脚本:重森孝子
音楽:中村滋延
語り:藤田弓子
出 演
悠 加納みゆき:京都の繊維問屋「竹田屋」の三女
桂 黒木 瞳 :竹田家の二女(竹田屋を継いだ)
義二 大竹修造 :桂の夫(婿養子)、暫くの暇を申し出たが、帰ってくる
忠七 渋谷天笑 :「竹田屋」の奉公人(番頭)、復員後もそのまま番頭さん
雅子 山本博美 :悠の女学校の同級生。結婚したが夫は戦死したとの公報が来た
岩谷 草川祐馬 :造り酒屋の次男坊、かつては葵の踊りの兄弟子
お康 未知やすえ:「竹田屋」の奉公人(悠付きの女中さん)
巴 宝生あやこ:三姉妹の祖母、静の母
市左衛門 西山嘉孝 :「竹田屋」の主人、三姉妹の父(婿養子)
静 久我美子 :三姉妹の母、市左衛門の妻
・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★
「細かくてすみません」と、岩谷に代金を支払う悠
「小豆もまた値が上がりましたんや、羊羹も10円ぐらい上げんと儲かりまへんで」
「儲からんでも、家族が食べて行ければ、それでええんです」
岩谷に「最近、桂さん手伝うてないのですか」と聞かれて
「体調が悪くて、寝たりおきたりしている、こんな時葵姉ちゃんがいてくれれば助かるのに」
と答える。
(だから、おめでただってば~~ )
「葵さん、ここには顔を見せはらへんのですか」
「はい。うちだけは時々会うているんですけど、居所も教えてくれはらへんし~」と
岩谷を見るが
岩谷は「知りまへん、会うてしまへんし」と答えて
「でも、進駐軍のクラブでジャズを歌ういううわさを聞きました」と教える
「えーーっ。歌の勉強はしてるって聴いてましたけど、まさかぁ」
「ワシも聞いてびっくりしましたがな。
竹田屋のお嬢さんがアメリカの歌、歌うやなんてなー」
「岩谷さん、もしホンマに歌わはったらすぐ知らせてくださいね」
岩谷は任せてください と帰ろうとすると、静が「葵のことやけど」と訊かれ
「すんません、ワシは葵さんにふられましたし」と領収書を悠に渡して帰っていった。
「岩谷さんもかわってしまったなぁ。昔は老舗のぼんぼんやったのに」
「頭の切り替えが早いか遅いかだけや」と悠
「男の人はみんなかわってしまはった」
静は、小豆の煮えたんのちょっと頂戴、お赤飯は無理やけど小豆のおかゆさんつくるからと言う
( ほら~~~。 安静第一と悪阻で、ちょっと寝たり起きたりしてたのかな? )
「何のお祝い?」とにぶちん悠はわかってない。
そこにヤミ市の営業を終えて、忠七とお康が帰ってきた。
「もう、明日からワシ一人で行きます」
お康と夫婦に思われたのが、イヤだったようだ。
「悠お嬢さんと行かはっても、それこそ夫婦には間違われませんな」
(お康どんは、忠七さんにはあとかなぁ?)
