.48, 95%CI 0.32~0.72)。 しかし、NMESと通常のケアを評価した 6 件のランダム化試験(n = 718)の以前のメタアナリシスでは、総合的な筋力に差はなかったと報告されている(MRC 合計スコアの平均差 0.45, 95%CI -2.89~3.80, P = 0.79)。機械的人工呼吸を受けた患者における機能的電気刺激を評価した 2 件のランダム化試験から得られた筋生検(n = 42)の最近の二次解析では、NMES が身体機能に有益な効果を示せなかった原因として、炎症と (筋形成の) 基質利用の変化が寄与している可能性があると報告されている。注目すべきは、機械的に人工呼吸された成人 1,312 人を対象とした 23 件のランダム化試験のネットワークメタ解析で、NMES 単独または NMES と理学療法介入との併用により、抜管の成功率が改善した(オッズ比 1.85, 95%CI 1.11~3.08)ことが報告されていることである。ICUAW のメカニズム解明が進むにつれて、特定の亜集団における NMES の効果や実施時期の再評価が重要になるかもしれない。しかし、重症患者に対する主要なリハビリテーション介入として NMES を日常的に使用することを支持する証拠は十分ではない。

ベッド内サイクリング (in-bed cycle elgometry)
NMES と同様、ベッド内でのサイクリングは、半座位で行えるため、患者がベッド外での活動に適していない場合、安全かつ実行可能である。ベッド内でのサイクリングは、患者の能力に応じて受動的または能動的に行うことができ、抵抗を漸増させることもできる(図 2)。

図 2. 下肢の受動的または能動的運動を促進するベッド内サイクルエルゴメトリー
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単一施設で ICU の内科/外科患者 (n = 90) を対象に、ベッド内サイクルエルゴメトリー対通常ケア対照群を評価した最初のランダム化比較試験では、退院時の 6 分間歩行時間の中央値の上昇 (196 (IQR 126-329) m v.s. 143 (37-226) m; P<0.05) と SF-36 身体機能スコアの上昇 (21 (18-23) 点 v.s. 15 (14-23) 点; P<0.01)が報告されている。ICUAW 患者 56 人を対象としたランダム化比較試験の最近の発表によると、ベッド内でのサイクルエルゴメトリーにより、ICU 退室時の ICUAW が減少した(87% v.s. 61%;P = 0.039)。

最近、ICU におけるサイクルエルゴメトリーに関する最大規模のランダム化試験が報告された。機械的人工呼吸を受けた患者 360 人を対象としたこの 16 施設の国際試験では、ベッド内サイクリング+通常ケア理学療法と通常ケア理学療法単独が評価された。サイクリング介入は、中央値で ICU 入室後 2 日(IQR 2~3)から開始され、患者 1 人当たり 3 回(1~4 回)のセッションが行われ、一定の抵抗(0.6 ニュートン・メートル)と毎分 5 回転の一定の速度で、受動的サイクリングが行われた。対照群は、ICU 入室後 2 日(IQR 2~4)からリハビリを開始し、患者 1 人当たり 4 回(2~7 回)、平均時間は 29 分(標準偏差(standard deviation: SD)13)であった。主要アウトカムは身体機能であり、ICU 退室後 3 日目に身体機能 ICU テストを実施し、介入群と対照群に差はみられなかった(平均7.7(SD 1.7)v.s. 7.5(1.8);絶対差 0.23, 95%CI -0.19~0.65;P = 0.29)。さらに、退院時のICUAW に有意差はみられなかった(9.6% v.s. 12.1%;オッズ比 0.87, 95%CI 0.39~1.90)。注目すべきことに、別の多施設ランダム化試験が進行中であり、ベッド内サイクリング+タンパク質補給の併用と通常ケアの比較を評価している。主に受動的なサイクルエルゴメトリーが転帰を改善することを示すエビデンスはないが、多面的なリハビリテーション介入の中で、特に積極的なリハビリテーションを行うことができない患者において、かつ/または他の療法(例えば、栄養療法;新たな療法のセクションを参照)との併用において、サイクルエルゴメトリーの役割をさらに検討することが正当化される。

機能的電気刺激
NMES とベッド内サイクルエルゴメトリーは組み合わせて行うことができ、機能的電気刺激サイクリング (functional electrical stimulation)(図 3)として知られている。

図 3. サイクリングに必要な筋肉を収縮させる同期電気刺激による機能的電気刺激補助サイクリング
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機能的電気刺激は、ベッド内エルゴメーターのサイクリングを可能にするなど、特定の協調パターンで筋収縮を誘発するように同期化される。いずれのランダム化試験でも、筋力や医師機能の測定値に対する有益性は報告されていない。

補助器具 (adjuvant device)
ICU での身体リハビリテーションのためのティルトテーブル (tilt table, 傾斜台)、 ダイナミックティルトテーブル、多機能患者ポジショナー装置(座位、座位から立位、傾斜が可能な装置)については、限られた評価しか行われていない。しかし通常、介入を行うためには、患者を病床から 装置に移し、ストラップで固定する必要がある。ティルトテーブルを使用すると、仰臥位から立位に徐々に移行することができる (図 4)。

図 4.
起立を補助するために段階的な体重支持を可能にするティルトテーブル。この記事を読んでくれた元重症患者は、ティルトテーブルによる介入経験を語ってくれている。
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ダイナミックティルトテーブルは患者の動きを取り入れることができ、多機能患者ポジショナー装置は患者をいくつかの支持された座位姿勢にすることができる。145 人の患者を対象としたある単一施設のランダム化研究では、ICU 退室時の MRC 総スコアにティルトテーブル介入あり群と介入なし群との差はなかったと報告されている(50(IQR 45-56)v.s. 48(45-54);P = 0.555)。しかし、この研究では、筋力の回復(ベースラインから ICU 退院までの MRC 総スコアの変化)は、ティルトテーブル群で対照群よりも有意に大きかったと報告されており、MRC 総スコアの変化の中央値は 14(IQR 10-24)v.s. 10(5-15)であった(P = 0.004)。

機能的活動 (functional activity)
機能的活動や日常生活活動を対象とした介入についてのエビデンスは増えつつある。これらの介入を行う専門職としては理学療法士や作業療法士などがある。米国で最近行われたランダム化試験(n = 200)では、理学療法士と作業療法士による併用治療が報告され、1 年後の長期的な認知障害(Montreal Cognitive Assessmentスコア<26)の改善が示された(介入 24% v.s. 通常ケア43%;絶対差 -19%、95%CI -32~6;P = 0.004)。この研究は、早期の身体的リハビリテーションによる長期的な認知アウトカムの改善を示した最初のものであり、日常生活動作とモビリゼーションの統合に起因すると考えられる。さらに、1 年後の追跡調査では、介入群では ICUAW が少なく(患者の 0% v.s. 14%;P <0.001)、SF-36 身体的構成要素要約スコアの中央値が高かった(52(IQR 45-57)v.s. 41(32-49);P<0.001)。注目すべきは、せん妄の日数の中央値が介入群で短かったことである(0(IQR 0-2)v.s. 1(0-3;P = 0.005))。

その他の検討事項
ICUAW を緩和するための新しい介入としては、ロボット工学 (robotics)、双方向ビデオゲーム (interactive video game)、水治療法 (hydrotherapy) などで評価されている。ここでは、ICUAW の管理に対する有効性を評価するためにはさらなるエビデンスが必要であることを認識した上で、それぞれの介入について簡単に説明する。

ICU をベースとしたリハビリテーションのためのロボット工学は、特に COVID-19 パンデミックの際に、注目されたテーマである。あるロボットによる移動補助システムは、病院のベッドに取り付けることで、垂直方向に段階的に脚を受動的または補助的に動かすことができる。

ワイヤレスコントローラーおよび/または感圧式バランスボ ードを使用した対話型ビデオゲームにより、患者は多 感覚的フィードバックを受け、運動パターン、バランス、かつ/または活動耐容能の改善を促すことができる。このアプローチは、楽しい介入を提供し、患者の関与を高め、安全で実現可能であると思われる。

水治療法は、プールの中で行うリハビリテーションで、機械的人工呼吸を受けている患者に対する新しい介入である。水治療法は、水の浮力を利用することで、ICUAW が著しい場合には不可能な機能的移動の早期開始を支援する。

ICU 後のリハビリテーション
ICU 退院後の重症生存者に対するリハビリテーションの効果を評価する研究は限られている。しかし、退院後のリハビリテーション介入を評価するエビデンスは増えつつある。14 件の研究の最近のメタアナリシスでは、運動介入が有酸素運動能力を改善し(9 件の研究;n = 880;標準平均差 0.20, 95%CI 0.03~0.30)、SF-36 身体構成要素要約スコア(6 件の研究;n = 669;3.3, 1.0~5.6)を改善したと報告している。

さらに、post-ICU 外来が出現し、特に COVID-19 の大流行以来、その数は増加している。このような外来には、ICU または ICU 以外の医師、リハビリの専門家、心理士、薬剤師、看護師、ソーシャルワーカーなど、多職種がチームを組んでいることが多い。しかし、長期的な筋力低下や身体機能に対する post-ICU 外来の有効性を支持するエビデンスは不明である。注目すべきは、最近の大規模多施設ランダム化試験(n = 540)で、ICU 退室時および退室 3 ヵ月後、6 ヵ月後に、病院を拠点とした、集中治療医主導の対面式集学的コンサルテーションが、不良な臨床転帰(12 ヵ月後の死亡または少なくとも 1 つの EuroQoL-5D-5 dimension の重度~高度障害と定義;調整オッズ比 1. 49, 95%CI 1.04~2.13; P = 0.03)。この所見の理由は明らかではないが、著者らは、多職種チームには身体的および認知的障害に取り組むことができる専門職である理学療法士や作業療法士が含まれていなかったことを指摘している。

ICU における早期身体リハビリテーションの実施率
フランス、ドイツ、イギリス、アメリカの ICU 指導者 1,484 人を対象とした国際調査では、各国の ICU のそれぞれ 40%、59%、52%、45%で早期モビリゼーションの実践が見られたと報告されている。米国でランダムに抽出された 687 の ICU を対象とした別の調査(回答率 73%)では、中央値で週 6 日(IQR 5~7)、1 日 2 回(2~3 回)の早期モビリゼーションが実施されたと報告されているが、モビリゼーションの種類とレベルに関する詳細は報告されていない。

早期リハビリテーションの効果
利用可能なリハビリテーション介入には多くの種類があるにもかかわらず、これらの介入はしばしば「早期リハビリテーション」または「早期可動性」と総称される。さらに、システマティックレビューやメタアナリシスでは、以下に述べるように、期待される効果に異質性があるにもかかわらず、これらの介入をまとめて評価することが多い。

ICU のリハビリテーションは ICUAW を減少させ、身体機能を改善することを目的としているが、身体的アウトカムの指標(例えば、筋力、可動性、身体機能-患者報告およびパフォーマンスに基づく身体検査の両方-)には異質性が存在し、筋力は必ずしも試験で測定されていない。重症患者におけるリハビリテーションの効果を評価した最近のメタアナリシスによると、43 件のランダム化試験(n = 3,548)の中で、機械的人工呼吸の期間、ICU 滞在期間、および病院滞在期間の減少が認められ、その平均差はそれぞれ -1.7 日(95%CI -3.6~-0.3)、-1.2 日(-2.5~0)、-1.6 日(-4.3~1.2)であった。

しかし、筋力への影響は報告されていない。注目すべきは、機械換気期間の有意な短縮は、(ベッド内サイクリングや NMES などの他の介入ではなく)プロトコール化された理学的リハビリテーションを用いた介入でのみ観察され、ICU 滞在期間が長く、重症度(Acute Physiology and Chronic Health Evaluation II スコア)が低い患者で顕著であったことである。60 試験(n = 5,352)の結果をまとめた別のメタアナリシスでは、ICU でのリハビリテーションが身体機能を改善し、ICU および病院での滞在期間を短縮したと報告している。このメタアナリシスでは、対照群のリハビリテーション量を多い(5 日/週以上)または少ない(5 日/週未満)群に層別化したサブグループ解析が行われた。このレビューでは、介入が少ない群と比較して、多い群ではリハビリテーションがより効果的であったと報告している。注目すべきは、週 4 日のリハビリテーションの実施(つまり「介入が少ない」群)は、多くの施設における通常のケアよりも手厚いことである。6 ヵ月後の追跡データを評価した ICU における早期モビリゼーションに関する 15 件の試験(n = 2,703)の最近のメタアナリシスでは、6 ヵ月後の追跡時に 95%の確率で身体機能(患者報告アウトカム指標)が改善したが、筋力には差がなかったと報告されている。

早期リハビリテーションのせん妄/認知に対する効果
早期リハビリテーションは、せん妄や認知など、身体的障害以外の転帰にもプラスの効果を示している。作業療法士と理学療法士による共同治療を評価した最も初期のランダム化試験(n = 109)の 1 つでは、せん妄の期間が短縮したと報告されている(中央値 2(IQR 0~6)日 v.s. 4(2~8)日;P = 0.02)。 13 件の研究(n = 2,164)のメタアナリシスでは、早期モビリゼーションによりせん妄の発生率(オッズ比 0.53, 95%CI 0.34~0.83, P = 0.01)および期間(平均差 -1.8 日、95%CI -2.7~-0.8, P <0.001)が減少することが報告されている。しかし、早期に高強度の機能的モビリゼーション介入を行った群と、早期に低強度のモビリゼーション介入を頻繁に行った通常ケアの対照群とを比較評価した最近のランダム化試験では、機械的人工呼吸を受けた患者 741 人において、せん妄のない日数および 6 ヵ月後の認知機能(Montreal Cognitive Assessment(MoCA-BLIND)による測定)に差はなかったと報告されている。

