風の回廊

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もうひとつの核兵器-劣化ウラン弾~すでに核兵器の加害者となっている日本

2010年08月09日 | 日記
◇もうひとつの核兵器―劣化ウラン弾

45年の原爆開発以来地下核爆弾実験を含め、核保有国がこれまで2099に及ぶ原爆実験を地球上で繰り返してきた。こうした実験の繰り返しの中で核弾頭ミサイルが開発され、冷戦時代に米ソを中心にボタンひとつ押せば、世界が壊滅する状況を作り上げたが、まだボタンは押されていない。戦略核兵器として用いられたのは、広島、長崎に投下された2発だけとされている。
 しかし、91年の湾岸戦争でアメリカ軍とイギリス軍が、その後のボスニア・コソボ紛争でNATO軍によって使用された劣化ウラン弾は核兵器と言えないだろうか。
 湾岸戦争で劣化ウラン弾の被害を受けたイラクの医療現場から、被害者の症状は原爆病と同じだという声があがり、現地取材したジャーナリストの取材によっても明らかにされている。

 劣化ウラン弾は、核燃料や核兵器を生産するためのウラン濃縮過程で生まれる放射性廃棄物で、原子力産業がその処理に困っていた現実があった。その劣化ウランの特性に目を向けたのが兵器産業で高い破壊力と安価なことから武器として70年代後半から開発、生産した経緯がある。劣化ウラン弾は高速で標的に激突し、その衝撃と発熱で激しく燃焼し、微粒子となり飛散し、大気や土壌、水を汚染する。
 体内に入れば内部被爆され――放射性物質を口から取り込む、汚染された飲食物を摂取する・放射性物質が皮膚の傷口から血管に入る、気体を肺で吸い込む――ガン、白血病、肝臓障害、腎臓障害、腫瘍、奇形児出産などが発生する。そして被害を受けた地域は、何万年に及び汚染される。

 米陸軍環境政策局によれば大口径の劣化ウラン弾が、1400発以上が湾岸戦争で使用され、対地攻撃機などからの30ミリ劣化ウラン弾は94万発も発射され、その使用総量は800トンに上るという。その放射能原子の量は『広島に落とされた原爆の1万4千倍から3万6千倍』(矢ヶ崎克馬・琉球大学教授)とも言われている。
さらにイラクでは、2003年から始まるイラク戦争でも米軍が大量に使用し、自衛隊が派遣されたサマワ郊外でも劣化ウラン弾が複数発見されている。


◇核兵器と認めないアメリカと国連

 しかし、この殺人核兵器が放射能被害をもたらすことを使用したアメリカとイギリスは認めていない。アメリカは、劣化ウラン弾の使用地域での内部被爆や化学毒性、白血病、奇形児出生率の異常増加。湾岸戦争症候群(1991年の湾岸戦争に従軍したアメリカ軍・イギリス軍等の多国籍軍兵士に、集団的に発生したとされる脱毛症・疲労感・痛み・記憶障害・倦怠感や関節痛などの一連の病状を総称したもの。また、帰還兵のみならず、出産異常や子どもたちの先天性障害の多発が報告されている)、の懸念や被害報告に対し使用当事者であるアメリカの政府公式見解では、

『劣化ウラン弾での健康被害を否定し、「この症状は劣化ウラン弾による影響ではなく、フセイン政権がかつて用いた化学兵器の残留物の影響である」と主張している。
 また、国連総会の補助機関であるUNEP(国際連合環境計画 )の公式報告書でも、ボスニア、コソボにおける劣化ウラン弾使用の放射線による影響を懸念、重要視していない。またWHO は UNEP の収集したデータを基に「劣化ウラン弾が紛争で使われた地域の住民や滞在していた民間人に対して、劣化ウラン弾毒性に関する医学的スクリーニングを行う健康上の理由はない」と結論づけている』(『』内はwikpediaから部分引用)

 このように現地からの報告と異なる見解だが、UNEPとしては、何としても認めたくない理由がある。湾岸戦争では、国連が米英を中心とする多国籍軍の派遣を認めたからだ。

 しかし、実際現地を取材した多くのジャーナリストのルポルタージュや写真を見れば、劣化ウラン弾が、核兵器だと結論づけられる証拠ばかりだ。

 イラク戦争前のイラクのある市の病院の医師は
「毎日4~6人の子供が亡くなっている。湾岸戦争前の10倍で、白血病患者も10倍になり、白血病になれば、ほとんどの子供は死んでしまう」と証言する。
こうした異変の原因が「湾岸戦争当時代使われた劣化ウラン弾によるものだ」と医師の誰もが言う。こうした状況に加え、国連による10年に及ぶ経済制裁により、食糧事情、医薬品、医療機器状況は悪化の道を急激に辿り、救える命まで救えないのだと言う。



Bach 's Chaconne for Solo Violin / Itzhak Perlman (Part 1/2)


◇イラク、クエート・サウジアラビア非武装地帯で

 劣化ウラン弾の使われた証拠を求めてイラク、クエート、サウジアラビア国境の非武装地帯に外国人ジャーナリストとして初めて入ったフリーカメラマン・ジャーナリスト森住卓氏によれば明らかに劣化ウラン弾によって無残に破壊されたイラク軍戦車から、通常の10倍以上の放射能が測定されたという。
 またサウジラビ兄原油を送り出すための施設ポンプステーションは、湾岸戦争時徹底的に破壊されたのだが、そこで見つけた酸化した30ミリの劣化ウラン弾から通常の100倍以上の放射能が測定された。

