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内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床についての論文のまとめ

股関節骨折

2025-05-06 20:53:10 | 整形外科
骨盤骨折
J Am Fam Physician 2014;89:945-951

股関節骨折は重大な罹患率を引き起こし、死亡率の上昇を伴う。股関節骨折の 80%は女性であり、股関節骨折を起こす人の平均年齢は 80 歳である。股関節骨折の多くは転倒と関連しているが、その他の危険因子としては、骨密度の低下、活動レベルの低下、慢性的な薬剤の使用などが挙げられる。

股関節骨折の患者は鼠径部に痛みがあり、患肢に体重をかけることができない。身体所見では、転位骨折は外旋および外転を呈し、脚は短縮しているように見える。仰臥位での股関節の側面像 (cross table lateral X ray) と骨盤の前後面像による単純 X 線撮影で、通常は診断が確定する。潜因性股関節骨折が疑われ、X 線検査で異常がない場合は、MRI 検査を行う。

患者に重大な合併症があったり、余命が短かったりしない限り、ほとんどの骨折は外科的に治療される。外科的処置は、受診した整形外科医が選択する。患者は手術前に予防的抗菌薬、特に黄色ブドウ球菌に対する抗菌薬を投与されるべきである。さらに、血栓塞栓予防のため、できれば低分子ヘパリンを投与する。長期的な回復にはリハビリテーションが重要である。禁忌でない限り、ビスフォスフォネート療法を行い、股関節骨折のリスクを減らすべきである。転倒予防の評価が有益な患者もいる。

高齢患者は一般的に股関節骨折を経験するが、これは重大な合併症を引き起こし、死亡率の上昇に関連する。家庭医の役割は、股関節骨折のリスクが高い患者を特定すること、股関節骨折を迅速に診断すること、長期的なリハビリテーションを促進すること、次の股関節骨折のリスクを減らすこと、併存疾患を管理すること、など複数の目的がある。

エビデンスに基づく推奨
・股関節骨折が疑われる患者の最初の検査は、単純 X 線撮影であるべきである。エビデンスの質:C

・股関節骨折の手術は、併存疾患を安定させるために遅らせる必要がない限り、骨折後 24-48 時間後に行うべきである。エビデンスの質:C

・股関節骨折の手術を受ける患者は、血栓塞栓症予防と抗菌薬予防を受けるべきである。エビデンスの質: A

・股関節骨折後は、禁忌でない限り、骨密度にかかわらず、通常ビスフォスフォネート製剤による治療を受けるべきである。エビデンスの質:C

・股関節骨折後、ほとんどの患者は正式な転倒予防評価を受けるべきである。エビデンスの質:C

・患者は機能的能力を回復させるために骨折後のリハビリテーションを受けるべきである。エビデンスの質:B

疫学
股関節骨折の生涯有病率は女性で 20%、男性で 10%である。2050 年までに新たに発生する股関節骨折の年間予測は 50~100 万件である。米国の年間推定コストは約 103~152 億ドルである。

股関節骨折は死亡率の増加と関連しており、股関節骨折患者の 12~17%が最初の 1 年以内に死亡し、長期的な死亡リスクは 2 倍に増加する。機能的自立に関しては、患者の 50%が骨折前の日常生活動作能力を回復し、25%が手段的日常生活動作能力を完全に回復する。

危険因子
性別と年齢は、股関節骨折のリスク上昇に大きく関連する非修正性の危険因子である(表 1)。

表 1. 股関節骨折のリスク因子
https://www.aafp.org/pubs/afp/issues/2014/0615/p945.html#afp20140615p945-t1

股関節骨折の既往、股関節骨折の家族歴、社会経済的地位の低さもリスクの上昇と関連している。プライマリケアにおいてハイリスク患者を特定するために、股関節骨折の臨床的リスクスコアが開発されている(例: https://www.aafp.org/afp/2007/0715/p273.html)

修正可能な股関節骨折の危険因子は、転倒、骨密度の低下、活動レベルの低下、慢性的な薬剤の使用などである。転倒は股関節骨折の最も重大な危険因子であり、骨折の 90%は転倒に関連している。転倒は通常、立位で起こり、防御反応の低下、反応時間の遅延、全身の筋力低下と関連している。転倒は将来の転倒に対する恐怖を生じさせ、活動性や可動性の低下、筋緊張の増大を招く。多くの高齢者は加齢とともに活動性が低下し、骨折の危険性が高まる。

二重エネルギー X 線吸収法 (dual energy x-ray absorptiometry: DEXA) で測定した骨密度 T スコアが -2.5 未満であることは、骨折リスクの増加と関連している。低骨密度スコアは、カルシウム摂取不足、ビタミン D 欠乏症、骨粗鬆症の家族歴と関連している。ビタミン D 濃度が 20 ng/mL(50 nmol/L)未満は、転倒リスクの上昇と関連している。

選択的セロトニン再取り込み阻害薬 (selective serotonin reuptake inhibitors) やベンゾジアゼピン系薬剤 (benzodiazepines) を含む精神作用薬は、転倒や骨折のリスク増加と最も一貫して関連している。プロトンポンプ阻害薬 (proton pump inhibitors) の長期使用やレボチロキシン (levothyroxine) の高用量投与は、骨折のリスク増加と関連している。

既往歴
股関節骨折の患者は鼠径部に疼痛があり、患肢に体重をかけることができない。痛みは大腿骨遠位部や膝上部に及ぶこともある。まれに、杖や松葉杖、歩行器を使って歩行できることもある。歩行が可能であっても、体重負荷や歩行によって臀部や鼠径部の疼痛が悪化するのが一般的である。高齢者が転倒後に股関節の痛みを訴えた場合、そうでないことが証明されるまでは、股関節骨折が起こったものとして治療されるべきである。