理学療法と作業療法を組み合わせた介入を評価した研究、例えば、1 年後の認知アウトカムの改善を報告した前述の米国での研究(n = 200)は、機能的認知活動と機能的モビリゼーションを統合することの重要性を示唆している。さらに、ICU の非換気患者 140 人を対象としたランダム化比較試験では、集中的な作業療法介入の効果が評価され、せん妄の発生率(3% v.s. 20%;P <0.001)と期間(リスク発生率比 0.15, 95%CI 0.12~0.19;P <0.01)が低かったことが報告されている。 要約すると、包括的な早期リハビリテーションプログラムの一環として作業療法を行うことの相乗効果の可能性を理解することは、重要な研究優先事項である。

現在のエビデンスにおけるギャップ/課題と今後の研究への考慮点
PICO(患者、介入、比較対象、転帰)の枠組みは、重症成人における身体的リハビリテーションのエビデンス群の評価に役立つ。図 5 は研究のギャップ/課題を要約したものであり、ボックス 1 は今後の研究のための関連する考慮事項を要約したものである。

図 5. PICO(Patient, 患者、Intervension, 介入、Conparator, 比較対象、Outcome, アウトカム)の枠組みを用いてまとめた重症成人におけるリハビリテーション介入を評価する臨床試験の研究ギャップと課題。ICU (intensive care unit, 集中治療室); OT (occupational therapist, 作業療法士); PT (physical therapist, 理学療法士); RN (registered nurse, 正看護師)
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ボックス 1. 今後検討されるべき臨床試験
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以下に、これらのギャップと考察についてさらに論じる。

患者に関するギャップ
急性の経過で発症したクリティカルイルネスの場合、その患者のベースライン状態を前向きに測定することができないことは、クリティカルケア研究における基本的な課題である。介入による ICUAW への効果を理解するために、多くの研究ではベースの身体機能についての代理指標(例えば、Barthel Index)によって、ベースライン機能に異常のある患者を除外している。しかし、多くの ICU では、ほとんどの患者がベースラインの状態に障害があるため、このような除外はサンプルサイズと結果の一般化可能性を制限する。今後の研究では、軽度または中等度の既存身体障害を有する患者を含めること、およびベースライン機能に基づいて無作為化を層別化することを検討すべきである。

介入に関するギャップ
リハビリテーションの最適な用量については、計画された介入と実施された介入の両方について、用量のすべてのパラメータ(すなわち、頻度、期間、強度)を報告していない研究が多いために、分かっていない。今後の研究では、Template for Intervention Description and Replication, Consensus on Exercise Reporting Template, Rehabilitation Treatment Specification System, などの利用可能なガイドラインを用いた徹底的な報告を行っていくべきである。さらに、リハビリテーションのガイドラインを重症患者に適応させるにあたり、リハビリテーション「強度」を計測する信頼できる方法についての今後の研究が必要である。

リハビリテーション開始のタイミングは、ICU 環境におけるもう一つの重要な要素である。早期リハビリテーションの定義についてコンセンサスは得られていないが、ドイツのガイドラインでは、ICU 入室後 72 時間以内のモビリゼーション開始が推奨されている。さらに、システマティックレビューでは、早期リハビリテーションを ICU 入室後 72 時間以内と定義しており、他の論文と一致している。 最後に、重症患者における新規のリハビリテーション介入では、運動に対する予期される生理学的反応(例えば、心拍数や血圧の変化)と安全でない可能性のある変化とを区別しつつ、安全性に関連する事象の標準化された報告を行っていく必要がある。

比較対照に関するギャップ
ICU リハビリテーションの文献では、対照群間にかなりの異質性が存在する。125 件の研究を対象としたあるスコープレビューでは、88 件の試験が対照群として「通常ケア」を報告していることが報告されている。しかし、通常ケア群では 60 の異なる活動が実施されていた。早期リハビリテーションの進化を考えると、通常ケアやベストプラクティスには明確な定義は存在しない。今後の試験では、比較のための適切な対照群に関するコンセンサスを確立することが有益であろう。そのような対照群は、完全なベッド上安静とリハビリテーション開始の遅れを避けることを目標とすべきである。しかし、対照群に適した介入量は不明である。臨床現場における ICU リハビリテーションの現代的な点有病率調査 ( point prevalence studies) が、この疑問の解決に役立つかもしれない。

ICU における臨床的ケアの実践(例えば、鎮静、せん妄、栄養)は、理学的リハビリテーションとの潜在的な共同介入として注意深く考慮する必要があるかもしれない。鎮静やせん妄は、どのような種類のリハビリ介入が可能か(例えば、患者の積極的な参加を必要とする介入は、深い鎮静では不可能である)に影響を及ぼし、介入プロトコルの忠実性やリハビリテーションの安全性に影響を及ぼす。さらに、前述のようにリハビリテーションは患者の認知状態に影響を及ぼす可能性がある。

アウトカムに関するギャップ
研究結果や関連する測定方法における異質性を低減するために、コンセンサスに基づく中核的なアウトカム・セットが開発されている。リハビリテーション、せん妄、退院後の長期転帰のそれぞれに関する介入を評価する ICU 試験のための中核アウトカムセットが最近発表された。しかし、もう一つの重要な方法論的課題は、退院後の縦断的評価を行う研究において ICU 患者を追跡し続けることである。

追跡評価における患者保持を最適化するための既存の「ベストプラクティス」の利用とともに、参加者の保持に関する報告方法および結果に関するガイダンスが、報告実務を改善する可能性がある(例えば、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)が資金提供した無料のリソース(www.improveLTO.com)を参照のこと)。

試験デザインに関する考察
メカニズム研究を組み込んだ最新の研究デザインを ICU リハビリテーション研究に取り入れることは、研究のギャップを埋めるのに役立つであろう。例えば、step wedge cluster randomized trial design は、個々の患者に対してではなく、ICU のレベルでの「文化の変化 (culture change)」を必要とする介入(例えば、早期リハビリテーションと組み合わせた鎮静/せん妄介入や、人工呼吸器離脱や家族参加のための介入も含む「ABCDEF バンドル (ABCDEF bundle)」)のバンドルの実施を評価することができる。

ABCDEFGH バンドル
https://www.jsicm.org/resident/pdf/pics05.pdf

この研究デザインの最近の例では、米国の 4 つの病院の 12 の ICU で、患者のモビリゼーションを改善するための構造化されたアプローチ(毎日の目標設定、専門職間のコミュニケーション、パフォーマンスフィードバック)を評価している。さらに、小児 ICU における step wedge cluster randomized trial では、転帰を最適化するための介入群(段階的身体活動/モビリティ計画、睡眠衛生促進、せん妄スクリーニング)が評価されている。

異なる種類のリハビリテーション介入や投与量(例えば、異なる頻度、期間、強度)の複数の無作為化評価の必要性を克服するために、ベイジアン適応プラットフォーム (baysian adaptive platform) 試験と部分要因計画 (fraction factorial design)(例えば、多相最適化戦略(multiphase optimizing strategy: MOST)フレームワークを介して)は、異なる介入や投与量を評価する複数の試験群研究の効率的な比較を容易にする可能性がある。

ベイジアン適応プラットフォーム
https://www.slideshare.net/slideshow/ss-73401825/73401825

部分要因計画
https://www.med.nihon-u.ac.jp/research_institute/bulletin/2016/2016_017.pdf

このような戦略は、重症成人生存者の心理学的転帰を改善するためのさまざまなアプローチの評価で最近用いられている。ベイジアン適応アプローチにより、効果を示さない試験群は中止することができ、プラットフォーム試験の期間中に新たな介入を追加することができる。

最後に、レジストリに基づくランダム化比較試験は、関心が高まっている実用的デザインである。このデザインでは、既存のレジストリを通じて患者を同定し、リクルートするため、既存のレジストリのインフラがあれば、ベースラインの状態や患者の転帰に関するデータ収集が効率的に行える。

新たな治療法
重症患者における栄養およびリハビリテーションの併用介入に大きな関心が存在することは、それが重症患者栄養および代謝の分野で最優先の研究課題であることからも明らかである。タンパク質の補給を伴うリハビリテーション介入を、通常ケアの対照群に対して評価する第 2 相ランダム化試験の数が増えており、筋力低下を減らす可能性が示唆されている。しかし、3 群の第 2 相ランダム化試験(通常ケア v.s. 早期リハビリテーション v.s. 早期リハビリテーションおよびガイドラインに基づく早期栄養の併用)では、2 つの介入群間で筋力低下に差はみられなかった。多施設ランダム化試験において、サイクルエルゴメトリーと静脈内タンパク質補給の併用と通常ケア対照群との比較を評価した第 2 相データの追加が待たれている。

さらに、多施設 4 群ランダム化試験(n = 112)では、通常ケア対照群 v.s. レジスタンストレーニグ群 v.s. β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸単独群 v.s. レジスタンストレーニングとβ-ヒドロキシ-β-メチル酪酸の併用群が評価された。 β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸は、筋タンパク質の合成を刺激し、タンパク質の分解を抑制する目的で評価された。この試験では、レジスタンストレーニング(単独)、およびレジスタンストレーニングとβ-ヒドロキシ-β-メチル酪酸の併用は、対照群と比較して身体機能の改善を示したが、β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸のみの群では有意差はみられなかったことが報告された。さらに、間接熱量測定に基づく栄養投与とベッド内サイクルエルゴメトリーとの併用による介入は、小規模の単一施設ランダム化試験(n = 21)で評価されているが、筋肉量(超音波検査による評価)に有意差は報告されていない。

ガイドライン
ICUAW の管理に特化した最近の国際的な臨床実践ガイドラインはない。しかし、ICU ベースの理学的リハビリテーションおよび早期モビリゼーションに関するガイドラインは存在する。あるシステマティックレビューでは、2008 年から 2020 年の間に発表された 10 の臨床実践ガイドラインが評価された。このレビューでは、合意された以下の 7 つのトピックについて報告された。1)早期モビリゼーションは安全であり、医療費を削減できる可能性がある、2)安全基準を提示すべきである、3)プロトコル化または構造化されたアプローチを用いるべきである、4)協力的なチームワークが必要である、5)スタッフには特定のスキルまたは経験が必要である、6)患者と家族の関与が重要である、7)プログラム評価とアウトカム測定は実施の重要な要素である。 さらに、このレビューでは、Society of Critical Care Medicine の Clinical Practice Guidelines for the Management of Pain, Agitation/Sedation, Delirium, Immobility, and Sleep Disruption(PADIS ガイドライン、2018 年発行)が、その厳密な方法と完全性から、早期リハビリテーションプログラム実施の基礎となるべきであると報告されている。PADIS ガイドラインは、GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation) の方法論に従って重症成人におけるリハビリテーションまたはモビリゼーションの実施について「条件付き推奨」を報告している。さらに、2021 年の「Choosing Wisely」キャンペーンの一環として、エビデンスに基づいた実践を推奨することで無駄や過剰な医療を減らす取り組みが行われており、早期モビリゼーションは 5 つの推奨事項の 1 つとなっている。すなわち、「ICU 患者のリハビリテーションを遅らせるな」である。

2022 年から 24 年にかけて、ドイツ科学医学会連合、オーストラリア国立保健医療研究評議会(the National Health and Medical Research Council: NHMRC)、日本集中治療医学会、韓国重症患者学会、ロシア麻酔蘇生医連盟とロシアリハビリテーション医連盟から発表された最新のガイドラインでは、指針を示している。介入の頻度に関して、ロシアと日本のガイドラインはそれぞれ、1 日 1 回と 1 日複数回のセッションを推奨している。注目すべきことに、NHMRC はグッドプラクティスステートメント 1 において、開始と頻度の両方に関して安全性を考慮している。すなわち、「ICU に入院した患者はすべて、理学的リハビリテーションかつ/またはモビリゼーションの実施に適しているかどうか、毎日評価しスクリーニングすべきである。また、最初のスクリーニングは ICU 入室後できるだけ早く、可能であれば 24 時間以内に行うべきである」と推奨している。介入時間に関しては、ロシアのガイドラインは 1 日 30 分以上を推奨しているが、ドイツのガイドラインは患者の状態に応じた個別のアプローチを推奨しており、最適なリハビリテーション量についてさらなる研究を推奨している。最後に、介入の種類に関しては、日本のガイドラインはサイクルエルゴメトリーを推奨しており(GRADE の方法論によると、エビデンスの確実性は非常に低い)、ドイツのガイドラインは機能的トレーニングが不可能な場合にサイクリングを推奨している(弱い推奨)。最後に、PADIS と NHMRC のガイドラインは、身体リハビリテーションやモビリゼーションの開始と中止に関する包括的な安全基準を示唆している。他のガイドラインも同様の指針を示しており、特定の安全関連基準を厳守するのではなく、臨床的判断を行使しなければならないことを強調している。欧州呼吸器学会と米国胸部学会は、重症成人患者の身体リハビリテーションとモビリゼーションに関する新しい臨床実践ガイドラインを作成しており、2026 年に完成する予定である。

結論
人口の高齢化と多疾患合併の増加に伴い、ICUAW のリスクが高い重症患者数は増加している。ICUAW の同定とその危険因子の理解については進歩があったが、その機序と病態生理学のさらなる理解が必要であり、特に ICUAW を減少させるための介入策の設計に情報を提供することが求められている。ICU における理学的リハビリテーション介入に焦点を当てた研究が急速に増加していることから、介入によって ICUAW がどのように軽減されるかについての知識と理解における既存のギャップがより明確になった。このようなギャップをよりよく理解し、新しい研究デザインを検討することは、ICUAW の短期および長期の転帰を改善するための重要な前進となりうる。

元論文
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ICU における栄養管理

2025-02-07 20:20:48 | 集中治療
クリティカルケア患者の栄養管理
BMJ 2025; 388: e077979

クリティカルイルネス (critical illness) は、健康と生活の質に壊滅的な影響を及ぼしうる複雑な状態である。栄養サポートは、栄養状態および筋機能の維持または回復を目的とする重症患者に対するケアの重要な要素である。

