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内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床についての論文のまとめ

全身性エリテマトーデスの臨床像: 早期発症から高齢発症まで

2024-05-13 07:48:01 | 膠原病
全身性エリテマトーデスの臨床像: 早期発症から高齢発症まで
Best Pract Res Clin Rheumatol 2024.
doi: 10.1016/j.berh.2024.101938.

全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus: SLE)は、複雑な病態を呈する疾患である。SLE は臨床所見および血清学的所見によって特徴づけられる。これらは特異的ではあるが、半数以上の症例では分類基準を十分に満たしていない (つまり感度は高くない)。このような病態は不完全型 SLE (imcomplete SLE) と呼ばれ、確定的で分類可能な SLE と同様に診断が難しく、臨床症状の重症度に応じて治療する必要がある。

さらに、早期の SLE 診断と治療介入は、寛解率や障害の蓄積において、疾患の転帰に良い影響を与える。診断後は、ほとんどの患者で再発·寛解の経過をたどる。寛解期間とグルココルチコイドの累積投与量は予後を左右する最も重要な因子である。したがって、SLE の臨床パターンを早期に把握することは、疾患の経過に合わせた治療介入に役立つ。

高齢発症 SLE (late-onset SLE) はまれであるが、診断が遅れ、シェーグレン症候群などの併存疾患の発生率が高くなることが多い。本総説では、SLE の疾患経過に焦点を当て、早期診断のための実用的な戦略、SLE の臨床パターンの概要、発症年齢の違いによる SLE の臨床像の多様性について述べる。

1. はじめに
全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus: SLE)は、複雑な多臓器にわたる慢性自己免疫疾患であり、主に出産適齢期の女性が罹患する。

SLE はさまざまな血清学的異常と臨床症状の組み合わせによって特徴づけられる。疾患の特徴は、性別、年齢、発症からの経過時間などいくつかの因子に影響される。

SLE が確定診断される前には前臨床期および初期臨床病期が存在する。この病期を認識することで、臨床病期の初期にすでに起こり始めている臓器障害の発生を予防することを目的とした早期診断と治療介入を確実に行うことができる。

SLE の臨床経過は、しばしば予測不可能な疾患活動性の再燃、進行性の臓器障害の蓄積、健康関連 QOL の低下を伴う。したがって、SLE 患者を適切な時期に診断し、適切に管理するためには、疾患の経過と臨床パターンを理解することが最も重要である。

2. 前臨床期の全身性エリテマトーデス
SLE の発症機序に関する現在の見解は、遺伝的に感受性のある個体において、環境因子(例えば、感染症、薬剤、紫外線)が自然免疫および獲得免疫の活性化を引き起こし、病原性自己抗体の産生につながるというものである。

自然免疫系と獲得免疫系が関与する正のフィードバックループは、SLE の前臨床期で自己免疫反応を増幅させる 。その結果、自己抗体の特異性が増加し、前臨床期が長期化する。

抗核抗体(anti-nuclear antibody: ANA)は SLE の免疫学的特徴であり、通常、診断の何年も前に無症状のうちに認められる。現在、SLE の標準的な評価には組み込まれていないが、遺伝因子、トランスクリプトーム(I 型インターフェロンシグネチャー [type I interferon signature] など)、可溶性メディエーター(抗体や炎症性サイトカインなど)に基づくマルチパラメトリック予測モデルは、SLE を発症するリスクの高い被験者の同定に役立つ可能性がある。

type I interferon signature
https://ard.bmj.com/content/70/Suppl_2/A24.1

リスクの高い人の予防法としては、SLE 発症の引き金になる可能性があると主張されている環境的に修飾可能な危険因子を取り除くことが挙げられる(表 1)。

表 1. SLE 発症と関連する環境因子および生活習慣
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1521694224000093?via%3Dihub#tbl1

後に SLE を発症する ANA 陽性患者では、SLE 発症前に、抗 dsDNA 抗体や抗 Sm 抗体など、より特異的な自己抗体が高い頻度で陽性となる。Arbuckle らは、SLE 患者の血清から抗 Ro/SSA 抗体が SLE の臨床的発症の平均 3.0 年前、確定診断の最大 9.4 年前(平均 3.7 年前)に検出され、抗 dsDNA と抗 Sm はそれぞれ臨床的発症の 1.2 年前と 0.5 年前に検出されたと報告している。

ANA 陽性は、さまざまな全身性・臓器特異的自己免疫疾患、ウイルス感染症、ANA 陽性を誘発することが知られている薬剤(TNFα 阻害剤、イソニアジドなど)の服用者、健常人、特に SLE 患者の健常な親族でもみられるため、ANA 陽性のみの SLE 診断に対する信頼性は低い。

間接免疫蛍光法(indirect immunofluorescence: IIF)Hep-2 アッセイを用いると、健常人における低力価 ANA(40 倍)の有病率は最大 30%と推定されるが、高力価 ANA(160 倍)が存在する場合は 5%未満である 。13,080 人の SLE 患者を対象とする 64 件の研究をまとめた最近のメタ分析では、IIF-Hep2 を用いた ANA 力価の上昇により SLE 診断に対する感度が低下し、特異度が高くなることが確認された。したがって、ANA は SLE が疑われる集団を絞り込むための感度の高いスクリーニング検査として用いられ、特異的バイオマーカーとして機能する他の自己抗体と組み合わせる必要がある(表 2)。

表 2. SLE 診断のバイオマーカーの感度、特異度、的中率
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1521694224000093?via%3Dihub#tbl2

SLE の診断にはゴールドスタンダードはなく、診断には医師の専門的知識とバイオマーカーによる臨床的判断が必要である。自己抗体検査が導入されて以来、症状発現から診断までのタイムラグは徐々に短くなっている。

3. 不全型全身性エリテマトーデス
SLE の発症は多くの場合緩徐であり、分類可能な疾患は通常数年かけて発症する。発症時、最大 50%の患者では、臨床症状および血清学的症状が SLE の分類基準を満たすには不十分である 。

分類は診断とは異なり、分類基準は研究者が臨床研究のために統一された患者群を同定するための標準化された定義である。分類基準は伝統的に、すべての可能性のある患者を対象とするのではなく、科学的な目的のために均質なコホートを作成することを目的としている。一方、診断基準は疾患の異質性を認識し、可能な限り多くの患者を同定することを意図している。診断基準がないため、SLE の診断は訓練を受けた医師の判断に依存し、他の結合組織病(connective tissue disease: CTD)、感染症(例、パルボウイルス B19、エプスタインバールウイルス、リーシュマニア)、悪性腫瘍(例、リンパ腫)など、SLE を模倣する可能性のある疾患を除外する必要がある。しかし、感度と特異度をうまく組み合わせた一連の分類基準は、臨床医の診断プロセスを助ける枠組みとして役立つであろう(表 3)。

表 3. SLE の分類基準
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1521694224000093?via%3Dihub#tbl3

まだ分類できない SLE の臨床症状は、境界型 (borderline)、潜伏型 (latent)、中間型 (intermediate)、蓋然型 (probable)、潜在型 (potential)、可能型 (possible)、そして最も頻度の高い不全型 SLE(imcoplete SLE: iSLE)などいくつかの方法で定義されている。

iSLE という用語は、SLE に特異的な臨床症状や血清学的異常(例えば、蝶形紅斑 [malar rush]、溶血性貧血、抗 dsDNA 抗体、抗 Sm 抗体)を認めるが、分類には不十分な病態を示す。iSLE と分類可能な SLE の患者では、SLE のリスク遺伝子座の遺伝的負荷が同等であることから、遺伝的感受性が類似していることが示唆されるが、表現型の違いは遺伝子と環境の相互作用の影響を受けている可能性がある。

iSLE の定義は、特定の CTD の分類基準を満たすには不十分な血清学的・臨床的特徴を特徴とする未分化 CTD(undifferentiated CTD: UCTD)と一部重複することがある。Mosca らによると、UCTD には以下の 2 つのタイプがある。すなわち、a) 長期間(少なくとも 3 年間)安定した徴候と症状を示す安定型 UCTD と b) 20-60%の症例で SLE を含む明確な CTD に進展する進展型 UCTD である。iSLE に相当し、分類可能な SLE に進展する危険性のある UCTD を認識することは、治療やフォローアップに対して臨床的な意味をもつ。

iSLE 患者の約 10-50%が SLE に移行し、その多くは発症後 5 年以内である。また、iSLE 患者はふつう SLE 患者より診断時の年齢が高い 。最近のメタ分析により、分類可能な SLE への進展に関連する臨床症状や血清学的症状がさらに明確になった(表 4)。

