脚本:重森孝子
音楽:中村滋延
語り:藤田弓子
出 演
悠 加納みゆき:京都の繊維問屋「竹田屋」の三女
葵 松原千明 :竹田家の長女(バツイチ後、家出しジャズクラブで歌の勉強中)
桂 黒木 瞳 :竹田家の二女(竹田屋を継いだ)
忠七 渋谷天笑 :「竹田屋」の奉公人(番頭)、復員後もそのまま番頭さん
義二 大竹修造 :桂の夫(婿養子)、竹田屋の若旦那
岩谷 草川祐馬 :造り酒屋の次男坊、かつては葵の踊りの兄弟子
ジョージ ジェフ・カーソン :かつて吉野屋に宿泊した学生、進駐軍の秘書として来日
お康 未知やすえ:「竹田屋」の奉公人(悠付きの女中さん)
松竹芸能
巴 宝生あやこ:三姉妹の祖母、静の母
市左衛門 西山嘉孝 :「竹田屋」の主人、三姉妹の父(婿養子)
静 久我美子 :三姉妹の母、市左衛門の妻
・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★
悠は市左衛門のため、室町の人々のため、京都の民衆のため、
どうしても祇園祭りが必要だと、ジョージに説いたのです
ジョージは、必要な書類を提出しなければならないと言われ
悠は「どんなことでもやります」と言う。
さらに「司令軍は、民衆が集まることを恐れている」と言われて
「日本人は進駐軍に向かっていくようなことはしない、お祭りがしたいだけ。
無気力になった人にきっと勇気を与えてくれる」と答えた
「祭りにはお金がかかるのでしょ?」
「はい。けど室町の人は祇園祭に命をかけています。なんとかなります」
「ハルカサンのためだ、できるだけのことはしましょう」と約束した
楽屋の張り紙をみた葵が入って来て「重要な話ならはよ、して」と言う
「祇園さんや、祇園さん」
「え?」
「祇園祭りができるかもわからんえ」
「あほくさ。うち帰らしてもらうわ」
「お姉ちゃーん。祇園祭りが京都の人にとってどれだけ大事かわかってはるやろ」
「どんな大事なことでも、人間お腹空いてたら、食べることしか考えへんのやで」
「祇園さんだけは別や。お父ちゃんのためにもどうしても祇園さんしてあげたいんねん」
「ふ~~っ。わかった。で、うちは何をしたらええの?」
「ここで将校のえらい人たちに祇園祭りをさせて下さいって頼んでほしいねん」
へーーっという顔でジョージを見る葵
「そーんなことしたらうち、クビになってしまうわ」
「葵さん、私が正式に頼むより、あなたがここで頼んだ方が効き目があるかもしれませんよ。
あなたは将校たちのアイドルですから」
「アイドルって何ですか?」と葵
「人気者です。あなたはここのスターですから」
「ホンマですかぁ?」
「きれいだからぁ~」と、持ち上げるジョージに、葵はその気になってきた
「わぁ。じゃ、しゃあないなぁ。ま、やってみるわ」
悠は喜び勇んで走って帰ってきた。
「お父ちゃん、お父ちゃん! 祇園祭できるかもしれんで」
「ええ加減なこと、いわんとき!」
「悠、ほんまどすか?」
「うん。ジョージさんを通して、司令部のえらい人に許可願いを出しました」
「祇園祭ができるてホンマどすかいな」と、巴が走ってくる(足はわるくないのか)
「はい!」
「悠お嬢さん、ホンマどすか」忠七も走ってくる
「うちが書いた書類をジョージさんが英語に直してくれて、今出してきたんです。
お父ちゃんの名前で」
「さすが悠お嬢さんや!」
「慌てなんな。書類出しても許可されんことが山ほど、おす」
「それでも、葵姉ちゃんも頼んでくれてはるし」
「悠、それはどういうこっちゃ」
しまった! という顔をする悠
「ま、言い訳はよろし。葵が恥さらしなことをしてるのは聞いてます。
それでも、ワシはもう文句言う元気もおへん。
ヤミでしか商売できん養子をだまーって見てんとならんような世の中どすさかいなー」
「お父ちゃん」と桂が入って来た
「義二さんは、竹田屋の信用を落さんように商売する方法をやっと考えはったんどす。
蔵の商品はその資金として必要やったんです」
「わかってます。わかってますが、わしゃもう死んだふりやのうて、ホンマに死んでしまいました」
「お父ちゃん、そんなこと言わんといて下さい。
祇園祭りの鉾に上がって、昔みたく扇かざさはったら、また竹田屋の主人に戻れます」
「もう二度とそんなことはできまへん」
「お父ちゃん! うちを信用してくれはらへんのですか?