静がお米の準備をしているのを見て、お康は「私がしますし」と言うと
「小豆のおかゆさんにしますんで、そのつもりでな。
それとお酒の残ったのを旦那さんにつけて」と、うきうきした様子。
「悠お嬢さん、なんかええことでもおしたんか?」と忠七
「うちもさっきから考えてんやけどな」
「あー、そうか。これ旦那さんの還暦祝いどすわ、きっと」
「お父ちゃん、そんな年やったかいな」
「もしぃー、結婚式やとしたら、悠お嬢さんしかいてはらへんし」
「えー、そんなはずないわ」
「そんなのわかりまへん」とお康
お祝いの準備をしながら、目配せしあう悠、忠七、お康
そこに桂が義二と降りてきた。
「もう起きはって、よろしいのか?」
「うん」
「えー、今日はみんなに報告することがおすのや」 市左衛門の顔も多少柔和に。
「久しぶりにこの竹田屋にもええことがあります」と義二にお酒を勧めると
「大事なお酒、私は遠慮します」と断られたが、巴の方を向いて
「お義母さん、わたしもやっと孫がでけますねや」と言った。
悠は、わー! という表情で桂を見た
「そうどすか、桂ー、おめでとうさん」と巴に言われ、義二と一緒にお辞儀をする桂
「おおきに」
「桂姉ちゃん、良かったなぁ。おめでとうさん。いつ生まれんの?」
「予定は10月の終わりごろや」
「へえぇ」
「桂、絶対に男の子を産みない。これは命令や」市左衛門の言葉にみんなが笑う
「長生きはするもんどす。義二さん、おおきに」
「いえ‥私はもうこの家に帰ってくることは諦めてたんです」
「いやぁ、ホンマどすか?」と静
「それが、桂にそれでも男か とひっぱたかれまして」
「桂が! この顔で」驚く巴
「私の母親がそばにいて、それはびっくりして、家を追い出されました」
「桂姉ちゃんもやる時にはやらはるんやな」
「うちは必死やってん。悠に竹田屋をとられそうになったさかい」
「いやぁもう、そんなことは言いまへん。
それから義二はんと仲良うして、この竹田屋を守っておくれやす」
「私も勤めるなんてことは考えんと、商売をやり直す方法を考えます」
「あー、まー、表向き何もでけんでも、裏で商売してはるところ、この室町にも仰山おす。
せやけども、竹田屋の信用だけは落とさんように、何とか今の世の中切り抜けておくれやす」
「はい。これから老舗の若旦那らと話し合ってやってみます」
「私ら、家族の生活が義二さんにかかってますのや、よろしゅうお願いしますえ」
「はい。お任せください」
見つめあう義二と桂を見て、ちょっとさびしそうな悠
悠は雅子と語り合っていた
「男の人ってあんなにかわるもんやろか、子どもができたら」
「やっぱり責任感があんのと違う?」
「主人もヨウイチが生まれたこと知ってたら、お国のために死ぬことより‥」
「うちもやっと安心できたと思うと、何や急にさびしぃなって来てな」
「何で?」
「お父ちゃんが昔、竹田屋を継げるのはお前しかない ってうちに言わはった時から
責任感みたいなもんがあったし。
家出してもどこにいても、竹田屋のことが気になってた
それがもう桂ねえちゃん夫婦にまかしても大丈夫、
そう思うたら、急に自分の居所がないような気がしてな」
「悠? そう思わはんのやったら、奈良の人と結婚して」
「何、急に。それとこれとは話が違うやないの」
「ううん。うちも悠に甘えてた。兄のことは忘れてほしいなんて言いながら、
こうやって買出しの材料わけてもらったり、羊羹作り手伝わさせてもろうたり。
いつまでも悠をしばってたような気がする」
「うちは喜んでしとんのえ。
沢木家の嫁になったつもりでしとんのに、その喜びまで取り上げんといて」
桂は、安定期に入ったのか、台所をしていた。
もんぺ姿で買出しから戻った悠は、その後姿を見ていた。
「ちゃんとしはると、竹田屋の若奥さんや」
「あたりまえのこと言わんとき。また買うてきてくれたんか?」
「また値上がりしてたけど」と、お米を出す悠
「これから買出しのときは、うちの着物持っていってや」と桂
「これからの家の経費は、毎月銀行で引き出せる分でまかなうことにするし。
ちゃんとつけといてな。 あ、それから家族の食事はうちでつくるし。
悠は羊羹作りと買出しを頼みます。
義二さんがお金を作ってくれはるようになったら、
悠、働かんでもええようになると思うけど、それまで頼むえ。
ぅわー、いい大根やー、今日は大根の炊いたんでもつくりまひょか」
さて、静はお裁縫、市左衛門は米を籾ながらの会話。
「あんた、悠のことどすけど」
「まだ(吉野家に)行っていい(という)気にはなってくれんみたいどすなぁ」
「桂に赤ん坊ができたと知ったとき、後継ぎができた嬉しさもありますけど
これでやっと悠を解放させてやれる、私はそう思いましたわ」
「まぁ、そういうことだすな」
「悠が15の時に、あんた、悠に後継ぎにってお言いやしたんどす。
それがあの子の運命をかえてしまたんやし、これで、次の代の後継ぎができたとなると
悠のしてきたことは何やったんやろ、そう思うと不憫でなぁ」
「いまさらワシを責めなはんなー」
「いいえ、こうなったら悠をホンマに幸せにしてやらんとなぁ」
「せやから何とか奈良に行かしてやりたい思うてますねん」
「それでも私らのことは何にも聞いてくれへんし‥‥」
「こうなったらもう反対の手、考えるんどすなぁ」
「え? 反対て?」
「頭のめぐり、ようなってきましたんかいな 思うてましたのに、
悠はもうこの家に用はない、っちゅう格好をするんどすがな」
「悠にわざと冷とうして、お嫁にいかんとおれんようにするんどすな?