栄養サポートの構成要素に対する画一的なアプローチは、有益性が証明されていない。最近のランダム化比較試験は、従来の戦略に異議を唱え、重症の初期急性期における通常より低いカロリーおよびタンパク質摂取の安全性および潜在的有益性を支持している。集中治療室 (intensive care unit: ICU) 滞在中の最適な栄養サポートを定義するためには、さらなる研究が必要である。リスク評価ツールまたはバイオマーカーに基づく個別化栄養戦略は、厳格に設計された大規模、多施設、ランダム化比較試験においてさらに調査されるべきである。

重要なことは、栄養サポートはきわめて重要であるが、重症患者の回復を促進するには十分でない可能性があるということである。したがって、最大の効果を達成するには、患者の回復過程全体を通して、個別化された栄養サポートと、多要素からなり全人的なケアプログラムにおける早期および長期の身体的リハビリテーションとの併用が必要であろう。

はじめに
クリティカルイルネスとは、生命を脅かし、機械的人工呼吸などの生命維持のための ICU 入室を必要とする重要な臓器機能障害と定義される。クリティカルケア患者は、炎症、食欲不振、消化管機能障害、代謝障害を伴い、タンパク質の減少、筋力の消耗と衰弱、身体機能の障害を引き起こす顕著な異化が生じ、それが何年も続くことがある。多くの生存者は集中治療後症候群 (post ICU syndrome: PICS) を経験するが、これは ICU 入室後に生じた衰弱、認知機能障害、筋骨格系障害、虚弱、疲労、内分泌障害、気分障害をさまざまに組み合わせたものである。

集中治療後症候群
https://www.jsicm.org/provider/pics.html

このように、クリティカルイルネスは、患者や親族にとって並外れた脆弱性、依存性、変化をもたらす時期なのである(図 1)。

図 1. クリティカルイルネス患者がたどる経過
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栄養サポートは、エネルギーおよび栄養素を供給し、タンパク質合成に必要なビタミンおよび微量元素の欠乏を予防し、タンパク質および筋肉量の喪失を最小限に抑えることにより、クリティカルイルネスの有害な影響を打ち消すように設計された生命維持戦略の不可欠な要素である。

クリティカルイルネス患者の栄養サポートに関する知識は、小規模のランダム化比較試験(randomized controlled trial: RCT)およびエビデンスレベルの低い観察研究に依存してきた。第 1 に、低カロリーおよび低タンパク質摂取は、特にクリティカルイルネスの急性期(すなわち、通常 ICU での最初の 1 週間)に転帰を改善する可能性がある(図 1)。第 2 に、栄養補給だけでは筋肉量と機能を回復させるには不十分である可能性がある。第 3 に、多臓器不全患者において、栄養剤 (pharmaconutrients) は有益性を示していない(図 2)。

図 2. クリティカルイルネス患者の早期の異化亢進に対する栄養介入の影響
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本総説の目的は、重症患者における栄養サポートに関する現在のエビデンスについて考察し、最近の研究から得られた新たな知見を強調し、重症患者における栄養およびリハビリテーションの進化した概念を探求することである。この総説は、一般内科医、家庭医、ICU 医療専門家などの研究者および臨床医を対象としている。

疫学
世界中で毎年数百万人の患者が ICU に入院しているが、そのほとんどが食事ができないため栄養補給が必要である。これらの患者における栄養不良の有病率は 38~78%である。サルコペニアは一般的であり、転帰の悪化と関連している。侵襲的な機械的人工呼吸および昇圧を必要とする重症の重症疾患のサバイバーでは、25~100%が ICU で筋力低下を来し、機能障害、回復の遅れ、および QOL の低下がみられ、これらは数ヵ月~数年間持続することがある。ストレス性異化の影響を予防かつ/または是正するための栄養サポートの有効性は依然として不明である。

情報源と選択基準
本レビューのデータ源として、PubMed データベース、著者のライブラリ、ガイドラインおよび画期的な論文の参考文献リストを使用した。PubMed をキーワードおよびキーワードの組み合わせで検索し、2000 年から 2023 年までに発表された ICU における栄養サポートに関する関連論文を特定した。査読付き学術誌に掲載された英語の論文のみを選択した。以下のキーワードを使用した:critical illness, critically ill, intensive care unit, intensive care, organ support, mechanical ventilation, enteral nutrition, enteral feeding, parenteral nutrition, parenteral feeding, nutritional assessment, malnutrition, energy need, calorie intake, energy intake, protein needs, protein intake, rehabilitation, ICU acquired weakness, gastric feeding, jejunal feeding, intolerance, micronutrients, and vitamins. 大規模データベースの後ろ向き観察研究、前向きコホート研究、ランダム化試験、メタアナリシス、システマティックレビュー、ガイドライン、プロトコールを検討した。観察栄養研究ではバイアスのリスクが高いことを考慮し、患者中心の主要臨床アウトカムおよび公に事前登録された主要臨床アウトカムに関する治療効果を評価するのに十分な検出力を有する RCT が利用可能な場合は、それを優先した。2000 年以前に発表された主要研究も、引用回数が多い場合、最近のデータまたは概念の理解に役立つ場合、または同じ主題に関するより最近の研究が追随していない場合は、対象とした。

栄養ニーズの評価
重症患者は、急性期と回復期の 2 つの段階に大別できる(図 1)。急性期は異化作用が顕著で、通常 ICU での最初の 1 週間が終わるまで続く。対照的に、回復期は筋肉量と機能の回復を伴う同化作用が特徴である。しかし、異化期から同化期への切り替わりを明確に特定するための臨床的または生物学的に関連するマーカーはまだ同定されていない。負のエネルギーバランスを伴う栄養不良は、創傷治癒障害、免疫機能障害、二次感染、筋肉喪失の増加、代謝障害の悪化、および生存率の悪化と関連している。それにもかかわらず、重症時の最適な栄養補給は依然として不明確である。

重症急性期における異化を最小限に抑えるために必要なエネルギーおよびタンパク質の摂取量はどのくらいか
連続大腿超音波スキャンを用いた研究では、少なくとも ICU に入室して 10 日目まで、断面の筋肉量が毎日 1~2%減少することが実証された。筋消耗の悪化と関連する因子は、機能不全臓器の数が多いこと、血清 C 反応性蛋白 (C-reactive protein: CRP) 濃度が高いこと、および驚くべきことに蛋白質摂取量が多いことであった。16 人の重症患者を対象とした代謝調査により、グルコースまたは脂質の静脈内投与では、ICU での最初の 1 週間における内因性グルコース産生およびタンパク質の酸化を抑制できないことが明らかになった。アミノ酸動態に関するランダム化クロスオーバー研究では、持続的静脈-静脈血液濾過 (continuous veno-venous hemofiltration) に依存している 12 人の患者にグルタミンを静脈内投与した。血漿中のグルタミン濃度は回復したが、筋のグルタミン放出は減少せず、同化抵抗の存在が確認された。EPaNIC(evaluation Early versus late initiation of Parenteral Nutrition to supplement insufficient enteral nutrition In Critical illness)RCT に登録された 122 人の患者のサブグループでは、ICU での最初の 1 週間後に大腿筋生検で評価したところ、早期のタンパク質、グルコース、脂質の静脈内補充は、筋原繊維の異化
経路の制御を弱めることも、合成を抑制することもなかった(図 2)。 したがって、ICU での最初の 1 週間の累積エネルギー負荷が平均 9000 kcal を超える群間差にもかかわらず、顕微鏡的筋線維サイズおよび巨視的筋体積の損失は、経静脈栄養開始が早い患者と遅い患者で同程度であった。

クリティカルイルネスの初期の栄養必要量を決定する疫学的根拠
機械的人工呼吸を受けている患者(n = 2772)を対象とした大規模観察研究により、エネルギー摂取量が多いほど 60 日目の死亡率が低いこと(オッズ比 0.76;95%信頼区間、0.61~0.95;1,000 kcal/日増加あたり P = 0.01)、およびタンパク質摂取量が多いほど生存率が高いこと(調整オッズ比 0.84;95%信頼区間、0.74~0.96;30 g タンパク質/日増加あたり P = 0.008)と関連していることが明らかにされた。一方、経静脈栄養を受けている ICU 患者 200 人を対象とした前向き縦断研究では、過剰栄養(36 v.s. 31 kcal/kg/日)が血流感染と関連していた(P = 0.003)。しかし、さまざまな数学的モデルに基づくいくつかの大規模 RCT の再解析では、累積エネルギーまたはタンパク質投与量は、合併症率および死亡率と正、負、または中立の関係にあった。さらに、EPaNIC 試験の事後解析再解析では、エネルギーおよびタンパク質の過剰投与による潜在的危害の観察された閾値は、計算された目標値の 50%未満であった。重要なのは、観察データの解釈が適応バイアス (indication bias) によって妨げられることである。重症度が高い患者かつ/または臨床経過が好ましくない患者は、しばしば摂食が困難であるか、逆に、より積極的な栄養介入が行われる。さらに、不死時間バイアス (immortal time bias) も起こりうる:ICU での経時的な摂食の改善により、栄養摂取量の増加が ICU での滞在期間の延長および ICU 生存率の上昇の原因ではなく結果となることがある。これらのバイアスは、観察研究で示唆された栄養サポートの治療効果が RCT で確認されていない理由を説明しうる。臨床実践に信頼できる指針を提供できるのは RCT のみである。

エネルギー、タンパク質、またはその両方の異なる投与量を比較した RCT に基づく栄養必要量

エネルギー投与量に関する RCT
PermiT(Permissive Underfeeding versus Target Enteral Feeding in Adult Critically Ill Patients)は内科系 ICU、外科系 ICU、または外傷の ICU 患者 894 人を対象とした RCT で、早期の等窒素エネルギー制限(許容的過小栄養)と標準栄養(835 ± 297 v.s. 1299 ± 467 kcal/日、P <0.001;推定必要カロリーの 46 ± 14%v.s. 71 ± 22%、P <0.001)を最長 14 日間比較した。90 日目の死亡率という主要アウトカムおよび副次的な臨床アウトカムは、両群間で差がなかった。TARGET(Augmented versus Routine Approach to Giving Energy)RCT では、エネルギー密度の高い経腸栄養剤(1.5 kcal/mL)による等窒素高カロリー栄養と標準栄養を最長 4 週間(1863 ± 478 v.s. 1262 ± 313 kcal/日)比較したが、ICU に収容された 3,957 人の混合患者において生存率または ICU 依存度に差を認めなかった。まとめると、推定目標値の 40%、70%、または 100%の等窒素エネルギー摂取を重症の初期段階から開始し、最大 4 週間継続しても、質の高い RCT では生存率を改善しなかった。したがって、早期から目標とする栄養投与量を達成することを支持するエビデンスはない(図 3)。

専門家の中には、上記の所見は両群のエネルギー目標値が体重、年齢、性別、その他の臨床的特徴に基づく計算によって推定されたためであるとしている者もいる。酸素消費量、二酸化炭素産生およびいくつかの生理学的仮定に基づく間接熱量測定により、真の安静時エネルギー消費量をより正確に推定できる可能性がある。間接熱量測定の実施は困難であり、その結果は、高い吸気酸素分率、空気漏れのある胸部チューブの存在、機械間の差、およびその他の要因によって混乱する可能性がある。1,171 人の患者を対象とした後ろ向き観察研究のデータから、測定された安静時エネルギー消費量に近いエネルギー投与量を与えることで転帰が改善する可能性が示唆されている。しかし、単一施設の EAT-ICU(Early goal-directed nutrition in ICU)RCT では、間接熱量測定および尿中窒素測定を使用して主要栄養素の投与量を決定したが、主要アウトカムである 6 ヵ月後の身体機能、および副次臨床アウトカムのいずれにおいても有意な改善とは関連しなかった。さらに、経験豊富な医師であっても、ICU で間接熱量測定をルーチンに実施することは困難である。間接熱量測定による栄養誘導を評価した国際的な Tight Calorie Control(TICACOS)RCT は、間接熱量測定の経験がある 7 つの ICU で 417 人の患者が登録されたのみで、6 年後に早期に中止された(10 人/施設/年)。 しかし、最近の間接熱量測定技術の向上を考慮すると、エネルギー必要量の推定における間接熱量測定の有用性をさらに調査すべきだろう。

蛋白質投与量に関する RCT
国際的なガイドラインでは、1.2~2.2 g/kg/日のタンパク質投与量が推奨されているが、支持するエビデンスは弱い。栄養リスクが高い重症患者 1,301 人(EFFORT-Protein RCT)において、ICU からの退院または ICU での 28 日目まで、経腸タンパク質または経静脈アミノ酸供給、または両方の供給を追加することにより、高タンパク質用量の効果が検証された。タンパク質/アミノ酸の平均摂取量は 1.6 ± 0.5 v.s. 0.9 ± 0.3 g/kg/日であった(図 3)。ICU 依存期間も 60 日目の生存率も両群間で差はなかった。高タンパク質/アミノ酸群では血中尿素濃度が高く、タンパク質の異化がより進んでいることが示唆され、以前の RCT と一致していた。

