脚本:重森孝子
音楽:中村滋延
語り:藤田弓子
出 演
悠 加納みゆき:京都の繊維問屋「竹田屋」の三女
葵 松原千明 :竹田家の長女(バツイチ後、家出しジャズクラブで歌の勉強中)
桂 黒木 瞳 :竹田家の二女(竹田屋を継いだ)
忠七 渋谷天笑 :「竹田屋」の奉公人(番頭)、復員後もそのまま番頭さん
岩谷 草川祐馬 :造り酒屋の次男坊、かつては葵の踊りの兄弟子
お康 未知やすえ:「竹田屋」の奉公人(悠付きの女中さん)
会長 溝田 繁 :山鉾連合会の会長
アクタープロ
東京宝映
雄一郎 村上弘明 :「吉野屋」の息子。戦後、家を出て墨屋の「大和園」で働く
お常 高森和子 :奈良の旅館「吉野屋」の女将、雄一郎の母
巴 宝生あやこ:(故人)三姉妹の祖母、静の母
市左衛門 西山嘉孝 :「竹田屋」の主人、三姉妹の父(婿養子)
静 久我美子 :三姉妹の母、市左衛門の妻
・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★
みなが見送る中、忠七が揃えた草履を履く市左衛門。
市左衛門は祇園祭を復興すると決心して、連合会会長を説得しにいくことになりました。
「忠七どん、お父ちゃん、弱気になりはったら、ぎゅ(と抓る仕草)やで」
「わかりました」
見送る悠は、祇園祭のおかげではじめて家族の心がひとつになったことを感じていました
「おはようお帰りやす」と静のお見送り
「行ってらっしゃい」
神棚に手を合わせる、桂と悠。見守る義二、葵
都を抱っこしてお康が「若奥さん、お嬢さんのこと忘れてもろたら困りますえ」
と言いに来た
「こんな大きなってんなぁ」と葵
「なぁ、ちょっとおばあちゃんに似てると思わへん?」
「せやろかー。義二さんはうちに似て、美人や言うてくれはりますえ」
笑い出す三姉妹
「信じられへんな、桂がおのろけ言うなんて」
「人間ておかしなもんやな、お父ちゃんやお母ちゃんの手前、仲のいい夫婦のふりしてたら
どんどん仲良うなってくるもんえ」
「桂らしいな、そこまでお芝居できるなんて」
「立派なもんや、うちも皆見習わんとあかんな」
「うちは我慢することしか取り得がないし、しょうがないねん」
「また、お芝居して。ホンマは自分が一番えらいと思うてんのやろ?」
「んもう。そうは思うてへんて。
ただ女はやっぱり子どもを産まんと一人前やないと思うわ。
自分を捨てることができるのは子どもだけや。
この世の中に、母親の愛情だけを求めている人間がいるいうことは、ありがたいことえ。
悠、ほんまに一生結婚せえへんんのんか?」
「ん」
「いつまでも智太郎さんのこと考えてるし、雄一郎さんにも振られてしまうのえ」
「ふん、結婚なんてな、よっぽど好きな人以外やったら、誰としても同じえ」
「うちは桂姉ちゃんと違うもん。
まだ結婚に夢がある間はええけど、うちみたいに結婚はもうええけど、1人でいんのも寂しいえ。
うちのことはどうでもええけど、悠の結婚相手、探してあげんといかんなぁ」
「うーん。
なぁ、祇園祭が済んだら、もっぺん奈良に行ってきよし」
「もうええねん」
(悠の独白)うちはある時期、智太郎さんを心から愛した。それだけで十分や ‥
静が筆で手紙をしたためている
「親馬鹿とお笑いでせうが、悠の行末を思ふと不憫で、
いっその事、無理にお見合いでもさせようかと
主人と話しております。
悠はもう雄一郎様との結婚も諦めているようですが、」
(えらい達筆どす。おそらく自筆かと。
なんたって、お公家さまの出です。久我美子さん)
「また余計なことした言うて叱られますやろうけど、お見合いなんてしてくれる悠と違うし、
ホンマに困ったもんどすなぁ。 お母さん ‥」と、巴の写真にかたりかける静
「まぁ、竹田屋さんがそこまで言わはるんどしたら、どうどすやろ、
祇園祭を代表する鉾をせめて一つ立てるいうのは‥」と会長!
