のんびり主婦のPCライフ

黒柴「ころたん」の平凡な暮らしと、
散歩と読書の記録です。

三人目の幽霊 / 大倉崇裕

2005-04-30 | 読書(~2005.09)
東京創元社・2001.5.25

間宮緑は大学卒業後、念願だった出版社に勤務することができたが、辞令は「季刊落語」の編集部。落語などに興味がなかった緑だったが、編集長の牧のもとで少しずつ落語の面白さを理解していった。
◆三人目の幽霊   長年敵対していた「松の家」と「鈴の家」は二門会を開くことにしたが、そこでさまざまなアクシデントが続いた。誰かが二門会を失敗させようとしている。
◆不機嫌なソムリエ   緑の友達が尊敬するソムリエが突然行方不明になった。
◆三鶯荘奇談   噺家の妻が入院中、興行で家を空けることになった。彼の1人息子は緑と別荘で過ごすことになったが、そこには幽霊の気配が・・・
◆崩壊する喫茶店   緑の祖母は失明していたが、一枚の絵を見つめていた。その絵は白紙だった。
◆患う時計   三鶯亭菊朝の息子華菊は、別門で修行をしていた。そして真打昇進を機に三鶯亭に戻ることになったが・・・

牧と緑はユニークで楽しいコンビだ。会話のテンポも良くて、牧の洞察力が鋭い。私は落語についてはまるで知識はないが、それでも寄席の風景や雰囲気は想像できた。それぞれの事件が日常の中でのちょっとした謎なので、肩の力を抜いて読了。次の作品も読みたいと思える作家に出会えて嬉しい。(05/04/30)


聖者は海に還る / 山田宗樹

2005-04-28 | 読書(~2005.09)
幻冬舎・2005.3.25

梶山律は、夫を亡くし私立の中高一貫校で養護教諭として保健室に勤務していた。1人息子を保育園に預け一生懸命働き、生徒達からも人気があった。ある日、授業中に生徒が先生を拳銃で撃ち、自殺するという事件が起きた。学校側はその後、生徒や教師の動揺を考慮してカウンセラーを学校に常駐させた。やってきたのは比留間亮という独身の男性。始めは誰も相談に行かなかったのだが、比留間のカウンセリング受けた生徒は、悩みを解消し前向きに生き生きと過ごすようになった。学校は成績向上のために力を入れ始めた。優しく真面目な比留間に律は好意を抱き、二人は自然と互いを意識するようになった。

カウンセリングが傷ついた心を癒し、落ち込んだ人を救うことは素晴らしいと思うけれど、怖い部分も確かにありそう・・・ 使い方によってはよい結果とはならないこともあるだろうし・・・  
ラストは哀しいながらも、微かな、ほんの微かな希望が見えたことが救いかも知れないけれど、はたして律は幸せになれるのだろうかと、気持ちが揺さぶれた。(05/04/28)


人生ベストテン / 角田光代

2005-04-25 | 読書(~2005.09)
講談社・2005.3.1

◆床下の日常   水漏れの工事に出向いた先の陰気な主婦は、ぼくに昼食を用意してくれた。愚痴を言う彼女は、料理が上手だった。
◆観光旅行   恋人と別れる決心をした私は、旅行先のイタリアで母子喧嘩に巻き込まれた。激しくやりあう母子にうんざりするのだが・・・
◆飛行機と水族館   飛行機で隣り合わせに女性の泣きながらの告白が気になったぼくは、その後の彼女が気になって仕方がない。
◆テラスでお茶を   付き合っている男と別れて、中古マンションを購入しようとする女性。
◆人生ベストテン   40歳目前の独身の鳩子は、中学時代の同窓会に出席することにした。その頃付き合っていた岸田君に会うために・・・
◆貸し出しデート   夫との関係がギクシャクしていた私は、若い男と金を払ってデートする。

どこにでもありそうな日常を舞台に、さらりと男女の思いを絡めてある。それぞれの短編はどれも幸せとは程遠い話でありながら、それでいて決して落ち込むようなラストではない。特に30代の女性の不満や悩みが的を得ている気がするので、同世代の女性の支持は高そうだ。(05/04/25)


