のんびり主婦のPCライフ

黒柴「ころたん」の平凡な暮らしと、
散歩と読書の記録です。

明日の記憶 / 荻原 浩

2004-11-26 | 読書(~2005.09)
光文社・2004.10.25

佐伯は広告代理店の部長。50歳。家族は妻ともうすぐ結婚し子供が生まれる一人娘がいる。最近、どうも物忘れが激しく、倦怠感や不眠の症状が出ていた。仕事が忙しいのが原因かとは思っていたが、うつ病かも知れないと精神科を受診した。そこで医師が告げた病名は「若年性アルツハイマー」だった。まだ50歳であり、娘の結婚が間近だ。遣り残した仕事もある。すでに自分以外に身寄りのなくなった妻も心配だ。佐伯は、だんだんと記憶を失っていくという恐怖におののきながら、毎日メモをとり、日記をつけて、忘れないように気を配っていた。妻も努力を欠かさず、よかれと思うことはすべて実行し、夫を励まし続けた。それでも佐伯の病状は進んでいく。ついに仕事でミスをし、上司に病名も知れて退職を余儀なくされ、日常生活でも次々と失態をおかしてしまう。自分はこの先、どうなっていくのだろう…どうやって生きていったらいいのだろう…

主人公とほぼ同年齢の私には、この本はとても切ない。まるで自分が同じ立場に置かれたような、そんな悲壮感が漂う中で一気に読んだ。
主人公がだんだんと記憶を失っていく過程には、胸が締め付けられた。さっき聞いたことを忘れる。よく知っている道なのに、どこにいるのか解からなくなる。お茶の入れ方も思い出せない。娘の顔は・・・ 妻の顔は・・・ 
恐怖心から作り始めたメモでポケットはいっぱいになり、日記の文字からだんだん漢字が消えていく。文節の終わりの部分ごとに目が潤み、ラストでは泣かされた。(04/11/26)


FLY / 新野剛志

2004-11-22 | 読書(~2005.09)
文藝春秋・2004.8.10

1985年夏、高校生の向井広幸は公園にテントを張っている男と知り合う。何度か言葉を交わす間柄になったが、その男が指名手配中であることを知り、警察に通報した。結局男は逃げたが、向井に裏切られたと激しい憎悪を抱き、向井の目の前で恋人佳奈を殺害して逃亡した。それから15年、向井は精神を患いながらも、復讐のために男を捜し続ける。
木下千恵理は父親から暴力を受けていた。この生活から抜け出し、歌手になって人生を変えようと、そのために努力を惜しまなかった。そして、見事に願いは叶う。
1997年藤代俊介は、アルバイトをしながら癌で余命の少ない父親の介護もしている。バイト先で知り合った祥子とも仲が良かったが、その祥子を付けまわす男が現れた。それは向井だった。俊介ははじめは祥子を守るために向井と対峙するが、向井を知れば知るほど、彼の生き方に興味を深めていく。

重要な登場人物が多く、それぞれに胸が痛くなるような生い立ちを背負っているので、気分は重いのだが、どんどん先が読みたくなる本だった。15年に及ぶ消えることのない復讐心。人はどこまでその苛酷な強い思いを持ち続けられるのかと、興味深く読んだ。(04/11/22)




リピート / 乾くるみ

2004-11-18 | 読書(~2005.09)
文藝春秋・2004.10.25

卒論の仕上げに苦労していた毛利に一本の電話が入った。それは知らない男で、地震の震源と震度を教えられる。そして地震は本当に起こった。なぜ予知が出来たのか不思議だったが、その男は過去を知っているのだという。半信半疑のまま集められた8人に、風間と名乗るその男に、現在の記憶を持ったまま、10か月前の自分に戻るというタイムスリップをしないかと誘われる。10か月戻れたら、そこからの人生をもっとうまく生きられる。競馬も当てるし、恋人にも振られない。毛利はその誘いに乗った。そして10か月前の自分に戻ったが、一緒にリピートしてきた仲間が、次々と事故や事件で死亡してしまう。いったい彼らに何があったのか・・・ なぜ自分たちがリピーターに選ばれたのか・・・ 自分の未来は本当に変えられるのか・・・

タイムスリップものにしては、10か月というのは短いとは思うが、「もしもそこから人生をやり直せたら」という期待感は、きっと誰もが感じたことがあるはず。でも、本当にそんなことができたとしても、幸せにはなれないのだろう。無理矢理運命を変えても、またその次にある運命は変えられない。時間の流れにも逆らえない。タイムスリップ物は大好きだけれど、後味はよくなかった。(04/11/18)


となりの用心棒 / 池永 陽

2004-11-15 | 読書(~2005.09)
角川書店・2004.9.20

沖縄で生まれ育った勇作は祖父に育てられ、空手を教わった。その後アメリカへ渡り、さまざまな格闘家と腕を競い合うという生活を送っていた。そこで、どうしても許せない男に祖父から教えられた「三年殺し」の技をかけた。それは三年経つと死を迎えると危険な技だった。
勇作は日本に戻り、しっかり者の夏子という女性と結婚することにするが、気づけばいつのまにか婿養子になっていて、夏子の自宅を改装し、空手道場を開くことに・・・ そこは商店街の真ん中にあり、常に賑わう場所だった。みんなは強い巨漢の勇作を頼りにし、町の用心棒になってもらおうと考えていた。
勇作は空手は強いが根は優しい男。未亡人の喫茶店のママに言い寄られて戸惑い、アメリカで技をかけた相手がどうなっているのか常に気にしていた。