「一つだけ どすか」
「鉾町それそれに鉾と立てるいうのは、どう考えても無理どす。
それぞれの鉾町は、できるだけの資金を持ち寄って一つの鉾をみんなで立てるぅ言うんどしたら
まぁ、できんこともおへん」
「祇園祭を代表する鉾っちゅうたら、まず、長刀鉾どすわなぁ」
「まぁ、そうどすなぁ。
資金の集まり具合によっては、引き鉾か、まぁせいぜいそれぐらいが精一杯どすなぁ」
「それは困ります。自分らの鉾町の鉾だから命かけることができるんどす」 と忠七
「お前は黙ってなさい」
「いや、番頭さんの言わはる通りどす。 それそれの鉾が競いあってこその祇園祭どす。
せやけど、竹田屋さんみたく、祇園さんのために家族ぐるみで協力してくれはるところなんてあらしません
祭りが今、どうしても必要やいう意味もようわかります。
長刀鉾ならどっからも文句でないのと違いまっか」
「わかりました。一つでも二つでもよし、祇園さんさしてもらえるだけでありがたいことどす」
「それでは悠お嬢さんが承知しはりません‥」
「うるさい、お前は先に帰ってない!」
「いいえ、長刀鉾だけどしたら、私ら、ただ見てるだけどす。 綱も引けへんのどっせ。」
「そいで、よろしいがな。たった一つでも、みんな協力して祇園さんあることが大事どすねや」
「竹田屋さん。よう言うてくれはりました。これで町がひとつになったらこんなありがたいことはおへん。
お嬢さんによろしくな」
「おおきに‥」
竹田屋の台所。
「久しぶりやなぁ、家族が揃うの‥」
「お母ちゃんが台所手伝うなんて珍しいことどすなぁ」
「私はいっつも家付き娘で苦労が足らん て、言われてましたえ?
何でもおばあちゃんに聞いて、そのとおりにしといたら良かったんどすさかいになぁ」
「お母ちゃんは1人娘やったけど、うちは三人の間で揉まれましたし。苦労は三倍してますえ」
「お母ちゃんは、娘三人で、三倍苦労してますな」と葵
「親が子どものことで苦労するのは当たり前どす。葵、あんたも」
「うちのことはこのへんで」と葵
「お父ちゃんに心配だけはかけへんといてや」
「はい」
悠がいらいらと「お父ちゃん、何してはんのやろ‥」と台所に来る
「会長さんと喧嘩でもして、帰るに帰られへんし、どっか行ってしまはったんと違うか」
「お父さんはそんなひとやおへん。会長さんが承知しはるまで粘ってはりますねや」
「昔のお父ちゃんやったらそうかも知れへんけど‥」
そこに「ただいま帰りました」と忠七
「おかえり。お父ちゃんは?」
「へえ‥」
「やっぱり会長さんと喧嘩しはったんか」
「あのー」
「祇園祭できんのんか?」
「それがー」
「できるか、できんか、はっきり言いよし!」 お康まで言う
「お康どん。お前までそんなやぁやぁ責めることないやろ」
「すんまへん」
「なあ、お父ちゃんは?」悠
「へぇ。 世話役さんのところまで行かはることは行かはったんですけど‥」
「ほな、できんやな?」
「‥ できる ことは できる んどすけど、でけへん言うたら、でけへん」
「もう! ハッキリしよし!」
「それが、長刀鉾とつき鉾だけやったら、なんとか出来るんやないか いうことで」
「わぁ~~~!」と歓声を上げる女たち!
「良かった~~」
「放下鉾なくてもいいんどすか?」
「祇園祭は今度だけと違う、お父ちゃんが一生懸命にならはるもんがあったらええねや」
「それに、うちら鉾にあがられへんのやし、同じこっちゃ」と桂
「そうと決まったら、食べるもんもってこんとあかな」と悠
「いつごろにしましょ」
「うちも手伝いますし」とお康たちが、わいわい相談し始めるのを見て、静は台所を出る
懐から手紙を出して「お母さん、やっぱり出した方がよろしいなぁ」
奈良縣奈良市今御門町 吉野 常 様
悠がこれほど懸命になれますのは、やはり雄一郎様の励ましが支えになっているのだと存じます。
つきましては、私どもも感謝の気持ちをこめまして、今年の祇園祭が悠の思い通りに復興しました節には
ぜひぜひ雄一郎様に、京へお運びいただきたく御案内申し上げます。
手紙を読んだお常は「雄一郎が京都へ行くなんて、考えられんことやしな‥」と迷う
祇園祭の準備が始まり、忠七も手伝いをした。
悠たちは、職人さんの差し入れをつくり、また衣裳を縫い、協力をした。
葵は、岩谷を使って食料を仕入れていた。
( ご褒美にチューをねだる岩谷はん、ちょっとかわいいじゃん )
鉾を見上げて嬉しそうな市左衛門。
その市左衛門を見て、嬉しそうな悠と忠七
「お嬢さん、旦那さんのあんな笑顔見るの、何年ぶりでっしゃろな」
「(うん)」
「始まってみると、どこの鉾でも一緒どすな」
「(うん)」
桂と葵は蒸しパンを作っていた
「できたできた」
「こんなぎょうさんの何箱(なんばこ)の蒸しパン、あっというまになくいようになってしまうのやなぁ」
「うん。初めは反対してはった人も、鉾立てが始まるとみんな手うてくれはるし、
縄が足りひん言うたら、自分で作って持って来てくれるお年よりもいはるし、良かったな」
「みんな、誰かがやってくれはるのを待ってんやなー」
「うん」
悠が「お囃子の練習が始まった」と興奮気味にやってくる
「小さい音やなぁ」
「囃子方さん、お腹すいてはんのと違うか?」
「はよ見に行こ」と桂はエプロンを外した
「これ、桂。 桂、これーー!
