ひねもすのたりのたり 朝ドラ・ちょこ三昧

 
━ 15分のお楽しみ ━
 

『都の風』(75)

2007-12-26 18:42:15 | ★’07(本’86) 37『都の風』
脚本:重森孝子
音楽:中村滋延
語り:藤田弓子

   出 演

悠   加納みゆき:京都の繊維問屋「竹田屋」の三女
桂   黒木 瞳 :竹田家の二女(竹田屋を継いだ)

雄一郎 村上弘明 :「吉野屋」の息子。戦後、家を出て墨屋の「大和園」で働く

秋子   酒井雅代 【交代】喜一の浮気相手の連れ子、吉野家の養女となる
木原   原 一平  
墨職人  小林昭二  墨屋「大和園」の職人
      岡部敏次  墨屋「大和園」の職人

      MC企画
      アクタープロ

弥一郎 小栗一也 :雄一郎の祖父、お常の実父
お常   高森和子 :奈良の旅館「吉野屋」の女将、雄一郎の母
市左衛門  西山嘉孝 :「竹田屋」の主人、三姉妹の父(婿養子)
静     久我美子 :三姉妹の母、市左衛門の妻

・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★

悠はかつて智太郎と歩いた道を歩き愛を誓い合った二月堂に立ちました。
三年前のことがまるで遠い昔の用にも思えました 
(ナレーション)



悠は吉野屋に向かう。
表を掃除している若い女性‥‥成長した秋子だった。

「お姉ちゃん?」
「秋っ子ちゃん? やぁ~キレイになって。見違えてしもうたえ」
「はよ上がって。おばさ~ん。おばさ~ん」
まだお母さんとは呼ばず、おばさんと呼ぶ秋。

お常も奥から出てくる。「悠さん! まぁよう来てくれました」
悠は「急に奈良の仏さんやおばさんの顔が見とうなって」
「まあ嬉しいこと。
 おじいちゃんな腰痛(こしいた)で寝込んでしまってな、
 毎日毎日悠さん悠さん言って困ってたんです。はよ上がって。
 おじいちゃん、おじいちゃ~ん! 悠さん来てくれましたよ~」

玄関にある蓄音機を見て秋子に「
あれ?もうベートーベンは聴いてはらへんの?」と訊く悠

雄一郎は今年のお正月に家出をしはったと秋子。


弱った弥一郎が悠を見て目を細める。

「よお来たよお来た。」
「おじいちゃんの思いが通じたんですわなぁ」
「しばらく見ん間(ま)にまたキレイになったのう」

悠は、静が縫ったチョッキをお常と弥一郎にお土産に渡した。
「お母さんによおお礼言うといてくださいなぁ」

「母も一緒に伺いたいと申しましてたんですけど」

「今日は? ゆっくりしていってもよろしいんやろ?」
「はぁ‥‥あの‥‥雄一郎さんが家出しはったってほんまどすか」

「あっこが喋ったんとすか。しょうがない子や。」
「ほんまなんどすか」
「家出と言うのかなんや私にはわかりませんけどな。やっぱりこの商売が嫌いなんでしょうなぁ。
 今年のお正月ぐらいからぼちぼちお客さんに来てもらえるようになって、
 けどそのお客さんが雄一郎のベートーベンをやかましいって言わはったんです。
 次の日黙って出ていってしまいました」
「それでどこにいはるかもわからんのですか?」

雄一郎からは手紙が来て、大和園という墨屋で住み込みで働いているから心配するな
とだけあったという。

「墨屋さんて‥‥あのお習字の?」

お常はすぐに会いに行ったが、真っ黒になって働いている雄一郎を見て帰って来いとは言えなかった と話した。

「そこまでこの商売が嫌やったら、もうやめてもいいと思ったんですけどな」
「その墨屋さんてどこにあるんですか」
「行ってくれはるんですか」
「はい」
「行っても無駄やろ。悠さんを好きだった雄一郎は敗戦と同時に死んでしもうた‥‥」
弥一郎が言う

「教えて下さい。私お会いしたいんです、雄一郎さんに」
「おおきに。けどな行ってもろうても遅おした。
 今行っても追い返されるだけやと思いますけどな 」
「それでもいいんです」
「一日中一言も喋らんと煤だらけになって働いていると、社長さんも呆れてるくらいやし、
 もう今のままでそっとしといてくれはった方がええのと違いますか」
「それが悠さんのためじゃ」 もう一度、 弥一郎も言った。


‥‥沈黙が流れる‥‥


「おばさん、おじいちゃん、私、今ホンマの自分の気持ちがわからへんのどす。
 智太郎さんを忘れたわけやありません。
 けど、はっきりせぇへんもんを信じて待つって不安なんです」

「それが当たり前じゃ。智太郎くんは悠さんの心の中にに生きておればそれでええのや」

「悠さん、ま、雄一郎でも悠さんの話し相手になれるようやったら行って下さい」



悠は「大和園」という墨屋を訪ねた


「吉野、お客さんやで。お袋とちがうで、若いキレイな女の人や」

返事をしない雄一郎‥‥ 「しゃあないなぁ。知らんぞもう!」
「どうぞ」と促されて作業場入り口まで悠が入って来た。

「おひさしぶりです」
「‥‥」

「私、雄一郎さんにお会いしとうて奈良に来たんです」
「またお袋が余計なこと言うたんやな」

雄一郎は作業場から出てきた。

「違います。おばさんは最初、雄一郎さんがここにいることも教えて下さいませんでした。
 無理に聞いて来たんです」

水を飲む雄一郎

「奈良に来て雄一郎さんにお会いできないなんて考えてもみませんでした。
 なんか困ったことがあるとすぐに雄一郎さんの顔が浮かんで来ます」
「こんな真っ黒な顔見たってしょうがないやろ。もう帰りなさい」
「雄一郎さん‥‥」
「今の僕は君に助けてもらおうとも思わないし、君を助けることなんかできない」
「雄一郎さん‥‥お願いです。私と一緒にあの技芸トウを見に行って下さい」
「そんな時間はないよ。このトウシンの火を消すわけには行かないんだ」
「ほな いつお休みなんですか」
「そんなものはない。
 この煤を膠と混ぜて固めて乾かして小さな墨になるまで、休むヒマなんかないよ」