果てしなき渇き / 深町秋生

2005-04-22 | 読書(~2005.09)
宝島社・2005.2.10

元警部補の藤島のもとに別れた妻から電話が入った。1人娘の加奈子の行方がわからないという。藤島は以前一緒に暮らしたマンションに出向き、加奈子の部屋から覚せい剤を発見する。あの娘にいったい何があったのか・・・
三年前・・・瀬岡という少年は学校でいじめにあっていた。陰湿ないじめは暴力的になり、それでも誰も助けてくれない。そんな時、加奈子が手を差しのべてくれた。少年は加奈子に恋をした。
この二つのストーラーが交互に語られる。加奈子がどうしていなくなったのか、またどんな娘だったのか・・・
「このミステリーがすごい」大賞作品。

ハードボイルドの主人公といえば、影の多い人物ながらも、嫌悪感は抱かないのだが、藤島の人間性に許せない部分が多くて残念。家庭が崩壊するのも当然で、腹立たしささえ覚えてしまう。少年のストーリーも陰湿で救いようのないことばかりなので、途中で読むのを止めようとさえ思った。それでも最後まで読んだのは、加奈子という少女がどういう人物だったのかを知りたいと思わせる展開だったから。自分の中でも評価のつけがたい作品だった。(05/04/22)


かび / 山本甲士

2005-04-20 | 読書(~2005.09)
小学館・2003.6.20

友希江の夫は仕事の激務から脳卒中で倒れた。まだ30代だというのに、後遺症が残るかも知れないという。見舞いにきた上司から、やんわりと労災の申請を出さないようにと言われた。会社は穏便に処理したいのだ。友希江は一度は納得をしたが、その後会社が夫を切り捨て、退職させようとしていることに気づいた。夫の母や娘の幼稚園での人間関係にも不満を持っていた友希江は、一気にキレて、ひとり会社との戦いに挑んだ。会社からの相次ぐ嫌がらせにもめげずに、その先をいく常軌を逸した友希江の行動は、とどまるところを知らなかった。

息つく暇を与えないように畳み掛けるストーリー。ただのひとりの主婦でも、怒らせると怖い。
主婦がたったひとりで大企業を相手に戦うというのは小気味よいことなのだが、そこまでやるかという思いと、もっと暴れてしまえといういう気持ちを抱かせる。彼女の場合は、会社との戦いが夫を愛しているからではないので、それが根底にあれば読者はもっとスカッとしたかも知れない。(05/04/20)


最後の願い / 光原百合

2005-04-17 | 読書(~2005.09)
光文社・2005.2.25

劇団φを立ち上げるためにメンバーを集めていく度会恭平。脚本家や役者、美術担当者、運営事務員などに恭平と役者の風見が声をかける。
資金も何もないところからの出発だったが、ふたりはスカウトの過程で出会う数々の謎を、優れた洞察力と機転で解明し、信頼関係を築いたうえでスカウトを成功させていった。
「花をちぎれないほど・・・」「彼女の求めるものは・・・」「最後の言葉は・・・」
「風船が割れたとき・・・」「写真に写ったものは・・・」「彼が求めたものは・・・」「・・・そして、開幕」

前々から読んで見たかった作家の作品なので、わくわくしながら読了。スカウトされる人ごとに短編が成立している。ミステリーという程ではないのだがちょっとした謎を解明していくテンポが良く、登場人物が個性的なので面白かった。ラストになって劇団φが誕生するが、この先も楽しみなので、続編を希望する。(05/04/17)


とげ / 山本甲士

2005-04-15 | 読書(~2005.09)
小学館・2005.3.10

市役所の「市民相談室」に勤務する倉永晴之は、主査という役職で、上司はやる気がなく、部下には扱い憎い女子職員もいる。「市民相談室」にはあらゆる苦情が持ち込まれ、ストレスは溜まる一方だった。
ある日、倉永のもとに苦情ばかり言う名物おばさんから、公園でワニを見たという話が持ち込まれ、それを解決しようと倉永があちこちに相談するが、たらい回しにされるばかり・・・。そんな時、上司が詐欺罪で逮捕され、同じ公務員の妻が自動車事故を起こし、倉永自身も酔った市長から暴言をはかれ怪我までしてしまう。今までの不満が一気に爆発した倉永は事件を葬ろうとする上司たちに反発し、事実を訴えようとするが・・・

