のんびり主婦のPCライフ

黒柴「ころたん」の平凡な暮らしと、
散歩と読書の記録です。

厭世フレーバー / 三羽省吾

2005-09-30 | 読書(~2005.09)
文藝春秋・2005.8.5

リストラの果てに失踪した父親。残された父親、妻、三人の子供が、それぞれの視点で綴った日々。
14歳のケイは高校受験をしないと言い張り、好きだった陸上部もやめると言い出す。
17歳のカナは、深夜までおでん屋でアルバイトをしている。家族は、夜遊びしていると思っているが、金を溜めて自分の将来のために大学にも行くつもりだ。
27歳のリュウは、下の2人とは母親が違うが、父親が家を出た後、経済面で家族の面倒を見なければならない。実は会社を止めたというのに・・・
42歳の母親。家を出てしまった夫には、結婚の時に窮地を救ってもらったのだ。
73歳のおじいさんは、家族には最近ボケたと思われているが、とんでもない。自分の辛かった過去を乗り越えて立派に生きてきたのだ。

初めて読んだ作家さんだったが、父親が家を出た後の家族の気持ちを、それぞれ理解できるように描いていて、面白かった。血のつながりや複雑な家族の関係だが、相手を思いやる気持ちが見え隠れして、ホッと温かな気持ちになれた。(05/09/30)


夏の吐息 / 小池真理子

2005-09-24 | 読書(~2005.09)
講談社・2005.6.15

◆秘めごと   美年子の店にやってきた女性客、桐子。2人は意気投合し、良い友人関係を築いていた。桐子は夫以外の男性に惹かれていた。
◆月の光   38歳のさくらは独身。週末の休みには母親の面倒を見ている。ある日、ふと立ち寄った店にいた20歳くらいの若者と価値観が同じであることに気づき、それから友人として交際が始まった。
◆パロール   亜希子が飲み屋で言葉を交わした初老の古河。彼は実は詩人だが、夏の間は立山の山奥で砂防工事に行っていた。その古河が立山で事故死した。
◆夏の吐息   愛し合って結婚も間近だった昌之と妙子。幸せだったはずなのに、昌之は身ごもった妙子を残して、突然姿を消した。それから6年、まだ帰りを待っている。
◆上海にて   遊子は、ほかの女となかなか手を切れない治と別れて結婚した。だが、まだ思いは消えず、思い出の地、上海で再び出会う。
◆春爛漫   わたしは家庭のある人を好きになった。その彼が倒れたというが、どうすることもできない。そんな思いを小学校からの友人和也は、受け止めてくれる。

最近、小池作品にあまりピンとくるものがなかったのだが、この作品は女性の揺れる心に共感できる部分が多かった。はっきりと白黒つけられる結末ではなく、ジーンと染み入るようなラスト。成就しない恋愛小説は悲しいけれど、いつまでも記憶に残るでしょう。(05/09/24)


ホームタウン / 小路幸也

2005-09-22 | 読書(~2005.09)
幻冬舎・2005.8.25

行島柾人は札幌の百貨店の特別な部署で働く27歳。ある日、疎遠になっていたたった一人の身内である妹の木実から手紙が届いた。手紙には結婚すると書かれていた。心から喜んだ柾人だったが、その後、木実の友人から、妹が行方不明になったと聞かされた。柾人は、木実の婚約者である青山に連絡を取るが、青山も行方不明となっていた。偶然にも青山は同じ百貨店の旭川店に勤務していた。柾人は2人を探すために旭川に向った。旭川は柾人が中学時代までを過ごした故郷だったが、両親が不慮の最期を遂げたことからずっと帰れずにいた町だった。木実と青山は何処へ行ったのか・・・、

ミステリーの要素を絡めながらも、小路作品はやはりほのぼのとする。登場人物の心の温かさがそう思わせるのだろう。特に下宿先のおばあちゃんの包み込むような接し方には、読んでいる私も癒される気がした。「溜まっているものは、少しずつでもいいから吐き出しておきなさい。ぜーんぶ私が墓まで持っていってあげるから」(05/09/22)


その日のまえに / 重松 清

2005-09-16 | 読書(~2005.09)
文藝春秋・2005.8.10

◆ひこうき雲   小学6年生の僕のクラスメイトが重い病気になって入院した。ガンリュウというあだ名のその女の子は、いつも強くて威張っていて、絶対に病気になんかなるはずのない子だったのに・・・
◆朝日のあたる家   若い頃に夫を病気で亡くし、必死に一人娘を育ててきた教師のぷくさん。高層マンションで暮らしているが、同じマンションに昔の教え子が住んでいた。
◆潮騒   余命3か月という告知を受けたサラリーマンは、その足で、子供のころに住んでいた海の近くの故郷に行き、友達に会う。
◆ヒア・カムズ・ザ・サン   だらけた生活をしている高校生の俺。父親は俺が赤ちゃんの時に事故死。母ちゃんが働いて生計を立てているが、健康診断で要再検査となったという。
◆その日のまえに  ◆その日  ◆その日のあとで   妻の和美にガンが発見され、余命を宣告されてしまう。いなくなる「その日」を前にどんなふうに過ごすのか、その後をどんなふうに生きるのか・・・ 夫婦は話し合い、認め合い、「その日」を迎えようとする。