あんたのお母ちゃんは、あんたより祇園さんの方が大事みたいえ。かわいそうになぁ」と都に話し掛ける静
市左衛門は、お囃子の音を聞きながら事務所に座っていた
裃を着た会長さんに「なんでこんなトコにいますのや、鉾の巡行が始まりまっせ」
と言われたが「私はここで」と固辞する。
「何を言うてはりますの、綱を引いておくれやす」
「めっそうもない」 涙声の市左衛門
「去年、義母が亡くなりましてな、まだ1周忌もすましておへん」
「綱をひくぐらい神さんも許してくれます、はよう来ておくれやす」
「へえ」
にぎやかな鉾の巡行が始まった
昭和22年、5年ぶりに復活した祇園祭。
人々は敗戦後の暗い生活をふきとばすような祇園囃子に酔いました
三姉妹は朝顔の着物を着て、巴の写真をもち、鉾を見る。
綱を引く市左衛門と忠七の姿を見て、涙ぐむ葵、桂、悠。
その人ごみの中に、悠は雄一郎の姿を見つけ、かきわけ進んでいく
(つづく)
音楽:中村滋延
語り:藤田弓子
出 演
悠 加納みゆき:京都の繊維問屋「竹田屋」の三女
葵 松原千明 :竹田家の長女(バツイチ後、家出しジャズクラブで歌の勉強中)
桂 黒木 瞳 :竹田家の二女(竹田屋を継いだ)
忠七 渋谷天笑 :「竹田屋」の奉公人(番頭)、復員後もそのまま番頭さん
岩谷 草川祐馬 :造り酒屋の次男坊、かつては葵の踊りの兄弟子
お康 未知やすえ:「竹田屋」の奉公人(悠付きの女中さん)
会長 溝田 繁 :山鉾連合会の会長
アクタープロ
東京宝映
雄一郎 村上弘明 :「吉野屋」の息子。戦後、家を出て墨屋の「大和園」で働く
お常 高森和子 :奈良の旅館「吉野屋」の女将、雄一郎の母
巴 宝生あやこ:(故人)三姉妹の祖母、静の母
市左衛門 西山嘉孝 :「竹田屋」の主人、三姉妹の父(婿養子)
静 久我美子 :三姉妹の母、市左衛門の妻
・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★
みなが見送る中、忠七が揃えた草履を履く市左衛門。
市左衛門は祇園祭を復興すると決心して、連合会会長を説得しにいくことになりました。
「忠七どん、お父ちゃん、弱気になりはったら、ぎゅ(と抓る仕草)やで」
「わかりました」
見送る悠は、祇園祭のおかげではじめて家族の心がひとつになったことを感じていました
「おはようお帰りやす」と静のお見送り
「行ってらっしゃい」
神棚に手を合わせる、桂と悠。見守る義二、葵
都を抱っこしてお康が「若奥さん、お嬢さんのこと忘れてもろたら困りますえ」
と言いに来た
「こんな大きなってんなぁ」と葵
「なぁ、ちょっとおばあちゃんに似てると思わへん?」
「せやろかー。義二さんはうちに似て、美人や言うてくれはりますえ」
笑い出す三姉妹
「信じられへんな、桂がおのろけ言うなんて」
「人間ておかしなもんやな、お父ちゃんやお母ちゃんの手前、仲のいい夫婦のふりしてたら
どんどん仲良うなってくるもんえ」
「桂らしいな、そこまでお芝居できるなんて」
「立派なもんや、うちも皆見習わんとあかんな」
「うちは我慢することしか取り得がないし、しょうがないねん」
「また、お芝居して。ホンマは自分が一番えらいと思うてんのやろ?」