エネルギーとタンパク質の投与量に関する RCT
EDEN の RCT では、急性肺損傷 (acute lung injury) 患者を対象に、エネルギーとタンパク質を大幅に制限した栄養補給(400 kcal および 0.3~0.4 g タンパク質/kg/日、すなわち標準目標の約 25%)を最長 6 日間行った結果、早期の完全栄養補給(1300 kcal, たんぱく質 0.96~1.28g/日、つまり標準目標の約80%) と同等の臨床転帰とより少ない消化器不耐症 (gastrointestinal intolerance) を認めた。重要なことは、174 人の生存者における 6 ヵ月後と 12 ヵ月後の詳細な身体機能検査と認知機能検査、および 525 人の 12 ヵ月後の生存者における自己申告による身体機能検査(36 項目からなる簡易書式(SF-36))により、栄養補給の有害性も有益性も明らかにされなかったことである。対照的に、NUTRIREA-3 RCT に含まれる昇圧剤を必要とする 3,044 人の機械的人工呼吸患者において、最初の 1 週間におけるエネルギーおよびタンパク質の制限(6 kcal/kg および 0.2~0.4 g/kg/日)v.s. 25 kcal/kgおよび 1.0~1.3 g/kg/日)は、ICU 依存および人工呼吸器依存を短縮し、嘔吐、下痢および腹部虚血の発生率を減少させた。同様に、EPaNIC RCT(n = 4,640)では、重篤な疾患の最初の週に早期の経静脈的補助栄養を差し控えることで回復が促進され、ICU 入室後の衰弱 (ICU acquired weakness) およびその他の病的状態が減少した。細胞の完全性および機能を維持するために重要なハウスキーピング機構であるオートファジーの阻害は、重篤な疾患の早期における高カロリーおよび高タンパク質供給の潜在的な有害効果を説明しうる。オートファジーの喪失は、早期の経静脈栄養補給による ICU 入室後の筋力低下の発生率の上昇を引き起こす可能性がある。この仮説は、さらなる研究に値する。クリティカルイルネスの急性期における食欲不振は、20 年前に適応機序として示唆されており、早期のエネルギー制限が急性期の炎症反応による有害な代謝効果を制限し、おそらくは食物由来の微量栄養素の利用可能性を低下させることによって病原性微生物の増殖も抑えている。最後に、クリティカルイルネスの最初の週に経腸栄養不耐性のために早期に経静脈栄養を行わなかった患者において、厳格な血糖コントロールは、血糖コントロールを行わなかった場合と比較して、ICU 依存の期間および死亡率に影響を及ぼさなかった(TGC-Fast RCT、n = 9,230)。この結果は、低カロリー摂取(最初の 1 週間は 400〜800 kcal/日)であったこと、およびその後の高血糖の程度が以前の報告より軽かったことによると考えられる。

まとめると、ICU では数週間は中等度のエネルギーとタンパク質の制限は安全であると思われ、新たなデータは、重症の急性期にエネルギーとタンパク質をそれぞれ 6 kcal/kg/日と 0.3-0.4 g/kg/日に制限することで、回復を促進し合併症を減少させることができることを示している。

ビタミン、微量元素、薬物栄養素
重症時には、血清中のグルタミン、成長ホルモン、ビタミン D、セレン、ビタミン C の濃度が低下する。観察研究では、これらの減少が予後不良につながるという強い関連性が示され、パイロット臨床試験では有望な結果が得られているにもかかわらず、十分な検出力を有する RCT では、是正的介入は有益でも有害でもなかった。これらの予期せぬ結果は、血清レベルが欠乏を評価する上で信頼性に欠けるか、あるいはレベルの低下が重症急性期の適応的なものであることを示唆している。アルギニン、オメガ 3 脂肪酸、抗酸化剤などの他の栄養剤は、免疫反応を調節し、過剰な炎症を抑制することで、臓器障害を予防したり、回復を促進したりすることが示唆されている。しかし、多臓器不全の重症患者を対象とした RCT では、これらの栄養素の供給による利益は示されなかった。

栄養状態および栄養サポート効果の評価
栄養リスク評価用のツールには、主観的グローバル評価 (Subjective Global Assessment)、ミニ栄養評価 (Mini Nutritional Assessment)、栄養不良の臨床的特徴 (Malnutrition Clinical Characteristics)、および栄養不良の普遍的スクリーニングツール (Malnutrition Universal Screening Tool) などがある。ICU に入院していない患者を対象に開発および検証された栄養リスクスクリーニング2002(Nutrition Risk Screening 2002: NRS-2002)は、年齢、食物摂取量、体重減少、BMI、および疾患の重症度を組み込んでいる。これは、RCT に登録された 8,944 人の患者の疾患の重症度、入院前の栄養摂取量、および BMI を比較することにより開発された。スコアが 5 を超えると、ICU での死亡率が増加した。NUTRIC(Nutrition Risk in the Critically Ill)スコアは、ICU に入院中の 597 人の患者の観察データに基づいている。スコアが高いほど 28 日目の死亡率が高いことと関連していたが、この関連はカロリー目標値を満たしている患者では弱かった。修正 NUTRIC(mNUTRIC)スコアは、炎症マーカーである IL-6 を除外したもので、このマーカーを含めても予測能は改善しない。mNUTRIC スコアは、年齢、Acute Physiology and Chronic Health Evaluation II スコア、Sequential Organ Failure Assessment スコア、併存疾患の数、入院から ICU 入室までの日数に依存している。これらの基準は、栄養状態よりもむしろ疾患の重症度に関連している。妥当性が確認されたさまざまなツールを使用した研究の系統的レビューによると、栄養不良は ICU での入院期間の延長、ICU への再入院、感染症の高い発生率、および病院死亡率の上昇と独立して関連していた。

栄養不良の評価に使用される BMI、中上腕周囲径、および上腕三頭筋皮下厚などのさまざまな身体測定パラメータは、感度および特異性に限界がある。例えば、BMI は細胞量を確実に反映しておらず、重症時にみられる体液シフトの影響を受ける。アルブミン、プレアルブミン(トランスサイレチン)、トランスフェリンおよびレチノール結合タンパクなどの血清バイオマーカーは、栄養状態の指標としてしばしば用いられる。しかし、これらのバイオマーカーは、急性感染症または炎症時には必ず減少し、肝疾患またはタンパク喪失性疾患などの非栄養性因子の影響を受ける可能性があるため、栄養サポートに関する決定の指針としては役に立たない。

最近、超音波検査またはコンピュータ断層撮影により評価される筋肉量が、栄養状態の指標として調査された。システマティックレビューでは、コンピュータ断層撮影法を用いて定義された骨格筋量の低さは、ICU 患者の 50.9%に認められ、短期死亡率と関連していた。生体電気インピーダンスなどの身体組成を測定する他の方法は、重症患者における予後予測に役立つ可能性があるが、栄養介入の指針としての役割は依然として不明である。

臨床での実践を検討する前に、栄養バイオマーカーおよびリスクスコアの有用性を RCT で示し、栄養療法に反応する患者とそうでない患者を識別する必要がある。PermiT の RCT の post hoc 分析では、驚くべきことに、低プレアルブミンだけが栄養制限やの潜在的有益性を予測した。mNUTRIC スコア、トランスフェリン、リン酸塩、尿中尿素窒素、窒素バランス、および BMI は、低栄養許容と標準栄養の反応が異なる患者を同定するものではない。同様に、EPaNIC(BMI、NRS-2002、外科的 v.s. 内科的緊急入院、APACHE II スコア、敗血症)、EFFORT(BMI、mNUTRIC、敗血症)、またはTARGET(BMI)の RCT において、以前栄養リスクと関連づけられた人口統計学的特性は、栄養介入に対する反応の異なるサブグループの同定に役立たなかった。栄養リスクが高い群および栄養リスクが低い群(mNUTRIC ≧5、n = 106 および mNUTRIC<5、n = 44)に層別化した後にランダム化した ICU の重症患者において、14 日目および 28 日目の生存率、人工呼吸器、ICU、または病院依存に関して、栄養補給と完全栄養補給の間に差は示されなかった。NRS-2002、mNUTRIC、または 70 歳以上の年齢に基づいて栄養リスクが高いとみなされた患者における 2 年生存率および SF-36 身体機能は、EPaNIC RCT の大規模追跡研究(n = 3,292)において、1 週間の経静脈栄養の差し控えによって損なわれなかった。

まとめると、重症患者における栄養サポートの指針となる有効なツールが不足している。現在利用可能な栄養リスク測定法はいずれも、ICU において栄養サポート戦略の恩恵を受けられる患者を同定できていない。新たに発表された SCREENIC スコア (6 つの基本的な臨床的特徴に基づいて評価) や最近推進された Global Leadership Initiative on Malnutrition(GLIM)基準は、ICU でこれらのツールを使用する前に、RCT で性能が異なるかどうかを調査する必要がある。

死亡率や ICU 依存度だけでなく、患者中心の機能的アウトカムを用いて栄養介入を評価することは重要である。ICU における筋力低下は、覚醒し協力的な患者では Medical Research Council Sum Score によりベッドサイドで評価され、長期的な合併症率を予測する。しかし、死亡や ICU からの退室といったイベントの存在は、このような評価を複雑にする。経静脈栄養に依存している ICU 患者 119 人に対し、アミノ酸を 1.2 g/kg を投与した場合、0.8 g/kg 投与した場合と比較して早期の握力が改善した。しかし、おそらく偶然によるものであろうが、低タンパク群で死亡率がわずかに低かったことを補正すると、握力の増加は有意ではなかった。モニタリングおよび栄養指導に生物学的反応 (biological response) を用いることは自明のことのように思われるが、臨床実践はもちろんのこと、RCT 中に実施するのは困難であり、解釈ミスのリスクがある。表 1 に、侵襲的な機械的換気を行っている患者における栄養サポートの重要な側面を示す。

表 1. 機械的換気を行っている患者における栄養サポートのポイント

栄養補給のルート
ICU における経腸栄養
経腸栄養 (enteral nutrition) は、食事ができないが、消化管が機能している患者における栄養サポートのための好ましい治療法である。経腸栄養は通常、ポンプを使用して経鼻胃管から持続的に投与される。副鼻腔炎および粘膜損傷のリスクを最小限に抑えるには、細径チューブ(14 フレンチ以下)が望ましい。経腸栄養の投与を開始する前に、先端が胃の中央に来るようにチューブを留置することを確認する必要がある。チューブの位置は、胸部 X 線写真、気腹法、経口 CO2 測定、pH 検査、超音波検査で確認できる。盲検下チューブ挿入後の胸部 X 線撮影は最も信頼性の高い方法であり、依然としてゴールドスタンダードである。等浸透圧、等カロリー、正常タンパク質の高分子製剤は必要な栄養素をすべて供給するため、少なくとも重症の最初の 1 週間は望ましい選択肢である。ICU 患者を対象とした観察研究およびランダム化研究の最近のメタアナリシスでは、食物繊維 (dietary fiber) を含む経腸栄養液は、他の有害事象を増加させることなく、下痢の発生率および重症度の低下と関連することが示された。エビデンスの強さは低いまたは非常に低いと評価され、すべての研究はサンプルが少なかったため、食物繊維を含む経腸栄養製剤について十分な検出力を有する質の高い RCT によってこの所見を確認すべきである。カロリーやタンパク質の高い製剤など、その他の製剤は明確な効果を示しておらず、胃腸合併症を増加させる可能性がある(表 2)。

表 2. ICU 入室患者における経腸栄養を改善させる 10 の推奨
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ほとんどの患者において、経腸栄養は、所定のエネルギー摂取量を達成するのに必要な流量で安全に開始することができる。24 時間周期で栄養ポンプを使用して経腸栄養を持続的に投与することは、一般的な方法である。持続栄養の目的は、耐容性を改善し、誤嚥のリスクを減少させることである。しかし、間欠的投与またはボーラス投与は、持続栄養で遭遇する頻繁な中断を回避できるため、栄養供給においてより生理的で効果的である可能性がある。間欠的経腸栄養はまた、タンパク質合成を刺激する上で、連続栄養よりも効果的である可能性がある。連続栄養と比較して、間欠栄養(およびおそらくさらに大きな程度での間欠的絶食)は概日リズムのリセットを助け、消化管の運動、胆嚢および膵の機能、および栄養吸収を調節する食後消化管ホルモンの分泌を刺激する。しかしながら、最良の経腸栄養タイムスケジュールに関する質の高い RCT からのデータは依然として限られている。第 2 相単盲検 RCT(n = 92)では、間欠的経腸栄養は、栄養目標(25 kcal/kg/日および 1.2 g タンパク質/kg/日)の達成度は改善されたものの、持続的経腸栄養と比較して筋肉量(主要アウトカム)の維持とは関連しなかった。ICU 患者を対象とした観察研究およびランダム化研究の最近のシステマティックレビューでは、持続的経腸栄養と間欠的経腸栄養は、ほとんどのアウトカムについて臨床的に関連する差を示さなかった。

合併症
重症患者における早期経腸栄養の最も一般的な合併症は、上部消化管不耐症 (upper gastrointestinal intorelance) であり、これは胃運動低下および胃排出遅延に関連するが、経腸栄養不耐症の定義は研究によって異なる。胃排出遅延は、胃残量の増加、胃食道逆流、上気道への栄養剤の逆流、かつ/または嘔吐につながる可能性があり、人工呼吸中の患者の最大 40%で発生する。ある RCT では、胃残量をモニタリングしなかった場合、嘔吐が多くなるにもかかわらず、人工呼吸器関連肺炎のリスクは増加しなかったことから、胃残量と人工呼吸器関連肺炎との関連はおそらく因果関係ではないことが示されている。経腸栄養不耐性を管理するには、経腸栄養を中止するか、または大幅に減らす必要がある。メトクロプラミド (metoclopramide) またはエリスロマイシン (erythromycin) などの運動促進薬は、経腸栄養不耐症を有する重症患者において胃排出を増加させ、嘔吐を減少させることが示されているが、質の高いエビデンスが不足しているため、その使用については依然として議論の余地がある。したがって、運動促進薬は、安定期にあり、腸閉塞の証拠はないが不耐症が持続する患者においてのみ適切である可能性がある。

経幽門栄養 (transpyloric feeding) または小腸栄養 (bowel feeding) は、重症患者の潜在的に運動低下した胃をバイパスできるという理論的利点がある。ICU 患者を対象とした最近の 2 件の RCT のシステマティックレビューおよびメタアナリシスでは、経幽門栄養は胃経管栄養と比較して、肺炎発生率の低下およびカロリー供給量の増加との関連が示唆されたが、侵襲的機械的換気期間、ICU 滞在期間、死亡率などの他の臨床転帰に関する有益性は示されなかった。したがって、経幽門栄養は通常、胃栄養に対する不耐性が持続し、証明されている患者にのみ行われる。