表 4. UCTD から SLE への進展に関与する臨床所見および血清学的所見
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1521694224000093?via%3Dihub#tbl4

ヒドロキシクロロキン(hydroxychloroquine: HCQ)治療が iSLE から SLE への進行を遅らせ、診断時に存在する自己抗体のレパートリーや発現量を減少させるという後ろ向き観察研究が報告されている。無作為プラセボ対照二重盲検臨床試験 SMILE (Study of Anti-Malarials in Incomplete Lupus Erythematosus) から、より確実な新しいエビデンスが得られることが期待されている。SMILE 試験では、ANA(少なくとも 80 倍)および SLICC の分類基準を 1 つまたは 2 つ満たすものとして定義された iSLE 患者が登録され、HCQ が 24 ヵ月以内の SLE への進行を予防または遅延させるのに有効であるかどうかを評価することを目的としている。HCQ による治療に加えて、進行予防戦略には、生活習慣の改善、喫煙習慣や無防備な日光暴露などの修飾可能な環境的危険因子の除去(表 1)が含まれる。

分類基準では SLE と分類できないが、iSLE 患者は必ずしも軽症とは限らず、多くの場合、初期の本格的な SLE に罹患しており、それに応じた診断と治療が必要である。興味深いことに、UCTD または iSLE の患者を本格的な SLE とみなす一連の臨床的・血清学的特徴は、研究間で十分に一貫しており、腎病変、急性皮膚症状、血小板減少、自己免疫性溶血性貧血、痙攣、抗 dsDNA 抗体、抗 Sm 抗体、低補体血症などを認める。

さらに、国際的な多施設共同研究により、SLE を模倣する疾患と SLE を早期に鑑別するのに役立つ一連の臨床症状と血清学的異常が同定された。典型的な蝶形紅斑を伴う粘膜病変(OR 15.0;95%CI: 8.4-26.6)や腎病変による尿検査異常 (蛋白尿、血尿、膿尿、円柱など)(OR 17.0;95%CI: 4.1-70.4)に加え、漿膜炎 (serositis)(OR 6.6;95%CI: 3.5-12.3)、滑膜炎 (synovitis)(OR 3.8;95%CI: 2.6-5.4)、発熱(OR 3.3;95%CI: 2.1-5.1)が SLE 診断と統計学的に有意な関連を示した。一方、初期の SLE では、SLE 模倣者より少ない特徴として、レイノー現象、シッカ症状 (sicca symptoms, ドライアイや口腔粘膜乾燥、嚥下障害、疲労がみられた。

これらの結果は、ACR 1997 基準(特異度 93.4%、感度 82.8%)および SLICC 2012 基準(感度 96.7%、特異度 83.7%)と比較して、感度(96.1%)および特異度(93.4%)で最も高い組み合わせを達成した EULAR/ACR 2019 SLE 分類基準についての情報を提供した。EULAR/ACR 2019 SLE 分類基準の精度を評価した追加研究もいくつかあり、高い感度(87.3-97.4%)と高い特異度(87.8-97.3%)の両方が報告されている。早期SLE(診断が 12-36 ヵ月未満)のサブコホートでは、感度87.3-92.8%、特異度 87.8%と良好な ROC 特性が確認された。

注目すべきは、最近の単一施設の後ろ向き研究で、早期 SLE と診断された患者の 8.6-20.1%が、EULAR/ACR 2019、SLICC 2012、ACR 1997 の基準を個別に用いても正しく分類されないことが示唆されたことである。

4. 早期全身性エリテマトーデス
早期 SLE (early SLE) という用語は、SLE の前臨床·臨床的特徴を認めるものの、分類基準を満たさない対象者を表すために、iSLE の代替として使用されてきた。一方、早期 SLE という用語の意味は、分類とは無関係に、症状の発現に関して最近 SLE と診断された被験者を示すように変化している (図 1) 。このパラダイムシフトは、症状の早期発見とそれに続く早期の治療介入が、臓器障害の発生と進行を予防できるという認識の高まりによるものである。

とはいえ、症状の発現から SLE と診断されるまでの期間の中央値はまだ長すぎる(2 年以上)と報告されており、その主な原因は、最初に症状を医師に訴えてからリウマチ専門医が診断するまでの時間である。レッドフラッグの策定や紹介患者をスクリーニングするツールの導入など、臨床的に実行可能な取り組みがあれば、プライマリケア医や非リウマチ専門医からリウマチ専門医への紹介時間を短縮できる可能性がある(表 5)。

表 5. SLE の診断が遅れる理由とリウマチ科への紹介までの期間を短くするための対策
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1521694224000093?via%3Dihub#tbl5

例えば、SLE Risk Probability Index (SLERPI) は、診断のためのリスク予測を可能にする臨床医にやさしいアルゴリズムであり、明確な基準を満たさない初期の SLE 患者においても高い精度を示した。SLERPI はさまざまな環境下におけるさらなる検証を受ける必要はあるものの、非特異的な血清学的特徴(例えば、ANA 単独陽性)を示し、かつ疑わしい臨床症状(例えば、 蝶形紅斑や蛋白尿 >500 mg/24 時間)を認める場合、あるいは複数の臨床症状があるが免疫学的異常がない場合、さらには特異的自己抗体(抗 dsDNA 抗体、抗 Sm 抗体など)が陽性で単独の臨床症状(血小板減少症や自己免疫性溶血性貧血など)をともなう場合などにスクリーニングツールとして有用である可能性がある。

図 1. SLE の発症、臨床的発症、診断、分類のタイムライン
https://ars.els-cdn.com/content/image/1-s2.0-S1521694224000093-gr1.jpg

自己免疫に対する遺伝的感受性を有する健常人(緑色のシルエット)は、CTD を発症するリスクがあると考えられる。臨床症状が出現する前に、SLE に対する特異性が低い(ANA、抗Ro/SSA 抗体など)、または高い(抗 dsDNA 抗体、抗 Sm 抗体など)自己抗体が増加することを特徴とする、期間が変動し予測できない前臨床期(黄色のシルエット)が存在することがある。

明らかな臨床症状や徴候がある場合(縦の破線)、SLE に対する特異性が低く(例えば、レイノー現象、関節痛、シッカ症状)、定義された CTD に分類するには不十分であることがある。このような患者(青いシルエット)は UCTD と呼ばれ、長期に安定した状態(安定型 UCTD)か、定義された CTD に移行する可能性がある。

血清学的プロファイルと臨床症状が SLE を示唆する特異的なもの(例えば、蝶形紅斑、痙攣)であっても、有効な基準で分類するには不十分な場合は、不全型 SLE(赤いシルエット)と診断することができる。血清学的プロファイルと臨床症状が特異的で十分であれば、定義された SLE と診断・分類できる(黒いシルエット、分類閾値以上、濃いグレーのウィンドウ内)。不全型 SLE を含め、SLE の診断が、分類や重症度に関係なく、症状出現後短期間でなされた場合は、早期 SLE(ピンクウィンドウ)と考えられ、より良い転帰で病勢が安定する可能性が高い。