「んもう。そうは思うてへんて。
ただ女はやっぱり子どもを産まんと一人前やないと思うわ。
自分を捨てることができるのは子どもだけや。
この世の中に、母親の愛情だけを求めている人間がいるいうことは、ありがたいことえ。
悠、ほんまに一生結婚せえへんんのんか?」
「ん」
「いつまでも智太郎さんのこと考えてるし、雄一郎さんにも振られてしまうのえ」
「ふん、結婚なんてな、よっぽど好きな人以外やったら、誰としても同じえ」
「うちは桂姉ちゃんと違うもん。
まだ結婚に夢がある間はええけど、うちみたいに結婚はもうええけど、1人でいんのも寂しいえ。
うちのことはどうでもええけど、悠の結婚相手、探してあげんといかんなぁ」
「うーん。
なぁ、祇園祭が済んだら、もっぺん奈良に行ってきよし」
「もうええねん」
(悠の独白)うちはある時期、智太郎さんを心から愛した。それだけで十分や ‥
静が筆で手紙をしたためている
「親馬鹿とお笑いでせうが、悠の行末を思ふと不憫で、
いっその事、無理にお見合いでもさせようかと
主人と話しております。
悠はもう雄一郎様との結婚も諦めているようですが、」
(えらい達筆どす。おそらく自筆かと。
なんたって、お公家さまの出です。久我美子さん)
「また余計なことした言うて叱られますやろうけど、お見合いなんてしてくれる悠と違うし、
ホンマに困ったもんどすなぁ。 お母さん ‥」と、巴の写真にかたりかける静
「まぁ、竹田屋さんがそこまで言わはるんどしたら、どうどすやろ、
祇園祭を代表する鉾をせめて一つ立てるいうのは‥」と会長!
「一つだけ どすか」
「鉾町それそれに鉾と立てるいうのは、どう考えても無理どす。
それぞれの鉾町は、できるだけの資金を持ち寄って一つの鉾をみんなで立てるぅ言うんどしたら
まぁ、できんこともおへん」
「祇園祭を代表する鉾っちゅうたら、まず、長刀鉾どすわなぁ」
「まぁ、そうどすなぁ。
資金の集まり具合によっては、引き鉾か、まぁせいぜいそれぐらいが精一杯どすなぁ」
「それは困ります。自分らの鉾町の鉾だから命かけることができるんどす」 と忠七
「お前は黙ってなさい」
「いや、番頭さんの言わはる通りどす。 それそれの鉾が競いあってこその祇園祭どす。
せやけど、竹田屋さんみたく、祇園さんのために家族ぐるみで協力してくれはるところなんてあらしません
祭りが今、どうしても必要やいう意味もようわかります。
長刀鉾ならどっからも文句でないのと違いまっか」
「わかりました。一つでも二つでもよし、祇園さんさしてもらえるだけでありがたいことどす」
「それでは悠お嬢さんが承知しはりません‥」
「うるさい、お前は先に帰ってない!」
「いいえ、長刀鉾だけどしたら、私ら、ただ見てるだけどす。 綱も引けへんのどっせ。」
「そいで、よろしいがな。たった一つでも、みんな協力して祇園さんあることが大事どすねや」
「竹田屋さん。よう言うてくれはりました。これで町がひとつになったらこんなありがたいことはおへん。
お嬢さんによろしくな」
「おおきに‥」
竹田屋の台所。
「久しぶりやなぁ、家族が揃うの‥」
「お母ちゃんが台所手伝うなんて珍しいことどすなぁ」
「私はいっつも家付き娘で苦労が足らん て、言われてましたえ?