身体検査
疲労骨折 (stress fracture) や非転位性骨折では、明らかな変形が見られないことがある。しかし、ほとんどの患者においては骨折の転位が存在する。その結果、患者が仰臥位をとると、患肢は外旋および外転位となり、短縮して見える。ログロール法 (log roll maneuver)(仰臥位で下腿および大腿を穏やかに内旋・外旋する操作)などの回旋運動により疼痛が誘発される。また、患側の四肢に軸圧 (axial load) を加えた際に鼠径部に疼痛が生じる場合には、骨折が疑われる。疼痛および不安定性のため、患者は自らな下肢を挙上することができない。斑状出血(Ecchymosis)は初期にはほとんど認められない。末梢の脈拍および感覚を評価し、記録する必要がある。加えて、他に併発した損傷がないかを確認すべきである。

検査
股関節骨折の初期診断検査としては、単純 X 線写真が用いられる(図 1)。

図 1. 大腿骨転子部骨折 (intertrochanteric fracture) の X 線写真像、わずかに転位している
https://www.aafp.org/pubs/afp/issues/2014/0615/p945.html#afp20140615p945-f1

適切な撮影法としては、股関節の仰臥位側面像および骨盤の前後像(正面像)が挙げられる。frog-leg 肢位での撮影は避けるべきである。この体位では四肢の位置決めに際し強い疼痛を引き起こし、非転位性骨折の転位や転位性骨折の悪化を招くおそれがある。X 線撮影で異常が認められず、なおも股関節骨折が疑われる場合には、磁気共鳴画像法(magnetic resonance imaging: MRI)または骨シンチグラフィーを実施すべきである。撮像の際には、骨盤骨折、疲労骨折、病的骨折といった他の可能性についても評価しなければならない。コンピュータ断層撮影(computed tomography: CT)も使用可能ではあるが、骨粗鬆症に伴う骨折においては、骨梁の損傷や骨折線周囲の骨髄浮腫は明らかにならないことが多い。

治療
股関節骨折は、予後に関連する部位に基づいて分類される。分類は、関節包外骨折 (extracapsular fracture)(大腿骨転子部骨折 [intertrochanteric fracture] および転子下骨折 [subtrochanteric fracture])と関節包内骨折 (intracapsular fracture)
(大腿骨頭骨折 [femoral head fracture] および大腿骨頸部骨折 [femoral neck fracture])の 2 つに大別される(表 2 に要約)。

表 2. 股関節骨折の分類と特徴
https://www.aafp.org/pubs/afp/issues/2014/0615/p945.html#afp20140615p945-t2

転子間部は海綿骨が豊富で、血流も十分に存在する。そのため、この部位の骨折は一般に転位した骨を整復する手術(観血的整復 [open reduction and internal fixation: ORIF) およびプレートやスクリューによる内固定 (internal fixation) により良好に治癒する傾向にある。

一方、転子下骨折では、髄内ロッドまたはネイルが必要になることが多く、高い応力がかかるためにデバイスの破損率が高くなる。

大腿骨頸部は骨膜が薄く、海綿骨が少なく、血流も比較的乏しい。このため、関節包内骨折では阻血性骨壊死 (avascular necrosis: AVN) 、偽関節や変形治癒、変性 (degenerative changes) の発生率が高くなる。

初期対応では、適切な鎮痛処置と整形外科医へのコンサルテーションに重点を置くべきである。手術は、ほとんどの患者にとって最も現実的な選択肢である。非手術的治療は、重度の衰弱がある患者、重篤かつ修正不可能な疾患を有する不安定な患者、歩行不能な患者、あるいは終末期の患者に限定して行われる。ただし、安定した嵌入型骨折を有する一部の患者については、非手術的管理が検討されることもある。

初診時には、医師は併存疾患に対応するとともに、他の損傷の有無を調べるべきである。手術計画を立てる際には、出血リスクの評価が必要である。以下のうち 2 項目を満たす場合、出血リスクが高いと判断される:転子部周囲骨折、初診時のヘモグロビン値が 12 g/dL 未満、高齢(75 歳超)。

手術のタイミングは最終的な転帰に影響を与える可能性がある。早期手術(24~48 時間以内)は賢明な選択である。これにより早期の可lリハビリテーションが可能となり、機能回復が早まり、肺炎、皮膚潰瘍、深部静脈血栓症、尿路感染症などのリスクが軽減される。さらに、早期手術は疼痛の軽減および入院期間の短縮とも関連している。併存疾患を有する患者では死亡リスクが増加するため、これらの状態を安定させる目的で、骨折後 48~72 時間まで手術を延期する必要がある場合がある。

一部の医師は手術前に牽引 (traction) を検討するが、有益性を示すデータは存在しない。

手術においては、全身麻酔が最も一般的であるが、一部の患者では脊椎麻酔が選択されることもある。区域麻酔は術後のせん妄を軽減する可能性があるものの、両者の麻酔法の間で臨床的に重要な差異があることを示す証拠は存在しない。

最も適切な手術手技は、コンサルテーションを受けた整形外科医が決定する。大腿骨頸部骨折に対しては、観血的整復および内固定と人工関節置換術のいずれが優れているかについては議論がある。

人工関節置換術(Arthroplasty)では、寛骨臼 (acetabulum) および大腿骨頭 (head of the femur) の両方を置換するが、半関節置換術 (hemiarthroplasty) では大腿骨頭のみを置換する。内固定は、出血量の減少や深部創感染のリスク低下など、合併症が低いという利点がある。