強さと優しさをかね揃えた男のユーモアヒーロー物語で、最後まで安心して読めた。強い道場やぶりも、やくざとの対決も勝利は目に見えている。そんな強い勇作が、女性を相手にすれば、その強さとは反対にやりこめられてしまうというギャップも面白い。そしてさらに面白いのが、商店街の人たち。細かい人物設定は、いかにもありえそうなので、なんだか懐かしい感じがした。(04/11/15)


真夜中の神話 / 真保裕一

2004-11-12 | 読書(~2005.09)
文藝春秋・2004.9.15

大学研究員として仕事に熱中する晃子は、夫と娘を交通事故で亡くしたのは自分のせいと思い続ける。その後、アニマルセラピーという分野に目を向けるが、インドネシアに調査に向かう途中で飛行機が墜落。死んでもいいと思っていたのに、気がつくと村人に助けられ治療を受けていた。それは少女の奇跡の歌声が、命を救うという信じられないような出来事だった。一方で、その村は吸血鬼伝説が伝わる場所であり、チャイナタウンで起きた殺人事件を発端にして、少女に危険が迫っていた。晃子は少女を助けようと再び山へ向かった。

この本は、たぶん賛否両論、意見が分かれるところ。現実味がない話でも、興味があるかないか、好きな分野か否かで評価はガラリと変わりそう。私は、申し訳ないけれど、真保さんの小説の中ではいまひとつ。不思議な奇跡の歌声とアニマルセラピーが、私のなかで最後まで結びつけられなかったこと、晃子に共感できなかったことが原因かも知れない。(04/11/12)


別れの後の静かな午後 / 大崎善生

2004-11-09 | 読書(~2005.09)
中央公論新社・2004.10.25

◆サッポロの光  冬季オリンピックで賑わう札幌の町と、中学時代の友人との思い出を回想する僕。その後音信不通だったその友人の近況を偶然に知るが・・・
◆球運、北へ  無気力な生活をしながらパチンコに明け暮れる大学生時代の僕。恋人がいたが、パチンコの魔力にはまってしまう。借金のあげく体を壊して僕は故郷に連れ戻される。
◆別れの後の静かな午後  居心地のいい恋人との時間。しかし、結婚を考える彼女との少しの亀裂が、別れに繋がってしまった。海外赴任を終えて戻ってきた僕は、別れた後の彼女の生活を知るが・・・
他に「空っぽのバケツ」「ディスカスの記憶」「悲しまない時計」

孤独な男女の出会いと別れ。大崎さんらしい綺麗な文章が、もう私の実生活では体験できそうもない世界へ連れていってくれた。しかし、6編とも短いし、前作の「孤独か、それに等しいもの」のような思わず何かを考えさせられるような短編集ではなかったので、少し物足りなさが残ってしまった。(04/11/09)


砂漠の船 / 篠田節子

2004-11-07 | 読書(~2005.09)
双葉社・2004.10.20

雪深い田舎の農村で育った幹郎の両親は冬場は出稼ぎに行っていた。寂しい思いをしながら大人になり、その体験を省みて、自分は地域に根付いた生活をし、常に家族と一緒に生きたいと願っていた。そのため、転勤も断り、会社の上司には目をつけられながらも、都内のニュータウンで平凡な日々を過ごしていた。
妻も仕事を持ち、一人娘も特に問題はないという安定した生活。しかし、娘の成長に伴い、だんだんと溝が出来ていた。そして、ニュータウンの近くで浮浪者が事故死した事件で、娘が関与していたことを知り、それは本格的な親子の断絶、夫婦の溝、家庭の崩壊へと幹郎の安定した日々は別の方向へ進んでしまう。

主人公が「自分が感じた辛い思いを味わわせたくない」と感じ、自分の未来を開いていくのは誰しもが思うところ。しかし、幹郎はそれだけに固執してしまったことに気づかなかった。家族の息が詰まったことに気づかなかった。そこが問題だったのだろうが、これは私にも当てはまる部分が多い。もっと柔軟性を持って、臨機応変に・・・。難しいことだけれど・・・。(04/11/07)


ワーキングガール・ウォーズ / 柴田よしき

2004-11-03 | 読書(~2005.09)
新潮社・2004.10.20

大手総合音楽企業の中間管理職である墨田翔子は、37歳で独身。都内にマンションを購入し、バリバリと働くが、恋人はいないし、後輩からは煙たがられている。有能な新人の女子社員が何者かに陥れられていることは気になるが、心身ともに疲れきっていた。ある日、翔子は偶然に立ち寄った旅行代理店でケアンズを知ったことから、休暇を利用してペリカンを見るために旅行に行くことにする。ケアンズでは、現地採用の旅行社で嵯峨野愛美が働いていた。翔子とMLで知り合い、何かと相談にのってはいたが、単なる一旅行者は面倒なだけ・・・。ツアー客として翔子がやって来るが、もう1人一人旅の女性大泉嶺奈がいた。彼女の行動に危険を感じた愛美は翔子に見張りを頼むが・・・。

人は、自分にないものには興味がある。独身でバリバリの都会のキャリアウーマン、都心のマンション、企画部での仕事は高収入。私には味わうことのできなかった憧れのそんな生活。しかし、不安も悩みもあるのだから、これでいいという満足感は、どちらにしても得られないのでしょう。一応、ミステリー色もあるのだが、気楽に読める楽しい本だった。(04/11/03)