かわいそうやけど、今は心を鬼にせんとあきまへんな」
「ワシの償いは、ほんまに悠を思うてくれるお人と結婚させるしか、おへんのやがな」
「これ、どうどす?」と静は、悠用にと、着物を仕立て直したスカートを市左衛門に見せた。
「私のせめてもの償いの気持ちどす」
「そんなん、しまいなれ」
「え?」
「わざと冷とうするって言いましたやろ? 悠帰ってくるころどっせ」
今度は静は「桂の赤ん坊のオムツを作るんどす」と、浴衣をほどいた。
「お父ちゃん、お母ちゃん、ただいま帰りました」と笑顔で顔を出した悠に
静は口だけ「おかえりやす」といい、
生まれてくる赤ちゃんのことに夢中になっているフリをする市左衛門と静だった。
(つづく)
約束の地
音楽:中村滋延
語り:藤田弓子
出 演
悠 加納みゆき:京都の繊維問屋「竹田屋」の三女
桂 黒木 瞳 :竹田家の二女(竹田屋を継いだ)
義二 大竹修造 :桂の夫(婿養子)、暫くの暇を申し出たが、帰ってくる
忠七 渋谷天笑 :「竹田屋」の奉公人(番頭)、復員後もそのまま番頭さん
雅子 山本博美 :悠の女学校の同級生。結婚したが夫は戦死したとの公報が来た
岩谷 草川祐馬 :造り酒屋の次男坊、かつては葵の踊りの兄弟子
お康 未知やすえ:「竹田屋」の奉公人(悠付きの女中さん)
巴 宝生あやこ:三姉妹の祖母、静の母
市左衛門 西山嘉孝 :「竹田屋」の主人、三姉妹の父(婿養子)
静 久我美子 :三姉妹の母、市左衛門の妻
・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★
「細かくてすみません」と、岩谷に代金を支払う悠
「小豆もまた値が上がりましたんや、羊羹も10円ぐらい上げんと儲かりまへんで」
「儲からんでも、家族が食べて行ければ、それでええんです」
岩谷に「最近、桂さん手伝うてないのですか」と聞かれて
「体調が悪くて、寝たりおきたりしている、こんな時葵姉ちゃんがいてくれれば助かるのに」
と答える。
(だから、おめでただってば~~ )
「葵さん、ここには顔を見せはらへんのですか」
「はい。うちだけは時々会うているんですけど、居所も教えてくれはらへんし~」と
岩谷を見るが
岩谷は「知りまへん、会うてしまへんし」と答えて
「でも、進駐軍のクラブでジャズを歌ういううわさを聞きました」と教える
「えーーっ。歌の勉強はしてるって聴いてましたけど、まさかぁ」
「ワシも聞いてびっくりしましたがな。
竹田屋のお嬢さんがアメリカの歌、歌うやなんてなー」
「岩谷さん、もしホンマに歌わはったらすぐ知らせてくださいね」
岩谷は任せてください と帰ろうとすると、静が「葵のことやけど」と訊かれ
「すんません、ワシは葵さんにふられましたし」と領収書を悠に渡して帰っていった。
「岩谷さんもかわってしまったなぁ。昔は老舗のぼんぼんやったのに」
「頭の切り替えが早いか遅いかだけや」と悠
「男の人はみんなかわってしまはった」
静は、小豆の煮えたんのちょっと頂戴、お赤飯は無理やけど小豆のおかゆさんつくるからと言う
( ほら~~~。 安静第一と悪阻で、ちょっと寝たり起きたりしてたのかな? )
「何のお祝い?」とにぶちん悠はわかってない。
そこにヤミ市の営業を終えて、忠七とお康が帰ってきた。
「もう、明日からワシ一人で行きます」
お康と夫婦に思われたのが、イヤだったようだ。
「悠お嬢さんと行かはっても、それこそ夫婦には間違われませんな」
(お康どんは、忠七さんにはあとかなぁ?)