しかし、再手術率は人工関節置換術の方が低いとされている。さらに、人工関節置換術は阻血性骨壊死および偽関節のリスクを低減し、早期回復を可能にするという利点もある。

転子部骨折は、観血的整復および内固定、あるいは人工関節置換術によって治療されることがある。どちらの方法が最も優れているかについては、現時点では十分なエビデンスが存在しない。

大転子または小転子の骨折は、通常、若年で活動的な患者に生じる単独の裂離骨折 (avulsion fractures)
であることが多い。これらは多くの場合、保存的かつ非手術的治療により治癒するが、1 cm を超える有意な転位が認められる場合には、整形外科医への相談が必要である。非転位性骨折の患者は、3~4 週間は荷重をかけないようにし、通常は 3~4 か月以内に完全な活動に復帰可能である。

メタル・オン・メタル(metal on metal: MoM)インプラントについては、他の軸受材料と比較して高い破損率が報告されており、安全性への懸念がある。これらのインプラントは通常、患者の残りの生涯にわたって機能する設計であるが、破損率は 12%(業界平均の 2 倍)に達し、5 年以内に再手術(修正手術)が必要となる例もある。最近のデータでは、術後 7 年間追跡された患者において、MoM 軸受面とがん診断リスクとの関連は示されていないが、これらの金属の生体内影響については未だ完全には解明されていない。

予防措置
患者には、特に主な病原菌である黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対する予防的抗菌薬を、手術の 1~2 時間前に投与すべきである。一般的には、セファゾリン 1~2 g を 8 時間ごとに静脈内投与し、手術の 1 時間以内に初回投与を行うことが推奨されている。

アレルギーがある患者には、バンコマイシン 1 g を 12 時間ごとに静脈内投与し、手術の 2 時間以内に開始する必要がある。抗菌薬の投与期間は 24 時間とする。

また、患者には血栓塞栓症の予防措置も講じるべきであり、理想的には低分子量ヘパリンを用いる。ただし、低分子量ヘパリンと未分画ヘパリンを比較した研究では、出血率に差は見られなかった。

米国胸部疾患学会(American College of Chest Physicians)のガイドラインでは、出血リスクを軽減するため、低分子量ヘパリンを手術の 12 時間以上前または手術後に開始し、手術の 4 時間以内に投与することは避けるよう推奨している。さらに、このガイドラインは、10~14 日間ではなく最長 35 日間まで予防的抗凝固療法を延長することで、1,000 人あたり 9 件の静脈血栓塞栓症を追加で予防できるとしている。アスピリンも使用可能ではあるが、血栓塞栓症の予防効果としては不十分であり、第一選択とはされない。

間欠的空気圧迫装置(Intermittent Pneumatic Compression Devices)の使用は、抗凝固療法と併用し、患者が定期的に歩行可能になるまで継続することが推奨されている。一方で、抗凝固療法に耐えられる患者に対しては、段階的圧迫ストッキング(Graduated Compression Stockings)の日常的使用は推奨されていない。

長期的ケア
股関節骨折の既往は新たな股関節骨折のリスク因子であり、ビスホスホネート製剤はそのリスクを軽減することから、骨密度の結果にかかわらず、禁忌がない限り患者にはビスホスホネート療法を行うべきである。

通常、カルシウム(1 日あたり 1,000 mg)およびビタミン D(少なくとも 1 日 800 IU)の補給がビスホスホネート療法と併用される。ビスホスホネートの使用によるリスクは、5 年以上の長期使用で増加する可能性がある。

ほとんどの患者にとって、転倒予防のための評価が有益であり、その内容には、自宅環境における危険因子の除去、内服薬の見直し、筋力・バランス・歩行の評価などが含まれる。

すべての患者は退院後にリハビリテーション療法を必要とするが、可動性を最大限に改善するための最適な戦略は完全には解明されていない。リハビリテーションの実施場所(自宅、外来、あるいは介護施設)は、患者の身体能力や意欲に応じて決定される。外来でのリハビリテーションは、機能的状態の改善につながる可能性がある。最適なリハビリテーションの期間については明確な基準がない。早期の歩行開始は予後を改善する効果があり、荷重制限がなくなった時点で歩行を開始する場合もある。

栄養状態に関する問題も対処すべきであり、低栄養の患者においては、たんぱく質補給により医学的合併症の発生率が低下することが確認されている。

転位を伴う骨折では、阻血性骨壊死のリスクが高まる。したがって、手術後には定期的な X 線撮影を行うべきである。撮影の頻度は患者の健康状態に応じて個別に設定され、整形外科医との協議が必要である。阻血性骨壊死が疑われる場合、単純 X 線では壊死発症から 6 か月間変化が見られないことがあるため、MRI が必要となる場合がある。

長期的なケアは、患者を可能な限り速やかに最も機能的な状態、理想的には骨折前の活動レベルに戻すために不可欠である。

元論文
https://www.aafp.org/pubs/afp/issues/2022/1200/hip-fractures.html#afp20140615p945-b37

