地中海食は BMI やウエストヒップ比とは無関係に肥満関連がんの低い頻度と関連している。
JAMA Netw Open 2025;8:e2461031
目的
脂肪率の仲介的役割の可能性を考慮しながら、地中海食 (Mediterranean Diet) の遵守と肥満関連がん (obesity-related cancer) のリスクとの関連を検討すること。
はじめに
体重超過の有病率とそれに伴うがんの負担は、ここ数十年で世界的に増加している。1975 年から 2016 年の間に、成人(20 歳以上)における体重超過の有病率は、男性で約 21 %、女性で約 24 %であったのが、男女ともに約 40%に上昇した。現在、この流行を抑制するための広範な取り組みにもかかわらず、世界人口の 39%が肥満または過体重である。国際がん研究機関によると、過剰な体重は、子宮内膜、食道、腎臓、膵臓、肝臓、乳房など 13 の解剖学的部位におけるがんリスクの上昇と確実に関連している。
疫学研究や臨床試験から得られたエビデンスは、伝統的な地中海食が、体重減少や腹部脂肪率の低下との関連を含め、健康に良い影響を与えることを支持している。例えば、European Prospective Investigation Into Cancer and Nutrition (EPIC)-Spain コホート研究では、過体重の人において地中海食の遵守が高いことと肥満リスクとの間に逆相関があることが明らかにされている。Romaguera らも、欧州の集団において、地中海食の遵守がウエスト周囲径の縮小と関連し、体重増加を予防しうることを観察している。さらに、Castro-Espin らによる最近の研究では、欧州 9 カ国の女性において、地中海食の遵守が乳がん診断後の生存率の改善と関連していることが明らかにされ、地中海食ががんの予後を保護する役割を担っていることがさらに強調されている。
地中海食遵守の利点は、腹部脂肪の減少にとどまらないかもしれない。EPIC 試験において、Couto らは、地中海食のアドヒアランスが高いほど、地中海食スコアが 2 ポイント上昇するごとにがん全体のリスクが 4%低下し、特にアルコールをスコアから除外した場合には、大腸がん、胃がん、乳がんで最も強い関連があることを明らかにした。同様に、イタリアの EPIC センター内の研究者らは、腹部脂肪率がこの関連を媒介することはなかったものの、地中海食と大腸がんリスクとの保護的関連を観察した。肥満関連がんにおける地中海食の関連結果における媒介因子としての脂肪率の役割を検討した研究は限られている。肥満とがんを結びつける機序は複雑で、アディポカイン、成長因子、インスリン抵抗性などの因子のほか、低酸素症、遺伝的感受性、間質細胞、炎症などの新たな因子も含まれている。したがって、本研究の目的は、EPIC コホートにおける地中海食パターン(2005 年に Trichopoulou らによって提唱された地中海食スコアによって測定される)の遵守と肥満関連がんリスクとの関連を評価し、この関連における体格指数(body mass index: BMI)とウエスト・ヒップ比(waist to hip ratio: WHR)の媒介的役割を調査することであった。
デザイン
この前向きコホート研究では、1992 年から 2000 年にかけて 10 ヵ国 23 施設で 35~70 歳の参加者が登録された European Prospective Investigation Into Cancer and Nutrition(EPIC)研究のデータを解析した。データ解析は 2023 年 3 月 1 日から 5 月 31日まで行われた。
曝露
ベースライン前の食事摂取量は、募集時に実施された国別の有効な質問票を用いて評価された。地中海食の遵守は 9 点満点で採点され、低(0~3 点)、中(4~6 点)、高(7~9 点)に分類された。
主要アウトカム
主要アウトカムは、2015 年国際がん研究機関の基準に従って分類された肥満関連がんの発生率であった。多変量 Cox 比例ハザード回帰モデルを用いて、地中海食遵守と肥満関連がん発症率との関連を評価した。この関連におけるウエスト・ヒップ比および肥満度の役割を評価するために、媒介分析を行った。
結果
合計 450,111 人が研究に参加し(平均[標準偏差]年齢、51.1[9.8]歳;70.8%が女性)、中央値(四分位範囲)で 14.9(4.1)年間追跡された。
図 1. EPIC コホート参加者のフローチャート
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表 1. 参加者背景
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参加者のうち 4.9%が肥満関連がんを経験した(その割合は、地中海食の遵守が低、中、高の各群でそれぞれ 1 人年当たり 0.053, 0.049, 0.043)。地中海食の遵守が高い参加者(7-9 点)は、低い参加者(0-3 点)に比べて肥満関連がんのリスクが低かった(ハザード比 [hazard ratio: HR], 0.94;95%CI, 0.90-0.98)。中程度の遵守(4-6 点 v.s. 0-3 点)でも同様の逆相関が観察された。