今までやると言ってできんかったことありましたか?」
「良かった、良かった。悠が元気になって。もいっぺん祇園祭りを見られるなんて夢みたいどすなぁ」
悠や葵の努力にかかわらず、昭和21年の祇園祭りに鉾は立ちませんでした。
悠の涙は彷徨う暗い海の中で、たったひとつ見つけた灯りを消されたしまった悔しさだったのです
「お嬢さん!」 忠七が自転車で悠を捜しに来た。
「みなさんが心配しておやす」
「忠七どん、堪忍!」 忠七に抱きついて悔し泣きする悠。
コスモスが咲く頃、桂のお腹はだいぶせり出してきた
庭で育てた野菜を取り、おかずにする桂。
「お義父さん、いろいろとご迷惑をかけましたけれど、室町の老舗の暖簾に傷をつけんと
なんとか三軒が集まって、別の会社を作ることができました。
もちろん仮の会社ですけど、規則を犯さんとなんとかぎりぎり今の時代を乗り越えられそうです。
悠さん、いろいろと助けてくれはりましたけども、
これからは竹田屋の家計は私の力でなんとか出来そうです。おおきに」
「さ、いただきまひょ」と桂
しかし、巴がいないのに気づき、悠が呼びに行った。
巴は、熱を出し寒いと寝込んでいた
「寝てんとあきまへんえ」
「それでも、おなか減ってな」
「今、ここに持ってきます」
「一人でいただくのは、さびしおす」
「それやったら、うちもここでいただきます」
その日から巴はみんなと一緒に食事をすることはできませんでした。
風邪をこじらせて肺炎をひきおこしてしまったのです
岩谷が「ペニシリンなんかジョージさんに頼んだらすぐに手に入りますのに」と持って来てくれた
「すんません。ジョージさんにこんなこと頼みとうないんです」
「ま、ひとつ頼んだら、何でも欲しくなりますな。アメリカさんのもんは」
「おいくらですか?」
「お金はいらんから、日本の着物をくれ 言うてますねや」
「ほな、すぐに取って来ます」
「おばあちゃん、いいお薬が手に入りましたえ」
「悠、あんたの花嫁姿が見たかったなぁ」
「そうやなぁ、おばあちゃん、あと10年ぐらい生きとってくださいね」
「この子の顔も見たかったけど‥」と桂のお腹に手を当てる巴
「もうすぐやし。はよう元気になっておくれやしな」
「葵はどこにいますのや。三人の朝顔が見とおしたのに」
「お義母さん」と市左衛門も入ってくる
「市左衛門はん、竹田屋を頼みますえ」
「お義母さん、しっかりしておくれやっしゃ」
「もういっぺん、祇園祭りが見とおしたなぁ」
「来年は必ずやります」
「そうどすなぁ。室町の商人が祇園祭を忘れるようではあきまへんえ」
「へぇー」
進駐軍の前で You are my sunshine を歌っている葵
悠は、窓の外から、一生懸命呼ぶ 「おねえちゃん!」
ステージ衣裳のまま、ジープで送ってもらう悠と葵
「祇園祭り見たい言わはんのや。三人の朝顔も」
「明日でもいいやないの」
「あかん!」
「お父ちゃんになんて言ったらええの~」
「お父ちゃん、もう何にも言わへんって」
お腹が大きい桂が「前が合わへーん」と言いながら、朝顔を着ているところに
葵到着
「なーんえー? その衣裳」
「仕事着や」
「おばあちゃん大丈夫なんか?」
「お医者さんが来はってな、注射しはったらよく眠ってはるわ」
「あーあ、なんでこの季節にこんな夏の着物なんて着んとあかんの」
「おばあちゃんが三つの朝顔見たいって言うてはるんやし。
文句言わんと、さっさと着よし!」
医者が巴の脈を取る‥ 「お母さん、わかりますか? 三人の朝顔どすえ」
「おばあちゃん」 よびかける悠
巴はうっすら目を開け朝顔に目をやり、そしてそのまま静かに永遠の眠りについた。
その何日か後、産声が響く!
