風の回廊

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報道の乖離・世論の乖離(2)―小沢問題から~(12)

2010年02月16日 | 日記
さて問題です。以下に掲げた文章はいったい何でしょう?

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民主党の小沢一郎幹事長の元秘書、石川知裕衆議院議員らが、小沢氏の資金管理団体による土地購入代金を、政治資金収支報告書に記載しなかった罪で起訴され、小沢氏は不起訴となりました。
あなたは、この事件の責任を取って、小沢氏は、幹事長を辞任すべきだと思いますか、その必要はないと思いますか。

小沢氏は、衆議院議員を辞職すべきだと思いますか、その必要はないと思いますか。

小沢氏は、東京地検の事情聴取を受けたあとの記者会見で、土地購入の資金は「個人的な資金である」とし、収支報告書については「関与したことはない」などと説明しました。小沢氏の説明に、納得できますか、納得できませんか。

小沢氏を起訴しなかった東京地検の判断は、適切だったと思いますか、そうは思いませんか。

民主党は、今回の事件について、小沢氏本人にさらに詳細な説明を求めたり、政治的責任を問うたりするなど、自浄能力を発揮したと思いますか、そうは思いませんか。

起訴された石川知裕衆議院議員は、議員を辞職すべきだと思いますか、その必要はないと思いますか。

鳩山首相は、偽装献金など自らの「政治とカネ」の問題について、国民に説明責任を果たしていると思いますか、そうは思いませんか。

ところで、鳩山内閣は、景気回復を実現できると思いますか、そうは思いませんか。

沖縄県にあるアメリカ軍の普天間飛行場の移設先は、日米両国の合意通り沖縄県の名護市にすべきだと思いますか、沖縄県外に移すべきだと思いますか、それとも、国外に移すべきだと思いますか。

鳩山政権のもとでの今後の日米関係に、不安を感じますか、感じませんか。

今年夏に行われる参議院選挙の比例代表では、どの政党の候補者、あるいは、どの政党に投票しようと思いますか。

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以上は、2月5~6日に行われた『読売新聞社』による全国世論調査の政党支持率、内閣支持率の設問とそれぞれの設問に用意された答えの選択肢を除いたものです。
これを読んでまず思いつくのは、設問の内容がもっともらしく書かれてはいるけれど、『読売新聞』の論調を質問として設定していることです。

『読売新聞社』の小沢問題の論調を短く言えば
◇今回の問題で小沢は、起訴されて当たり前だ。幹事長を辞任し、議員辞職に値する

◇収支報告書に関わらなかったはずはないし、小沢の政治資金は違法献金ばかりである可能性が極めて高い。

◇このような小沢を起訴しなかった検察の捜査に不満が残る。

◇秘書時代のこととはいえ、石川議員の虚偽記載は、検察の捜査のとおり明白であり、離党はもちろん、起訴されたのであるから、議員辞職は当然である。

◇このような問題を社会に与え、いたずらに混乱させた小沢は、不起訴といえども、説明責任を果たしているとは言えない。

◇両者が所属する民主党の代表である鳩山総理は、党の「政治と金」の問題について説明責任を果たしていない。

◇このような政党の内閣のもとで、懸念とされている景気回復は望めない。

◇普天間基地の問題にしても、旧政権とアメリカが合意した辺野古に移設すべきだ。合意を反故にすれば、日米関係は危くなる。

世論調査の設問の前提は、対象者に予断を持たせないことにあることから、もっと短い設問になるはずですが、ご丁寧に内容を説明し、それも自社の論調で締め固められ、対象者の答えを自社の論調に見合うように誘導しています。それぞれ設問の最後の問いかけを取り除いて読むと明らかです。

さらに自社の論調を説明した設問の次には、テンポよく短い設問で対象者に迫ります。
こんな流れが続き最後に『今年夏に行われる参議院選挙の比例代表では、どの政党の候補者、あるいは、どの政党に投票しようと思いますか』と質問すれば、どんな結果が出るか明らかです。
(それでも自民党の支持率も、投票先政党でも伸びない現実……)
設問を読むだけで結果が想像できる稚拙な世論誘導型世論調査。
朝日新聞の同じ日に行われた世論調査の設問も見たけれど、読売新聞社ほどではないにせよ、やはり自社の論調をベースに設問を組んでいる。そして同じように最後の設問で『今年夏に行われる参議院選挙の比例代表では、どの政党の候補者、あるいは、どの政党に投票しようと思いますか』と同じ内容の質問で締めくくられている。
この設問は、政党支持、内閣支持の後につけるべき設問だと僕は思う。

対象者は必ずしも、政治意識が高い人とは限らず、明確な答えを持っているとは限らない。
そうした人たちが、この設問で誘導されていく様が容易に想像できるし、国民の多くが政治動向を判断する新聞とテレビが、まったく同じ論調を朝から晩まで流し続けていれば、民主党と小沢を信じていた人たちまで不安になるし、マスメディアの報道に傾く人だっている。
その上、設問が報道に準じていれば、新聞社が得たい結果が必然的に生まれるはずである。
さらに世論調査の根本的問題として、対象者の選び方がある。近年は電話によるRDD方式―Random Digit Dialing、コンピュータで乱数計算を基に電話番号を発生させて電話をかけ、応答した相手に質問を行なう方法が多く採用され、固定電話番号を持つ人からだけ対象者が抽出される、IP電話を引いている人、携帯電話だけの人は抽出対象にならない。
さらに、数字の分母となる対象者数が、結果的に1000人ほどという数字だ。たしかに世論調査の理屈では、分母が大きければ良いというものではないが、1000人というのは如何にしてもと僕など素人は思う。

