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内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床についての論文のまとめ

抗癌剤以外の薬剤による無顆粒球症

2023-10-21 16:54:39 | 血液

抗癌剤以外の薬剤による無顆粒球症についてのシステマティックレビュー

Ann Intern Med 2007; 146: 657-665

 

980例の抗癌剤以外の薬剤による無顆粒球症 (agranulocytosis) の症例報告のうち、確診は 56例 (6%)、疑い (probable) は 436例 (44%)、可能性あり (possible) 481例 (49%)、否定 (unlikely) 6例 (1%) だった。

 

無顆粒球症の確診または疑いの原因とされた薬物は 125種類あった。10例以上の報告があった薬剤としては、カルビマゾール (メチマゾールのプロドラッグ) 、クロザピン (非定型向精神薬)、ダプソン (抗菌薬、商品名はレクチゾール)、ジピロン (消炎鎮痛薬、無顆粒球症との関連が指摘されたため日本では販売中止)、メチマゾール、ペニシリンG、プロカインアミド、プロピルチオウラシル、リツキシマブ、サルファサラジン、チクロピジンがあった。これらの薬剤は確診または疑い例の原因薬剤の 50%以上を占めていた。

 

死亡例の割合は 1966年から 2006年の間に低下していた。好中球の底値が 100 /μL 未満の場合は、100 /μL を越える場合に比べて死亡率が高かった (10% V.S. 3%, P 0.001未満)。

 

G-CSF を投与した場合、好中球減少の期間が 1日短縮した (8日 V.S. 9日, P = 0.015)。また、診断時に無症状だった患者については、感染または死亡の割合が G-CSF を投与した患者の方がしなかった患者よりも少なかった (14% V.S. 29%, P = 0.03)。

 

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17470834/

 


悪性リンパ腫の診断と治療

2023-10-03 16:54:48 | 血液

悪性リンパ腫の診断と治療についての総説

Am Fam Physician 2020; 101: 34-41

 

悪性リンパ腫はリンパ球の悪性新生物であり、90 のサブタイプがある。悪性リンパ腫は伝統的に大きくホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に分けられている。タバコと肥満は修正可能なリスク因子である。

悪性リンパ腫は典型的には疼痛をともなわないリンパ節腫大を呈する。進行すると、発熱、原因不明の体重減少、盗汗などの全身症状を認める。

診断のためには開創リンパ節生検 (open lymph node biopsy) が好まれる。症状と PET/CT で調べた病変の広がりに基づいてルガノ分類 (Lugano classification) でステージを決定する。

化学療法のレジメンはサブタイプによって異なる。ホジキンリンパ腫は CHOP (cyclophosphamide, doxorubicin, vincristine, predonisolone) 、または CHOP に rituximab (R-CHOP)、bendamustine、または lemalidomide を追加したレジメンで治療する。

一方、非ホジキンリンパ腫は ABVD (doxorubicin, bleomycin, vinblastin, dacarbazine)、Stanford V (mechlorethamine, doxorubicine, vinalastine, vincristine, bleomycin, etoposide, psedonisolone) または BEACOPP (bleomycin, etoposide, doxorubicin, cyclophosphamide, vincristine, procarbazine, predonisolone) に放射線治療を併用して治療する。

化学療法の副作用としては、神経障害、心毒性、肺がんや乳がんなどの二次性のがんがある。どの化学療法のレジメンを選択するかは患者とともに決めることが重要である。寛解導入できたら、合併症と再発のスクリーニングを行う。悪性リンパ腫の患者は免疫不全なので、一般的な予防医療としての推奨とは別に、まず13価肺炎球菌ワクチン(プレベナー13) を接種し、その後、23価肺炎球菌ワクチン (ニューモバックス NP) を接種するべきである。直近で肺炎球菌ワクチンを接種していた場合は、最低 8週間間隔を空けて接種する。家族がワクチン接種できているかを確認することも重要である。

 

