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『第三の開国』は、第二のポツダム宣言受諾~TPP加盟問題(1)

2011年02月05日 | 政治・時事
『第三の開国』は、第二のポツダム宣言受諾~TPP加盟問題

昨年の秋に突如として表面化した「TPP=環太平洋パートナーシップ協定への加盟」について大手メディアは、痛みを伴うが、加盟すればバラ色の未来が待っているかのような論調で書いています。加盟の方向を打ち出した菅総理は、TPP加入は、自由貿易の行きつく場所であり、アジア、太平洋諸国との完全自由化貿易を通じた友好エリアが構築され、国内においては、さらなる産業発展と強い農業を生み出し、大幅な雇用に繋がると主張。TPPへの加盟こそ、明治維新の第一の開国、第二次世界大戦で敗れた後の第二の開国に継ぐ、『第三の開国』と位置づけ、横浜APEC、ダボス会議という国際舞台で加盟への意欲を表しました。

しかし、実際どうなんだろう……それほど素晴らしい協定なのか?という疑問符ばかりついてどうもしっくりきません。ツイッターで、ここでも僕なりの反論みたいなものを書いてきましたが、反論するにもそれほど理解しているわけではなく、そこで菅総理ではないけれど、経済に“疎い”僕は、自分なりに調べてみることにしました。調べるといっても、関係書籍を読む時間もなく、読んでもたぶん途中で挫折する可能性が高いので、手っとり早く識者の主張を聞くことにしました。
ソースは、BS11の田中康夫「ニッポン サイコ~」から、京都大学大学院工学研究科助教(経済産業省から出向)の中野剛志さん、民主党議員・福島伸享さんの話。フリージャーナリスト岩上安身さんの取材映像から、民主党・TPPを考える会で講演された同志社大学ビジネス研究科教授・浜 矩子さんの話で、メモを取りながら聴き、僕なりにまとめ、考えたものです。

昨年11月に突如菅総理の口から湧きだした、バラ色の未来を約束するTPPですが、中野さんと田中さんが英語で検索したものの、ほとんどヒットせず、英語圏での話題性はないにも等しく、感じていたように突如湧きだしたというのが現状らしいです。
またメディアは当初、TPP=環太平洋パートナーシップ協定ではなく、TPSEP=環太平洋戦略的経済連携協定という厳めしい名称を使っていました。なぜTPPと呼ぶようになったのか。話を聞きながら思ったのは、実態にふさわしい名称はTPSEP=環太平洋戦略的経済連携協定だということ。パートナーシップでは弱く、かなり戦略的で危険な匂いがする経済協定だということです。だからイメージを柔らかくするために「戦略的」という部分を意識的に外した。そして隠そうとするところに重大な問題があると思いました。

まずTPPは、各国間で結ばれるFTP(自由貿易協定)の環太平洋版であること。原則的に内包される品目に例外品目なく関税を取り払い、あるいは規制緩和し完全自由貿易化(関税自主権の放棄)する協定です。農業が取り上げられ問題になっていますが、ここにも問題の軸をぼかそうという意図が見え隠れしています。対象品目は工業製品、農産物、繊維・衣料品。医療・保険。金融。法曹。電子取引、電気通信などのサービス。公共事業や物品などの政府調達方法。技術の特許、商標などの知的財産権投資のルール。衛生・検疫。労働規制や環境規制の調和などなど24品目に及び、さらに細分化され、規制緩和、自由化が推し進められます。

こうした規制緩和、自由化を結ぶTPPの実態は、実はベースとなっているFTA(自由貿易協定)と正反対の性格で、環太平洋という一定のエリアを設定し、囲い込み、内側と外を区別、外の国(未加入国)は、その恩恵にあずかれないという、“地域限定排他的経済協定”で、逆に自由貿易を不自由にします。グローバル化した時代、さらにグローバル化する時代にふさわしいのかどうか、僕は時代にそぐわないと思う。

21世紀の自由貿易を考える上で重要ポイントのひとつは、自由貿易への変遷です。
第二次大戦前の貿易に対する考え方は、「相互主義」でした。相互主義とは、相手と同じ程度の譲歩しか相手に与えない。相手と同等以上の損はしないという考えで、ここに差別的で極小的なブロック経済が生まれ、第二次世界大戦が勃発する大きな原因となりました。
こうした反省から戦後、GATT(関税、貿易に関する一般協定)が生まれ、差別化を解き払い、全方位的な自由貿易、貿易のグローバル化、互恵主義的自由貿易を求めました。
相互主義から、互恵主義への大転換です。相互主義と互恵主義は、まったく別物で正反対の論理です。相互主義が、国家レベルで個やブロックに享受されるのに対し、互恵主義は、全方位的に恩恵が享受されるという考え方です。

GATTからさらに発展し、GATTでなし得なかったものを実現しようと作られたグローバル機関が、WTO(世界貿易機関:1995設立)です。WTOは三大原則を示しています。
1)自由 2)無差別 3)互恵 です。

TPPは、限定的なエリア内の完全自由化であり、差別的で、互恵主義に反します。こうした性格から、グローバル化時代への逆行、エリア外との新たな経済摩擦、経済の断絶を生む可能性を多分に含んでいます。つまり開国などと言えた代物ではなく、鎖国とは言えないにしても、“閉ざされた貿易圏構想”ということが言えます。