米国整形外科学会によるエビデンスに基づく骨盤骨折の管理のガイドライン 2014 年度版

2025-04-13 21:23:28 | 整形外科
米国整形外科学会によるエビデンスに基づく骨盤骨折の管理のガイドライン 2014 年度版

※内科管理に関わる推奨のみ抜粋

・局所麻酔は術前の疼痛コントロールに有用である (強いエビデンス、強い推奨)。

・術前の牽引はルーチンに行うべきではない (中等度のエビデンス、中等度の推奨)。

・48 時間以内の手術は良好なアウトカムと関連する (中等度のエビデンス、中等度の推奨)。

・アスピリンかつ/またはクロピドグレルを服用していることで手術を遅らせるべきではない (弱いエビデンス、弱い推奨)。

・全身麻酔でも腰椎麻酔でもアウトカムは変わらない (強いエビデンス、強い推奨)。

・深部静脈血栓症の予防はするべき (中等度のエビデンス、中等度の推奨)。

・無症候でHb >8 g/dL の貧血に対して輸血をするべきではない (強いエビデンス、強い推奨)。

・入院から退院後まで理学療法・作業療法を継続して行うことは機能的アウトカムを改善し、転倒を予防する (中等度のエビデンス、中等度の推奨)。

・退院後の集中的な理学療法は機能的なアウトカムを改善する (強いエビデンス、強い推奨)。

・術後の栄養補助は死亡率を減らし、栄養状態を改善する (中等度のエビデンス、中等度の推奨)。

・軽度から中等度の認知症の股関節骨折患者に対して学際的なケアプログラムを実施することは機能的アウトカムを改善する (強いエビデンス、強い推奨)。

・複数の手段 (multimodal) による疼痛管理は勧められる (強いエビデンス、強い推奨)。

・術後のカルシウムとビタミン D 補充は推奨される (中等度のエビデンス、中等度の推奨)。

・術前のリスク評価で血清アルブミンとクレアチニンを測定することは勧められる (弱いエビデンス、弱い推奨)。

・受傷後に骨粗鬆症の評価と治療を行うことは勧められる (中等度のエビデンス、中等度の推奨)。

元論文
https://www.aaos.org/globalassets/quality-and-practice-resources/hip-fractures-in-the-elderly/management_of_hip_fractures_in_the_elderly-7-24-19.pdf

股関節骨折の管理

2025-04-13 07:44:54 | 整形外科
股関節骨折の管理
N Engl J Med 2017;377:2053-2061

健康で活動的な 65 歳の女性が、転倒から数時間後に救急外来を受診した。滑って転倒してから数時間後、救急外来を受診した。右足に体重をかけることができず、動こうとすると痛みがあるという。検査では、右脚は短縮し、外旋している。骨盤と股関節の単純 X 線写真で、大腿骨頚部の転位をともなわない骨折 (nondisposed fracture) が確認された。レントゲン写真を注意深く検討した結果、彼女の骨折は大腿骨頸部 (femoral neck) の基部に位置し(頸基部骨折 [basicervical fracture] と呼ばれることもある)、骨折線はどちらかと言えば垂直方向であることが判明した。本症例はどのように どのように対処すべきだろう?

臨床上のポイント
急性股関節骨折
・股関節骨折 (hip fracture)(解剖学的部位により大腿骨頚部骨折 [femoral neck fracture]、転子部骨折 [intertrochanteric fracture]、転子下骨折 [subtrochanteric fracture] に分類される)は、QOL と機能に壊滅的な影響を及ぼし、1 年後の死亡リスクが高い。

・大腿骨頸部骨折は、非転位型 (nondisplased) または若年患者の場合、一般的に内固定術 (internal fixation) で治療される。

・大腿骨頸部基部の骨折(頸基部骨折と呼ばれることもある)、転位骨折、および骨折線が垂直方向にある骨折では、複数の海綿骨スクリュー (cancellous screws) を使用する場合よりも、スライディングヒップスクリュー (sliding hip screw) を使用する場合の方が再手術率は低い。

海綿骨スクリューとスライディングヒップスクリュー
https://naruoseikei.com/blog/2025/03/hipfx-CHS-CCS.html

・大腿骨頚部転位骨折に対するアプローチは依然として議論の的であるが、現在のところ、特に 65 歳以上の患者では、内固定術よりも人工関節置換術が有利であるというエビデンスがある。

・不安定な大腿骨転子部骨折や大腿骨転子下骨折は髄内釘 (intramedullar nails) を用いて治療されるが、これらのタイプの安定した骨折は、一般的にスライディングヒップスクリューを用いて治療される。

・周術期の集学的治療は、骨粗鬆症の評価と治療、および術後の機能的可動性に関して重要である。

世界全体では、毎年 450 万人が股関節骨折 (hip fracture) により障害を負っており、今後 40 年間で、この障害を持つ人は 2,100 万人に増加すると予想されている。世界的に、股関節骨折は障害の原因のトップ 10 にランクされており、2040 年までに、年間の医療費は米国で 98 億ドル、カナダで 6 億 5,000 万ドルに達すると推定されている。しかし、世界人口の 4 分の 3 がアジアに居住していることから、今後数年間はアジア諸国が股関節骨折の増加に貢献すると予測されている。股関節骨折は、股関節包との関係から解剖学的に、股関節包内骨折 (intra-capsular fracture)(すなわち、大腿骨頸部骨折)または股関節包外骨折 (extracapsular fracture)(すなわち、転子部骨折または転子下骨折)に分類される(図 1 および 2)。