1. 疫学

米国の 2019年の統計によると、年間 82000人の悪性リンパ腫の新規発症があり、悪性新生物の新規発症の 4.7% を占める。悪性リンパ腫による死亡は 21000人と推定され、全悪性新生物による死亡の 3.5%を占める。

現在の 5年生存率は非ホジキンリンパ腫で 72%、ホジキンリンパ腫で 86.6%である。

非ホジキンリンパ腫の罹患率は男性および白人で多く、年齢とともに増加する。非ホジキンリンパ腫の診断時の年齢の中央値は 67歳で、死亡時の年齢の中央値は 76歳である。ホジキンリンパ腫は 20-34歳で診断されることが多いが、死亡時の年齢の中央値は 68歳と高齢である。これは若い人では生存率が高いためである。

 

2. 危険因子

遺伝、感染、炎症は悪性リンパ腫の発症リスクである。

1親等内の家族歴は、非ホジキンリンパ腫の場合で発症リスクを 1.7倍、ホジキンリンパ腫の場合で 3.1倍増加させる。

感染によるリンパ腫発症のしくみは 3種類ある。ひとつはリンパ球の形質転換、もうひとつは免疫抑制、さらにもうひとつは慢性的な抗原刺激である。

関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、皮膚筋炎、セリアック病は悪性リンパ腫の発症リスクである。これには原病による炎症と、免疫抑制療法の双方が関与していると考えられている。

修正可能なリスク因子としては喫煙 (現喫煙、過去の喫煙とも)、肥満 (BMI 30 kg/m2 超) がある。また、乳房インプラントと長期間の殺虫剤への曝露は非ホジキンリンパ腫発症と関連している。

 

3. 臨床所見

悪性リンパ腫ではふつう、疼痛をともなわないリンパ腫大を認める。リンパ節は年余の経過で増大したり縮小したりを繰り返すこともあるし、急速に増大することもある。ホジキンリンパ腫では、横隔膜より上にあるリンパ節が腫大するのが典型的である。非ホジキンリンパ腫は全身のどこでも発生しうる。消化管、皮膚、中枢神経系を原発とするサブタイプもある。

進行すると、発熱、原因不明の体重減少、盗汗などの全身症状を認めるようになる。リンパ腫は節外に直接浸潤または血行性転移する。血行性転移しやすい臓器としては脾臓、肝臓、肺、骨髄がある。

高悪性度のリンパ腫は緊急性があり、上大静脈症候群や硬膜外脊髄圧迫 (epidural spinal cord compression)、悪性心嚢液貯留 (malignant pericardial effusion) が起こり得る。

傍腫瘍症候群は悪性腫瘍では稀である。ホジキンリンパ腫では傍腫瘍症候群としての小脳変性、非ホジキンリンパ腫およびホジキンリンパ腫では皮膚筋炎や多発筋炎を合併することがある。

 

4. 診断

悪性リンパ腫の診断は、開創リンパ節生検で組織所見、免疫組織染色、フローサイトメトリーの所見に基づいて確定される。穿刺吸引細胞診はリンパ節腫大の精査で最初に行われることが多い検査であるが、ホジキンリンパ腫の診断に必要なリード・シュテルンベルク細胞 (Reed-Sternberg cell) を確認するのに十分な量の組織は採取できない。

 

5. 病期分類

1971年にホジキンリンパ腫の病期分類である Ann Arbor 分類が発表された。後に非ホジキンリンパ腫に対しても Ann Arbor 分類が使用されるようになった。現在は PET-CT の結果に基づく病期分類である Lugano 分類が用いられる。この新しい分類基準では、A症状 (全身症状なし) と B症状 (発熱、体重減少、盗汗) はホジキンリンパ腫に対してのみ記載する。また、骨髄生検は PET-CT で病変進展を認めないびまん性大細胞型 B細胞リンパ腫の場合のみ行うことが推奨されている。

 

6. 予後予測

非ホジキンリンパ腫の予後予測には国際予後指標 (International Prognosis Index) が、ホジキンリンパ腫の予後予測には国際予後スコア (International Prognosis Score) が使用されている。