表 2. 地中海食スコアのカテゴリー別の肥満関連がんの罹患率
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2830586#zoi241697t2
図 2. 地中海スコアに対する肥満関連がん罹患率の回帰曲線
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しかし、媒介分析では、地中海食の遵守と肥満関連がんリスクとの間にウエスト・ヒップ比や肥満度の関連は示されなかった。
考察
このコホート研究により、地中海および非地中海の両集団を含む EPIC 研究において、地中海食の遵守度が高いほど肥満関連がんのリスクが小幅に (6%)低下することが明らかになった。われわれの結果は、地中海食スコア(アルコールを除く)の違いと全がん罹患率との間に逆相関があることを明らかにした Netherlands Cohort Study と一致している。さらに、先行する EPIC の解析では、地中海食スコアが 2 ポイント上昇するごとに、全がんリスクが低下することが報告されている(HR, 0.96;95%CI, 0.95-0.98)。地中海食の遵守は、内臓脂肪の低下、BMI の低下、体重増加の抑制と関連しており、地中海食の遵守と肥満関連がんリスク低下との関連は、BMI およびウエストヒップ比と関連している可能性があるという我々の仮説を支持している。しかし、我々の所見は、観察された肥満関連がんとの保護的関連は他のメカニズムが関与している可能性を示唆している。例えば、以前イタリアで行われた EPIC コホート研究では、地中海食と大腸がんとの予防的関連は内臓脂肪によって媒介されるものではないことが明らかにされている。
介入研究でも、地中海食は空腹時血糖値や C 反応性タンパク質 (C-reactive protein: CRP) などの代謝・炎症マーカーと正の相関があることが示されている。一方、食物繊維は加工肉などから摂取される発がん性 N-ニトロソ化合物を打ち消す可能性がある。部位特異的肥満関連がんに関しては、地中海食の遵守が高いほど大腸がん、肝細胞がん、腎臓がんのリスクと逆相関し、中程度の遵守が中程度は食道がんや多発性骨髄腫の低いリスクと関連することがわかった。これらの結果は、肝細胞がん、大腸がん、食道腺がんに関する先行研究と一致している。がん予防に対する地中海食の潜在的な有益性は、その様々な成分間の相互作用や相乗効果によるものであり、個々の食品単独で観察される以上の健康上の有益性を集合的に高めている可能性がある。今回の所見から、穀類の摂取量が多く肉の摂取量が少ないことは、肥満関連がんのリスクをわずかに低下させることにつながる可能性が示唆された。一方、喫煙者ではより強い予防的関連が観察されたことから、地中海食の遵守ががんに対するタバコの影響を部分的に相殺する可能性が示唆され、喫煙と地中海食の遵守不良のがん関連死亡率増加との複合的関連を明らかにした先行研究と一致している。我々の媒介分析では、ウエストヒップ比や BMI が地中海食と肥満関連がんリスクの間の媒介因子として示されなかったが、これはおそらく我々のコホートにおける肥満の有病率が低く、代謝障害に対する皮下脂肪と内臓脂肪の寄与が異なるためであろう。今後の研究では、暴露とメディエーターの反復測定を行い、これらの比較をさらに検討すべきである。
長所と限界
本研究の長所は、大規模サンプル、相当数のがん症例、および長期間の追跡期間である。先行する EPIC 解析とは異なり、本研究では、地中海諸国および非地中海諸国の多様なレベルの地中海食遵守を包含する集団において、様々ながんサブタイプおよび肥満とがんの関連を評価した。さらに、感度分析と喫煙および他の潜在的交絡因子の調整により、我々の知見の頑健性が高まった。
また、本研究にはいくつかの限界があることも認識している。第一に、曝露と潜在的交絡因子はベースラインでのみ評価された。追跡期間中に食事内容や交絡因子に変化が生じた可能性はあるが、類似のコホートにおける先行研究では、食事パターンは長期にわたって比較的安定している傾向があることが示唆されており、この限界は部分的に緩和されている。第二に、特に参加者のかなりの部分が非地中海諸国出身者であったため、地中海的生活様式は評価されたスコアによって完全に把握されていない可能性がある。しかし、前向き研究においては、スコアリングシステム内での誤分類があれば、ハザード比推定値がヌル側に偏る可能性がある。第三に、地中海食スコアの潜在的な欠点は、すべての構成要素を同じ重要度で扱い、各構成要素の消費量が指定されたカットオフ値より高いか低いかを単に示すことである。さらに、フランスとノルウェーの参加者は、自己申告による身体測定値を使用しているため、バイアスがかかっている可能性がある。最後に、我々のコホートにおける過体重および肥満の有病率の低さもまた、我々の媒介分析におけるヌル結果を部分的に説明する可能性がある。
結論
これらの知見は、地中海食の遵守が高いことは、脂肪率の指標とは無関係に、肥満関連がんのリスクを適度に減少させることと関連することを示している。地中海食ががん予防に寄与するメカニズムを明らかにするためには、さらなる研究が必要である。
元論文
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2830586