のんびり主婦のPCライフ

黒柴「ころたん」の平凡な暮らしと、
散歩と読書の記録です。

晩鐘 上・下 / 乃南アサ

2003-07-25 | 読書(~2005.09)
双葉社・2003.5.20

「風紋」の続編。
母親を学校の教師に殺されてから7年の月日が流れた。高浜真裕子の父親は再婚し、姉は結婚して子供をもうけた。が、真裕子は今でも事件を風化できず、ますます心の傷は深くなっていた。その事件の犯人松永の妻だった香織は、二人の幼い子を長崎の実家に預け一人で東京で暮らし、かつての主婦の面影はない。実家に預けられた大輔と絵里は事実を知らないまま、香織が実の母親とは知らされないまま、小学5年と2年に成長していた。ある日、隣に住む従兄弟が暴行を受けて死亡した。その事件を担当した新聞記者の建部は、以前に真裕子の母の事件も担当していたことから、また香織と出会う。そして、被害者、加害者の家族がそれぞれが心に深い溝を残したままであることをリポートし、事件が関係者に与えた過酷な運命を再確認していく。

上下巻で1200ページを越す大長編だが、それを感じさせない流れだった。本編は殺人犯の息子である大輔が、小学5年生という年齢ながら中心的に描かれているが、なんともやりきれない。事実を知ることの辛さ、そして自分の未来への絶望。母を殺された真裕子よりも過酷ではないかと思ってしまう。さらに続編が期待できそうだ。(03/07/25)


繋がれた明日 / 真保裕一

2003-07-19 | 読書(~2005.09)
毎日新聞社・2003.5.30

中道隆太は19歳のときに、女友達をめぐって喧嘩をし、護身用に持っていたナイフで相手を殺した。その場にいた被害者の友達は隆太に不利な証言をしたため、5年~7年の刑を受けた。そして26歳になり仮釈放された隆太は、社会と向き合うことになった。自分の家族との関係、被害者に対する感情、隆太を取り巻く環境と人間関係は保護司の大室という初老の男性の助けを受けて動き出した。ところが、隆太の過去を中傷するビラが勤め先、自分のアパート、母と妹が住むアパート、妹の職場にばら撒かれた。隆太は憤慨して犯人を探そうとする。

ここ数年多発している少年犯罪を描いている。犯罪とはその1件1件に事情があるのだろうが、どちらが被害者になるか加害者になるか、ちょっとしたことで人生は大きく変わる。隆太もそのひとりだ。そして、その罪は、否応なく自分と自分の家族にふりかかる。加害者の更生、被害者の感情、どちらにも言い分がある。そして、立ち直りの過程には大室のような保護司が必要だ。自分の罪と向かい合うのは一人では辛すぎる。最近読んだ東野圭吾の「手紙」にも通じるこの小説は、若い世代にぜひ読んで欲しい。(03/07/19)


プルミン / 海月ルイ

2003-07-15 | 読書(~2005.09)
文藝春秋・2003.5.15

ある日の公園で、小学1年生の男の子たちが遊んでいるところに、乳酸飲料「プルミン」のセールスレディーがやってきた。子供たちにプルミンを分けて飲ませてくれた。が、その夜、雅彦という男の子が家で苦しみだして死亡する。そばにはプルミンの容器が落ちていた。雅彦は他の子供たちをいじめていた。母親も抗議にいっさい応じようとしなかった。当然のように、いじめられた子の親が疑われる。そうこうするうちに、いじめられた子の親も殺人事件の被害者となる。プルミンレディーに扮したのは誰か? 何の目的で子供や親を殺したのか?

狭い地域での子供を通じての親子関係は、少なからず誹謗、中傷があるのだろうが、親も冷静にならないと、悪循環を繰り返すばかり。ここに登場する4人の子供のそれぞれの母親のそれぞれの思いをもっと知りたいと思った。それに、直接事件には関係ないけれど、PTAの部長の家族が気にかかる。その家族の行く末がどうなったか? 書いて欲しかった。(03/07/15)


葬列 / 小川勝巳

2003-07-09 | 読書(~2005.09)
角川書店・2000.5.10

自分のために障害を負ってしまった夫と暮らし、ラブホテルに勤める明日美の前に、かつての知人しのぶが「一緒に現金輸送車を襲って金を手に入れよう」としつこく持ちかけてきた。偶然に出会った渚という若い女も、心に深い傷を負っていた。組の事務所で働く史郎は、妻と別れ一人娘を育てている。ヤクザらしくない史郎だったが、抗争に巻き込まれ、娘を奪われ、仲間に裏切られて復讐を誓う。その3人の女と1人の男が出会い、それぞれに違う目的ではありながら、ひとつの事件に嵌っていく。坂道を転がるように4人の人生は動き出した。第20回 横溝正史賞受賞作。

とてもスピード感があり面白かった。明日美の生活スタイル、精神状態などは「OUT」に共通するものがあるかな、と思ったが、こちらの方がヤクザがらみの銃撃戦なので激しいかも知れない。一つの判断、ひとつのミスがその人の一生を思わぬ方向に進めてしまうという、そんな言いようの無い気持ちになった。(03/07/09)


アンクルトムズ・ケビンの幽霊 / 池永 陽

2003-07-05 | 読書(~2005.09)
角川書店・2003.5.5

小さな町の鋳物工場に勤める西原は、社長からある仕事を任命される。それは、工場で働くチャヤンたち3人のタイ人を解雇したいので、入国管理局に連絡し不法就労を密告することだった。チャヤンの友達フウコは朝鮮人だが、自分の生き方を貫いていて、西原は刺激を受けた。そんな西原も家庭では妻との間に溝ができ、一人息子も自分の夢を追って家を出るという悩みを抱えていた。そして、かつて西原が育った炭鉱の町での忘れられない思い出が、今も彼の心に深い傷を残していた。

人種問題は考えさせられることも多く、私には重いテーマとなった。登場人物それぞれの苦悩は理解できるけれど、所詮、普通の日本人として生まれ育った私などには、計り知れないものがあるわけで・・・ フウコの逞しさ、チャヤンの貪欲な生き方に比べ、日本人西原は甘い。それが日本人だから? それが日本人なのか? ○○人というくくり方だけでは済まされないけれど・・・(03/07/05)