図 1. 骨折部位に基づく股関節骨折の分類

図 2. さまざまな股関節骨折の単純 X 線写真

転子部骨折と大腿骨頚部骨折は股関節骨折の大部分を占め、発生頻度も同程度である。大腿骨頸部骨折には、非転位型 (nondisplaced)(骨折部位の離開がほとんどないもの、大腿骨頸部骨折の約 3 分の 1 にみられる)と転位型 (displaced)(離開が大きいもの)がある。慣例により、大腿骨頚部の骨折はさらに、非転位骨折または嵌入骨折 (impacted fracture, 折れた骨の先端がもう一方の折れた骨の先端にはまり込んでいる骨折のこと) のパターンを示す Garden type I または II と、転位骨折のパターンを示す Garden type III または IV に分類することができる。大腿骨頸部より下の骨折は転子部骨折、小転子 (lesser trochanter) より (5 cm) 下の骨折は転子下骨折と呼ばれる(図 1)。股関節骨折を放置しておくと、その自然経過 (natural history) は悲惨なものとなる。股関節骨折をした患者は、心血管系、肺、血栓性、感染性、出血性の合併症を起こすリスクがある。これらの合併症は死に至ることもある。したがって、股関節骨折に対するタイムリーな手術は、現在でも治療の柱である。しかし、手術後の機能低下や QOL の低下は多い。股関節骨折手術後 1 ヵ月以内の死亡率は 10%に近い。さらに、30 日まで生存した患者には、身体障害のかなりのリスクがある。股関節骨折前に地域生活をしていた患者でも、股関節骨折 1 年後には 11%が寝たきりになり、16%が介護施設に入所し、80%が歩行補助具を使用している。手術やリハビリを含む積極的な管理にもかかわらず、股関節骨折後 1 年以内の死亡率は 36%と高い。この死亡率は、急性心筋梗塞など他の原因による死亡率が低下しているのとは対照的に、長期にわたって比較的安定している。最初の股関節骨折手術後の再手術のリスクが 10~49%と許容できないほど高いことから、エビデンスに基づいた管理戦略を明らかにすることを目的とした研究が盛んに行われている。

戦略とエビデンス
エビデンスに基づいた股関節骨折の管理には、手術の選択肢と周術期のケアが含まれる(図 3)。観察研究では、股関節骨折患者の短期および中期死亡の危険因子として、高齢、男性であること、社会経済的困窮、併存疾患、認知症、介護施設入所者などが挙げられている。残念ながら、ほとんどの危険因子は修正不可能である。

手術管理
外科医は急性股関節骨折患者の治療において 3 つの大きな決断に迫られる。患者の健康状態を考えると、手術は選択肢となり得るか?もし手術を行うなら、骨折の解剖学的な位置、変位の程度、患者の生理学的状態を考慮した上で、どのくらい手術を急ぐのか?そして、どのような種類の手術が必要なのか?患者の健康状態が術中死亡のリスクが高いか、手術治療へのアクセスが困難な場合を除き、ほとんどの股関節骨折には手術治療が推奨される。ある単一施設のレトロスペクティブ研究では、非手術的治療を受けた股関節骨折患者の 1 年後の死亡リスクは手術を受けた患者のリスクの 4 倍、2 年後の死亡リスクは 3 倍であった。別のレトロスペクティブ研究では、ベッド上安静を伴う非手術的治療を受けた患者の 30 日後の死亡リスクは、早期リハビリテーションを受けた患者の 3.8 倍(絶対リスク 73%)であった。手術を受けた患者と非手術的治療を受けたが早期にリハビリテーションが開始された患者で死亡率に有意差がなかったという観察結果は、手術を受けるには病状が悪すぎる患者の早期リハビリテーションを支持するものである。

手術までの期間
ガイドラインでは、股関節骨折の手術は発症後 48 時間以内に行うことを推奨している。この推奨は、手術までの時間が短いほど患者の転帰が改善することを示唆する観察研究に基づいている。さらに、急性股関節骨折に伴う疼痛、出血、不動が、炎症、凝固亢進、異化を引き起こすことを示す生理学的データも早期手術を勧める根拠となっている。最近のエビデンスによると、入院から手術までの時間を 6 時間未満に短縮することは、6 時間以上経ってから手術する場合と比べて 30 日後の術後合併症の発生率が減少することが示唆されている。観察研究(4,208 人の患者および 721 人の死亡を含む)のメタアナリシスにおいて、米国麻酔科学会スコア(患者の手術に対する適合性の指標)、年齢、および性別で調整したところ、早期の手術(入院後 24 時間以下)は、遅期の手術よりも有意に死亡率の低下と関連していた(相対リスク、0.81;95%信頼区間 [confidence interval: CI], 0.68~0.96;P = 0.01)。未調整の解析では、早期の手術は院内肺炎のリスク低下とも関連していた。しかし、これらの研究における重要な交絡因子は、入院時に病状の悪い患者(したがって、手術とは無関係に死亡する可能性が高い)では手術が遅れる(あるいはまったく行われない)可能性が高いということである。

60 人の患者を対象とした小規模無作為化パイロット試験(Hip Fracture Accelerated Surgical Treatment and Care Track [HIP ATTACK], ClinicalTrials.gov number, NCT01344343)において、周術期の主要合併症の発生率は股関節骨折の早期手術(入院後 6 時間以下)では 30%、標準治療では 47%であった(ハザード比、0.60;95%CI, 0.26~1.39;P=0.20)。股関節骨折の早期手術(6 時間以下)と後期手術の大規模な国際試験が現在進行中である(NCT02027896)。

大腿骨頚部骨折
大腿骨頚部骨折に対する手術の選択肢には、内固定術(すなわち、複数の海綿骨スクリュー、または 1 本の太いスクリューとサイドプレート [スライディングヒップスクリューと呼ばれることもある] による固定)、人工関節置換術 (arthroplasty) (半関節形成術 [hemiarthroplasty] または人工股関節全置換術 [total hip arthroplasty])がある (図 4)。