何でもおばあちゃんに聞いて、そのとおりにしといたら良かったんどすさかいになぁ」
「お母ちゃんは1人娘やったけど、うちは三人の間で揉まれましたし。苦労は三倍してますえ」
「お母ちゃんは、娘三人で、三倍苦労してますな」と葵
「親が子どものことで苦労するのは当たり前どす。葵、あんたも」
「うちのことはこのへんで」と葵
「お父ちゃんに心配だけはかけへんといてや」
「はい」
悠がいらいらと「お父ちゃん、何してはんのやろ‥」と台所に来る
「会長さんと喧嘩でもして、帰るに帰られへんし、どっか行ってしまはったんと違うか」
「お父さんはそんなひとやおへん。会長さんが承知しはるまで粘ってはりますねや」
「昔のお父ちゃんやったらそうかも知れへんけど‥」
そこに「ただいま帰りました」と忠七
「おかえり。お父ちゃんは?」
「へえ‥」
「やっぱり会長さんと喧嘩しはったんか」
「あのー」
「祇園祭できんのんか?」
「それがー」
「できるか、できんか、はっきり言いよし!」 お康まで言う
「お康どん。お前までそんなやぁやぁ責めることないやろ」
「すんまへん」
「なあ、お父ちゃんは?」悠
「へぇ。 世話役さんのところまで行かはることは行かはったんですけど‥」
「ほな、できんやな?」
「‥ できる ことは できる んどすけど、でけへん言うたら、でけへん」
「もう! ハッキリしよし!」
「それが、長刀鉾とつき鉾だけやったら、なんとか出来るんやないか いうことで」
「わぁ~~~!」と歓声を上げる女たち!
「良かった~~」
「放下鉾なくてもいいんどすか?」
「祇園祭は今度だけと違う、お父ちゃんが一生懸命にならはるもんがあったらええねや」
「それに、うちら鉾にあがられへんのやし、同じこっちゃ」と桂
「そうと決まったら、食べるもんもってこんとあかな」と悠
「いつごろにしましょ」
「うちも手伝いますし」とお康たちが、わいわい相談し始めるのを見て、静は台所を出る
懐から手紙を出して「お母さん、やっぱり出した方がよろしいなぁ」
奈良縣奈良市今御門町 吉野 常 様
悠がこれほど懸命になれますのは、やはり雄一郎様の励ましが支えになっているのだと存じます。
つきましては、私どもも感謝の気持ちをこめまして、今年の祇園祭が悠の思い通りに復興しました節には
ぜひぜひ雄一郎様に、京へお運びいただきたく御案内申し上げます。
手紙を読んだお常は「雄一郎が京都へ行くなんて、考えられんことやしな‥」と迷う
祇園祭の準備が始まり、忠七も手伝いをした。
悠たちは、職人さんの差し入れをつくり、また衣裳を縫い、協力をした。
葵は、岩谷を使って食料を仕入れていた。
( ご褒美にチューをねだる岩谷はん、ちょっとかわいいじゃん )
鉾を見上げて嬉しそうな市左衛門。
その市左衛門を見て、嬉しそうな悠と忠七
「お嬢さん、旦那さんのあんな笑顔見るの、何年ぶりでっしゃろな」
「(うん)」
「始まってみると、どこの鉾でも一緒どすな」
「(うん)」
桂と葵は蒸しパンを作っていた
「できたできた」
「こんなぎょうさんの何箱(なんばこ)の蒸しパン、あっというまになくいようになってしまうのやなぁ」
「うん。初めは反対してはった人も、鉾立てが始まるとみんな手うてくれはるし、
縄が足りひん言うたら、自分で作って持って来てくれるお年よりもいはるし、良かったな」
「みんな、誰かがやってくれはるのを待ってんやなー」
「うん」
悠が「お囃子の練習が始まった」と興奮気味にやってくる
「小さい音やなぁ」
「囃子方さん、お腹すいてはんのと違うか?」
「はよ見に行こ」と桂はエプロンを外した
「これ、桂。 桂、これーー!
あんたのお母ちゃんは、あんたより祇園さんの方が大事みたいえ。かわいそうになぁ」と都に話し掛ける静
市左衛門は、お囃子の音を聞きながら事務所に座っていた
裃を着た会長さんに「なんでこんなトコにいますのや、鉾の巡行が始まりまっせ」
と言われたが「私はここで」と固辞する。
「何を言うてはりますの、綱を引いておくれやす」
「めっそうもない」 涙声の市左衛門
「去年、義母が亡くなりましてな、まだ1周忌もすましておへん」
「綱をひくぐらい神さんも許してくれます、はよう来ておくれやす」
「へえ」
にぎやかな鉾の巡行が始まった
昭和22年、5年ぶりに復活した祇園祭。
人々は敗戦後の暗い生活をふきとばすような祇園囃子に酔いました
三姉妹は朝顔の着物を着て、巴の写真をもち、鉾を見る。
綱を引く市左衛門と忠七の姿を見て、涙ぐむ葵、桂、悠。
その人ごみの中に、悠は雄一郎の姿を見つけ、かきわけ進んでいく
(つづく)