レセプトデータベースの分析によると、SLE 患者は症状発現から 6 ヵ月以内に診断された場合、診断が遅れた患者に比べて重症度が低く、フレア率や入院回数も少なかった。さらに、観察研究では、診断から 6 ヵ月以内に寛解またはループス低疾患活動性状態(lupus low disease activity state: LLDAS)を達成し、その後 12 ヵ月間維持されることが、新たに SLE と診断された患者における障害の発生を低く抑えることを独立して予測することが示された。

診断から 1 年後の SLE 患者の最大 22%が、SLICC/ACR 障害指標で評価された少なくとも 1 項目の障害を有している。さらに、診断後 1 年以内に早期の障害を有する患者は、障害の発生リスクが 2 倍であり、死亡率は障害のない患者の約 3 倍である。

寛解または低疾患活動状態を目標に治療し、バックグラウンド治療として HCQ を追加し、併存疾患に対処し、プレドニゾンの使用を 5 mg/日以下に抑えることで、疾患の早期から統合的なアプローチを実施することが、新たに SLE と診断された患者の早期障害発生を抑制するのに役立つと考えられる。

早期 SLE の定義は、症状発現からの経過時間に関して、6 ヵ月未満から 36 ヵ月未満までといくつか提案されているが、コンセンサスは得られていない。さらに、これらの期間のいずれかから治療を開始すれば、SLE の寛解を達成し、障害の発生を予防する可能性を高めるかどうかについては、十分に検討されていない。

5. 全身性エリテマトーデス発症後の臨床経過
5-1. SLE の臨床経過のパターン
診断後の SLE の臨床経過は、一般に、臨床的疾患活動性の亢進(再燃またはフレア)と寛解の時期が交互に繰り返されることを特徴とする。寛解の期間は患者によって大きく異なり、コンプライアンスなどいくつかの要因に左右される。

このよく知られた疾患活動性のパターンとは別に、ジョンズ・ホプキンス大学のループスコホートによる初期の研究では、「長い休止期」と「慢性的に活動的な」パターンも同定された。この報告は非受診患者(診断後経過観察していない)を対象としたもので、慢性活動性パターンが最も顕著で、累積患者年数(平均追跡期間 4.5 年)のほぼ 40%を占めていた。約 20 年後、少なくとも 1 年間の追跡調査が行われた全患者を対象とした同センターの研究では、慢性活動性パターンをとるのは 19%に過ぎないと結論づけられた 。再発寛解型が 50%と最も多いパターンであったが、31%は長い休止期経過をたどった。

これらの研究では、疾患活動性はPGA(Physician's Global Assessment)とメキシコ版 SLEDAI(M-SLEDAI、血清検査を除く)に基づいて定義され、再燃は M-SLEDAI のスコアが前回より上昇したものと定義された。トロントループスクリニックの 267 人の民族的に多様な初発患者(診断から初診までの期間は平均 3 ヵ月)を少なくとも 10 年間追跡調査した研究では、患者の約 70%が再発寛解パターンを示した 。長期にわたって寛解が続いている患者と活動性が持続している患者との間ベースライン時の人口統計学的特徴、臨床的所見、血清学的所見、治療内容について差がなかった。最初の 10 年間、これらの患者はほぼ半分の期間(平均 5.3 年)を寛解状態で過ごし、2-4 回の再燃を経験した。疾患活動性は SLEDAI-2K に基づいて定義され、寛解は臨床的 SLEDAI-2K = 0、活動性は SLEDAI-2K ≧ 1 と定義された。

267 人の患者の約 10%が長期寛解の経過をたどった。疾患活動性の初期段階(診断時)の後、これらの患者は診断から 2 年以内に臨床的寛解(SLEDAI-2K で定義)を達成し、罹病後10年間は再燃しなかった 。これらの患者のほとんど(74%)は、平均 18 年間の追跡期間中、再燃することなく単相性の疾患経過を示した。これらの患者の約25%は、びまん性増殖性腎炎 (diffuse proliferative nephritis) 、精神神経ループス (neuropsychiatric lupus) のような重篤な症状を発症時に有していた。SLE の疾患活動性のパターンに関するこれまでの報告では、単相性患者を捉えることができなかった。比較的短い追跡期間(1-5 年)がこの原因かもしれない。以上より、ループス腎炎のような重篤な臨床症状は、治療開始後数年で消失する可能性がある。したがって、部分寛解の徴候が明らかな場合では、寛解が起こるまでに十分な時間をかけることが妥当であると思われる。

持続的な活動性疾患(一度も寛解に至らないか、6 ヵ月未満の短期間の寛解しか得られない)は約 10%であると報告されている。それ以前の研究では、追跡期間はかなり短かったものの、有意に高い割合(最大 40%)が報告されている。好ましくない経過を決定する因子はまだ判明していない。しかし、服薬アドヒアランスの不良が主な原因であると考えられている。システマティックレビューでは、ループス患者の約 43-75%がアドヒアランス不良であり、約 33%が 5 年後に服薬を自己中断 (arbitrarily discontinue) していることが報告されている。服薬アドヒアランス不良は、ループス患者における再燃率、罹患率、入院率の上昇に関連している。その他の予測因子としては、発症時の疾患活動性の高さ、筋骨格系および皮膚病変が挙げられる。経時的な疾患活動性の異なるパターンを図 2 に示す。

図 2. SLE の疾患活動性の経時的パターン
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1521694224000093?via%3Dihub#fig2

上記のようなよく知られている疾患活動性のパターンの他に、10%の患者は、最初の 10 年間に 1-8 年の寛解期が 1 回ある珍しい経過を示した。これらの "ハイブリッド "患者は、再発寛解型患者と持続性活動型患者の中間に位置する疾患活動性を示した。10 年後の障害発生は再発寛解型と同様であった。

5-2. 臨床経過が予後に与える影響
疾患の経過は予後を大きく左右する。活動性の持続する患者や再発寛解患者では、不可逆的な障害が増加し、疾患活動性と障害の蓄積の間には直線的な関係があるようである。

長期に渡って寛解を維持している患者でも、後期に何らかの障害が生じた。障害は疾患活動性とグルココルチコイドに関連している。後者は疾患の後期でより顕著になり、グルココルチコイドに長期間さらされた結果である可能性が高い。グルココルチコイドと直接的または間接的に関連する併存疾患(骨粗鬆症、骨壊死、動脈硬化性心血管疾患)は、長期に渡って寛解を維持している患者よりも、活動性が持続し再発寛解を繰り返す患者に多くみられる。関連するすべての研究で、障害は SLICC/ACR Damage Index で評価された。疾患パターンは死亡率にも影響し、持続性活動性疾患では診断後 5 年間の死亡率が高い。

興味深いことに、ほとんどの関連研究では、臨床的寛解期間が障害発生の最も重要な予測因子であった。最初の 10 年間のグルココルチコイドの累積投与量が多いにもかかわらず、最初の 10 年間の 50%以上が寛解だった再発寛解患者では、障害発症の程度は長期寛解を達成した患者(平均寛解期間 8.8 年)と同程度だった。さらに、"ハイブリッド "患者の障害発生の程度は寛解期間によってそれぞれ対応する 3 群に類似していた。他の研究者たちも、白人 SLE 患者では 2 年間の寛解が障害を予防し、5 年間の寛解維持で障害のリスクを 96%減少させることを示した。

完全寛解はまだ厳密には定義されておらず、まれであるため、低疾患活動性 (low disease activity: LDA) は日常診療において、また SLE の新薬の臨床試験においても価値があると思われる。LDA は、完全寛解とは異なるが、障害発生の減少や生存期間の延長など、長期的に良好な転帰をもたらす疾患状態を捉えるものである。

このような背景から、低疾患活動性の定義はここ数年の間に、最小疾患活動性(minimal disease activity: MDA)、LDA 、およびループス低疾患活動性状態(lupus low disease activity state: LLDAS)という異なる定義が出現した。主な違いは(表 6)、SLEDAI-2K で示される許容可能な疾患活動性のレベル(それぞれ 1、2、4)と、許容される治療(LLDAS ではプレドニゾンが 7.5 mg/日まで投与されるが、MDA と LDA では投与されない)である。