 

7. 治療

悪性リンパ腫は化学療法単独または放射線化学療法で治療される。放射線治療単独は推奨されていない。

放射線療法は治療から数年~数十年後に照射部位に二次がん(乳がん、肺癌) を来すことがある。一方、化学療法も乳がん、肺癌、メラノーマ、急性骨髄性白血病が続発することがある。

診断時の年齢 60歳以上は病期分類とは独立に予後不良である。米国 National Comprehensive Cancer Network (NCCN) は 60歳以上では特定の抗癌剤は使用を控えるように推奨している。内科医は全ての患者に対して治療選択肢について患者と話し合って意思決定するべきである。さらに、60歳以上の患者については治療を継続するかどうかについても患者と話し合うべきである。

非ホジキンリンパ腫の標準的治療は ABVD 療法 (doxorubicin (Adriamycin), bleomycin, vinblastine (Velban), decarbazine) だが、Stanford V (doxorubicin, vinblastine, meclorethamine, etoposide (Toposar), vincristine, bleomycin, predonisone) や escalated-BEACOPP (bleomycin, etoposide, doxorubicin, cyclophosphamide, vincristine, procarbazine (Matulane), predonisone) などのレジメンを行っても良い。

ホジキンリンパ腫の治療は組織所見によるが、CHOP (cyclophosphamide, doxorubicin, vincristine, predonisone) か R-CHOP (CHOP + rituximab (Rituxan), 抗 CD20 モノクローナル抗体)で治療されることが多い。

アルキル化剤である bendamustine (Bendeca) や lenalidomide (Revlimid) も非ホジキンリンパ腫の治療に用いられる。

初期のホジキンリンパ腫の成人患者 2500名以上を含む 7件の臨床試験をまとめた結果として、コクランレビューは多剤併用療法は生存率の改善についてはわずかだが、無増悪生存期間は延長させ得ると結論している。

放射線療法の副作用としては、嘔気、嘔吐、頭痛、倦怠感、皮膚炎がある。長期的な合併症としては心機能障害、呼吸機能障害、甲状腺機能障害、肺がん、乳がんがある。ステージ IA または IIA で粗大病変がない場合は放射線療法を行わなくても良い。

 

8. 中間評価

非ホジキンリンパ腫およびホジキンリンパ腫の化学療法後の治療効果判定は PET-CT 所見に基づく ドーヴィルスコア (Deauville score, リンク参照)で評価するべきである。

非ホジキンリンパ腫では、ドーヴィルスコアが 3点未満であれば、完全寛解であると判断し、治療を終了するべきである。スコアが 4 または 5点の場合は治療の強化を検討する。

ホジキンリンパ腫では、ドーヴィルスコアが 1 または 2点の場合は治療を終了する。スコアが 3 または 4点の場合は追加の化学療法が必要である。5点の場合は追加の化学放射線療法を行い、リンパ節生検を行う。組織病理で腫瘍細胞を認める場合は、治療抵抗性であると考える。

 

9. 再発

非ホジキンリンパ腫の再発率はサブタイプによって異なる。最多のサブタイプであるびまん性大細胞型B 細胞性リンパ腫の場合は、生涯の再発率は 40%である。

ホジキンリンパ腫の再発率は初期であれば 10-15%であり、進行期であれば 40%である。

 

10. 治療後のフォローアップ

寛解導入できた患者では、再発と合併症の監視のためにフォローアップが必要である。悪性リンパ腫の合併症としては二次がん (乳がん、肺がん、皮膚がん、大腸がん)、心疾患、不妊、内分泌学的、神経学的、精神医学的な障害がある。

現在の NCCN のガイドラインは悪性リンパ腫寛解後にフォローアップする項目の概要を示している (リンク参照)。フォローアップの程度と間隔は悪性リンパ腫のサブタイプによって異なる。最初の2年間は 3-6か月毎に腫瘍内科医の診察を受け、3年目は 6-12か月毎、それ以降は 1年毎に診察を受ける。再発なく 5年経過したら、プライマリケア医による診察に移行して良い。