まず加盟国ですが、当初はシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドで、あらたにアメリカ、ペルー、オーストラリア、ベトナムが加盟表明、そして現在日本が、前向きに検討しています。
加盟国、加盟表明国と検討中の日本のGDP(実質国内総生産)を比較すると、日米で90%を占めます。つまり、日米二国間による完全自由貿易化がまず続伸されることになります。また日米を除けば、それぞれの国の産業形態から、輸出することが目的の国ばかりで、輸入を受け入れるのは、日本だけです。「超大国アメリカ」があるじゃないか、ということになりますが、アメリカの政策は、オバマ大統領が、横浜APECで表明したとおり、輸入を抑制し輸出を増やしていく姿勢であることが解かります。為替もドリル安政策で明らかに輸出第一を念頭に置いたものです。
オバマ大統領は、今後5年間で輸出を倍増させる「国家輸出戦略」を進めていることを表明しています。
「それが、今週アジアを訪れた理由の大きな部分だ。この地域で、輸出を増やすことに米国は大きな機会を見いだしている」と中国やインドなどの新興国を評価し、世界経済を引っ張るアジア地域を重視していることを認めています。
アメリカがここまで輸出増に傾くのは、リーマンショック以降、以前のように「アメリカ人の旺盛な消費」に経済のエンジン役を期待できなくなっているからです。
アメリカでは失業率は9.6%と高水準が続き、国民は住宅価値の下落に伴う逆資産効果と、借金の返済に苦しみ、GDPは5四半期連続でプラス成長を記録しているものの、GDPの70%を占める個人消費は力強さを欠いたままです。
それだけにオバマ大統領は「今後は、どの国も、米国への輸出が繁栄への道だと、思うべきではない」と訴え、中国や日本などの輸出国に、内需拡大に注力するよう強く促しました。危機を招いた世界経済のバランスの悪さを改善すると同時に、中国などの内需が拡大すれば、アメリカからの輸出が増えるとの期待が現れています。
さらに、大統領は「輸出が10億ドル増えるごとに、米国では5000人分の雇用が支えられる」と説明します。輸出増で、雇用情勢を改善させたい考えを露わにし、APECやTPPへの加盟に力を入れている理由も、「米国で新たな雇用を生み出す機会を失いたくない」からだと言っています。
こうした輸出重視政策は、オバマ大統領任期の短期的政策ではなく、中間選挙で敗北したため、共和党の意見も十分取り入れたもので、次期大統領がどちらから生まれても大きく変化することはないと思います。

オバマ大統領の横浜APECでのこの演説で重要なことは、APEC加盟国に向けられているというよりも、むしろアメリカ国内に向けて発しるということです。オバマ支持基盤が崩れ、中間選挙に負けたのは、アメリカの国民生活が、一向に向上しないばかりか、むしろ悪化している現実があるからです。
このことは、どこかの国とそっくりですね。

そこでTPPです。
加盟国、加盟表明国と検討中の日本のDGPと産業形態を考えると、アメリカのTPP戦略は、日本に向けられていることは明らかであると書きました。つまり日本への輸出の増大化が図られます。これまでも日米貿易は膨大な量がありますが、あくまでアメリカは対日赤字です。だからさらに輸出を増やし、黒字にするのは、あらゆる分野の関税を取り払うしかありません。他の国の顔ぶれを見ても、アメリカの政策が油種に傾いている以上、資源貧国日本に目を向けるしかありません。日本への輸出こそが、TPP加盟国のゴールドカードです。
アメリカはドル安を維持、あるいはさらに進めながら、これまで以上に日本に向かってきます。
農産物ばかりではなく、金融、医療、保険、通信などなど、あらゆる産業を網羅する関税撤廃、規制緩和状況が生まれます。
痩せても枯れてもアメリカは超大国です。あらゆる分野に自由な状態でアメリカの産業が進出すれば、日本の産業の行く末は明らかです。
経団連や中小製造業界は、輸出が増大すると歓迎していますが、ドル安が続くことは明らかで、さらに雇用賃金の垣根も取り払われ、思っているようなバラ色な輸出増大は見込まれないと思います。

菅総理は、「開国、開国」と夢を与える一方で、日本はまだ開かれていないというイメージで語っています。それも国際舞台で日本は開かれていないような意味合いで語ったのです。「第三の開国」とは、開かれていないという観点から語られるはずです。しかし日本は自由貿易立国としてここまで発展してきました。関税が欧米に比べ高い時期はありましたが、現在では、農産物とその他の関税の平均を比較しても、共にEUより低く、農産物もアメリカより少し高い程度、その他の品目の平均ではアメリカよりも低いのです。
日本と同じように国土が狭い韓国も経済発展を遂げてきましたが、韓国の関税と比べると日本の農産物の関税は、かなり低くなっています。もちろんその他の品目もです。つまり日本の関税の低さは世界でもトップレベルで、開かれていないどころか、十分過ぎるほど開いているのです。

このような状況で、TPPに加盟する意味はあるのか?金がないといって社会保障費は、マニフェストに示したほど伸びず、消費税増税を視野に入れているような状況で、これ以上の自由化を促す必要があるはずはありません。それも地域限定排他的経済協定です。
TPPは、中国包囲網の形成というアメリカの戦略的な意味合いもあります。日本が加盟しなければその意味合いは薄れます。また日本が加盟すれば、中国やロシア、韓国との貿易は、おそらく悪化するでしょう。加盟国以外に恩恵は与えられないわけですから。

もし日本がTPPへ加盟すれば、排他的経済ブロック化でアメリカにこれまで以上に収奪されるでしょう。このことは『日米同盟の深化』という枠組みの中で戦略的に組み込まれるのです。
日米関係は、水平的、互恵的関係ではなく、従属的関係にあり、TPPの参加は、従属性を助長させ、あらゆる分野でアメリカの支配を受けるというポツダム宣言受諾の下でのような状況を生み出します。