表 6. SLE における低疾患活動性の 3 つの定義
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1521694224000093?via%3Dihub#tbl6

この 3 つの定義はすべて、障害発生や死亡率などの長期転帰への影響について検証されており、LDA の状態は寛解に匹敵する転帰をもたらすことが示されている 。

LDA の持続期間と持続性は、転帰を改善するための最も重要な要素であると思われる。LDA を短期間(例えば、次の疾患再燃までの数ヶ月間)達成しても、長期的には臨床的に意味がない。関連する研究では、LDA の期間が最低でも2年以上あれば、転帰の改善につながることが示されている。興味深いことに、長期追跡を行った研究では、LDA 患者は約 80%の期間を臨床的寛解で経過したと報告されている 。このことは、LDA 患者は観察期間の初期には活動性であり、その後、局所治療で管理可能な軽度の再燃を伴いながら、長期間の臨床的寛解を達成したことを意味する。

LDA の概念は、経時的な疾患活動性パターンを検討する研究には適用されていない。再発寛解患者の再燃の中には、LDA の定義に当てはまるもの(「軽度の再燃」)もあれば、より重篤なもの(「重度の再燃」)もある可能性がある。このことが証明されれば、軽度の再燃のみの患者の治療成績は、寛解が長期化した患者に近づくと考えるのが妥当であろう。一方、大発作を伴う再発寛解患者の転帰は、持続的に活動的な患者の転帰に近づくであろう。このようなデータは、予測モデルの精度をさらに向上させ、早期に患者に合わせた治療アプローチを適用する能力を高める可能性がある。

注目すべきは、血清学的検査(抗 dsDNA 抗体および補体 C3/C4)が疾患の経過パターンに影響しないことである。血清学的に活動的な臨床的休止期(Serologically active clinically quiescent: SACQ)患者は、臨床的および血清学的に寛解期にある患者よりも多くのダメージを受けることはなく、したがって積極的な治療は必要ないが、再燃リスクが増加することがあるので、綿密なサーベイランスが必要である。結論として、臨床的活動性をともなわず、抗 dsDNA 抗体価の単独高値かつ/または C3/C4 低下を認める場合のみが、寛解の定義に含まれるとして、ほとんどの研究者に受け入れられている。とはいえ、臨床的活動性がなくても、疾患再発のリスクが高い時期には、血清学的モニタリングの適応となる。

SACQ 患者は SLE の中でも特に興味深いサブセットである。1970 年代後半に同定された SACQ 患者は、血清学的活性(抗 dsDNA 抗体価の上昇と C3/C4 レベルの低下)と疾患活動性の不一致を理解するために集中的に研究された。抗 dsDNA 抗体と抗クロマチン抗体の性質に関する病態生理の研究では、SACQ 患者と非 SACQ 患者の間に差は認められなかった。さらに、インターフェロン I 型(「インターフェロン・シグネチャー」)および炎症性サイトカイン/ケモカインの発現は、SACQ 患者と血清学的および臨床的に休止している患者との間に差はなく、「自己免疫寛解」の状態を示唆していた。大規模コホートでは、多くの患者が一時的な SACQ 状態を示すことがあるが、この状態を 2 年以上連続して維持できたのは約 6%のみであった。そのうちの約 60%はその後 3 年間に再燃したが、抗 dsDNA 抗体価や補体レベルの変動は信頼できる予測因子ではなかった。臨床的に活動的な患者と比較すると、SACQ 患者は 10 年間の追跡で、障害の蓄積が少なく、心血管イベントが少なく、腎障害が少なかった。

疾患の経過を適切なタイミングで予測することで、長期間寛解を維持している患者(または単相性患者)では早期に治療を中止し、再発寛解患者や活動性が持続している患者では長期間の維持療法を行うなど、患者に合わせて治療計画を立てることができる可能性がある。免疫応答のエフェクターを抑制するか、免疫制御を増強する(またはその両方)遺伝的因子が重要であると考えられるが、エピジェネティックな因子もまた、病態抑制に関与している可能性がある。いくつかの可溶性メディエーターが疾患の発症に関与しており、それらの血清レベルは臨床的再燃の前に変化する。黒人であることおよび最初の 2 年間の疾患活動性の増加(調整平均 SLEDAI-2K で表される)は、疾患の経過と独立して関連していた。このことは、早期の反応が長期にわたる良好な転帰を予測すること、treat-to-target 戦略は寛解、または不可能な場合は LDA 状態を目指すべきであることを示唆している。

6. 高齢発症全身性エリテマトーデス
SLE はどの年齢でも発症する可能性があるが、その発症のピークは生殖年齢に起こる 。高齢発症 SLE と若年性 SLE の年齢的な区切りの定義に合意はない。多くの研究では、高齢発症 SLE(late-onset SLE: LSLE)は 50 歳以降に発症すると定義されている。65 歳以上という第二の定義も提唱されている。しかし、これら 2 つの異なるカットオフ年齢で選択された LSLE 集団を比較したところ、関連する差は認められなかった。LSLE については、若年発症例と比較して発表されたデータが少ない。しかし、疾患活動性、臨床症状、併存疾患、罹患率の違いは、様々な国で証明されている。

6-1. 疫学
患者の 2-20%において、SLE は 50 歳以降に発症する。女性優位は年齢とともに減少し、若年発症例では性比 (女:男) は 7:1-18:1であるが、50 歳を過ぎると 4:1-7:1 になる。この減少は、エストロゲンレベルの変動と関連している。LSLE 患者は主に白人である。

LSLE 患者は診断に時間がかかることが多い。この遅れは、LSLE が非典型的な臨床症状、重要な症状を不明瞭にする併存疾患、高齢者では鑑別疾患として SLE が挙げにくいなどの理由で、診断が遅れると考えられる。

6-2. 臨床的特徴
LSLE 患者では、若年発症の SLE に特徴的な症状、すなわち粘膜、腎臓、筋骨格系の病変が出現する頻度は低い(表 7)。

表 7. 若年発症および高齢発症 SLE における臨床症状の頻度
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1521694224000093?via%3Dihub#tbl7

これはおそらく免疫老化によるものであろう。LSLE は、より緩徐な発症、より少ない臓器病変、より良性の経過を示すことが広く認められている。しかし、Alonso らは、LSLE 患者でも若年発症 SLE 患者でも、最も頻度の高い臨床症状は関節炎であり、群間に有意差はないと報告している。また、LSLE では筋骨格系の病変がより頻度が高いと報告している著者もいる。Choi らは LSLE では発熱、貧血、血小板減少の頻度が少ないと報告している。Alonso らは、高齢者では痙攣や精神病の頻度が低いことを報告している。加齢に関連した最も重要な違いは、LSLE では腎疾患の発生率と重症度が顕著に低下することであるようだ。LSLE 患者では、心肺機能障害、特に漿液炎と間質性肺疾患(interstitial lung disease: ILD)を発症することが多い。高齢化、喫煙、「免疫老化」と関連して、SLE-シェーグレン症候群(Sjogren's syndrome: SS)重複症候群の患者は、LSLE における ILD のリスクが高い可能性がある。

Riveros Frutos らは、LSLE 患者では血栓塞栓症、深部静脈血栓症、ループスアンチコアグラント陽性の頻度が高いと報告している。一方、Cartella らは、LSLE 患者と若年発症 SLE 患者で血栓症の頻度に有意差はないと報告している。また、抗リン脂質抗体症候群の発症率は、LSLE 患者と若年発症 SLE 患者で有意差はない。