無症状の場合は、画像検査でフォローアップすることは臨床的なアウトカムを改善させない。画像検査は症状がある場合か、再発のリスクが高く、容易に診察が受けられない場所にいて、仮に再発していた場合に治療の対象になり得る場合に行うべきである。しかし、NCCN のガイドラインでは、胸部 X線写真または CT を最初の 2年間は 6-12か月毎に行い、3-5年目には 1年毎に行っても良いとしている。

完全寛解後に PET-CT を行うことは推奨されていない。

 

11. ワクチン接種

全ての悪性リンパ腫の患者は肺炎球菌ワクチンを接種するべきである。具体的には、まず 13価ワクチン (プレベナー 13) を接種し、8週以上空けて 23価ワクチン (ニューモバックス 23) を接種する。さらに 5年以上空けて 23価ワクチンを接種する。

抗 B細胞抗体 (rituximab など) を投与されている患者はインフルエンザワクチンを接種するべきではない。そして、化学療法中は生ワクチン接種は禁忌である。化学療法終了後 3か月、抗 B細胞抗体投与終了後 6か月後からは不活化ワクチンも生ワクチンも接種を再開するべきである。

造血幹細胞移植を行った患者では、移植後 6-12か月後からヒブワクチンを 3回接種するべきである。

同居している家族がワクチン接種をしていることも重要である。

 

NCCN ガイドライン 悪性リンパ腫寛解後にフォローアップする項目

https://www.aafp.org/afp/2020/0101/hi-res/afp20200101p34-t7.gif

ドーヴィルスコア

https://radiopaedia.org/articles/deauville-five-point-scale

元論文

https://www.aafp.org/afp/2020/0101/p34.html


発熱性好中球減少症の診療ガイドライン

2023-09-26 15:19:35 | 血液

米国感染症学会の発熱性好中球減少症についての診療ガイドライン

Clinical Infectious Disease 2011; 52: e56-e93

 

1.  リスク評価についての推奨

・ほとんどの専門家は 7日以上続き、好中球の絶対数が 100 /μL 未満である場合かつ/または低血圧、肺炎、新規の腹痛、神経症状などの所見をともなう場合は高リスクだと考える。このような患者はとりあえず入院させて経験的治療を始めると良い (A-II)。

・7日未満で症状に乏しければ、経口で抗菌薬治療を始めても良い (A-II)。

・きちんとリスク評価しようと思うなら、Multinational Association for Supportive Care in Cancer score (MASCC score) がおすすめ (B-I)。

 

2.  初期評価についての推奨

・初期評価では血算、血液像、尿素窒素、血清クレアチニン、電解質、トランスアミナーゼとビリルビンは測定しよう。

・血液培養は最低 2セットは提出しよう。中心静脈カテーテルがある場合は、1つは中心静脈カテーテルから、もうひとつは末梢から採取しよう (A-III)。

・疑わしい感染巣があるなら、その部位の培養検体 (痰、尿、髄液など) も提出しよう (A-III)。

 

3.  経験的治療についての推奨

・高リスクの患者には抗緑膿菌活性を持つ β-ラクタム系抗菌薬 (セフェピム、タゾバクタム/ピペラシリン、メロペネム、イミペネム/シラスタチン)を単独で投与しよう (A-I)。

・低血圧や肺炎を合併している場合、あるいは耐性菌が予想される場合には他の抗菌薬 (アミノグリコシド、フルオロキノロン ± バンコマイシン) を併用しても良い (B-III)。

・バンコマイシンやその他の好気性グラム陽性球菌に対して活性がある抗菌薬はカテーテル感染、皮膚・軟部組織感染症、肺炎が疑われる場合や循環動態が不安定な場合でもなければ併用しない方が良い (A-I)。