《上記世論調査の調査方法と有効回答率など》
▽調査日:2010年2月5-6日 対象者:全国有権者
 方法:RDD追跡方式電話聴取法
 発信用電話番号(対象全域バンク4)4500件
 有権者在住世帯が確認できたもの  1707件
 各世帯で有権者1人を無作為に指定(乱数方式)
 有効回答 1054件(有権者世帯に対する回答率 62%)

僕は大学時代の4年間、この『読売新聞社』の世論調査室で、月に1週間から10日ほどアルバイトをしていました。その頃は「区役所や市役所に保管されている有権者名簿から無作為抽出された有権者を訪ね、東京では大学生のアルバイトが、直接面接し調査する方法が採用されていて、分母となる抽出された対象者は、月例世論調査では全国で3万人。有効回答率は、約60%で、分母は18000人に及んだ。国政選挙前の世論調査では、全国で10万人の対象者を抽出していた。
どちらが正確なのか?ということは素人の僕は簡単に言えないけれど、いずれにしても、「世論だ!民意だ!!」と政治家やメディアが、世論調査の結果で責任を問うべきではないことは、前回書きましたし、設設問の内容、流れから明らかです。

世論調査は厳密にいえば、面接調査では調査員の誠意にもよるし、RDD方式でも電話で質問する調査員の誠意によるところもある。なんせRDD方式の調査は、下請け会社に委ねられ、予算も1回150万円ほどであるらしい。以前は1500万円くらいかけていたと言われている。
お金をかければいいというものではないが、いずれにしても日本には世論調査専門の機関がアメリカほど充実していないことは確かだ。
新聞社にしてもテレビ局にしても、世論調査というセクションがあって、それなりに世論調査を勉強し、経験を積んだスペシャリストはいるが、たとえば新聞社では記者の移動で世論調査室へやってきて、数年で配属が変わるという状況で必ずしも専門的とは言えない。

アメリカでは、世論調査のシステムを構築した、ギャラップ社に代表される商業的世論調査専門機関が複数あり、アメリカのメディアは、特にギャラップ社の世論調査を高く評価し参考にしている。
また、各メディアも世論調査を行うが、質問は極めてシンプルであり、答えもYesかNoかDN.NAに限られ、調査する側の意向は排除された中立的な調査になっている。

このように日本の世論調査は、必ずしも専門的機関によるものではなく、中立性と客観性に欠けていて、調査方法にも疑問を残すあてにならないもので、あてにしていたら本質を見失ってしまう。

民主主義の危機は、私たちが日常接しているメディアが流す数字にも潜んでいることを私たちは知らなければならない。あてにならない数字を盾に政権や政治家を貶めようと国民を煽動する政治家をデマゴーグと言うが、デマゴーグは民主主義を衆愚政治に堕落させ国を滅ぼす。
私たちは愚民に陥ってはならないし、常に民主主義を求める賢者でなければ、たちまち悪意の力に取り込まれてしまう。結果として馬鹿を見るのは、国民そのものだと思う。

自民党は今、思考停止状態に陥っている。なぜなら二大政党制のもう片方の勢力でありながら、民主党への政策の対立軸を描けないからだ。だから、あてのない数字=「世論」「民意」をここまで強調して責任を迫る。マスメディアは、蒔いた種がが熟したところで民意とばかりに政権と小沢への過剰な追及を報道する。
これを信じる国民は、貶められながら愚民化する。
これでは戦前の状態と変わりがない。軍部と一体になったメディアが、国民をどこに導いたか考えてみれば、今の状況は容易に理解できるはずだ。
これは自民党他野党だけに言えるのではなく、政権党の民主党内や連立政党内にも、世論調査の数字を持ち出して国民を煽る政治家がいる。

かくして、“報道は私たちが、本来望んでいるものからも乖離し、必然的に世論もまともな世論から乖離してゆく”
乖離現象は、前回書いた記者クラブマスメディアと週刊誌やネットの報道の乖離だけではなく、乖離された報道から必然的に世論が乖離するだけでもなく、“公正で中立的な報道、まともな世論からも乖離する”
官報一体的(巨大な権力を持つ官僚と第4の権力と言われる報道)報道の現状は、民主主義を著しく損ねている。僕は損ねているなどというものではなく、“貶めている”ように感じている。

その官報一体化を自民党幹事長時代から、改革しようとしていたのが、小沢一郎です。
なぜ小沢は、官報から貶められ続けているのか。
次回は、そこにふれたいと思っています……
(以上敬称略)

お時間のある方は、ぜひ読んでいただきたい。公認会計士が調査した小沢氏の問題となった政治資金収支報告書です。
石川議員は逮捕されるだけの違法行為を犯したのか?という疑問が、会計の専門家によって明らかにされています。

http://ow.ly/17rXH


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