経鼻胃管 (nasogastric tube) または経口胃管 (orogastric tube) による長期栄養補給は、院内副鼻腔炎、鼻および食道潰瘍、胃食道逆流、院内肺炎などのいくつかの合併症と関連している。これらの合併症は、経皮的胃瘻造設術 (percutaneous gastrostomy) のほうが少ない可能性があり、経皮的胃瘻造設術はまた、栄養補給の中断率の低下および患者の快適性の向上とも関連している。その結果、経皮的胃瘻造設術は、長期の栄養サポート(30 日超)が必要と予想される患者に推奨されている。しかしながら、嚥下障害または嚥下困難があり、栄養サポートの適応がある成人における RCT のシステマティックレビューでは、経鼻腸管栄養と経皮的胃瘻造設術による栄養補給の間で死亡率、合併症、肺炎、栄養状態に差はみられなかった。 ICU の患者では、この 2 つの経路を比較した信頼できる研究はない。胃瘻からの経腸栄養は、経鼻胃管に関連した不快感や合併症を経験し、十分な食事がとれず、そのため長期の人工栄養が必要と予想され、栄養リスクが高く、長期療養施設への退院が予想される重症生存者に対して考慮できる。 この戦略は、COVID-19 のパンデミックの際にも用いられた。

処置前後に経腸栄養が中断されることは多く、しばしば正当化されず、栄養不足につながることがある。専用の経腸栄養プロトコールは、処置中の経腸栄養中断を最小限に抑えるのに役立つ。以前の観察研究では、腹臥位 (prone positioning) または体外膜酸素化 (extracorporeal membrane oxygenation: ECMO) を必要とする患者における経腸栄養不耐性の高い有病率が証明されている。現在までのところ、これらの患者集団において経静脈栄養よりも経腸栄養を優先することを決定的に支持する高レベルのエビデンスは存在しない。抜管前に、経腸栄養はしばしば 4~6 時間停止される。しかし、クラスターランダム化比較試験では、抜管まで経腸栄養を継続した場合でも、胃管持続吸引を行いながら 6 時間の絶食後に抜管した場合と比べて 7 日間抜管失敗率は劣らないことが証明された。そのため、抜管前に絶食にするプラクティスについては疑問視されている。さらに、この試験で経腸栄養を継続した患者は、より早く抜管され、ICU での滞在期間がより短かった。

ICU における経静脈栄養 (parental nutrition)
経静脈栄養は、腹部手術後を含む長期(1 週間以上)の消化管機能障害を有する患者に適応となる。多室バッグに包装された市販の三元混合栄養剤 (ternary admixture) は、3 大栄養素をすべて提供しており、配合非経口栄養製剤 (compounded parental nutrition formulation) の代わりに使用されることが多くなっている。配合非経口栄養製剤の理論的な利点は、個々の患者のニーズに合わせて改良されることである。すぐに使用できる三元製剤には、操作の軽減、作業負担の軽減、および患者のリスクの軽減という理論的利点がある。標準化された三元栄養製剤は、電解質の有無にかかわらず、末梢静脈投与および中心静脈投与用に設計された製剤で入手可能である。ただし、これらの溶液にはビタミンおよび微量元素が欠乏していることが多いため、各患者の必要性に応じて個別に供給する必要がある。経静脈栄養のみで栄養補給を行っている患者では、高カロリーおよび高タンパク質摂取のために高浸透圧溶液を使用する必要があり、静脈損傷かつ/または血栓症のリスクを最小限に抑えるために、中心静脈カテーテルまたは末梢挿入中心静脈カテーテル (peripherally inserted central catheter) を介して投与すべきである。

ICU患者における栄養経路選択の基準
実験的および観察的臨床研究では、経腸栄養が免疫機能および消化管の組織構造と機能の維持に及ぼす有益な効果を支持している。経腸栄養は、ICU 入室後 24~48 時間以内の早い時期に開始すると、利益が最大になる可能性がある。早期の経腸栄養は、多臓器不全および院内感染率、ICU および入院期間、死亡率の減少などの転帰の改善と関連している。低レベルのエビデンスを提供する多数の観察研究およびメタアナリシスにより、経静脈栄養と比較した経腸栄養の有益な効果が示唆されている。経腸栄養に不耐性の患者において、重症の最初の 1 週間に 25~35 kcal/kg/日を達成するように追加される補助的な経静脈栄養は、ICU での入院期間の延長および感染率の上昇と関連しており、急性期には避けるべきである。両群とも多くの患者が経腸栄養と経静脈栄養の両方を受けたため、この研究結果の解釈が妨げられた。経腸栄養に対する相対的禁忌を有する患者を早期経静脈栄養または標準ケアのいずれかにランダム化した場合、主要転帰である 60 日目の死亡率に差がないことを明らかにした。SPN 試験は、305 人の患者を対象に間接熱量測定により経静脈栄養を評価し、経腸栄養単独と比較して患者中心の転帰に影響がないことを明らかにした。主要アウトカムは、8 日目から 28 日目までの院内感染であり、それ以前の感染は考慮されていないため、解釈に課題がある。

最近の 2 件の大規模ランダム化試験、CALORIES および NUTRIREA-2 では、重症の急性期における経腸栄養と経静脈栄養が比較され、主要アウトカムである死亡率、および二次感染や入院期間などの主な副次的アウトカムに差はみられなかった。ショックに対して侵襲的な機械的換気および血管作動薬が投与された患者を含む NUTRIREA-2 では、経腸栄養による腸虚血のリスク増加に関する懸念が提起された。その結果、最近の米国のガイドラインでは、重症の急性期には経静脈栄養または経腸栄養のいずれかを推奨し、個別の患者評価および転帰の注意深いモニタリングの必要性を強調している。急性期以降(すなわち、NUTRIREA-2 試験のようにショックが消失した場合)には、禁忌のない患者では経静脈栄養よりも経腸栄養を優先すべきである。

Refeeding-RCT、SPN 試験、PermiT、EPaNIC および他の多くの RCT のように、主要栄養素が経静脈的栄養または経腸栄養のいずれで提供されるかに関係なく、少なくとも推奨 1 日許容量と同量のビタミンおよび微量元素を十分に投与しなければならない。継続的な腎代替療法を受けている患者、皮膚および軟部組織の病変が拡大しているために入院している患者、または微量栄養素の損失が大きい他の因子を有する患者では、高用量の投与が考慮されるべきである。約 1500 kcal/日を供給する経腸栄養には、推奨される 1 日の許容量をカバーするのに十分な微量栄養素が含まれている。経静脈栄養に加えて微量栄養素を静脈内投与するためのプロトコールは、微量栄養素間の潜在的相互作用、安定性、および日光への暴露を考慮すべきである。

栄養サポートのタイミング
経腸栄養のタイミング
クリティカルイルネスは、透過性の亢進を伴う萎縮性腸粘膜変化、腸免疫機能障害、および栄養吸収の低下など、消化管の構造的および機能的な複数の変化をもたらす。これらの変化により、毒性メディエーターの移行が可能になり、遠隔臓器障害および多臓器不全の一因となる。動物モデルおよびヒトでの研究は、経腸栄養が遅れるとこれらの変化がより重篤になることを示している。また、早期の経腸栄養は、ICU での最初の 1 週間に急速に蓄積する栄養欠乏を緩和しうる。RCT のシステマティックレビューによると、早期の経腸栄養(ICU 入室後 24~48 時間以内に開始)は臨床転帰に有益な効果をもたらす。しかし、組み入れられた試験の中にはバイアスのリスクが高いと考えられるものもあり、早期経腸栄養の至適量について論じたものはなかった。それにもかかわらず、臨床実践ガイドラインでは、裏付けとなるエビデンスの確実性が低いか非常に低いにもかかわらず、ICU 入室後 24~48 時間以内の経腸栄養開始が推奨されている。専門家のコンセンサスでは、制御不能なショック、重度の上部消化管出血、腸虚血、または腹部コンパートメント症候群の患者において経腸栄養の開始を遅らせることを支持している。表 3 は、特殊な状況における経腸栄養開始の推奨事項をまとめたものである。

表 3.
経口摂取ができず、経腸栄養の禁忌がない重篤患者における経腸栄養の開始時期についての推奨
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エネルギーとタンパク質の目標はどの程度早く達成されるべきか?
複数の RCT が、重症時にはエネルギーとタンパク質の必要量を速やかに満たすべきであるという推奨に異議を唱えている。多施設共同 RCT では、最大 14 日間エネルギー摂取量を推定目標値の 40~60%に、または最大 6 日間エネルギー摂取量を15~25%に制限した場合、目標値どおりのエネルギー摂取量と比較して同様の転帰が得られた。後ろ向き観察研究である PROTINVENT (Timing of PROTein INtake and clinical outcomes of adult critically ill patients on prolonged mechanical VENTilation) 研究では、タンパク質摂取量と死亡率との関連に時間依存性があることが明らかにされた。すなわち、蛋白質摂取量を 1~2 日目の 0.8g/kg/日未満から 3~5 日目に 0.8~1.2g/kg/日、5 日目以降に 1.2g/kg/日以上に増やすと、6 ヵ月死亡率が最も低くなった。別の後ろ向き観察研究である PROCASEPT (Association of PROtein and CAloric Intake and Clinical Outcomes in Adult SEPTic and Non-Septic ICU Patients on Prolonged Mechanical Ventilation) では、主要栄養素摂取量と転帰の関連は、敗血症の患者とそうでない患者で異なることが示唆された。敗血症患者では、後期(4~7 日目)の中程度の蛋白摂取量(0.8~1.2 g/kg/日)および後期の高エネルギー摂取量(>110%)が生存率の向上と関連していた。敗血症のない患者では、早期(1~3 日目)の高タンパク質摂取(>1.2 g/kg/日)は 6 ヵ月死亡率の上昇と関連し、3 日目以降の中または高タンパク質摂取(>0.8 g/kg/日)は転帰の改善と関連した。これらのデータを総合すると、主要栄養素の摂取量には時間依存性があることが示唆され、これは同化スイッチの発生時期と関連している可能性がある。さらに、ショックのない機械的人工呼吸患者を対象とした RCT では、目標経腸栄養流量を早期に達成すると、段階的に達成した場合と比較して、重篤な有害事象を増やさずに経腸栄養供給 (enteral nutrition delivery) が増加した。ただし、消化管不耐性を示唆する消化管機能改善薬 (prokinetic) の使用は多かったことが示されている。高リスク患者において、経腸栄養を目標カロリーまで急速に増加させると、代謝不耐性につながる可能性があり、これは長期転帰の悪化と関連している。したがって、臨床実践ガイドラインでは、この戦略を評価する RCT が存在しないにもかかわらず、最初の数日間にわたって経腸栄養量を徐々に増加させることが推奨されている。したがって、栄養投与の目標量に到達するための最適なスケジュールは依然として不明確であり、おそらく患者によって異なる。いつ主要栄養素の供給を増加させるべきかを示す指標を同定する必要がある。

経腸栄養を中止するタイミング
経腸栄養は通常、患者が挿管されている間は継続され、食事ができないと予想される患者では抜管後も維持されることが多い。抜管後、経口栄養の候補者は、ベッドサイドで嚥下機能の多段階評価を受けるべきである。嚥下に障害がある場合、または食事で必要な栄養の 75%以上を摂取できない場合は、経腸栄養を継続すべきである。

重症患者の特定のサブグループ
重症患者のサブグループによっては、特別な摂食戦略が有益な場合がある。EFFORT-PROTEIN 試験のサブグループ分析では、急性腎不全を有するが腎代替療法を受けていない重症患者において、タンパク質制限が転帰を改善する可能性が示唆されている。

重症または病的肥満のある重症患者に対して、アメリカのガイドラインは、低カロリー・高タンパク質目標を推奨しているが、その裏付けとなるエビデンスは限られている。EFFORT-PROTEIN 試験の最近の再解析では、肥満患者において高タンパク質摂取による有益性は認められなかった。通常のタンパク質摂取量(≦1.2 g/kg/日)では、高タンパク質摂取量(≧ 2.2 g/kg/日)よりも生存退院までの期間が短かった(ハザード比、0.6;95%信頼区間、0.4~1.0)。

リフィーディング症候群 (refeeding syndrome) は、長期間にわたって主要栄養素の摂取量が非常に低い状態にあった患者が、通常またはそれに近い摂取量に戻ったときに起こる、よく知られた生命を脅かす可能性のある代謝障害である。低カリウム血症、低リン酸血症、低マグネシウム血症、高血糖、インスリン抵抗性、水分貯留・浮腫などの症状が現れる。診断基準については議論が続いているが、栄養投与開始後に低カリウム血症、低リン酸血症および/または浮腫を発症した高リスク患者は、リフィーディング症候群であると考えるべきである。数日間、または血清カリウム値もしくはリン値、またはその両方が回復するまで、タンパク質とカロリーの摂取量を低レベルまで減少させるべきである。オーストラリアとニュージーランドの 13 の ICU で、成人 339 人を対象とした多施設、単盲検、RCT において、この戦略により 6 ヵ月死亡率が低下した。低リン血症の患者におけるカロリー制限は、ICU 退院後の生存日数を増加させなかったが、60 日目の生存率(91% v.s. 78%, P = 0.002)と全生存期間を改善した。