・メチシリン耐性ブドウ球菌、バンコマイシン耐性腸球菌、ESBL 産生菌、カルバペネマーゼ産生肺炎桿菌などの耐性菌の関与が疑わしい場合、特に全身状態が不安定な場合は初期治療を個別に変更するのは仕方がない (B-III)。

 

4.  治療の修正についての推奨

・予想外に発熱が続いても全身状態に変わりがないなら抗菌薬を変更する必要はほとんどない。培養結果を確認して抗菌薬を最適化すべし (A-I)。

・初期治療でグラム陽性菌を狙ってバンコマイシンなどの抗菌薬を併用した場合、2日経ってもグラム陽性菌感染が明らかでなければ中止せよ (A-II)。

・初期治療を開始しても循環動態が不安定な場合は、耐性グラム陰性菌、グラム陽性菌、嫌気性菌、真菌をカバーするようにより広域な抗菌薬 (±抗真菌薬)に変更すべし (A-III)。

・高リスクの患者で広域抗菌薬治療を開始して 4-7日経過してもフォーカス不明の発熱が続く場合は経験的に抗真菌薬投与を検討すべし (A-II)。

 

5. 治療期間についての推奨

・抗菌薬治療は少なくとも好中球数 500 /μL 超になるまでは続けよう (B-III)。

 

6. 抗真菌薬投与についての推奨

・抗菌薬治療を開始して 4-7日経過しても発熱が続き、好中球減少の期間が 7日を超えることが予想される場合は、侵襲性真菌感染症の検索と経験的な抗真菌薬投与を検討しよう (A-I)。

 

7. G-CSF 投与についての推奨

・発熱性好中球減少症の患者に顆粒球コロニー形成刺激因子 (granulocyte colony stimulating factor: G-CSF) の使用は勧めない (B-II)。

 

8. 衛生管理についての推奨

・手洗い励行 (A-II)。標準感染予防策励行 (A-III)

・病室に生花やドライフラワーは持ち込ませないように (B-III)。

 

https://academic.oup.com/cid/article/52/4/e56/382256

 


発熱性好中球減少症のガイドラインについての総説

2023-09-26 15:12:27 | 血液

発熱性好中球減少症のガイドラインについての総説

J Oncol Pract 2019; 15: 25-26

米国臨床腫瘍学会 (American Society of Clinical Oncology: ASCO) と米国感染症学会 (Infectious Disease Society of America: IDSA) は 1997年に 発熱性好中球減少症 (febrile neutropenia: FN) の一般的な治療についての診療ガイドラインを発表し、2011年に改訂した。

このガイドラインでは入院加療を前提としていたが、リスク層別化により、一部の FN 患者は安全に外来で治療できるようになった。そこで、2017年に ASCO と IDSA は外来における FN の治療についての診療ガイドラインを発表した。

一方、高用量の細胞毒性化学療法や造血幹細胞移植など FN のリスクが高い場合には予防的に抗菌薬投与が行われている。2018年には ASCO と IDSA は抗菌薬予防投与についての診療ガイドラインも発表している。

FN のリスクの層別化ツールとしては、Talcott's rule や Multinational Association Supportive Care in Cancer score、Clinical Index of Stable Febrile Neutropenia などがある。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6333383/#!po=3.12500


大豆 ー完全なタンパク源

2023-09-26 05:40:18 | 血液
大豆 ー完全なタンパク源
Am Fam Physician 2009; 79: 43-47

大豆には人間の栄養に必要な必須アミノ酸がすべて含まれており、何千年も前から栽培・収穫されてきた。

大豆タンパク質が多く、動物性タンパク質が少ない食生活を送っている集団は、他の集団に比べて前立腺がんや乳がんのリスクが低い。

大豆タンパク質を増やすと、総コレステロール、低比重リポタンパク質、トリグリセリドの値が低下し、更年期のほてりが改善する可能性があり、閉経後の女性の骨密度の維持と骨折の減少に役立つ可能性がある。乳がんの既往歴のある女性における大豆の摂取に関して推奨を行うには十分なデータがない。