静がお米の準備をしているのを見て、お康は「私がしますし」と言うと
「小豆のおかゆさんにしますんで、そのつもりでな。
それとお酒の残ったのを旦那さんにつけて」と、うきうきした様子。
「悠お嬢さん、なんかええことでもおしたんか?」と忠七
「うちもさっきから考えてんやけどな」
「あー、そうか。これ旦那さんの還暦祝いどすわ、きっと」
「お父ちゃん、そんな年やったかいな」
「もしぃー、結婚式やとしたら、悠お嬢さんしかいてはらへんし」
「えー、そんなはずないわ」
「そんなのわかりまへん」とお康
お祝いの準備をしながら、目配せしあう悠、忠七、お康
そこに桂が義二と降りてきた。
「もう起きはって、よろしいのか?」
「うん」
「えー、今日はみんなに報告することがおすのや」 市左衛門の顔も多少柔和に。
「久しぶりにこの竹田屋にもええことがあります」と義二にお酒を勧めると
「大事なお酒、私は遠慮します」と断られたが、巴の方を向いて
「お義母さん、わたしもやっと孫がでけますねや」と言った。
悠は、わー! という表情で桂を見た
「そうどすか、桂ー、おめでとうさん」と巴に言われ、義二と一緒にお辞儀をする桂
「おおきに」
「桂姉ちゃん、良かったなぁ。おめでとうさん。いつ生まれんの?」
「予定は10月の終わりごろや」
「へえぇ」
「桂、絶対に男の子を産みない。これは命令や」市左衛門の言葉にみんなが笑う
「長生きはするもんどす。義二さん、おおきに」
「いえ‥私はもうこの家に帰ってくることは諦めてたんです」
「いやぁ、ホンマどすか?」と静
「それが、桂にそれでも男か とひっぱたかれまして」
「桂が! この顔で」驚く巴
「私の母親がそばにいて、それはびっくりして、家を追い出されました」
「桂姉ちゃんもやる時にはやらはるんやな」
「うちは必死やってん。悠に竹田屋をとられそうになったさかい」
「いやぁもう、そんなことは言いまへん。
それから義二はんと仲良うして、この竹田屋を守っておくれやす」
「私も勤めるなんてことは考えんと、商売をやり直す方法を考えます」
「あー、まー、表向き何もでけんでも、裏で商売してはるところ、この室町にも仰山おす。
せやけども、竹田屋の信用だけは落とさんように、何とか今の世の中切り抜けておくれやす」
「はい。これから老舗の若旦那らと話し合ってやってみます」
「私ら、家族の生活が義二さんにかかってますのや、よろしゅうお願いしますえ」
「はい。お任せください」
見つめあう義二と桂を見て、ちょっとさびしそうな悠
悠は雅子と語り合っていた
「男の人ってあんなにかわるもんやろか、子どもができたら」
「やっぱり責任感があんのと違う?」
「主人もヨウイチが生まれたこと知ってたら、お国のために死ぬことより‥」
「うちもやっと安心できたと思うと、何や急にさびしぃなって来てな」
「何で?」
「お父ちゃんが昔、竹田屋を継げるのはお前しかない ってうちに言わはった時から
責任感みたいなもんがあったし。
家出してもどこにいても、竹田屋のことが気になってた
それがもう桂ねえちゃん夫婦にまかしても大丈夫、
そう思うたら、急に自分の居所がないような気がしてな」