人がこの世に生まれでた、初めてのその声は、悠に生きる力を与えてくれました。
桂は、巴のうまれかわりのように女の子を産んだのです。
名前は都とつけられました。
(来週につづく)
音楽:中村滋延
語り:藤田弓子
出 演
悠 加納みゆき:京都の繊維問屋「竹田屋」の三女
葵 松原千明 :竹田家の長女(バツイチ後、家出しジャズクラブで歌の勉強中)
桂 黒木 瞳 :竹田家の二女(竹田屋を継いだ)
忠七 渋谷天笑 :「竹田屋」の奉公人(番頭)、復員後もそのまま番頭さん
義二 大竹修造 :桂の夫(婿養子)、竹田屋の若旦那
岩谷 草川祐馬 :造り酒屋の次男坊、かつては葵の踊りの兄弟子
ジョージ ジェフ・カーソン :かつて吉野屋に宿泊した学生、進駐軍の秘書として来日
お康 未知やすえ:「竹田屋」の奉公人(悠付きの女中さん)
松竹芸能
巴 宝生あやこ:三姉妹の祖母、静の母
市左衛門 西山嘉孝 :「竹田屋」の主人、三姉妹の父(婿養子)
静 久我美子 :三姉妹の母、市左衛門の妻
・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★
悠は市左衛門のため、室町の人々のため、京都の民衆のため、
どうしても祇園祭りが必要だと、ジョージに説いたのです
ジョージは、必要な書類を提出しなければならないと言われ
悠は「どんなことでもやります」と言う。
さらに「司令軍は、民衆が集まることを恐れている」と言われて
「日本人は進駐軍に向かっていくようなことはしない、お祭りがしたいだけ。
無気力になった人にきっと勇気を与えてくれる」と答えた
「祭りにはお金がかかるのでしょ?」
「はい。けど室町の人は祇園祭に命をかけています。なんとかなります」
「ハルカサンのためだ、できるだけのことはしましょう」と約束した
楽屋の張り紙をみた葵が入って来て「重要な話ならはよ、して」と言う
「祇園さんや、祇園さん」
「え?」
「祇園祭りができるかもわからんえ」
「あほくさ。うち帰らしてもらうわ」
「お姉ちゃーん。祇園祭りが京都の人にとってどれだけ大事かわかってはるやろ」
「どんな大事なことでも、人間お腹空いてたら、食べることしか考えへんのやで」
「祇園さんだけは別や。お父ちゃんのためにもどうしても祇園さんしてあげたいんねん」
「ふ~~っ。わかった。で、うちは何をしたらええの?」
「ここで将校のえらい人たちに祇園祭りをさせて下さいって頼んでほしいねん」
へーーっという顔でジョージを見る葵
「そーんなことしたらうち、クビになってしまうわ」
「葵さん、私が正式に頼むより、あなたがここで頼んだ方が効き目があるかもしれませんよ。
あなたは将校たちのアイドルですから」
「アイドルって何ですか?」と葵
「人気者です。あなたはここのスターですから」
「ホンマですかぁ?」
「きれいだからぁ~」と、持ち上げるジョージに、葵はその気になってきた
「わぁ。じゃ、しゃあないなぁ。ま、やってみるわ」
悠は喜び勇んで走って帰ってきた。
「お父ちゃん、お父ちゃん! 祇園祭できるかもしれんで」
「ええ加減なこと、いわんとき!」
「悠、ほんまどすか?」
「うん。ジョージさんを通して、司令部のえらい人に許可願いを出しました」
「祇園祭ができるてホンマどすかいな」と、巴が走ってくる(足はわるくないのか)
「はい!」
「悠お嬢さん、ホンマどすか」忠七も走ってくる
「うちが書いた書類をジョージさんが英語に直してくれて、今出してきたんです。
お父ちゃんの名前で」
「さすが悠お嬢さんや!」
「慌てなんな。書類出しても許可されんことが山ほど、おす」
「それでも、葵姉ちゃんも頼んでくれてはるし」
「悠、それはどういうこっちゃ」
しまった! という顔をする悠
「ま、言い訳はよろし。葵が恥さらしなことをしてるのは聞いてます。
それでも、ワシはもう文句言う元気もおへん。
ヤミでしか商売できん養子をだまーって見てんとならんような世の中どすさかいなー」
「お父ちゃん」と桂が入って来た
「義二さんは、竹田屋の信用を落さんように商売する方法をやっと考えはったんどす。
蔵の商品はその資金として必要やったんです」
「わかってます。わかってますが、わしゃもう死んだふりやのうて、ホンマに死んでしまいました」
「お父ちゃん、そんなこと言わんといて下さい。
祇園祭りの鉾に上がって、昔みたく扇かざさはったら、また竹田屋の主人に戻れます」
「もう二度とそんなことはできまへん」
「お父ちゃん! うちを信用してくれはらへんのですか?