精製された大豆イソフラボン成分は、サプリメントとして摂取した場合、全大豆タンパク質を食事から摂取するのと同じ結果は得られない。

総じて、大豆は忍容性が高く、コレステロールを低下させることが示された完全な蛋白源であるため、高脂肪の動物性食品に代わる食事として推奨される。

1. はじめに

最近のある消費者調査によると、アメリカ人の 33%が月に 1 回以上、大豆食品または大豆飲料を摂取しており、85%が大豆製品を健康に良いと評価している。

大豆はトウモロコシに次いで米国で生産される最大の作物であり、米国産大豆は世界の大豆貿易の 42%、米国で消費される食用油脂の 75%を占めている。

大豆のイソフラボン成分を 1 日あたり 30~60 mg 含むとされるアジアの食事に比べ、アメリカの平均的な食事には 1 日あたり約 1~3 mg しか含まれていない。推奨摂取量は、全大豆タンパク質で1日あたり 25 g、大豆イソフラボンで 1 日あたり 40~80 mg である。

一般的な食品としては、枝豆、豆腐、豆乳、大豆粉、テンペ(temphe, インドネシアの大豆発酵食品)、味噌、醤油などがある。

テンペ
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%83%B3%E3%83%9A

表: 大豆食品の栄養表
https://www.aafp.org/pubs/afp/issues/2009/0101/p43/jcr:content/root/aafp-article-primary-content-container/aafp_article_main_par/aafp_tables_content0.enlarge.html

精製された大豆成分は、単離された大豆タンパク質や、大豆由来のイソフラボンであるゲニステイン、ダイゼイン、グリシテインとして、栄養補助食品としても販売されている。

大豆に関する研究は、主に次の 3 つの分野に焦点が当てられている

1. 食事からの全大豆タンパク質摂取
2. アルコール洗浄により成分を除去した分離大豆タンパク質のサプリメント
3. 大豆イソフラボンのサプリメント

2. 生理活性物質

大豆には、サポニン、レシチン、フィチン酸塩、プロテアーゼ阻害剤、フェノール酸、植物ステロール、イソフラボン、オメガ 3 脂肪酸など、多くの生理活性物質が含まれている。大豆の活性化合物に関する注目の多くは、イソフラボンのゲニステイン(genistein) とダイゼイン (daidzein) に集中している。

これら 2 つの植物性エストロゲンは、エストロゲン受容体αおよびβに弱く結合するが、エストロゲン受容体βに優先的に結合し、選択的エストロゲン受容体モジュレーターのように作用すると考えられている。試験管内および動物実験によると、大豆はまた、消化管からのコレステロールと胆汁酸の吸収を減少させ、抗腫瘍酵素活性を高め、アポトーシスと細胞周期を制御し、チロシンキナーゼタンパク質を阻害し、抗酸化物質として機能する可能性が示唆されている。しかし、個々の大豆成分の効果が大豆タンパク質全体の効果と同じであると考えるのは難しい。

3. 大豆摂取による生理的効果

大豆は脂質レベルの改善について最も広く研究されているが、大豆とその成分は更年期症状、骨の健康、がん予防への効果についても評価されている。

3-1. 脂質異常症

1999 年、米国食品医薬品局 (the U. S. Food and Drug Administration: FDA) は、1 日あたり 25 g の大豆タンパク質を含む飽和脂肪とコレステロールの低い食事は、心臓病のリスクを減らす可能性があるという健康強調表示 (health claim, 食品に健康上の有効性を表示すること) を承認した。FDA は、27 件の研究による結果を評価した結果、この結論に達した。

個々の食品がこの大豆の健康強調表示を受けるには、1 食あたりの大豆タンパク質含有量が 6.25 g 以上、脂肪 3 g 未満(飽和脂肪 1 g 未満)、コレステロール 20 mg 未満、ナトリウム 480 mg 未満でなければならない。

