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記情報公開されないTPP―TPP加盟問題(2)

2011年02月15日 | 政治・時事
情報公開されないTPP―TPP加盟問題(2)

2月8日、前原外務大臣の定例記者会見で、フリージャーナリスト岩上安身さんが、TPPが本当に必要なのか、その正当性について質問しました。

*外務省ホームページ、外相記者会見を参照http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/kaiken/gaisho/g_1102.html#3-D

これまで、TPP推進派の閣僚たちは、菅総理が「第三の開国」と位置づけたTPP(環太平洋パートナーシップ協定→実態的には“地域限定戦略的自由貿易協定”)を自由貿易体制の強化、拡大・拡充していく上で加盟しなければならない協定と説明してきました。
たとえば江田法相は、今日の記者会見で「世界のイニシアティブを取ることを求められている日本にとって、TPP加盟は、ひとつの手段に過ぎない」と大局的見地からの必要性を説き、一方でTPPを矮小化するような発言をしました。そこに具体性はなく、さらにTPPは「国を開き、日本社会を国際化するために必要な協定である」とも言っています。
すべての閣僚の会見を聞いたわけではありませんが、推進派(内閣は推進派一色。そのための内閣改造でもあった)は、江田さんの発言と同様なもので総論的抽象論にとどまり、参加の意義を肯定するだけの論拠に留まっています。

このことは、前原外相の岩上さんの質問に対する答えで明らかにされます。
「情報がしっかりと開示されない状況においては、その制度を変える、あるいは可能性があるということについて、極度にお化けのように大きくなっている部分があるのではないかと思っております」
このようにTPP加盟反対する人たちには、情報の少なさから疑心暗鬼に陥っている状況にあり、情報公開の必要性を認めています。
「その中にあってどういう整合性をお互い規制緩和の中で取っていくのかという議論が行われるわけであって、そこの情報収集をまさに我々外務省が中心となって行っていて、正確な情報に基づいて議論をする環境を我々としてはしっかり整えていきたいと思っております。情報がないから恐怖感が広がる」
このように、情報公開の必要性が、正しいTPPの理解に繋がると再度強調し、頼もしい限りですが、さらに岩上さんは、次のように質問しました。
「お話の中に、情報を収集してということですけれども、現時点で収集は終わって分析判断が終わっているのではなく、まだ大臣ご自身も外務省も政府も十分な情報を収集し終えてないということなのか、その点を確認でお尋ねさせていただきます」

岩上さんの「確認でお尋ねさせていただきます」というところが、重要なポイントです。岩上さんは、TPP問題に取り組むのも早く、かなりのスピードと多彩な取材を重ね、取材の状況をUstreamでノーカット放映(ダダ漏れ)しています。この段階で、各省庁の情報集中と解析は終わっておらず、ようやく取り組み始めたような感が否めなく、菅総理と内閣の見切り発車であることを視聴者に伝えています。

前原外相は、こう答えます。TPP参加9カ国と月1回程度の協議があると認め
「結論から申し上げれば、我々は参加を表明していないにもかかわらず、友好各国の協力の下で、相当程度の情報収集はできていると考えております。ただ、国会でも答弁をさせていただきましたとおり、まだ固まっていないものについて、情報公開、情報開示をするわけにはいきません。特に入ると決めていない国が、今まだ固まっていなくて、9か国でこんな議論をしていますよということを第三者が情報開示をするわけにはいかない。しかし、こういう議論、途中経過も含めて、9か国は相当程度日本には情報提供をしてくれているということであります。
我々としては、参加表明もしていないし、まだ固まっていないものについて、国会や国民に情報開示をするわけにはいかないということで、出せる情報のみを、今、お出しをしているという状況でございます」

つまり情報公開の重要性を認め、公開を約束しながらも、協議の過程での情報公開はできない。ということです。菅総理は6月に参加するかどうか決める。と強い口調で表明しています。6月に方向性を決定しなければいけない理由は、国内の政治日程や状況もありますが、どうもアメリカ側のTPP加盟への日程につき合っているらしい。とういうか現段階では、詳細に書くに至っていませんが、アメリカの強い日程的な要望があるようです。
菅総理は、「このチャンスを逃しては、日本は国際社会から取り残される」とまで言って、早急にことを進めていますが、この早急さが、情報収集に拍車をかけ、混乱させ、一方で前原外相が、もっともらしく説明する、「情報公開の重要性を認めながらも、協議の途中での開示はない」という何とも苦しい言い訳のような、二律背反的な自己矛盾に陥っているように感じます。
(前原さんは、まるで自身の特性のように二律背反的自己矛盾に年中陥っています)