今までやると言ってできんかったことありましたか?」
「良かった、良かった。悠が元気になって。もいっぺん祇園祭りを見られるなんて夢みたいどすなぁ」
悠や葵の努力にかかわらず、昭和21年の祇園祭りに鉾は立ちませんでした。
悠の涙は彷徨う暗い海の中で、たったひとつ見つけた灯りを消されたしまった悔しさだったのです
「お嬢さん!」 忠七が自転車で悠を捜しに来た。
「みなさんが心配しておやす」
「忠七どん、堪忍!」 忠七に抱きついて悔し泣きする悠。
コスモスが咲く頃、桂のお腹はだいぶせり出してきた
庭で育てた野菜を取り、おかずにする桂。
「お義父さん、いろいろとご迷惑をかけましたけれど、室町の老舗の暖簾に傷をつけんと
なんとか三軒が集まって、別の会社を作ることができました。
もちろん仮の会社ですけど、規則を犯さんとなんとかぎりぎり今の時代を乗り越えられそうです。
悠さん、いろいろと助けてくれはりましたけども、
これからは竹田屋の家計は私の力でなんとか出来そうです。おおきに」
「さ、いただきまひょ」と桂
しかし、巴がいないのに気づき、悠が呼びに行った。
巴は、熱を出し寒いと寝込んでいた
「寝てんとあきまへんえ」
「それでも、おなか減ってな」
「今、ここに持ってきます」
「一人でいただくのは、さびしおす」
「それやったら、うちもここでいただきます」
その日から巴はみんなと一緒に食事をすることはできませんでした。
風邪をこじらせて肺炎をひきおこしてしまったのです
岩谷が「ペニシリンなんかジョージさんに頼んだらすぐに手に入りますのに」と持って来てくれた
「すんません。ジョージさんにこんなこと頼みとうないんです」
「ま、ひとつ頼んだら、何でも欲しくなりますな。アメリカさんのもんは」
「おいくらですか?」
「お金はいらんから、日本の着物をくれ 言うてますねや」
「ほな、すぐに取って来ます」
「おばあちゃん、いいお薬が手に入りましたえ」
「悠、あんたの花嫁姿が見たかったなぁ」
「そうやなぁ、おばあちゃん、あと10年ぐらい生きとってくださいね」
「この子の顔も見たかったけど‥」と桂のお腹に手を当てる巴
「もうすぐやし。はよう元気になっておくれやしな」
「葵はどこにいますのや。三人の朝顔が見とおしたのに」
「お義母さん」と市左衛門も入ってくる
「市左衛門はん、竹田屋を頼みますえ」
「お義母さん、しっかりしておくれやっしゃ」
「もういっぺん、祇園祭りが見とおしたなぁ」
「来年は必ずやります」
「そうどすなぁ。室町の商人が祇園祭を忘れるようではあきまへんえ」
「へぇー」
進駐軍の前で You are my sunshine を歌っている葵
悠は、窓の外から、一生懸命呼ぶ 「おねえちゃん!」
ステージ衣裳のまま、ジープで送ってもらう悠と葵
「祇園祭り見たい言わはんのや。三人の朝顔も」
「明日でもいいやないの」
「あかん!」
「お父ちゃんになんて言ったらええの~」
「お父ちゃん、もう何にも言わへんって」
お腹が大きい桂が「前が合わへーん」と言いながら、朝顔を着ているところに
葵到着
「なーんえー? その衣裳」
「仕事着や」
「おばあちゃん大丈夫なんか?」
「お医者さんが来はってな、注射しはったらよく眠ってはるわ」
「あーあ、なんでこの季節にこんな夏の着物なんて着んとあかんの」
「おばあちゃんが三つの朝顔見たいって言うてはるんやし。
文句言わんと、さっさと着よし!」
医者が巴の脈を取る‥ 「お母さん、わかりますか? 三人の朝顔どすえ」
「おばあちゃん」 よびかける悠
巴はうっすら目を開け朝顔に目をやり、そしてそのまま静かに永遠の眠りについた。
その何日か後、産声が響く!
人がこの世に生まれでた、初めてのその声は、悠に生きる力を与えてくれました。
桂は、巴のうまれかわりのように女の子を産んだのです。
名前は都とつけられました。
(来週につづく)