 湾岸戦争とそれに続く経済封鎖により、学校に行けなくなった子どもたちは、生活のために劣化ウラン弾や薬莢を拾い生活の足しにする。あるいは、子どものいいおもちゃになる。
こうして子どもたちへの放射能被害がどんどん広がっていった。
子どもも大人も劣化ウラン弾の識別はできないばかりか、危険性の認識さえ持っていない。
 また劣化ウラン弾によって放射能汚染された地域の農作物が、市場に出回っているらしい。土壌汚染された地域の農作物を食べれば、内部被爆が起こりやがて死に至る。
経済封鎖によって慢性的な少量危機にあったイラクでは、食料の安全性に気を使う余裕など到底なかった。


◇死が意味を持つイラクの子どもたち

 森住さんが、ある病院に取材に行った時、生まれたばかりの無脳症の子どもに衝撃を受けた森住さんに医師はこう言ったという。
「写真を撮りなさい。この子はあと数時間で死ぬ。あなたが写真を撮って世界中に発信することでこの子は生まれてきた意味を持つ」

 僕はその写真を森住さんの講演会で見た。短い時間に写真を撮られるために生まれてきた子ども。もし森住さんが、そこに居合わせなかったら、写真を撮られることもなかったかもしれない。
世界に発進されることもなく、少なくとも講演会に参加した200名の人たちに自分の生まれてきた意味を訴えることができなかった……
そこには、両親と家族の虚無と絶望とやがて生まれる怒りしかもたらさなかったはずだ。
僕などとても言葉で表せない、言いようのない生であり死だ。


◇すでに核兵器加害国となっている日本

 8月6日、8月9日は、広島、長崎の原爆の日で、平和式典が執り行われる。原爆の被害を世界で唯一受け、尊い多数の無辜な命を奪われたことから、当然行われなければならないし、後世と広く世界に伝えるためには、重要な式典であることは間違いない。
今年は、ルース駐日米大使や潘 基文国連事務総長をはじめ、これまで最高の各国要人が参加したことから、注目度が高く、オバマ大統領のプラハでの演説「米国は核廃絶に向けて行動する道義的責任を有する」が機能したからだと言われている。
たしかにそうなのだろう。しかし、僕はそれとは別に毎年この季節にある種の違和感を覚える。
 僕も含めて多くの人が「唯一の被爆犠牲者が生まれた日本は、核廃絶へ向けて世界のリーダーとして行動すべきだ」と言葉にする。たしかに正論であり、尊い言葉だと思うし、そうした姿勢も尊い。
しかし、核兵器の被害を受けたのは日本ばかりではない。ビキニ環礁で13年間にわたり、アメリカの核実験が続けられたために、その被害を受けた周辺の島民の被爆者もいる。
湾岸戦争やイラク戦争、ボスニア、コソボ紛争で劣化ウラン弾という核兵器の被害を受けた人たちも多数いる。

 そして、私たちが言う「世界で唯一核兵器の被害を受けた日本」「核廃絶ために世界のリーダーとして行動すべき日本」は、湾岸戦争では、アメリカに恫喝されたとはいえ多国籍軍に、135億ドル(1兆6千億円)もの莫大な資金を、アメリカを中心とする多国籍軍に援助している。
 イラク戦争では、後方援助、復興援助という名目でイラクに自衛隊が派遣された。
後方援助と言えば聞こえがいいが、米軍や戦時物資を運ぶ兵站部隊としての役割を果たしている。戦争遂行は、最前線の戦力だけでは維持できない。兵站活動は戦争遂行の重要な部分であり、どう言葉を変えても、武器を使用しなくても戦争に参加していることになる。
 つまり日本は、二つの戦争を通して核兵器の加害国の一員となったのである。
さらに、日本に留まらず、イラクにもボスニア、コソボにも核兵器である劣化ウラン弾を使用した米軍(駐留米軍)に“思いやり予算”という笑えないジョークのような名目でこれまで3兆円以上を援助しているのである。その駐留米軍の海兵隊の一部は、あの凄惨な結果をもたらした「ペルージャ総攻撃」の主力部隊である。
これは湾岸戦争が始まりではなく、核兵器は使わなかったにせよ、ベトナム戦争でも日本の援助を受けた米軍がベトナムで大量殺戮しているのである。死亡者の大半以上が民間人である。
 さらに!はまだ続く。米軍のグアム統合軍事開発計画の予算、102億7千ドルのうち、合衆国の2008会計年度ドルで28億ドルの直接的に提供する資金を含む60億9千万ドルを提供するグアム協定が結ばれている。核兵器のみならず人殺しのための援助をし続けているのが日本の一面である。その援助額は、アメリカの同盟国27ヵ国が、援助する半分以上を日本単独で行っているのである。

 こうした認識が、私たちにあるだろうか……
もし、こうした認識がなく「唯一核兵器の犠牲を受けた国として、核廃絶のために世界のリーダーにならなければいけない」と言っているなら、絵空事になってしまうし、そんな国から発信された言葉は、世界に拡がってはいかない。少なくてもイラク国民には通用しないだろう。
イラクの人たちの心に響くことはなく、ただ憎しみを増長させるに過ぎない言葉となる。

 こうした認識のない“歪んだ正論”をこの時期聞くことを僕は、正直に言って辟易している。
知らないでは済まされない。核兵器の戦略的攻撃を受けた唯一の国だからこそ、知らないでは済まないのである。
原爆の日近くのこの時期だけではなく、私たちは核兵器廃絶に向けた意識の“持続”が必要となり、それにはまず事実を知ること。知ろうとすることだと思う。
それがささやかなものであるにせよ、とても大切なことだと思う。
そうすることによってしか“歪み”は矯正されない。


 


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