情報が開示されていないのは、国民だけではありません。民主党内でも議論されたふうはなく、
多くの議員が、狐につままれた表情で「何も聞いていない」と困惑し、民主党議員のほぼ半数以上が、TPP参加に慎重な構えをみせ、その中の70~80人は、強い調子で慎重でなければならないと明確に態度を表しています。
「TPPを慎重に考える会」が民主党内で生まれ、近いうちに議連化しますが、参加者は180名に上り、(政務三役は議連に入れないことを考えると、たぶん200名を超える議員が慎重であるべきだと推察できる)会議の様子から(岩上さんのダダ漏れ放映から)、「慎重」という言葉を使っていますが、「反対」と受け取れる議論をしています。

つまりTPPの詳細は、関連省庁の一部と内閣と菅総理を取り巻く一部の議員という、ごく限られた範囲でしか、語られていないと推察できます。

“地域限定的な自由貿易協定が、限定的な人たちの間で、情報公開されることなく進められ、国民は判断に不自由している”

という現実を、私たちはどう考えるべきか。

こうした中で、TPP加盟に慎重な議員からは、推進派議員と異なり、専門家のレクチュアーや自ら調査した内容から、具体的に語ります。
共通するのは、推進派とメディアで集中的に取り上げているように、TPPは農業だけの問題ではないこと。
農業問題もさることながら、24の分野で必ずしも日本の国益とは遠い変革が、TPPに加盟することによって生まれる可能性が高いこと。

いくつか、これまで聞いたことをいくつか書きましょう。
◇国民皆保険制度が崩壊する。
アメリカは、自国医療保険会社と株式会社化した医療機関の参入を要求しています。これが実現すれば、高度の高額医療化は推進するが、ごく富裕層に留まり、富裕層が国民皆保険から離脱することで、相互扶助的な国民皆保険は崩壊し、日本の医療機関の崩壊と再編成が現出し、利益追従だけの株式会社化する医療機関と保健機関に変わり、低所得者層は、段階化される保険料に見合った段階化した医療しか受けられなくなり、医療の均等が崩れ、医療の格差が起る。
アメリカのように国民の40%が医療保険に入れないような状況が、日本で生まれる可能性がある。(日本医師会はTPP反対表明)

◇牛丼が50円で食べられるようになる。
食料品の関税完全撤廃が行われれば、安い食材が大量に輸入され、食品の低価格化が現出するが、それに加えてに低価格となるのは人件費です。TPPは、労働力の移動も緩和される。結果、たとえばTPP参加を表明しているベトナムからおよそ月収1万5千円の労働力が、提供され、牛丼は安くなるが、日本人の雇用機会が失われ、さらなる失業率の増大が生まれる。
こうした状況が、各産業で起こりさらにデフレを増長させる。
住宅ローンを抱えている方は、ローンを払えなくなることは必至の状態になる可能性がありますね。
マレーシアがTPP参加に踏み切らなかったのは、雇用の面で丸裸にされることに危機を感じたからです。

◇アメリカの弁護士に依頼することができるようになる。
アメリカには、弁護士が多数存在し、なかなか食えない弁護士がアメリカの弁護士資格で日本へ参入することができるようになる。しかし、日本の弁護士は米国基準を満たしている訳でないから日本の弁護士資格で米国に進出することが出来ない。
これは、弁護士業界のみならず医療など各方面で実施される。サムライ(士)業の全てにカウボーイ(アメリカの士業)が席巻することになる。


ひとつひとつ相手国と取り決めを行えばよいではないか。それがTPPでは可能であるし、それほどの混乱が起らないだろう。むしろさらなる自由化は、日本にチャンスを拡げる。と推進者は軒並み言いますが、TPPの原則は、加盟国間の関税の完全放棄と自由化障壁になる規制撤廃にあります。日本に輸出、参入したい国が、容易に日本の主張を呑むとは思えません。
さらに、TPPには、『ネガ方式』というものがあります。
これはほとんど報道されていません。それほど重要なことです。日本のメディアは重要なことほど報道しない習性があるから要注意です。
(エジプトの民主化デモと、小沢さんの元秘書の公判で明らかになった検察の無理筋捜査の実態が、大相撲の八百長問題で、消されてしまった)

『ネガ方式』というのは、“加盟国間で規定されなかったことは、すべて自由”という“裸になる”ということです。

つまり、取り決めに至らなかったものは、“完全に自由”になってしまうのです。

情報公開の重要性を認めながらも、公開せず進められているTPP加盟。今の状況で事が進めば加盟する可能性が高い。
私たちも、状況を見守っているような呑気を構えているわけにいかなくなりました。大人しく見守っているうちに、事は着々と水面下で進んでいくのです。
後の祭りということになりかねないし、現状ではその可能性が高いですね。