大豆タンパク質介入に関するランダム化比較試験の の結果を統合した 4 件のメタ分析では、総コレステロール値の統計的に有意な減少(2.5~9.3%)、低比重リポタンパク質値の 3~12.9%の減少、トリグリセリド値の 6~10.5%の減少、高比重リポタンパク質値の一貫性のない改善が示された。

大豆成分(イソフラボンなど)に関する研究では、コレステロール低下作用は一貫して証明されていない。

閉経後女性を対象とした最近のランダム化比較試験では、非大豆タンパク質を大豆に置き換えたところ、コレステロール値が改善しただけでなく、高血圧または正常血圧の患者の血圧も低下した。

脂質レベルの改善を示す研究はあるが、大豆タンパクの介入が心血管系の転帰を改善することを証明する研究はない。16,000 人以上の女性を対象としたある研究では、植物性エストロゲンを多く含む食事による心血管リスクの低下を示すことはできなかった。

3-2. 更年期症状

大豆イソフラボンは脳の β エストロゲン受容体に弱く結合するため、大豆は更年期のほてりを軽減する可能性があるとして研究されてきた。

大豆イソフラボン抽出物に関するプラセボ対照ランダム化比較試験のメタ分析では、ほてりの軽減については結果は一貫しなかった。さらに、マルチボタニカルと全大豆タンパク質を併用した食事介入に関するプラセボ対照ランダム化比較試験では、165 人の女性において、大豆介入は 1 年間の観察期間ではプラセボより優れているとは示されなかった。

ただし、これら 2 つの研究では、1 日のほてりの回数に基づいて女性を評価していない。イソフラボンサプリメントに関するランダム化比較試験を含む、より新しいメタ分析(17 件の研究、1,422 人の患者を対象)では、1 日のほてりが 10 回以上の患者ではプラセボ群より 20%減少したが、1 日のほてりが 6 回未満の患者では大豆イソフラボンによる効果は認められなかった。

60 人の閉経後女性を対象としたランダム化比較試験では、治療的生活習慣の変更のみを行った群(対照群)と、同様の治療的生活習慣の変更に加え、1 日 2 カップの大豆ナッツ(例えば、大豆タンパク質 25 g とイソフラボン 101 g)を摂取した介入群を比較した。この研究では、介入群では、1 日 4.5 回以上のほてりがある女性で 45%減少し、1 日 4.5 回未満の女性では 41%減少した。介入群の女性は、更年期 QOL の改善も示した。

以前のメタ分析では、ほてりの軽減に関する結果はまちまちであったが 、最近の研究で は、イソフラボンのサプリメント摂取や、 大豆タンパク質とイソフラボンを組み合わせた食事の摂取で、より良好な効果が示されている。最近の研究では、イソフラボン摂取群ではほてりが 8 週間で43%、12 週で 52%減少し、プラセボ摂取群では 32~39%減少した。

3-3. 骨代謝

大豆イソフラボンが骨芽細胞活性と破骨細胞活性を調節し、骨のターンオーバーを減少させることが、試験管内研究で示されている。

閉経後の中国人女性 24,403 名を 4.5 年間観察した前向き観察研究では、食事、年齢、社会経済的状態、骨粗鬆症の危険因子をコントロールした結果、大豆摂取量が最も多い女性(1 日あたり 13.26 g 以上)は、最も少ない女性(1 日あたり 4.98 g 未満)に比べて骨折リスクが 36%低いことがわかった。

閉経後の女性 61 人を対象とした二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験では、分離大豆タンパクを摂取した女性は、プラセボと比較して、9 ヵ月後の骨代謝マーカー(すなわち、血清 C 末端架橋テロペプチドと骨特異的アルカリホスファターゼ)が統計学的に有意に減少した。

10 件の研究(n = 608)を対象とした最近のメタ分析では、大豆イソフラボンを 6 ヵ月間摂取することで、更年期女性の脊椎の骨量減少が抑制されることが明らかになり、これは大豆イソフラボンを 1 日あたり 90 mg 以上摂取している女性で顕著だった。