「‥‥」
「一緒に来ますか?」


「ベートーベンを聴いても仏像を見ても満たされなかった心が、墨にふれるだけで何が響くものがあった。
 僕は奈良が嫌いだったし、自分の家の商売もやだった。
 戦争に負けた時は日本人であることが恥ずかしかったし、
 広島の街をさまよっている時はアメリカ人を心底憎んだ。
 人間であることさえ嫌だった」

職人が墨を作るところを見る悠

「400年近く昔からおんなじ方法で作られている。
 原料はなたね油と膠だけ。
 油を燃やした煤が、人間の手で何日も何日もかかって形あるものにかわって行く‥‥
 人間というものをここに来て改めて見直したんだ。
 初めて本当の日本を知ったのかも知れない。
 この仕事をしていると、日本人の誇りを取り戻しそうな気がしてくる。
 
 今の日本の人に必要なのは、こんな、日本人の心を生き返らせることだと思うんだ。
 今の僕は君に何もしてあげられない」
「これを持って帰って下さい」

雄一郎がくれた墨を左手に握り、歩く悠。



静が都を寝かしつけるのに、何やら謡う市左衛門。

「あんた、そんな声出さはったらせっかく眠りかけた都が起きてしまいますがな‥‥」
「そりゃワシの声やのうてあんたさんの子守歌のせいどす。
 自分では子守歌のつもりでもややこの身になったら、わざと起こされるようなもんどす」

「そんならあんたさんが寝かしつけておくれやす」

泣き出す都

市左衛門はあやしはじめたら、桂が飛んでくる

「なぁお母ちゃん、悠はどうしたんやろな。
 奈良から帰って来たと思ったら一日中部屋に閉じこもりっきりで。
 こんなこと、初めてどすなぁ」
「奈良でなんかあったことは確かどすけど私にも何も言ってくれんし」
「そやさかい、お前も一緒に行け、言ったんですがな」
「そいでもどうしても一人で行く ゆうて

「静、ちょっと行って悠連れてかなはれ」
「ほっといたらよろし。悠は答えを出すまでは一人で考えるたちやさかい」
「お前ちょっと行って様子見て来い」

「かわいい悠のことが心配なんはお父ちゃんどっしゃろ」

立ち上がった桂



悠は墨をすって、働く雄一郎を描いていた。

  日本人の誇りを取り戻せそうな気がしてくる
  今の日本の人たちに必要なのは、日本人の心を生き返らせることだと思えるんだ



「誰? これ」 桂が話かける

「そうか雄一郎さんてこんなお人やの? ふーん。
 悠。奈良へ何をしに行ったんえ?
 お父ちゃんもお母ちゃんもみんな心配してはるえ」

「お姉ちゃん。うち‥‥どんなことしてもお父ちゃんに祇園祭してもらうえ」
「え?」
「お姉ちゃん。うち‥‥今、自分がせんならんことがやっとわかった」



(つづく)



『ちりとてちん』(75)

2007-12-26 18:35:21 | ’07 77 『ちりとてちん』
作  :藤本有紀
音楽 :佐橋俊彦
テーマ曲ピアノ演奏:松下奈緒

語り :上沼恵美子

  出 演

和田喜代美  貫地谷しほり
緒方奈津子  原 沙知絵:塗箸の取材に来た、フリーライター、小次郎と奇妙な同居中
磯七      松尾貴史 :散髪店(磯村屋)の店主。酒場「寝床」の常連
菊江      キムラ緑子:「菊江仏壇店」の女主人。酒場「寝床」の常連
徒然亭草々  青木崇高 :落語家、徒然亭草若の二番弟子。
徒然亭小草若 茂山宗彦 :タレント落語家、徒然亭草若の実の息子、草若の三番弟子
徒然亭草原  桂 吉弥 :落語家、徒然亭草若の一番弟子。
徒然亭四草  加藤虎ノ介:落語家、徒然亭草若の四番弟子。
咲       田実陽子 :酒場「寝床」の店主・熊五郎の妻
お花      新海なつ :町内の駄菓子屋のおばあちゃん。
不動産屋   竹本翔之介  喜代美が物件探しで訪れた不動産屋

      NAC
      劇団東俳
      キャストプラン

徒然亭草若  渡瀬恒彦:天才落語家。天狗座での徒然亭一門会の後、正式に高座復帰


 
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喜代美(貫地谷しほり)の内弟子修業は無事年内で終わることになったが、年季が明けたら部屋から出るよう、草若(渡瀬恒彦)に言われてしまう。草々(青木崇高)の隣に住めなくなることに動揺する喜代美。草々に頼んで一緒に住まい探しをするが、乏しい予算ではろくな物件が見つからない。途方に暮れた喜代美はつい、このまま住むことができないか草々に相談するが……。