いくつかの研究では、SLE の発症年齢の違いによる主要臓器病変の有意差はみられなかった。Padovan らが報告した唯一の有意差は末梢神経系の病変で、65 歳以上の LSLE サブグループでより頻度が高かった。SLE の重症度は年齢とともに低下するようである。対照的に、Prevete らと Padovan らは、疾患活動性に関して若年発症SLE 患者とLSLE患者の間に差はないとしている。臓器障害は LSLE でより多いようである。この増加は、骨粗鬆症や加齢に伴う罹患率などの異所性の影響による可能性があるが、LSLE がより良性の疾患であるという解釈には疑問がある。

6-3. 高齢発症全身性エリテマトーデスの合併症
LSLE 患者では、診断時に高血圧、脳血管障害、心血管疾患、末梢血管疾患、がん、骨粗鬆症、糖尿病、甲状腺疾患、肥満、うつ病などの複数の既往合併症のリスクが高かった。LSLE 患者の半数では、合併症の負担が増加するのに 1 年未満しかかからず、全死因死亡率への影響(累積発生率 33.3%)も高い。

LSLE 患者は SS を合併することが多い。LSLE と SS を合併する患者のサブセットは、光線過敏症、口腔潰瘍、レイノー現象、抗 Ro 抗体、抗 La 抗体の頻度が高いなど、臨床的・検査的表現型がはっきりしている。LSLE と SS の関係については議論があり、自己免疫性内分泌異常症は SLE の一症状であり、SS は LSLE の二次症状であると主張されている。Feng らは、SS が同時に発症する自己免疫疾患の中で最も多く、非自己免疫疾患の中で最も多いのは高血圧と感染症であるとした。一方、Choi らは、癌、糖尿病、甲状腺疾患の有病率に有意差を認めなかった。年齢を一致させた一般集団における高血圧の有病率を比較しても、有意差はなかった。したがって、高血圧は SLE の結果というより加齢の結果である可能性がある。

6-4. 臨床検査の特徴
LSLE 患者では、抗 dsDNA 抗体、抗ヌクレオソーム抗体、抗 Sm 抗体、抗 RNP 抗体、ループスアンチコアグラント陽性の頻度が低い。C3、C4、CH50 を含む補体レベルの低下も LSLE では少ないことが報告されている(表 8)。

表 8. 若年発症および高齢発症全身性エリテマトーデスの血清学的特徴
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1521694224000093?via%3Dihub#tbl8

このような血清学的プロフィールは、疾患活動性に影響を与えるか、あるいは反映する可能性がある。リウマトイド因子(rheumatoid factor: RF)、抗 Ro/SS-A 抗体、抗 La/SS-B 抗体の頻度が高いなど、非典型的な免疫学的プロフィールを報告している研究もある。前者は、RF が 65 歳以降に高頻度で陽性となることと関連している可能性がある。一方、Padovan らは LSLE で抗 dsDNA 抗体価が有意に高いことを報告しており、Wen らは SLE 発症年齢群間で抗体プロファイルに有意差があることを報告している。SS は LSLE 患者でより多かったが、韓国のコホート研究では抗 Ro/SS-A 抗体と抗 La/SS-B 抗体の有病率に差はみられなかった。この研究でも、LSLE における自己抗体プロファイルとループス腎炎との間に関連は認められなかった 。炎症マーカー、すなわち赤血球沈降速度や C 反応性蛋白の上昇は、異なる年齢層間で有意な差はないようである。

6-5. 治療
いくつかの研究では、コルチコステロイドとヒドロキシクロロキンの使用頻度は、発症年齢群間で有意差はなかった。対照的に、Feng らは、LSLE ではヒドロキシクロロキンの使用頻度が低いことを明らかにしている。LSLE では合併症の可能性が高く、有害な転帰と相関していることから、グルココルチコイドの使用や、それに関連する骨粗鬆症、糖尿病、高血圧、気分障害のリスクを最小限に抑えるなど、合併症の影響を予防または軽減するための戦略を強化すべきである。Sohn らは、免疫抑制薬の使用頻度は LSLE と若年発症 LSE で差がなかったと報告している。対照的に、LSLE ではシクロホスファミドとアザチオプリンの使用頻度が有意に低いことが報告されており、このことは、LSLE では若年患者に比べて疾患活動性が低いことを示唆している。Padovan らは、65 歳以上の LSLE 患者 30 人の治療には免疫抑制薬は使用されなかったと報告している。

6-6. 予後
入院患者のコホートにおいて、LSLE の SLEDAI-2K スコアは、退院時に若年患者よりも有意に低下する傾向があり、LSLE は治療に対してより感受性が高い可能性が示唆された。Alonso らは、若年発症患者と LSLE で再燃頻度に有意差はないとしている。

Sohn らは、LSLE の標準化死亡率は一般集団の死亡率より高くないとしているが、LSLE 患者は年齢的に若年発症の SLE 患者より生存確率が低い。Feng らは、LSLE 患者の死亡率の半分近くが感染症、特に肺感染症によるもので、若年発症患者と比較して頻度が高いことを観察している。臓器障害/SLE 関連死亡率に有意差はなかった。LSLE における死亡との独立した関連はなかったが、抗 Sm 抗体陽性とヒドロキシクロロキンの使用は防御因子であると報告されており、これらの患者では頻度が低かった。対照的に、Cartella らは、LSLE における死亡の主な原因は心血管疾患であると報告している。全体的に死亡率が高いのは、LSLE では合併症の負担が大きいこと、加齢による臓器障害があること、従来の心血管危険因子に長くさらされていることが関係している可能性がある。LSLE の死亡率をよりよく理解するための長期的な前向き研究が不足している。

7. 結論
SLE の診断と分類には、前臨床期と初期臨床期が存在する可能性があり、これらの病期を認識することにより、予防策を採用し、早期診断と適時の治療介入を確保すべきである。このことは、SLE 患者の予後に良い影響を与える。まれなことではあるが、高齢の患者において SLE と診断される可能性を否定すべきではない。SLE 発症時の年齢は疾患の予後を左右する重要な因子のひとつである。若年発症の SLE はより活発な免疫学的プロフィールと相関しているようであるが、LSLE は合併症の発生率が高く、診断が遅れることが多い。

診断後の経過は、ほとんどの患者で再発寛解型であるが、約 20%は持続的活動性または長期寛解型である。長期の SACQ 患者は、臨床的に活動的な患者に比べ、障害が少ない傾向がある。寛解期間と累積グルココルチコイド曝露が予後の最も重要な因子である。特に LSLE では、併存疾患のコントロールに重点を置いた管理が必要である。遺伝的因子、血清学的所見、人口統計学的/臨床的特徴に基づいたマルチパラメトリック予測モデルは、疾患の経過を早い段階で認識し、それに合わせた治療アプローチを行うのに役立つであろう。最適な医療を提供するためには、SLE の発症年齢の違いによる臨床的差異を認識することが重要である。

8. 臨床におけるポイント
8-1. 前臨床期全身性エリテマトーデス

·SLE は ANA を含む自己抗体の蓄積を特徴とする前臨床期が長く続くことがある。

·ANA 検出のための間接免疫蛍光 Hep-2 アッセイは、SLE が疑われる集団を絞り込むための高感度スクリーニング検査として使用されなければならない。

·いくつかの環境因子、行動、条件が SLE 発症リスクを高める可能性がある。


8-2. 不全型全身性エリテマトーデス

·分類基準は標準化された定義であり、診断を下したり、すべての可能性のある患者を捕らえることを意図しているのではなく、科学的な目的のために均質なコホートを作成することを目的としている。

·診断は、訓練を受けた医師の判断に依存し、SLE に類似した鑑別疾患を除外する必要があるため、分類とは異なる。

·SLE の最大 50%の症例で診断時には分類基準を満たさない。

·iSLE は、SLE の臨床診断において、臨床症状や血清学的症状は SLE に一致するが、分類基準を満たすには不十分な状態を示す。

·HCQ を使用し、修正可能な環境的危険因子(喫煙習慣や無防備な日光暴露など)を除去することで、UCTD や iSLE から分類可能な SLE への進展を遅らせることができる。


