風の回廊

風を感じたら気ままに書こうと思う。

テレビを見ない時間は―たとえば鳩山さんの「政治哲学」を読む

2010年04月08日 | 日記
『外交青書』(以下青書)は、国際情勢の流れや前年度の日本の外交活動の概略を国民向けに取りまとめたもので、詳細性に欠けるが、日本の外交のカタチは明瞭化している。ただし、前年度の外交活動だから、前年度の前半の麻生政権の外交活動も含まれていて、僕が感じた鳩山外交ビジョンから見た青書に感じた違和感は、そうしたこともひとつにはあると思う。

それにしても違和感を覚えないわけにはいかないな。

鳩山外交ビジョンでもっとも注目すべきものは『東アジア共同体構想』で、日本、中国、韓国を中心にASEAN諸国、インド、オーストラリア、 ニュージーランドを含む国々が、貿易、金融、投資、環境、教育等、より密接に協力しあい、開放した地域共同体として、アメリカやEUに匹敵するような国際地域連合を構築していこうという壮大な理念です。
共同体構想では、当然ながら安全保障をどう作り上げていくかと、という難問があって、政権交代前の鳩山さんは
「東アジア地域の安定を図るため、米国の軍に機能すべきだと思うが、同時に政治的・経済的にも影響力を行使し続けるのには、できる限り歯止めをかけたい」(『Voice』2009年9月号)と主張し、アメリカの影響力を少しずつ減少させていく方向を打ち出している。
つまり共同体内の多国間での安全保障に重点を置いているわけだけど、青書ではやたらと日米同盟の深化が強調され、

『「東アジア共同体構想」が提唱されるのも、まさに日米同盟がその基軸にあるからこそで、アメリカとの関与を強化しつつ地域協力を着実に推進していく』

という具合で整合性の欠如が甚だしく、「東アジア共同体構想」に期待している僕としては、ちょっと見るに堪えない状態になってしまい、ため息をついてしまうわけです。
鳩山さんの「東アジア共同体構想」の底流には、鳩山さんの政治哲学が流れているわけですから。

鳩山さんは冷戦後の国際情勢を見まわしながら、アメリカが推し進めてきた、新自由主義経済=市場原理主義や金融資本主義が、理想的な自由主義経済の秩序だと世界各国で受け入れられ、実現するために、それまでの伝統や規制を改め、改革をしてきた流れを良しとしていません。
“グローバルエコノミーとかグローバリゼーションとかグローバリズム”をアメリカンスタンダードだと批判しているんですね。ここに小泉、竹中路線との明確な対立軸があるわけです。

このことは、経済のみならず、安全保障の上でも、「日米安保が外交の基軸」としつつもアメリカへの依存度を減らしていこう、という方向性がこれまで打ち出されてきました。
「(米軍の)常駐なき安保」をずっと言ってきたし、普天間基地移設問題で批判されていた3月にも「常駐なき安保に向けて、ゼロベースで考えている」と言いきっています。
さらに、自衛隊のあり方(日本の軍事力のあり方)に関しては、小沢さんと同じように、国連主義です。
鳩山さんは、自らの憲法試案の中で、こう語っています。

     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇

(鳩山由紀夫・憲法改正試案中間報告より引用)

私は今回のイラクへの自衛隊派遣には反対した。しかし憲法違反だからという理由ではない。これまでの法制局解釈を前提としても直ちに違憲とはならない。問題の本質は政治判断の誤りにある。つまり今のアメリカの政権にあまりに密着しすぎ、その外交政策に振り回されることは、国益に反すると判断したからである。これは独仏と同様の判断であり、小泉首相とは国益についての判断が異なるということだ。

日米安保体制は、今後も日本外交の基軸であり続ける。それは紛れもなく重要な日本外交の柱だが、同時にわれわれは、アジアに位置する国家としてのアイデンティティを忘れてはならない。われわれは、活力に満ち、ますます緊密に結びつきつつあるアジア太平洋地域を、わが国が生きていく基本的な生活空間と捉えて、この地域に安定した経済協力と安全保障の枠組みを創る努力を続けなくてはならない。