図 4. 大腿骨頚部骨折手術のインプラントの種類

半関節形成術では、大腿骨近位部に金属製の人工関節を挿入するのに対し、人工股関節全置換術では、大腿骨に金属製の人工関節を挿入し、さらに寛骨臼コンポーネント (acetabular compornent) を追加する。インプラントの選択は、変位の程度と患者の生理的状態に大きく左右される。骨折の変位の程度が大きいと、大腿骨頭への重要な血液供給が途絶える危険性が高くなる。この血液供給は、主に内側大腿回旋動脈 (medial circumflex femoral artery) の分枝である外側大腿回旋動脈 (lateral circumflex femoral artery) から供給されている (図 1)。関節包内の骨折からの出血は静脈を圧排することでタンポナーデ効果をもたらし、大腿骨頭の微小血管にも影響を及ぼす可能性がある。血液供給が損なわれると、大腿骨頭壊死や骨折の癒合不全につながる。手術を行うかどうかの判断は、骨折の整復、安定したインプラント固定、および関節内圧減圧のための関節包切開により、大腿骨頭への血液供給を回復させられるかどうかを考えなければならない。非転位型骨折(Garden I 型または II 型)の患者には、内固定が選択すべき治療法である。患者の年齢に関係なく、小規模の無作為化試験では、複数の海綿骨スクリューによる内固定後と、スライディングヒップスクリューによる内固定後の転帰はほぼ同じであることが示されている。最近の大規模試験(Fixation Alternatives in the Treatment of Hip Fractures [FAITH])では、大腿骨頸部骨折患者 1,079 人(非転位骨折 729 人、転位骨折 350 人)を、複数の海綿骨スクリューを用いる群とスライディングヒップスクリューを用いる群に無作為に割り付けたところ、2 年間の再手術リスクに群間で有意差は認められなかった(17.5% v.s. 17.4%;相対リスク、1.04;95%CI, 0.72~1.50)。しかし、サブグループ解析によると、骨折が転位していたり、大腿骨頸部の基部に位置していたり、骨折線が垂直方向である場合には、スライディングヒップスクリューを使用した方が予後が改善することが示唆された。これらの骨折タイプを含む実験 (laboratory testing) では、スライディングヒップスクリューの方が大腿骨頚部骨折に対する忍容性が高いことが示されている。一般に、65 歳以上の低エネルギー骨折または脆弱型骨折を有する患者の大腿骨頸部転位骨折の管理には、内固定術よりも人工関節置換術が望ましい。65 歳以上の患者におけるこれらの外科的アプローチを比較した 14 件の無作為化試験(1,907 人の患者が参加)のメタアナリシスによると、 人工関節置換術は、内固定術よりも再手術のリスクが低いことが示された(相対リスク、0.23;95%CI, 0.13~0.42)。内固定術群の再手術率は 10.0~48.8%であり、多くの場合、骨折の癒合不全(患者の 18.5%)または血管壊死(9.7%)が原因であった。半関節形成術と人工股関節全置換術はそれぞれ、内固定術よりも術後 1 年以内の機能的転帰と QOL が良好であった。100 人の患者を対象とした無作為化試験の長期追跡調査から、Harris Hip Score で測定した 17 年後の股関節機能は、人工股関節全置換術後の方が内固定術よりも良好であることが示された。しかし、人工関節置換術には欠点もある。メタアナリシスでは、人工股関節全置換術は内固定術よりも感染リスクが高いことが示された(相対リスク、1.81;95%CI, 1.16~2.85)。脱臼も関節形成術後に起こる可能性がある。関節形成術を行う場合、どのインプラント(人工股関節全置換術または半関節形成術)が望ましいかについてのコンセンサスは得られていない。1,890人の患者を含む 14 件の試験についてのメタアナリシスでは、人工股関節全置換術後の再手術のリスクは半置換術後よりも低いことが示された(相対リスク、0.57;95%CI, 0.34~0.96)。しかし、この効果は主に、治療割り付けに関する情報を隠蔽しなかった試験によってもたらされた。12~48 ヵ月の追跡期間後の股関節機能の評価でも半関節形成術よりも人工股関節全置換術の方が一貫して良好であった。しかし 脱臼のリスクは、人工股関節全置換術後の方が半置換術後よりも高かった(9% v.s. 3%;相対リスク、2.53;95%CI, 1.05~6.10)。大腿骨頚部転位骨折患者 1,500 人を対象に、人工股関節全置換術と半置換術を比較する大規模無作為化試験が現在進行中である (HEALTH)。あまり行われないが、大腿骨頚部転位骨折に対する内固定術は、侵襲性が低いこと、 感染のリスクが低いこと (前述の通り)、他の選択肢を提示された場合に多くの患者に好まれることなど、いくつかの利点がある。高エネルギー外傷(自動車事故によるものなど)で股関節骨折を起こした若年患者は、人工関節置換術のインプラントが 20 年以上持つ可能性は低いことから、転位の有無に関係なく、内固定術で治療するのが一般的である。大腿骨頚部転位骨折に内固定術を用いる際の重要な要因は、スクリューやプレートを挿入する前に骨折を正確に整復することである。不十分な骨折整復は、その後の固定不全の危険因子である。転子部骨折は、大腿骨頭への血液供給が保たれることが多いので、主にスライディングヒップスクリューまたは髄内釘による内固定によって管理される。これらのインプラントを比較した無作為化試験では、安定と判断された骨折については機能的転帰に有意差は認められなかったが、股関節スライディングスクリューは髄内釘よりも費用対効果が高かった。
不安定骨折 (すなわち、後内側に大きな骨折片がある骨折) や骨折線が逆斜め (reverseoblique) の骨折は、一般的に髄内釘で管理される。8 件の無作為化試験(合計 1,322 人の患者を含む)のメタアナリシスでは、髄内釘の使用による可動性の改善が示されている。