若くして病気で死を迎えなければならないというのは、本当に辛い。自分の余命が決められてしまったら、私はいったいどんなふうに生きるのだろうと、考えずにはいられない本だった。前半の独立している短編が、「その日」に関わっていて、その部分に気づくとまた切なくなる。逝く人、残される人の悲しみが伝わってきて、胸が熱くなった。(05/09/16)


ルパンの消息 / 横山秀夫

2005-09-13 | 読書(~2005.09)
光文社・2005.5.25

15年前、ある高校の校舎から転落死した女性教師は、自殺とされていた。ところが時効まであと1日という日に、タレコミがあった。あの事件は殺人事件で、当時教え子だった3人の男子生徒が犯人であるという。そして「ルパン作戦」という出来事が発端であるらしい。捜査陣はその3人の身柄を拘束し、事情を聞き始めた。たった1日で、15年前の事件は解決をみるのだろうか?
横山秀夫氏、デビュー前の作品。

15年という時の流れと、真相の解明は、読んでいて面白くないわけがない。緊張感があり、最後の最後まで目が離せない展開だった。15年もの長い間、苦しんできた登場人物たちは、本当に辛かっただろう。最初の捜査さえしっかりしていれば、こんなに苦しまずに済んだのに・・・(05/09/13)


土の中の子供 / 中村文則

2005-09-10 | 読書(~2005.09)
新潮社・2005.7.30

幼少時に親に捨てられ、引き取られた親戚宅で虐待を受け土の中に埋められた青年。その恐怖の出来事は、その後、彼が自ら恐怖を求めていくという不可思議な行動へとつながっていった。タクシーの運転手として生計をたてていた彼は、学生時代に望まれぬ妊娠をし、死産を体験して不感症となった女性と同居している。互いに傷を持ち、世間や他人とうまく接することのできない二人は、どう生きていくのか。
第133回芥川賞受賞作品。

芥川賞とはどうも相性が良くないようだ。「虐待」という重いテーマを若い作家がどんなふうに読ませてくれるのかと期待はしていたのだが、重いテーマがより重く感じられて、短い作品なのに随分時間をかけて読了した。「蜘蛛の声」という短編も載っているが、そちらも読後感はよくなかった。(05/09/10)


みんな誰かを殺したい / 射逆裕二

2005-09-05 | 読書(~2005.09)
角川書店・2004.5.31

峠で発生した殺人事件を、車で休憩していた相馬は目撃する。そして逃げた犯人の車とすれ違った町村寄子も男の顔をちらっと見ていた。警察の捜査の結果、被害者は判明するが、それは新たな謎を浮かび上がられた。その殺人事件を発端に、いくつもの事件が発生する。登場人物は「みんな誰かを殺したい」。
第24回横溝正史ミステリ大賞優秀賞

非常にあらすじの書きにくい作品。緻密に構成されているし、ストーリーもスピード感があってよいのだが、全体的にさらりとしすぎている気がした。それは、こんなに誰もが殺意を抱いて暮らしているとは思えず、また登場人物の誰もに感情移入ができないからだろうか。(05/09/05)


転落 / 永嶋恵美

2005-09-03 | 読書(~2005.09)
講談社・2004.7.8

◆教唆   ある事情からホームレスになったボクは、ひとりの小学生の女の子と知り合う。少女はボクに食べ物を与えてくれる代わりに、自分の嫌いな女の子の対する嫌がらせに協力させていた。しばらくいいなりになったボクだったが・・・
◆隠匿   老人介護施設で調理員として働く私のアパートに、昔の知り合いが転がり込んできた。そして「たった今、子供を殺してきた」という。私は彼女を匿うことにした。そうしなければならない理由があったから・・・
◆転落   私と知実の転落に至るまでの経緯。

3部構成になっているのだが、1部と2部は主人公も視点も違うので独立しているようにも読める。ホームレスや幼児虐待、夫婦や嫁ぎ先の家の問題、そして介護問題と幅広い社会問題をとり入れているので、読ませる部分は多いのだが、やはり暗く息苦しい作品だった。(05/09/03)


2005年のロケットボーイズ / 五十嵐貴久

2005-09-01 | 読書(~2005.09)
双葉社・2005.8.5

高校入試の日に事故に遭い、中学浪人か某工業高校しか選択肢のなかったオレ。文系なのに工業高校に入学し、面白くない日々を過ごしていた。そして飲酒を理由に退学になりそうになってしまった。それを回避するために教師から、「キューブサット設計コンテスト」へ参加するよういわれる。自分にはその能力がないので、友人たちを巻き込んでコンテストに参加する。パチスロに能力を発揮するドラゴン、 お気楽なゴタンダ、秀才だが協調性がなく皆に嫌われている大先生でスタートしたチームは、中学の同級生で電気店の彩子やオレのジジイにも協力してもらいながら、コンテストで好成績をあげた。ところが、それで終わりと思っていたのに、次に製作の分野が残っているという。慌てた彼らは右往左往しながら頑張るのだが・・・

とても愉快なストーリーだった。主人公たちの何の目標もなく負け犬のような学校生活や友人関係や家庭の問題が、イヤイヤながら始めたキューブ作りを通して、どんどん改善されていく。その過程がユーモアたっぷりに描かれて楽しく読了できた。青春って、何かに夢中になれることだと、素直にそう思えた。(05/09/01)