8-3. 早期全身性エリテマトーデス

·早期 SLE とは、不全型 SLE や分類可能な確定型 SLE を含め、臨床的発症が最近に診断されたものをいい、早期に診断することはよりよい転帰をもたらす可能性がある。

·レッドフラッグの作成やスクリーニングツールの導入は、リウマチ専門医への紹介時間を短縮し、早期診断に役立つ可能性がある。

·寛解または LDA を目標に治療し、HCQ を追加し、併存疾患に対処し、プレドニゾンの使用を 5 mg/日以下にすることで、疾患の初期段階から統合的なアプローチを実施することは、新たに SLE と診断された患者における早期の障害発生を減少させるのに役立つであろう。


8-4. 全身性エリテマトーデスの臨床経過のパターン

·SLE の診断後の経過は、再発寛解型(50-70%)、長期休止型(10-31%)、慢性活動型(10-19%)である。

·活動性の持続する疾患の決定因子は、服薬アドヒアランスが悪いこと、発症時の疾患活動性が高いこと、筋骨格系や皮膚の病変があることである。


8-5. 全身性エリテマトーデス診断における臨床経過の影響

·臨床的に活動的な人に比べ、血清学的に活動的で臨床的に不活発な患者では、10 年間の追跡調査において、障害の発生、心血管イベントの発生、腎障害の発生が少ない。したがって、積極的な治療は必要ないが、注意深い監視が必要である。

·疾患の経過をタイミング良く予測することは、治療アプローチ(例えば、長期間寛解を維持している患者では早期に治療を中止し、再発寛解を繰り返す患者では維持療法を延長する)に役立つ。


8-6. 高齢発症全身性エリテマトーデスの疫学

·SLE は 2-20%の患者で 50 歳以降に発症する(高齢発症 SLE)。

·LSLE は臨床症状が非典型的であること、併存疾患により重要な症状が不明瞭であること、高齢者に SLE が発症していると考えにくいことにより、診断が遅れがちである。


8-7. 高齢発症全身性エリテマトーデスの臨床的特徴

·LSLE はより緩徐に発症し、疾患活動性は低いが、臓器障害の頻度は大きい。

·LSLE では粘膜、腎臓、筋骨格系病変の頻度は低い。


8-8. 高齢発症全身性エリテマトーデスの併存疾患

·LSLE 患者では診断時に複数の既往合併症のリスクが高い。

·光線過敏症、口腔潰瘍、レイノー現象、抗 Ro/SS-A 抗体、抗 La/SS-B 抗体の頻度が高い。


8-9. 高齢発症全身性エリテマトーデスの検査所見

·LSLE 患者では、抗 dsDNA 抗体、抗ヌクレオソーム抗体、抗 Sm 抗体、抗 RNP抗体、ループスアンチコアグラント陽性の頻度が低く、リウマチ因子抗体、抗 Ro/SS-A 抗体、抗 La/SS-B 抗体の頻度が高い。


8-10. 高齢発症全身性エリテマトーデスの管理

·SLE の管理は、併存疾患を予防したり、その影響を軽減するための戦略に重点を置くべきであり、グルココルチコイドの使用とそれに関連する骨粗鬆症、糖尿病、高血圧、気分障害のリスクを最小限にすることである。


8-11. 高齢発症全身性エリテマトーデスの予後

·早期発症患者と後期発症患者のフレア頻度に有意差はみられなかった。

·LSLE 患者は若年発症 SLE 患者より生存確率が低い。その理由は年齢だけでなく、合併症の負担が大きいこと、臓器障害があること、心血管危険因子に長期間さらされていることなどである。

9. 研究課題

·SLE における治療機会のウィンドウの存在を証明し、その期間を明確にし、その可能性を最大限に引き出すためには、さらなる証拠が必要である。

·遺伝的要因、人種・民族的要因、血清学的マーカー、インターフェロン I 型(「インターフェロン・シグネチャー」)、炎症性サイトカイン・ケモカインなど、疾患の経過を予測する要因をさらに調査する必要がある。

·臓器障害や死亡率を減少させるために、SLE の症状や併存疾患を早期に診断し治療するための戦略を立案し実施すべきである。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38388232/

リウマチ性多発筋痛症

2023-10-10 17:47:59 | 膠原病
リウマチ性多発筋痛症
Cleve Clin J Med 2020; 87: 549-556

両側の肩および股関節のこわばりが朝に悪化し、使用により改善する高齢患者では、リウマチ性多発筋痛症 (polymyalgia rheumatica: PMR) を疑うべきである。非特異的な筋骨格系の愁訴、全身症状 (constitutional feature)、血清炎症マーカーの上昇がみられ、他疾患の鑑別も考慮すべきである。

グルココルチコイドを長期投与する場合は、患者に合わせて投与量と投与期間を決めることが治療の要である。メトトレキサート併用による副腎皮質ステロイド温存療法は、一部の患者には有効である。


キーポイント
·関節リウマチ (rheumatoid arthritis)、高齢発症脊椎関節炎 (late-onset spondyroarthritis: SpA)、およびRS3PE(remitting seronegative symmetrical synovitis with pitting edema)症候群は、リウマチ性多発筋痛症の重要なミミッカーである。

·診断には通常、赤血球沈降速度の上昇(30 mm/h 以上または 40 mm/h 以上)または CRP 値の上昇(6 mg/dL 以上)が必要である。

·超音波検査で炎症、特に肩峰下滑液包炎を認めると、診断特異性が高まる。

·患者は巨細胞性動脈炎発症の可能性について定期的に評価されるべきである。

·再発を避けるためには、症状が消失するまで治療を継続し、その後ゆっくりと漸減すべきである。

·予備的研究では、インターロイキン-6 受容体抗体である tocilizumab の単剤療法または難治例に対する有用性が示されている。


はじめに
PMR は、骨盤帯のこわばりが日中に改善し、炎症マーカーが上昇し、プレドニゾン療法に速やかに反応する高齢女性など、古典的な症状を呈する場合に疑うことは容易である。しかし、その症状は他のリウマチ性症候群や炎症性症候群と重なることが多い。

本稿では、PMR の評価と管理に関する指針を提供し、現在の治療法と新たな治療法について論じる。


2. 高齢のヨーロッパ系民族が最も罹患率が高い
PMR は通常 50 歳以上で発症し、発症率は年齢とともに増加する。年間罹患率は 10 万人あたり12-60 例と様々であり、北欧系の罹患率が最も高い。

PMR の病因はよくわかっていない。様々な地域での研究により、免疫系に関与する遺伝子多型が次々に明らかにされているが、PMR 患者の様々な集団で一貫して認められているわけではない。


3. 両側近位肢体の朝のこわばり
PMR の主な特徴は、可動域制限とこわばりを伴う近位肢帯の疼痛である。肩は症例の最大 95%で侵され、頚部および骨盤帯にも症状が出る。患者はしばしば、椅子から立ち上がれない、介助なしでベッドから起き上がれない、髪をとかすために腕を持ち上げられないと報告する。

両側性の症状は特に PMR を疑うべきである。一部の症例では、発症時は片側性であるが、すぐに両側性になり、数日のうちに急速に症状が進行することが多い。

症状は、朝と運動不足時に悪化することが特徴である。朝のこわばりは 1 時間以上続く傾向がある。痛みは夜間にも顕著に強くなることがあり、睡眠に影響を及ぼすこともある。


4. 炎症が広範囲に及ぶこともある
症状は関節および関節外構造の炎症に関連し、肩、股関節、頸部の滑膜炎 (sinovitis) や滑液包炎 (bursitis) を引き起こす。

遠位関節炎も起こりうる。遠位関節炎はしばしば非対称性であり、ほとんどの場合は膝と手関節に現れる。足関節はふつう侵されない。炎症は関節周囲構造にも及ぶことがあり、遠位腱鞘炎 (distal tenosynovitis) や手根管症候群 (carpal tunnel syndrome) を引き起こす。局所性腱鞘炎により遠位四肢に圧痕性浮腫 (pitting edema) が生じることがあり、時に最初の症状 (presenting feature) となる。

