憔悴報告

All about 映画関係、妄想関係、日々の出来事。

2006年上半期ベスト10(~7月)

2006年08月07日 | セレクション
1 『ミュンヘン』スティーブン・スピルバーグ
2 『ラストデイズ』ガス・ヴァン・サント
3 『アンダーワールド:エボリューション』レン・ワイズマン
4 『ヒストリー・オブ・バイオレンス』デヴィッド・クローネンバーグ
5 『シリアナ』スティーブン・ギャガン
6 『輪廻』清水崇
7 『ジャーヘッド』サム・メンデス
8 『スカイ・ハイ』マイク・ミッチェル
9 『インサイド・マン』スパイク・リー
10 『花よりもなほ』是枝裕和


どれほど苦心して時の流れを分断・変更しようとも、変更された結果が新たな時の流れを獲得し、最終的にある1つの絶対的な時の流れの中で映画は動作する。
そこで語られる物語がどんなものであれ、このことを無視した途端に映画が映画である意義は消失し、話がちょっとおもしろいだけのつまらない映画が観る者の前に出現してしまうというのは、考えてみればかなりシビアなことではないだろうか(『デスノート』に決定的に不足しているのはつまりそういうことだろう)。
『ミュンヘン』における唯一の「回想」は、その回想の在り方自体が上述したような問題を孕んでいて、なおかつ(何よりもこれが重要なのだが)その原理に従って物語が構成され、さらに「物語」と「映画」がケンカしてしまうという危険な事態すらも考慮に入れた上で作品が組まれている。
映画における回想(という物語技法)は、少なくともそのくらいの繊細さによって計画され、用いられねばならない・・・はずであったが、「そんなのどうでもいいじゃん」というノリで無様につまらない映画が量産されている今日この頃。
だいたい、「説明」というのは出来事が分かりにくくつまらない状況において需要が発生するものであるから、そのようなときに必要とされるべきなのは「説明の追加」ではなく「説明の必要のない出来事」を一から再構成することではないのか。
にも関わらず、「説明がないから分からない。説明しろ」という馬鹿げたいちゃもんによって、ますます映画はつまらなくなっていくのである。
「語りの経済性」や「語りの経済性を度外視した出来事の壮絶さ」といったものはどこへ行ってしまったのだろうか。

おれが悲しくなるのは、ふと、世の人々はもう「おもしろい映画」など望んでいないのではないかという考えが頭の中を埋め尽くすときである。
それが望みならそれもいいだろう、という気持ちもあり、しかし本当にそれでいいのか、という気持ちもある。
2006年の半年間は、そんな状況だったと言っていい。
考えようによっては、こういうことは今までと何ら変わりない。
「流行のテーマ」にのっとった作品がもてはやされ、そのテーマをどのように消化しているかという問題はどこかへ吹き飛んでしまう。
戦争やらテロやら、そういうのは「流行のテーマ」というだけだ。
商業映画において、そのようなテーマに沿った作品が量産されるのはごく当たり前のことであり、別に高尚なことでもなければ、あらたまって喜ぶようなことでもない。
だいたい、おれが「最近、映画がつまらない」と感じたとしても、それは「最近おれが観た映画がつまらない」というだけのことで、いつものように本当におもしろい映画はひっそりと上映され、限られた人々としか接点を持たないものだろう。
が、そうでないものももちろんある。
それを救いととるか、それもまたいつものことだとあっさり流してしまうのか、という態度の違いはあるが。

劇場で鑑賞できなかった『ロード・オブ・ドッグタウン』『スカイ・ハイ』『SPL 狼よ静かに死ね』を立て続けに観て(すべておもしろかった)、その世界観にハッとなった。
別にたいしたことではない。
ただ、この3本に共通して「どうにもならないこと」がそのおもしろさの中核に位置しているというだけのことである。
そんなのは、昔からずーっとそうだ。
ただ、最近あまりそういう映画を観ていないせいか、ちょっと忘れかけていただけなのだ。

嫌なことに、「どうにもならないこと」を「早急にどうにかしなければならない」という風潮にはますます拍車がかかっている。
そうして講じられた「早急な対処」によって、また新たな悲劇などんどんどんどんと連鎖していくのだろう。
きっと、これからもそうだろう。
で、映画はそのことに反抗し続けるのだろう。
結局何も変わらないということか。
ただ、映画はおもしろい。
おもしろいことがいけないのか?
それが、映画の(というより娯楽の)壮大なテーマである(とおれは思っている)。
それを意識的に取り入れた作家が必ずしもおもしろい映画を作るというわけではないところがまたおもしろい。