「悠? そう思わはんのやったら、奈良の人と結婚して」
「何、急に。それとこれとは話が違うやないの」
「ううん。うちも悠に甘えてた。兄のことは忘れてほしいなんて言いながら、
こうやって買出しの材料わけてもらったり、羊羹作り手伝わさせてもろうたり。
いつまでも悠をしばってたような気がする」
「うちは喜んでしとんのえ。
沢木家の嫁になったつもりでしとんのに、その喜びまで取り上げんといて」
桂は、安定期に入ったのか、台所をしていた。
もんぺ姿で買出しから戻った悠は、その後姿を見ていた。
「ちゃんとしはると、竹田屋の若奥さんや」
「あたりまえのこと言わんとき。また買うてきてくれたんか?」
「また値上がりしてたけど」と、お米を出す悠
「これから買出しのときは、うちの着物持っていってや」と桂
「これからの家の経費は、毎月銀行で引き出せる分でまかなうことにするし。
ちゃんとつけといてな。 あ、それから家族の食事はうちでつくるし。
悠は羊羹作りと買出しを頼みます。
義二さんがお金を作ってくれはるようになったら、
悠、働かんでもええようになると思うけど、それまで頼むえ。
ぅわー、いい大根やー、今日は大根の炊いたんでもつくりまひょか」
さて、静はお裁縫、市左衛門は米を籾ながらの会話。
「あんた、悠のことどすけど」
「まだ(吉野家に)行っていい(という)気にはなってくれんみたいどすなぁ」
「桂に赤ん坊ができたと知ったとき、後継ぎができた嬉しさもありますけど
これでやっと悠を解放させてやれる、私はそう思いましたわ」
「まぁ、そういうことだすな」
「悠が15の時に、あんた、悠に後継ぎにってお言いやしたんどす。
それがあの子の運命をかえてしまたんやし、これで、次の代の後継ぎができたとなると
悠のしてきたことは何やったんやろ、そう思うと不憫でなぁ」
「いまさらワシを責めなはんなー」
「いいえ、こうなったら悠をホンマに幸せにしてやらんとなぁ」
「せやから何とか奈良に行かしてやりたい思うてますねん」
「それでも私らのことは何にも聞いてくれへんし‥‥」
「こうなったらもう反対の手、考えるんどすなぁ」
「え? 反対て?」
「頭のめぐり、ようなってきましたんかいな 思うてましたのに、
悠はもうこの家に用はない、っちゅう格好をするんどすがな」
「悠にわざと冷とうして、お嫁にいかんとおれんようにするんどすな?
かわいそうやけど、今は心を鬼にせんとあきまへんな」
「ワシの償いは、ほんまに悠を思うてくれるお人と結婚させるしか、おへんのやがな」
「これ、どうどす?」と静は、悠用にと、着物を仕立て直したスカートを市左衛門に見せた。
「私のせめてもの償いの気持ちどす」
「そんなん、しまいなれ」
「え?」
「わざと冷とうするって言いましたやろ? 悠帰ってくるころどっせ」
今度は静は「桂の赤ん坊のオムツを作るんどす」と、浴衣をほどいた。
「お父ちゃん、お母ちゃん、ただいま帰りました」と笑顔で顔を出した悠に
静は口だけ「おかえりやす」といい、
生まれてくる赤ちゃんのことに夢中になっているフリをする市左衛門と静だった。
(つづく)
約束の地