この作家は全く知らなかったのだが、読んでみて大正解! 私の好きなジャンルのストーリーでとても面白かった。最近、世間から批判の多いお役所仕事も、ここではつい笑ってしまう。だからこそ、主人公を応援したくなるし、方法には首をかしげる部分もあるが、起死回生のラストもユニークだ。他に作品もぜひ読んでみたいと思う。(05/04/15)


アイムソーリー、ママ / 桐野夏生

2005-04-12 | 読書(~2005.09)
集英社・2004.11.30

以前、養護施設で保育士をしていた美佐江は、園児だった稔と結婚した。25歳年下の稔とはそれなりにうまくやっていたが、ある日二人で焼肉を食べに出かけた店にいた中年のウエイトレスに見覚えがあった。それは施設にいた「アイ子」だった。思わず声を掛けた美佐江だったが、その夜放火事件の被害者となった。
アイ子は両親が誰かも分からず、娼婦の置屋で虐められながら育った。自分の思いを貫くために彼女が身につけたことは、とても恐ろしい身勝手な行動ばかりだった。人はどこまで邪悪になれるのか・・・

「グロテスク」「残虐記」に続く三部作ということで、興味深く読了。アイ子の生まれ育った境遇が、彼女をこうさせたのだろうが、なんと
も後味の悪い人生を選んだものだ。「他人の死は自分を自由にするってことがわかったのも、あの日だ。 他人の死は、ノートを真っ白に変える消しゴム。あたしは消しゴムの使い方がうまい。」この一文だけでゾッとした。(05/04/12)


しかたのない水 / 井上荒野

2005-04-10 | 読書(~2005.09)
新潮社・2005.1.25

フィットネスクラブを舞台に、そこに集まる人々の思いを綴った連作短編集。
◆手紙とカルピス   女性のもとを転々とする泳ぎの得意な男には、年に数回ある女性から手紙が届いていた。
◆オリビアと赤い花   3歳の女児の母親である私は、年齢よりもずっと若い体型を維持しながら、出会い系サイトで男を品定めしていた。
◆運動靴と処女小説   妻に反対されながらも会社を止めて古本屋を開いた男は、フィットネスクラブの受付の女性と親密な関係になった。
他に「サモワールの薔薇とオニオングラタン」「クランプトンと骨壷」「フラメンコと別の名前」

フィットネスクラブに通ったことはないけれど、そこでの人間関係というものは、家庭も家族も忘れて、その場だけで成り立つ社会なのだろうか。あくまでも自分ひとりだけの自分となったら、そこに不自然と思われる恋愛もどきの関係が生まれてしまうところなのだろうか。心身ともに健康になるためのフィットネスクラブを、読後に淀んだ場所に感じてしまった。(05/04/10)


逃亡くそたわけ / 絲山秋子

2005-04-08 | 読書(~2005.09)
中央公論新社・2005.2.25

花ちゃん(21歳)は躁状態。意味不明の幻聴に悩まされて精神病院に入院している。ある日、強すぎる薬や21歳の夏をこのまま過ごしてはいけないと恐れた花ちゃんは、鬱のなごやん(24歳)を誘って病院から逃亡した。
生まれも育ちも博多で、九州をこよなく愛している博多弁の花ちゃんと、実家は名古屋なのに、東京が一番と自負する標準語のなごやんは、なごやんの車でひたすら九州を南下して行く。途中で、幻聴が止んだり、死に対する考え方が変わったり、故郷への思いを確認したりしながら、・・・

花ちゃんやなごやんがなぜ精神を病んでしまったのかという詳しい説明はないものの、決して特別な人たちではないと感じながら読了。花ちゃんやなごやんの不安な気持ちの一部は、理解できる部分も多いから・・・
愛や欲望とは無縁の若い男女ふたりきりの逃亡劇は、互いに有益な旅になったことでしょう。(05/04/08)