非閉塞性腸間膜虚血 (non-occulusive mesenteric ischemia) は、重篤な循環不全を伴う ICU 患者の最大 30%が罹患し、壊死性腸炎 (necrotizing enterocolitis) を引き起こす可能性があり、その死亡率は 70~100%である。 主な原因は、臓器不全(心原性ショック、敗血症性ショック、急性呼吸窮迫症候群)、患者の特性(既存の心血管疾患、慢性腎不全)、および薬物(カテコールアミン、血管収縮薬、循環作動薬)である。経腸栄養が非閉塞性腸間膜虚血の発症に関与するかについては、依然として議論の余地がある。NUTRIREA-2 試験では、20~25 kcal/kg/日の経腸栄養を投与された患者は、ICU での最初の 7 日間に経静脈栄養のみを投与された患者と比較して、腸虚血のリスクが 4 倍増加した。しかし、全体的な割合はいずれの栄養戦略でも低く、経腸栄養の流量が転帰に影響した可能性がある。血圧維持のためにカテコールアミンを投与されている患者において、腸管の機能維持目的の低流量の経腸栄養(500 kcal/日以下)が腸灌流に影響を及ぼしうるかどうかについては、さらなる研究が必要である。

栄養サポートに対する集学的かつ包括的なアプローチ
栄養サポートの実践は、ICU 間、同じ病院内、同じ ICU 内の医療提供者間で異なる。多くの ICU では、BMI、クリティカルイルネスの状態、併存疾患、および進行中の臓器機能不全などの患者固有の要因を考慮せずに、カロリーおよびタンパク質の摂取量が決められている。これらの事実は、栄養サポートの多くの側面に関するエビデンスの欠如、手順の複雑さ、および関与する医療提供者の人数などの複数の要因に起因している。さらに、経腸栄養およびその管理に対する不耐性は、しばしば栄養サポートの中断および中止につながる。また、腹臥位での体位変換、ICU 外への搬送、ECMO の設定、および理学療法のための動員などの他の ICU 処置との兼ね合いにより、しばしば栄養補給が中断される。長期の挿管や筋力低下に関連する嚥下障害のリスクを考慮すると、抜管後の経口摂取の再開については注意が必要である。ICU からの退室は、医療チーム、習慣 (habit)、プロトコルが変わることで、ケアの連続性が途切れることを意味する。

このような課題は、医師、看護師、栄養士、理学療法士など、日々のベッドサイドケアに密接に関わるさまざまな分野の ICU スタッフが参加する、包括的かつ集学的な共同アプローチを反映したプロトコルの必要性を強調している。このようなアプローチは実行可能であり、ICU 患者の栄養補給を改善した(表 2)。1,118 人の重症患者を対象とした多施設共同 RCT では、ガイドラインに基づいた多面的プログラムの方が標準ケアよりもエネルギー目標を達成する頻度が高かったが(平均、6.10 日対5.02 日/10 食;差、1.07, 95%信頼区間 0.12~2.22;P = 0.03)、死亡率や ICU および入院期間は変わらなかった。管理栄養士 (dietitians) は、重症患者の栄養管理において中心的な役割を果たしている。最適なアプローチに関する質の高いエビデンスが不足しているため、ICU 患者の食事摂取量を正確に定量化することは依然として困難である。コンピュータ支援型意思決定支援システム (computer assisted decision support system) の使用は、標準的な栄養モニタリングおよび処方と比較して、モニタリングの強化、栄養処方の標準化の改善、および摂取量と処方との間の不一致の減少に関連している。簡易食物摂取評価尺度 (the Simple Evaluation of Food Intake scale) は、抜管および ICU からの退院後の経口摂取量のモニタリングに信頼できることが判明している(言語アナログ式簡易食物摂取評価尺度とエネルギー摂取量との相関: スピアマンの相関係数 0.74; P <0.0001)。カロリーおよびタンパク質の目標値を達成するための食物摂取モニタリングと個別化された栄養サポートを組み合わせた戦略は、クリティカルケア以外での転帰の改善と関連している。EFFORT(Effect of early nutritional support on Frailty, Functional Outcomes, and Recovery of malnourished medical inpatients Trial:栄養不良の医療入院患者の虚弱、機能的転帰、および回復に対する早期栄養サポートの効果に関する試験)では、栄養リスクのある非重症の医療病棟患者において、食事相談を伴うプロトコル指導による個別化栄養支持と標準ケア(食事相談なし)とが比較された。30 日目の全死因死亡、ICU 入室、非選択的再入院、重大合併症、または機能的状態低下の複合主要アウトカムは、介入群 1,015 人の 23%に対して対照群 1,013 人の 27%で観察された(調整オッズ比、0.79;95%信頼区間 0.64~0.97;P = 0.023)。30 日目の死亡率は介入群で低かった(0.65;0.47~0.91;P = 0.011)。

栄養およびモビリゼーション (mobilization) を含む長期的リハビリテーション
重症患者における栄養サポートの目標は、短期的な生存率の向上だけでなく、長期的な生存率の向上、機能的および認知的状態の改善、生活の質 (quality of life: QOL) の向上に及ぶ。ICU 入室後の衰弱は、ICU 退室後 5 年までの QOL の低下を伴う機能的改善速度の遅れなど、短期および長期の合併症と関連している。現在までのところ、ICU における栄養サポートに関する介入に関する RCT のうち、長期的に機能的、認知的、または QOL の転帰に対する有益性を実証したものはない。同様に、早期モビリゼーションは侵襲的な機械的人工呼吸の期間および ICU 滞在期間の短縮との関連は認められず、死亡率または長期的な身体的転帰には影響を及ぼさなかった。早期モビリゼーションと作業療法を組み合わせたケアを通常のケアと比較評価した RCT では、1 年後の長期認知機能障害(24% v.s. 43%;絶対差 -19.2%;95%信頼区間 -32.1~-6.3;P = 0.004)および ICU 入室後の体力低下(0% v.s. 14%;-14.1%;-21.0~-7.3;P = 0.0001)の割合が減少した。しかし、単一施設での結果であることから、さらなる評価が必要である。大規模な多施設共同 RCT では、早期モビリゼーションの有益性が再現されなかったが、これはおそらく、通常ケアの患者が比較的多くの理学療法を受けていたためであろう。有害事象が早期モビリゼーション群でより多くみられたことは問題である。

ICU 入室後の衰弱は、重症患者に関連した栄養不足、無動、炎症に起因する早期の筋力消耗という複雑な疾患である。ICU 入室後の衰弱は重症患者のごく早期から始まり、急性期治療後の改善は非常に緩やかで、重症度や改善率には個人差がある。長期的なリハビリテーションが目標であることを考えると、ICU での滞在に限定した介入や栄養サポート戦略だけでは不十分である可能性がある。現在までのところ、ICU 退室後に適用される栄養戦略を評価した RCT は発表されていない。さらに、栄養サポートとモビリゼーションを同時に行う必要があることから、これら 2 つの介入はおそらく、包括的で個別化されたアプローチの中で併用されるべきである。健康であるがサルコペニアである患者では、アミノ酸補給と身体運動の併用により筋肉量が改善する可能性がある。したがって、ICU に入院している患者には、栄養サポートや、可動性を促進し、心理的ウェルビーイングを最適化し、適時の職場復帰を促進し、痛みや美容上の障害などの後遺症の影響を最小限に抑えるようにデザインされた介入を含む、多面的なリハビリテーションプログラムが必要であろう。このようなプログラムの評価は現在進行中である。

中低所得国における重症患者の栄養サポート
重篤な患者の栄養に関する利用可能なデータは主に高所得国のものであり、中低所得国(low and middle income countries: LMICs)には当てはまらない可能性がある。 最近のレビューでは、LMICs において利用可能な栄養評価ツール(NUTRICスコア、BMI)を使用する際の課題が浮き彫りにされ、栄養不良を検出するために上腕中腕周囲径を測定することの実行可能性が支持されているが、この観察にはさらなる検証が必要である。市販の経腸栄養製品へのアクセスも LMICs では限られており、低コストの経腸栄養製剤を調製するために地元産の原材料が使用されることが多い。LMICs における栄養実践を改善するための世界的な品質および研究イニシアティブが必要である。

新たな治療法
過去 20 年間で、重症患者に対する最適な栄養サポートに関する理解はかなり進歩した。オートファジー、同化抵抗性および代謝抵抗性は、新たに報告された現象であり、その病態生理学および栄養介入との相互作用は調査に値する。

新しいデータは、すべての重症患者に同じ栄養サポート戦略を使用しても、転帰を顕著に改善する可能性は低いことを示している。今後の戦略は、特に併存疾患に関して個々の患者に合わせて調整されるべきであり、急性およびその後の重症疾患の経過、特に臓器不全の存在および重症度によって指示されるように、経時的に変更されるべきである。栄養サポートの恩恵を受けそうな患者を同定し、最適な栄養戦略を決定するためには、より優れた栄養リスク評価ツールおよび新たなバイオマーカーが必要である。理学療法と同化補助療法の組み合わせなどの個別化された栄養サポート戦略を、大規模で実際的な RCT において現在の標準治療と厳密に比較すべきである。特定の患者サブグループにおけるさまざまな主要栄養素の投与法の効果の違いの根底にあるメカニズムを明らかにすべきである。テストステロン、β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸、ケトンエステルなどの同化促進薬を追加することで、筋肉量と機能が改善する可能性がある(ISRCTN13903536, NCT05825092)。

ガイドライン
このレビューでは、米国経静脈および経腸栄養学会(ASPEN、米国)、欧州臨床栄養代謝学会(ESPEN)、および欧州集中治療医学会(ESICM)のガイドラインを検討した。欧州のガイドラインは経腸栄養を優先治療として推奨しており、米国のガイドラインは 2 件の大規模 RCT の知見に基づいて、ICU での最初の 1 週間は経静脈栄養または経腸栄養のいずれかを推奨している。目標カロリーの決定について、欧州のガイドラインは間接熱量測定の使用を推奨しており、米国のガイドラインはキロカロリー/kg/日を推定する方程式の使用を推奨している。なお、ESPEN は日常診療におけるガイドラインの遵守が限定的であることを認めている。

結論
栄養サポートは、栄養状態の維持または回復、腸機能の改善、感染症、筋力低下、認知機能低下、衰弱などの合併症の予防に役立つという前提のもと、クリティカルケアの要となっている。しかしながら、これらの目標を達成するための最適な栄養戦略は依然として不明確であり、さらなる研究が必要である。栄養支持の最適な経路および種類はおそらく、各患者の臨床状態、消化管機能、および栄養ニーズに従って個別に決定されるべきである。最近の RCT は、早期の積極的な栄養補給アプローチに異議を唱えている。低カロリーおよび低タンパク質摂取を含むより保守的なアプローチが、回復を促進することが示されている。新たなエビデンスは、重症の生存者における長期的な生活の質の改善を目的として、早期および長期の身体的リハビリテーションを組み込んだ個別化プログラムを支持している。その有効性と安全性を検証するための前向き研究が必要である。

今後の研究課題
·重症患者の異化期と同化期の生物学的マーカーを特定できるか?

·筋肉の消耗および回復に関連する機序、ならびに栄養介入およびモビリゼーションとの相互作用を解明できるか?

·重篤な疾患のさまざまな段階および重症度レベル、基礎疾患、および患者の栄養状態の変化に応じて、栄養戦略を調整することができるか?

·同化促進薬は重症後の筋力回復を改善できるか?

·栄養とモビリゼーションを組み合わせた個別化リハビリテーションプログラムは、重症後の回復の改善に役立つか?

·栄養戦略およびリハビリテーションプログラムの有効性を評価するための最も有効で信頼できる結果を定義できるか?

元論文
https://www.bmj.com/content/388/bmj-2023-077979?utm_campaign=usage&utm_content=tbmj_sprout&utm_id=BMJ005&utm_medium=social&utm_source=twitter

集中治療室における鎮静

2024-10-10 08:01:56 | 集中治療
集中治療室における鎮静
Curr Anesthesiol Rep 2021; 11: 92-100

レビューの目的
このナラティブレビューは、集中治療室における機械的人工呼吸を受けた成人患者に対する鎮静に関する過去 5 年間の文献を説明するものである。

最近の知見
デクスメデトミジン (dexmedetomidine, 商品名: プレセデックス) に関する文献は増加しているが、システマティックレビューではデクスメデトミジンがせん妄 (delirium)、興奮 (agitation)、および在院日数を減少させることが示唆されているものの、臨床試験ではこれらの知見は支持されていない。デクスメデトミジンは、興奮が持続する患者の管理に有用であると思われる。ガイドラインでは、患者を軽く鎮静することが推奨され続けているが、臨床現場や研究試験においてかなりのばらつきがある。鎮静剤を注入せず、必要に応じてモルヒネを増量するプロトコールは実行可能で安全であり、教育的介入は鎮静関連の有害事象を減少させることができる。

概要
研究試験は主に、実践よりも個々の薬剤に焦点を当てている。深い鎮静と興奮に関する臨床医の懸念を理解し、それに応えるための努力が必要である。

はじめに
集中治療における機械的人工呼吸を受けた患者に対する鎮静に関する全てのエビデンスに基づく国際的なガイドラインにおいて、推奨は一貫している。米国、南米、イベリア、ドイツ、英国の指針はすべて最小限の鎮静を推奨している。目標は、臨床的に深い鎮静が必要でない限り、患者が容易に覚醒し、良好な疼痛コントロールで快適に過ごせることである。

2016 年以降、鎮静関連の文献は、デクスメデトミジンを中心に、一般的に使用されている鎮静薬の安全性と有効性、およびプロトコールやバンドルの有効性を決定することに焦点が当てられている。このナラティブレビューでは、一般的な鎮静薬と鎮静導入プロトコールに関する過去 5 年間の知見を概説する。

ガイドライン
機械的に人工呼吸された重症患者に最適な鎮静を一貫して提供するために、多くのガイドラインやケアのバンドルが設計または更新された。

重症治療学会(Society of Critical Care Medicine)は、2015 年 10 月までの出版物を含む 2013 年の疼痛、興奮、せん妄ガイドラインの 2018 年の更新に、不動性(移動/リハビリテーション)と睡眠(崩壊)を追加した。リハビリテーション/モビライゼーションの介入は、リハビリテーション/モビライゼーションの開始基準と停止基準とともに、ICU で獲得した不動による筋力低下を軽減するために推奨された。睡眠を促進するために、換気量調節モードや騒音と光を軽減する夜間戦略など、多成分のプロトコルが推奨されたが、薬物療法に関する推奨はなかった。これらのガイドラインには、37 の実行可能な推奨と 2 つのベストプラクティス声明が含まれていた。その中で強い推奨は 2 つだけで、(i) 重症患者の神経障害性疼痛管理には、神経障害性疼痛治療薬(ガバペンチン、カルバマゼピン、プレガバリンなど)をオピオイドと併用すること、(ii) 処置時の疼痛管理には揮発性麻酔薬を使用しないこと、であった。