全身症状(微熱、食欲不振、疲労、脱力など)も多く、患者の半数以下に見られる。しかし、高熱が持続することは PMR だけではまれで、巨細胞性動脈炎(giant cell artiritis: GCA)の合併を示唆することがある。


5. 身体所見:疼痛、可動域制限
理学所見では、可動域は痛みのために制限されるが、実際の筋力は低下していない。筋圧痛がみられることもある。


6. 炎症に関する臨床検査
臨床検査は、PMR に一致した炎症状態を確認するため、あるいは他の診断を示唆あるいは除外するために有用である。

6-1. 主な検査: ESR と CRP
PMR の確立された診断基準の多くでは、赤血球沈降速度 (erythrocyte sedimentation rate: ESR) の上昇(>30 または 40 mm/h)または C 反応性蛋白 (C-reactive protein: CRP) の上昇 (>6 mg/dL) は必要である。しかし、稀ではあるが、正常値を示すこともある。このような場合、PMR が疑われるのであれば、リウマチ科への紹介が必要である。

逆に、ESR と CRP は正常な老化を含む様々な病態で上昇するため、値が高いだけでは診断が確定しない。

6-2. その他の検査異常
PMR でよくみられる、進行中の炎症過程に一致するその他の検査所見としては、正色素性貧血、血小板増加、白血球増加などがある。肝酵素、特にアルカリホスファターゼも上昇することがある。


7. PMR には多くの類似疾患がある
PMR の症状は非特異的であり、多くの疾患が類似した症状を示す(表1)。

表 1: PMR の類似疾患の特徴
https://www.ccjm.org/content/87/9/549.long#T1

関節リウマチと脊椎関節炎 (いずれも高齢発症の場合がある) は重要な鑑別疾患である。両者とも遠位関節炎を呈することがあり、PMR 患者でも半数以下で遠位関節炎を認める。PMRと同様に、関節リウマチの関節病変は通常両側性で左右対称性である。しかし、リウマトイド因子や抗シトルリン化ペプチド抗体の血清学的検査は、関節リウマチや脊椎関節炎では陽性となる傾向があるが、PMRでは陽性とならない。脊椎関節炎は腰痛やこわばり、仙腸関節炎の画像所見を伴うが、PMR ではまれである。

RS3PE は、伸筋腱滑膜炎による遠位四肢の斑状浮腫を伴い、手と手首の背面が侵されることが最も多い。PMR と同様、RS3PE は、腫瘍随伴症候群を伴う場合を除き、グルココルチコイドに速やかに反応する。

GCA などの中-大血管血管炎も、原因不明の発熱や全身症状を呈することがある。PMR の症状がある患者は、新規発症の頭痛、頭皮の圧痛、舌や顎の跛行、視力変化などの GCA の徴候や症状について常に評価されるべきである。GCA が疑われる場合は、側頭動脈生検を行うべきである。

GCA は PMR 患者の 16-21%で診断され、GCA 患者の 35-50%が PMR を併発している。両者とも特定の遺伝子多型、特にヒト白血球抗原 (human leukocyte antigen) や腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor: TNF)の遺伝子を含む免疫系に関連する遺伝子多型と関連している。しかし、これらの関連はいつでも見つかるわけではない。

炎症マーカーが上昇していない場合は、変形性関節症、脊柱管狭窄症、パーキンソン病、腫瘍随伴性無力症 (paraneoplastic asthenia) などの非炎症性症候群を特に疑うべきである。

スタチン誘発性筋毒性は、ふつう左右対称性で、特に下肢の大腿近位筋を含む筋痛と筋力低下を伴う。ほとんどの場合、薬剤の中止で十分であるが、症状や筋酵素上昇が持続する場合は、ミオパチーの他の原因についてさらに評価し、免疫介在性ミオパチー(immune mediated myopathy) の評価を行う必要がある。後者が疑われる場合は、免疫抑制療法が適応となる可能性があるため、専門医の診察を受けるべきである。


8. 超音波検査の新たな役割
PMR の診断に超音波検査を用いることに関心が高まっている。これまでの研究では、主に放射線科医やリウマチ科医が画像取得に当たってきた。上腕二頭筋腱鞘炎、滑液包炎(肩峰下-三角筋下、腸腰筋、転子部)、滑膜炎(肩甲上腕骨、大腿骨、椎間関節)など、多くの関節内および関節外の超音波所見が PMR と関連している。あるメタ分析では、片側の肩峰下滑液包炎は感度 80%、特異度 68%、両側の肩峰下滑液包炎は感度 66%、特異度 89%であり、他の炎症部位と比較して肩峰下滑液包炎に基づく PMR の診断精度が優れていることが報告されている。

2012 年に European League Against Rheumatism (EULAR) と American College of Rheumatology (ACR) によって提案された PMR 分類基準には、オプションとして超音波検査基準が含まれており、両側の肩の病理所見、または肩と股関節の合併所見のいずれかにポイントが割り当てられている。超音波検査基準を用いることで、EULAR/ACR 分類システムの特異度は 81.5%から 91.3%に上昇する。

パワードップラー超音波検査は、従来のカラードップラーに比べ、細い血管の血流の増加をよりよく評価することができるため、腱炎や滑液包炎のような軟部組織の炎症を検出するのに適している。しかし、同じ研究では、臨床的には寛解しているか、疾患活動性が低いにもかかわらず、6ヶ月の追跡調査時に 60%の患者が肩の炎症の超音波所見を持ち続けていたと報告しており、超音波検査による疾患再発の検出には限界があることを示している。


9. ステロイド療法
最新の EULAR/ACR ガイドラインによると、プレドニゾン療法は 12.5-25 mg の範囲内で、寛解を達成するのに有効な最小量を使用する。寛解が得られたら、漸減は個別に行うべきである。

Kyle と Hazleman はランダム化比較試験において、プレドニゾン 20 mg/日の経口投与は 10 mg/日よりも再燃が少ないことを明らかにした。この研究はサンプル数が少ないという制約はあるが、20 mg/日で投与した場合は良好な症状緩和をもたらすだろうと信じられた。一方、Kremers らは後ろ向き研究で、初期副腎皮質ステロイド投与量が多く、漸減が早いことが将来の再発の有意な予測因子であることを明らかにした。

導入用量は、症状の重症度、肥満度、併存疾患に基づいて決定されるべきである。平均的な患者の初期投与量の目安は 15 mg/日である。体格が小さい、症状が軽い、糖尿病がコントロールされていない、または重大な薬物有害作用のリスクがある患者には、少量投与(1 日 7.5-10 mg)を考慮できる。体格が大きい患者または症状が重い患者には、1 日 20-25 mg の経口プレドニゾンを考慮すべきである。

治療の目標は、症状の寛解と、ESR と CRP 値の改善および最終的な正常化である。ESR と CRP 値は通常、治療開始後 2-4 週間以内に正常化し、正常化はしばしば症状の消失と関連する。

プレドニゾンの 1 日 2 回投与(半減期は約 4 時間)は、より良好な症状緩和をもたらすかもしれないという説がある。症状のコントロールが困難な患者にとって、この方法は有用であるが、過剰投与や副作用の可能性を考慮すると、この方法を推奨する前に慎重な検討が必要である。

Dasgupta らは、二重盲検試験において、経口グルココルチコイドと筋肉内グルココルチコイドによる PMR の治療を検討した。両療法とも寛解率は同等であった。しかし、筋注療法は単一のランダム化比較試験でしか評価されていないため、日常的な使用は推奨されない。

