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絵筆を武器に、ベン・シャーン

2012-02-26 00:18:33 | アート

恋人たち(?)




赤い階段

ベン・シャーンは、20世紀のアメリカを代表する画家の一人。
リトアニア系ユダヤ人の移民の子として生まれ、石版画職人の経歴を持つ。
労働者階級出身のために、貧困や差別、戦争などをとりあげた社会派的画風が多い。
また、ジャズに造詣が深かく、ポスターなどのデザインも多く手がけた。

どちらがどうだったか、記憶が定かでなくなったが、”恋人たち”(タイトルを忘れ)と”赤い階段”は、百科事典と美術の教科書で知ったベン・シャーンの絵。
デフォルメされた人物、不思議な空間表現、乾いてぱさっとした質感の色彩が、子供の頃の目を惹いた。
それから何年か経ち、ベン・シャーンのデッサンをなにかの本で見た。
途切れ途切れだったり、かと思えば直線が力強く走っていたり、硬いのかと思えば実はとても温かみのある柔らかい線は、とても魅力的に感じられた。
社会の矛盾を描き出すとき、抉り出し、告発するだけではない、全てを包み込むような憐憫の情がある。
人への慈しみや音楽への愛を表現するとき、彼の線は、1歩はなれたところから眺めるぴりりと冷めた空気を放つ。
ベン・シャーンは、人が嫌いで、好きで、嫌いで、好きで、のジレンマに苛まれていたのかもしれないと、勝手に想像する。
そうでないと、この矛盾した彼の絵が醸し出す雰囲気を、言い表すことができない。
彼は、その矛盾を抱えているからこそ、人の愚かな部分に抗議するために絵筆をとって、人の感情と理性に訴えかけたのではないだろうか。

武器では、暴力が負の遺産を撒き散らすだけだ。
言葉では、直接的で、感情の戦争になってしまう。
絵筆ならば、画面を支配する美の秩序が、人の奥深いところにまっすぐに降りていき、心の扉の鍵を開け、時間をかけて思考を手繰り寄せるだろう。

今日のニュース。
ベン・シャーンの巡回展が、昨年から日本で行われている。
しかし、アメリカの美術館が、6月からの福島の巡回展に、作品を貸し出さないと言っているとのこと。
ベン・シャーンの画業を知っていてのこの対応は、彼が生きていたなら大きなため息を漏らし、また絵筆を握るに違いないと思う。


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