現在解釈上問題になっているのは、国連決議による多国籍軍や平和執行部隊、あるいは将来編成されるかもしれない国連常設軍への参加である。内閣法制局はこれを違憲としている。
私の憲法草案では、こうした国連による国際警察軍的な活動への参加を明確に容認している。もちろんこれは国連の要請があれば、何処へでも出て行くという話ではない。その必要性は、国益に則り、政府と国会が主体的に判断すればよいことだ。

集団的安全保障活動の一環として、国際警察軍的な行動を行う場合、日本の軍事組織の指揮権を国際機構に積極的に委ねようという意思表示だ。いずれもEU諸国ではすでに根付いている。

集団的自衛権を容認することへの懸念は、アメリカの世界戦略としての一方的な軍事行動に、引きずり込まれるのではないか、というものだろう。正義のための戦いなら予防的先制攻撃すら許されるとするアメリカの現政権に対しては、そうした心配も無理からぬこととも思う。
しかし、この行使も、前章(「平和主義及び国際協調」)で、明確に規定しているように、国連が正当化しない同盟国の軍事行動に付き合って、日本の安全と直接関係のない地域に自衛軍を送るようなことはもちろんできない。

集団的自衛権といっても、基地の提供、物資の輸送から戦場での共同作戦まで、さまざまなレベルの協力方法がある。アメリカと同盟関係にある国家は、世界に四十カ国以上ある。どのレベルの協力をするかは、それぞれの政府が国益に沿って判断すればいいことだし、どの国の政府もそう考えているはずだ。
(引用終わり)

     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇

鳩山さんも小沢さんも、民主党議員の多くも憲法改正論者ですが、そのことの是非や詳細については、長くなるのでまたあとで語るとして、(興味のある人もない人も、時間があったら、鳩山さんの憲法改正試案をぜひご覧ください。自民党のタカ派の憲法改正試案と異なります。
http://www.hatoyama.gr.jp/tentative_plan/index.html)
現実的に軍事力として存在する自衛隊のあり方、日米の軍事的協力関係を深化させようなどと考えていません。言ってみれば05年に自公政権がアメリカと結んだ「日米同盟― 未来のための変革と再編」
http://www.mofa.go.jp/MOFAJ/area/usa/hosho/henkaku_saihen.html
の否定であり、「東アジア共同体構想」と「日米同盟― 未来のための変革と再編」は異質なもので、「東アジア共同体構想」が提唱されるのも、まさに日米同盟がその基軸にあるからこそで、アメリカとの関与を強化しつつ地域協力を着実に推進していく」ということにはなるはずがありません。
鳩山外交ビジョンが活かされているとすれば……

では、鳩山さんはメディアが盛んに言うように、「迷走しているのか……」変わってしまったのか、といえば、僕は今のところそんなふうに感じません。
安全保障面で深い関わりのある、大国アメリカを相手に、普天間基地移設問題では我慢比べをしていて、また、日米安全保障条約から強化され続けてきた日米同盟そのもの、アメリカを含めた「日米同盟― 未来のための変革と再編」を肯定する勢力と水面下で果敢に闘っているように感じるんです。
これまで言い続けてきたように。
現実的には、鳩山内閣の数年間でこれまでの体制がひっくり返るものではなく、数十年かかるでしょう。
アメリカはそれほど甘くないし、抵抗すればするほど、爪を伸ばしてきます。
そして、青書で感じたのは歴然として立ちふさがる外務官僚の巨大な力です。鳩山内閣は、官僚を掌握するどころか、まだまだ官僚の抵抗にあっていることが窺えます。
青書にやたらと出てくる「日米同盟の深化」という言葉が、それを物語っています。
日本は、これまで自民党と官僚が作り上げてきた「日米同盟の深化」の中にあるのです。
その深みの中からもがき出ようとしているのが、鳩山内閣ではないでしょうか。
もがき出ようとしていることが明らかに判るのは、対米追従で歪んだ関係を築き上げてきた、罪の重いこれまでの歴代政権の方向性を否定し、戦後外交の転換を掲げていることです。
これを実現に向けさせる多くの国民が、増え続けていくことを僕は願っています。
政治は、国民になり代わって政治家が行うものですが、政治と政治家を支えるのは、理念や政策を支持する国民です。メディアの報道に流されることなく……

新聞をあまり読まず、テレビの報道を見ないで、一次的な報道にふれることで、これまで見えなかったものが見えてきます。
報道番組を見ているより、ずっと政治に関心が持てるように思います。
新聞とテレビの報道を捨てませんか?