総じて、大豆の介入を含む研究では、骨密度に対する一貫した効果は示されていない。これらの研究のほとんどは、参加者数が少なく、期間も短いため、限界がある。

3-4. がん予防

疫学的には、中国や日本など大豆の消費量が多い集団では前立腺がんの罹患率が低い。しかし、米国に移住したアジア系住民の前立腺がん罹患率は、他の米国人と同程度である。この差にはさまざまな要因が考えられるが、考えられる要因の 1 つは、アジア系住民の 1 日当たりの大豆消費量が米国系住民の 10~15 倍であることである。

前立腺がんの予防に大豆を使用した 24 件の臨床試験のメタ分析では、がんの発生をエンドポイントとして使用した研究はなく、ほとんどが腫瘍関連マーカーのみを使用していた。

乳がんに関する研究では、大豆のエストロゲン作用が特に注目に値する。18 件の疫学研究の結果を統合したメタ分析では、大豆摂取量の多い女性では、少ない女性に比べて乳がんのリスクが 14%減少した。しかし、この解析に含まれた個々の研究では、高-低大豆摂取量の定義が異なっており、欧米の研究では高大豆摂取量であったが、アジアの研究では低大豆摂取量であった。

さらに最近の 21 件の疫学研究の結果を統合したメタ分析では、大豆食品摂取量の多い女性では乳癌発症のリスクが 25%減少し、イソフラボンサプリメント摂取の女性では 20%減少した。

乳がん患者において大豆が安全かどうかについては疑問がある。研究によると、大豆は選択的エストロゲン受容体モジュレーターのように作用する可能性があり、イソフラボンの補充は若い女性の乳房密度を変化させないようだが、閉経後の女性では乳房密度を低下させる可能性がある。しかし、現在の研究では、乳癌女性における大豆の有益性も有害性も示されていない。

4. 副作用

一般に、大豆と大豆成分は忍容性が高く、副作用はほとんどない。49 件の研究(n = 3,518)の分析では、副作用はプラセボ群よりも大豆群(大豆食、大豆タンパク質、イソフラボン)の方が多かった。その他、頭痛、めまい、筋骨格系の不定愁訴などがあった。

ひとつの懸念は、大豆サプリメントが子宮内膜過形成を引き起こすかもしれないということである。最近の文献レビューによると、ほとんどの研究はこの懸念を支持していない。高用量の大豆イソフラボン(1 日 150 mg)を 120 人の女性に摂取させた研究では、5 年間の摂取で 4 人の女性に子宮内膜増殖症がみられた。

薬物相互作用については、大豆抽出物はチトクローム P450 3A4 酵素を弱く誘導する可能性があり、大豆との薬物相互作用の報告はまれであるが、ワルファリン(クマジン)を服用している患者が豆乳を食事に加えたところ、PT-INR が低下した可能性があるという症例がある。

また、鉄分や甲状腺ホルモンを補給している乳児を大豆粉ミルクに切り替えると、鉄分や甲状腺ホルモンの吸収率が低下するという研究結果もある。また、大豆製品にはチラミンが含まれているため、モノアミン酸化酵素阻害剤との理論的相互作用がある。

大豆アレルギー(多くの場合、血性下痢を引き起こす)は、大豆ミルクを使用している乳児の約 1%で報告されており、通常、これらの子供のほとんどが大豆製品を許容し始める 3 歳までに解決する。成人の大豆アレルギーはまれで、米国人口の約 0.2%に起こると推定されている。アナフィラキシーは大豆で報告されているが、まれである。

表 2 に、大豆の有効性、相互作用、推奨摂取量など、大豆に関する重要なポイントを示す。

表2: 大豆についての要点
https://www.aafp.org/pubs/afp/issues/2009/0101/p43/jcr:content/root/aafp-article-primary-content-container/aafp_article_main_par/aafp_tables_content1.enlarge.html

https://www.aafp.org/pubs/afp/issues/2009/0101/p43.html