転子下骨折
転子下骨折は股関節骨折の中で最も頻度の低い骨折であるが骨折片が不安定であるため固定術の失敗率は 35%にも上ると報告されている。まれにみられる転子下骨折(いわゆる非定型大腿骨骨折)は、ビスフォスフォネート製剤 (bisphosphonate) の長期使用と関連しており、新しい骨吸収抑制薬 (antiresorptive agent) を服用している患者にも起こることが報告されている。転子下骨折患者 232 人を対象としたメタアナリシスでは、髄内釘の使用は、髄外プレートやスクリューの使用よりも、再手術や非結合 (nonunion) の発生率が有意に低かった。髄内釘を使用した患者と髄外プレートおよびスクリューを使用した患者では、1 年後の死亡率および全機能は同程度であっ たが、髄内釘は、転子下骨折および非定型大腿骨骨折変形の高齢患者の大半の治療における標準となっている。

周術期ケア
老年病棟における包括的で学際的なケアは、整形外科病棟における通常のケアと比較して、運動能力、日常生活動作、および QOL を有意に改善することが示されている。積極的かつ早期のモビライゼーションが強く推奨されるが、股関節骨折のリハビリテーション後、運動障害は数ヵ月間持続する可能性がある。ケアには静脈血栓予防と抗菌薬による感染予防、骨粗鬆症の評価と治療も含まれる。骨粗鬆症は股関節骨折患者によくみられ、治療が十分でないことが多い。骨折後にはカルシウムとビタミン D の補給が日常的に推奨され、骨密度評価のための二重エネルギー X 線吸収測定 (dual-energy x-ray absorptiometry) も推奨される。骨折後のビスフォスフォネート製剤の投与は、その後の骨折のリスクを減少させるために、骨折後速やかに開始することが推奨される。ビスフォスフォネート製剤の投与は骨折治癒に対して悪影響を与えない。

不確実な領域
受傷後迅速に手術を行うことが主要な手術転帰に影響するかどうかは不明である。現在進行中の HIP ATTACK 試験では、死亡と重篤な周術期合併症の複合転帰に関して、早期医療クリアランス(来院後 6 時間以内に股関節骨折の手術を開始することを目標)と標準治療を比較している。データは限られているが、大腿骨頚部転位骨折に対する人工股関節全置換術と半置換術の選択の指針を得るための無作為化試験(HEALTH 試験)、および 60 歳以下の患者における大腿骨頚部骨折の管理の指針を得るための無作為化試験が進行中である(FAITH-2試験;NCT01908751)。

ガイドライン
National Institutes of Health and Care Excellence、American Academy of Orthopaedic Surgeons、National Hip Fracture Model of Care and Toolkit など、いくつかの団体が股関節骨折の手術治療に関するガイドラインを発表している。心臓リスクの術前評価に関連するガイドラインは、カナダ心臓血管学会から発表されている。本稿の推奨は、これらのガイドラインと概ね一致している。

結論と提言
この女性の大腿骨頸部骨折は、非転位型である。他の非転位型大腿骨骨折と同様、この骨折は内固定術で管理するのが最善である。以前から活動的な生活習慣があり、健康状態も良好であることから、この手術のよい候補者である。大腿骨頚部の基部に骨折があり、骨折線が垂直方向であるため、スライディングヒップスクリューの使用を推奨する。手術は遅らせるべきではない。手術を早めた患者の転帰がより良いことを示した研究や、迅速な手術とそうでない手術の転帰を比較したランダム化試験の結果が待たれていることから、可能であれば同日中に手術を行うことを勧めたい。患者の周術期ケアには、老年病専門医、理学療法士、作業療法士を含む集学的アプローチが推奨され、機能回復、日常生活動作、その後の骨折のリスクを軽減するための骨粗鬆症の適切な評価と治療に重点を置く。

元論文
https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMcp1611090?url_ver=Z39.88-2003

全股関節置換術はレジスタンス運動と比較して疼痛と機能を有意に改善させる。

2024-11-07 08:11:58 | 整形外科
変形性股関節症に対する全股関節置換術とレジスタンス運動との比較
N Engl J Med 2024; 391: 1610-1620

グラフィカルアブストラクト
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2400141#ap0

解説動画
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2400141#

背景
変形性股関節症 (hip osteoarthritis) は身体障害の大きな要因であり、世界中で 3,300 万人が罹患している。ヨーロッパとオーストラリアでは、生涯で人工股関節全置換術 (total hip replacement) を受ける可能性は 8-16%である。この手術は股関節の痛みを効果的に緩和し、機能障害を軽減し、QOL を改善するもので、患者の 86%までが術後 6 ヵ月後の結果に満足していると報告している。世界中で年間 100 万件以上の人工股関節置換術が実施されており、米国では 2040 年までに年間実施率が 2014 年と比較して 284%増加すると予測されている。

股関節全置換術は頻繁に行われているにもかかわらず、変形性股関節症に対する手術の有効性を非外科的治療と比較した無作為化試験のデータは不足している。一般的な整形外科手術の多くが、非外科的治療と比較して有効性が高くないことが無作為化試験で示されていることから、直接比較することが正当化される。

変形性股関節症の非外科的治療において、運動は一貫して推奨されており、レジスタンストレーニングは、股関節全置換術を受ける予定の患者であっても、股関節痛の中等度の軽減と機能改善につながるようである。われわれは、重症の変形性股関節症で手術適応のある 50 歳以上の患者を対象とした Progressive Resistance Training versus Total Hip Arthroplasty (PROHIP) 無作為化試験を実施し、人工股関節全置換術が、レジスタンストレーニングと比較して、患者が報告する股関節痛の緩和と患者が報告する機能の改善に関して優れた結果をもたらすかどうかを評価した。