歴史的には、低用量プレドニゾン(15 mg 未満)に対して急速に症状が改善することは、PMR の診断的所見であるとみなされてきた。しかし、他の炎症性関節炎(例えば、関節リウマチ、炎症性変形性関節症、結晶性関節症)も低用量プレドニゾンで改善することがあるため、この反応は PMR に特異的ではないと考えられる。逆に、高用量の投与が必要な場合は、別の診断の可能性があるため、非経口療法や 1 日 2 回投与を検討している場合は、専門医に相談すべきである。


10. 治療期間と漸減
もう 1 つ議論されている問題は治療期間であり、これは一般的に患者特異的で症状主導型であるべきである。症状をコントロールするグルココルチコイドの投与量は、通常、疼痛とこわばりが消失してから 2-4 週間維持される。その後、症状の抑制を維持するのに必要な最小量まで、忍容性をみながら 2-4 週間ごとに投与量を約 20%ずつ減らしていく。一般的な治療期間は 1-2 年である。症状が治まる前にステロイドを漸減しようとしたり、症状が治まってからあまりに早く漸減しようとすると、再発率が高くなり、治療中止の成功率が低下する可能性がある。


11. 再発の管理
再発あるいは再燃した場合は診断が誤っている可能性を考えて、症状や臨床検査の再評価を促すべきである。その後、グルココルチコイドをまだ投与している場合は、投与量を 10- 20%増量すべきである。

再発前にステロイドの中止が成功した患者については、導入療法を最低有効量で再開し、その後、忍容性に応じて漸減すべきである。症状が重い場合は、メチルプレドニゾロン 120 mg の筋肉内単回投与で導入療法を補助することができる。

2 回再発した後は、メトトレキサート、アザチオプリン、TNF 阻害薬、インターロイキン6(interleukin-6: IL-6)受容体遮断薬などのステロイド温存薬を試すことができる。


12. 慢性ステロイド療法の管理
グルココルチコイドの長期使用による副作用には、皮膚の変化、体組成の変化、眼障害、心血管障害(例、早期動脈硬化、不整脈)、消化管障害、骨粗鬆症、気分の変化、腎作用(例、高血圧)などがある。

コルチコステロイドによる長期治療を受けている患者(1 日 7.5 mg 以上、3 ヵ月以上)は、ビタミンDの摂取量を最適化し、必要に応じてビタミン D を補充すべきである。十分な食事性カルシウムに耐えられない患者には、サプリメントの摂取を考慮すべきである。ビスフォスフォネート療法(アレンドロネートまたはゾレドロン酸)は、高齢患者や脆弱性骨折の既往歴のある患者など、脆弱性骨折のリスクが高い患者では、予防的措置として開始すべきである。その他の患者では、リスク因子を評価し、グルココルチコイドの累積投与量が多くなると予想される患者、例えば初回投与量が多い患者では、ビスフォスフォネート療法を考慮すべきである。


13. 一部の症例に対するグルココルチコイド温存療法

PMRに対しては複数の補助療法が検討されている。

13-1. メトトレキサート
40 人の患者を対象とした二重盲検ランダム化比較試験では、週 7.5 mg のメトトレキサート投与ではステロイドの温存効果はないと報告されている。しかし、72 人の患者を対象とした別の二重盲検ランダム化比較試験では、週 10 mg のメトトレキサートの追加投与がプレドニゾン治療期間の短縮に関連することが示され、この方法がステロイド関連毒性のリスクが高い患者に有用であることが示唆された。さらに、24 人の患者を対象としたランダム化前向き試験では、週 10 mg のメトトレキサート皮下投与の使用により、有効性を失うことなく、1 年間のプレドニゾン累積投与量を少なくすることができたと報告されている。

サンプル数が少ないという制限はあるが、これらの研究は、高齢者や骨粗鬆症患者などの特定の患者集団に対して、メトトレキサートがプレドニゾンと併用することが有用であることを示唆している。

EULAR/ACR のガイドラインでは、再発や治療延長のリスクが高い患者やグルココルチコイド関連の副作用を発症した患者に対して、グルココルチコイドに加えてメトトレキサート療法を早期に導入することを推奨している。

13-2. アザチオプリン 代替療法の可能性
メトトレキサートよりも研究は少ないが、アザチオプリンも有用である。二重盲検ランダム化比較試験では、補助療法としてアザチオプリン 150 mg/日の使用が評価された。この試験では、PMR、GCA、またはその両方と診断され、症状管理のためにプレドニゾロンを 1 日 5 mg 以上内服している 31 人の参加者が登録された。1 年後の時点で、アザチオプリン投与群はプラセボ投与群よりもプレドニゾロンの投与量が少なかった。しかし、PMR 患者は別に解析されていないため、この研究に基づいてアザチオプリンのルーチン使用を推奨することはできない。

13-3. TNF 阻害薬は推奨されない
TNF 阻害薬は、補助療法または単独療法として PMR に対して評価されている。

2012 年のレビューでは、有望な結果が報告されているが、唯一のランダム化比較試験(インフリキシマブとエタネルセプトの評価)は主要評価項目を達成できなかった。したがって、TNF 阻害薬は PMR の管理には推奨されない。

13-4. IL-6 阻害薬は有望である
IL-6 は PMR における疾患活動性の維持に主要な役割を果たしているため、IL-6 阻害は可能性のある治療法として検討され、有望な結果が得られている。

Devauchelle-Pensec らは、最近発症した PMR 患者 20 人を対象に、トシリズマブ 8 mg/kg を 4 週間間隔で 3 回点滴静注し、グルココルチコイドを投与しない前向き縦断的研究を行った。12 週目以降はプレドニゾンを 12 週間経口投与した。このレジメンは有用であったが、著者らはこのレジメンをさらに評価するにはランダム化比較試験が必要であると結論づけた。

Lally らは、新たに PMR と診断され、グルココルチコイドによる治療が 1 ヵ月未満であった患者 10 人を対象とした非盲検試験において、グルココルチコイドの急速漸減と同時にトシリズマブ 8 mg/kg を毎月 1 年間静脈内投与することの有効性を評価した。1人の患者が試験から離脱したが、残りの 9 人はグルココルチコイドを使用せずに 6 ヵ月後に主要エンドポイントである無再発寛解を達成した。

Izumi らは、難治性 PMR(重大な再発またはグルココルチコイド治療に対する反応がほとんどない)の患者 13 人に対し、プレドニゾロンまたはメトトレキサートによる現在の治療に加えてトシリズマブを投与した。その結果、プレドニゾロンの投与量を減らしたにもかかわらず、朝のこわばりを含む PMR 症状が有意に改善し、重篤な副作用は認められなかった。

グルココルチコイド依存性リウマチ性多発筋痛症におけるトシリズマブのプラセボに対する安全性と有効性(Safety and Efficacy of Tocilizumab Versus Placebo with Polymyalgia Rheumatica With Glucocorticoid Dependence: SEMAPHORE)二重盲検無作為化比較試験は、現在 100 人以上の患者を対象として進行中である。

データはまだ蓄積されていないが、トシリズマブは PMR 患者の治療においてグルココルチコイドを温存する有望な選択肢であるように思われる。しかしながら、感染症や心血管系イベントの増加の可能性など、長期使用によるリスクは十分に理解されていない。したがって、より多くのエビデンスが得られるまで、PMR 患者に IL-6 阻害薬を開始する前に慎重に検討することが勧められる。


14. フォローアップ
使用する薬物療法にかかわらず、治療開始後 1 年間は、0、1-3、6 週間後、3、6、9、12 ヵ月後に患者を注意深く経過観察する必要がある。

GCA と PMR は同時に発症することもあれば、長い間隔をおいて発症することもある。PMR に対するプレドニゾンの投与量は GCA に対するものよりもはるかに少ないため、PMR の治療によって臨床的な GCA の発症を防ぐことはできないかもしれないが、これはおそらくまれであろう。

原因不明の腰痛や、炎症マーカーの上昇に伴う下肢に限局した症状など、非典型的な症状がみられた場合は、大動脈炎をさらに評価する必要がある。

https://www.ccjm.org/content/87/9/549.long