Pisani 博士、Devlin 博士、Skrobik 博士は、SCCM ガイドライン委員会が特定したエビデンスギャップを包括的に検討した論文を発表した。彼らは、ガイドライン委員会の勧告に関する前提が臨床実践と一致していないことを指摘した。重症患者における疼痛を評価し、効果的に管理する能力に対する臨床医の信念は、しばしばエビデンスに基づくガイダンスに優先する。オピオイドを持続的に注入した場合の疼痛コントロールの有効性については疑問が残り、オピオイド離脱 (withdrawal of opioid) の早期発見と予防については、小児集中治療では広く行われているが、重症成人では考慮されていない。せん妄評価の効果や、せん妄評価と、患者中心のアウトカム、治療決定および患者・家族・スタッフの満足度との関係を調査した質の高い試験は不足している。ガイドラインの実施方法の改善とともに、エビデンスギャップを考慮する必要がある。

鎮静の実際
機械的に人工呼吸されている成人および小児におけるプロトコルに基づく鎮静とプロトコルに基づかない鎮静の比較」についての 2018 年のコクランレビューでは、4 件の研究が含まれ、被験者は合計 3323 人(成人 864 人、小児 2459 人)だった。3 件の研究は単施設のランダム化比較試験(randomized control trial: RCT)であり、1 件の研究は多施設のクラスター RCT であった(後述の DESIST 試験を参照)。プロトコルに基づく鎮静法が人工呼吸期間、死亡率、集中治療室 (intensive care unit: ICU) 在室日数において有益であることを示すエビデンスはなかった。一方、在院日数が短くなる (平均差 -3.09 日、95%信頼区間 -5.08~-1.10) ことを示す中等度のエビデンスはあった。結論として、今後の研究では、バイアスのリスクを軽減するための方法論的戦略を用いて、異なる背景特性を考慮すべきである。

ABCDEF バンドル(痛みの評価、予防、管理;自発的覚醒と呼吸のトライアル;鎮痛剤と鎮静剤の選択;せん妄の評価、予防、管理;早期離床とリハビリテーション;家族の参加と支援)は、患者がより覚醒し、認知的に活動し、身体的に活動するような実践を促進することを目的としている。ゴードン&ベティ・ムーア財団の資金提供を受けた ICU 解放共同体は、このバンドルを実施するために、米国の質改善プロジェクトを実施した。このプロジェクトには、29 州とプエルトリコをカバーする 68 の ICU から 15,000 人の患者が参加した。ABCDEF バンドルの要素を毎日より多く受けた患者は、生存の可能性が改善し、昏睡、せん妄、身体拘束が減少し、人工呼吸器使用時間が短縮し、ICU 再入院が減少し、自宅退院の可能性が高かった。バンドル全体のパフォーマンスは 8%と低く、ABCDEF の 7 つの要素がすべて実施されたのは患者· 10 日あたり、 1 日 (1 in 10 patient days) だけであった。

DESIST 試験はスコットランドの 8 つの成人 ICU で実施され、鎮静の実践を改善するための 3 つの介入の有効性を評価することを目的とした。3 つの介入とは、1. 教育、2. 進行中の鎮静-鎮痛の質データの定期的なフィードバック、3. 顔面筋電図に基づく新しい鎮静モニタリング技術(Responsiveness Index: Ri)であり、過鎮静の可能性を警告するものであった。このクラスター RCT では、オンライン教育パッケージからの介入を 2 つのユニット毎に行った。教育パッケージは 4 つの組み合わせから選択され、最後の 2 つのユニットでは 3 つの介入すべてを実施した。彼らはその後、実施と関与における課題と障壁を明らかにするための質的研究の結果を発表した。

74-100%の看護師がオンライン教育を修了した。教育だけでは鎮静-鎮痛の質は改善しなかったが、鎮静関連の有害事象発生率(最も一般的なものは経鼻胃管チューブ抜去)はほぼ 50%減少した。患者に装着された Ri モニターには、緑色、黄色、赤色の数字(Ri)が表示され、過鎮静の可能性をチームに警告した。Ri が赤であった患者は 59%で、モニター時間の中央値 35%(四分位数範囲: 18-65%)にわたって赤のままであった。看護師は、Ri は鎮静を見直すのに有用なプロンプト (行動遂行の手がかり) であると報告したが、その有用性、妥当性、診療への影響、押しつけがましさ (intrusiveness) については意見が分かれた。

モニターの使用により、鎮静-鎮痛の質が 7%向上した。一方、鎮静の質についての定期的なフィードバックについては有意差は認めなかった。これはフィードバックのユニット内への普及が不十分で、その内容は日々のベッドサイドでの実践との関連性に欠けると考えられ、しばしば信じられていないためだと考えられる。予測モデリングにより、教育と反応性モニタリングの組み合わせにより、鎮静関連の有害事象を増加させることなく、最適な鎮静を行うシフトの割合が 10-11%改善することが結論づけた。定性的データから、ICU 間の介入への関与の違いによって、効果の一部が説明されることが示唆された。得られたメッセージは、プロンプトは過鎮静を見直すのに有用であること、教育は良いことであること、ICU の成績の良し悪しについてのフィードバックは変化につながらないことである。

BIS
脳波信号の処理に基づく Bispectral Index(BIS)モニターは、手術室での有益性が報告されており、深い鎮静時や麻痺時の鎮静スケールの制約を克服できる可能性がある。2018 年の Shetty らによる Cochrane レビューでは、ICU 鎮静における BIS の有用性を示すエビデンスは不十分であると結論づけられている。バーストサプレッション (burst suppression) を避けるために、麻痺している患者や深い鎮静状態にある患者の脳をモニターするために、さらなる研究が必要である。

バーストサプレッション
https://www.jaam.jp/dictionary/dictionary/word/0615.html

鎮静なし
鎮静は転帰を悪化させる可能性がある。そのため、人工呼吸を必要とする患者において、鎮静を行わないことが、毎日鎮静を中断する軽い鎮静と比べて生存転帰の改善につながるかどうかを判定することを目的として、多国籍 RCT(NONSEDA)が実施された。この試験は、2010 年に行われた単一施設での試験で有効性が示されたことに続くものであった。デンマーク(5 ヵ所)、ノルウェー(2 ヵ所)、スウェーデン(1 ヵ所)の 8 ヵ所の施設が、710 人の患者を、必要に応じてモルヒネをボーラス投与する鎮静剤注入なし群と、RASS -2~-3 のレベルを維持する鎮静剤注入群に無作為に割り付けた(図 1)。 プロポフォール (propofol) は 48 時間注入され、その後ミダゾラム (midazolam) に置き換えられ、毎日鎮静が中断された。

図 1. Richmond Agitation Sedation Scale (RASS)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8065316/figure/Fig1/

鎮静群では、RASS スコアの平均は初日 -2.3 点、7 日目には -1.8 点に増加し、非鎮静群では初日 -1.3 点、7 日目 -0.8 点であった。鎮静なし群では、38%の患者が入院中にレスキュー鎮静を受けた。両群間で 90 日死亡率に差はなかった。昏睡やせん妄のない日数は、軽い鎮静を行った群に対して鎮静を行わなかった群で 1 日多く、血栓塞栓イベントは鎮静を行わなかった群で 1 例(0.3%)と、鎮静群の 10 例(2.8%)と比較して少なかった。この試験では、対照(鎮静)群で軽い鎮静が維持されている点が印象的である。SPICE 3 試験(後述)では、最初の 2 日間を通して対照群の 45.6%で RASS スコアが -3~-5 であったと報告されている。NONSEDA では、親族の満足度に関する追跡調査が行われ、39 人(73%)から回答が得られたが、親族の個人的反応 (persnal reaction) やケア、治療、コミュニケーションに対する満足度に関して、群間に差はなかったと報告されている。

患者の経験
機械的人工呼吸を受けている成人 ICU 患者の質的研究で報告された患者の経験を理解するためのメタ分析には、2015 年から 2019 年にかけて発表された 9 つの研究が含まれ、主にスカンジナビア諸国から、175 人の患者が経験を報告していた。これらの研究は、ほとんどが現象学的-精神医学的アプローチに基づいており、2 件は混合法研究であった。重症患者は全体的に、(a) 身体システムへの強いストレス、(b) 否定的な感情的状況、(c) ICU でケアされているという感情、(d) 家族や恋人からのサポートに関する頼りない心持ち (sense of vulnerability) を経験している。結論としては、「ユニットレベルでも政策レベルでも、家族が患者と接することを促進し、家族が患者と一緒にいられる時間を最大限に確保し、交流を促すことを目的とした戦略が推奨される(例:患者の手を握る)。さらに、ベッドサイドで看護できるように適切な看護師対患者比率を確保することが強く推奨される。」である。

α 作動薬
クロニジン (clonidine)
重症成人における対照試験が不足しているため、クロニジンの使用を支持するエビデンスは乏しい。英国では一般的に使用されており、2016 年に発表された 2014 年の調査(回答率 91%)では、32.7%の病棟でクロニジンが非常に頻繁に使用されていることが報告されている。スウェーデンの調査では、臨床医が定期的にクロニジンを処方しており、その適応は軽い鎮静(32%)、非侵襲的換気(23%)、夜間鎮静(18%)であったと報告されている。

機械的人工呼吸患者を対象とした 2016 年 3 月までの研究についてのシステマティックレビューには、8 件の RCT が含まれ、うち 4 件は成人を対象としたものであった。6 件の試験ではクロニジンの静脈内投与が行われ、投与量は 0.88~3 μg/kg/h とばらつきがあった。1 つの試験ではクロニジンが唯一の鎮静薬として使用され、2 つの試験では人工呼吸期間が短い術後患者であった。著者らは、人工呼吸の期間、死亡率、ICU 滞在期間に差はなく、臨床的不均一性が高いことを報告した。クロニジンはオピオイドの総投与量を減少させるが、臨床的に重大な低血圧の発生率を増加させることが確認された(RR 3.11, 95% CI = 1.64-5.87, I 2 = 0%, 中程度の確実性)。当時 3 件の試験が進行中であったが、2 件 (NCT01139996 と NCT02509273) は患者のリクルートが困難であったため早期に中止された。

Cloesmeijer 氏らは、成人 ICU におけるクロニジン投与に関する最初の薬物動態モデルを開発した。彼らは、ICU での鎮静のための至適血漿中濃度を 1.5~4.0 μg/L と定義した。標準的な鎮静に追加して投与量を変えながらクロニジン静脈内投与量を行い、1200 μg/日で 1.5 μg/L 以上の目標鎮静濃度が得られたと報告した。ローディングドーズよりも、注入速度を 2 倍にして 6 時間投与する方がより効果的であり、血漿中濃度が急激に上昇することなく定常状態に達するまでの時間を 5 時間に短縮できるとしている。

デクスメデトミジン
重症の人工呼吸患者を対象としたデクスメデトミジンについてのシステマティックレビューとメタアナリシスは、質のばらつきがあるものの、さまざまな患者集団と転帰を対象とした disproportionate number が公表されている。

機械的人工呼吸からの離脱が困難な患者に焦点を当てた 2 件のシステマティックレビューでは、同じ 6 件の試験が使用された。このうちの 1 つはデクスメデトミジンの使用を示唆するエビデンスの質が低いと記述しているのに対し、もう 1 つはデクスメデトミジンが抜管までの時間の有意な短縮と ICU 在室日数の短縮に関連すると確信を持って結論づけている。敗血症患者を対象としたさらに 2 つのレビューでは、デクスメデトミジンが患者の短期死亡率を改善することを認めたが、この所見はその後の臨床試験では支持されなかった。心臓外科患者を対象とした 4 件のレビューでは、デクスメデトミジンの使用はせん妄と在院日数を減少させる可能性が高いが、徐脈の発生率は増加するという点で概ね一致している。重篤な神経疾患患者を対象とした 2 件のレビューでは、限られたデータを検討した結果、デクスメデトミジンの使用は安全であるようだと結論づけている。どちらのレビューもコホート研究を対象としており、一般に方法論としては強固ではないと考えられている。

Ng 氏らによる、ICU におけるデクスメデトミジンの興奮とせん妄に対する効果に関する 2019 年のシステマティックレビューとメタアナリシスは、新たな研究の発表に対応したものであった。対象となった 25 件の RCT のうち 20 件は、外科系 ICU に入院した患者を対象としたものであった。8 件の RCT(うち 6 件は術後患者)において、せん妄の発生率はオッズ比 0.36(0.26-0.51)で減少し、徐脈はデクスメデトミジンで 2 倍以上、低血圧は増加した(オッズ比 1.89)。

英国国立医療研究所 (the UK National Institute for Health Care Research) の資金提供により、鎮静のための α 作動薬の使用に関する包括的なシステマティックレビューが行われた。著者らは、合計 2489 人の成人患者を対象とした 18 件の試験を組み込んだ。彼らは、特に盲検化された結果評価者に関して、全体的なバイアスのリスクは高いか不明確であると評価した。ICU 滞在期間(平均差 -1.26 日、95%CI -1.96~-0.55 日、I 2 = 31%)と抜管までの期間(平均差 -1.85 日、95%CI -2.61~-1.09 日、I 2 = 0%)は、デクスメデトミジンを投与された患者で有意に短かった。デクスメデトミジンの使用は徐脈の高いリスクと関連していた(RR 1.88, 95%CI 1.28 to 2.77, I 2 = 46%)。