かなり長く書いてしまったが、選出した各作品についてもコメントしておく。
特に印象に残っているのは『シリアナ』の反ドラマ的なおもしろさで、これを支持するかしないかというのはかなり微妙な問題だと思う。
別に社会派的な意味で褒めているわけではない。
これは、新種のモンスター映画なのだ。
「姿の見えない怪物」を扱った映画、各登場人物の思惑をはるかに凌駕したところで育てられ、止められなくなってしまった怪物が暴れまくり、人々が右往左往するという映画である。
そして、当たり前だがその怪物は目に見えず、どこに存在しているのかも分からない
というより、どこにも存在していないし、どこにでも存在している。
こういうことを映画という視覚のメディアで扱っていることが危ういのだが、おれはおおいに支持する。
また、もうひとつの反ドラマ映画『ラストデイズ』における視覚/聴覚的興奮は他の追随を許さないレベル。
同じような題材の『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』とはちょっと格が違った。
『ラストデイズ』がすごいのは、どこまでも陰鬱な題材を途方もなくあけっぴろげに表現してしまっているところ。
なにせ、ラストなんて「魂出てる~!」というノリである。
しかもさらに「魂、ハシゴ昇ってる~!」なのだ。
「暗いことを暗いとしか感じられない人間はダメである」と諭されたようでもあり、おれもこんなんじゃいけない!と気持ちを入れ替えずにはいられなかった。
『アンダーワールド:エボリューション』を世界一高く評価しているのはおれかも・・・と思いつつ(まあ無茶ですが)、やっぱりこの映画は相当おもしろかった。
なんだろ?
あまりに無節操で逆に良かったのかな?ていうくらいしか意見が浮かばない。
DVDが出たらまた観てみます。
『ヒストリー・オブ・バイオレンス』は、今までのクローネンバーグ的趣向から最も遠いところで新たなクローネンバーグ節のスタンダードを創造してしまったような映画。
「どれが現実か分からない」という問いから始まり、「どれも現実だ」という結論で幕を閉じる。
その過程がすさまじくおもしろい。
『輪廻』もまた、清水崇の本質が分かりやすく(分かりやすすぎるくらいに)見てとれた映画だった。
本音を言えば、この人の映画はこんなに豪華に作る必要がないと思うのだけど、今回は「人形」と「ホテル」が絶対に必要だったので、そこんとこをちゃんとしていたのが良かったかも。
『ジャーヘッド』は、思えば役者が一番良かった映画かも。
脂が乗ってる俳優が総出で、しかも変に力んだ作風ではないので余計に良かった。

『スカイ・ハイ』は観たばかりだが、これは素直におもしろい。
なんとディズニー映画で、内容ももろディズニー映画(なんだこの説明)。
レビューを書いてないし書くつもりもないのでちょっと長く触れると、こんなに進行の早い映画なのにこんなに味わいがあるのも珍しいなあと。
『Mr.インクレディブル』だの『スパイキッズ』だの『X-MEN』だのを連想させる・・・というよりそのまんまなのに、コメディタッチの中で実に巧妙にシーンが展開していくので「ダルい・うっとおしい・説教くさい」というダメ映画3原則を完璧にクリアーしている。
例えば入学式(でもないけど)のシーンは、無人の体育館に入るなり校長が飛んできて(ヒーローですから)、校長のありがたいお話が終わるとさっさと飛んで帰るし(ヒーローですから)、しかもその「飛んで帰る」というシーンにおいてもうブルース・キャンベル先生が試験の準備を整えて待っていることが同時に描かれるのだ(ヒーローだからね)。
なんという聡明なシーン構成か。
ちょっとした「目から鱗」である。
脇役にいたるまでのキャラクター造詣・配置が本当に素晴らしくて、本年度最優秀キャラクター賞ものかも
要するに『ヘルボーイ』とか好きな人は必見。