方法
重症変形性股関節症で手術適応のある 50 歳以上の患者を対象に、人工股関節全置換術とレジスタンストレーニングを比較する多施設共同無作為化比較試験を実施した。主要アウトカムは、ベースラインから治療開始 6 ヵ月後までの患者報告による股関節の痛みと機能の変化とし、Oxford Hip Score を用いて評価した(範囲は 0-48で、スコアが高いほど痛みが少なく、機能が良好であることを示す)。安全性も評価された。

結果
合計 109 名の患者(平均年齢 67.6 歳)が、股関節全置換術群(53 名)とレジスタンストレーニング群(56 名)に無作為に割り付けられた。intention-to-treat 解析では、オックスフォード股関節スコアの平均増加(改善を示す)は、人工股関節置換術を受けた患者では 15.9 点、レジスタンストレーニングを受けた患者では 4.5 点であった(差、11.4 点;95%信頼区間、8.9-14.0;P <0.001)(表)。

表. 6ヶ月後のアウトカムの比較
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2400141?logout=true#t2

6 ヵ月時点で、股関節全置換術に割り付けられた患者のうち 5 例(9%)は手術を受けておらず、レジスタンストレーニングに割り付けられた患者のうち 12 例(21%)は股関節全置換術を受けていた。6 ヵ月後の重篤な有害事象の発生率は、両群で同程度であった。そのような事象の大部分は、股関節全置換術の既知の合併症であった。

議論
重度の変形性股関節症で手術適応のある 50 歳以上の患者を対象としたこの多施設共同無作為化試験では、人工股関節全置換術により、6ヵ月後の追跡調査において、レジスタンストレーニングと比較して臨床的に重要で優れた改善が得られた。この評価は、患者報告による股関節の痛みと機能(Oxford Hip Score で測定)、および患者報告による痛み、機能、症状、QOLの 個別評価によって行われた。股関節全置換術は、6 ヵ月後の身体活動レベル、歩行速度、座位から立位までの機能に関して、レジスタンストレーニングよりも臨床的に重要な改善をもたらさなかった。6 ヵ月後の重篤な有害事象の発生率は両群で同程度であったが、その大部分は人工股関節置換術の既知の合併症であった。

股関節全置換術の有効性を非外科的治療と比較して評価した試験のデータは限られている。本試験では、股関節全置換術またはレジスタンストレーニング後の患者報告アウトカムおよび機能的パフォーマンスアウトカムにおいて、先行研究で報告されたものと同様の改善が観察された。この点に関して、登録前に運動療法を受けていなかった患者は 4 人に 3 人近くおり、レジスタンストレーニングに割り付けられた患者の 4 人に 1 人近くは、24 ヵ月後に手術を受けていなかった。改善の大きさの解釈は、偽運動の対照がない限り困難であるが、我々の結果は、以前の無作為化試験で示唆されたように、レジスタンストレーニングが重度の変形性股関節症患者の一部にとって実行可能な治療選択肢である可能性を示唆している。最終的に人工股関節全置換術を受ける患者であっても、指導付きのレジスタンストレーニングを受けた患者では、そうでない患者よりも術後の回復が早いことが、以前の研究で支持されている。

この試験にはいくつかの限界がある。第一に、偽手術や偽運動が実行可能であるとは考えられなかったことから、この試験は盲検化されていなかった。この状況により、両治療の効果や、運動と比較した場合の手術の相対的な有益性が過大評価された可能性がある。登録可能な患者の 14%しか登録されなかったので、この試験の結果を一般化するには注意が必要である。患者が登録を辞退した最も一般的な理由は、股関節全置換術に対する治療の好みであった。治療の好みはアウトカムと関連する可能性があるため、登録された患者は変形性股関節症患者の一般集団とは異なる可能性があり、本試験は選択バイアスに陥りやすいかもしれない。しかし、本試験における性別、年齢、体格指数の分布は、世界中で人工股関節全置換術を受ける患者の分布と類似していた。さらに、Oxford Hip Score のベースライン値は、オーストラリア、デンマーク、オランダの患者から報告された値と大きな違いはなく、このことは、本試験の外部妥当性を裏付けている。

人工股関節置換術群では 9%の患者が手術を受けないことを決定し、レジスタンストレーニング群では 21%の患者が 6 ヵ月時点で手術を受けていたため、この結果は追跡調査時点での治療法間の真の差を過小評価している可能性がある。特に、12 ヵ月と 24 ヵ月の時点で手術に移行した患者の割合が高いことから、追跡期間が長くなればなるほど、手術の有益性がより過小評価されることになる。さらに、無作為化前に治療に対する期待を正式に評価したわけではない。ベースライン時に、人工股関節置換術群よりもレジスタンストレーニング群の方が、対側の人工股関節全置換術の既往がある患者の割合が高かったことは、レジスタンストレーニングに対する患者の期待に影響を与え、治療効果の推定値に影響を与えた可能性がある。

重症の変形性股関節症で手術の適応がある 50 歳以上の患者を対象としたこの試験では、人工股関節全置換術は、レジスタンストレーニングと比較して、6 ヵ月後の患者報告による股関節痛の臨床的に重要で優れた軽減と機能の改善をもたらすことがわかった。これらの結果は、変形性股関節症の管理に関する現在の推奨事項を支持するものであり、臨床現場における意思決定の共有に役立てられる可能性がある。

元論文
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2400141