非侵襲的換気に対するデクスメデトミジンの使用については、2020 年 7 月 31 日までに発表された試験のシステマティックレビュー/メタアナリシスで検討された。12 の研究が対象となり、合計 738 人が参加した。あらゆる鎮静法またはプラセボと比較して、デクスメデトミジンはせん妄のリスク(絶対リスク減少 16%)および挿管と機械的換気の必要性(絶対リスク減少 16%)を減少させた。デクスメデトミジンの使用は徐脈(RR 2.80、95%CI 1.92~4.07、中程度の確実性)および低血圧(RR 1.98、95%CI 1.32~2.98、中程度の確実性)のリスク増加と関連していたため、デクスメデトミジンの有益性は、低血圧および徐脈の望ましくない影響と比較検討されるべきである。このレビューは方法論的に厳密であったが、各アウトカムについてプールされた研究数が少ないため、出版バイアスを検出するためのファネルプロットを調べることができなかった。

デクスメデトミジンと軽い鎮静
過鎮静は、抜管までの時間、病院死、180 日死亡率の独立した予測因子である。SPICE 3 試験は、デクスメデトミジンを軽い鎮静の主剤、可能であれば単独薬として使用する場合の効果を調査するための多国籍非盲検無作為化試験であった。主要アウトカムは、90 日後のあらゆる原因による死亡率であった。8 ヵ国の 74 の ICU が、4,000 人の患者をデクスメデトミジン投与群と通常治療群に無作為に割り付けた。鎮静の目標は、担当臨床医が深い鎮静の適応があると判断しない限り、RASS スコアが -2(軽い鎮静)~+1(落ち着きがない)とした。最終解析では 3904 例の患者が対象となり、90 日後の死亡率は両群で同程度であった。

臨床医は、初日に約 60%の患者が RASS-2 より深い鎮静を必要とした、すなわち短時間で声が出るようになった、と判断した。無作為化後最初の 2 日間で、RASS スコアが軽い鎮静の目標範囲(-2~+1)にあった割合は、デクスメデトミジン群で 56.6%、通常ケア群で 51.8%に過ぎなかった。論説では、軽い鎮静の利点に関するガイドラインや、深い鎮静のリスクを証明する十分に実施された臨床試験にかかわらず、信念が診療を左右し、その変化は遅い、と指摘している 。この研究では、全体的に患者は臨床医によって深い鎮静レベルに維持されていた。

臨床医は、初日に約 60%の患者が RASS スコア -2 (呼びかけで目覚める) より深い鎮静を必要としたと判断した。無作為化後最初の 2 日間で、RASS スコアが軽い鎮静の目標範囲(-2~+1)にあった割合は、デクスメデトミジン群で 56.6%、通常ケア群で 51.8%に過ぎなかった。論説では、臨床試験から軽い鎮静の利点や、深い鎮静のリスクは証明されているが、信念が診療を左右し、その変化は遅い、と指摘している。この研究では、全体的に患者は臨床医により深い鎮静レベルに維持されていた。

年齢中央値(63.7 歳)以下と年齢中央値以上の死亡率に関しては異質性があり、デクスメデトミジン群では若年患者の死亡率が高かった(リスク差 4.4(95%信頼区間 0.8~7.9))。この差の有意性は決定できず、さらなる解析が待たれる。

デクスメデトミジンと敗血症
2010 年の MENDS 試験のサブグループ解析で、ロラゼパムではなくデクスメデトミジンを投与した敗血症患者の死亡率が改善したことが報告され、イタリアの大学病院で革新的な試験が実施された。この試験は、敗血症性ショック患者において、プロポフォールからデクスメデトミジンに切り替えることでノルアドレナリンの必要量が減少するかどうかを調べることを目的としていた。RASS スコア -3, -4 の深い鎮静が必要な機械的人工呼吸患者 38 人を、プロポフォールとレミフェンタニルで鎮静しながら、ノルアドレナリンを用いて平均動脈圧 65-75 で安定させた。60 分後、プロポフォールの点滴はデクスメデトミジンに置き換えられ、4 時間後、鎮静剤の点滴は再び元に戻された。ノルアドレナリンの必要量は、デクスメデトミジンの投与により 0.69 ± 0.72 μg/kg/分から 0.3 ± 0.25 μg/kg/分へと減少し、デクスメデトミジン投与中止後は 0.42 ± 0.36 μg/kg/分へと再び増加した。これは実験的研究を支持するものであり、敗血症性ショックで顕著なプロポフォールに関連した心血管作用の回避によって部分的に説明されるかもしれないが、完全ではない。

JAMA 誌に発表された日本の 8 つの ICU における多施設共同 DESIRE 試験は、呼吸補助を必要とする敗血症で入院した 201 人の連続患者を、非盲検のデクスメデトミジンによる鎮静を行う群と行わない群に無作為に割り付けた。(不思議なことに、彼らは RASS の目標値を日中は 0 とし、夜間は -2 とした)。28 日後の累積死亡率は、デクスメデトミジン群で 22.8%(n = 19)、対照群で 30.8%(n = 28)であった(P = 0.20)。28 日死亡率の差は 8%であったが、20%の差を検出するように検出力が設定されていたため、検出力不足であった可能性がある。しかし、MENDS2 試験の結果はそうでないことを示唆している。

MENDS に続く MENDS2 は、敗血症の機械的人工呼吸患者における鎮静のためにデクスメデトミジンとプロポフォールを比較する多施設共同試験であった 。この試験では、432 人の患者を盲検化されたプロポフォールまたはデクスメデトミジンに割り付けた。主要アウトカムは、無作為化後 14 日間のせん妄あるいは昏睡のない日数であり、臨床医によって設定された RASS 目標値であった。主要アウトカムおよび副次的アウトカムに群間差はみられなかった。患者は重症度が高く(APACHE II スコア中央値27)、90 日死亡率が高かった(38-39%)。40%以上の患者が補助的なミダゾラムと抗精神病薬を必要とした。デクスメデトミジンの投与量は中央値 0.27 μg/kg/h と、通常の 0.2-1.4 μg/kg/h に比べて比較的少量であった。

デクスメデトミジンとせん妄
DahLIA 試験 (Dexmedetomidine to Lessen ICU Agitation) は、抜管のために鎮静を解除することが安全ではないほどの興奮状態に陥った機械的人工呼吸患者を対象とした多施設二重盲検プラセボ対照並行群間 RCT であった。主要アウトカムは、7 日目までの無換気時間数であった。20 時間の差を検出するために 96 人の患者を採用する予定であったが、時間と資金不足のため試験は早期に中止された。7 日目の人工呼吸器不要時間は中央値で 144.8 時間対 127.5 時間と有意差があったが、気管切開の回数に差はなかった。抜管までの時間中央値はデクスメデトミジン群で 21.9 時間、プラセボ群で 44.3 時間であり、ICU 滞在期間中央値は 2 日短かった。せん妄はデクスメデトミジンを投与された患者では 23.3 時間対 40.0 時間でより速やかに消失し、ICU 滞在中にせん妄のない日が 2 日追加された(中央値)。有害事象はまれであった。著者らは、74 例の患者をリクルートするために 21500 例の患者をスクリーニングしたことを指摘している。これらの結果は、持続的な興奮症状を管理するためのデクスメデトミジンの使用を支持するものである。

2 施設で行われたせん妄予防研究では、ICU 成人患者において、低用量のデクスメデトミジンの夜間点滴がせん妄を予防し、睡眠を改善するかどうかを検討した。仮説は、デクスメデトミジンが青斑核 (Locus coeruleus) に作用することにより、自然な睡眠を促進するというものであった。この第 2 相盲検プラセボ対照試験では、100 人の患者が無作為に割り付けられた。全患者の鎮静剤の点滴は午後 9 時 30 分に半減され、デクスメデトミジンまたはブドウ糖 5%の点滴が開始され、その後午前 6 時 30 分に中止された。デクスメデトミジンを投与された患者のうち、入院中にせん妄のなかった患者は 50 人中 40 人であったのに対し、プラセボを投与された患者では 50 人中27人であった。夜間における RASS -1 の目標値に達した時間数は、デクスメデトミジン群で 55%、プラセボ群で 24%であった。この研究では、64 例の患者については自己報告による睡眠の質の評価に頼ったポリソモグラフィーの研究は実施できなかったものの、睡眠の質は両群間に差はみられなかった。

デクスメデトミジンと睡眠
ある研究では、15 人の参加者を対象に、睡眠ポリグラフ検査に対する経腸デクスメデトミジンの効果を調査した。700 μg のデクスメデトミジンを経口投与した後、非急速眼球運動(non-rapid eye movement: non-REM)ステージ 2 睡眠の持続時間は 63 分(95%CI, 19-107)増加し(P = 0.010)、急速眼球運動(rapid eye movement: REM)睡眠の持続時間は 42 分(5-78)減少した(P = 0.031)。これは、デクスメデトミジンがベンゾジアゼピン系睡眠薬と同様に総睡眠時間を増加させるが、ステージ 3 およびレム睡眠時間は増加させないというエビデンスを支持するものである。

その他の薬物と経路
N-メチル-d-アスパラギン酸受容体拮抗薬であるケタミン (ketamine) にも、気管支拡張作用や心血管刺激作用とともに鎮痛作用があることが示されている。機械的人工呼吸を受けた患者におけるケタミン鎮静は、非ランダム化試験(12 件)を含む 15 件、合計 892 人の患者を対象としたシステマティックレビューとメタアナリシスで報告されている。1 件を除き、すべての研究が 2014 年以降に発表された。よくあることだが、レビュアーは、含まれる研究におけるデータの欠如、あるいは臨床的有益性の実証の欠如を強調した。

2011 年から 2012 年に実施されたとはいえ、低用量ケタミンがオピオイド消費量とせん妄を減少させるかどうかを検討したプラセボ対照二重盲検試験が 1 件、2018 年に驚くほどインパクトの低い学術誌に掲載された。患者 162 人が、低用量ケタミン 0.2 mg/kg/h の持続注入または同量の生理食塩水の持続注入に無作為に割り付けられた。せん妄の発生率はケタミン群で 21%(17 例)、プラセボ群で 37%(30 例)であったが、事後解析では、挿管にケタミンを使用した場合のせん妄発生率が 16.6%であったのに対し、他の薬剤を使用した場合は 26.3%で、ケタミン群でのみせん妄発生率と挿管に使用したケタミン・ボーラスとの間に有意な相関があることが報告された。オピオイドの消費量に群間差はなかった。

システマティックレビューおよびメタアナリシスで機械的に人工呼吸された重症患者における揮発性麻酔薬の安全性と有効性を、プロポフォール (propofol) またはミダゾラム (midazolam) の静脈内投与と比較した。揮発性麻酔薬とミダゾラムまたはプロポフォールを比較した 523 人の患者を対象とした 8 つの臨床試験で、揮発性麻酔薬を使用した場合の抜管時間の短縮が報告されている(平均値の差、-52.7 分;95%信頼区間 [confidence interval: CI]、-75.1~-30.3)。当然のことながら、揮発性薬剤をプロポフォールではなくミダゾラムと比較した場合、その差はより大きく、平均値の差は -29.1 分に対して -292.2 分であった。ファネルプロットでは、肯定的な結果を報告した試験が多く、出版バイアスが大きいことが明らかになった。この所見から、揮発性薬剤による鎮静の使用は、短期間の人工呼吸を必要とする術後患者に有用である可能性が示唆された。そう遠くない将来、新しい鎮静剤投与法が必要になるかもしれない 。

多施設共同ランダム化比較試験で、経腸的鎮静と静脈内鎮静が比較された。イタリアの 12 の ICU の患者 348 人が、鎮静のためにミダゾラムまたはプロポフォールを点滴静注する群と、ヒドロキシジン (hydroxyzine)、ロラゼパム (lorazepam)、メラトニン (melatonin) を経腸投与する群に無作為に割り付けられた。これは優越性試験であった。主要アウトカムである、患者が目標またはRASS 0 ± 1 に達した勤務シフトの割合に差はなかった。経腸的鎮静群の患者の半数にプロトコール違反があったため、両群は十分に分離されなかった。興味深いことに、経腸的鎮静群では予定外の抜管が多かったが、再挿管の必要はなく、経腸的鎮静群では経腸栄養の投与が多かった。

COVID-19と鎮静
COVID-19 の大流行は、機械的人工呼吸を受けている患者への最適な鎮静を目指す臨床医に新たな課題を提示した。病院は重症患者で溢れかえり、熟練した看護師の対患者比率が低下している。より多くの患者が、より長時間の人工呼吸、筋弛緩薬の使用、深い鎮静を必要とされている。その結果、一般的に使用される鎮静剤の不足が報告されている。

14 ヵ国 69 ICU が参加した多国籍多施設コホート研究では、2088 人の患者のデータが収集された。人工呼吸時の RASS スコアの中央値は -4(-5~-3)、昏睡状態の日数の中央値は 10 日(IQR 6~16)であった。これは、同じ研究者グループによって完了した 2018 年のせん妄治療 MIND-USA 試験における昏睡日数 1 日(IQR 1-2)と比較している。このコホート研究で重要なことは、患者の 50%以上に興奮が見られたことである。COVID-19 の大流行以前は重症患者における興奮性せん妄の発生率は最大 13%であったが、COVID-19 流行下の発生率は最大 20%であった。同様に、Helms と共同研究者らは、58 人の連続した COVID-19 の ICU 患者を検討し、そのうち 40 人(69%)が筋弛緩と鎮静の停止後に興奮したと報告している。

結論
現在までの臨床試験では、興奮を管理する目的以外でのデクスメデトミジンの使用は完全には支持されていない。その一方で、クロニジンやケタミンなどの古くからある薬の使い方や、せん妄の危険因子と管理により多くの注意が払われている。知識をガイドラインやプロトコールに反映させることは非常に良いことであるが、エビデンスを実践に反映させる研究が必要である。

元論文
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8065316/