『インサイド・マン』と『花よりもなお』はなんか数合わせみたいなノリで選んじゃったが(いやどっちももちろんおもしろいんですけど)、ある意味『インサイド・マン』ってすげー能天気な映画。
だって、本当に深刻さの欠片もないっつーか、真面目な映画なんだけど全体的になんかノリノリ
スパイク・リーもそうだろうし、出てる人もみんな楽しそう。
『花よりもなお』も(長いけど)やっぱ観てておもしろい。
映画を構成している全要素が標準以上に活かされていて、何かひとつに還元できる感じではないというか。
他に、『ウォーク・ザ・ライン』『ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!』『ブロークバック・マウンテン』『アメリカ、家族のいる風景』『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』『M:i:Ⅲ』なんかもよかった。
これらは9、10位と入れ替え可。
ベスト10についてはそんなもんです。

さて今後の映画を見渡せば、ハッキリ言って今回選んだもので年間ベストクラスなのは半分もないと思う。
もう『グエムル』とか『LOFT』とか『レディ・イン・ザ・ウォーター』とか『マイアミ・バイス』とか『父親たちの星条旗』とか、そういう映画のうち過半数がベスト10入りするのは(ポカってない限り)確実かと。
『ユナイテッド93』とか『マッチ・ポイント』とかもあるし、『うつせみ』やら『時をかける少女』やら上半期に映画館で観られなかったものにもあからさまに傑作っぽいのが多いし。
あと、話の流れとまったく関係ないけど『ゲド戦記』と比較すべきは『ナウシカ』でも『ラピュタ』でも『カリ城』でもましてや『ハウル』でもなく、テレンス・マリックの『ニュー・ワールド』です。
あれはそういう映画ですから。
で、そういう意味で『ニュー・ワールド』の方が遥かにおもしろいので『ゲド戦記』はダメ、ということです。
いや、けっこう重要だと思うんですよね、『ニュー・ワールド』も『ゲド戦記』も。
それと、おれはジョン・ラセターの『カーズ』より『ハービー 機械じかけのキューピッド』の方が全然好きでした。
オカルト・カーがなぜかリンジー・ローハンに一目惚れするその理由が「スケボーしてたから」というのはなかなか。
車輪愛ということですね。


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7 コメント

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ドラゴン北村 (taka)
2006-08-07 19:53:12
「スカイ・ハイ」に関して

初めてそのタイトルを聞いたので

今から探してきます。



「マイアミ・バイス」予告編かっこいいですよね。

アメリカで不評らしいですけどそんなことは気にしない。
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ドラゴン? (ryodda)
2006-08-08 20:59:55
ああ、龍平ですか。笑

龍平の『スカイハイ』じゃないっすよ、というのは野暮なツッコミです。

『スカイ・ハイ』はまあお子さま映画ですけど、バカっぷりも含めて楽しいです。

カート・ラッセルがバカ親父です。
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最初、“龍ちゃん”にしようかとか(笑) (taka)
2006-08-17 17:16:59
『・』分が違うんですね。

カート・ラッセルは

未だに『バック・ドラフト』の

イメージしかないんですけど

何か最近も『ミラクル』とかいう

ホッケー物が出ていた気もします。

地道に頑張ってる感じですね。



最近『グエムル』けっこうCM出てますね。

もしかして大ヒットするでしょうか?
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カート・ラッセル (ryodda)
2006-08-21 13:45:04
と言ったらスネーク・プリスケンですよ!というのはマニアックな意見でしょうか?笑

ご覧になってなければ、『ニューヨーク1997』と『エスケープ・フロム・LA』をお勧めしておきます。

特に『エスケープ~』はすばらしいと思うので・・・。



『グエムル』についてはこれから記事書きます。
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スネーク・プリスケンって誰?誰? (taka)
2006-08-25 04:22:13
っと思ったら「ニューヨーク1997」シリーズの

主人公なのですか。



見てないです。見ときます。



シリーズもののくせにタイトルに統一性がないのは、

そこも褒めるべき箇所ですか?実は。



「ロサンゼルス2015」の方が

シリーズだってわかりやすかったろうに。

うーん、でもありきたり過ぎて

逆にわからないですかね…。
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Unknown (taka)
2006-08-25 04:23:35
あ、2013年でしたか。
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Unknown (ryodda)
2006-08-25 15:06:48
タイトルに統一性がないのは、日本語タイトルのせいです。

原題は、『Escape from NY』『Escape from LA』なので。

1作目の受けが悪かったものの2作目を、続編ものだと分からないようにするというのは、日本の映画業界ではよくあります。

『攻殻機動隊』の続編が『イノセンス』みたいな。
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